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騎士物語  作者: RANPO
第九章 ~選挙戦~
69/113

第六十七話 副会長の手合わせ

選挙に向けてそれぞれが動く中、ロイドたちと副会長の手合わせが始まります。

 魔人族と呼ばれる種族が暮らす国、スピエルドルフに一人の少女がいた。少女は王家である吸血鬼の家に生まれ、フランケンシュタインの少年とマンティコアの少女を友人に、立派な女王になるために勉強の日々を過ごしていたのだが、そんな少女の前にある日一人の少年が現れた。

 十二騎士と呼ばれる、人間の中でもトップクラスの実力者の一人である男が連れてきたその少年は、人間から見ればかなり異質だろう魔人族を変な目で見ることもなく、フランケンシュタインの少年やマンティコアの少女とすぐに仲良くなった。

 もちろん吸血鬼の少女とも仲良くなったのだが、少女の中には友情とは違う感情が生まれていた。

 即ち、恋である。

 吸血鬼が人間に――という事になるが、魔人族は同じ種族でなければ結ばれないというわけではない。互いに想いがあれば問題はなく、生物的な事を言えば異種間であっても子供を作る事は可能で、実際スピエルドルフ内ではそういう組み合わせの夫婦が少なくない。

 身体の構造的に子作りが不可能というケースもないわけではないが、少なくとも吸血鬼と人間の組み合わせであれば身体的にはほとんど一緒であるため問題はない。

 王家の者が人間と――という点については、始めの頃は否定的な意見が多かったものの、後に起こったとある事件を経て少年はスピエルドルフから大きな信頼を得る事となり、逆に少女の相手に相応しいという声が上がるようになった。

 人間の滞在期間としては過去最長となる一年近くをスピエルドルフで過ごした少年と少女の間には強い絆が生まれ、どちらかが言い出したのか周囲が勧めたのか、ある日二人は同じベッドで寝る事となった。

 二人の年齢は十二歳ほどで、男女が互いのあれこれに興味を抱き始める年頃ではあるが、そういう知識も経験もほとんどない少年にとっては、繋がりの強い女の子と嬉し恥ずかしなイベントという程度の認識だった。

 しかし、少女のそれは少年と大きく異なっていた。


 吸血鬼には先祖の力を血を媒介にして代々受け継ぐという特性がある。その家系が続けば続くほどに力は増す為、スピエルドルフの建国から王家として続く血を受け継ぐ少女は歴代の王たちの能力や技術の全てを生まれた時からその身に宿している。

 力というと戦闘能力ばかりに目が行ってしまうが、少女が生まれ持った力には吸血鬼の淫魔としての力も多分に含まれていた。

 なぜ吸血鬼にそのような力があるのかというと、それは吸血という行為の難しさに由来している。

 まず求められるのは生き血である事。他の吸血動物とは異なり、吸血鬼は血液に宿る生物の生命力も同時に摂取する為、相手が死んでいる状態での吸血は充分とは言えず、かつ非常に不味く感じてしまう。吸血の結果として相手が死ぬのはともかく、吸う前に殺してしまう事、多量の生命力が放出されてしまうような損傷を与える事は好ましくなく、毒などを巡らせるのも血の味を悪くしてしまう。

 つまり吸血鬼からすると、相手が何も考えずに血液が最も勢いよく流れていて非常に飲みやすい首を差し出してくれるような状態がベストなわけだが、吸われる側が無抵抗なわけはない。

 そこで吸血鬼が身につけたのが淫魔の能力。唇に催淫の力を宿し、相手にその唇に触れたい、触れられたいと思わせ、寄って来たところで首に噛みつく。唇や牙から走るのは性的快楽であり、相手は更に身を委ね、かつ鼓動が早まる事で更に飲みやすくなる。

 この催淫の力はあらゆる生物に作用するのだが、吸血鬼のもう一つの特性――恋や愛といった感情を引き金に自身の能力を向上させるという能力に起因して、感情豊かな人間の血液こそが吸血鬼にとっては最も美味なモノであり、故に吸血鬼は吸血相手として人間を選ぶことが多かった。

 そして、人間が吸血鬼とそれほど変わらない身体を持つ故に、唇や牙から流れる性的快楽に加えて相手の身体への愛撫を行う事で、吸血鬼は血を吸う効率を更に高めていった。

 結果、吸血鬼はサキュバスやインキュバスのような専門家に匹敵する技術を身につけ、それは代々磨かれていったのだ。


 つまり、少年が年相応の感覚であるのに対し、少女の方は「ませている」というレベルではない知識や技術がその身に宿っている影響で、少年との一夜はまさしく愛し合う一夜という認識になってしまっていたのである。

 目の前で無防備に首をさらす少年への吸血衝動は勿論、頭の中にある無数の知識が自分と少年の間になされたのならどうなるのか――今すぐにでも実行したい少女だったが、少年にそういう知識はなく、今無理に行動すれば最悪嫌われる可能性すらある。故に少女は膨らみ続ける妄想に悶々とし続けた。

 いずれ来るであろう真なる初夜へ預けるのだと言い聞かせる少女だったが、そこでふと妙な考えが頭をよぎってしまった。

 今夜を含め、おそらく少女はその時まで先祖代々の知識と技術をもとに少年となすあれこれの妄想を蓄積していく。しかしいざその時を迎えた時、果たしてそれらの妄想は現実になってくれるのだろうか。少年の少年なりの手さばきはあるだろうが、それらが長年にわたって磨かれた吸血鬼の技術に及ぶ事はあるのだろうか。

 もしかして自分は、その大切な夜に「がっかり」してしまうのではないだろうか。

 自分の妄想が解放されない可能性、何より自分が落胆してしまうのではないかという恐怖。それらに襲われた少女は――結果、隣で寝転ぶ少年にある事を施したのだった。



「そしてワタクシはロイド様のお身体……いえ、正確には身体を巡る血液にワタクシが受け継いだ技の全てを刻み込んだのです。」

 いきなり登場して、これ以上ロイドの周りに変な女が増えないようにとか言ってロイドの体質とかいうのをしゃべり出したカーミラだったんだけど……こ、これって……

「これによってロイド様は俗に言う「身体が覚えている」状態となり、ロイド様ご自身にそういう知識や経験がなくともロイド様の愛を表現する為に身体がそれに合った技を行使するという形が出来上がったのです。」

「つ、つまりなんだ……ロイドくんのテクニシャンっぷりは吸血鬼直伝の技だったという事か……」

「そうなりますね。」

「じ、自分がロイドにし、して欲しいからわわわ、技を教えるとか――この変態女王!」

「まぁヒドイ。確かに当時のワタクシはそうでしたでしょうが、今はロイド様がロイド様の愛をお示しになるお手伝いができたのだと考えていますよ。それに皆さんもご堪能されているのでしょう? あぁ、羨ましい。」

「――!!」

 頭によぎるロイドの――みゃああああ! 何思い出してんのあたし!

「でもそれってロイくん本来の技は体験できなくなっちゃったって事だよね……ちょっと残念だなー。」

「完全に失われたわけではありませんよ。ロイド様がご自身で制御して技をオフにする事も可能なはずですから。」

「そんな……スイッチ、みたいに、で、できちゃうモノ……なの……?」

「吸血鬼の技というのは手の動かし方などの技術だけで出来上がっているわけではありません。ロイド様が多少なりとも吸血鬼性を持っているからこそ行使できている特殊なモノですから、魔法と同じ感覚で制御は可能です。まぁ、逆にフルパワーで使うという事も可能になってしまいますが。」

「フ、フルパワーだと……それは一体どういうレベルのモノなのだ……?」

「そうですねぇ……通りかかっただけの赤の他人を篭絡するくらいはできるかと。」

「ななな何よそれ! なんてモノ教えてんのよ!」

「当時のワタクシの悶々とした感情を察していただければと思うばかりですね。それにロイド様は赤の他人を襲うような方ではありませんし、今回ワタクシがこの事を話した理由はこの辺りに関する影響なのです。」

「む……ロイドくんの体質がどうとかいう話だったか。」

「はい。つまりは、ワタクシが吸血鬼の技をロイド様のお身体に刻み込んだ結果生じた……副作用のようなモノです。」

「副作用って……れ、恋愛、マスターの運命の力、みたいだね……」

「あれほど強力なモノではありませんよ。ざっくり言えばロイド様が鼻血をふいてしまう原因です。」

「はぁ? あれはロイドが……そういうバカだからってだけじゃないの……?」

「いえいえ。あれはバランスが狂った結果起きている現象なのですよ。」

「バランス? 一体なんのバランスだ?」

「例を出して説明しますと……突然ロイド様の目の前に魅惑的な女性が全裸で現れたとします。」

「どんな例よ……」

「この時、ロイド様も男性ですから必然的に情欲を掻き立てられる事となり、それはお身体に刻まれた吸血鬼の技を引っ張り出す事に繋がります。俗な言い方をしますと身体――肉体の方が準備万端になるわけですね。」

「ロイくんが……準備万端……ぐへへ……」

「対してロイド様の心――精神の方はと言いますと、こちらに関しては吸血鬼の力は及んでいませんからロイド様ご自身の純粋な反応のみが生じるわけですが……皆さんご存知の通り、ロイド様がそんな場面に出くわしたら――」

「真っ赤になってワタワタするわね。」

「はい。フィリウスさんのように「うひょー、いい女だぜ!」という風にはならず、「どどど、どうしてこんな事に!?」という感じに、情欲よりも混乱の方が前に出るでしょう。」

「しかも恐らくはそういうタイプの男性の中でも群を抜いての大混乱だろうな。おかげで苦労している。」

「ええ、昔の時点でその気配はありました……要するに、そんなロイド様の肉体と精神にはズレが生じるわけです。同じような性格の男性なら誰しもなり得る状態ではありますが、ロイド様の場合は肉体の方に吸血鬼の技という強力な要素が加わっています。例えるなら水の出ている蛇口を手で押さえるイメージ――通常なら何の苦労もなく水を止める事ができますが、ロイド様の場合は水の勢いが強いので蛇口を塞いでも他の隙間から水がふき出してしまう――これがロイド様の場合は鼻血であり、そのまま気絶につながるわけです。」

