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騎士物語  作者: RANPO
第八章 ~火の国~
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第五十七話 裸のつきあいと貴族の想い

新たな魔人族の登場と、温泉パニックです。

 アンジュの母親、ロゼの案内で……一応機密なんだと思うんだけど、研究所の中をあちこち見せてもらい、夕食には帰れるように頑張ると言ったロゼと別れ、あたしたちは街に戻るために再びケーブルカーっていうのに乗り込んだ。

「はー、つまりこいつはこの車両をケーブルで引っ張り上げてるわけか。フェルブランドなら魔法でふわっとやるところを機械でやるとこうなるってわけだ。」

「こういう斜面を行くモノとなると、他にはゴンドラっていう、ケーブルにこれみたいな車両がぶら下がってるタイプもあるぞ。」

「さすが、ロイドはあちこちを旅しただけあって詳しいな。」

 ロゼが研究してる機動鎧装っていうのに目を輝かせてた男三人がケーブルカーについて話してるんだけど……ロイドが男だけと話してる光景って珍しいわ。

 ……いや、たぶんそれはおかしいのよね。バカロイドはすぐにどこかの女を……ま、まったくもう……

「しかしスパイのようであれだが、アンジュくんの母親――ロゼさんから色々と聞けたおかげでもう一つの目的への具体的な道が見えてきたな。」

 あたしたちしかいないから丁度いいと思ったのか、ローゼルが話を切り出した。


 あたしたちが火の国に来たのはセイリオス学院の校外実習、魔法生物討伐体験特別授業としてカンパニュラ家からの任務をこなす為だけど、あんまり人には言えないもう一つの用事がある。

 ロイドのご先祖様のマトリア・サードニクス、旧姓マトリア・ベルナークが隠した……っていうか本人的には捨てたのかしら。ベルナークシリーズの三本の「剣」の内の最後の一振りがヴィルード火山のマグマの中に眠ってるって事が捨てた本人からロイドに伝えられた。

 ベルナークシリーズと言えば武器の中じゃ最高ランクのモノだし、何よりベルナークの血筋のロイドが使えば……交流祭でラクスが使ったベルナークの真の力みたいなのも使えるはず。アフューカスとかが動き出して、なんかよくわかんないけどロイドを狙ってるんだし、その剣は手に入れておきたいところ。

 でもベルナークの剣なんて世界中の剣使いが探してるって言ってもいいくらいの代物だから、その在り処だなんていうとんでもない情報を他の誰かに感づかれると先にとられちゃう可能性もある。実際、勲章をもらったあたしたちは色んな意味で色んな人に注目されてるから、こそこそ動こうとすると逆に目立っちゃう……と思うのよね。

 だから学院のイベントっていうちゃんとした理由で火の国に来れた今がチャンス。滞在中にベルナークの剣を回収する――これがあたしたちのもう一つの目的。


「てかやっぱりあったな、マグマの中に潜る方法。伊達にずっと火山の研究してねーよな。」

「うむ。だがロゼさんの話からするとかなり大掛かりな装置を使うみたいだったからな。わたしたちがこっそり使うという事は難しいだろう。やはりストカくんが合流する予定の魔人族の力をあてにするしかないようだ。」

「あても何も、俺が来たのはその為なんだぜ? 我らスピエルドルフの女王からの勅命でな。そこは心配しなくていーぜ。」

 キシシと笑うストカ。

……今更だけどあたしたち以上にこの魔人族に火の国の機密を見せてよかったのかしら……

ま、まぁ、ストカが魔人族だって事は秘密にしてるから見せた側は気づいてないけど……

「で、でも良かったね……魔人族、さんが来てくれるのは……もちろんだけど、火口……以外にも入り口、がある……みたいで……」


 最初、方法はともかくとしてあたしたちは火口からマグマに入ろうとしてた。だけど……まぁよく考えたら当然なんだけど、火口には簡単に行けないようになってた。

研究所から伸びてる他のケーブルカーで行くみたいなんだけど、それに乗るには研究所内でかなり上の権限を持ってるか、その人たちから許可をもらわないとダメらしい。

 ケーブルカーを使わないで山登りするっていうのも、火口付近はがっちり監視されてるからバレずに行くのは無理っぽい。どうしたもんかって思ってたんだけど、ロゼによるとマグマが出てきてる場所は他にもあって、街の中で間近にそれを見られる場所もあるらしい。


「ちょっとした観光スポットにしているらしいから、近づくことは簡単だろう。あとでその場所に行って、マジックアイテムで位置を特定できるか確認しよう。」

「ロイドがロイドのままで探せるといーけどねー。無理だったらマトリアって人を呼び出すんでしょー? またロイドがおばさんみたいになっちゃうねー。」

「おばさんというか、マトリアさんは完全におばあちゃんだけどね……」

「ひひひ、あの時のロイド面白かったからなー。「あらやだ」とか言って――」

 あの時の事を思い出して笑うストカだったけど、ふと何かに気づいたみたいに窓の外を見た。

「おー、タイミングばっちしだな。マグマに潜れる奴が到着したぜ。」

「えぇ? なんか合図でもあったのか?」

「人間には見えねーだろうーけど、のろしみてーに魔力があがった。」

「へぇ。そういえば列車で襲われた時も攻撃の一瞬手前で何かに気づいてたけど、魔力ってそんなにハッキリ見えるモノなのか? 一応この辺って火の魔力で覆われてるんだろ?」

「誰かが魔法を使う時の魔力は結構見えるし、なんとなくの気配も感じる。でもって自然に発生しちまってるような、この辺の火の魔力みてーのはモヤモヤした霧みたいに見えてるぜ。」

「はー、そんな風に……もしかしてオレの右目も頑張れば見えたりするのか? 元はミラちゃんの右目なわけだし。」

「さーな。目玉交換したら見えるようになるかなんて試した奴いねーし。あーでも、恋愛マスターとかゆーののせいで今まで忘れちまってたから何もしてなかったが、人間と吸血鬼――しかもあのユリオプスを交換したってすげーことだからよ。最近ユーリとかが色々研究を始めたぜ。その内ロイドの検査もしたいとかなんとか言ってたから、そん時聞いてみろよ。」

「そうなのか? 今度聞いてみよう。んでストカ、その到着した魔人族ってのはどこにいるんだ?」



 ケーブルカーから降りて街中に入り、ストカについてってちょっと歩くと……なんか、何かを遠巻きに眺める人の群れが見えてきた。

「あー、あそこは焼き菓子が美味しいところだよー。ほら、うちで出てきたでしょー? あれ売ってるところー。」

「む、あれか。確かに美味しかったが……それを買う行列というわけでもなさそうだぞ、あの人だかりは。」

「あー……なんかものすげー美人が店の前に立ってんぞ。」

 あたしたちよりも……っていうか大抵の人よりも背の高いアレキサンダーが人だかりの向こうを眺めてそう言った。

「なんつーかあれだな。男子寮でたまに回覧される――あー、なんつったかああいうの。ほら、セクシーな女ばっかり載ってるあれ。」

「グラビア雑誌の事か?」

 アレキサンダーの疑問にカラードが答えたんだけど、まさかカラードからグラビア雑誌なんて言葉が出てくるなんて――っていうかいきなりなんの話題よこの筋肉は! しかも男子寮で回覧されるって!!

「あー、それそれ。それに出てきそうなえらいナイスバディの女が割と攻めてる格好でつっ立ってんだ。待ち合わせみてーに――お、なんだ?」

「? どうしたアレク。」

「いや……気のせいか、俺と目が合って……んで俺らの方に向かってくんぞ。」

 数秒後、人だかりが二つに分かれて一人の女があたしたちの前までやってきた。


「お初にお目にかかります、ロイド様。」


 そしてロイドの前で片膝をついてひざまず――ちょっと!

「びゃ!」

 ロイドが慌てて横を向く。なぜならその女は膝の少し上くらいの丈のスカートをはいてて、その状態で膝をつく姿勢になったから――ってあれ?

「む? アンジュくんのスカートと同じ感じに内側が見えない……ということはアンジュくんの知り合いか?」

「あたしの知り合いにロイドを様付けする人はいないよー。どー考えてもそこのサソリちゃんの仲間でしょー。」

「まぁ、そうだな。しかしこれでは自己紹介もできないな。場所を移動しようではないか。アンジュくん、いい場所はないか?」

「そだねー……」

 ざわつく人だかりを横目にアンジュの先導で少し歩き、あたしたちは……どんな街にも一か所くらいはありそうななんとなくひと気のない一角に移動した。

「さて、出会いがしらにロイドくんを誘惑しようとしたあなたは一体誰なのだ?」

「誘惑?」

 ローゼルに温度の低い笑顔を向けられた女は「なんのことやら」って顔で数秒黙り、そしてハッとした顔で自分の身体をペタペタ触り始めた。

「そ、そうでした! あの姿であの服装ということは――ああ! お見苦しいものを! ロ、ロイド様にそのようなことをしたと女王様のお耳に入ったら私はどんな罰を与えられることか……!!」

 ペコペコと土下座しかねない勢いで謝罪する女。むしろ土下座の態勢に入ったけどロイドに肩をつかまれて阻止された。

「あ、あの、大丈夫ですから! ミラちゃんもそんな怒らない……と思いますから!」

「そーかー? 俺なんてミラより胸がデカイってだけで最近睨まれるぞ。」

 ストカが睨まれるのはそのデカイそれをロイドにぶつけにいくからだと思うけど……

「と、とにかく自己紹介です! あ、あの――ミラちゃんの国の人ってことでいいんですよね……?」

「は、はい!」

 背筋をピンとさせて敬礼した女は、改めて見るとなんか内と外がチグハグだった。

 アレキサンダーが言ったみたいに、グラビア――それもちょっとセクシーよりの雑誌なんかにいそうで……引き合いに出すのがむかつくけどローゼルみたいなナ、ナイスバディな感じで、肩とか背中が露出するセクシーな服を着てる。顔もかなりの美人で、本当に雑誌から出てきたんじゃないかってくらいなんだけど……そんな外見で土下座を決めようとする辺りに違和感があるのよね。

「えっと――そ、そうでした! これを……」

 そう言いながら女は胸元に手を突っ込んで黒いガラス玉みたいのを――ってムカツク場所にモノ隠してんじゃないわよ!

