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26 手遅れ悪役令嬢、情報屋を呼ぶ4

 ……私の予想通りだった。



 その人の名は――


「――ヨシュア・アトキン。マティアス殿下の護衛の彼が、秘術を使って……いいえ使わされて、いたんです」



 私は、かつてエレナを階段で突き落とした時の話をした。


「フェオドールさんと同じように、夢を見ているような、雲を踏んでいるようなふわふわとした感覚でした。そして私は自分の意思に反し、エレナを突き落としました」


 あの時、ダンスホールにはたくさんの人がいた。しかし、私とエレナがいた踊り場には誰もいなかった。私達は遠巻きにされており、当時はまるでそれが舞台のようだと思うほどに。

 魔法は数メートル以内で視認していないと使えない。つまり、すぐ近くにいた人物が使った可能性が高い。

 あの時、私とエレナの最も近くにいたのは、階段を降りたすぐ先にいたヨシュア・アトキンだけだった。

 あの場にはマティアス殿下もアンリ殿下もいなかった。

 そして、落ちたエレナを受け止めたのもヨシュア・アトキンだったのを覚えている。そりゃあ当然のように受け止められたはずだ。

 ヨシュアは、クリスティーヌがエレナを突き落とすタイミングを最初から知っていたのだから。


 そしてフェオドールが操られた時、マティアス殿下の側には必ずヨシュアがいた。エレナとマティアス殿下がぶつかった時も、フェオドールが嘘の証言をした時も。ヨシュアはマティアス殿下の護衛なのだからいつも側にいるのは当たり前だ。

 彼が行なっていたのは、マティアス殿下とエレナを出会わせ、親しくさせること。そしてクリスティーネを排除することだ。


「そして、フェオドールさんが私の所在を伝える手紙を託したのもヨシュア・アトキンにでした。その手紙の内容はヨシュアが確認し、そのまま王妃にも伝えられたんです」


 結果、私が下町にいるのを、公爵家になんらかの意図ありと怪しまれて、襲撃されたのだ。



 ――ああ、玄関の開く音が聞こえる。ごく小さな音だけれど、私にはわかる。


「……なあ、それ、最初からわかっていたんだろ。俺のこと呼ぶ必要あったのか?」


 フェオドールが私を()め付ける。


「ありますよ。20年以上前の噂話を覚えている人なんてそうはいないですし。助かりました」

「商売柄、御婦人の話には精通してないいけないからな」

「それに貴方だって秘術を使われたと後から告発されないように消されていた可能性もありましたから、無事に確保できてよかったです」

「うげ」


 フェオドールは青い顔をして黙る。

 秘術を使われたという証拠は残らないからか、たまたま放置されていただけで本当に消されたって全くおかしくないポジションだったのだ。


 ――階段を駆け上がる音が聞こえる。軽やかな足音。私の心も浮き立つ。


「――それに、大切な人に全てを話したい時に、憶測だけより、ちゃんと裏付けがあった方がいいでしょう?」


 私は唇を吊り上げて微笑んだ。

 ――悪役令嬢のように。


「くそ、結局俺はこういう役割かよ!」


 フェオドールのぼやきが聞こえるが、それは無視した。



 ――ノックもなく応接間の扉が開かれる。


 私は、扉の方を向いて礼をした。


「お戻りを、お待ちしておりました。……アンリ殿下」


 目の前には、僅かに息を切らせたアンリ殿下がいる。

 焼きたてのパン色をした髪が少しだけ乱れている。

 僅かに目が赤いのは、寝不足のせいか、……それとも。


「クリス!」


 私の名を呼ぶその人の腕の中に、今度は自分から飛び込んだ。


「……パンの中に仕込んだメモに、アンリ殿下なら絶対に気がついてくれるって、私……信じていました!」

「ありがとう……クリス……兄上の病、いや呪いは消えた。君が知らせてくれたおかげだ」


 私はアンリ殿下にぎゅうっと抱きしめられる。暖かくて心地よい、腕の中。


「あの、俺、もう帰っていいか? あ、帰れないんだった。そこのお姉さん、俺の客間に案内してくれない? てかお姉さん美人だね、黒髪が素敵だ。ねえ、名前は?」


 フェオドールの声が段々と遠ざかっていく。



 ……その間も私達はずっと抱き合ったままだった。

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