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御殿山の魔術師  作者: リノキ ユキガヒ
「まいったな…」
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コンバーター

どうやら私は道に迷う事なく日本橋には辿り着いたようだ。

神田を抜け、神田川を渡り、東京は日本橋に居た。

しかし、私が知る日本橋は高層ビルが立ち並び、夜でも人や車の往来は激しい。

今一度周りを見渡す。三越の周り以外はガランとした印象を受ける。

向かい側のビルも中々立派ではあるが私の知るビルと比べるとどうも雰囲気が違う。なんというか古めかしいが、豪華というか豪勢な作りだ。

しかし、先程から気にはなっていたのだが通りすがりの建物の殆どが壊れているのだ。

この向かいのビルも部分的ではあるが火事か何かで壊れている。

「なに?地震でも起きて東京が崩壊したの?でもそれだけじゃ説明が付か無い。第一、日本橋三越の向かいには新しいビルが出来たはずだし…」

私は向かいのビルを凝視した。

一見閉まってる様に見えたが何やらガヤガヤと人が集まった時のような音が漏れ聞こえて来た。

自分でもどういう訳事か解ら無いがその音がする方に吸い寄せられるように向かって行った。

この訳の解らない土地に迷い込んで初めて人の集まっている雰囲気を感じた。

普段はそういった所に近づかないようにしている私が、人恋しさの余りにそのような行動に出たのは自分でも意外なのだが、それ以上にここが何処か解らなければ対策の立てようがないので無性に人と出会いたかったのだ。

ビルのドアに手を掛ける。一見重たそうに見えた観音開きのガラス戸だったが簡単に開いた。

そしてそのままエントランスへと入って行った。

「随分、薄暗いな…」

と思いながらも足を声のする方へと向ける。この薄暗さ、節電とかそういった類のものでは無いような気がする。

今時と言っては何だが裸電球が館内に等間隔に着けられているだけで、辺りを伺う程度にしか照度を得られていない。

しかも、電球一つ一つの明るさが全然無い。

光っているというか、灯ってるという表現の方がしっくりくる位だ。

私の足音がビルの壁に反響して辺りに響き渡る。

「何だかホラー映画のワンシーンみたい…」

そんな事をふと思ってしまったが、その事を少し後悔した。

なぜなら私は今まで、人に会いたい一心でこのビルに乗り込んで来た。

そう、恐怖心など無かったのだが、それが今の一言で余計な事を思い起こさせた。

エントランスを抜け薄暗い廊下を歩いて行く。

少しばかりだが心臓がドキドキし始めた。何だかんだで少し怖いのは確かだ。足取りが少し重くなる。

ビルの入口からすると大分入った所に灯りの漏れているドアを発見した。

先程から聞こえてくるガヤガヤとした騒ぎ声の様な音は、どうやらこの部屋から聞こえて来てたようだ。

そっと聞き耳を立てる。

「何としても今日中にしあげるぞ」

「おい、○○そっちにないか?」

「ふぅー。こっちは終わったぞーそっちはどうだ?」

などの何やら忙しそうな町工場の様な感じだ。

そしてその叫び声の中には必ずと言っていい程あるワードが飛び交う。それは


「コンバーター」


と言う言葉だ。オーディオ好きな人ならこの言葉を聞いてピンとくる人はいるかもしれない。

直訳すれば「交換機」の事だがオーディオの世界ではデジタル信号をアナログ信号に変えたりするD/Aコンバーターなどの部品が有名だ。

あとは車好きならオートマッチクトランスミッションの部品、トルクコンバーターなどだろうか?

私は町工場的な雰囲気とコンバーターと言う言葉からこの部屋の中にはオーディオメーカーの関係者がいると思いそれが何処のメーカーか探ろうと更に聞き耳を立てた。


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