「一目はないようですが、念のために。」

 女が黒いガラス球を地面に置くと、一瞬不思議な浮遊感を覚えて……気が付くと周りの風景が一段階暗くなってた。

「これで他の人間から見聞きできなくなりました。簡易的な夜の魔法とお考えください。」

 そして女は姿勢を正し、コホンと咳ばらいして自己紹介をした。

「私は海のレギオン所属のヴァララ・ラウカールと申します! ロイド様の新たな武器の回収のお手伝いをさせていただく為、やって参りました! よろしくお願い致します!」

「こちらこそよろしくです。えっと、ロイド・サードニクスです。」

 そう言ってロイドが握手を求めると、女――ヴァララは美人の顔に似合わない子供みたいな嬉し顔でロイドの手を両手で握った。

「こ、光栄です!」

「そ、そんなにかしこまらなくても大丈夫――あれ……?」

 嬉しそうな顔でロイドの手を握るヴァララのその両手を不思議そうに見つめるロイド。

「ロイくん、握手が長いよ!」

「! あ、ご、ごめんなさい……でももしかして……さっきも「あの姿であの服装」って言ってましたし……あの、その姿って……幻術か何かですか?」

「よくお分かりに――あ、そ、そうですね、直接触れればわかりますね。で、では――」

 ロイドの手を離して一歩下がった女は、また胸元に手を突っ込んで――っていちいちムカツ――


『こちらが私の本来の姿になります。』


 瞬きの瞬間……気づけばその場からあのグラマラスな女は消えていて、代わりに立ってたのは……言うなればフルトの赤色バージョンだった。

 スピエルドルフの魔人族おなじみの黒いローブ姿だから顔しか出てないけど、そこにあるのは赤い液体がマネキンの頭の形になった感じのモノ。きっとローブをとったら人の形をした赤い液体って感じになると思う。

 ただしその赤い液体っていうのは赤い水じゃなくて……たぶん、マグマだわ。赤々と光るその身体は見るからに熱そうで――

「ちょ、ちょっとロイド、あんたさっき握手……大丈夫なの?」

「いやぁ……なんかこう、お湯に包まれたような感覚で……だからフルトさんみたいな姿なのかなとは思ったんだけど……えっと、マグマ――ですか?」

『厳密に言いますと私はバルログという種族なので、この身体は何かと尋ねられますと「バルログの身体」というのが正解ですが……性質的には確かに、マグマが近いでしょうか。』

「む? マグマそのものではないのか? 確かフルトさんは自分の事を水だと言っていたが……そこは種族の違いというやつなのだろうか。」

『フルトブラント様はウンディーネ――そのお身体は完全なる水であり、意思を持った自然とも言われる種族です。対して我らバルログという種族は「マグマに近い身体を持った魔人族」――という表現になりますね。』

「ふむ……本当に多種多様なのだな、魔人族は……ちなみにフルトさんは性別がないと言っていたがラウカールさんは……」

『ヴァララ、と呼び捨てていただいて構いません。皆様より三つほど年下ですので。』

「む、そうなのか?」

 フルトがしゃべる時と同じように頭の中に響く声は中性的な大人の声って感じだし、身長はあたしたちよりも少し高いんだけど三つも下なんて……魔人族はわかんないわね。

『それとバルログもウンディーネと同様に性別の概念は存在しません。』

「む、そうなのか! またもやロイドくんを誘惑する者が登場したのかと思ったが良か――いや、それならそれでなぜわたしのようなセクシー美女に?」

『私はご覧の通りの種族なので人間の服装に関する知識が乏しく……それで昔フィリウス様が置いていかれたという本に載っている写真を参考に幻術をかけていただいたのです。』

「フィリウスの本? 読書してるとこなんて見たことないけどなぁ……どんな本ですか?」

『は、はい、えぇっと……』

 そう言ってヴァララは胸の辺りからローブの内側に手を入れてごそごそと本を取り出した。

 ……さっきからやってた胸元に手を突っ込んでた動きはこれだったのね――ってこの本!!

「お、そうそう。男子寮でまわってくんのはこーゆーのだぜ。」

 アレキサンダーが笑い、カラードが関心なさげに眺め、ロイドが「わわっ!」って顔をそむけたそれは……まんまグラビア雑誌だった。割とセクシーよりの……

「もー、フィルさんてばー!」

「あははー、人が集まるわけだよねー。こーゆー雑誌から抜け出たよーな美人が立ってるんだもんねー。」

「うむ、参考にするモノを間違えたな。次に幻術を使う時はどこにでもいそうな男性に……いや、わたしの姿というのも……」

「あんたなに言ってんのよ……」

『それは……す、すみません、私にできるのは幻術のスイッチをオンオフする事だけでして、解除したり見せる姿を変更したりという事は術者――私の場合はフルトブラント様にしかできないのです。』

 そう言いながら、ヴァララはストカが首から下げてる指輪と同じものを取り出す。ストカと同じで、あの指輪に幻術が仕込んであるわけね。

「へー、てゆーことはスカートの中を見えなくしたのもあのスライムさんなんだねー。」

『見えない……? ああそうでした! 良かった、女王様には叱られずに済みそうですね。』

「? どゆことー?」

『いえ、単純な話なのですが、参考にした人物の写真にその者の下着は写っていなかった為にその部分の映像がないのです。』

「あ、そーゆーことー。」

「し、下着が見えなく、ても……そ、それでもあの姿はめ、目立つ……よね……い、一応武器の回収ってこっそり……やる、予定だけど……大丈夫、かな……」

『こちらに滞在している間は火山の――マグマの中にいようと思いますから、幻術を使う機会は少ないかと……』

「マグマの中!? ――ってああ、そうか。ヴァララさんの場合はむしろそっちの方が居心地よかったりするのか。」

『は、はい! この国に来てからというもの、濃い火の魔力の影響で力がみなぎっております。マグマに入ればより一層かと。』

 ……なんかこのマグマ人間、あたしたち相手だと初対面の年上相手にドギマギしてるって感じだけど、ロイド相手になると緊張に加えて光栄とか喜びとかの感情が混じるわね……

 ロイドとカーミラの右目が入れかわったのはロイドがスピエルドルフで何かをしたからで、その結果ぜひ次の国王に――とか言われてるらしいんだけど……もしかしてあの国の魔人族は全員ロイドに対してこんな感じになるのかしら……

 ほんと、一体何したのよロイド……

「マグマの中が快適とは。先のフランケンシュタイン殿もそうだが、魔人族はすごいのだな。ちなみになのだが、例の武器を回収する際にはその位置を捕捉できるロイドがマグマに潜る必要があるわけだが、やはり対マグマ用の魔法などを使うのだろうか?」

 カラードの質問に、あたしも何か特殊な魔法を使うんだろうと思ってヴァララを見たんだけど……なんていうか、のっぺらぼうだから表情がないんだけど、たぶん言いにくそうに答えた。

『えぇっとですね……私――というよりはバルログの身体は高温高圧に耐えることができるのに加え、一定の形状を持たない液体でありまして……なのでその、恐縮ではございますが私の身体でロイド様を包むことで、マグマへの潜行をお手伝いできればと……』

「えぇ!? つ、つまりその、ヴァララさんを防護服――みたいにするってことですか?」

『よ、よい気分ではないかと思いますが、魔法で耐性を付与するとなりますとそこそこ大がかりな魔法になってしまい、他の人間に感づかれる可能性が――』

「あ、いえ、そういう心配ではなくて……なんだかヴァララさんをまるで道具のように……つ、使うというか扱うというか、それがちょっと……そ、それによい気分じゃないっていうならオレを飲み込むヴァララさんの方が……」

