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「ないわねえ、特に面白そうなもの」
懐中電灯を振りかざしながら透華が呟く。用意のいいことだ。針金を用意してる友梨もどうかと思うが。
「それより、さっさと帰ろうぜ。生徒会にばれたらやばいし。それに暗いし」
扉は内側から占めた。そのおかげで薄暗くてちょっと怖いんですけど。
「あれ、ひょっとして、セイギ怖いの? ま、臆病なのもありか」
「ち、違うし。薄暗くていわくがありそうだから何か潜んでないか疑ってるだけだし!」
ごめんなさい怖いです。
「それに、礼奈さんとかも怖がってるし。さっさと引き上げないか。老朽化と化してるだろうし」
「へぇー、怖いんだ?」
「うぎゃっ!?」
な、何をするんだ。いきなり懐中電灯を下から照らすなんて子供っぽい悪戯するのはやめてくれ! 腰が抜ける。
「ま、セイギをからかうのはその辺にしといて。はいこれ、懐中電灯は人数分あるわよ」
ホントにからかわないでくれ。礼奈さんがそこで震えてる。よく見たら、その後ろに三角帽子も見えるし。どうやら飛鳥も怖がりらしい。
「ほら、礼奈と飛鳥も手伝いなさい」
「ひぃっ!」
どうしよう、ちょっとだけ飛鳥がかわいそうになってきた。
「で、あったかしら、何かめぼしいものは」
「なんもねえよ。というか、あったとしてもこの明かりじゃわからん」
懐中電灯で腕時計を照らすと、もう時刻は下校時刻に近かった。
「そうよねえ、飛鳥は頼りにならないし、礼奈は飛鳥にかかりきりだし。友梨は、何をしてるのかしら?」
知らん。俺に聞くな。というかめぼしいものがある方がおかしいんじゃないか?
「あったのと言えば、宝の地図くらいね。異世界の魔法陣なんてなかったわ」
「そっか、なかったか。って宝の地図があったのかよ!」
何しれっと重要なものを流してるんだ!
「別に、大して重要じゃないわよ。これザラ半紙だし。しかも何枚もあるし。これ、昔のオリエンテーションででも使ったんじゃないかしら」
「なんだよ、期待させんなよ」
封印したはずの中二心が一瞬ときめいちゃったじゃないかよ。
「というわけで、ろくなものがないわ。これに比べたらアーティファクト目録を研究する方がよっぽど有意義だったかもね」
「やめろ、それだけはやめてくれ!」
晒すな! 俺の若気の至りを真面目に研究するな!
「冗談だって」
「冗談にしてもたちが悪いわ」
その時だった。
ギーという音がして、暗闇でいっぱいだった倉庫の中に光が差し込んできた。なんだ? 俺たちじゃないとすれば、新しい誰かか?
「何となく嫌な予感がしてきてみれば、やっぱりお前らか! 私の目の黒いうちはこんなことは許さんぞ!」
「げ、生徒会長!? セイギ、あとは任せたわ!」
「あ、ちょっと待て!」
おいあいつ、何しれっと自分だけ逃げだしやがったんだ! 俺の他にも礼奈さんと飛鳥は逃げるの大変なんだぞ! 友梨は知らんけど。
「今こそあのセリフを言うべきでしょ! ここは俺に任せて先に行けって!」
「誰が言うか!」
「お前ら、不法侵入したうえで軽口とはいい度胸だな!」
おい、透華はもう逃げたからいいかも知らんが、俺たちは追い詰められてるんだぞ! というか生徒会長! 主犯を捕まえなくてどうするんだ!
「おい、飛鳥、礼奈さん! 逃げますよ!」
そう言って手を引っ張ろうとすると飛鳥がその手を振り払った。
「いえ、こんな小物、逃げる必要などありません。我が魔法で灰にしてくれます! ファイアー……」
「燃え移ったらどうすんだ! 火の海になるぞ! いいから逃げるんだよ!」
「待ちな一条透華!」
「だからそれはさっき逃げたやつだって!」
生徒会長は後ろから迫ってくるは、礼奈さんは戦力にならないは、飛鳥は勝手に魔法放とうとして暴れるは、これどうすりゃいいってんだよ! しかも廃倉庫ってそこまで大きくないぞ!
「とりあえずお前を捕まえてくれる!」
うわぁ、何か知らんけど俺狙われてるんですけど! そりゃ唯一顔割れしてるの俺だけど、だからって親の仇みたいに狙わないで!
しかもこの生徒会長脱出経路をふさぐように追いかけてくるんでだんだん追い詰められてるんですけど!
「要するに、最初から空いてたから入ったと」
「え、ええ、そういうことです。なのでおじゃましちゃいました」
結局、俺は捕まった。不幸中の幸いながら礼奈さんと飛鳥は逃がせたのがよかったか。友梨は自力で逃げられただろうし。そういうわけで尋問を受けてます。
「で、一条透華」
「いえ、小鳥遊です」
そして名前を間違えられる。いや、透華ってどう考えても女性名ですよね?
「しかし、あそこには鍵がかかってたはずだが」
「あそこ、開いてましたよ。それに、合鍵もなく、鍵も生徒会室にあったなら開けられるわけないじゃないですか?」
白を切る。本当は開けたんだけどね。
「で、一条。なぜあそこに入った。立ち入り禁止のはずだが」
「小鳥遊ですって」
この人は名前を覚える気がないのだろうか。
「いや、それは。部活動新設届を読んでくれればわかります」
「ふざけるな!」
いや、でもね。ふざけたのは透華で俺じゃないんだけどね。言い訳通用するかなあ、はあ。
結局下校時刻まで拉致された俺を、他の4人は待ってくれていたらしい。
「お勤めご苦労さん。娑婆の空気はどう?」
「ああ、冤罪をかけたやつに復讐したい気分だよ」
主にこいつにな。元凶のくせして何しれっとないことにしようとしてやがる。
「まあ、仕方ないわよ。ここの生徒会、本当に解散させようかしら」
「やめろ。それにあと1か月で引退だぞ」
「そうね。それにしても不法侵入はだめよ、セイギ」
「お前だ!」
こいつといると本当に疲れるし面倒ごとをしょい込まされる。一度締めてやりたい。
「じゃ、また明日、部室でね。それじゃあ、礼奈、行くわよ」
「あ、はい」
「おい、ちょっと待て!」
静止する間もなく家の車に乗って帰っていきやがった。あの野郎。次あったらただじゃおかねえ。
「まあまあ、私はセイギに感謝してますから。気を落とさないでください」
うるさいよ。飛鳥がいなけりゃ人数が足りないから俺も呼ばれなかったはずなんだ!
八つ当たりだけど。