異世界への扉
第一話投稿です。
今後は不定期に更新を行っていく予定です。
初心者故、「ここはこういう表現とかどう?」みたいなアドバイスなどあればぜひお願いします。
上司の席につくと案の定だった。
「鈴木!!!期限内に各部署に決裁書回りきらなかったせいで発注間に合わなかったじゃねぇかよ!!!!!てめぇ担当だっただろ何やってんだ?あぁ?客先から問い合わせの連絡が来てんだぞ!!!!」
「その件に関しましては、畑原部長から発注ストップするから一旦決裁書回さないで止めておいてって言われたので止めてあります。関連部署には全て畑原部長から『取引を一旦止める』旨のメールが入っているはずですが…?」
「メール見たんなら直接俺に報告に来んのが常識だろ!!!勝手に自己解決して終わってんじゃねぇよ!!!」
「と、言われましても…」
またいつものパターン。
この上司はちょくちょく重要なメールに目を通していない。
メールの確認を怠って取引の期限に間に合わず部長クラスが頭を下げに行った、なんて例も少なくない。
その場では申し訳なさそうにヘコヘコ謝り、後で部下に当たり散らすのがもはや一芸みたいになっている。迷惑極まりない。
入社当初からこの調子だったのですぐ疑問に思ったのだが、隣の席のおばちゃんが
「役員とコネがあるみたいなのよ……ほんとめんどくさいわよね…。」
と教えてくれた。
対応がめんどくさい上司ランキングがあれば間違いなくTOP3入りは確実だろう。
「てめぇはいつもそうだな!ホウレンソウすら出来ないのに社会人やってんじゃねぇよ!!!」
「はい、大変申し訳ございませんでした。次回からは直接ご確認させて頂くように致します。」
早く話を終わらせて昼休みに行きたいのでとりあえず申し訳なさを出す。
こいつはめんどくさい上司だが、怒りを爆発させた後は相手が謝れば(非がどちらにあったとしても)スッキリするのか話が終わってくれるので扱いやすい部分もある。
今回も謝罪の言葉を聞いて、上司の怒りが静まっていくのが表情から窺える。
「じゃあ始末書書いて部長に提出しとけよ」
「はい、わかりました。」
話が終わったので再度頭を下げてから自席へと戻る。
あれ?始末書書けとか言ってなかった…?なんで俺が…。
昼はコンビニでおにぎりを買って食べながら始末書書きで消えました。
指定された始末書を書き終え、いつも通りに仕事をこなし終わると22:30を過ぎた頃だった。
例の上司は気づいたらとっとと定時に帰宅していた。
「これで俺よりめっちゃ多く給料もらってんだもんなぁ…割にあわねぇ…」低い声でひとりごちる。
「お疲れ様でしたーお先ですー」
まだ残業しているメンバーに軽く挨拶をして俺は会社を出た。
会社から出ると鋭い寒気が俺を襲う。
季節は冬。
23時前だからそりゃ寒いはずである。
「うー…さむっ…帰りにコンビニでおでんでも買って帰るか」
コートのポケットに手を突っ込み、自宅方向へと歩き出した。
家まであと半分くらいといったところまで来たところで、脇の細い路地裏から何やら眩しい光が見えた。
普段この時間帯まで残業をしていることは多々あるが、このあたりの道は使われていないビルなどがならんでおり、この時間に光が灯っていたことは一度もなかった。
少なくとも入社して丸3年間、この時間帯にこの辺りに人が居たことは一回もない。
「なんだろう…誰か何かしてんのかな…?」
疑問に思った俺は恐る恐る光の元へと近づく。
それにしても眩しい。
それも表現しづらいがただ光っているだけではないように思える。
俺は何故だかその扉に惹かれた。
光源まで辿りつくと辺りに人は誰も居なかった。
代わりに神々しい装飾が施され、不思議に輝く重厚な扉がそこにはあった。
俺は好奇心から扉を開いた。
扉は見た目の重厚さに反して、軽く開けることが出来た。
扉を開けて目に飛び込んできたのは、「異世界」だった。
ファンタジーみたいな生き物が居たわけでも、月が二つあったりしたわけでもない。
深夜の廃ビル街の扉を開けた先が、今目の前に広がっている真昼の草原であることが異質だった。というかありえない。
さらに、扉から5メートルほどの距離に「異世界」と書かれた木製の看板がご丁寧に立てられていた。
その二つの事から、俺は扉の向こうが異世界であると断定した。
突然の事に困惑したが、好奇心は扉を開けるだけでは満足出来ず俺は足を一歩踏み出した。
その瞬間、
「どうか、この世界をお救いください」
という声がどこからともなく聞こえ、
背後の扉が消失した。