運命を切り拓く者達
「あれは……」
愚者の身体から極彩色の光がはじけた瞬間、それを目の当たりにした全ての者が息を呑んだ。世界を操るエイジも、それを補佐するボブも、友也の戦いを見守っていたグラールハートの面々や家族、友人、そして会場にいる観客も、テレビでこの戦いを見ていた観客達も。
白と黒――シンプルだが、不思議と心に焼き付いて離れない愚者の期待が七色、あるいはそれ以上に輝く光を纏い、まるで翼のようにその光を放出する様を見た全ての者が言葉を失っていた
『こ、これは、まさか……!』
突如極彩色の光を纏った愚者を見た解説の女性は、強張った声帯を懸命に震わせることで、かろうじてその言葉を絞り出す
『間違いない。――愚者の運命権能だ』
貴賓席でそれを見たオウル、安曇、彩音、千歳をはじめとするグラールハートに所属するその力を知る者達は、極彩色の光を纏う愚者を見て言う
「――……」
「へぇ、愚者の力か。それが、世界にどこまで通用するのか、見せてもらおうか!」
目の前で突如眩いばかりの光を纏った愚者の姿を自分の目で直視したエイジは無言でそれを見つめ、画面越しにそれを見たボブは、自身を奮い立たせるように強い言葉を選ぶ
先日のエキシビションマッチでは、この力が発動することはなかった、即ち、愚者の運命権能が人の目に触れるのは、これが事実上最初なのだから、エイジやボブが一定の警戒を示すのも当然のことだ
「ようやく、やる気になってくれたか」
自身の身体から噴き出す極彩色の光の力を感じながら、友也は自身の中にあった何かが解き放たれたかのような錯覚を覚えていた
操者にとってのIDOLAはまさに「運命」。友也はこの瞬間、自分自身の運命を測る試金石でもある愚者の運命を勝ち取ったのだ
「行くぜ」
自分自身に、そして相対する世界に対して宣言するように言った友也は、その身に纏う運命の力に任せて、一直線に向かっていく
「――」
極彩色の光を纏い、流星のように自身へと向かって来る愚者の姿を見たエイジは、その力を見極めるために、世界理の運命権能を防御へと回して空間の歪みを機体に纏わせる
未知の運命権能に対し、最大の警戒を払っての防御行動。エイジの対応は至極正しいものだった
「オオオオッ」
世界が空間の歪みを纏ったのを見ながらも、友也は愚者の速度を緩めることなくそのまま極彩色の力を纏わせた腕を力任せに叩き付ける
「なっ!?」
その瞬間、愚者の一撃が歪んだ空間を引き裂き、その中にいた世界の肩口の装甲を力任せに抉り取っていた
砕かれた装甲と、その内側にあった機体の機械部品が飛び散る光景に、エイジの目がいつの間にか見開かれる
「馬鹿な……っ」
『こ、これは、信じられないことが起こりましたーッ! 最強を誇る世界の力が、愚者の力によって引き裂かれたーッ!』
その信じ難い光景に貴賓席に座っていた京一郎は、思わず立ち上がってそれを食い入るように見つめ、会場にも同様の動揺が広がっていく
『初めて、初めて世界の機体が破壊されたぁーッ!』
その反応も至極当然。エイジ・ルクシードが「世界」に選ばれ、その機体を起動させてアイドルクレイドルに参戦して以来、世界の金色の機体がこれほどに損壊したことはなかったのだ
何人たりとも破ることができない絶対防御と、あらゆるものを破壊する完全破壊能力を併せ持ち、これまで誰一人寄せ付けなかった金色の機体がはじめて、目に見えるほど破壊された――それは、間違いなく快挙、いや大金星だった
「―ッ!?」
砕かれた自身の身体の破片がライトを受けて金色に光り輝くのを見たエイジは、即座に平常心を取り戻して一気に距離を取る
その背に装備された金色の剣翼を広げ、愚者から距離を取った世界のその行動の意味が分からない者はこの世界には誰一人としていないだろう
「く……っ」
小さく歯噛みしながら手を伸ばしたエイジに答え、世界の運命の力が触れるもの全てを呑み込んで消滅させる空間の歪みを生み出す
「はああっ!」
間違いなく的確に愚者の座標を指定し、破壊の空間を展開したにも関わらず、世界によって引き起こされた時空の歪みは、極彩色の光を帯びた愚者の腕の一振りによってかき消される
「そういう、ことか……」
自身が発生させた時空の歪みを破壊し、極彩色の光を翼のように放出しながら向かって来る愚者の姿を見たエイジは、小さく独白する
(これが、「愚者」の運命権能か)
初めて破壊された機体。間違いなく、過去最大の危機――しかし、それを前にしたエイジの口元は、本人さえ自覚のないままに小さく綻んでいた
「なら、遠慮は無しだ」
そう言って笑ったエイジが手をかざすと、戦場に立つ世界の正面に金色の光の壁が出現する
「『世界線』!」
世界の運命権能である「世界理」は、空間を支配する力。そしてそれは、ただ空間を歪めるだけに留まらない――否、むしろ、その神髄はこの「世界線」にあるといえる
「世界線」はその名の通り、世界の境界線。世界を切り分け、物理的なあらゆる現象が作用できる空間を隔てる――即ち、物理的にあらゆる現象が作用できることができる限界を作り出す力だ
(これは、愚者のエネルギー消耗が激しい。このままじゃ、あと三分も戦っていられない……!)
