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赤い薔薇


会場に戻ったシャーロットは上機嫌だった。先程とは、打って変わり、誰もが見惚れる完璧な令嬢のお手本とも言える姿がそこにあった。


(まさか、セドリック殿下が昔から私のことをお慕いして下さっていたなんて、夢みたいだわ。盗み聞きしたのはよくなかったかもしれないけれど、少しフライングしたくらい許してくださるわよね。それにしてもまだかしら…?)


「シャーロット嬢」


そわそわとセドリックのことを待っていたシャーロットは、呼ばれた声に反射的に満面の笑みで振り返った。


「はい、殿下…」


しかし、シャーロットの予想とは異なり、目の前には、優しげに微笑む愛しい人の顔ではなく、真っ赤な薔薇の花束を掲げた、無駄に華やかな顔を持つ、宿敵ディーンがいた。


(存在自体忘れていたわ)


男の顔見て、シャーロットの晴れやかな気持ちは一転して、憂鬱になった。


「シャーロット嬢、よろしければこちらを受け取って下さい。」


無駄に派手な動きで、片膝をついたかと思うと、薔薇の花束をシャーロットに向けて差し出してきた。


それと同時に周りの令嬢たちの黄色い悲鳴が響いた。


「まあ、素敵」

「私もあんな風に薔薇の花束を受け取りたいわ」

「恋愛小説から飛び出してきたみたいね。」

「シャーロット様とディーン殿下はとても絵になりますわ。」


(いや素敵どころか、気持ち的に最悪ですし、欲しいならこの花束上げますけど?ブーケトスでもしましょうかしら。こんな頭の悪そうな主人公では胸がときめかないし、勝手に額縁に納めないでくださらない!?)


シャーロットは顔を痙攣らせながらも、一応第二王子のため、不敬罪にならないように、ディーン殿下と同じく主張の激しい薔薇を受け取った。


「ありがとうございますディーン殿下。お美しい薔薇ですね。大切に扱わせて頂きますわ。」


シャーロットは、花束を受け取ってすぐに、後ろにいたティアに渡した。


「シャーロット嬢、宜しければお茶会の後、2人で庭園を回りませんか?」


(先週セドリック殿下と歩いた思い出の地に貴方と行きたくないわ。貴方と2人で花を見るくらいなら、荒野を猿と歩いた方がマシだわ。そもそも、一度もディーン殿下とは話したことがないのよ?その自信のある顔はどこからくるのかしら。)


シャーロットは、断わろと落としていた視線を前に向けた瞬間に、ディーン越しにセドリックと目があった。


(セドリック殿下…?)


ハッとした表情を見せたセドリックは、もと来た道にすぐに振り返りシャーロットから離れて行った。その後ろ姿をジェフリーとグレンが慌てて追いかけていく一連の流れが、シャーロットの瞳に映った。


(え…嘘。どうしてですの?)


「申し訳ありません。今日は予定がありまして、失礼します。」


絶望寸前の中、シャーロットはどうにか絞り出してディーンに返事をすると、よろよろとセドリックが向かった方向に歩いて行った。


(いないわ。どこにもいない。セドリック殿下がいらっしゃらないわ。)


「シャーロット様落ち着いて下さい。会場に戻られているかもしれませんよ。」

「そうよね」

「すれ違いになっているかもしれません。」

「急いで戻りましょうティア」


しかし、シャーロットが戻ると同時に茶会の終わりを告げる王妃の言葉が告げられ、そしてその隣にセドリック殿下のお姿は見られなかった。


「どうして。どうしてこうなったのかしら?私、何かしたの?ティア…。」

「落ち着いてください。とにかく第二王子を暗殺しましょう。」

「貴方も落ち着いた方がいいわ。」

「私は落ち着いております。」

「ねぇ、どれが夢で、どれが現実だったのかしら…?」

「シャーロット様」

「2人で庭園を歩いたのは?手を握って下さったのは?私に向けて下さった笑顔は?私のことを好きだと言ってくださったのは?全部夢?」


ティアは思いっきりシャーロットのを抱きしめた。


「全て現実です。」

「だったら、どうして、どうしてなの?」


シャーロットは、ティアの腕の中で抑えきれなくなった涙を静かに流した。


「(セドリック殿下の意気地なし。シャーロット様を傷つけるなんて許しません。)」




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