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勇者召喚なんて起こるわけがない  作者: 蒼原凉
勇者召喚対策本部、始動
3/13

 俺は部活動に入る気はない。まあ、興味のある部活があるとか、ひとめぼれした相手がいたとかなら、入るかもしれないと思ったが、今のところは帰宅部の予定だ。パソコンでゲームでも作ろうか。そんなことを考えていた。

 まあ、クラスメイトとは仲良くしたいし、昼休みはみんなして食堂に行ってだべっていた。放課後も少しは教室で昨日のドラマや、流行りの映画の話もしたけれど、日直が動き出したくらいからみんな帰るようなので、俺も退散することにした。このことに関しては、何の咎も受ける覚えはないと断言できる。絶対に。

 中学時代の友人、荒井や立川なんかと話をしながら、桜の舞い散る川沿いを帰る。それは充実しているとまではいかないまでも及第点くらいは取れそうだったし、こういった日々が続くんだろうな、なんて思っていた。彼女が出来たらハンバーガーでも帰りに食べに行ったりしてもかまわないとは思うけれど、でも、こういうことをすることはあと何回も訪れることだと信じて疑わなかった。翌日、あんなことが起こるまでは。




「小鳥遊正義! 見つけたわよ!」

 放課後、人のまばらになった教室にやってきたそいつはいきなり叫んだ。驚いてドアの方を見ると、気の強そうな見知らぬ女が仁王立ちをして立っていた。

 うん、嫌な予感がする。無視しよう。

「小鳥遊、さあ私と一緒に来るのよ!」

 一緒に来るも何も、俺はお前のことを知らん。というか、お前は自分の言っている小鳥遊がどこのどいつかはわかってないだろう。1年3組の、出席番号16の机の近くで話をしているからいると判断しただけだろう。

 ……訂正。思い出した。確かに俺はこいつを知っている。見た目と奇行だけ。なぜなら、そいつの後ろを、かわいらしい、つい守ってあげたくなるような見た目をした少女が所在なさげにうろちょろしているからだ。にしてもなぜにメイド服!? この学校では事情がない限り制服の着用が義務づけられていたはずだが。引き合いに出すのもどうかと思うが、あの中二病魔女っ娘。あいつも校則は守っていたはずだ。

 それはともかく、こいつはあれだ。名前は知らんがクラス掲示を食い入るように見つめていた女だ。ザ・仁王立ちを披露して俺の眼筋を鍛えさせたやつだ。

 でもそれしか知らん。というか、こいつと俺の間には接点は皆無だったはずだが、見つけたとは何事だ。俺は探されるような悪行もしていなければ、中学時代にこいつと運命的な出会いを果たしていたなんてこともない。見つけたって名前だけで言うなよ。

 なんにせよ、こいつに関わるとろくなことがないと俺のシックスセンスが警鐘を鳴らしている。中学時代はそれでひどい目に遭ったからな。よし決めた、知らないふりをしよう。小鳥遊が俺だって、名乗り出なけりゃばれはしないだろ。

「小鳥遊なら、こいつだけど何かあったのか?」

 おい立川! 俺を売るなよ! 売ったわけじゃあないんだろうけど、でも売るなよ。そしてそこの女、俺に関節を決めるな、痛いから!

「あんたが小鳥遊ね、さあ来なさい」

「断る。ろくなことがなさそうだ。というかいきなり見ず知らずの人間にそんなことを頼むな」

「いいから来なさい!」

 俺の反論虚しく連れ去られていく。ちょっとそれ、肘が痛いんですけど! あとそれから荒井、そんな痛々しい人を見るような眼で見ないで! 俺は被害者だから。こいつとは全く関係ない被害者だから、腫物を見る目で見ないでくれ。頼むから。異常なのはこいつで俺は普通だからね。




 俺の叫び虚しく、とある部室棟の一角に連れていかれた。だって痛いんだもん、肘。あと、どうでもいいけどメイド服を着た少女は、オッドアイみたいだ。左目の光彩が緑色をしている。この学校じゃカラコンは何があっても禁止されてるはずだから、おそらく天然だろうな。どうでもいいけど。

「俺をこんなところまで連れてきて何の用だ」

 ようやく離された肘をさすりながら俺は言う。くそ、ドアの前に陣取られたか。

 改めて連れて来られたところを見渡すと、そこは殺風景な部屋だった。長机とパイプ椅子以外何もない、新品同然の部室だ。いやな予感しかしない。しかも、俺を連れてきた残念な女と、オッドアイのメイド服の少女の他に、もう一人この部室にはいた。俺が今、目の前にいる女の次に会いたくなかった人物だ。

 入学式の日、校門近くで生徒会と死闘を繰り広げていた中二病魔女っ娘。こいつらとは、関わり合いになりたくないと思っていたところなのに。どうしてこう拉致されてしまうんだ。俺は。

「それはね、小鳥遊に入ってもらいたいの、私たちの部活に」

「断る」

 やっぱり。予想通りだ。絶対に嫌だ。こんな部活に入ったら、俺は確実に変人のレッテルを貼られる。そんなものはもうこりごりだ。俺は絶対に入らないからな、こんな部活。

「お願い、小鳥遊正義なんて勇者っぽい名前、他にいないの」

「絶対に嫌だ」

 しかも俺を選んだ理由がこれかよ! というかクラス掲示板の前で仁王立ちしてたのもそういう理由かよ! 俺は望んでそういう名前をもらったわけじゃないんだからな。

「いいではありませんか。どうせ暇なのでしょう。我らとともに楽しい時間を過ごそうじゃありませんか」

「俺は、変な奴だとは思われたくないんだ!」

 中二病魔女っ娘の台詞に叫ぶ。その勢いに一瞬女が怯んだ。今だ!

「そういうわけで失礼する!」

 一声残して窓の鍵を開け、外に飛び降りる。幸いにしてここは2階、上手く着地すれば怪我はしない!


 そう思ってました……。現在、絶賛みのむし中です。理由は簡単。投げ縄らしきものに腰のあたりを絞めつけられたからです。なんでやねん。関西人ちゃうけど。

「さすが、友梨。逃げ場をふさいどいてよかったわね」

 窓から身を乗り出した女が言う。俺は壁にへばりついた、友梨と呼ばれた女に、ロープでぶら下げられていた。腰打って思い切り痛いんですけど。

「これくらい、朝飯前」

 一言呟きながらそいつは俺を引っ張り上げる。そういやいたわ。初日に素手で塀を上ってるやつが。そいつだ、この友梨って女。

「さて、それじゃあ話の続きをしましょうか」

 もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ。あーあ。

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