極彩色の光を纏い、これまで誰にも傷つけることができなかった世界を追い詰める愚者の姿に意識を奪われていた千歳は、画面に表示される情報に目を落として声を上げる
「友也さんっ!」
「はい!」
これ以上戦いが長引けば、愚者がもたないことを伝える千歳の切羽詰まった声を通信で聞いた友也はそれに力強い声で答える
(これで、決める!)
千歳の言葉を聞いた友也は、世界を隔てる境界戦を引いた世界をその双眸に捉え、自身の持てる全てを費やして最後の一撃を放つ覚悟を決める
「オオオオオオオオッ!」
極彩色の光をその右手の平に収束させた友也は、ただ愚直にまっすぐに世界が定めた世界の限界線へと拳を叩き付けた
「愚者の運命権能は、№0に相応しい〝始まり〟の力。あらゆる限界を超え、世界を越えて事象を破壊する」
世界が定めた世界の限界線と、極彩色の光がぶつかり合い、会場を呑み込むのを貴賓所為で見るオウルは、その光景に口端を吊り上げる
愚者の運命権能は、至極単純な力。タロットの最初に相応しいもの
常識で縛られていたものを打ち砕き、歴史を変えるように。夢を信じ、人に笑われようとも己を信じ、行動することによって不可能だと思われていたことを成し遂げるように、現実を破壊し、夢を実現させることができる
「運命を切り拓く力――『運命開闢』。それこそが、アルカナ№0・愚者が備える運命権能だ」
自分より速く、その手が届かないほど遠くにいる相手であっても、その速度と距離を縮めることができる
彼我の物質の強度を無視して破壊し、「世界の限界を超える」。それこそが、運命を始める「愚者」に宿った運命の力だ。
「――運命開闢……」
オウルのその言葉が自分に向けられたものであることを知っている京一郎は、世界とぶつかり合う極彩色の光の中心へと視線を向けて独白する
「面白いではないか」
限界を超え、運命を切り拓く力を持つ極彩色の光を纏い、世界を圧倒する愚者の姿を見るオウルは、愉快気にその目元を綻ばせていた
「人が望むおおよその才能を持ちながら、自分が望むたった一つの才能を持たなかった少女と、凡庸で非才だが、自分が欲したたった一つの才能を持ち合わせた少年か――」
その視線を、補佐席にいる千歳、そして愚者を介してそれを操っている友也へと送ったオウルは口端を吊り上げる
「互いに欠けたものを補い合い、運命を切り拓く愚者たち。――確かに、あのアルカナに選ばれるだけのことはある」
そう言って言葉を締めくくったオウルの瞳には、運命を切り開いた先にある今までとは全く違う未来が映っているかのようだった
「――強い」
(あぁ、なんだこの感じは)
金色の翼が破壊され、その破片が舞うのを視界の端に捉えながら、それでも世界と繋がったエイジはその口端が吊り上げて笑っていた
世界によって定められた世界の理を引きちぎり、自身へとその力を届かせる愚者の姿に、エイジはもしかしたら、アイドルクレイドルに入って初めての悦びを覚えていたのかもしれない
(負けるかもしれないというのに、胸が高鳴る。強敵がいることが楽しくて仕方がない。自分の運命《勝敗》が分からないことが嬉しくて堪らない……!)