『そんなことは! ロイド様のお役に立てるこの機会、大変光栄に思っております! あの時のロイド様は私たちに――っと、い、いえなんでもありません……』

「おー、あぶねーなー。それ喋ったらミラに怒られるぜ。」

『き、気をつけます!』

 ……なんかうまいこと話の流れを持っていけばしゃべりそうね、こいつ。

「ま、まあ大丈夫なら……その、よろしくお願いします。」

『は、はい!』

「……ちなみにヴァララさんはどうやってここまで来たんですか?」

『それは……すみません、ロイド様が正式に王になりましたら明かせるのですが……今は秘密です。』

「そ、そうですか……それじゃあ武器の回収についてですけど……とりあえず今から観光スポットになっているっていうマグマが見られる場所に行ってマジックアイテムを使ってみようと思います。」

『了解です。』




 若干視線を感じつつ、グ、グラビア雑誌から抜け出たような姿のヴァララさんと共にオレたちは観光スポットにやってきた。そこはなんというか、地下を流れるマグマをたまたま地面にあいた穴から覗き見るというような場所だった。直径が数十メートルもある結構大きな穴で、周りには覗いた人が落ちないように物理的かつ魔法的な柵が設置されている。

 穴からマグマの表面まではこれまた数十メートルくらいあるのだが、柵から穴を覗くと顔にものすごい熱気がぶつかってきて、三分もそうしていれば顔が真っ赤になるだろう。

「このマジックアイテムって探してるモノがある場所と同じ条件下で使わないと精度がガタ落ちするの。位置魔法の同空間特定っていう技術の応用だからなんだけど、だからその武器がマグマの中にあるならマグマの中で使わないとうまく探せないかもしれないよ。」

 商人であり位置魔法の使い手であるリリーちゃんが、ローゼルさんが持ってきてくれたマジックアイテムを手にしたオレ――の腕に抱きつきながら教えてくれる……はうぅ……

「それでもこうしてマグマが見える場所であればその辺で使うよりは精度が高いわけだからな。使ってみて潜る前に場所がわかればそれはそれで良い事だ。さぁロイドくん、スイッチはここだぞ。」

 リリーちゃんと逆の腕にくっつきながらマジックアイテムの使い方を教えてくれるローゼルさん……あぁ……

 オ、オレはこの二人とアレを……い、いや、二人をおおお、オソッタわけで、こういう状態になると否応にも頭の中が肌色の記憶でいっぱいになる……ああああああ……

「ロイド……」

 そしてもう一人のオソッタ相手であり恋人であるエリルがジロリと……あぁ、三人の女の子とあれこれしてしまったオレって……この先もそういうのがありそうなオレって……!!

「それでしたら……リリーさん、ローゼルさん、ロイド様、少しよろしいですか?」

 二人にくっつかれて「あああああ」ってなっているオレにヴァララさんが近づく。ヴァララさんの真面目な顔にリリーちゃんとローゼルさんが「むー」って感じに離れ、ヴァララさんはほっとしたオレの後ろから手を伸ばしてマジックアイテムを持っているオレの両手を握った。

「ななな、何してんのヴァララちゃん!」

「お、落ち着くのだリリーくん、これはそう見えるだけ――なのだ!」

 た、たぶん傍から見るとナイスバディで露出高めの美女が後ろから抱きついているように見えている……のだろうが、じ、実際にオレが感じているのはむむ、胸の柔らかさなどではなく、マグマのような身体を持つヴァララさんのお湯のような心地よい体温だけだ。

「確かにマグマの中が一番ではありますが、ここのそれは高濃度の火の魔力を含んでいますから、私から魔力の道を作ってマグマにつなぎ、疑似的にこの機械の周囲をマグマの中の魔力濃度と同じ状況にすることで精度はある程度上がるでしょう。」

 ヴァララさんがそう言うと、手にしたマジックアイテムの周りがほんのりと温かくなった。もしも魔力というモノが見えたのなら、マジックアイテムとマグマをつなぐ魔力の管のようなモノが見えるのだろう。

「じゃ、じゃあ起動します。」


 このマジックアイテムは……作り方が簡単なのか、同じようなモノを色んな会社が出していて、それぞれに形が違うようなのだが、機能そのものに大した差はないらしい。


 まず有効範囲だが、これは数百メートルから数キロあるらしい。使う人が魔法素人だったり位置魔法の使い手だったりで前後するらしいのだが、日常生活で使う分には充分すぎる範囲を持っている。

 ちなみにリリーちゃんによると、構造が簡単であるがゆえにそれ以上の改良ができず、位置魔法の使い手が魔法をいじって範囲の拡大をしたりもっと大規模な魔法陣を使ったりしたとしても十キロくらいでとどまるらしい。

 だから……悪党視点で言うと、何かを盗んだ時は位置魔法なり速く移動できる魔法なりを使って十キロも離れれば追われる心配がなくなる……ということのようだ。んまぁ、十キロって相当な距離なわけだが、予め準備しておけばどうとでもなってしまうのだとか。


 次に精度だが、これはなくしたモノとの距離で変化する。つまり近づくほどに場所が特定できるようになるのだ。逆に言えば離れていると精度は落ちるわけで、有効範囲が数キロあると言っても、実際に数キロも離れた場所からだと「なんとなくあっちの方向にある気がする」くらいの精度になってしまうらしい。それが近づくにつれ、「あの街にある」、「あの家にある」、「この部屋にある」、「あの棚にある」というようにハッキリしていくのだという。


 でもって今回の場合、このマジックアイテムでマトリアさんの武器を探せるのはオレなのだが、オレは位置魔法なんて少しも使えない。ゆえに有効範囲は最小の数百メートルになるのだが、ヴィルード火山の裾野の直径は数十キロある――とアンジュのお母さんのロゼさんが言っていた。

 仮に数キロの有効範囲で探せたとしても、精度の点を考えるとオレがマグマに潜ってあちこち探しまわる必要があり、今思えばヴァララさんの――スピエルドルフの協力がなければ到底なしえなかった事なのだ。

 んまぁ、それでももしかしたら数百メートルの有効範囲で見つけられるかもしれないわけで、協力が無かったとしてもウロウロと捜索していただろうが……


「えぇっと……反応しませんね……」

精度の問題か有効範囲の外なのか、マジックアイテムはうんともすんとも言わない。

「ふむ……一応マトリアさんに出てきてもらうか?」

「そうですね……えっと……」

 オレは服の首元に手を突っ込み、首から下げていたモノを引っ張り上げた。

 以前、パムがフィリウスといっしょに故郷の……今はもうないその場所に行ってマトリアさんが何者かというのを調べに行った時に見つけた指輪。子孫を守る為、魂から魂へと渡り歩くマトリアさんの特殊極まりない魔法を補助するマジックアイテムであり、これがないとマトリアさんの力は半減するのだという。

 本人的にはずっと眠っている状態――一度も呼ばれないことが良い事だと考えていて、子孫に子孫とは関係のない悪意などがふりかかって命の危機に瀕した時に自動でマトリアさんが呼び出されるという仕組み……らしいので、本来はマトリアさんを「呼び出す」という事は不可能だ。

 ただ今回に限り、オレという子孫を守る為の武器を与えるという理由で、一時的にこの指輪からマトリアさんに呼びかけることができる状態にしてくれているのだ。

「! ロイド様、そちらの指輪は……」

「え、ああ、ミラちゃんにもらった指輪です。どっちの指輪も身に着けておきたいけど指にするのはなんだか……恥ずかしくて、なので首から下げることにしたんです。」

「それは……いえ、むしろ女王様は喜ばれることでしょう。」

「?」

 ヴァララさんの言葉に首を傾げつつ、オレは指輪をはめてマトリアさんに声を――


『あらあら、懐かしいわねー。』


 ――かけようと思ったら指輪からマトリアさんの声がした。

『剣を捨てに来た時以来だから数百年ぶり? こんなに立派な国になっちゃって、昔は小さな小屋がいくつかあるだけだったのに。』

「あ、あんたが……マトリア?」

 そういえばマトリアさん自身の声を聞くのは初めてのエリルたちがオレの周りに集まる。

『そうよ、ジャガイモ作りのサードニクスとはあたしのことよ。』

「ジャガイモ……ってどういうことよ……」

「いや、エリル、サードニクス家は農家ですから……」

「今や兄妹そろって騎士だがな。どうも初めまして、わたしはローゼル・リシアンサス。将来あなたの魂はわたしが生むであろう子供に受け継がれる予定ですのでよろしく。」

「ローゼルしゃん!?!?」

「あ、あんた何言ってんのよ!!」

『ふふふ、今の時代の子は積極的ね。これじゃあ次の代、あたしの魂は何分割されるのやら。』

「ナンブンカツ!?!?」

「む? そういえば……何代もベルナーク――いや、サードニクスの血筋を守ってきたあなたの魂は、この数百年の間に何度も分割を繰り返しているのでは? まさかロイドくんとパムくんが初の兄弟姉妹というわけではないでしょうし。」

『もちろんよ。けれど……時代の厳しさというのかしらね。次代に血筋を残せずに亡くなった子供たちも多いのよ。その場合、あたしの魂はまだ生きている子孫へと移動して分かれた魂が再び一つになるの。そんなこんなで今は、この兄妹のみに分かれているのよ。』

