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御殿山の魔術師  作者: リノキ ユキガヒ
「ガッハッハッ」
19/33

ちょっと待った。

「社長ーーッ!厨房が使えるようになりましたーーッ‼」

工事現場の中からワクドナルドの社員と思われる男性が大声で叫んだ。

すると私の隣にいた例の「昭和の社長」が「おっしゃ!」と一声上げた。

私はよもや日本ワクドナルドの社長が自分の隣にいるとは思わなかったので思わず

「えっ!ワックの社長だったんですか⁉」

と素っ頓狂な声をあげてしまった。

「ガッハッハッハッ!堪忍。隠すつもりは無かったんやけどな」

「昭和の社長」っぽい人はまさしく社長だったのだ。

「そや!オネーさん。これも何かの縁や、ご馳走するで!本場のワクドと比べてや!」

唖然とする私をよそに社長はノシノシと工事中の店舗に近づいて行った。

私もその後を恐る恐るついて行く。

カウンターから覗き見るかぎりでは、店内の工事はほぼ終わっており、これから始まるのは新人教育のようだった。

「そっかぁ、新人さん達の教育もこの間にしないといけないんだ」

「そうやで、全く難儀なコッチャで」

社長は苦笑いをしながら私に言った。建物だけでも大変なのにその上新人教育までその間にしないといけないとは…。

日本のファーストフードの曙がこんなに切羽詰まった状態から始まった事に私は驚きを隠せなかった。

店舗の奥の方では十数名位の男女が真新しい制服に身を包み、緊張した様子で店長と思われる男性から説明を受けていた。その説明が終わるとスタッフの面々は厨房へと殺到した。それを社長は見ると

「ヨッシャ!みんな練習の成果見してや!」

と、喝を入れた。

それぞれ役割分担が決まっている所、パッと見は今のワックと変わりの無いような気がする。

暫くすると鉄板の上でミートパティが次々と焼き上がり辺りに香ばしい香りが漂い始めた。

スタッフは初めての厨房とは思えない位に鮮やかな手付きで調理をこなしていく。

それを工事関係者が作業をしながら固唾を飲んで見守っているのが印象的だった。

彼等にしても初めての事で施工が上手くいってるか心配なのだろう。

気になってしょうがなさそうだ。

そんな様子を伺っていたら私のハラの虫が豪快に騒ぎ始めた。

それを聞いた社長の目が点になる。

私は自分の腹の音を聞かれたと思うと、年甲斐もなく顔を真っ赤にしてしまった。

今更だがコッチの世界に来てから飲まず食わずなのを思い出した。

「ガッハッハッハッ!オネーさん早うコッチ来ぃや!日本のワクド試してや!」

社長が例の如く豪快に笑い飛ばした。

私はその言葉の成すままにカウンターに近づいて行った。

すると、社長が既にオーダーを入れていた様子で、レジカウンターの女性が笑顔で差し出したトレイを店長と思われる男性が受け取り、私の前に差し出しながら

「社長より、お話は伺っております。ここは一つ、厳しい意見をお聞かせください」

そう言った。店長の後ろに社長はいつのまにかおり、私に向けて目でトレイに載っているハンバーガーを取る様に促す。

私は空腹に耐えかねてハンバーガーの載ったトレイに手を伸ばすが、


ちょっと待った。


下手をすると私の感想一つでこの人達。ひいては日本ワクドナルド…。いや、日本のファーストフードの未来が左右されかねない。

そう思うと、おいそれとご馳走になる訳にはいけないように思えて来た。


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