世界の運命権能によって捻じ曲げられた空間が次々に愚者を取り込み、この世界から抹消しようとその威を振るう
(ああ、そうか)
自身に向かって来る愚者の攻撃を紙一重で回避したエイジは、クレイドルシステムの中でその口端を吊り上げる
DOLLの稼働資格を取り、世界に選ばれ、アイドルクレイドルに足を踏み入れてから今日まで満たされることのなかった心を躍らせながら、エイジは自身が操る運命の力を初度させる
(これが、「楽しい」ということか――!)
エイジの思いに答えるように、世界の頭上に空間を折りたたまれて作り出された巨大な剣が顕現する
世界が顕現させたのは、空間を支配する運命権能によって作られた剣。空間を隔て、世界の境界を定める力によって作られたその刃は、触れるもの全てを空間的に断絶し、この世界から乖離させる力を持つ抹消の剣だ
「もっと……もっと感じさせてくれ! この瞬間を、この戦いを!」
実況と解説を行う者達さえもが言葉を発することもできず、固唾を呑んで見守る中、世界は金色の腕を振るって時空の大剣を愚者に向けて投擲する
世界の力によって生み出された時空を斬り裂く力を持つ剣が、天を穿ちながら一直線に愚者へと向かって奔る
防御することさえできない。空間ごと対象を現象的に斬り裂く力をもつ剣がその軌道上にある空さえも貫いて愚者へと肉薄する
「友也さん……!」
画面に映し出される愚者の情報が警告の赤を発している中、千歳は通信機を介して友也に向かって祈るように声をかける
その目の前で、世界が放った空間の剣が愚者を捉え、極彩色の光を振りまいて会場を光で満たす
「――ッ!」
次の瞬間、目を瞠ったのは、他の誰でもない世界の操者「エイジ・ルクシード」と彼に列なる者達だった
その目に映ったのは、世界の力によって生み出された時空の剣が砕け、そこから噴き出した極彩色の光が飛翔する光景。
それは、運命を切り拓く力によって、世界の生み出した限界の壁を打ち破った愚者――「括野友也」の光だった
「――!」
極彩色の光の流星と化し、一直線に自身に向かって来る愚者を見たエイジは嬉々とした愉悦の表情を浮かべ、無数の時空剣を生み出す
『エネルギーがもう残りわずかです!』
「分かりました! これで決めます」
千歳の通信を聞きながら時空の剣がまるで意志を持っているかのように群体をなして向かって来るのを見た友也は、臆することなくそこへと向かっていく
自身と一つになった愚者の機体に己の心を託した友也は、その身から噴き出す極彩色の光を紡いで渾身の拳を叩き付ける
「オオオオオオオオオオオオッ!!!」
人機一体となった心を燃やし、気合の声と共に放たれた愚者であり友也である拳は極彩色の光となって時空の剣の群れを正面からぶつかり合いながらも突き進んでいく
世界の力である世界そのものが壁として立ちはだかり、限界を超える愚者の力がそれを相殺しながら進む
「――っ!!」
砕け散った虹色の光が空を舞い、砕けた空間の欠片が天に踊る
そして、その中で世界を操るエイジだけが自身が放った空間の剣を打ち砕きながら、向かって来る愚者――友也の姿を視認していた
光が弾け、それが会場全体を包み込む。
相殺された極彩色の光によって全ての光景が視界から消え、その戦いを見守っている者達は、その結末を誰もが固唾を呑んで見守る
そんな中、徐々に光が薄まると同時に、この場にいる――そして、この戦いを見ている世界中全ての人の目に戦いの結末が映し出された
金色の鎧に包まれた世界の顔面には、愚者の拳がめり込んでおり、頭部に亀裂を入れて破壊をもたらしている
しかし、世界の顔面に拳を叩き付けている愚者の身体には、世界がその運命権能によって空間を支配し、凝縮させて生み出された無数の剣が突き刺さり、機体を貫通していた
そのまま永遠とも思える一瞬の静寂が流れ、愚者の身体がその場に力なく崩れ落ちる
『……ぁ』
実況を忘れ、固唾を呑んで戦いの行く末を見守っていた司会の女性は、愚者が地面に崩れ落ちた音で我に返ったのか、半ば呆けたように声を漏らしてその結末を確認する
戦場に佇んでいるのは、身体の至る所を剥ぎ取られ、顔面を砕かれた金色の機体――「世界」。そしてその前に崩れ落ちている愚者は、先程までその身に纏っていた極彩色の光を失って力なくその場に倒れていた
