星を追いかけて
人に迷惑かけなさそうなイメージのあったセドリックに、意外な一面があったことにシャーロットは驚いた。同時に、昔の自由な時間の使い方を知ったシャーロットは、趣味などを聞くならチャンスだと考えた。
「では、セドリック殿下の最近の休息の過ごし方や趣味などはございますか?」
セドリックは、シャーロットの質問に飲んでいたカップを下ろして、少し考えるそぶりをした。
「ふむ。空を見ることだろうか。」
「空?」
「昔ほど時間を作るのは難しいからな。空いた時間に空を眺めるのが好きなんだ。特に夜空が好きでな。昼間の青空も夕焼けの夕日も好きだが、夜空の星々は美しい。満月の晴れた日は必ず見るようにしているんだ。」
「好きなんてものではありません。」
「そうだぞ。殿下は魔道士として才能があると言われているが、実際何がどのくらい凄いかという話を聞かないことに疑問を抱かないか?」
「言われてみれば、そうですわね。全般的にできるからだと思っていました。」
(初めて会った時に自分と同じくらいの年で、詠唱なしで魔法を使っていたから才能があるってことに、そこまで疑問を持たなかったわ。言われてみれば、優秀な魔法師たちは詠唱なしが普通よね。それに魔力が強いのも様々な属性の魔法を使えるのも貴族の証ですし、それだと歴代の王様の全員が才能ありになってしまうわ。)
シャーロットの返事にグレンは周りを少し確認してから口を開いた。
「もちろんそれもある。それだけでは魔法師たちまでもが褒めることはない。これは国内でも知っている人は少ないのだが、殿下は飛行魔法を現実された方なんだ。」
飛行魔法は、三大不干渉と言われているものの一つだ。空間・時間・遺伝子。この3つには魔法は干渉できないとされていた。飛行魔法はその中でも空間に干渉する魔法の一つである。風魔法で飛び上がることはできても、飛び続けることは不可能だとされていた。
「嘘。飛行魔法は空間干渉が必要だから、不可能だって。」
「それができちゃったんだよね殿下は。」
「どうしてそんな凄いことが大衆に知られていないのですか?」
「凄いから、知られてないんだ。」
「?」
「簡単に言うと、国外漏洩の防止だ。」
「この魔法は作った本人である殿下ですら、よく分かってない。風魔法が必要なのは確かだがな。」
「つまり、研究が進んでいない段階で他の者に知られると殿下の身が危険に晒されるのです。研究者は、探究心に対しては恐ろしく貪欲ですからね。大衆に知られない方がよろしいでしょう?」
ジェフリーの問いかけにシャーロットはコクコクと何度も頷いた。
「でも、そんな大切なことを私に教えてよろしいのですか?」
「シャーロット嬢は風魔法を扱える者の中でも国内屈指です。もし殿下以外で実現可能な理論が成り立てば、遅かれ早かれシャーロット嬢にお声がかかるでしょう。」
「なるほど。納得しましたわ。」
「ただ、この魔法ができた理由がなー。」
「何かあるのですか?」
「この話の冒頭に戻りましょうか?」
「え?」
「殿下は何がお好きとおしゃってましたか?」
「あ 」
シャーロットはジェフリーの言葉で自分がセドリックにした質問を思い出した。
「シャロも気付いたと思うが、空がお好きだということだ。」
「もっと近くで星々を見たい。そんな単純な子どもの考えで、セドリック殿下は3大不干渉の一つを壊してしまわれたのです。」
「そんな理由とはなんだ。」
「だってそうでしょう。この理論に生命をかけた多くの魔法師がいたというのに。」
「そんなわけで、殿下の偉大さを知る人は少ないんだよ。他にも殿下は政策を考えたり、軍の策略を考えたりも得意だけど、表立ってはしていないんだ。助言という形でしているから、国の上層部は殿下を慕っている者が多いけれど、下々の貴族たちからの人望は少ないな。」
シャーロットは話を聞きながら、頭の中でしばらく簡単にまとめ、そして結論付けた。
(つまり、貴族の下々の中でも頭の中がお花畑の方達が、セドリック殿下にあのような渾名を付けたのね。)
「2人は話を少し盛りすぎなんだ。たまに助言を求められるので、それに答えているだけで、実際に指揮を取るのは騎士団長や宰相たちであるし、魔法に関して言えば、自分しか使えない役立たずの魔法を作っただけだ。」
