立場
王家というよりは、どこにでもいる家族の微笑ましいやりとりを見てしまったが、シャーロットは想像している雰囲気と異なり驚いていた。
王妃様は、儚気で優しいイメージと少し異なり、優しいことには変わりないが感情豊かな方だ。一方で、陛下は冷たいイメージがあったが、王妃様を宥めたり、セドリックを気遣ったりと家族思いな一面もあるようだ。
「仲がよろしいのは分かりましたが、本題に入ってもいいですか?」
「ええ、ごめんなさい。」
黙って2人のやりとりを見ていたオスカーが、改まった口調で問いかけたことで、話し合う空気に戻った。
「わざわざ、城まで呼んどいて悪いが、そこまで話し合うこともない。お前のところの娘がいいなら、それで決まりだ。それもお前も娘も良いと言ったから、返事を寄越したんだろう?マナーも良さそうだし、書類にサインして、このまま進めて終わりでいいけどな。」
「まあ、そうなんですけど。先ほどのやりとりで大方のことは分かったんですが、一応一つ聞いて置いてもいいですか?」
「なんだ?」
「セドリック殿下からは個人的に婚約の申し込みがあり、今回その婚約を受けることにしました。一方で、王家からの正式な婚約の申し込みであるディーン殿下からの申し入れを断る形になってしまいましたが、それについてはどうお考えなのですが?」
シャーロットは、オスカーの言葉で言われてみればと気づいた。
(陛下たちもディーン殿下を推しているのかしら?セドリック殿下が個別に申し込むって言っていたから気にしてなかったわ。)
「あー、まさか息子たちの好みが同じだとは思わなかったからな。まあ、政略結婚でもないし、お前の娘がセドリックがいいと言ったのならそれでいいだろう。普通に考えても、ディーンには悪いが第一王子が優先だしな。」
「気にしなくていいのよ。どうせディーンは本気な訳ではないから。」
「そうなんですか?」
意外にあっさりとした答えにシャーロットは驚きつつも、オスカーも意外だったのか疑問の声を上げた。
「あの子、褒められたり、チヤホヤされるのが好きなの。シャーロットちゃんが美少女だって噂は私のところにも聞こえてきたし、綺麗な子は側におきたかっただけでしょう。」
「誰に似たんだかな。一応聞くけど、シャーロット嬢はディーンと話したことがあるのか?」
「一度」
「へー。なんて?」
「え。えーと。」
「それって、薔薇の花束渡した時じゃないかしら?」
「は、はい。」
「やっぱりね。先日のお茶会でしょう?その場で見てたわ。まさか、初めて会った子にあれをやったのね。我が息子ながら呆れるわ。」
ディーンの方も勧められる可能性があるかもというシャーロットの心配と反対に、両親からのディーンの評価はなかなかに辛辣だった。
(王妃様にあの場面見られていたのね。息子たちの相手を探すお茶会だもの。見ているのは当然よね。私の想像していた人よりも多くの人に見られていそうだわ。)
「うわ、初見で薔薇の花束渡したのか。我が家の恋愛教育はどうなってるんだ。まさか、セドリックもそんなことしたわけじゃないよな?」
「薔薇ではないが…」
「あら?花束を渡したのセドリック?」
「は、はい…。よくなかったのでしょうか?」
「初対面の時ではないでしょう?」
「初対面ではないですが…」
「ちなみになんの花を?」
「ガーベラの花を…」
「あらあら、シャーロットちゃんはどうだった?」
「母上」
「先日、好きだとお伝えしたものでしたし、花言葉の意味も知って下さっていて嬉しかったです。」
「よかったわねセドリック。」
王妃様の言葉にセドリックは耳まで赤く染めた。そんなセドリックの姿を見て今更ながら、セドリックの両親の前で告白の返事をしたような雰囲気になったことに気づきシャーロットも頬を赤らめた。
「本人たちの話を聞いてもディーンのことは気にしなくていいだろう。シャーロット嬢がいいなら、セドリックとの婚約で問題ない。」
「そのようですね。」
その光景を側から見ていた両家の頭首たちは、少し呆れながらも頷き合った。
「あー。シャーロット嬢」
「はい」
シャーロットは、急に陛下に名指しで呼ばれたことに驚きながらも、なんとか返事を返した。
「セドリックは立場上第一王子だ。」
「はい」
「正式に婚約するとなれば、当然だが王妃教育をしてもらわなければならない。」
「はい」
「外交なんかもする必要があるし、国内にいると気づきにくいが一応世界的に見ても大国だ。上に立つ者が少しでも弱みを見せれば、それは国の弱みとなる。」
「はい」
「ん。良い目だ。問題なさそうだな。あまり対外的に、決定的な言葉は言ってないが、今後はセドリックが後を継ぐ予定だ。」
「え?」「はい」
「なぜ、そこでシャーロット嬢が納得して、お前が驚くんだ」
「初めて聞いたので…」
「だいたい分かるだろう」
「ですが、人望も薄いですし…」
「また、そうやってお前は…。はあー。」
セドリックの言葉を聞いた陛下は、額に手を当てて大きく溜息をつき、シャーロットからセドリックへと身体の向きを変えた。