「なるほど、では血筋を絶やすわけにはいかないな、ロイドくん。」

「えぇっ!?」

『まー孫の話はこれくらいで、あたしが出ている状態でもう一度やってみてちょうだい。』

「は、はひ……」

 なんだか軽く流してはいけない話題のような気もしたが、オレはマジックアイテムをもう一度起動させた。

「……反応なしですね……」

『あら。それじゃあこの山をぐるっと一周しなきゃだめかしらね。』

「……あー……おい、今更だけどよ……」

 直径数十キロの山を一周とは大変だなと思ったところでアレクが指輪を覗きこんだ。

「あんたが隠したんだからその場所に案内してくれればいーだけじゃねーのか?」

「いやアレク、それから数百年経っているのだぞ? マグマは流れるモノであるから、剣の位置も移動して……んん? そういえばそうだ。既にどこかへ流れてしまっている可能性もあるのではないか?」

 アレクじゃないが今更ながらそれに気づいてハッとしていると、マトリアさんが……たぶん指輪の中? で首を横に振った。

『大丈夫よ。どこかに流れてうっかり地表に出て誰かの手に渡るなんて事があったら困るから、その辺は工夫したわ。流石に噴火とかしちゃったらヴィルード火山の外に移動しちゃうだろうけど、昔と同じで今も噴火しないようにしているのでしょう?』

「マトリアさんが生きていた時にはもうそれが行われていたんですね。火の国って歴史長いんだね、アンジュ。」

「国としてなったのはもっと後だと思うけどねー。学者が最初に来たのはかなり昔だって聞いたよー。」

「となるとアレクの言う通り、場所が移動していないのならその場所を教えてもらうのが手っ取り早いのでは?」

『ヴィルード火山からは移動していないと思うけど、その場所そのものが動いてると思うのよね。ほとんど自我はないとはいえ、植物みたいな意識はあるから火山内をウロウロしてるのよ、あの子。』

 まるで武器が――いや、武器を隠した場所が生きて動いてるかのような表現に頭が追いつかないオレたちだったが、ヴァララさんがハッとした顔になる。

「まさか……いえ、これほどの魔力濃度であれば生まれる可能性はありますか。」

「こ、心当たりがあるんですか、ヴァララさん。」

「はい。この山のようにマナや魔力の濃い特殊な環境で時折起こる現象なのですが、無生物に……命が宿るとまでは言いませんが、意識のようなモノが生じることがあるのです。ただウロウロするだけのモノもあれば、近づいたモノを無差別に攻撃したり、そこで採れる珍しい鉱石などをくれたりと行動は様々ですが、巨大な岩の塊や山そのものが動くことがあるのです。」

「む? その話、聞き覚えがあるな……いつだったか父さんが言っていた。マナの濃い特殊な場所には現地の人から神だ悪魔だと呼ばれる巨大な生き物が確認されることがあると。それがこの山にもいるわけか……」

『そうなの。あの子は言うなればヴィルード火山内にとどまり続けるっていう意思を持ったマグマだから、噴火とかで火山内から追い出されたりしない限りはそこに居続けてくれるってわけ。』

「……そんなのがいるって、少なくともアンジュの母親の話には出てこなかったわよね……まさか数百年もバレずにそこにいるってわけ……?」

「どーかなー。おかーさんも他のチームの研究の全部を知ってるわけじゃないだろーしねー。」

「あれ……ということはもしかすると見つかってる可能性もあって……そうだったらきっと監視とかもしてるだろうから……マグマに潜ってその、マトリアさんの言う「あの子」に近づいたら見つかっちゃうんじゃ……」

「む、それはあるかもしれな――いや、だが確かさっきアンジュくんの母親が言っていたな。研究所内の電源が滅茶苦茶になったと。実際見学した時も消えている画面や煙を出している機械がチラホラあったから、監視があったとしても今はできていない可能性が高いな。」

「せ、千載一遇の……チャンス、っていう、こと……かな……」

「やるなら今夜って感じだねー。となると問題はその「あの子」がどこにいるかかなー。研究所の施設は使えないから、やっぱり歩き回るしかないのかなー。」

「むぅ、一晩でやるには若干運任せだな……」

「では……しばし私に任せていただけますでしょうか。」

 一瞬ひざまずこうとしたけどとどまり、どこかの執事のようにペコリと頭を下げたヴァララさん。

「これほど魔力濃度の高いマグマですから、潜ればそれを通して広範囲を知覚できるでしょう。相手は魔法生物でもなければそもそも生命でもありませんが、それでも意思を持って動く以上は他のマグマと動きに差異があるはずですから、それを探ってみます。運が良ければロイド様が潜ることなく武器をお渡しできるかもしれません。」

『あら、それはありがたいわね。さすが魔人族ってところだけど……もしもあの子を見つけても武器を回収しようとはしないでちょうだい。もう一つ仕掛けがあるから、場所だけ覚えておいて。』

「わかりました。ではロイド様、後ほど。」

 ヴァララさんがそう言うと、突然近くの岩にひびが入って蒸気が噴き出した。

「うわ、び、びっくりした――ってあれ、ヴァララさん?」

 オレたちやたまたま居合わせた観光客がふきあがる白い煙に目を奪われる中、ふと気がつくとヴァララさんがいなくなっていた。

「ああ、あいつならもう潜ってったぞ。」

 マグマを指差しながらストカが何でもないように言った。

「ちなみに俺がいるのは、こうして潜ったあいつの居場所を感知できるように他の魔人族がいねーと、ロイドが潜った時とかに状況が見えねーからって理由だぜ。」




 マグマ人間……ヴァララにとりあえずを任せたあたしたちは火の国の首都であるベイクの街を散策し、夕方頃にアンジュの家に戻った。

「お嬢様、こちらを。」

 あとは夕飯までおくつろぎをとか言われたんだけど、執事の一人がなんでかアンジュにエプロンを渡した。

「エ、エプロン……」

「あれー、ロイドってば思い出しちゃったー? 裸エプロン。」

 交流祭の時にアンジュがやったアレを思い出したらしいロイドが顔を真っ赤にする……!

「んふふー、大丈夫だよー。今日は普通に料理するだけだからねー。まーまた見たいっていうならあとでゆっくりと――」

「料理! 料理ですか! えっとつまり――アンジュが夕飯を作るんですか!」

 バタバタとアンジュの言葉を遮るロイド……

「そだよー。ほら、交流祭でロイドへのご褒美で手作り料理ってあったでしょー? いい機会だから作ろーかなーって。さすがにフルコースはあれだから一品だけだけどねー。」

「む、そういえばそんな約束があったな。あの後ロイドくんがラッキースケベになったりわたしと愛し合ったりでスッポリと抜けていたが……うーむ、やはり妻の料理の腕前は夫として気になるところか……」

「一足先にお披露目しちゃうよー。みんなの分も作るからねー。」

「む、ちょっと待つのだ。食べた瞬間に青くなるような漫画料理ではないだろうな。」

「失礼なー。あたしはいざって時にはある程度自分でなんとかできちゃうお姫様を目指してるんだよー? 騎士がいなくても戦えるようにってゆーのと同じよーに、お抱えのシェフが急病で倒れても大丈夫なように練習してるんだからー。」

 そう言って台所……っていうか厨房に消えてったアンジュ。

「アンジュの手料理かぁ……やっぱり火の国の名物的な料理なのかな……」

「……嬉しそうね……」

「え、あ、や……はい……」

「火の国、の名物って……さっき街を歩いた、感じだと……辛い料理っぽかった、よね……」

「イメージのまんまって感じだよね。確かにここって香辛料が結構流れてくるし。」

「むぅ……アンジュくんの故郷でアンジュくんの家……手料理を振舞うには最適な環境というわけか。アンジュくんめ、いいタイミングで……」

 料理……お菓子なら何個か作れるけどご飯は……

 ……今度アイリスに何か教わろうかしら……



「いやいや、全員がそろってよかった。」

 夕食。ここに来た時に紅茶と焼き菓子を食べた部屋とは別の、より豪華な広間。そこに置かれた長テーブルにあたしたち『ビックリ箱騎士団』にストカを加えた九人、アンジュの師匠で例の襲撃の事後処理を終えたらしいフェンネル、研究所から戻ってきた……っていうか本人が言うには抜け出してきたアンジュの母親のロゼ、そしてアンジュの父親でカンパニュラ家の当主のカベルネが座った。

「例年通りであればフェンネルが率いるチームでワルプルガに臨むところを、今年は学生の身でありながらフェルブランド王国シリカ勲章を受勲したセイリオス学院の『ビックリ箱騎士団』を招いた。次代を担う若き騎士たちの良き経験となれば幸い、カンパニュラ家の未来を担う者が決まれば重ねて幸い――皆全力をふるい、そして私たちは見極めるとしよう。では乾杯だ。」

「カンパーイ! ――あららロイドくん、どーしたの? 大丈夫よ、みんなのはジュースだから!カンパーイ!」

「は、はひ……」

 ロイドをアンジュのダ、ダンナとして見極める的なことを言って乾杯を叫ぶカンパニュラ夫妻に顔を赤くするロイド……

「ふふふ、安心したまえロイドくん。当主様は見極めると言っているけど、求められる何かがあれこれあるわけではないからね。アンジュが気に入ったという時点で合格ラインは超えているのさ。」

 あたしたちも一応正装ってことで制服を着てるように、最初に会った時のあの変態格好じゃない、普通のスーツを着てるフェンネルがグッと親指をたてる……全くどいつもこいつも人の恋人を……!!

