女神アリシア
2話目投稿です。
背後にあったはずの、先ほど俺が通ってきた扉は完全に消えていた。
気づけば何もない広い草原のど真ん中に立ち尽くし、取り残されていた。
「えー…マジですか…。」
これって異世界に取り残されたとかそういう感じ…?
俺は改めて周りを観察する。
空は清々しい程の晴天。
降り注ぐ太陽の光がとても心地よい。
あたりは見渡す限りの広大な草原地帯。
そして「異世界」と書かれた看板があるだけである。
俺だってアニメやラノベなんかで異世界転移・転生モノを見るたびに、
「俺も異世界に召喚されたりしねぇかなぁ…。」
なんて妄想を膨らませたクチの一人だが、こうも急に異世界(まだ本当に異世界なのかはわからんが)に来ても混乱するだけだ。
「あ、とりあえず携帯で写真撮ってSNSにアップしよ。」
と急に冷静になって、スーツの内ポケットに手を伸ばして新たな異変に気付いた。
「服が布の服っぽいものになってる!?」
気づけば先ほどまで手にしていた通勤カバンがなく、
服もスーツではなくRPGゲームなんかでよく見るような皮で出来た服を着ていた。
とりあえず現状の持ち物を確認する。
皮の服、皮のズボン
以上。
携帯やらなんやらがすべて無くなっている。
さっきは気づかなかったが、ご丁寧にパンツまで消えていた。
異世界モノの持ち込み厳禁か何かなの?
でもそれでいうと俺も異世界モノなんだけどなぁ…。
「それは貴方が選ばれし者であるからです。」
急に背後から声がした。
振り返るとそこには一人の女性が立っていた。
それも飛び切りの美人だった。ドストライクだった。
腰まで伸びた金色に光る髪、透き通るような碧眼。
パッと見、トップモデルのような美人だった。めっちゃ美人。
「私はアリシアといいます。この世界では人々から女神と呼ばれている存在です。」
「えっと…それは貴女がとても美しい容貌であるから…とかですか…?」
無意識に聞いてしまった。初対面の女性に何聞いてんだ。
「そうではなく、『神』として崇められている…ということです。」
ん?なんかちょっと赤くなってる?
「なるほど。ではアリシア様、と御呼びすればよろしいのでしょうか。ここは一体どこなのでしょう?」
「ここはナルリクと呼ばれる世界です。貴方の元いた世界とは別の世界、異世界となります。」
「はぁ、異世界ですか。」
やはりここは俺の生活していた世界とは別の世界であるようだ。まぁ看板も立ってたしな。
「あなたは選ばれたのです。無理と勝手を承知でお願いします。どうかこの世界をお救い頂けないでしょうか。」
「えーと…。何で選ばれたのが俺なんでしょう?特に格闘技を習っていたり、武器の扱いに長けているわけでもない唯のしがない会社員ですが…」
「私の直感です。」
「はい?」
この女神様今なんて言ったの?
「ですから、私の直感です。」
「…本気で言ってますか?」
「私が冗談や適当で異世界に呼び込んだりするとお思いなのですか?」
「申し訳ありませんが…。」
いきなり、
「あなたをえらんだのはちょっかんです!」
なんて言われてもこちらとしては只々困るしかないわけで。
「…信じて…頂けないのですか…?」
そういうと女神様は目元に小さく涙を浮かべた。
「す、すいません!信じます、ハイ!」
「ありがとうございます。ではこの世界に関してご説明いたしますね。」
あれ?嘘泣きですか?詐欺ですか?
女神様の話をかんたんに要約すると以下のようなものらしい。
この世界は昔、神々の率いる人類と魔神の率いる魔人軍の間で争いの絶えない世界だった。
それはもう凄惨な殺し合いが日夜問わず繰り広げられていたそうだ。
争いは数世紀にわたって続いたが辛くも人類が勝利した。
そうして人々が争いを忘れだしたころ、最近になって急に魔神が復活したのだそう。
復活しただけならまだしも、魔人を少しずつ増やし軍備を強化しているようである、とのことらしい。
「先の戦いでも、選ばれし者によって魔神は打ち倒されました。魔神に打ち勝つには選ばれし者の力が絶対に必要なのです。このままではまた争いが始まり、多くの人々が犠牲となってしまいます。どうか、共に魔神を打ち倒しては頂けないでしょうか。」
「なるほど。ですが先ほども申しました通り、俺には戦闘に使えるような能力はありません。争いとなっても真っ先に死ぬだけではないかと思うのですが…。」
一撃もらって即お陀仏な未来しかみえない。
「ご心配には及びません。選ばれし者には神々より特殊な能力が授けられます。剣聖と呼ばれるような剣の技術であったり、1000の敵を薙ぎ払う強大な魔法、傷ついた人々を癒す神聖術など、その方にあった強大な能力が使えるようになります。どんな能力であったり、いくつ能力が付くかなどは『神々の祝福』を使用するまではわかりませんが、きっと貴方が世界を救う為に必要な能力が授けられるはずです。」
「剣聖の能力と、治癒魔法能力を同時に得ることも可能性としてはある、ということですか?」
「はい、その通りです。過去には剣・拳・魔法の能力を同時に授けられた者もおりました。」
なるほど。さすがに普通の人間をファンタジーの世界に召喚したところで何も対抗できずに死んでしまうのは間違いないからな。女神様から対抗するための特殊な力が最初にもらえるってことか。
そして、場合によっては複数能力がつくこともある、と。
中学生の頃から憧れていた「異世界に美人の女神様によって召喚され、俺にしかない強大な能力でこの世界を救ってほしいと懇願される。」というシチュエーションに俺は若干どころではなくテンションが上がっていた。
「わかりました。俺でよければ力になります。」
よく考えずに快諾した。
「本当に、本当にありがとうございます。では早速…」
女神様が祝詞を唱えだすと共に足元に聖なる力を感じる魔法陣が出現した。
魔法陣の光は徐々に大きくなっていき、自身の身体が熱くなっていくのを感じる。
「世界を救いし異界の勇者へ、神々の強大な力を授けたまえ。『神々の祝福っ!』」
女神様が叫ぶと同時に身体に清らかな気のようなものが流れこんでくる感覚を覚える。
今まさに特殊能力が俺の身体に流れ込んできているのだろうか。
そうしているうちに光が消え、魔法陣も消失した。
「『神々の祝福』は無事に完了しました…ってあれ!?何この能力の数!?あとこのスキルは…」
「どうかしたんですか女神様!何か問題でも!?」
女神様が急に取り乱しだした。不安になって大声で聞き返してしまう。
「ご自身のステータスが見られるようになっていると思います…。その中のスキルを見てください…。」
よく見ると視界の隅にゲームでおなじみのメニューのようなものが追加されている。
俺は不安と期待を胸に、ステータス画面を開いた。