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メレンの町

7話の投稿です。

異世界初の町!

「アリシア、あれって町か?」


「そうよ。あれは『メレン』って名前の町ね。あんまり大きくはないけどそこそこ人口があって栄えている町よ。」


「宿屋とかもあるのか?」


「確かあったはず。でもリョータ忘れてない?」


「何を?」


「私達、無一文よ。」


「そうだった…。」


RPGなんかだと敵を倒すと少額のお金がドロップしそのお金で装備品や宿などを探すのだが、

普通に考えて魔物が人間が使うようなお金を持っているはずがない。

少なくとも数十匹倒したスライムからは一回もお金はドロップしなかった。


「この辺のスライムでお金稼ぎとか出来ないのか?素材的なものが落ちて、それを売るとか。」


「スライムじゃ厳しいわね。一応スライムを倒した時に広がる液体が『粘液』って呼ばれる素材ではあるんだけど、粘液を入れておく瓶とかも無いし、仮に入れ物があっても粘液は単価が物凄く低いからこの時間から宿代を稼ぐなんて無理よ。」


「この辺って他に魔物はいないのか?ちょっとでもお金になりそうな。」


「この辺りはスライムだけね。少し行けば別の魔物が出てくるエリアではあるけど、やっぱりこの時間からっていうのは厳しいわねぇ。」


「初日から絶望的すぎるんだけど…。」


「ねぇリョータ、私にちょーっといい考えがあるんだけど?」






それから30分後、俺たちはメレンの町の宿屋兼レストランにいた。

店はファミレスを少し小さくしたくらいの大きさで、内装は元の世界でいう西洋風の落ち着いたデザインだった。

そんな店内は夜ご飯の時間帯なのだろうか、既に客席は8割ほど埋まっている。

あちこちのテーブルから食欲をそそられる香りが立ち昇り、歓談の声が聞こえてくる。

そこそこ人気がある店のようだ。


そうして周りのテーブルを眺めていると、身長は180cmを超え筋肉の鎧に覆われたような強面の大男が俺の目の前に現れ、出来立てのステーキ肉を差し出す。

日本の霜降り肉とまではいかないが程よく油がのっており、塩と胡椒のみの素材を活かす味付けがされている。


「ごくり…。」


俺は唾をのんだ。

思わず頭の中で肉にかぶりつくイメージをしてしまう。

口の中いっぱいに肉の芳醇な香りが広がり、一口噛むごとに肉の旨味があふれ出す。

そして程よい塩味と胡椒のアクセントがハーモニーを奏でる。

元の世界では中々こういうしっかりとした肉を食べる機会も少なかったので、イメージだけで口の中に涎が溢れた。

と、同時にステーキを持ってきた大男からライスの乗った皿も差し出された。



「冷めちまうから見てないで早く持ってってくれ!5番テーブルな!ライスも忘れんなよ!」



という指示と共に。


そう、俺は臨時のアルバイトをしていた。

そして、大男は店主であるガンドさんだった。




「疲れた…。」


それから数時間後アルバイトが終わり、俺は休憩室で椅子に倒れ込んだ。

元の世界ではデスクワークが主だったので、久々の肉体労働は結構疲労した。

まさか異世界に来て早々ファミレスのアルバイトをすることになるとは…。

しかもこの店繁盛しすぎじゃないか…?