「……い、一応言っておくけど……そいつはあた――あたしの恋人よ……!」

 気合を入れてビシッと言ってやった――んだけど、ロゼがむふふって笑う。

「私もねー、カンパニュラ家の跡継ぎであるこの人を落とすにあたって結構な数の貴族令嬢を蹴落としたからねー。相手が王族だって望むところってもんよ、アンジュ!」

 しかもどいつもこいつも奪う気満々……! なんなのよ!

「じゃー蹴落としの第一歩だねー。あれよろしくー。」

 アンジュがそう言うと、執事……コック? 的な人がゴロゴロと料理を運んできてそれを全員の前に一皿ずつ置いた。

「あたしの手料理、ヴァルカノ名物のマポトゥフだよー。」

 それは見るからに辛そうな赤いスープ……っていうかタレ……? にひき肉と豆腐が混ぜこぜにされた料理だった。

「前菜をすっとばして出すとは、余程の自信があるようだなアンジュくん……」

「わかってないなー優等生ちゃんはー。一番お腹がすいてる時に食べた方がより美味しくなるでしょー?」

「わぁー美味しそうだね。いただきます。」

 軽いイベントみたいなノリで出したアンジュだけど、ロイドがそう言った瞬間ちょっと緊張した顔になって……あたしたちはともかくカンパニュラ家の面々までじーっとロイドを見つめた。

「むぐ――おほっ!」

 食べてすぐに口をおさえたロイドにアンジュの顔色が悪くなるけど、ロイドの表情は別に悪いモノじゃなくて……

「結構辛くてびっくりしたけど――うん、これはただの辛さじゃなくてクセになる辛さだね。うんうん。」

 その後モグモグと二、三口食べたロイドは……当然のようにロイドの隣の席に座ってたアンジュににっこり笑いかけた。


「美味しいよ、アンジュ。ありがとう。」


 その笑顔は……なんていうか、胸の辺りにキュン――っていうかグッとくる変な威力を持ってて、ロイドが恥ずかしい事を言ったりヤラシイ事をしたりした時とは違うドキドキと一緒にあたしの顔を赤くした。

 横から見てたあたしがこれなんだからそれを真正面から受けたアンジュは……

「――!!!」

 ……恥ずかしいっていうか驚いたっていうか、なんとも言えないムズムズする顔で真っ赤になった。

「そ、それは――良かった、よー……うん……」

「なんだかあれだね、ごはんが欲しくなるよ。」

 美味しそうにモグモグ食べるロイド……

 ……な、何よさっきの笑顔……あんなの見た事……あんな顔……し、してくれるのなら……あたしも……あたしも……

「――あらま。ちょっと想定外かもしれないわねー。あなたと違ってロイドくんは天然のヤバイやつかもしれないわー。」

「? 何の話だ?」

 何が起きたのかを理解してるらしいロゼとよくわかってないカベルネ。男には――いえ、同性にはわかんないのかしら……何かを作ってあげてあんな顔返されたら……もう……

「むほ、こりゃ確かにうめーな! なんつった? マポ?」

「マポトゥフだ、アレク。しかし前から思ってはいたが、ロイドは美味しそうに食事をするな、毎度。」

「そうか? んまぁ、なんでもうまそうに食べる奴に育てられたからかもな。」

 ロイドに続いて食べ始めた強化コンビに対し、もじもじしてるアンジュを見てドキドキ顔からぐぬぬっていう顔になってくあたしたち……

「ロ、ロイドくん! 学院に戻ったらわたしが至高のパスタをごちそうしてあげるからな!」

「は、はい。」

「あ、あたしも……腕に、よりをかけて……作る、よ……!」

「う、うん。」

「ロイくん! ボクは一人旅が長いしあっちこっちの秘密の食材とか知ってるからね! すごいの作っちゃうよ!」

「た、楽しみだよ。」

「料理か。今度俺もやってみっから食ってみろよ、ロイド。」

「あ、ああ。」

「……あたしのも、待ってなさいよ……!」

「も、もちろん。」

 突然の事にはてな顔のロイドだけど……こいつ、この手料理勝負に盛大に油を注いでくれたわね……!




 アンジュの手料理の後も火の国の名物料理が次々と登場し、全部が全部辛いわけではないがどれもごはんの進む味付けでとても美味しかった。見た目通りによく食べるアレクなんかはえらい回数ごはんのおかわりをお願いしていた気がする。

 最初にカベルネさんが説明してくれたが、ワルプルガは明後日から。フェンネルさんによるワルプルガとはなんぞやという話は明日じっくりするという事で、この夕食は火の国についてや学院でのアンジュの様子についてなどが話題となった。

 オレやみんなの活躍なんかも話したのだが……そこからオレをアンジュのダダ、ダンナサマにする的な会話の流れになった結果、この『ビックリ箱騎士団』においてオ、オレ争奪戦が勃発していることが明るみに――だぁああ! 自分で言うとすごく恥ずかしいぞ!

 す、少し気を使ったのがストカの立ち位置で、『ビックリ箱騎士団』の新メンバーという事になっているけど、実はオレがフィリウスと旅をしている時に会っていてそこからの知り合いなんです――という、気持ち事実の混じった設定でカンパニュラ家の人たちには話すこととなった。

「ふふふ、となると少し不思議なポジションにいるのがそちらの男子二人だね。カラードくんとアレキサンダーくん……もしや男性としてロイドくんを狙っているのかな?」

「いや、そんなことはない。おれたちはロイドの友人であり、更なる精進の為にロイドの部活である『ビックリ箱騎士団』に参加している身だ。」

「色々と珍しい経験もできっからなー。勲章もらったり、こうして火の国にまで来ちまったりよ。」

 フェンネルさんのニンマリとした質問にさらりと答える二人。も、もしかして『ビックリ箱騎士団』にいることでそういう目で見られるようになってしまっていて、この手の質問にも慣れているとかじゃないだろうな……

「ほう、なるほど。ではアンジュや他の子たちを狙ったりは?」

 更なる鋭い質問に対し二人は……

「魅力的な女性ばかりだとは思うが死にたくはないのでな。それに出会いの指針は既に示されているゆえ、その時を待つのみだ。」

「だな。あのちびっ子のおかげで騎士道に専念できるってもんだ。」

「?」

 フェンネルさんは首を傾げるが、二人が言っているのは恋愛マスターのことだ。スピエルドルフに行く前辺りに行われた男子会に登場した彼女が二人にも良い女性との出会いがあると言っていて、全能の恋愛師を自称し、実際そうだろう彼女の言葉なのだからそれは確定なのだ。

「ふん? 今一つわからないが……ともあれ、そうなると今夜のあれ、二人は外した方がいいのかな。」

「あん? なんの話だ?」

「ふふふ、こちらの話さ。ところで食事はもちろんだが、我が国の名物として誇れるモノがもう一つあるのだがご存知かな?」



 夕食後、しばしの談笑の後に案内されたのはカンパニュラ家のお風呂なのだが――ずばり、それは温泉だった。

「ふむ、まぁすぐそこにマグマを垂れ流す火山があるのだからな。街にも源泉かけ流しをうたう銭湯や旅館がいくつもあったからもしやとは思っていたが……自宅のお風呂が温泉とはすごいな。」

 お風呂セットを持ったオレたちが「男」と「女」と書いてあるのれんの前で呆然としているのを見てフェンネルさんが笑う。

「ふふふ、予想以上に驚いてくれたね。ケガや病気、そしてお肌にもいい当主様自慢の温泉さ。」

「お肌! やーん、ボクもっときれいになっちゃうって、ロイくん。」

「う、うん……」

「ふふふ、ただちょっと注意が必要でね。みんなにはこれをつけて欲しいのさ。」

 リリーちゃんの流し目にドキリとしつつ、この前の国王軍の集中治療室の件があるから……か、確実に男湯へ入らなければと思っているとフェンネルさんが一人一人に手首につけるくらいのゴムバンドを配った。

「ヴィルード火山の影響でここのお湯にも火の魔力が溶け込んでいてね。普段から入り慣れていないと魔法の負荷がかかって気分が悪くなってしまうから、それを抑えてくれる防御魔法のかかったこのマジックアイテムが必要なのさ。」

「師匠ー、あたしはいらないよー。」

「いやいやアンジュ、ここで育ったとは言え入るのは久しぶりだからね。油断はいけない。」

「そーかなー……」

「ふーむ、温泉にまで影響を与えるとは本当に特殊な土地なのだなここは……あ、ロイドくんは女湯でも構わないぞ。」

「か、構いますから! オ、オレはこっちで男同士の裸の付き合いですから!」

「む? ロイド、おれはリシアンサスさんたちに恨まれたくはないのだが――」

「さー行くぞ!」

 なぜかいつも止めずに後押しをしてくる強化コンビを引っ張り、フェンネルさんと共にオレたち男組は男湯の脱衣所に入った。

「ふふふ、当主様も奥様も怒りはしないと思うがね。」

「そ、それもどうかと思いますけど……」

「ふふふ、あまり実感がないかもしれないが、ロイドくんの周囲にはその人格がとても良いものであると証明してくれるような人がそろっているのさ。特に《オウガスト》の弟子というのはそれだけで高評価だろうね。」