「……くそ……ッ」
どれほど意思を送っても反応を示さない愚者と繋がった友也は、目の前に見える仮想画面に映し出された「エネルギー切れ」の表示と「機体損壊・運用不可」の文字を見て天を仰ぐ
死力を尽くし、運命権能を発現させ、あと一歩まで世界――最強の運命を追い詰めておきながら、あと一歩で届かなかった壁の前でクレイドルシステムの天井を見つめる友也の耳に、司会の女性の声が届く
『愚者、戦闘不能につき! 勝者・エイジ・ルクシード!』
勝者の宣告と共に、静寂と沈黙に支配されていた会場からは割れんばかりの歓声が沸き上がる
会場全体を震わせるほどの老若男女入り混じった声は、勝者であるエイジと世界はもちろんの事、その最強を後っぽのところまで追い詰めた友也と愚者に対する惜しみない賞賛のものでもあった
「すげぇな。……これが、アイドルクレイドルの頂点か」
その歓声をクレイドルシステムの中で聞いていた友也は、戦いに敗れた悔しさ以上に、感動にも似た清々しい気持ちを抱いていた
「それでこそ、目指し甲斐があるってもんだ」
友也の夢は、IDOLAに選ばれ、アイドルクレイドルに参加することだった。そのため愚者の適性者になった時点でそれは実現してしまっている
そこから、千歳と共にアイドルクレイドルの頂点を目指すという夢を持った。今回の対戦相手である世界――「エイジ・ルクシード」は、友也達が目指す夢を実現するために必ず超えなければならない最大の壁だ
その壁の高さと硬さを知り、求める夢の高さと遠さをその身を以って実感した友也は、しかし絶望する以上の喜びを感じていた
「やっぱ俺、アイドルクレイドルが大好きだ」
会場を呑み込んで燃え上がる万雷の喝采を、クレイドルシステムの中で聞く友也は、愚者と繋がるためのヘッドギアを外して高揚感に満ちた笑みを浮かべる
「――……」
そうして友也がクレイドルシステムの中で一息ついている頃、その反対側では外へ出たエイジが会場へと視線を落とす
その双眸が映しているのは地面に倒れ伏している愚者とその前に佇んでいる「世界」――かつてないほどに破壊された金色の運命の姿だった
(あと一歩、踏み込まれていたら頭が吹き飛ばされていた)
顔面に拳を受け、砕けた世界の姿を見て目を細めたエイジは、自身の勝利が紙一重のものだったことを理解して口端を吊り上げる
あと一歩で自身が敗北していたかもしれないという事実を目の当たりにしたエイジは、それを悔しがるどころか、むしろ歓迎しているかのように口端を吊り上げていた
「すみません」
対戦が終了し、帰路へと付いた友也は千歳と彩音に挟まれながら肩を落として言う
接戦であろうが、一方的であろうが敗北は敗北。負ければほとんど収入に結びつかず、会社の運営、今後に差し障る――それがアイドルクレイドルの世界だ
「凄かったですよ。あの世界を、あそこまで追い詰めるなんて」
しかし、そうして肩を落とす友也に隣にいる千歳が優しく励ましの声をかける
「そうよ。今回の戦いであなた達への評価も一気に変わるでしょうね」
そんな千歳の言葉に、彩音もそれに同調して言う
アイドルクレイドルに参戦して以来、対戦無敗。さらにはその機体にほとんど傷を受けたことがない世界がこれほどまでに破壊されたことはこれまでにない
先日IDOLAではないDOLLに敗北したにも関わらず、最強のIDOLAをここまで追い詰めて見せた愚者は、これから多くの人の注目を集めることだろう
そう考えれば、確かに結果こそ敗北だったが、今回の友也と愚者、千歳の戦果はグラールハートにとって十分に実りのある成果だったといえる
「だから自信をもって。ね?」
「はあ」
彩音の励ましの言葉に顔を上げた友也が言うと、その隣りを歩いていた千歳は自分達の進行方向を見て目を丸くする
「あ」
「……!」
思わず零れたらしい千歳の声に友也と彩音がその視線を辿ると、そこには見覚えのある二人の男が佇んでいた
世界の操者である「エイジ・ルクシード」、そしてそのサポーターである「ボブ」。友也達が来るのを待っていたらしい二人は、その姿を見止めるとゆっくりと近寄ってくる
「お前、名前は?」