「ふむ。ざっくりまとめると……カーミラくんがやらしいテクニックを伝授したせいでロイドくんの身体はやらしい事柄に対して変な方向に過剰反応するようになってしまったと。」

「漫画みたいだなって……思ってたけど、そ、そんな理由があった……んだね……」

 ロイドの元々の性格とカーミラの変な技術が合わさった事で生まれた体質……まぁ、誘われるままにふらふら行くよりはマシ……なのかしら……

「でもロイくん、今はボクが誘惑しても鼻血出さなくなったから、それはロイくんもその気ってことでそれだけボクの事を愛しちゃってるって意味で……ぐへへ。」

「む? そうか、そういうことか。つまりロイドくんが誰かの誘惑に対して鼻血を出さなくなったら、優柔不断で浮気者で惚れっぽいロイドくんがその人物に惹かれているという事で、わたしたちのライバルが一人追加になるというわけだ。」

「そうです。まぁ、こうしてロイド様を想う方々に囲まれる今のロイド様がこれから更に誰かに心を奪われるという事はほとんどないでしょうが、目安として知っておくべきかと。」

 鼻血が目安ってすごくロイドっぽいわね……

「む? しかし先の話だと吸血鬼の技はコントロールできるという事だから、ロイドくんが制御できるようになったら目安にはならなくなるのでは?」

「それはありません。制御できるというのはあくまで能動的場合。受動の場合は情欲同様に掻き立てられる勢いのまま吸血鬼の技は表に出る事となるでしょう。」

「制御! そうだよ、ロイくんが全力でボクを愛してくれるようにするにはどうすればいいの?」

「ロイド様が吸血鬼の技を制御できるようになるには、今の話をお伝えするだけで良いと思いますよ。意識すれば勝手に発動していた技がロイド様の意思の下に入るでしょうから。」

「ほほう、それだけでロイドくんのフルパワーが……ほうほう……」

「あ、あんたらねぇ……」

 どいつもこいつもスケベな奴ばっかり――だわ、まったく……!

 ……でも……一番はあのバカ本人よね……どうせ今頃アンジュとイチャイチャ……

 …………だけどそれは……最終的にあたしにも……

「ふふふ、ワタクシが変態女王ならばエリルさんも負けず劣らずに変態王女ですね。」

「は!? な、何よいきなり!!」

「淫魔の方々には及びませんが、ワタクシたち吸血鬼もそういう感情には敏感なのですよ? いやらしい妄想をしていたらすぐにわかります。」

「――!!!!」

「まぁ、エリルくんのムッツリは顔に出るからな。わたしにも分かったぞ、今のは。」

「う、うっさいわね!!」

「ああ、そうでした。淫魔で思い出したのですが……」

「淫魔で、思い出す……って、な、なにを……思い、出したの……?」

「実はですね――」




 湯煙地獄……ああいや、分類するなら天国なのだが、数々のそれをくぐり抜けた先にてとうとう敗北したオレは……ああいや、どちらかというとプラスの意味合いになるはずだから勝利というべきなのかもだが……最終決戦を終えた翌日、続けざまの感想戦で再び敗北――いや勝利したオレは頭の中を真っ白にして呆けていた。

「……」

 そして座椅子に寄りかかってほけーっとしているオレを部屋の隅っこから見つめているのはアンジュ。布団にくるまって顔だけ出してちょこんと座っているアンジュは……なんというか、あんまり見ない恥ずかしそうな表情をしている。

「ほんとにさー……あれほどとは思わなかったよー……ロイドのエッチー……」

 両者がこの状態になってから何度目かになる呟き。しかしてその言葉が耳に届く度に真っ白な頭の中が燃え盛って顔が熱く――


 ぎゃああああああ!


「あたしもちょっとタガが外れてた気がするけどさー……今思うとすごいよねー……あれとかそれとかさー……」

 恥ずかしさのあまりにジタバタと転がるオレに、アンジュはぽつぽつと呟きを続ける。

「他に知らないけど変な確信があるんだよねー……ロイドのは劇薬過ぎるっていうか……ほんと、優等生ちゃんとか商人ちゃんとかお姫様もこれを体験して……ていうかあんなのを他に三人にもやったんだー……ロイドってばやらしー……」

「すみませんでしたっ!」

 転がりながらアンジュの前に移動してスムーズな土下座をするオレ。

「またポイント……あー、これも今考えるとタガが外れる原因だったねー……」

 するりと布団から出る音が聞こえ、アンジュが土下座を決めたオレの頭をポンポンと叩く。

「えっと、別に怒ってるわけじゃなくてさー……あまりの事に今さらビックリってゆーか恥ずかしくなってきたってゆーか……でも段々とそれも落ち着いてきてさー……今は何か商人ちゃんみたいな気分なんだよねー……」

「リ、リリーちゃん……? それはどういう……」

 おそるおそる顔を上げたオレに、アンジュはこつんとおでこを合わせてそのオレンジの瞳でジッとオレの眼を覗いてくる。

「あ、あの……」

「うん……もうダメだと思うんだよねー……」

「ダ、ダメ……」

「だからまー……よろしくね、ロイドー。」

「よ、よろしくとは……」

 言葉の意味がわからずにいる土下座状態のオレを起き上がらせ、体重をあずけながらオレの横に座ったアンジュはそのままオレの腕に抱きつく……!

「んふふー。」

「ひゃ、あの、アンジュさん……?」

 特にやらしい事をするわけでもなく――い、いや! 別にそれを望んでいるわけではなく! ローゼルさんやリリーちゃんの時はそんな感じだったからアンジュも来るかと身構えてみたらニコニコほほ笑んでくっついているだけなので拍子抜けというか――い、いや! 驚きが欲しいわけではなく!

「んふ、ふふふ……」

「???」

 何かを待っているのか、何らかの作戦の一環なのか、十分ほどあれこれ考えたが何も起きず、なんだかまったりした空気にオレもただ寄りかかるだけになり……そんなこんなでお泊りデート二日目の最後の数時間は旅館の一室で座って時々おしゃべりするだけという感じで過ぎていった。

 そうして夕方、オレとアンジュはセイリオス学院に戻った……のだが……


「あらあらロイド様ったら、お身体をアンジュさん色で染め上げたようで。」


 いつものようにみんなから睨まれながらつねられたりしたのだが、何故か「みんな」の中にミラちゃんがいて、あまり笑っていない笑顔でオレのほっぺを両側から引っ張った。

「あひょ、ミハひゃんがほーひてほほに……」

「うむ、実はロイドくんがいない間にカーミラくんからとんでもない話を聞いてな。本人に意識してもらった方が良いのか悪いのか迷いどころではあったのだが、ひょんなことで発動してライバルが増えるのも困るのでロイドくんにはきっちりと制御してもらおうという事になった。」

「???」

 何の話やらという心持ちでみんなから話を聞く事十数分、オレは……オレはあああぁぁああ!?!?

「オオオ、オレのかか、身体に吸血鬼の――ワワ、ワザが!?!?」

「ロイドくんのテクニックはそこから来ていたというわけだな。道行く女性を手籠めにするとその者はロイドくんの虜になってしまうから、そういう事はしてはいけないぞ。」

「しませんよそんな事!! というかななな、なんてことをミラちゃん! まったくもうまったくもう!」

 頭をグルグルさせながらミラちゃんの肩をつかんでゆさゆさするオレに対し、ミラちゃんは嬉しそうに微笑む。

「ああ、ああ、ロイド様に、こういう事をされるのは、珍しいですね。貴重な体験です。」

「どどど、どうにか解除はできないの!?」

「できま、せんね。お身体に刻まれた技は、全身隅々まで浸透し、ロイド様を構成する、一部分となっています、から。」




 マンガみたいにロイドが「びゃあああ」って顔をしながらカーミラをゆさゆさする。ロイドが誰かにああいう……ちょっと乱暴な事をするのってそうそうないから……確かに珍しくてちょっとうらやま――しくなんかないわよ!

 ま、まぁロイドは基本的にお、お色気関係には「びゃあああ」って大慌てするタイプだから、自分がそっち側のとんでもない技を持ってるってわかったら……まぁ、これくらいのテンパりは当然かもしれないわね……

「あぁあぁあ……こ、こうなったらきっちり制御して使わないようにしないと……ああ、ミラちゃんごめんね……つい……」

「いえいえ、こういうスキンシップも嬉しいものです。それに誰かれ構わずお使いになると大変というだけで、ワタクシ相手には存分に使っていただいて良いのですよ? そもそもそれが目的なのですから。」

「む! そうか、これはまずいのではないか!」

 とんでもない事に気がついたって顔でローゼルが――ティアナを見る。

「アンジュくんのお泊りデートが終わり、残すはティアナ! 吸血鬼の技の存在が明らかになった今、ティアナのお泊りデートは恐ろしい事になるのでは……!」

「ちなみにワタクシとのデートもありますよ。ねぇ、ロイド様。」

「は、はひ……」

「ぐぬぬ――よしロイドくん! お泊りデートの二回目を提案するぞ!」

「ニカイメ!?!?」

「ボクも! ボクも二回目!」

 アンジュとのお泊りデートが終わったかと思ったらもうこんな騒ぎになるなんてホントにこいつらは……

 ……あたしも、まだデートはしてない、から……あれよね……あれ……

 ――! と、とりあえず今はこのやらしー流れを何とかしないとローゼルとリリーが暴走しそうだわ……!