「えぇ……あんな酒好き女好きのオヤジの何をそんなに……」

「うほー、こりゃいいな! 絶景じゃねーか!」

「おお、よもや露天風呂とは。」

 一足先にお風呂場へと突撃した強化コンビの驚きの声が聞こえ、フェンネルさんがにこりと笑う。

「さぁ、話の続きはお湯の中でしようではないか。」

 扉をくぐるとそこには……なんというかこの家の豪華な装飾類とは趣の違う風流さのある露天風呂があった。イマイチこの家のどこに位置しているのかわからないが、四方を壁に囲まれているかわりに真上には何もなく、すっかり暗くなった空には星がきらめいていた。

「雨天の際には透明な屋根が出る全天候型露天風呂さ。」

「わぁ……すごいですね……」

「ふふふ、当主様に聞かせてあげたい感想ではあるけど、しかしずっとそのままだと風邪をひくよ。」

裸で「はー」と空を眺めていたオレたちに桶を渡してかけ湯を促すフェンネルさん。お風呂の温度としてはちょっと高めのお湯をあび、オレたちはザバーッと温泉に浸かった。

「だはー、やべぇなこりゃ。寮の大浴場もすげーとは思ったが、天然温泉にはかなわねーな。特に露天ってのがいーぜ。」

「頭を冷やしつつ熱めのお湯に浸かる――うむ、贅沢なものだ。」

 見ている方も気持ちが良くなるくらいにくつろぐアレクとカラード。社会科見学の時に入った国王軍のお風呂とは違い、別にタオルを巻くようにとは言われていないので、二人は頭の上にタオルをのっけてあとは裸の状態なのだが……豪快に脚を伸ばしているあたりに男らしさを感じるというか……少し恥ずかしさを感じるオレがちょっと情けないというか……

 いや……やはり引き締まった肉体ゆえの自信なのだろうか。改めて見ると二人とも……その、へ、変な意味ではなく、とてもいい身体をしている。

 アレクが体格通りの……フィリウスみたいなムキムキマッチョなのはともかく、身長とかは同じくらいのはずのカラードがオレよりもがっしりした身体をしていて……正直あれくらいにはなりたいなと思っているオレには羨ましくうつる。

「カラードは……ど、どうやってその筋肉をゲットしたんだ……?」

「ん? ああこれは、あの甲冑をまとった状態でも普通に動けるようにと鍛えた結果だ。」

「な、なるほど……」

「ふふふ、お師匠さんである《オウガスト》のようなムキムキボディを目指しているのかな?」

「いや、あんなのはいいんですけど……も、もう少しがっしりしたいかなーと……」

「あん? ロイドお前、今以上にモテたいのか?」

「だ、ちが、べ、別にモテたいからってわけじゃなくてだな……! 単純にカッコイイだろ! 筋肉あると!」

「ふふふ、まぁ筋肉に憧れるのは男の性みたいなものだからね。僕も肉体美には気を使っているよ。」

 すらりとしているがヒョロヒョロというわけではない、イケメンボディのフェンネルさんが再びのセクシーポーズを決める。

「しかし人には人に合った筋肉量――騎士として言うなら戦闘スタイルに適した身体というモノがある。記録を見る限り、二人がパワータイプなのに対してロイドくんはスピードタイプだからね。力があるに越したことはないけれど、重くなるのはマイナス点かもしれないね。」

「そうですかね……で、でもフィリウスはあんな身体でも風で移動してますし……」

「ふふふ、彼とロイドくんとでは同じ「風で飛ぶ」でも種類が異なるね。《オウガスト》は爆風任せに飛んでいくけれど、ロイドくんは小回りの利く精密な風。やはりパワータイプとスピードタイプなのさ。」

「だはは、残念だなロイド。でも別にお前、筋肉ないわけじゃねーだろー? 必要なとこに必要な分だけってな。それはそれで……あー、スタイリッシュ――なんじゃねーか?」

「そ、そうか?」


『そうだよ! ロイくんはカッコイイよ!』


 男の筋肉話に突如入ってきた女の子の――リリーちゃんの声。まさか男湯に『テレポート』してきたのかとギョッとしたが、その声は壁――たぶん女湯と男湯を隔てている壁の向こう側から聞こえてきた。

『それにロイくんにはパワーもあるよ! ボクを抱きしめたあの力強さ!』

『そ、そうだぞロイドくん! わたしがこの身で感じたロイドくんの身体にはしっかりと男らしい筋肉が――』

『何言ってんのよあんたらっ!!』

 割とハッキリ聞こえるから、たぶん何かしらの魔法で声が通るように――っていうか今の話聞こえてたのか!

『筋肉欲しーならユーリにちょちょっと改造してもらえばいーんじゃねーかー?』

『えー、個人的には今くらいがちょーどいーと思うけどなー。』

『そ、それに……ムキムキになって、そ、そういうのが好きな人がよ、よってきちゃったら……ま、また女の子が増えちゃう、よ……』

『む、それは一理あるな……まったく、ロイドくんはこの美人妻ローゼルさんだけでは満足できないと言うのか?』

「まま、満足というか既にいっぱいいっぱいで――と、というかちょ、ちょっとこの話題ストップで……なんか恥ずかしいので……!」

「ふふふ、モテモテだなロイドくん。これはアンジュも大変だ……うん、やはり師匠としては応援したくなるものだね。あー、ロイドくん、そこの壁際に立ってくれるかな?」

「? こ、ここですか?」

「アンジュー、今壁一枚を隔てて裸のスタイリッシュロイドくんが立っているよー。」

「ちょ!?」

『いきなり何言ってるの師匠ー。』

「ふふふ、ちょっとしたサプライズさ。」

 そう言ってフェンネルさんがパチンと指を鳴らすと、壁際に立ったオレとフェンネルさんたちの間に新たな壁がせりあがってきた。

「うわ、な、なんだ!?」

 突如出現した壁と、フェンネルさんに近づくように言われた壁の間の狭い空間に閉じ込められたのだが――

「これは戦いのチャンスさ。他の子と同じ条件の下、どう活かすかはアンジュ次第!」

 ――一拍置いてオレが近づいた方の壁がゴゴゴとお湯の中に消え、壁の向こうの光景が目に飛び込んできた。


「あ、あんたなんでこっちに来てんのよ!」


 それは『ビックリ箱騎士団』の女性陣がゆったりと温泉に浸かっているという目に毒で心臓に悪い肌色――ってびゃああああああああ――あああ??

『男湯の方は気にせず、楽しむといいぞロイドくん。』

 壁の向こうから聞こえてくるフェンネルさんの声は耳を素通りし、オレは目の前の……奇妙な光景に動揺していた。

「あの変態何して――ってロイド、このバカ! な、なにガン見してんのよ!」

「ほえ!? あ、ごめん! ちょ、ちょっと、いつもと違ったと言いますか――」

「ち、違うって何がよ!」

「ぬ、ぬぬ? あ、あのロイドくんがこの状況で落ち着いているだと……? どど、どういうことだ??」

 オレの登場と同時にみんなはタオルや手で色々と隠そうとしているのだが……いや、というかそもそも……

「だ、だってみんな……水着だし……」

「は――はぁ?」




 女湯に現れたロイドが変だった。いつもなら…………そ、そりゃあ……い、一回見てるっていうかそそそ、それ以上のことをしてるわけだから、も、もしかしたらあたしのはみみ、見慣れたりしたのかもだけど……い、いえ、ロイドの場合それはありえないからやっぱり変だわ。真っ赤になって鼻をおさえるところを、なんでかバカみたいな顔であたし――たちを見てる。こっちは全員裸なのに――ってあれ?

「そ、それはあんたじゃないのよ……それ……」

「えぇ?」

 当然ロイドだって裸のはずなんだけど、なんでか水着を……黒いズボン型の水着をはいてた。

「あー、わかったよー。これ師匠お手製の布と同じ魔法がかかってるんだよー。」

『ふふふ、その通り。混浴をしてみたいけどやっぱり恥ずかしいという男女を後押しする素敵な魔法が皆に配ったゴムバンドに付与されているのさ。双方確かに裸だけど、互いの大事なところは見えなくなっているわけだね。』

「な、なるほど……で、ではロイドくんには一体どういう風に見えているのだ……?」

「それは……い、今はみんなタオルで隠れてますけど……こう、く、黒いビビビ、ビキニを着ているように見え……ました……」

「そ、そうなのか……? 自分で見ると普通に裸なのだが……」

 慌てて巻いたタオルの胸元をくいっと引っ張って内側を見るローゼル……なんかむかつくわね、それ。

『裸だが見えない、見えないが裸……ふふふ、ドキドキだね。では、あまり長湯しないように気を付けるのだよー。』

 いきなりこんな状況にしておいて放り投げたフェンネルの声が聞こえなくなると、ハッとしたロイドはギュンッて勢いでこっちに背を向けて、腰にタオルを巻きつつ立ち上がった。

「とと、とりあえずオレは出ますから――ってうわ!」

 脱衣所につながる出入口がいきなりせりあがった壁でふさがれた……あ、あの変態男、こんなことの為にどんだけお風呂場を改造したのよ……!

