表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御殿山の魔術師  作者: リノキ ユキガヒ
「なんで」
25/33

なかなかできないんだな

 井深さんはしょっていたラジカセとヘッドホンを、応接セットのソファにいそいそと置くと試作機のウォーキングマンをしげしげと眺めた。

「おぉ~」

 思わず井深さんが感嘆の声をあげる。

 大きさ的にはカセットを一回り位大きくした位で、厚みはカセット二本分位だろうか?

 この位のサイズであるなら、ラジカセを担いで動き回るのとは雲泥の違いがでてくるだろう。恐らく劇的に楽になるはずだ。

 やはり小型化はモバイバリティ向上の近道だ。

「音も中々のもんですよ。試聴用テープが若者向けですが」

「構わない、構わない、僕は音楽ならなんでも聞くよ。ストーンズだってビートルズだって大好きさ。むしろ若い人向けの音作りでいいんだよ」

 そう言いながらヘッドホンを耳に当てた。

 時折シンバルの「シャーン」という音がかすかにヘッドホンから漏れ聞こえてくる。

 井深さんはあっという間に音楽の虜になってしまった。

 いや、ウォーキングマンの虜になっていたと、言ったほうがいいかもしれない。

「まるで井深さんに出会う為にこの機械は生まれて来たみたいですね」

 私はそう井深さんを見ながら呟いた。

「ハハ。君なかなか面白い事を言うね。まるでこの機械が彼の子供か孫みたいな言い方だ」

「え?」

 思わず私は聞き返した。

「意外な感じがするかい?僕らだって機械に愛情を注いでないつもりは無いさ。でもその前にビジネスマンでもあるから採算や将来性のない商品は切り捨てざるをおえないんだよ」

「そうですか…」

 私は案外ドライな考え方を持っていた盛田さんの言葉に少なからずショックを受けてしまった。

 しかしそれは「経営者・盛田」としての考えでその後の発言で彼の機械好きの本性が露わになった。

「でも、なかなかできないんだな。これが」

「ぷっ」

 はにかみながらそんな事を言う盛田さんの表情を見ると私は思わず吹き出してしまった。

「わははは!しかめっ面で仕事をしていても面白くないだろ!僕らは誰よりも仕事を楽しんでいる自信があるのさ!」

「まぁ、たまに失敗もするけどね」

 私の後ろにはいつの間にか井深さんが立っていた。

 二人の瞳の輝きは設立間もない頃と変わりなくキラキラとしていた。

 そして新商品である、ヘッドホンステレオについてアレコレと話し始めた。

 そんな二人を眺めていると、今や世界のサニーとなり業界を牽引するまでのメーカーへと成長したにも関わらず、二人の機械へ対する情熱は衰えるどころか更に燃えあがってる気さえした。


 サニーの本社でウォーキングマンの試作機を見た私は青山の方にバイクを走らせていた。

 すると外苑西通りと青山通りの交差点にある一つのビルが目についた。

 ビルの最上階には「HONDA」と書かれており私は思わずそのビルの脇にバイクを停めた。

「本田の本社ビルってこの頃からあったんだ」

 そう呟きながらバイクを降りるとそのビルに近づいて行った。

「成る程、一階はショウルームになってるのね」

 私はマジマジともう閉まっているショウルームをガラス越しに見渡した。

 サニーのショウルームとは違いバイクや車なので幾分、大味に感じるがそれでも私の目を楽しませるには充分な魅力を放っていた。

 ショウルームに展示してあるものを一通りみた頃に、私の背後から大声が聞こえてきた。


「おおっ!すげーバイク停まってんな!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