「い、今の話はとりあえずとして、カーミラの話はもう一つあるのよ、ロイド!」

「これイジョーナニがあるのデスカ!?!?」

「そっちの話じゃないわよ! カーミラ、例の護衛の話をしなさい!」

「ああ、そうですそうです。ロイド様、デートの話も大切なのですがこちらも重要な事柄なのです。」

「ジューヨー……」

「む、そうだった。どうにも嫌な予感がする話なのだった。」

 ドタバタしてたローゼルが咳ばらいをしながらロイドのベッドに腰かけて、他も適当な場所に座る。そんな周りを見ておずおずと床に正座したロイドに対し、カーミラも黒い座布団を出してロイドの正面に正座した。

「えぇっと……護衛って今エリルが言ったけど……オレにって事?」

「正確には連絡役なのですが――」


 そう言ってカーミラが、さっきあたしたちにもした話をロイドにする。

 カーミラにとっては勿論だけど、どういうわけかスピエルドルフにとってもロイドは重要な存在になってて、次期国王にとまで言われてる状態。そんなロイドに対してスピエルドルフはこれといった護衛とかはつけてなかったんだけど、これは騎士を目指すロイドの成長の機会を奪ってしまうのは良くないっていう判断をしたかららしくて、『世界の悪』に目をつけられてるロイドを心配してなかったわけじゃない。

 そんな中で起きたのがこの前のワルプルガ――クロドラドが引き起こした魔法生物の暴走。それ自体は成長の機会って事で見守れる範囲だったらしいんだけど、あの時あの場所には『世界の悪』――アフューカスがいた。

 あの狂った女がいたっていうのはクロドラドがツァラトゥストラを手に入れた経緯であたしたちも知ってたけど、実はあの場所に『紅い蛇』のメンバーがもう一人いたらしい。

 んで、ロイドを狙うアフューカスとその一味はスピエルドルフにとっては敵なわけで、それを知ったカーミラはヴァララに二人の……処理を、任せた。

 そうしてヴァララはもう一人の『紅い蛇』と戦ったらしいんだけど、ヴァララにとって最高の条件がそろってたのにも関わらずヴァララは敗北した。

 カーミラが言うには、前にスピエルドルフに現れた『紅い蛇』のザビクの戦闘能力がそれほど高くなかったっていう経験から連中を過少評価してたとかで、今回の件でその認識を改めたらしい。

 ……まぁ、あたしたちからしたら『世界の悪』の仲間のS級犯罪者なんて全力で警戒するような相手なんだけど、スピエルドルフは人間の犯罪者にそんなに詳しくないっていうか、ぶっちゃけカーミラたちの相手になるようなのがフィリウスさんクラスしかいないから過少評価も当然っちゃぁ当然なのよね……

 ともかく、そんな経緯でロイドに護衛をつけようって話になったらしい。


「ですが潜入能力と護衛に足る戦闘能力を合わせ持つ者たち――以前ロイド様が会われたライアさんのような方々は既に各地にて諜報活動を行っておりますし、仮に適任の者がいたとしてもこの場合は密かに情報を収集するのではなくロイド様の盾となる事が任務――どうしてもロイド様の学院生活に影響を及ぼしてしまいます。」

 ライア……確かライア・ゴーゴン。プロキオン騎士学校に潜入してる魔人族だったわね。

「そこで提案されたのが連絡役。直接ロイド様をお守りするのではなく、迫る危機を一早く察知してワタクシたちにそれを伝える者を配置しようという事になったのです。」

「オ、オレの為にそんな……」

 そう呟いたロイドに、カーミラは少し困った顔でほほ笑む。

「そのような申し訳なさそうなお顔をする必要はありませんよ。ワタクシたちからすれば当然の事なのですから。」

「そ、そうかな……えぇっと――うん、あ、ありがとう、ミラちゃん。」

 ……ロイドって、カーミラ――いえ、スピエルドルフから向けられてる信頼っていうか期待みたいなのに頑張って応えようとしてる感じだから……なんだかこの前のヴァララの協力とか今の話みたいにスピエルドルフから色々な事をされる度に次の王様になるっていう道が固まっていっちゃってる気がするわ……

 ……むしろロイドのそういう性格を狙ってたりしてるんじゃないでしょうね、この吸血鬼。

「ふむ、わたしたちもそこまではさっき聞いたわけだが――問題はその派遣される魔人族だ。美人な女魔人族が来てしまうとロイドくんがふらふらーっと襲ってしまうから困るのだが、結局どういう者がどういう形でやってくるのだ?」

「オソウ!?」

「ご心配なく、そういう風にはならない者ですから。到着したら本人から挨拶があると思いますが……とりあえず、ロイド様にこれを。」

 そう言ってカーミラは小さな宝石がついた指輪をロイドに手渡した。

「その者が何かしらの危険を察知した場合、連絡はワタクシたちに来ますのでロイド様は普段通りにお過ごし下さればと思いますが、場合によっては避難をお願いする事もあるかもしれませんので、その者から警告を受け取る事の出来るそれをお持ち下さい。」

「うん、わかったよ。」

「その……ワタクシの指輪と一緒に首からでも下げておいていただければと……」

「そうするよ。」

 言いながら首から服の中に下げてる指輪――カーミラが渡したスピエルドルフに一瞬で移動できたりする指輪とロイドのご先祖様のマトリアが残したサードニクス家の指輪を取り出したロイドを見て、カーミラが……なんかうっとりする。

「……そういえばヴァララもユーリもあんたも、その黒い指輪をロイドが首から下げてるって知って驚いたり喜んだりしてたけど、なんかあるわけ?」

「ええ、それはもう……」

「? えぇっと、スピエルドルフでは何か意味のある事だったりするのかな……?」

 合計三つになった指輪を再度首から下げたロイドに、カーミラは溶けた顔でこう言った。

「儀礼や慣習的な意味はありませんよ。ただ……その指輪にはかなり強めにワタクシの魔法がかかっておりますから、素肌に触れ、かつ心臓に近い場所にありますとこう……ワタクシの吸血鬼としての感覚に訴えるモノがあると言いますか、指輪を通してロイド様の温もりと心音に包まれるのですよ……」

「ヌクモリ!?!?」

「な、何よそれ!」

「おかげで会えない時間もロイド様をお傍に感じる事ができています。ですからロイド様、今後もワタクシの指輪はその場所へお願いしますね。」

「びょ、びゃ、そそそ、それは……」

「お願いしますね。」

「は、はひ……」

 基本的にロイドをたてるっていうかロイド優先なんだけど変なところを押し通すのよね、この変態女王は……!




「お久しぶりです、団長。相変わらず小さいですね。」

「殺すぞ。」

 田舎者の青年が吸血鬼の女王の笑顔の圧力でうんうん頷いている頃、火の国ヴァルカノの国軍施設の一室にて、水色の髪をサラリとさせて黒いスポーツウェアのようなモノで身を包んだ執事のような雰囲気のメガネの男が、部屋に入って来た人物にペコリと挨拶をした。

「お前こそ相変わらずのすっぽんぽんか、フェンネル。この変態野郎。」

 メガネの男――フェンネルを睨みつけたのは、口調やその凄みの効いた表情とは合致しない小さな男の子だった。

 髪を片側だけ編み込み、上下ともラフな服でヒップホップダンスでも踊り出しそうな「少しませた子供」という印象を抱く少年なのだが、その背中には少年の身長を超える長さかつ少年がすっぽり入りそうな幅の筒を背負っており、本人の大人びた雰囲気とその奇妙な持ち物が普通の子供とは思えなくしていた。

「貴族のお嬢様を弟子にしたと聞いた日にはとうとう頭の中も見た目通りに狂ったかと思ったが、まさかの大活躍だったみたいだな。引退して腑抜けになってるかと思いきや、いい師匠になってんじゃねぇか。」

「ふふふ、彼女があれほど強くなったのはセイリオス学院での出会いがキッカケですよ。その出会いは普通じゃできないような経験をいくつも運んできて、師匠としては少し悔しいですが、それらが彼女の糧になりました。」

「そこは経験をモノにできるようになったのがお前の指導のおかげって事で自慢しとけ。」

「ふふふ、そうだと嬉しいですね。」

「んで、その弟子が捕まえたのがあの男ってわけか?」

「正しくは弟子の友人――恋敵ですがね。」

「あぁ?」

 二人はその部屋の奥にある大きなガラスの向こう側の狭い空間に一人座り込んでいる男に視線を移す。

 マフィアのボスのような服装から囚人のような格好になってそこにいたのは、今年の火の国の建国祭ワルプルガにて、一体の魔法生物の依頼を受けて暗躍した人物――インヘラーだった。

『おいおいおい、そのガキンチョはまさか『灰燼帝』か?』

 ガラス越しに自分を見ている少年を見て呆れるように呟いたインヘラーの声が、マイクを通してフェンネルたちに届く。

『弟子がどうとか言っていたが、という事はうちが戦った学生は赤の騎士の弟子だったわけか。』

「元、ですがね。それに僕の弟子はあなたと戦った方ではなく、あなたのゴーレムを足止めした方ですよ。」

『やれやれ……あのトカゲにとってもうちにとっても、良くないイレギュラーだらけだったんだな、今回は。』

「言っとくがお前の不運はまだ終わらないぞ。」

 ゴンッと、ガラスに蹴りを入れながら少年がインヘラーを睨みつける。

「『罪人』――あらゆる証拠を隠滅して法律に「守られる」犯罪者集団。そのメンバーを現行犯で捕まえたなんざ、『世界の悪』がばら撒いたツァラトゥストラで悪党連中がフィーバーしてる上に正体不明のテロ組織まで出てきた現状じゃ数少ないグッドニュースだ。じっくり調べさせてもらうから覚悟しとけよ。」

『ふん。』

「『罪人』……僕が現役の頃から謎の組織でしたけど、今もリーダーとかはわかってないんですか、団長。」

「んだよ、現役はだらしねぇってか?」

「いえ……ただ、こうも息の長い組織となるとそのバックは……」

「ああ、こいつらが起こした事件の中には証拠を消すのに強大な権力が必要なはずのもあるからな。『罪人』の後ろ盾、もしくはボスはどこぞの権力者――最悪王族なんじゃねぇかって言われてるくらいだ。その辺どうなんだインヘラー。」

『さてな。というかその『罪人』っていうセンスのない呼び名はなんとかならないのか? 自分たちの二つ名には力を入れるクセに悪党側は適当過ぎるぞ。』

「てめぇで悪党と認めてる奴にはピッタリだろうが。『犯罪者』でないだけ感謝しとけ。つーか文句があるなら正式名称を言ってけよ。いい機会だろ?」

『うちらにそんなモノはない。』

「は、まぁいいさ。てめぇに言う気がなくてもそれを知る方法はあるからな。楽しみにして――」


『インヘラー。』


 大きなガラスによって二分されているこの部屋にいるのはガラスの前に立つ二人とガラスの向こう側に座る一人だけだったのだが、その声がマイクを通してフェンネルと少年の耳に届く頃には、いつの間にか加わったもう一人がインヘラーの前に立っていた。

