ぷはぁッ!
ワック1号店の店長が安堵の表情を浮かべるのをよそに、私は盛田さんが昔の事を思い出さないか不安で一杯だった。
「ところで盛田はん。こないな夜中に銀座ゆうことは…」
ワックの社長がニヤついた表情を見せながら盛田さんに話しかける。
「いやハハハ、申し訳ない。色気のある話しならいいんですけど、残念ながら」
「そうでっか。ちゅう事はやはりお仕事で?」
「そうなんです。銀座にショウルームができたのでそれを見に」
と、言いながら三越銀座の向かいにあるビルを指差した。
「ほーっ。サニーさんもゴッツイもん建てましたなー」
ワックの社長が感嘆の声をあげる。その声に釣られて私も思わず社長の視線の先を見る。
「あぁ。サニープラザか…」
そして思わず呟いてしまった。
「おや、もう行かれたのですか?」
盛田さんは嬉しそうに私の方を見ながら話しかけてきた。
「いえ、行ってはいないんですけど、有名ですよね」
「有名?つい最近建てたばかりなのに?」
「え?」
盛田さんがいぶかしげな表情を私に向ける。
私はそのプレッシャーに耐えきれなくなり思わず後ずさりをしてしまった。
「ガッハッハッ!サニーはんが建てんや!誰も知らん方が変でっせ」
ワックの社長が私達の間にある気まずい空気を吹き飛ばすかの如く笑い飛ばす。
「そ、そうですよサニーのショウルームが銀座に出来たのに注目され無い方が変ですよ」
「まぁ確かに、宣伝はしてますが…」
盛田さんの表情が先ほどとは違い少し柔らかくなる。
私は今がチャンスとばかりに
「あの、お仕事の邪魔になるといけないんで私、失礼します」
そう言い放つと一礼して歩道脇に止めてあるバイクの所まで小走りで向かって行った。
そして、メットとグローブを付けるとエンジンを始動させた。
華やいだ銀座に甲高いバイクの排気音が辺りに響く。
「オネーさんまた来てやー!!ガッハッハッ!」
ワックの社長が叫びながら手を振っている。
私はそれに片手を挙げて答えると
バイクを発進させた。
もの数十秒で勝どき橋が見えてきた。とりあえず私は銀座から一刻も早く離れたかったので、そのまま直進して行った。
勝どき橋を渡った中腹位だろうか?対向車のライトが異様に眩しかったので思わず一瞬目を瞑ってしまった。
そして、目を開けた次の瞬間に信じられない光景が広がっていた。
いきなり板橋区と埼玉県戸田市の間に掛かってある笹目橋の上にいた。しかも夜では無く真昼間。
中央に首都高を配した巨大な橋には乗用車やトラックがひしめいていた。
あっ!と、声もあげる暇も無い。自分でも信じられない位に車列の隙間を器用にすり抜けていく。
そして、減速していきながら車の流れに合わせられる速度までくると西高島平駅前辺りになっていた。
心臓の鼓動がとんでもない位に早い。
これ以上のライディングに危険を感じたので路肩にバイクを寄せて、気持ちが落ち着くのを待った。
フルフェイスのヘルメットを毟り取るように脱ぐ。
「ぷはぁッ!」
と、一息吐くと私はすぐさまスマホを取り出し、時間を確認した。
20××年 ○月□日
日付けの方は私が永代通りをバイクで走っていた日になっていた。
時間はそれからチョットたったくらいだった。
「どうやら現代に戻ってきたようね」
私は絞り出すように呟いた。
「はぁ~。なんだか会社に戻る気が起きないなぁ~」
路肩に非常停止してるだけなので脇を猛烈な勢いでトラックや乗用車が流れていく。
しかし、このままココに留まってもラチがあかない。そう思うと再びメットを被りバイクを発進させた。




