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殿下の戯れ


「私は今、シャーロット嬢に何を言おうとしていたであるか…」

「何を言おうとなされていたのかは分かりませんが、また口調がお戻りになられてますよ。どうぞ、お掛けください。」


ジェフリーは、セドリックの呟きを軽くいなし、セドリックがお茶の用意された席に座れるように、椅子を引いた。


「シャロも殿下の向かいに座るといい。タルト用意してあるぞ。」

「タルトではなく、空気を読む力を用意しておいて欲しかったですわ。」

「なんだ機嫌悪いな?殿下との散歩が楽しくなかったのか?」

「殿下ではなく、お兄様のせいよ!」

「え?お茶用意しただけなのに?」


シャーロットは不機嫌のまま、セドリックが席についたのを確認してから、身についた優雅さを一切失うことなく、シャーロットもティアが引いてくれた席についた。


「あ、そうであった。グレンからシャーロットには、特に苺が好きだと聞いて、苺のタルトを用意して貰ったのだ。」

「まあ、わざわざ好みの物を用意してくださったのですか?」


セドリックのおかげで、グレンによる先ほどの不機嫌さを一切なくし、タルトに目を輝かせた。


「シャーロット様、結果はどうしでしたか?」


タルトを支給しながら、ティアが小声でシャーロットに聞いた。


ティアの言葉を噛み砕きながら、ふと作戦について思い出し、シャーロットは青ざめた。


その様子を見たティアは、だいたいのことを理解して、小さくため息をつくと、支給を終わらせ、静かにシャーロットの肩を叩き後ろに下がった。


(セドリック殿下の好みを何も聞いてないわ。笑顔はギリギリ保っていたはずですし、想いは伝わったのかしら。さりげなく言えたわよね?)

※この場合、さりげなくは不正解で、直球が正解


シャーロットは、作戦1遂行のため、また思考を巡らせた。ひとまず、糖分が必要だと気づき、ティアが用意したタルトを口に運んだ。


「美味しい…」

「そうであろう!」

「なんだか、自分のことのように嬉しそうですね」


喜ぶセドリックに、クスリと音を立ててシャーロットは笑った。


「殿下は使用人たちと仲がよろしいのです。」


(そういえば、この間も庭師と仲良さそうでしたわね。多くの使用人を抱える王家の方にしては珍しいわ。)


「仲良いと言うか、共に仕事をしてたと言うかな。」

「グレンお兄様、どういうことですか?」


(騎士たちに混ざることはあるかもしれないけれど、使用人に混ざることなんてあるかしら?)


「私が答えましょう。料理長や執事長は殿下のことを昔から知っている者は多いですが、正式な公表まで下の者たちは殿下の顔すら知りませんでした。」

「貴族でもなかなか会う機会がありませんものね。」

「城を抜け出す王家の方は沢山おられましたが、使用人に混ざって働く王子などいませんでしたよ。」

「え?」


シャーロットはジェフリーの言葉に驚きの声を上げた。


「灯台下暗しだな。」

「グレン。」

「すまんすまん。毎回、殿下がいなくなって慌てて探していたら、数時間後に普通に城の中にいてな。当時はある意味七不思議だったんだよ。」

「どうして分かったんですか?」

「使用人たちと仲良くなりすぎて、ほとんどの使用人が殿下のことを知っていてな。殿下の初めてのお披露目、つまりシャロにとっても初めての茶会だった時に、多くの使用人が殿下の顔を見たわけだ。多くの城の者たちが、泣きながら辞表を出してくるから何かと思えば、殿下とは知らずに仕事をさせてしまったと言いに来たんだよ。」

「9割の方がその頃には殿下と共に仕事をしていたということが分かり、当然首になどできるはずがありませんでした。」

「まあ。セドリック殿下、なぜそのようなことを?」

「本当は民の気持ちを知るために、農家や商人の元に行きたかったが、難しかったので、身近から攻めてみたんだ。意外とバレなくてな。楽しくなってしまって止めるタイミングを逃してな。気づけば多くの者に知られていたな。当時、事実を知ったときの、グレンとジェフリーは面白かったぞ。」

「笑い事ではありません。城下にも探しに行ったのですから。」

「知っておる。馬小屋で、お前たちが乗る馬を用意したことがある。」

「今何とおっしゃられましたか?殿下が、う、馬小屋にいたと?」

「え、私にもです?」

「もちろん、グレンにもだ。」


ジェフリーとグレンは同時に頭を抱え、セドリックは悪戯に成功した子供のような笑顔を見せた。


「シャーロット嬢、確かに公式な自由はなくなったが、自由は作れることも知ったのだ。」

「あら」

「王子でも馬小屋の掃除はできるぞ」

「「しなくていいですから」」


グレンとジェフリーの悲痛な叫び声を聞きながら、セドリックは紅茶で喉を静かに潤した。


「流石に今は使用人の仕事はできながな。」

「当たり前です。2度となさらないで下さい。」

「今でも行っていたら、こちらにも考えがあります。ひとまず、殿下に手錠でもつけないといけないですね。」

「恐ろしいことを言うなグレン」


2人は、今になって分かった主人の事実に、同じことが2度と起こらないように気合を入れ直した。


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