「――!! んだてめぇはっ!!」

 叫ぶと同時に少年がその拳に炎をまとってガラスに殴りかかる。が、当たる直前でその炎は消え、小さな拳がゴンッとガラスを叩いただけとなった。

「これは――!?」

 少年と同様に炎をまとった蹴りをガラスに放っていたフェンネルだったが、こちらもまた炎が消え、その足はガラスを砕く事もなく表面でピタリと停止してしまった。

『――!?!? ど、どうしてこんなところに――』

 突然目の前に人が現れた事よりも、この場所にその人物がやってきた事に動揺しているようだったインヘラーは、目の前に立つ者を見上げて目を丸くする。

 服装自体は普通のそれで、襟付きのシャツにジーパンというどこにでもいそうな格好なのだが、その顔には目も鼻も口もないのっぺりとした白い仮面をつけており、その異質さを強調していた。

『まさかうちなんかを助けに――』

『その通りです。先日の四人に加えてバロキサとリレンザが亡くなった今、これ以上の欠員は支障が出るので。』

『あいつらが!? 『ゴッドハンド』か……!!』

『アフューカスもいたようですが、とにかくあなたをこの場から連れ出します。』

「させると思ってんのか白仮面っ!!」

 ガラスから一歩下がり、背負っていた筒を手にした少年だったが――

「!? 起動しねぇだと!?」

『……六大騎士団の一つ、赤の騎士こと『ルベウスコランダム』の団長、『灰燼帝』。名が知られるという事は手の内が周知という事ですよ。』

「んの野郎! てめぇが『罪人』の親玉か!」

 ガラスに額をぶつけながらその容姿からは想像できない形相で睨む少年を見下ろし、白い仮面の人物は数秒沈黙した後、インヘラーに立ち上がるよう促しながらぶつぶつと呟く。

『……恐らくその出自が一切つかめずにいるであろう謎のテロ集団の正体はフェルブランド王国で活動していた反政府組織オズマンド。突然国外へと活動の幅を広げた理由や誰がリーダーなのかという点は不明ですが、先日『ゴッドハンド』と一緒にいたゾステロというハッカーがその組織の一員である事から、彼の力で強力な情報操作が行われている可能性が高いでしょう。追うならばまずはそのハッカーからではないかと。』

「……? いきなり何を言ってやがる……?」

『世界中あちこちの悪党がツァラトゥストラで力をつけている中、S級犯罪者に名を連ねる者たちが次々と殺害されており、これを主に行っているのはアフューカスの命令で動いていると思われる『紅い蛇』の一人、アルハグーエ。これを受け、一部のS級犯罪者が対『世界の悪』としてチームを組み始めているようです。近く、裏のレストランで有名な『マダム』が大きく動くでしょう。』

「……団長、この情報は……」

『『紅い蛇』と言えば『ディザスター』ことケバルライが何かの実験をするようですし、マルフィの目撃情報も増えていますね。こちらにも注意する必要があるでしょう。』

「マル、フィ……」

 その名を聞き、フェンネルが顔を青くしたところで白い仮面の人物はカクンと首を傾げた。

『今言った事は、少なくともこちらでは確かなモノだと考えている情報です。こちらを――あなた方が言うところの『罪人』を追うのは構いませんが……さて、それ以上に警戒するべき事柄が多いのではありませんか?』

 その言葉を最後に、白い仮面の人物とインヘラーはその場から姿を消した。

「クソ野郎が!」

 少年が怒りと共にガラスを殴ると、今度は炎が噴き出してガラスが一部融解しながら砕け散った。

「……魔法が戻りましたね……あの白い仮面、何者でしょうか……」

「さぁな。ただこっちの魔法を封じたのもいきなり現れて消えたのも、恐らく魔法じゃない何かの力だ。あれがボスだとすると想像とは別方向にやべぇぞ、連中。」

「それに今の話、悪党側の裏事情のような事をしゃべっていきましたけど、どうして突然……」

「自分たちに調査を集中させない為のかく乱だろうな。実際、調べないわけにはいかねぇ事ばっか言っていきやがった……クソ、クソ! あっさり逃げやがって! 俺が他の六大騎士団とか十二騎士にブーブー言われんじゃねーかフェンネル馬鹿野郎!」

「す、すみません……」




 発覚してしまったオレの力。今思えば……あ、ああいう時にどうすればいいか欠片も知らないはずのオレがキッチリとできた――ししし、してしまっていた事に疑問を抱くべきだったのだろうけど、一々思い出して考察なんかしていたら頭が爆発してしまう……!

 と、ともかくオレはもう引き返せないのだ。しっかりと責任を……い、いや、してしまったからというのも多少はあるけどそうしたいという想いがあるからこそ頑張らなくてはならなくて、しかしそれはもうとんでもない浮気男なわけで……ああああぁぁ……

「サードニクスが面白い顔してっがとりあえず説明しちまうぞ。」

 校外実習の期間があけて最初の授業。オレがこの先に待つだろう悶々としたあれこれの想像としでかした色々な記憶をミックスしてグルグルしている中、先生が授業を始める前にランク戦や交流祭の時のようなハイテンションで板書を始めた。

「お前ら、選挙だぞ。」

 選挙……そうだ、みんなとの事もそうだがオレはこっちについても考えなくてはならない。



 先生の説明によると、セイリオス学院で行われる選挙は大きく分けて二つ。各委員会の委員長を決める選挙と、生徒会メンバーを決める選挙だ。

 まず委員会の委員長だが、こっちの選挙は一部の生徒しか立候補できない選挙だ。

 セイリオス学院には図書委員会、風紀委員会、環境美化委員会、飼育委員会、保健委員会、選挙管理委員会の六つがあって、それらは学院の為の仕事をするのと同時にそれぞれに特色を持った研究を行っている。それは戦闘技術や魔法、魔法生物の研究で、名門と言われるセイリオスにふさわしいハイレベルなモノなのだとか。委員会出身というだけで研究機関などから声がかかる事も多いようで、自分の進路をしっかりと決めている人はそれに合った委員会に入れば卒業後も安心というわけだ。

 だから誰もが入りたがるのだが、各委員会には入会試験というのがあって、それをクリアしなければ委員にはなれない。よって、選挙で決まる委員長は当然ながらその時の委員会メンバーから選出される事になる。

 つまり委員長の選挙とは、各委員会内で行われるナンバーワン決定戦なのだ――と、先生は言った。

 ただ、どの委員会にも副委員長という役職が存在していて、それは大抵委員会のナンバーツーがやるモノらしく、実のところ、選挙が行われる前から委員長は決まっているようなモノなのだという。

 それでも、騎士の学校だから強さが重視されるとは言えナンバーツーの人物が本当に相応しいかどうかはきちんと判断されなければならないという事で選挙が行われるらしい。


 生徒会の方の選挙は、生徒会の役職である会長、副会長、会計、書記、広報、庶務を決める選挙だ。この前のレイテッドさんの説明を聞いた感じ、委員会の魅力が研究なら、生徒会は現役の騎士たちと交流できる機会の多さがそれなのだろう。その経験は騎士としての将来に確実にプラスになるし、委員会と同じでセイリオスの生徒会メンバーだったという事で広がる道もあるはずだ。

 そして委員会の選挙とは違ってこっちは誰でも立候補できるから毎年熱くなるんだぜ――と、先生が楽しそうに言った。

 選挙がミニランク戦と呼ばれている理由がこの辺にあって……あくまでも普通の選挙だから強さだけで決まりはしないが、騎士の学校なんだから強さがアピールポイントになるのは当然で、だから対立する立候補者は模擬戦を行う事がほとんどなのだという。

 委員長選挙は委員会内の戦いだから入会試験をクリアした猛者同士の対決なので見応えはあるのだけど、生徒会選挙は誰でも挑める分たくさんの、かつ色んな生徒が場合によっては学年を超えて戦うので盛り上がるのだとか。


 ……つまり……仮にオレが立候補したら、デルフさんが推薦してくれると言ってもそのミニランク戦はきっと避けられないモノで、レイテッドさんと同様に、負けてしまうと推薦されているのにこの程度――みたいなマイナスイメージが致命的になる分、逆に絶対に負けられないという状況になるのだ……



「考えりゃあわかるだろうが委員長でも生徒会メンバーでも立候補できんのは一年と二年。大抵会長選挙は二年生最強決定戦になるが、別にお前らが挑んでもいいわけだから試しにやってみんのもいいと思うぞ。」

 黒板に色んな説明文と図を書きながらニヤリとした顔をこちらに向ける。

「まー、戦ってみたいって理由だけで立候補すんのはどうかとも思うが、貪欲に強者を求めるのは悪い事じゃない。バトルを観るだけでも得られるモンは多いだろうし、それぞれにこの選挙戦を価値あるモンにすんだぞ。」

 選挙戦……ランク戦に別名交流戦の交流祭に続いて選挙戦。ホントにここは戦ってばっかりだなぁ……



「それでロイドは選挙に参加するのか?」

 昼休み。いつもの面々でお昼を食べる中、カラードがそう聞いてきた。

「んー……立派な騎士を目指す者としては是非とも生徒会メンバーに入りたい――と思うはずなんだけど……」

「気乗りしないと?」

「うーん……」

「ふむふむ、それはきっと生徒会に入る事でわたしと過ごす時間が減る事を無意識に感じているからだろう。」

「うーん……そんな気もするなぁ……」

 反射的に出てきた言葉だったのだが、ハッとしてみんなを見るとローゼルさんが少し顔を赤くして微笑み、エリルたちから睨まれていた。

「あ、や、今のはあの――みんなと! 過ごす時間がという意味でして!」

「ふふふ、恥ずかしがる事はないぞロイドくん。それこそ無意識ではわたしの事を……ふふ、ふふふ……」

「ロイド……」

 はう、エリルのムスりが増大していく!