客足が途絶えることなく数時間慌ただしく動きっぱなしだった。


「リョータお疲れさま。私も疲れたわ…。」


もちろん俺だけでなく、アリシアもウエイトレスとして働いていた。

ウエイトレスのフリルのついたスカートが素晴らしく似合っている。


「おーぅ…お疲れ…。そっちも大変そうだったな…。」


「まぁね。でも慣れれば結構面白かったわよ。」


「お前はいい社畜になれそうだな。」


「シャチク?何それ?」


「会社やお店の為に自己を顧みずに一生懸命働く社員のことだよ。」


「まぁね!女神だもの!」


どうやら褒め言葉だと思ったらしい。

可哀そうな女神だ。


「それで、ちゃんとガンドさんには確認取ってくれたのか?」


「もちろんよ。今日はもう上がっていいって。御飯も用意してくれてるって!」


「やっと晩御飯にありつける…。腹が減った状態でのファミレスアルバイトとか苦行過ぎるだろ…。」


飲食店で働いてる人達は改めてすごいなぁと思った。


「明日以降も希望するなら働かせてくれるって。どうする?」


「とりあえずは魔物狩りでどれぐらい金になるかによるかなぁ。この世界にはアルバイトしに来たわけでもないしな。」


「それもそうね。じゃあとりあえず明日は朝から魔物狩りに行きましょう!」


そんなやり取りをしていると休憩室の扉が開き、ガンドさんが入ってきた。


「おう、お疲れさん。これ、お前たちの分の飯な。もし足りなかったら余りものがいくらかあるから言ってくれ。」


と言って俺たちに差し出したのは先ほど俺が涎を垂らして見つめていたステーキだった。


「これ、結構高そうですけどいいんですか?」


「いいも何も俺がお前たちの分って持ってきたんだからいいに決まってる。遠慮は無用だ。」


「ありがとうございます!」


「それに、今日はそこの嬢ちゃんのおかげで普段の3倍くらい売上が伸びたからな!こっちとしてもありがてぇんだ。」


店にきた男性客が皆アリシアに熱い目線を送っていたのは気のせいではなかったようだ。


「私にかかればこのくらい当たり前よ!」


「頼もしいな!それで、良かったら明日もうちで働いてくれるか?」


「えーっと、俺たち明日は少し町から離れたところで狩りをしようかと思ってまして。」


「ん?お前達冒険者だったのか?」


「まだ冒険者見習いって感じですけど一応は。」


「そうか。ちなみに武器は何を使う?」


「それが冒険者を始めたばかりでお金もないので、今のところは拙い魔法だけでなんとか…。」


「ほぅ!お前達魔法が使えるのか!中々やるじゃねぇか。」


「全然まだまだなんですけどね。」


「魔法が使えるってだけでこの辺じゃちょっとしたヒーローだぜ。最近は魔法が使えるってやつもめっきり減っちまってなぁ。」


「出来れば魔法だけじゃなくて剣とかも使えるようにしておきたいんですけどね。」


「剣ならうちに使ってないのがあるぞ。手入れもしてないからまともに使えるかちょっと怪しいが、よかったら持ってくか?」


「いいんですか?」


「全然構わんさ。昔うちの宿にきた冒険者が忘れてった物だからな。」


冒険者が剣を忘れてったのか…ありえないだろ……。


「ではありがたくお借りします。」


「うちに置いといても仕方ないからお前にやるよ。要らなくなったら鋳潰すなり捨てるなりしてくれて構わん。」


「ありがとうございます。何から何まですみません。」


「気にすんな。さっきも言ったろ?今日はお前達のおかげで繁盛したからな。バイト代のオマケみたいなもんだ。」


すごく機嫌がよさそうなので、本当に今日は儲けがよかったんだろう。

アリシア様々である。


「じゃあ長話はこれくらいにして、俺はちょっと明日までに剣の状態みとくわ。飯食い終わったら皿はそのまま置いておいてくれ。後これ今日使ってもらう部屋の鍵な。部屋は2階の一番奥の部屋だ。簡易だがシャワーもトイレもあるから不自由はしねぇはずだ。」

そういってガンドさんは鍵を差し出した。


「はい。ありがとうございます。」

鍵を受け取り、礼を言う。


「んじゃ、また明日の朝にな。」


そう言うとガンドさんは休憩室から出て行った。


「おのおっちゃんめっちゃいい人だな。急に働かせてくれって言って働かせてくれるし、飯も出してくれるし、宿を提供してくれた上に剣までくれるなんてな。」

俺は待ちきれずにステーキを頬張る。やっぱり美味い。口の中に幸せが広がっていく。


「そうね。私も半分ダメ元でお願いしたんだけど二つ返事でOKだったわ。」

アリシアもステーキを口に運ぶ。


「これ、すごくおいしいわね!働いてよかったぁ。」


「ほんとにな。」




10分ほどでステーキを平らげ、俺たちは休憩室を出て2階の部屋へ向かった。


扉を開けると部屋はベッドと小さな机と椅子があるだけのものだったが、清潔感があって悪い気はしなかった。日本人の俺としては清潔な部屋っていうのは嬉しい。

木を基調として作られており、ほのかに檜のようなやわらかい香りがした。


「部屋も申し分ないな。」


「そうね。シンプルでいい部屋だと思うわ。」


「明日は朝から出発だから、今日は早めに寝よう。」


「それはいいんだけどリョータ…。」


「何?」


「ベッドが…。」


「ベッドが?」




「一つしかないんだけど!!!」



ベッドが一つしかないと言えばもちろんお約束の!


2017/06/05

店主(ガンドさん)の情報を追記しました。

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