攻めの一手
「長々とつまらない話をしてしまったな。そうだ、次は貴方の好きなガーベラの多く咲く花壇に行こう。」
「つまらないはずないです。それに王妃様と同じように、私も貴方の優しい魔法で救われた1人ですから。」
「え?いや?そのうー」
先ほどまで憂を帯びた表情が、一瞬で慌てた表情に変わった。シャーロットはその変化にここぞとばかりに攻撃した。
「私はセドリック殿下の誰に対してもお優しい所をお慕いしております。」
「えー」
「今日もこうして2人で過ごすことができて嬉しいですわ。」
「あ、いや。でも。」
「セドリック殿下の貴重な幼少の頃の話も聞くことができて、私は果報者です。」
「お、大袈裟である!それに、簡単に女子が好意を示すような言葉を男にしてはいけないである!」
(流石に私の意図が伝わったわ)
シャーロットは、このチャンスを見逃さなかった。ただし、間接的に想いを伝えるという考えからすると、グレーゾーンである。
「セドリック殿下は、私が簡単にそのような言葉を口にする女性だと思われておいでなのですか?」
「あ、いや」
「セドリック殿下だから、お伝えしましたのに。」
「私はディ、ディーンではないである」
「知ってます」
(何故ここでディーン殿下の名前が出てくるのかしら?セドリック殿下とディーン殿下を間違えるなんて、おかしな話あるかしら?)
「えと、私が周りになんと言われている知っているであるか?」
「時期王太子ですか?」
「違う!豚王子である!」
「なんですって?」
「だ、だから…シャ、シャーロット嬢?」
シャーロットは作戦遂行のため、間接的に想いを伝えるために、セドリックに畳み掛けていた。いや、ほぼ直球で想いを伝えていたと言ってもいいだろう。それはどちらでもいいとして、シャーロットには聞き捨てならない言葉が、セドリックから発せられた。
(ブタオウジ?ぶた王子?豚王子?なんですって?私のセドリック殿下に誰が豚王子だなんて渾名をつけましたの!?)
※シャーロットのセドリックではない
「それは誰に言われているのですか?」
「シャ、シャーロット嬢?」
シャーロットは下を向きながら怒りに耐えていた。現在、淑女として人に見せられるような顔をシャーロットはしていない。
「グレンお兄様はご存知で?」
「あ、いや、分からないであるが…」
(許せない許せない許せない。私の前で、もし誰かが言ったら血祭りにしてあげるわ。いいえ。この社交界に2度と出てこれなくしてあげるわ!)
シャーロットは今後、セドリックのことをおかしな渾名で呼んだ者をどうするかについて、思考を巡らせていた。そのせいで、シャーロットは作戦遂行について、完全に忘れてしまっていた。
「シャーロット嬢?大丈夫であるか?えーと、そうである!早く、ガーベラのある花壇に行くである!」
急に下を向いたまま、黙り込んだシャーロットに慌てたセドリックは、彼女の手を握りしめて、足早に花壇を移動した。
「シャーロット嬢、顔を上げるといいである。」
熟考していたシャーロットは、セドリックにされるがまま歩いていることに気づかず、顔を上げた瞬間に美しいガーベラが咲き誇っていた。
「素敵…」
「そうであろう?」
「…はい…」
ガーベラのおかげで、シャーロットの機嫌が治ったことにセドリックは内心ホッとし、彼女に笑顔を見せた。一方で、シャーロットは、その笑顔に見惚れ、同時に自分がセドリックに手を握られていることに気づき顔を真っ赤にした。
「ここはな、私も気に入りの場所で、時間がある時に訪れているんだ。昔、私が庭師に頼んで作ってもらったんだ。」
「セドリック殿下もガーベラがお好きなのですか?」
「私が好きなわけではなく…」
「違うのですか?」
「私も好きである!」
なぜか、慌てたセドリックにシャーロットは首を傾げた。
「ふふ、本日の殿下は、昔の口調によく戻られますね。」
気を抜いてくださっているのかは分からないが、思い出のセドリックと同じ話し方は、自然とシャーロットを笑顔にしてくれ、シャーロットはあの頃同様に思わず笑みをこぼした。
「あ、本当であるな。なんというか、シャーロット嬢といると力が抜けるというか、焦ってしまうというか。」
「私はその話し方好きですよ。」
「威厳がないである」
「可愛いですのに」
「それを威厳がないというのである!」
「今は威厳が必要なのですか?」
「ないであるが…。日々の行いが大切である。」
「では、たまにその話し方をしてくださると嬉しいです。私にとっては大切な少年を思い出させてくれますから。」
「た、大切であるか?」
「そうです」
「い、今でもであるか…?」
「はい」
シャーロットは、この2文字に愛と感謝の気持ちを強く込め深く頷きいた。そして、顔を上げて笑顔でセドリックの瞳を見つめた。
(この5 年間一度だって忘れたことはないわ。ずっと貴方のためだけに、私は完璧であり続けてきましたもの。)
「シャーロット嬢、私は「殿下ー、シャロー、お茶と軽食をご用意しまたした。」
しばし見つめあっていた中、セドリックが口を開けてすぐに、雰囲気をぶち壊すグレンの声に、先ほどセドリックから渾名を聞いた時とは違った怒りが、シャーロットに芽生えた。