「まーあれだ、いい経験ができるっつったって結局は生徒会としての仕事だからな。せっかく部室もできて出来る事が増えたってのに忙しくできねーってなったらアレかもしんねーなー。」

「確かに、アレクの意見は一理ある。部室という整った環境に現役国王軍の顧問。しかもその人物はロイドの妹さんなわけだから……図々しく考えれば、そこからのツテで他の現役騎士の指導が受けられる可能性もあるだろう。師匠であるフィリウス殿が出てくれば十二騎士すら候補になるかもしれないし、ロイド自身の繋がりで魔人族もあるいは……」

「あー、確かに妹ちゃんならロイドの頼みは聞いてくれそーだし、《オウガスト》も笑いながらオッケーしそうだもんねー。女王様に至っては妹ちゃん以上にお願いを聞くだろーしねー。」

「部室っていう、ちゃんとした、場所が……できたから、ロイドくんが……その気になったら、も、もしかしたら生徒会を上回っちゃうような……すごい経験が色々できちゃう……のかも、しれないね……」

「オレがその気になれば……」

 ミラちゃんやカメリアさんが言うところのオレの人脈っていうのを遠慮無しに使ったなら……確かにアンジュが言った通りみんなは色々と頼みを聞いてくれる――と思うから、部活が持つ可能性というのはかなり大きい。

 生徒会では生徒会でしかできない経験が当然あるだろうけど、部活だって……例えば今の時期しか呼べない誰かに指導をお願いできたりという場合もあるわけで……

「ど、どうすれば……どうしよう、エリル……」

「……なんであたしに…………まぁ、今言った色んな経験の可能性ってたぶんあんたがいないと始まらないから……あんたが生徒会に入ったら、あんたがあっちの仕事でいない間にあたしたちだけでそういう事をするっていうのはできないだろうから……強くなりたいあたしとしては生徒会には行かないで欲しいところではあるわね。」

「そ、そうか、そうなるのか。それじゃあ――」

「でも、会長のおかげで生徒会っていうレアなチャンスをゲットしやすくなってるのも事実よ。だからまぁ……あんたが自分で決めなさい。」

「うう……余計に迷わすなよ……」

「あんたが聞いてきたんでしょ……」


「変な事で迷ってるのね、『コンダクター』。」


 学食の一角――割と騒ぐから最近は隅っこの席を八人で占拠している我ら『ビックリ箱騎士団』のテーブルは、場所的に用が無いと近づいてくる人がいないようなところなので声をかけてくる人はほぼ確実にオレたちに話がある人――って!

「レ、レモンさん!」

「レモンバームよ。」

 ずるずると椅子を引きずってやってきたのは緑色の髪が目立つ二年生のメリッサ・レモンバームさん。何かの飲み物をストローで吸いながら、レモンバームさんはテーブルの近くに持ってきた椅子を置いて座った。この前の事があるせいでスイッと組まれた脚に目が行って――だぁあっ! いやらしいぞオレ!

「ロイくんを誘惑した女!」

「嫌な覚え方されちゃったわね。」

 やれやれとため息をつくレモンバームさん……こ、この前のは割と衝撃的だったのだが、本人は何とも思っていないように見えるな……

「まぁいいわ。たぶんその子たちから話は聞いたと思うけど、ロイド・サードニクス、生徒会長選挙で私の応援演説をしてくれないかしら。」

「びぇ、あ、そ、そうですよね、その件ですよね……」

 誰もいない教室での映像が脳裏に浮かぶのを沈め直し、そんなオレの頭の中をお見通しなエリルから足を踏みつけられながら、オレは答える。

「あの、でも応援演説ってその……こう、レモンバームさんはこういう人だからいいと思いますっていうような事を言うんですよね……オレ、レモンバームさんの事何も知らないですし……」

「スピーチの内容に注目してる生徒なんてほとんどいないわよ。選挙なんて結局のところはインパクト勝負。立候補者の演説をしっかり聞いて未来の学院の為に投票するような真面目くんは極めて少数だと思うわよ?」

「えぇ……」

「この前のがダメっていうなら別のお礼を用意するし、する事は適当に私を褒めるだけ。悪くないでしょう?」

 悪くない……取引としてはそうだが選挙としてはどう考えても良くない。だけどハッキリと断るだけの理由もない……ああいやまてまて、ちゃんと考えるんだ……今デルフさんがやっている会長っていう役割を決める大事な選挙なんだから……

「そ、その、選挙そのものはもしかしたらインパクト勝負――なのかもしれませんけど、実際にレモンバームさんが会長になったらどうなるのかっていうのは、レモンバームさんの事をちゃんと知らないと判断できなくて……だからえっと……今すぐに応援演説を引き受けるのは……」

「あら、貴方は真面目くんなのね。そう……」

 世間話くらいの雰囲気でやってきたレモンバームさんだったのだが、ふと真剣な表情になって黙り込んだ。

「……あ、あのぅ……」

「……つまり、応援演説するに足るか、貴方に示すことができればいいのよね。」

「え、あ、はい、そうですね……」

「それじゃあ――」


「模擬戦で判断すればよかろう。」


 レモンバームさんが何かを提案する前に……なんだろう、口調とセリフだけでビシッとカッコイイポーズをしているんじゃないかと想像してしまい、実際そうだった人物がオレたちのテーブルの近くに立っていた。

「事実、現会長の『神速』も三年生最強故にその地位に就いたようなモノ。ここセイリオスにおいて、生徒の頂点を戦いで決めるというのは疑いようのない摂理だろう?」

 その人は黒かった。ネクタイやリボンの色が学年で違いはするけどセイリオス学院の制服は白が基調となっているはずが、その人の制服はオレが着ている男子用のモノと同じデザインなのに色が真っ黒だったのだ。その上髪が黒いのはともかく、黒い手袋をはめて片目には黒の眼帯ときている。普通の白い制服の生徒でいっぱいの学食においてとんでもなく目立つ格好だ。

「ブラックムーン……貴方、なんでここに。」

「何度言えばわかる『拷問姫』。『ダークナイト』と呼べ。そして理由など、お前と立場を同じくするオレがこの地点に現れるのは不可思議な事ではないだろう?」

「私も、その二つ名で呼ばないでって何度も言ってるわよね?」

「ふん、そうだったか?」

 レモンバームさんと……親しげとまでは行かないがそこそこの知り合いという感じで話す黒い人は、何故か目を閉じて物憂げにカッコイイポーズを決める。

 ……フィリウスの筋肉ポーズといい、フェンネルさんのセクシーポーズといい、何かとキメる人が多いなぁ、騎士の世界……

 というか今、『拷問姫』って……

「ふむ、立場を同じくするという事は、あなたもロイドくんに応援演説を頼みにきたと。」

「その通りだ、『水氷の女神』。察しが良くて助かる。」

「しかしロイドくんとしては、相手が誰であれよく知らない相手を無責任に応援する事はできないと。」

「う、うん……」

「ふん、のんびりした意見だな。選挙戦は目前、仲良しになるほどの猶予はあるまい。ならば分かりやすく強い者を選べばいいだろう。」

「あ、いえ、それだと結局……」

「何が問題なのだ? 騎士の優劣は強さで――」


「前提が間違っているのですよ、ブラックムーンさん。」


 困っているオレに助け舟を出すように、三人目のお客さん――レイテッドさんがそう言いながらやってきた。

「『デモンハンドラー』まで来るとはな。それで、オレの何が間違っていると?」

「サードニクスさんが誰かの応援演説するという事を確定している点です。」

「む?」

「親しい間柄であれば応援演説を頼むという事は自然な流れでしょうが、サードニクスさんとあなた方はそうではない。ここであり得る事はただ一つ、サードニクスさんがあなた方の誰かを応援したい、会長になって欲しいと思って自発的に応援演説に手を挙げる場合のみ。強さを競って賞品として受け取るようなモノではありませんよ。」

「ぬ……」

「……メリッサ、あなたもそういう狙いでここに?」

「このバカと一緒にしないで欲しいわね。私はもう一つの方法――応援演説に釣り合う何かを交換条件にやってもらおうと思ってたけど、さっき『コンダクター』自身の意見を聞いて別の提案をしようとしたらこのバカが来たのよ。」

「……そうですか。」

「その上貴女まで来ちゃって、ちょっと目立ってきたから私は退散するわ。二年で一年を囲んでたとか、選挙前に変な噂を流されたりするのも困るし。またね、『コンダクター』。」

 そう言ってひらひら手を振りながらレモンバームさんは去っていった。

「あなたも、ただでさえ目立つのですから時を改めては?」

「ふん。」

 そして黒い人……ブラックムーン? さんも去り、残ったレイテッドさんがため息をついた。

「すみませんね。本格的に選挙期間に入れば選挙管理委員会が今のような強引な行為には目を光らせてくれるのですが。」

「い、いえ、強引というほどでは……でも助けてくれてありがとうございました。」

「要件のついでですから気にしないで下さい。」

「要件?」

「ええ、例の手合わせの件です。今日の放課後にでもどうかと思いまして。」

「あ、はい、オレは大丈夫です――けど、みんなはどう?」

「……大丈夫よ。」

「うむ、問題ない――が、まさか副会長、今日わたしたち全員と戦うつもりで?」

「まさか。一日に一人二人が限界ですよ。ですから早めに始めようかと思い、少々性急かとは思いましたが授業開始初日の今日からこうしてお願いに来たのです。」

「ああ、それはそうですよね……とりあえず今日からで大丈夫なので、場所はオレたちの部室でいいですか?」

「ええ。ではまた放課後に。」

 軽く頭を下げて去っていくレイテッドさん。デルフさんを引きずっていくイメージが強かった人だけどデキる女性っていう印象そのままの素敵な人で、現段階で言えば、会長選挙に出るらしいレモンバームさんやブラックムーンさんよりは――と思ってしまう。

 しかし……

「……さっきブラックムーンさんがレイテッドさんを『デモンハンドラー』って呼んでたけど、あれが二つ名なのかな……」

「みたいね……確かにこの前のランク戦じゃなんかすごいのを召喚してたけど、どっちかって言うと重力魔法をメインにしてる感じだったからそっち系の二つ名なんだと思ってたわ。」