「普通に考えて、後継者にする気がない者を重要な会議に呼び、意見を求めることはない。あと国に危機が及べば、最後は王が力を振るうしかない。ディーンでは少し弱いな。弱いわけではないが、あいつは努力が嫌いな節がある。何度もさぼったんだろう。普通ならここまでセドリックと差がつくことはなかったはずだ。それに人望なんぞ、後から付いてくる。それに下級貴族からの人望はないが、上流階級からの人望は少なくないだろう。あとは自信さえ着けばなんの問題もない。」
急に父親としてではなく、国王としてからの指名にセドリックは困惑の表情を見せた。何度か口を開いてはと閉じてを繰り返したが言葉が出てくることのないセドリックの代わりのように、オスカーが疑問を口にした。
「どうして、正式に言わなかったんだい?」
陛下はオスカーの疑問に少し思案する表情を見せたが、すぐに軽い口調で答えた。
「王家は競争する生き物だからな。」
「なるほど」
陛下の言葉にすぐに理解したオスカーとは違い、シャーロットだけでなくセドリックも疑問の表情を見せた。
「長年この国に関わらず、王家と言うものは競い合い、蹴落とすことで強い王を生み国を支えてきた。第一王子が基本王太子になる国が多いが、だからと言って努力を怠る者も出てくる。そうした愚息はどこの国にも王にはならず、優秀な兄弟を継いだ話はよく聞くだろう?より優秀な跡継ぎを作るなら、競わせるのが親とは別に王の役目だ。」
「まあ、少し平和になってきたこともあって後継者争いで血を流す所は少なくなってきたからね。」
「どこも腑抜けとるんだ。どっかの国では下級貴族にうつつを抜かした跡継ぎがいたらしいしな。」
「まあ、貴族も政略結婚よりも恋愛結婚をすべきという声も出てきているしね。」
「ふん。それでも王家は別だ。下級貴族や平民では責任感も能力も足りはしない。こっちは生まれた時から背負ってるんだ。」
「そうねー。なかなか王家では身分違いの恋は難しいわね。そう言う時こそ、兄弟がいるといいわね。第一王子に生まれても愛を貫き通すって決めてから、弟に国を託せるもの。」
(そんなことできるのかしら?大国では難しけれど、小国ならできるのかしら?)
「それはお前の兄弟の話だろう。」
「そうよ。お兄様は永遠の愛に生きた方よ。」
「託された弟は何も言われなかったのですか?」
「もちろん困惑はしていたけど、アレンと同じくお父様もハッキリどちらが跡継ぎかとは言ってなかったから、気にした様子はなかったわ。」
王家と父の話に耳を傾けていたシャーロットは、先ほどの疑問が一瞬で解決して驚いた。
(確か、サラ様の国ってプレギー王国ほどではないけど、そこそこ大きな国よね?本当に家族の間でも恋愛結婚が出てきているのね。まあ、せ、セドリック殿下と私も恋愛結婚な訳だけど…。)
「まあ、どっちにしろお前の娘なら問題ないだろう。」
「え?もしかしてアレン。セドリックが身分違いの恋をする可能性も考えて王太子だど名言しなかったの?あらあらー。」
「お前は今までの話聞いてたのか?」
「私たちが政略結婚だったから、心配しての?」
「いや、人の話を聞けよ。」
王妃様は陛下の言葉を見事にスルーながら、尚も言葉をつないだ。
「なんだかんだ子ども思いなんだから。シャーロットちゃんも聞いてよー。初めてセドリックが生まれた時ものね?」
「セドリック殿下がお生まれになった時ですか?」
「おい」
「こんな大きさではすぐに死ぬなんて言って、3時間も抱っこできずにセドリックのこと見てたのよ。」
「おい」
「セドリックもビックリしたでしょうね。目が覚めたら父親が何もせずにずっと睨んでるんだもの。」
「おい」
「でも、セドリックは生まれた頃からいい子だったから、ニコニコしてアレンに手を伸ばしてたわ。」
「可愛いですね。」
「可愛いでしょう?それからね」
「サラ」「母上」
陛下の厳しめの声と、セドリックの慌てた声が重なりながら、王妃様は物理的にもセドリックに手で口を塞がれたことで押し黙った。静かになった王妃様を確認してセドリックは手を外すと、王妃様は大きく息を吸い込み、不満を口にした。
「もう!まだ話したいこと沢山あるのに。私、ずっと女の子が欲しかったの。王妃の役目は男の子を生むことだって分かってたけど…。でも、シャーロットちゃんは義娘になるわけだし、すごく嬉しいわ。そうだわ!王妃教育の後は一緒にお茶会しましょう?セドリックは忙しくて、毎日は会えないでしょうから。」
「はい!そう思っていただけて嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします。」
「やーん、可愛い」
シャーロットが王妃様に受け入れて貰えたことで喜んでいると、隣からオスカーに『よかったね』と言われて大きく頷いた。安心し合ったフローレンス家の一方で、控えていた部下たちには、短時間でどっと疲れたプレギー家の男性陣がとても対照的に見えた。