「ま、まぁロイドくん……その、ロイドくんの反応ほどわかりやすいモノもないから見えていないのは事実なのだろうし、仮に見えていたとしても別に構わないわけで……せっかくの温泉なのだから浸かるといいぞ……」

 恥ずかしそうにしながらもそんなことを言うローゼル。この前の集中治療室の時みたいに、自分から行く時は堂々としてるくせにロイドから来られるといつもこんな感じになるわね……

 まぁ、わからなくもない……けど……

「し、しかしですね! 予想外の光景に頭が止まってましたけど、水着でもタオルでもここはお風呂――女湯ですから! は! そうだ、風であの壁を越えて男湯にもど――」

「んだよロイド、久しぶりのいっしょの風呂じゃねーか。入ろうぜ。」

 お湯に浸かる前に尻尾を洗うとか言ってブラシみたいのでゴシゴシやってたストカがその尻尾でロイドをぐるりとつかまえた。

「どわ、ス、ストカ、はなせ――ってぎゃああああ!?」

 捕まったロイドはストカを見るや否や最大レベルまで赤くなって両手で顔を覆った。

「おま、ハダ――ハダカじゃねーかっ!」

「? そりゃお前、風呂だもんよ。」

「そ、そーじゃなくて――みんなと違ってお前は普通にみ――見えてるぞ!!」

 ……は? 今なんて……

「ったりめーだろ。俺ら魔人族に魔法の負荷なんてものはねーからな。こんな道具使う理由がねぇ。」

 そう言ってストカが指先でくるくるまわしてるのはゴムバンド……あれをつけてないってことはあの変態男の変な魔法が発動してないってことで、ロイドから見ても普通に裸が見える――って!

「そそ、それならそれでちょっとは隠したりしなさいよ!!」

尻尾をロイドに巻き付けてるストカは堂々たる仁王立ちで隠すそぶりもない……!

「そうだぞストカくん! ハレンチだぞ!」

「優等生ちゃんが言っても説得力ないけどねー。」

「つーかお前! ミラちゃんやユーリといっしょに入った時はタオル巻いてたろーが!」

「ははー、ちびの頃は恥ずかしかったってのもあったんだが……こうして成長して気づいたわけだ――ロイドはダチだから隠すモノはねぇってな。」

「普通はより隠す方向に進むもんだ――うわっ!」

 言い終わる前にストカの尻尾で放り投げられたロイドはドバシャァっていう音と共に温泉の真ん中につっこんだ。

「ぶばっ、ストカお前――ってうわ、す、すみましゃああああああ!」

 あたしたちを見て再び手で顔を覆うロイドの横にパッとリリーが現れてその腕に抱きつい――ってこいつ!

「えへへー、ロイくんと混浴温泉!」

「リリリ、リリーちゃん! 見えない魔法があってもタオル一枚には変わりが――変わりがないのです!」

「んふふー、なんの話ー?」

「びゃあああああ!」

 ぐいぐい押し付けるリリー……!!

「……てゆーかだけどさー、商人ちゃん――とついでに優等生ちゃんとお姫様は……見せろって意味じゃないけど、タオルで隠すのは変じゃないのー? 今更さー。」

「んー? ボクもそう思うんだけどねー。なんかロイくんにいきなり来られると「きゃっ」てなっちゃうんだよねー。」

「うむ……ロイドくんがいつまでも「びゃあああ」という反応だから、こちらの恥ずかしさもつられ気味なのかもしれないな……」

「……そ、それ以前にあんたらは……やたらめったらなのよ……」

 あ、あんなアレコレしたっていうのに今でも手とかつなぐと前と同じようにドキドキしちゃうし……できればあたしだってくっつき――たいわけじゃないわよ!

「ふーん。じゃーロイドはー? その三人とはあ、あんなことやこんなことをし、しちゃってるんだし……これくらいはもう大丈夫になったり…………まぁしないよねー……ロイドはー……」

 言ってる途中でロイドはそうならないってことに気づいてふふふと笑うアンジュ……

「だ、だって無理ですから! こここ、こんなあれこれに慣れる人の気が知れな――ぎゃああ! リリーちゃん、なぜタオルを――びゃああ! オレのまでっ!!」

「ちょ、なにやってんのよリリー!」

 いきなり自分のタオルをとってかか、完全にすっぽんぽんになったリリーは更にロイドのタオルまでも取り上げて――ロイドが黒い水着状態に……!!

「ふふーん、いきなりだととっさにあれだけどちょっと落ち着けば大丈夫だから――んふふ、あの熱い二日間を過ごしたボクとロイくんなら裸のつきあいは当然……だよね……」

 トロンとした顔でそのままロイドに近づく――!!

「む、それならばわたしだって――も、もはやわたしの身体はわたしよりもロイドくんの方が隅々まで知っていて……詳しい、のだからな……!」

 そう言って自分もタオルを取っ払うローゼル――ってこいつまで!

「ぎゃああああああ! ふ、二人とも! 見えないけど裸――ハダカなのですよ!? というかオレの、オレのタオルを――!!」

「もー、ローゼルちゃんてばマネしてー。」

「おや、マネされると困るのかな? このローゼルさんのパーフェクトボディーが相手では!」

 ロイドを挟んで火花が散ったかと思ったら――って何してんのこいつら!

「わ、わ、ロゼちゃん……! そんなにくっついたら……」

「あ、ずるい! ボクも!」

「ちょ、商人ちゃん、そ、それは――」

 見えてなくても感触はそのままなはずで、裸になった二人がそのままロイドを左右から――腕に抱きつくどころじゃない感じに……!!

「どうだロイドくん! 今一度わたしの――わ、わたしを……!!」

「ダメだよロイくん! ボクの方が――ボクが……!」

「あ、あんたらいい加減しなさいよ!」

 だんだんと二人の表情がやばい方向に――ちょ、これ、このままじゃ――!


「んあー、それくらいにしないとロイド気絶すんじゃねーかー?」


 そのままやばい感じになりそうだったところで、ぬっと伸びてきたサソリの尻尾が器用にロイドをからめとって二人から引き離す。

「ヤワラカ……感触……ああ……」

「うお、既に死にかけじゃねーか。目ぇ、覚ませよロイドー。」

 そのままロイドをぐるんとひっくり返し、ストカはロイドの顔をびしびし叩いた。

「――はわっ! あ、危うくオオカミが――ってだからストカ! か、隠せ!」

「んあー……じゃーこれでどうだ。」

 バシャンとロイドを温泉に落とすと、尻尾を自分に巻いてうまい具合に隠す感じにするストカ……な、なんかむしろヤラシク見えるのは気のせいかしら……

「よ、よし……ホントはタオルを巻いて欲しいんだぞ、オレは……」

「きゅーくつだろー。」

 ま、まったくどいつもこいつも人の恋人を…………そ、そうよ恋人――あたしの、恋人――よ、ロイドは……! だ、だから……そうよ! 別に変じゃないわ!

「ロ、ロイド!」

「はひ!」

「い、いっしょに入るのはあの変態男のせいで……しょ、しょうがないけど――あ、あんたはあたしの恋人――なんだから! あたしのよ、横にいなさいバカ!」

「ほへ!?」

「うわー、お姫様ってば、うわー。」

「うっさいわね! ロイド早く!」

「――! よ、喜んで!」

 ジャバジャバとこっちに来たロイドは……さっきまでの痴女連中の攻撃に真っ赤になってたのとはちょっと違う赤い顔であたしを見ながらおずおずと隣に座った。

「で、でもって今夜の話するわよ! 段取りの!」

「えー? ロイドはあたしの部屋であたしとイチャイチャ――」

「そっちじゃな――そんな計画してんじゃないわよ!」

「い、いかんいかん……突然の機会にうっかりここでロイドくんと――や、やはりアレは二人きりであるべきだし……う、うむ、少し話題を変えるとするか。」

「ボクはいーけどねー、見せつけちゃっても。でもまー武器拾いがあるし、いい奥さんは夫のため、時にガマンもしちゃうんだよね。」

 リリーの方はまだ半分くらい顔が溶けてるけど……そうよ、こっからは真面目な話をしてこの状況から恋人を――そう! 守るのよ、あたし!