「思うに、全力を出すと二つ名通りのスタイルになるのではないか?」

 レイテッドさんの背中を眺めならが呟いたオレとそれに答えたエリルの会話に、カラードがハンバーグを切りながらそう言った。

「先のランク戦、彼女は本気を出していなかったようだからな。」

「? なんでそんな事があんたにわかるのよ。」

「動きを見ればわかる。本来ならその時、その瞬間に行うのであろう行動をその必要がないから止めている気配が多々あった。二つ名から察するに、彼女の得意分野は召喚魔法なのだろうな。」

「へぇ、そんな事わかるのか……流石だな、カラード。」

「なんとなくの感覚ではあるが……恐らくはこれもリズムの一種なのだろう。」

「えぇ? フェンネルさんから教わったあのリズムか?」

「ああ。リズムは戦闘経験が多いほどにその見極めの精度が上がるという話で、国王軍の指導教官だった先生ともなれば初見でもほぼ完璧に見切るという事だっただろう? おれ自身の経験はそれほど豊富とは思わないが、相手の動きの中に違和感を覚える瞬間が確かにあるのだ。」

「ふむ……まぁ、カラードくんは体術だけでランク戦を勝ち抜くような実力者だからな。そういうモノに気づけたとしてもあまり驚かないが……今更ながら、カラードくんをそこまで強くしたカラードくんのとは師匠は一体何者なのだ?」

 ローゼルさんが思いついたように尋ねた質問だったが、オレは興味津々にその答えを待った。前に聞いた時はすごい騎士なんだけどそれを発揮する機会に恵まれなかった人――という事だったが……

「……そうか、幾度となく死線をくぐり抜けた戦友だものな。話しておかなければならないだろう……」

「んん? なんだ、重たい話なのか? 別に無理には聞かないが……」

「いや、むしろいい機会だろう。とは言えご飯を食べながらする話でもないのでな。また後日……話を聞いてくれると嬉しい。」




 お昼に会長立候補者がたくさん来た事よりもカラードの師匠の話の方が気になってしょうがない感じになってからの放課後。あたしたち『ビックリ箱騎士団』の部室に現生徒会副会長のヴェロニカ・レイテッドがやって来た。

 選挙で行われるミニランク戦――立候補者同士の模擬戦で負けられないヴェロニカはあたしたちと戦う事で強くなるキッカケを得に来たわけだけど、二年生のランク戦で一位の生徒と戦えるのはこっちにとってもいい経験だし、第六系統の闇の魔法の使い手っていう点でもあんまり戦った記憶がないから丁度いいのよね。

「よ、よし、それじゃあオレから――」

「おいおい、いきなり団長からってのはないだろ。ここは……あー、ほれ、Cランクの俺からってことで。」

「えぇ……」

「アレク、そんな事を言って、早く戦いたいというのが見え見えだぞ。」

「いーだろ、別に。よろしく頼むぜ、副会長。」

「こちらこそ。」

 バトルアックスをどっしり構えるアレキサンダーに対し、ヴェロニカは両手を広げた構えを取った。

「えぇっと……それじゃあ――は、始め!」

 ロイドのしまらない合図で模擬戦が始まる。相変わらずパワーでごり押しタイプのアレキサンダーは、きっと作戦も何もなしに真っすぐ突っ込んでった。

「まずは挨拶だぜっとぉっ!!」

 別に速くもない速度で走ってたアレキサンダーは、爆発みたいな踏み込みでその巨体を前方に飛ばし、ヴェロニカに急接近してバトルアックスを振り下ろした。

 本人の筋力と強化魔法で結構な威力になるその一撃を、あたしならかわすんだけどヴェロニカは――

「はっ!」

 クロスさせた両腕を開く動きでバトルアックスを弾き、態勢の崩れたアレキサンダーの方に跳躍しつつ回転、鋭い回し蹴りを決めた。

「ぼげっ!?!?」

 蹴られたアレキサンダーは……なんか見た目に反して威力が大きかったらしいその一発で変な声を出しながら数メートルとんでった。

「――っ、だら、たった、たと! いやいやなんだ今の、すげーな!」

 そのまま地面に転がるかに見えたアレキサンダーだったけど、途中で地面にバトルアックスを突き立ててぐるんと回ってきれいに着地した。

「俺の斧を弾いた一発も蹴り飛ばした一発も、なんつー重さだよ。」

 楽しそうに笑うアレキサンダーの前方、ちょっと驚いた顔で立ってるヴェロニカの両手は、紫色の光で覆われてた。


 第六系統の闇の魔法は、第三系統の光の魔法と並んで召喚魔法って呼ばれたり、重さの魔法とかも呼ばれたりする系統。特有の性質としてマナや魔力以外のモノを消費する事でも発動可能だったりして、一番使い手が多いって言われてる自然系の魔法の中じゃダントツで変な魔法よね。

 ちなみに今アレキサンダーの攻撃を弾いたりあの巨体を蹴り飛ばしたりしたのは重さの魔法――重力魔法の力。重力っていう名前がついてるけど他にも引力とか斥力とかいろんな方向の力を操る事ができる魔法で、接近戦で使われると厄介って話を聞くわね。


「正面からだと今みたいに弾かれっか? んなら――!」

 再度走り出したアレキサンダーは――

「せいやっ!」

 走りながらバトルアックスを足元にたたき込み、地面を引っぺがしてヴェロニカの方に飛ばした。

「……」

 砂埃とかそういうレベルじゃない無数の岩の塊が飛んできたけど、それらはヴェロニカの手の動きに合わせて右へ左へ散っていく。たぶん力場――みたいなのを発生させて岩の飛んでいく方向を変えてるんだわ。重力魔法の使い手には遠距離攻撃が当たりにくいって言われてるけど、こういう事なわけね。あたしのガントレットとかも軽くそらされたりするのかしら……

「……!」

 飛んできた岩を難なく片づけたヴェロニカは……たぶんアレキサンダーの姿を見失ってて、でもあたしたちからはヴェロニカが左右にそらした岩の内の一つの影に隠れてるのが丸見えで、ハッとして周囲を警戒するヴェロニカの方に跳躍したアレキサンダーは――

「どらぁっ!」

 せっかく死角からの攻撃なのに声をあげなら強化魔法全開でバトルアックスを振り下ろした。

「――!」

 その声で気づいて……なのか、別に叫んでなくても気づいたのか、ヴェロニカは紫色に光る手でその一撃を再度弾く。だけど今度はそれだけじゃ終わらなくて、むしろ弾かれることを想定してたっぽいアレキサンダーが弾かれた勢いに自分の力を乗せ、空中で向きを変えながら別角度からの一撃を放った。

「――っ!」

 とっさに紫色の壁みたいのを出したヴェロニカはそれでバトルアックスを受けたけど、その壁ごと強引に吹っ飛ばされた。

「いよし、うまくいったぜ!」

 バドルアックスを肩に乗せて上機嫌に笑うアレキサンダーに対し、重力を操ったのか、変な放物線でふんわり着地したヴェロニカは再度驚いた顔をした。

「……魔法というモノがあるのですから外見だけで動きを判断するのは浅はかな事だとわかってはいますが……正直その体格でそれほど身軽に動くとは思いませんでしたよ。」

「別に身軽ってわけじゃねーぜ。ロイドの――我らが『ビックリ箱騎士団』の団長直伝の体術は円の動き。力の流れを殺さずに向きを変えるってな。つーかビックリってんなら俺もだぜ。んな細腕でこっちの攻撃を弾かれちまうんだからな。」

「強化魔法とは異なり、重さの魔法に術者の体格や筋力はほとんど関係ありません。そちらの威力を私の魔法が受けきれるかどうかというだけなのです。」

「ははぁん? つまり何でもかんでも無条件に弾くってわけじゃなく、限界があるって事か。そいつはまた、試さずにはいられねぇな。」

 ニヤリとしたアレキサンダーは、バトルアックスを横に構えた状態でググッと腰を落とした。

「単純な事なんだがよ、この前のワルプルガでそこの商人とコンビ技みてーのをやった時に気づいたんだ。パワーにスピードが乗ると威力が増すって事をよ。」

 アレキサンダーの身体、特に脚に凄い量の魔法が集中するのを感じる。これはまた馬鹿力な何かをするつもりだわ……

「普通、全速力の一撃ってのは一直線で一回外したらそれで終わりなんだが……今言った、ロイド直伝の体術を使えばなんとかなるんじゃねぇかと思ってよ。いよいよ俺にも必殺技がってワクワクしてんだ。ちょっと練習に付き合ってもらう――ぜっ!」

 強烈な踏み込み。あたしがソールレットを起爆してやる加速みたいに――いえ、それ以上の衝撃を放ちながらアレキサンダーがヴェロニカに向かって突撃した。

「!!」

 あの巨体とあのパワーで出していいレベルじゃないスピードを前に、回避を選択したヴェロニカ。あの筋肉が自分で言ったように、あんな突進は一回かわされたらそれで終わる。だけど――

「うおおおおおおおおっ!!」

 その一回をかわされたはずのアレキサンダーは止まることなく、声を響かせながら……ヴェロニカの周りを走り始めた。え、何してんのあいつ……

「どぉらもいっちょぉぉぉおぉっ!!」

 グルグル走り回るアレキサンダーが大きな弧を描きながら再度ヴェロニカに迫る。今度は止めようとしたのか、さっきよりも大きな紫色の壁を出すんだけど、ぶつかった瞬間その壁もろともヴェロニカが弾き飛ばされた。

「――っ、これは……!」

 着地したヴェロニカの目に映るのは、もはや一発の砲弾と化したアレキサンダー。何をどうしてんのか、空中を含めてヴェロニカを中心に縦横無尽に駆け回る。

「だっはっはー! まだまだ速くなるぜぇっ!!」

 声がこだまし、段々とアレキサンダーが通った場所がえぐれるようになっていって……スピードそのものはロイドの回転剣の方が全然速いけど、あの筋肉の塊がこの速度で動いてると思うと正直ゾッとする。触れただけで木端微塵にされそうなプレッシャーだわ……!


