やばいぃぃぃぃ!!
フロントフォークから伸びた旗竿からは旗がはためいており、私は一瞬「暴走族」の類かと思ったが、よく見るとそれは「○○新聞」書かれた社旗だった。
それにタンクの上にはタンクバックが括り付けられており、そこから視界に入るライダーの腕には「報道」と書かれた腕章があった。どうやら普通のライダーでは無いような感じだが、話では聞いた事のある「プレスライダー」というものなんだろう。
しかし、使ってるバイクがカワサキの「マッハ」とは古すぎる。
私は一瞬目を疑った。
「ひゃっほー!!イカしたバイク乗ったオネーさーん!勝負しようよ!」
乗ったままいきなり話しかけられてビックリしたが、それ以上に驚いたのは仕事で乗ってるにも関わらず半帽のメットとは…。
しかし私の歳から「オネーさん」と言われた事からかちょっと気分が良くなりそのライダーにニッコリ微笑んでしまった。
だが、そんなホノボノとしたシーンを打ち破るようにサイレンの音が後ろから迫って来た。
「コラー!そこの二台のバイク止まらんかー!!」
「二台のバイクって?」
私は疑問に思い辺りを見渡したがバイクは私と彼だけだった。
マッハの彼は何やら叫んではいたようだがそれは聞き取れ無かった。大方、唇の動きからして「ヤバイ」と言っていたような感じだ。追いかけられてたのか?
するとマッハのエンジン音が一瞬途切れたと思ったらいきなりフロントを持ち上げ猛烈な加速を始めた。
私は唖然とそれをみていたが
「貴様ーっ!逃げるかー!」
と、いう拡声器から聞こえる怒号で我に返りバックミラーを覗いた。
そこには白バイが写っていたが何か違う。
丸目一灯。ネイキッドバイクが赤色灯とサイレンを鳴らしながら猛然とした勢いで追ってくる。
「え?白バイってCB1100ボルドールかVFRじゃないの⁉」
と一瞬思ったが
「貴様ー!そのナンバーは何だー!何が練馬Cだ!」
と、私にも怒号を浴びせてきた。
「ちゃんとしたナンバーなのになんで怒鳴られなきゃならないの⁉」
つーか、納税者に対して貴様ってなによ。
私はいいがかりとも捉えかねないその怒号に憤りを感じたが、ある事が脳裏によぎる
「まさか…」
バックミラーに映る白バイがグングンと近くなる。
マッハのプレスライダー
丸目一灯・現代では見る事のできないネイキッドバイクの白バイ。
私は直感的にタイムスリップした事に気が付いた。
時代は解らないが21世紀では無いのは明らかだ。
しかし、前回とは状況があまりにも違い過ぎる。
今度は国家権力に追いかけられている。
突然私の頭が高速で情報の処理を始めた。
この時代に交付されて無い英字ナンバー→違法ナンバーの疑い→捕まる→バイク調べられる→登録記録なし→違法車両の疑い→車検証も支離滅裂→公文書偽造疑い→身元調べられる→免許証小さい→免許証偽造疑い→身元不明→住所不定→得体の知れない人物→所持品調べられる→この時代には無いもの(スマホ・免許証サイズの保険証)など出てくる→益々怪しい→拘留
『拘留』
「ヤバイぃぃぃぃぃ‼」
捕まってしまうと飛んでも無い事になってしまう!!下手をすると現代に戻るチャンスすら奪われてしまう!
気が付くと白バイが手を伸ばせば触れられそうな所にまで来ていた。
どうやら車種はCB750。俗に言う「ナナハン」だ。
これで私がまた過去に飛ばされた事が確定した。いや確信した。
私のいる時代にCB750の白バイなんて存在しない!
折角歴史的名車にお目にかかれたのに今の私は白バイの警官からすると只の怪しいヤツだ。
しかし私はここで捕まる訳にはどうしてもいかない!
そう思うと本能的にギアを二段落としていた。足元から「ガチャガチャ」とギヤの切り替わる音と踏み応えを感じた後にアクセルを捻りあげる!
すると私の愛機は鞭を入れた馬の嗎のように「パフォーン!」というエアクリーナーボックスを共鳴させながらあげる吸気音と排気音が混じりあった音をあげた。
600cc・DOHC・110馬力のパワーを180の極太タイヤ
とフルアジャスタブルのサスペンションが受け止める。
マッハのように暴れる事無くスッ飛ぶように加速する私のCBR600F。いくら白バイ警官が神業的な技量を持っていようともマシンの絶対的な性能には敵わない。ナナハンの白バイはアッという間に後ろの方に流れて行った、そして変わりにマッハのテールが見えて来た。
昭和通りの渋滞はそれほど酷くは無く思わず私は
「ラッキー!」
と心の中で小躍りをした。
これなら私の実力でなくてマシンパワーで白バイをブッ千切れるかも。




