美しい…
私はその白いビルに近づいて行き、マジマジとその様子を伺った。
「綺麗ね。最近立ったのかしら?」
そう呟いた次の瞬間、正面口と思われる所からゾロゾロと従業員と思われる人達が出てきた。
私は本能的に見られてはいけないと思い、ビルの影からその様子を伺った。
サラリーマン風の人達がゾロゾロと出てくる。丁度仕事終わりなのだろうか?皆一応に明るい顔をしている。
そして気になるのがその中に白衣姿の男性も混じっているところだ。
白衣を着ている事から何かを研究している人何だろう。その人達は一様に少し難しそうな顔をしている。
暫く様子を伺っているとその人の流れが途切れた。
私はその隙をついて思い切って正面口の方に回って見た。
夕暮れ時でそのビルはほんのり紅く染まっていた。そして入り口の両脇にはショーウインドがありそこには商品と思われる物が陳列されていた。
時代が時代だけに私から見ると年代物が並んでいる。
「成る程ね~。当時のサニーはこんな感じだったんだ。オープンリールのテープが主流って事はまだまだ私の時代には遠いわね」
「君、我々サニーの商品を随分軽く言ってくれるね」
「え⁈」
私は突然話し掛けられてビックリするとその声のする方を振り向いた。
そこには眼鏡をかけた男性が仁王立ちしていた。
「えっと…。サニーの方ですか?」
私はこの時自分の目の前にいる人物がサニーの取締役とは知らず、セールスマンか何かかと思い軽口を叩いてしまった。
二人の間に暫し沈黙げ流れたがそれを破る様に、このビルの守衛さんが叫びながらスッ飛んで来た。
「あー!キミキミ!あの派手な単車どかしてくれないか!そうじゃないと大賀さんのお乗りになる車が停められないんだよ!」
「すみませーん、すぐ動かしまーす」
私は反射的にそう答えるとバイクの方に駆けて行った。
さっき停めた時には気づかなかったが、どうやら裏口を塞ぐ様に停めてあったらしい。
そしてバイクを動かしたが
「これは君のバイクか?」
と声がしたのでその方を振り向いたら、先程私に突っかかって来たあの男性だった。
「え?そうですけど、ひょっとして大賀さんって…」
大賀という男性は軽くうなずくと私のバイクをしげしげと見つめた。
そして一言。
「美しい…」
と、ため息混じりに呟いた。
私は予想しなかったその言葉に思わず「えっ?」っと聞き直した。
「君、持ち主なのにこのバイクの美しさが理解できないのか?勿体無い。」
そう言うと大賀さんはまるでルーブル美術館に展示されている彫刻でも見る様にバイクを見始めた。
「なんと、惚れ惚れするようなラインなんだ。複雑な曲線から織り出される女性的でふくよかな線が柔らかくも攻撃的な雰囲気を醸し出している、この形は…。そうか!戦闘機に似ている!究極の機能美。技術の粋を集められて作られた工業製品はどうしてもこう美しいのか…」
私の隣で大賀さんが何か言っている。
「ハァー、そうッスか」
自分のバイクが誉められて嬉しい訳が無いわけではないが、私はその暑苦しい演説に少々ウンザリした表情を思わず浮かべてしまった。
どうでもイイけど大賀さんって人いい声してるわ。
なので尚更その演説が暑苦しく聞こえる。
なんてーか、あまり見たことないけどミュージカルみたいな感じ。
「そうだ君!折角だから我が社の製品をもっと見て行きなさい!」
と言うと大賀さんは私の手を掴んでビルの入り口に向かって行った。
一瞬「なんで?」と思ったが建物の中に入れるので内心「ラッキー」と少し嬉しかった。




