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花束を添えて


シャーロットは涙を落ち着かせて、ティアに化粧を少し手直ししてもらい、両親の待つ馬車に急いだ。


「シャロどこにいたんだい?心配したんだよ。」

「会場のどこにもいないから、探したのよ。」


シャーロットは、今の現状が初めての茶会で迷子になった時と重なって見えた。


(5年経っても私は何も変われてないのかもしれないわね…。)


多くの家の馬車が帰った後で、道も混んでおらず、すぐに帰ることができそうだった。父が母を馬車に乗せるためにエスコートした後、シャーロットにも同じように手を差し出した。


「父上。少しシャロの時間を下さい。」


迷いなく父の手を取ろうとしたシャーロットの横に、突然グレンが姿を現した。


「グレン何かあったのか?」

「いえ、もし急ぎの用事あるのであれば、後ほど責任を持って俺がシャロを送ります。」

「あ、いや、急ぎのものはないが…」

「私疲れたから帰りたいわ。」


何かを察したメアリーは、オスカーに見えないように、グレンに目で合図を送った。


「メアリー?」

「じゃあ、シャロは任せたわよグレン」

「ありがとうございます母上」

「さ、行くわよあなた。」

「え?」


オスカーの疑問の言葉を最後に、馬車は母の号令で出発した。残されたシャーロットはひどく困惑していた。


(どうして私置いてかれたの?)


「空気の読めなささは、父親譲りなのかもしれないな。」

「グレンお兄様?」

「シャーロット嬢」


状況を知るためにグレンに話しかけたシャーロットの耳には、グレンの声ではなく、愛しい人の声が届いた。


「なんで…?」


声を辿って振り向くと、先程探していたセドリックの姿があった。


「シャーロット・フローレンス殿」

「は、はい。」


セドリックが改まって、シャーロットの名前を呼んだため、状況が理解できない中でも、シャーロットはなんとか返事をした。シャーロットの側にいたグレンと同じく何かを察したティアが、2人から離れた。それを確認するかのように、セドリックは2人がいなくなってから、口を開いた。


「私は貴方が勇気を持って伝えてくれた想いから、逃げ出そうとした最低な男だ。」

「そんなこと…」

「いや、最低なんだ。自分に自信を持てず、そのせいできっと貴方を傷つけたことだろう。今日も私は何度も君の視線から逃げ、自分の心ばかり守ってきたような男だ。結局、私は大衆の前で君に伝える勇気も持てないような男だった。私は貴方が思うよな優しい男ではない。ディーンのように華やかな容姿もなければ、貴方の隣に立つ大きな自信もない。それでも…」


セドリックは、ゆっくりと片膝をついて、沢山の黄色とピンクのガーベラでできた花束をシャーロットに差し出した。


「貴方の隣に立つに相応しい男になって見せると、ここで誓おう。これはその違いの証だ。」


花束を見つめながら、セドリックは言葉にした。そして、ゆっくり顔を上げシャーロットと自分の視線を合わせた。シャーロットは、信じらなれない気持ちでセドリックを見つめた。


(まるで御伽話のようだわ。どうしましょう。ドキドキしすぎて、言葉が出てこないわ。)


そんなシャーロットを知らずに、セドリックはさらに言葉を重ねた。


「私、セドリック・プレギーは、シャーロット・フローレンスを愛している。」

「あ…」

「貴方の淑女であろうとするひた向きな努力も、容姿で判断せず私自身を見てくれたことも、初めて会ったあの瞬間から私は貴方に惹かれていた。貴方は、私に救われたと言うけれど、むしろ私が貴方の言葉で笑顔で生き方自体を救われたんだ。」

「嘘…」

「私は貴方に正式に婚約を申し込むつもりだ。今ここで返事はいらない。ただ一つだけ覚えておいて欲しい。これは、王家からでも、第一王子からでもなく、私個人からの申し込みであることを。断ってもいい、他の者と会って考えても構わない。だから、どうか貴方が幸せになるための選択をして欲しい。隣に私がいなくても、私は誰よりも貴方の幸せを願ってる。」

「セドリック殿下…」

「はい。」

「質問してもいいかしら?」

「もちろん」


シャーロット少し視線を外しながら、おずおずと不安気に言葉を口にした。


「私はセドリック殿下の前では駄目になってしまうみたいなの。こんな私でもいいと言ってくださいますか?」

「それを言うなら、私の方が貴方の前で失態続きだろう。」

「セドリック殿下を困らせてしまうような我がままを言ってしまうかもしれません。」

「それで貴方が幸せになるなら、私にできる限りなんだって受け入れよう。」

「セドリック殿下が思うほど、私は綺麗な性格ではないかもしれません。」

「残念ながら、私も君が思う優しい男でないだろう。少しずつお互いに知っていきたい。」

「セドリック殿下を信じてもいいですか?」


セドリックは少し考えるそぶりをしたかと思うと、シャーロットの瞳を真っ直ぐ見つめて、口を開いた。


「私を信じよ」


シャーロットはその言葉に息を呑んだ。


「ええ、そうね。貴方はずっと変わらないわ。」


(何も変わらないわ。私が愛したあの頃と根底はずっと変わらず美しいまま。)


片膝をついて、真っ直ぐにシャーロットを見つめるセドリックの姿は、残念ながら御伽話のような美しい容姿を持った方ではない。


(それでも、白馬に乗った王子様ではなくても、私が愛する唯一の人。)


シャーロットは、セドリックが差し出している花束を瞳に映し、やっと自分からセドリックに視線を合わせた。


「セドリック殿下は、この花束の花言葉の意味をご存知で?」

「もちろん」

「私も貴方に花束を贈るなら、好きな花など関係なく、きっと色も全く同じ花束を贈るわ。」

「え?」


シャーロットはセドリックの持っていた花束をゆっくり受け取ると、花に顔を埋めた。


「ありがとうございます。大切にしますわ。」


顔を上げたシャーロットは、淑女としてではなく、シャーロットとして心からの笑顔をセドリックに向けた。セドリックは、シャーロットの姿に片膝をついたまま耳まで赤に染めた。


「殿下、そろそろお時間です。」

「わ、分かった。」


2人だけの空気にジェフリーの声が入ったことで、セドリックは現実に意識を戻し、立ち上がった。


「シャロ、帰りの馬車の用意ができたぞ。」

「はい」


シャーロットもグレンの声で、夢見心地だった意識を現実に戻した。馬車が来ているのを確認して、シャーロットはセドリックに振り返った。


「セドリック殿下」

「は、はい」

「婚約の申し込みお待ちしてます。」

「は、は、はい」


シャーロットは、セドリックの返事に満足そうな笑みを残して、馬車に乗り込んだ。シャーロットは大きな花束を抱えて、帰りとは違い幸せな気持ちで窓の外を見ながら帰路に着いた。








ーピンクのガーベラの花言葉は、「感謝」「崇高な愛」


ー黄色のガーベラの花言葉は、「究極の愛」「優しさ」





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