 武器を構えた状態で相手の周りを跳びまわるっていう動きは、それほど珍しくない。機動力自慢の騎士ならよくやる動きだわ。だけどあれはトリッキーな動きで相手に隙を作ったり死角を突いたりする為のモノだから、方向転換する時にその速度が実質ゼロになる瞬間があったりする。

 でもアレキサンダーのこれは違う。相手を中心にグルグルと、それまでに加速した分を失わないように円の動きを使って方向を変えながら更に加速を続けてる。言ってしまえば、バカみたいに長い距離を「助走」をしてる感じ。

 普通は助走したらした分だけ速くなるなんて事はなくて、どこかでピークを過ぎたらあとはバテるだけ。でもこいつは……カラードの『ブレイブアップ』の負荷とかをモノともしないバカみたいな身体のこいつがそれをやったら……もしかして、走った分だけ速くなるんじゃ……


「――『グラビティウォール』っ!」

 ヴェロニカが両手を広げ、自分を囲む壁を作る。そしてそれを合図にっていうか待ってましたと言わんばかりに、アレキサンダーが猛攻を始めた。

「うおらああああああああっ!!」

 上からみたら何かの花を描いてるように見えるかもしれない。ヴェロニカを中心に周りを走るアレキサンダーが弧を描きながら突撃し、重力の壁にバトルアックスを叩き込んでは走り去り、またグルグル回って今度は別の方向から突っ込んできてまた離れてく。一筆書きの軌道で通り魔みたいに攻撃していくそれは、ロイドの曲芸剣術にちょっと似てる。ただし、回転剣とはスピードで劣る代わりに破壊力が段違い。結構な魔力を注いでるんだろうヴェロニカの壁が一撃ごとにひび割れてく。

「ロイドから教わった円の動きを攻撃に応用。その圧力にひるんで手をこまねいた分、アレクの強靭な肉体が生み出す尋常ではない加速によって更に威力を増す。アレクの体力の限り続くそれは対応が遅れるほどに対処不能な一撃へと化けていく……ふふ、恐ろしい技だ。」

 うんうんと満足そうに笑うカラードの解説は割とその通りで、ドンドン速くなってくアレキサンダーの走り回る光景は……なんかもう嵐の中みたいだわ。

「そろそろぶっ壊せそうだぜ、その壁っ!!」

 そんな声と同時にアレキサンダーが物凄い速度でヴェロニカの方に迫っ――

「『グラビティフォール』っ!!」

 ――たと思ったら、その軌道が大きくずれた。目ではあんまりわかんないんだけど、ヴェロニカを中心に広がってる魔法の気配と、アレキサンダーが走り回ってることで舞ってた砂埃が地面に吸い寄せられた事からしてたぶん、広範囲に高重力がかかったんだわ。

 ただ……

「うおおお、身体が重いぜぇっ!!」

 どんな馬鹿力してんのか、アレキサンダーのダッシュは、ちょっと遅くなったけど止まってなかった。

「……!!」

 でもってそれに一番ビックリしたのはヴェロニカで目を丸くしたんだけど、すぐに両腕を上げて勢いよく振り下ろした。

「どわっ!!」

 ズンッていう音が響いてヴェロニカを中心にした半径十メートルくらいの地面がへこみ、アレキサンダーが走ってる途中で無理矢理止められたって姿勢で立ち止まった。

「こい、つはなかなか――だが、あのトカゲの方がパワーあったぜ――!!」

 言いながら、たぶん、普通なら地面にへばりつく高重力の中で、馬鹿馬鹿しいことに一メートル近くジャンプしたアレキサンダーはバトルアックスを地面に叩きつけた。

 高重力とお得意の瞬間的な強化魔法の組み合わせでとんでもない威力になったそれは陥没した地面を更に砕いて中心に立ってたヴェロニカの足元まで崩した。

「――!」

 アレキサンダーを止めるのに結構な魔力を注いでたのか、足元が傾いて集中が切れたらしく、高重力が解除される。

「もらったぁああぁっ!」

 その隙を見逃さずに一直線に突っ込むアレキサンダー。強力な魔法を使った直後だしバランスも崩してるし、これは決まった――と思ったんだけど――

「ぶごぁっ!」

 次の瞬間、アレキサンダーは壁に叩きつけられた。

「……あの重力の中であそこまで跳躍できるとは……いえ、注目するべきはああいう状況でも一瞬もひるまずに次の行動に移った点でしょうか……」

 砕けた地面の中心、瓦礫の上に立つヴェロニカの背中から……いえ、背後の空中にあいた黒い穴から巨大な腕が……真っ黒で禍々しい、まるであのトカゲが使ってたツァラトゥストラみたいな腕がアレキサンダーを壁に押し付けて動けなくしてる。

「んのおおおお、うおおおおお!」

「さすがにこの腕は振りほどけないでしょう……大きさに合った筋力に重力と強化を重ねていますから。」

「いや――どうかなっ!」

「な!?」

 完全に動きを封じられてたはずのアレキサンダーはその巨大な手からするりと抜けて腕の上に立ち、そのままヴェロニカの方に走り出した。

「――っ!!」

 ヴェロニカの背後に黒い穴が更に出現し、巨大な腕が追加で三本伸びてアレキサンダーを迎撃しようとするけど、するするとそれを抜けたアレキサンダーはついにヴェロニカのところまで到達して――

「おらぁあああぁっ!」

 割と容赦なく顔面目掛けて――パンチを放った。それは確かにヴェロニカにヒットして、ムキムキの男が女の子を殴り飛ばすっていう光景になるかと思ったんだけど――

「だああああああ!?!?」

 なんでかアレキサンダーが弾かれて地面に転がった。

「くっそ、なんだ今の――うお、腕が動かねーぞ!?」

 起き上がったアレキサンダーはパンチした自分の腕をダラリとさせて叫んだ。

「……この部室には闘技場と同じ魔法がかかっていますから、本来なら致命的なダメージにつながる攻撃を受けた際はその箇所が動かなかくなるのですよ。」

 背後の腕を消しながらヴェロニカが壁にあるスイッチを押す。すると砕けた地面が元々の殺風景な床になり、アレキサンダーがダラリとさせてた腕をグルグル回した。

「おお、戻った戻った。んじゃあれか、本当なら今ので俺の腕は使えなくなってたってことか。」

「あの勢いですと骨折では済まなかったでしょうね……肩から先がちぎれていたかと。」

「マジか。」

 ひょえーって感じのまぬけ面になるアレキサンダーから壁際に視線を移したヴェロニカは、そこに転がってるバトルアックスを見てまたも驚く。

「なるほど……私があなたを掴もうと腕を伸ばした瞬間、あの斧をつっかえ棒にして隙間を作っておいたのですね……なんという反応……」

「でも最後、なんでか俺が吹っ飛ばされたぞ。あれはなんだったんだ?」

「序盤にあなたの斧を弾いていた魔法と同じですよ。あれを薄くしたモノで全身を覆っていただけです。パンチだったから弾けましたが、あれが斧を使った一撃だったら防ぎきれなかったでしょうね。」

「全身を? ははぁ、『スクラップ』の『ヒートコート』みてーなもんか。当然最初っから使ってたんだろうな……くそ、それを見抜けなかったのがまずかったか。」

「あたしの二つ名を縮めて呼ばないで欲しいんだけど。」

 そういえばロイドとカラード以外を二つ名の一部で呼ぶアレキサンダーのせいでポンコツみたいな名前になったアンジュが文句を言ったけど、アレキサンダーはヴェロニカに質問を続ける。

「それにあのデカい腕だよな。あれが召喚魔法なんだろ? 第六系統の使い手は全員あんな事ができんのか?」

「いえ……同じような事ができる方はいるでしょうが同じ腕を出せる方はいないかと。」

「? そうなのか?」

「第三系統の光の魔法でも第六系統の闇の魔法でも、召喚魔法で生物を呼び出すとその形や大きさは術者のイメージによる……と言われているので、あの腕を出せるのは私だけのはずです。」

「んあぁ? なんだ、言われているって。それが正解じゃねーのか?」

「それはですね――」

 アレキサンダーの質問にヴェロニカは丁寧に答えてく。まぁこれって召喚魔法について昔から議論されてる事なのよね……


 召喚魔法には、魔法でできた武器や道具を呼ぶ出すモノと生き物を呼び出すモノの二種類がある。前者の場合は光や闇を粘土みたいにこねて形を作る感じで、色んな性質を付与した色んなの形のモノを作れるらしいんだけど、そういうレベルに到達するのは一握りだから、大抵は昔の誰かが作った初めから形が決まってる召喚魔法っていうのを使う。

 この、物を作るタイプの召喚魔法には特に謎の部分っていうのはないんだけど、結論が割れて未だにハッキリしてないのが生き物を呼び出す方の召喚魔法。

 第三系統の光の魔法の場合は「天使召喚」、第六系統の闇の魔法では「悪魔召喚」って呼ばれてて、それぞれその名の通りの存在を呼び出す。さっきのヴェロニカの腕はたぶん、悪魔召喚で腕だけを引っ張り出した感じね。

 で、昔から議論されてるのは、この召喚魔法で呼び出した天使や悪魔の正体についてなのよね。

 さっきヴェロニカが言った通り、天使や悪魔の姿は術者によって違う。使ってる術式は同じでも凶悪な外見の天使になる人もいれば神々しい悪魔を呼ぶ人もいるらしくて、だから召喚される存在っていうのは結局術者のイメージを受けて作り出される人形のようなモノだっていうのが一般的に言われてる説。

 だけどこれだと説明がつかない点が二つある。一つは、術者によって姿形が違う天使や悪魔だけど、それが一生変わらないっていう点。天使や悪魔に対するイメージなんて年齢や周囲の環境の変化とかで変わるから、召喚される姿っていうのはその時々で変化するはずなんだけど、実際にはそうなってない。自分にピッタリの姿で召喚される人はともかく、術者の気に入らない外見で召喚された場合も、それは生涯、魔法の腕を上げようが何をしようが変化する事がない。

 もう一つは、人形と呼べるほど無機質な存在じゃないという点。言葉を話すことはないんだけど、術者の声に頷いたり、ダメージを受ければ痛そうな反応をしたり、場合によっては命令を無視して動く事もあったりで、とても人形と呼べるようなモノじゃない。

