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御殿山の魔術師  作者: リノキ ユキガヒ
ですよねー
26/33

二人して

私は反射的に声のする方に体を向けた。

なにやら私のバイクに二人の中年男性が取り付いていた。

私は遠目からその様子を伺っていたが、その内一人の男性達がいきなり地べたに這いつくばる様にして私のバイクの事を見始めたので、驚いて慌て駆け寄った。

その事に気付いたもう一人の男性は開口一番

「これ、アンタのバイクか?」

そう言い放つと腕組みをして私をジロリといちべつした。

もう一人の男性は今だに地べただ。

「いやー、本田さんこりゃあトンでもないですよ。シールチェーンだ」

地べたから声が聞こえてくる。

本田さんと呼ばれた男性はチラと地べたの男性を見ると再び私に視線を戻した。

「アンタ、何もんだ?」

突拍子もない質問に答えあぐねていると次の質問が飛んできた。

「朝研のモンか?」

朝研とは本田の朝霞研究所の通称だ。

「違うよな」

「え?」

意外な言葉に私は思わず目が点になった。

「朝研の試作機がこんなに乗り込んでヤレてるわきゃねぇ。それにニウムでエンジンができてやがる今の技術じゃとうてい無理だ。なぁ宮田の!オメェいつまで地べたにいんだ!」

本田はそう言うと宮田と呼ばれた男は「よっこらしょ」と立ち上がった。

「全くですね。外装だけでもコリャ今の技術じゃ無理だ。こんな大きいうえ複雑な曲線の部品をつくるのは至難の技ですよ、職人技じゃありませんね。アッパーカウルなんてABSの一体成形だ」

二人のバイクの知識に私は思わず後ずさりしてしまった。するとその様子を悟った本田が

「よぉ、ネェちゃん。車検証持ってんだろ。見してみな」

と、ドスの聞いた声で聞いてきた。

血の気が引くとは正にこの事か?と言わんばかりに私の頭からサーっと体温が下がるような感じがした。

「なに、とって食おうってじゃ無いんだ。オレはただ単に技術屋としてコイツの正体が知りたいんだ」

「お嬢さん。大丈夫ですよ。この方、悪いのは口だけですから。それに私も模型屋としてこのような複雑な成形技術は気になります。力を貸してくれませんか?」

「ケッ。宮田のお前、いつも一言多いんだよ」

そうニコニコ笑いながら言う宮田を尻目に苦笑いしながら言い放つ本田。

二人の親子のようなやり取りをみて私も思わず気を許してしまった。

「そうですか…。それなら」

私は二人の言う事を信じてシート裏にある車検証を取り出す為、シートを外した。

その瞬間

「おー」

と、感嘆の声をあげる二人がいた。私は正直意外な感じがした。

「本田さんこりゃ」

「宮田の、お前さんもそう思ったか?」

私の後ろで大の大人がヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。

そして私は車検証を本田に渡した。

「ほーっ!未来の車検証はこうなってるのか⁉」

「え!」

私は驚きとも戸惑いとも言えない声をあげてしまった。

「いや、まさかとは思ったがこんな事があるんだな」

「いや全く」

二人は何だか車検証を見て納得いっているようだが私には皆目検討がつかない。

大体、今の時代の人から見たら私の持っている車検証はトンチンカンな事しか書いてないはずだ。

「あの~、一体なにが解ったんですか?」

と、私は二人に恐る恐る質問をぶつけてみた。

すると本田は

「ネェちゃん鈍いな!俺達は今未来の技術を見て感動してるんだよ!」

そう笑いながら言い放った。

「えぇ‼」

「あっはっはっは!驚きたいのは私達の方ですよ」

田宮も似たようなリアクションをとる。

「な、なんで私が未来から来たなんてそう簡単に解ったんですか⁈」

「そりゃー。オレら技術屋だからよ」

「そうですね」

「機械は嘘をつかねぇんだよ。ネェちゃん」

そう言うと二人とも私に名刺を差し出してきた。

私はそれを受け取り見た瞬間に頭の中が真っ白になってしまった。


本田技研工業・代表取締役 本田宗一


宮田模型・代表取締役 宮田俊

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