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御殿山の魔術師  作者: リノキ ユキガヒ
「また…」
17/33

もちろんだ!!

私が何となく近寄って行ったビルはあのオーディオメーカーのサニーの本社ビルで、唯のサラリーマンと思って接した人物はサニーの取締役であるところの「大賀郁男」さんだった。

私は彼の背中を見ながら「メイドインジャパン」の内容を必死に思い出した。彼の記述もあった筈だ。

確か、テープレコーダーの普及に一役かった人物でのちに開発するCDプレイヤーのフォーマットを74分にしたのもこの人だと書いてあった様な気がする。

それと、サニーの商品に共通するセンス溢れるデザインはこの人の影響するところが大きいとも書いてあった。

有名なエピソードが後々でてくるサニーの家庭用ゲーム機「ステーションプレイヤー」の斬新なコントローラーだ。

今ではほぼ当たり前のデザインだが、当時は常識破れもいいところだったのを「このデザインでなければ成功はない」とまで言い切ってデザインコンセプトを推し進めたらしい。

先程の私のバイクをみる仕草からその片鱗は伺える。

まぁ、良い声なのは元オペラ歌手として活躍してたからか?

大賀さんはもう閉まっている本社ビル内にあるショールームを部下と思われる方に開けさせると私を招き入れた。

綺麗に陳列されたいろんな商品がズラリと並べられている。

正直、我々現代人から見ると大きくて扱いにくそうに見える当時のオーディオ機器だが、オーディオ好きの私から見ると正に「マニア垂涎」のお宝の山なのだ。

それらを私は宝石でも見る様に一つ一つ舐めるように見ていく。

しかも今回はある程度開発にも携わったであろう人の解説付きだ。

こんな贅沢な事があるだろうか?

私の少々間の抜けた質問にも大賀さんは嫌な顔一つせず丁寧に答えてくれた。

そのやり取りの最中で思い出したのだが大賀さんも元々オーディオ好きで、その知識が専門家も舌を巻く程でありサニーにスカウトされた経歴を持つ。しかもサニーに入社したにも関わらず、オペラ歌手の活動も続けていたと言う。

私もオーディオ好きがこうじて楽器を扱うようになった。

立場はどうであれ共通点の様な物を持っている人間同士の会話が盛り上がらない訳がない。

「そう、演奏が最高なのに録音がガッカリって事はよくある話だ。しかし我々の製品ならそんな心配

はない」

「あー、有りますね。妙に音が小さかったり、今度は逆に大き過ぎて割れたり」

私と大賀さんは知らない間に音楽が好きなもの同士の会話になっていた。

「だけどそんな苦労も笑い話に成る日がくるだろう」

大賀さんは真っ直ぐな目で自社の製品を眺めながら言った。

「ひょっとして何か革新的な技術でも開発してるんですか?」

私はあえて知らないふりをしながら大賀さんに聞き返した。

「放送技術研究所がデジタル技術による録音の研究を始めた。これから録音は元より、映像もデジタル技術で撮られる時代が来るだろう」

「デジタル…」

私は思わず息を呑んでしまった。よもやこの時代にデジタル技術の研究が始まっているとは思いもよらなかった。

まるで、前回のタイムスリップの時に盛田さんと井深さんの前でコンピュータの話をした時とは立場が逆になったような感じだ。

「君、デジタルという言葉を聞いてからなんだか様子がおかしいような気がするが…」

大賀さんにそう言われてハッとした。

私の世代で最早デジタルは当たり前になっており珍しくも何とも無いのだがその誕生前夜の時代にいる事になんだか妙に感慨深げになってしまってズッとうつむいたままだった。

「大丈夫か?」

余りにも黙りこくってしまった私を少し心配したのか?

大賀さんは私の顔を覗き込んで話し掛けて来た。

「もちろん、サニーでもデジタル技術の研究はするんですよね!」

私はその心配を吹き飛ばす様な気概で思わず叫んでしまった。

大賀さんは一瞬面喰らった様な表情をしたが

「もちろんだ!やるからには世界一だ!」

そう力強く言い放った。




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