 この辺の事から天使や悪魔はこの世界のどこか、もしくは全く違う世界から召喚されて術者によって使役される生きた存在だって考える人もいて、二つの説は実験とか記録をもとにお互いを否定しながらも決定的な事は言えずに決着がつかない議論として続いてる。

 ……あれ? でも確か、喋る天使を召喚した騎士が昔いたとかって話をどっかで聞いたけど……それはどうなったのかしら……


「はぁん。まーどっちが本当かってのにはあんま興味ねぇけど……つまり副会長が召喚する悪魔はあんなデカイ腕を持ってるくらい巨大ってことだよな? 全体を見てみたいぜ。」

「それは正確ではありませんね……確かに術者ごとに姿形は固定されますが、一人が一種類しか出せないわけではありませんよ。今の《ジューン》は数十種類の悪魔を召喚すると聞きますし。」

「んだそりゃ。それじゃあ魔法生物の大群を呼ぶのと変わんねーじゃねーか。」

「召喚魔法の強みは、人間ではあり得ない能力を持った存在を仲間とする事にありますからね。」

「なるほど――ん? 確か副会長、『デモンハンドラー』とか呼ばれてたよな。そんな二つ名って事は何種類もの悪魔を操るのか?」

「さて、どうでしょう。今の戦いのように、私から引き出してみてはどうでしょう。あなたたちが身につけてきた技で。」

「そうきたか。おっしゃ! もう一戦だ!」

「こらアレク、副会長を独り占めするな。次は是非おれと。」

 戦闘バカな強化コンビが身を乗り出す中、ふと横を見るとロイドが難しい顔をしてた。

「……どうしたのよ、変な顔して。」

「割と真面目な顔をしてるつもりなんですが……いやぁ、今の召喚魔法の話って、ミラちゃんたち魔人族の間では結論が出てたりしないのかなぁって思ってさ。」

「それは……そうかもしれないわね。今度聞いてみたら?」

「うん……いやぁ、でも答えを知っちゃうのもあれだなぁ。オレとしては別の世界から呼び出されているっていう方がロマンがあって好きなんだけど、そうじゃないって言われたらちょっとショックだぞ。」

「召喚魔法なんて使えないクセになんであんたがショック受けんのよ……」

「い、いつか使うかもしれないだろ……今は風しか使えないけど……」

「……まぁ、第三も第六も一応は自然系の魔法だし、位置魔法とかよりは使えるようになる可能性は高いけど……あんたの場合は風の魔法だって全然じゃない。」

「うぅ……れ、練習中ですから!」

「……あんたって魔法下手よね……」

「そんなハッキリと!」

 ガビンって顔をするロイド。体術とか曲芸剣術用の風の技術とかがズバ抜けちゃってて、しかも強いから忘れそうになるんだけど……ロイドって魔法の技術っていう点で見たら簡単な風魔法しか使えてない超初心者みたいな状態なのよね……

「……ま、その辺を鍛えてくれそうな誰かを……カラードが言ったみたいにあんたの妹づてに呼ぶのもいいんじゃな――」


「『ブレイブアーップ』っ!!!」


 カラードの名前を出した瞬間にカラードの雄叫びが響き、金ぴかの甲冑姿になった正義の騎士がヴェロニカに突撃していった。

「……とりあえず今は、あの悪魔使いから色々盗むわよ。」

「勉強させてもらうとかの方がいいんじゃ……」




「……てめぇ、何しに来た……」

「そんな怖い顔をしなくてもいいじゃないか、選挙管理委員長。」

 黄金の騎士が悪魔と戦っている頃、選挙管理委員会の部屋で大量の書類を処理していた委員長が、ふらりとやってきた現生徒会長を睨みつけた。

「候補者の募集が始まったから、会長にはどんな人が名乗り出たのかなと思ってね。」

「まとめて開示すっからそれまで待て――っつーか募集が始まって忙しい時に来るんじゃねぇ!」

「やや、これが候補者かな? どれどれ。」

「勝手に見んな!」

「レイテッドくんの他は……おっと、これは強敵ぞろいだね。この辺を察してサードニクスくんたちとの修行に入ったのかな?」

「ったく……てめぇの方は進んでんのか?」

「順調さ。一時的な宿舎も出来上がったし、あとは到着を待つだけだよ。」

「宿舎だぁ? んなもん作ったのか。」

「寮の部屋は空きがないし、まさか他校のお客さんを適当な空き教室に放り込むわけにはいかないからね。学院長と他数人の手を借りて作ったのさ。選挙期間中くらいは維持できるよ。」

「つーかあっちの連中だって選挙なんじゃねーのか? 時期にズレはあるだろうが。」

「うん、既に生徒会長じゃなくなってる人もいるから、新生徒会長をお披露目に来るところもあるんじゃないかな?」

「はぁん……他の学校の選挙ってのには興味があんな……」

「ふふふ、そんな見た目のクセに根っこは真面目だよね。」

「ケンカ売ってんのか!」

「それはそうと、毎年恒例のお疲れ様パーティーの出し物は決まっているのかい?」

「あ? 何の話だ?」

「ほら、選挙の後に任期を終えた生徒会メンバーと各委員会の委員長に一年間ご苦労様でしたって言うあのパーティーだよ。」

「いや、それはわかってっけど……なんだ出し物って。」

「おや? あのパーティーの主催はその時の元生徒会長なのだから今回は僕なわけで、僕が任されるからには全員に一発何かをしてもらうというのは当然だろう?」

「当たり前みてぇに言うな! 聞いてねぇぞこの野郎!」

「やや、これはいけないね。まさか他の委員長も用意していないのかな? 言っておかないと。」

「だ、おい待てデルフ! ふざけんじゃねぇぞ!」

 選挙管理委員長の声が廊下にこだまするのを聞きながら、デルフはマイペースな足取りで他の委員会の部屋へと向かう。そして選挙管理委員会と同様にそれぞれの委員長を怒らせながら校内を巡ったデルフは、自分の部屋である生徒会室に戻って来た。


「相変わらずだな、デルフ。」


 そしてその部屋のソファに座ってそう言った人物を見て驚きつつ、普段会計が使っているポットでお茶を淹れた。

「お返事の手紙には明日到着って書いてなかったかい?」

 そして会計が淹れると妙な色彩になりがちだが今回は一般的なカラーリングになったお茶をその人物に出しながら、自分もソファに座った。

「他の面々が来る前に伝えておいた方が良いと考えた。」

 出されたお茶をすするその人物は、軍服のような服に身を包み、キラキラしている金髪をどこかの王子様のような髪型にしてメガネを光らせている姿勢の良い男で、向かって左のほっぺに黒い模様のようなモノが描かれていた。

「他の学校よりも早くきてリゲル騎士学校の生徒会長が僕に伝えたい事とはなんだろうね、ゴールドくん。」

 ニヤニヤと笑ったデルフに対し、その人物――リゲル騎士学校生徒会長、ベリル・ゴールドは無表情に呟いた。


「マルフィについてだ。」


 瞬間、人をからかうような笑みを浮かべていたデルフの表情が鬼気迫るモノになった。

「名前を出しただけでこれとはな。」

「……それは、この前の交流祭で僕が勝った時に何でも答えるって言った分の情報かな……?」

「他の何かを知りたいというなら別の情報でも構わないが?」

「いや、いい。それで?」

「知っての通り、リゲル騎士学校は国内だけでなく他国の軍からも引き抜きが多くかかる。セイリオス学院も同様だろうが、こちらは学生時代から軍人としての教育を行う分、声をかけてくる国が幅広い。結果として構築されたリゲル騎士学校の広大な情報網に最近、マルフィの名前が頻繁に上がっている。どういう移動方法か知らないが、偏りなく世界中にな。」

「……目的は?」

「不明だ。村や町、軍の施設などを攻撃する場合もあれば姿を見せただけで何もせずに消える場合もある。この国の国民も大半がそうだが、魔人族をおとぎ話の存在と考えている者が多い影響で正確な報告が上がりにくいのも行動がつかみきれない原因だろう。」

「……そうか……」

 話を聞いて何か考え込むような顔になったデルフを見て、ゴールドは目を細めた。

「……「そうか」、か。」

「……なんだい?」

「いや……お前のマルフィへの執着は先の反応で理解したが、それにしてはあっさりしていると思ってな。本当に不明なのか、他に気づいたことはないか、無意味とわかっていても追加の質問をしそうなところを「そうか」の一言だ。」

「……」

「もしかして、今の情報を元に事の詳細を知る方法がお前にはあるのか?」

 先ほどから全く変化のない無表情で目の前のデルフを見つめるゴールドだったが、それを数秒行ったところでふぅとため息をつき、横に置いていたカバンから紙の束を取り出した。

「まぁいいだろう。今の話は最近入手した情報故にここに書いていないから話したまでで、本命はこっちだ。」

「これは……」

「自分が得たマルフィに関する情報の全てだ。好きに使え。」

「……感謝する。」

「礼を言われる筋合いはない。交流祭の試合で行った契約の下、敗者である自分が条件に従ったまでだ。」

 受け取った資料をパラパラと眺めた後、デルフはパンッと両手を叩いてニッコリと笑った。

「いやいや、それでもありがとうさ。負けてくれてどうもどうも。」

「お前……」

「ゴールドくんたち用に宿舎を用意したからね。そっちに案内するよ。ちなみに弟くんはいないのかい?」

「愚弟は明日到着するが……デルフ、その愚弟用に一つ用意してもらいたいモノがある。」

「?」

 ゴールドから用意して欲しいモノについて聞いたデルフは、ふふふと笑ってこう言った。

「それが発動するような事態になったら、これ以上ない凄惨な事が彼を襲うだろうね。」

毎度お馴染み、先生のイベント説明で選挙の詳細が語られました。本来戦うイベントではないのですが、騎士の学校なので「選挙戦」です。


相変わらずのやらかしをロイドくんがする一方、騎士と犯罪者の方でも動きがありましたね。

十二騎士が「個人」最強の十二人ならば、「騎士団」としての頂点が六大騎士団というわけで、フェンネルさんはそこの元メンバーでした。強いはずですが、そんな彼を退かせたマルフィとはどれほどの存在なのでしょうかね。


次から他校の面々が再登場しますから、にぎやかになりそうです。

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