「「「そんなことありません(わ)」」」
今度は3人の叫び声が庭園に響いた。セドリックは3人から同じ言葉が出るとは思っておらず、驚いて目を見開き固まってしまっている。
「シャーロット嬢、殿下はこのような方なんです。」
「ジェフリー様も大変ですね。」
「殿下は自分の才能を知らないんだ。」
首を傾げているセドリックを置いて、3人はセドリックの素晴らしさと残念さを語り合った。
「殿下。ご歓談中失礼します。」
「ん?どうした?」
そこに1人の従者がセドリックの元にやってきた。
「陛下の予定が変わったことで、午後の会議を少し早めるそうです。」
「ん?私は特に会議の予定はなかったが?」
「失礼しました。その予定と会議内容が関わっておりまして、殿下のご意見をお聞きしたいと陛下からの進言がありまして。」
「なるほど、分かった。下がっていいぞ。」
「それでは、失礼します。」
従者は一礼すると、静かに去っていった。
「残念だが、お茶会はここまでのようだ。」
(嘘。ちょっと待って。殿下のことを沢山知れて個人的には満足だけど、このままでは次の王妃主催のお茶会までに絶対に婚約を申し込まれる気配がないわ。)
セドリックの言葉で状況を理解したシャーロットは、表情には出してないが焦っていた。
「シャーロット嬢、今日は楽しめたか?そうであればいいのだが。」
「え、えーと。」
(まずい、このままお別れはだめよ。)
シャーロットは、自他共に認める頭脳をフル回転にした。しかし、セドリックのことになると、シャーロットのIQは大きく下回る。
「シャロ、馬車の用意をしてくる。殿下失礼します。」
グレンはシャーロットの頭を撫でると、セドリックに一礼してその場を離れた。
「そうですね。では、私も午後の会議内容を伺ってまいりますので、シャーロット嬢のお見送りお願いしますね殿下。」
「ああ」
ジェフリーもグレン同様にセドリックとシャーロットに一礼して退出した。
(ラストチャンスよ。シャーロット。何か、何か言わないと。)
「では、私らも参ろうか。」
そう言って、今日の最初の時とは違い、当然のように出されたエスコートのためのセドリックの手に、シャーロットは喜びを感じた。
(思い出だけでなく、短い間だったけれど、知らなかったセドリック殿下を沢山知ったわ。それと同じくらいあの頃と変わらないセドリック殿下がいることも分かったわ。私は、知れば知るほど、セドリック殿下が好き。結婚相手はこの方以外あり得ないわ。)
シャーロットは、自分の気持ちを再確認していると、セドリック殿下にエスコートされ、いつの間にか城の扉の側までやってきた。
「セドリック殿下。」
「どうした?」
シャーロットの瞳に不安気なセドリックの表情が映った。
「シャロ、馬車が用意できたぞ。」
馬車置き場の方からグレンの声が聞こえ、シャーロットは息を整えて、セドリックを見つめた。
(淑女とするならば、間接的に好意を寄せて、殿方から告白されるのを待つのが正しいわ。でも、ただ待つだけで、この5年間を無駄にするくらいならば、私は貴方にこの想いを伝えておきたい。伝えられないまま、私が別の殿方と結婚して、貴方が他の誰かを愛するくらいなら。)
「セドリック殿下」
「ん?」
「突然想いを口にすることをお許しください。」
「?」
「私は初めて会ったあの日から、そして今もずっと貴方を愛しております。」
「あ、あ、あい?あいってなんである?え?誰が誰を?えーと。」
「ほ、本日はありがとうございました…。し、し、失礼します!」
「シャ、シャーロット嬢!?」
シャーロットは駆け出して、グレンの横を通り過ぎ、慌てて馬車に乗り込んだ。グレンの静止の言葉も無視して、ティアが乗り込んだのを確認すると同時に、御者に声をかけ馬車を発車させた。真っ赤な顔をしたシャーロットをティアが優しく抱きしめたまま、馬車は城を過ぎ去り、公爵家に向かった。
一方で、妹のシャーロットととしては珍しい礼儀を少し欠いた行動に、グレンは首をを傾けながら、セドリックに声をかけると、真っ赤になっているセドリックに気付いた。




