どんな姿でも
「はい、これで正式にシャーロットちゃんは私の義娘です。」
「何か意味違くないか?」
「合ってるわよ。あなたの義娘でもあるわよ。」
「まだ、婚約だろ?」
「王家の婚約が破棄されるなんて、ほとんどないわよ。」
「そっかー。じゃあ、セドリック殿下は私の義息子になるんだね。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
「おいセドリック。こんなやつに頭を下げる必要はない。」
「え?しかし…。」
「アレン。俺たちも家族になったね。」
「ふざけるな。さっきまでの口調はどうしたんだ。」
「ほら、さっきまではフローレンス家の当主としてだったけど、今は話し合い終わったからさ。家族にもなったしね。」
「お前の娘と家族になることが決まっただけで、お前と家族になったわけではない。」
「またまたー」
(なんだか不思議な感じがするわ。)
愛する人たちとその家族が、同じ空間にいるというのはそれだけで不思議だ。それだけでなく、この人たちが家族になるのだと考え深いものである。そんな風にシャーロットが未来の家族を見ていると、陛下と視線が合い、陛下はオスカーとの会話をやめて改めてシャーロットの方を向き、口を開いた。
「シャーロット嬢、早速で悪いが来週から王妃教育として城に通ってもらってもいいか?」
「はい」
「まあ、だいたいは公爵家で習ってると思うが、特に外交について勉強がメインになる。」
「なるほど。分かりました。」
「特に自国と同等の2カ国との外交はセドリックに任せてある。」
「そうなのですか?」
「まあ、一つは早くに王が病で伏せられて代替わりしてな。もう一つの国民に『愚王』と呼ばれるほど悪政をしていたことで第一王子が先代王の首を取っている。それもあって、どちらの国も現在の王は若い。そのためセドリックに任せている。もともと、一つはディーンに任せていたのだがな。プライドの高いディーンとは相性が悪く、両国セドリックが担当することになったんだ。」
「まあ。」
(本当に役に立ちませんのねディーン殿下)
「向こうにも王妃もしくは婚約者がいる。今後、相手をすることが多いだろう。」
「はい。文化や歴史をしっかり学んでおきます。」
「ああ頼む。グレン。ジェフリー。」
「「はい。」」
「お前たちもセドリックのことを頼むぞ。」
「「お任せください。」」
陛下に向かって、片膝をついて完全な敬意を示す態度をとった2人は、普段とは違い息のあった返事をした。それに陛下は軽く目配せすると、『良い部下を持ったな』とセドリックに声をかけた。陛下は2人を下がらせると、ソファに深く座り直して言葉を口にした。
「まだ、正式にセドリックに継がせることを公には言わない。ディーンには少し責任感が足りない。今言うと何しでかすか分からんからな。」
「そうね。ディーンもいい子なのよ。すっごく素直で、だけど素直すぎる所が困るんだけどね。今は、シャーロットちゃんがセドリックと婚約することになって空回りしそうだから、ちょっと放っておいた方がいいわ。」
「ちょうど、北に仕事へ行かせる予定だったし、頭冷やしてくるといいがな。」
「ディーンの婚約者も考えないといけないわね。」
「まあ、あいつにはあいつで得意なことがあるさ。自分でそれが見極めればいいのだがな。才能がないわけではないが、サラが言うように素直すぎる。そのせいか周りからの影響を受けやすい。」
(お二人とも子どものことをしっかり見ているのね。周りに影響されやすいのは分かるわ。ディーン殿下に関しては、側近候補も同種なのが1番の問題だと思うわ。)
「無駄に容姿が良くてチヤホヤされたのが良くなかったかしら?」
(間違いなくそれが原因だと思いますわ。)
テンポ良く王妃様と会話していた陛下は、王妃様の言葉を聞き少し考えた後、セドリックを睨みつけ口を開いた。
「セドリック、さっさと痩せろ」
「ええ?」
急な矛先の変化にセドリックが困惑の声を漏らした。
「お前が太っとるから、弟に舐められるんだ。」
「でも…」
「魔道士たちも問題ないと言っていたではないか。」
「また、暴走するかもしれないですし。」
(魔道士?暴走?何のことかしら?)