自分の前で立ち止まるなり、開口一番にそう訊ねてきたエイジに、友也は力強い声音で答える
「括野友也」
友也の名乗りを受けたエイジは、それを己が意識の内側へとしまいこもうとしているかのように視線を伏せてから口を開く
「そうか。もう忘れない――括野友也」
自分の中に友也の名を刻み付けたエイジは、「要件はそれだけだ」とばかりに身を翻して背を向ける
「次も俺が勝つ」
ふと思いついたように足を止め、肩越しに視線を向けたエイジは、一言それだけを述べるとボブと共に廊下の先へと歩いていく
「……へ?」
ただ名前を聞いただけで帰っていったエイジとボブの後ろ姿を見ていた友也に、千歳が興奮で昂揚した様子で言う
「何を呆けた顔をしているんですか? 彼にライバルと認められたんですよ!」
アイドルクレイドルの頂点にいるエイジに、誰よりも倒すべき相手として認識されたことに対し、千歳は弾むような気持ちを覚える
「エイジ・ルクシード」がいかに圧倒的な存在だったのか、以前エクエススペードに所属していた千歳は良く知っていた
最強のアルカナを従え、それを使いこなす天賦の才を併せ持つ。故にアイドルクレイドルの頂点として君臨し続けるが、そのあまりの強さ故に孤高であったエイジの姿を。
しかしエイジは、今回の戦いで友也と愚者によって初めてとあそこまで追い詰められた。だがそれは、エイジに敗北の恐怖と共にこれまでにない歓喜を与えていたのだ
「……!」
そして、千歳のその言葉によってその意図を理解した友也は、信じ難いその事実に目を丸くして視線を戻すと同時に口が無意識の内に言葉を発していた
「待って!」
思わず友也が上げた言葉に、エイジとボブはその足を止める
その場で視線を巡らせたボブはその声の主である友也へと半身を向けて応じるが、エイジは背を向けたまま振り返ることは無い
「――……」
反射的にエイジを呼び止めてしまっていた友也は、続く言葉を持ち合わせていなかった
言葉をくぐもらせ、視線を伏せた友也は、先程の千歳の言葉を思い返してエイジの物言わぬその背中に語りかける
「次は俺が勝ちます」
エイジが自分を認めてくれたのならば、自分が言う言葉はこれしかない――そう確信して拳を握りしめ、真剣な声で答えた友也の声にエイジは背後を振り返ることなく答えを返す
「そうはいかない」
決して友也の方を見ることなくそう答えたエイジだったが、その声が心なしか弾んでいるように感じられたのは決して気のせいではないだろう
そう述べて歩き出したエイジの後に続いて、一礼したボブがついて行くのを見ていた友也はその口端を吊り上げる
去りゆく背中を見送る友也は、それが自身の目指す場所であることを強く再確認し、いつかその頂へとたどり着くことを固く心の中で誓うのだった
※※※
『さあ、今日のアイドルクレイドルも佳境を迎えています! 次は皆様もお待ちかねのこの人の入場だー!』
会場を照らし出すライトの下、司会を務める女性の声が響く
その光に照らし出される会場に立つのは、白と黒のコントラストが映える機体――「愚者」。
「アルカナ№0『愚者』とその操者『括野友也』!」
割れんばかりの歓声が会場に響き、クレイドルシステムによってその感覚を愚者と繋げた友也は、会場を映す視界で対戦相手を見る
『すべての運命の中で、世界を追い詰めた唯一の操者。にも関わらず、今日までの成績は勝敗が半々。観客の皆様を興奮させてくれるトリックスター!』
『友也さん、準備はいいですか?』
司会の女性の声を聞きながら、心を落ちつけて戦意を高める友也の耳に、サポーターを務める千歳の声が届く
「はい」
かつて千歳と交わし、今日まで守り続けてきた約束を思い出した友也は、力強い響きを帯びた声で言うと共に、愚者となった自分自身に意識の全てを注ぎ込む
『それでは、始めましょう!』
司会の女性の声を聞く中で、友也と千歳はその胸の中に秘めてきた思いを確認しながら、「あの日」からの約束を胸に、対戦相手のDOLLと向かい合う
「行こう――」
『行きましょう――』
通信を介し、それぞれの思いが乗せられた声を交わした友也と千歳は、希望に満ちた瞳で決戦へと望む
『アイドルクレイドルゥ――……』
「アイドルクレイドルの頂点へ」
『FLAG・UP!!!』




