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御殿山の魔術師  作者: リノキ ユキガヒ
「なんで」
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なんでかな?

二度目のタイムスリップの次の日は休みだったので、私は自宅アパートの前でバイクを磨いていた。

また、下手に出掛けてタイムスリップさせられてはたまったものじゃ無い。今日は大人しくしておこう。それでバイクを磨く事にした。

缶スプレーのクリーナーをバイクのカウルに吹き付けるとそれをウエスで拭き取っていく。水は使わない。

つくづく世の中便利になったもんだと感心する。

なんせ、これ一本で洗浄からコーティングまで済んでしまうから。

ピカピカに磨きあげられたバイクを見ると私は、センタースタンドを上げて後輪をカラカラと手で回してみた。

「ん~。ついでだからチェーンも洗っておくか」

そう、一人で呟くとチェーンクリーナーを部屋から取ってきて、チェーンに振りかけた。

そして、おもむろにリアタイアの真後ろに腰を降ろすと、それをウエスでチェーンを包み込むように握りながら拭き取っていく。

チェーンに塗られた高粘土のグリスが埃やらで黒く変色して汚れになっている。ウエスはそれでベットリになっていった。

汚れの落ちたチェーンは金属の持つ鈍い光を放ち始める。

鏡みたいに、とまではいか無いがそれなりに綺麗になる。

そしてその綺麗に磨き上げられたチェーンをグリスアップしていく。

先程、リアタイアを空転させた時はカラカラとした音が鳴ったが今はしない。

静かに滑らかにチェーンはスプロケットを流れていく。

私はそれを満足気に見ると立ち上がった。

そしてバイクを軽く押しセンタースタンドをしまった。続いて数歩下がって自分のバイクをまじまじと見てみた。


「んふ♩」


思わず口元が緩んでしまう。どうもこう、綺麗に磨き上げられた己のバイクを見るとニヤけてしまってしょうがない。

この大いなる自己満足はどこからくるのだろうか?部屋を掃除してもこうはならない。

これが所有感というものなのだろうか?

「ん~、やっぱり綺麗になると乗りたくなるわね~。でもまた、昔に飛ばされても困るし…」

私は一人で思案にくれていたが磨き上げられたバイクの輝きはそれが霞む位に魅惑的に映った。まるでバイクが私に


「乗ってみなよ」


と、囁いているようにもみえる。

気が付くと私はバイクに跨り交差点で信号待ちをしていた。

ハンドルから伝わってくるアイドリングの振動が心地良い。

「近所をグルっと回る位なら大丈夫よね」

と、自分に言い聞かせながらバイクを転がす。そしてうちから少し離れた所にある、駐車場付きのワクドナルドにたどり着いた。

自分のバイクが見える所の席に落ち着くとコーヒーを啜って、しばらく外をボンヤリと眺めた。

「しかし、ここ最近変な事が起こり過ぎダワ」

そう、ボソリと呟くとまたコーヒーを啜った。

「大体なんで、私が過去に飛ばされなきゃなんないの?」

カウンターの上に肘を載せると頬杖をついた。

昼下がりの心地いい日の光が私の意識をボンヤリとさせる。

「こんな、嫁に行きそびれた女に過去を見せてどーしろっていうのよ。私に起業するような甲斐性なんて持ち合わせてないわよ…ったく。」

吐き捨てるようにそう呟くと、再び自分のバイクに視線を合わせた。

「アンタはダンマリか…。そりゃそうね。機械だもん」

そう言うとライディングジャケットの内ポケットからスマホとイヤホンを取り出して音楽を聞いた。

流れてくる音楽と共にここ最近の不思議な出来事が走馬灯の様に蘇る。


戦後の設立まもないサニー

ドラマーのジョニー川口さん

マッハで爆走するプレスライダー

デジタル技術の曙

ファーストフードの産声

盛田さんとの再開


どれも印象深い事ばかりだ。忘れようたってそうはいか無い。

しかし、それがなんで私の身に降りかかってくるのかがテンで検討が付かない。


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