2人の会話にシャーロットの頭の中が、疑問で溢れていても2人の会話が止まることはない。
「何年も前の話をするな。お前が未だにそんななりをしているから、貴族たちも馬鹿にしてディーンが調子に乗るんだ。俺の血を継いでるんだ。容姿は悪くないはずだ。」
「そうよー。昔は天使のように可愛かったんだから。太っててもそれはそれで可愛かったけどね。」
(子どもの頃のセドリック殿下は確かに可愛かったわ。痩せてる姿は見たことはないけど、太っていても素敵ですもの。痩せていても違った魅力があるに違いないわ。)
セドリックと陛下の会話に、真剣にどういう意図があるか賢いシャーロットは頭を回していたが、王妃様の言葉で、急に頭の中がお花畑へと向かってしまった。
「容姿というステータスの意味のなさを知れば、ディーンも自分の無力さに気づくだろう。稽古も勉強もサボりやがって。セドリック、これは王命だ。」
「お、王命ですか?」
「まあ、でも無理はしなくていいのよ。不安はあるだろうし、少しずつ変わっていけばいいわ。でも、容姿がいい方がシャーロットちゃんも嬉しいはずよ!」
「そうだろうか?」
「そうよね?シャーロットちゃん」
お花畑に半分突入しそうになっていたシャーロットは、急に自分に矛先が来たことで、我に帰った。ちょうどシャーロットの中で、一周回ってどんなセドリック殿下も好きだと結論づいた所だったため、シャーロットは王妃様の質問にそのままの気持ちを口にすることにした。
「えーと、どんなセドリック殿下もお慕いしておりますが、努力して変わりたいと考えておいででしたら、応援します。」
「あら!愛されてるわねセドリック」
「シャ、シャーロット嬢…。」
今日初めて呼んでくださった名前に喜びを噛みしめながら、シャーロットは赤面するセドリックをガン見した。
「ん?アレン。何かセドリック殿下が太ってるのに理由があるのかい?」
そんなシャーロットの耳にオスカーから、先ほどから自分も気になっていた疑問が投げかけられた。
「あー。昔ちょっと年齢と魔力量が合ってなかったんだ。魔力のコントロールは基本的に技術の問題だが。すぐに身につくものではないだろう?魔力量が多く、技術もまだ足りなくて昔少し暴走仕掛けたんだ。」
「ああ。それで技術がつく前に、手っ取り早く体積増やしたのか。」
「そうだ。普通、魔力は身体の成長に合わせて増えていくもんだが、セドリックは幼い身体の限度を超えていたからな。技術が足りないなら、暴走しないためには、体積を増やして魔力の貯蓄量を単純に増やすのが簡単だ。」
「少し負担になるけど、魔力が溢れると自分の寿命も蝕むし、周りも傷付ける可能性があるからね。」
「それで昔太らせたんだ。それで身体も成長して、魔力も増えたが、魔力のコントロールもできるようになったから、痩せろと何度も言ってるんだ。それなのに、自信がないからと言いって一向に痩せる気がない。こいつの悪い癖だ。」
「話を聞く限り一度暴走したことがあるんだろう?トラウマになっても仕方ないさ。アレンと違ってセドリック殿下は繊細なんだよ。」
「王に繊細さなどいらん。帝王学を学び直せ。」
2人のテンポの良い会話で大体のことをシャーロットは理解した。
(単純に食べることが好きなわけではなかったのね。花壇の件で周りに思ったよりも魔力が高いことを知られたと話されていたものね。でも、あの話をしているセドリック殿下は、暴走とまでは言ってなかったし、別に何かあったのかしら。)
シャーロットは先日話してくれたセドリックの話と今回聞いた話を照らし合わせながら、考えていた間に大人たちが、これまたテンポ良く会話を進め今日はお開きとすることになった。
「まあ、今日はこんなもんだろう。何か問題があればその都度使者を遣すなりすれば良い。」
「そうだな。さて帰ろうかシャロ。」
陛下の締めの言葉で、オスカーがシャーロットに帰りの合図を送ったので、それに合わせてシャーロットも立ち上がったところに陛下の声が聞こえた。
「オスカー」
「グレンもしっかり務めを果たすのだよ?これからはシャロのこともよろしくね。」
しかし、まるで聞こえていないかのように、オスカーがグレンに話しかけた。話しかけられたグレンも陛下や王妃様の前だが流石に困惑した表情をしている。
「オスカー」
「さてと、王妃様。今日はお話ができて良かったです。またお会いできる日を楽しみにしています。」
オスカーが2度目の無視を決めたところで、陛下は今度はオスカーではなく、シャーロットに声をかけた。
「シャーロット嬢は先に帰るといい。こいつは少し仕事させてから帰らせる。」
「いやいや。そんなわけにはいかないだろう?ほら、馬車一つしかないし。」
「義娘に馬車の一つや二つくらい、当然用意してやるさ。セドリック送ってやれ。午後のお前の仕事はないはずだ。」
「分かりました。」
「いや、大丈夫だ。お父さんも一緒に帰るから。」
「よろしくお願いします。セドリック殿下。」
「待って!シャロ!お父さんも連れて行って!」
陛下の言葉を無視し続けていたオスカーは、その言葉を最後に、結局陛下に引きずられるようにして客間を出て行った。そんな父のことはなかったことにして、シャーロットは王妃様に、最後にもう一度挨拶をしてから、セドリックにエスコートしてもらい、シャーロットもオスカーが引きずられて行った扉を後にした。