「って言っても夜に抜け出してさっきのマグマちゃんと合流してロイドが潜るんでしょー?」

「そ、それだけど……ぬ、抜け出すのって、できるのかな……」

「ふむ。心苦しいが魔人族のことを秘密にする以上、武器を回収することも話せないからな。そのあたり、カンパニュラ家はどうなのだ? 人目の少ない時を狙う都合上、抜け出すのは夜中になると思うのだが。」

「言えばフツーにオッケーしてくれるだろーけど、今回はコッソリだからねー。問題は師匠のセキュリティかなー。」

「セキュリティって……あの変態男、そんなこともしてんのね。」

「お姫様、師匠は一応カンパニュラ家の騎士だよー? あれで色々すごい人だからねー。ほら、そこの壁の仕組みとか、やったのはたぶん師匠でねー。魔法にも科学にも詳しいから色んなモノを作れて、だからこの屋敷は魔法と科学の二重のセキュリティに覆われてるんだよー。内側から外に出る場合でもどれかの仕掛けには引っかかっちゃうだろーから、コッソリってゆーのは結構難しいと思うよー。」

「むぅ、それは困ったな……では何かしらの用事をでっちあげるしか……」

「あー、その辺は大丈夫だと思うぜ。」

 あっさりそう言ったのはストカ。

「ロイドが武器を拾いに行くのをうち……っつーかミラが手助けする気満々だからな。ヴァララと俺がこっちに来たの以外にもなんかあったら遠慮なくって言ってたし、その辺の小難しいのが得意な奴に何とかしてもらおーぜ。」



「ふふふ、どうなるかはわからないけれど、良い事をした後は気持ちがいいね。」

「良い事かぁ? 今にもロイドの「びゃあああ」ってのが聞こえてきそうだぜ?」

「ふふふ、男女の会話を盗み聞きというのは良くないからね。もうあちらの声は聞こえないようにしたさ。」

「いや、聞こえなきゃいいてわけじゃねーと思うが……」

「叫んではいるだろうが、しかしロイドだからな。何であれ、良い結果へと進むだろう。」

「まーその辺は心配してねーが……モテる男の試練ってのは外からも来るんだなぁ。」

「ふふふ、男二人から恋愛的信頼を受けているとは、さすが《オウガスト》の弟子と言ったところだね。ならばアンジュはその信頼に任せて、こちらはこちらの話をしよう。」

「? フェンネル殿――フェンネルさんがおれたちに?」

「『プリンセス』の学校での様子なら飯の時にロイドたちが話してたしな。俺らが話せることはもうねぇぜ?」

「いや、二人とは君たち自身について話がしたいのさ。」

「? どういうことでしょうか。」

「ロイドくんを含め、アンジュの周りには少し変わった友人が多い。ああ、性格がという話ではなく、騎士としての……家柄とでも言うのかな。家庭や家族のようなモノが一般的な騎士のそれとはずいぶん違うようだ。」

「……特殊、という意味ではそうかもしれません。ロイドは十二騎士の弟子、クォーツさんはフェルブランドの王族、マリーゴールドさんはガルドにおける有名なガンスミスの家系、トラピッチェさんは商人であり元…………確かに、騎士の学校に通う者として一般的なのは騎士の名門のリシアンサスさんだけかもしれません。」

「ふふふ、加えてそちらの立派な筋肉を持つアレキサンダーくんもそうだね? ビッグスバイト家は騎士であったり傭兵であったりと形式は様々だが、代々戦う事を生業としている家系だ。」

「んお、うちの事も調べたのか。あいにく上級騎士――セラームとかになって有名ってわけじゃねーぜ?」

「ふふふ、果たしてそうかな? 何代か前には当時の《ジャニアリ》に見出されて『ムーンナイツ』に選ばれているし、何より君自身が学生の身でシリカ勲章を受けた傑物ではないか。」

「そりゃあ……」

「そしてカラードくん。個人的にはロイドくん以上に興味深いのが君だね。」

「おれが……?」

「レオノチス……その名だけでは思い出せなかったけど、ランク戦の記録を拝見した際に君の体術を見て気がついたよ。カラードくん、もしや君のお父様は――」




「まったくさー、せっかく師匠が用意してくれたチャンスだったけど、あの二人がやらしーからなんもできなかったよー。でもまー、あそこで何も見せなかった分、これからの時間への期待が大きくなってたりするのかなー?」

 部屋の隅っこに置いてある豪華な椅子で、心臓をバクバクさせながら小さくなっているオレにアンジュが色っぽい視線を送る。

 心臓に悪く、理性と欲望との戦いの場だった温泉の後、夜中に抜け出す算段を立てたオレたちはその時に備えて早めに寝ておこうという事でそれぞれの部屋へわかれた。

そしてオレの場合……寝る部屋とは即ちア、アンジュの部屋であるわけで……いつもの流れとは言え、温泉のドキドキを残したままで一緒に寝たりなんかしたら色々とやばい……! オレはこの椅子で寝るべき――寝なければならないのだっ!

「んふふー、ロイドはそんなとこで寝るつもりなのー?」

寝る時の格好――長いツインテールをくるくるとまとめてお団子にし、エリルが着てるようなワンピースタイプの寝間着を……気のせいであって欲しいのだがすすす、透けているように見えるそれを着たアンジュがベッドの上でニンマリ笑う。

「ベベベ、ベッドはアンジュが使うのですから、オレの寝床がその他の場所になるのは普通でありまして――」

「あまいなー、ロイドはー。そんなロイドをこっちに来させる方法をあたしは知ってるんだからねー。」

「――! ままま、まさかユ、ユーワクしてオレのオオカミを!?」

「それもあるけど、さすがにマグマに潜ろうって時の前に激しい事はしないよー?」

「ハゲシイッ!?」

「とりあえずは一緒に寝ようってだけだよー。んで、ロイドをベッドに入れる方法はねー……」

 掛け布団をめくり、そこに身体を滑らせて横になったアンジュは――すごくかわいくて心臓をわしづかみにするような表情でこう言った。


「んもー、ロイドってば――準備万端で誘う女の子に恥をかかせるのー?」


「――!! そそそ、それを言っては――それはずるいですぞ!」

「あははー、変な言葉遣いになってるよー? でもほんとにさー、あたしだって恥ずかしーんだからさー……応えてくれないと泣いちゃうかもよー?」

「――! ――!! ああああ、ううう、まあああ! わ、わかりましたから!」

 ダ、ダメだ……そんな風に言われたらオレは……ああああ、ムスるエリルの顔が見える!

「あ、言っとくけどお姫様の事とか考えたらダメだからねー。あたしのことだけ考えてもらわないと……えーん、ロイドのバカー。」

「ひゃびゃ、ご、ごめんなさい!」

 手玉に取られるというのはこういう感じなのか、ベッドの空いているスペースをポンポンと叩くアンジュの横……その場所にオレは寝っ転がった。

「んふふー、電気切るよー。」

 これもフェンネルさんの技術なのか、アンジュが指をパチンと鳴らすと部屋の電気が消えた。そして頭上――ベッドの天蓋がぼんやりと光り、豆電球のような明るさでオレたちを照らす。

「雰囲気出るでしょー。」

 大きなベッドだからそれぞれのスペースを確保しつつ二人で寝られるはずなのだが――アンジュの顔はオレのすぐ横に……ああ、シャンプーの香りが……

「あたしはこの後の事を考えて何もしないけど、その気になったらそうしちゃってもいーからねー?」

「しませんから!」

「ロイドー、据え膳食わぬは――」

「たた、食べませんから!」

「んふふー。でもまー……そーゆーのはしないにしても何もないんじゃ勿体ないしねー。ドキドキする話でもしちゃおーかなー。」

「ドキドキ!?」

「あたしが……どうしてロイドの事を好き――になったのか、とかねー。」

 ほのかな灯りの中で少し恥ずかしそうにそう言ったアンジュがかわいいですからっ!

「そ、それは前に聞いたよ……? あの、なな、夏休みの間にって……」

「そーなんだけど……うん、やっぱりちゃんと教えてあげるよー。」

 目をそらし、枕をつつきながらアンジュが話を始めた。

「あたしはお姫様になったあたしを守る未来の騎士を探すために、あとついでにある程度の強さを得るためにセイリオスに来たわけだけど……未来の騎士にしたいなーって思う人はなかなかいなかったんだよねー。」

「えぇ? で、でも……デルフさんとか、将来絶対活躍しそうな人って結構いる……と思うけど……」

「ビビッとこなかったんだよねー。一緒にいる事が多くなる騎士なんだから、強さだけじゃなくて人的な相性も大事でしょー?」

「そ、そうだね……」

「これは二年、三年になった時に入ってくる一年生に期待かなーって思ってたんだけど、そんな時に転入してきたのがロイドでねー。初めはあのボロボロの服見て「なにあれー」って候補にも考えなかったんだけど、そのあと色々活躍したでしょー? 第一印象は残念だったけどよく見たらいー感じかなーって思って、それで夏休みのちょっと前あたりから観察を始めたんだよー。」

「ボロボロ……ま、まぁ印象が良くなったのはよかったよ……」

「ロイドはあれで結構損してると思うよー? ま、あの田舎者スタイルがなかったら今頃もっと敵が多かったと思うからいーんだけどねー。」

「テ、テキ……」

「それで……えっと、こっからが前は話さなかったことなんだけど……ほら、夏休みの間ってロイドは妹ちゃんと一緒だったでしょー?」

「うん……エリルたちと出かけたりする以外はパムの家にいたね。」

「……で……ロ、ロイドってさー……妹ちゃん相手だとすっごく――お兄ちゃんになるでしょー?」

「えぇ? あ、ああ、自分の事を「お兄ちゃん」って言っちゃうあれかな……さ、さすがにもうどうかなとは思うけど……口に馴染んでしまっていてですね……」

「別にいーと思うよー? てゆーかそれのせいってゆーか……」

「?」

「あ、あたしは一人っ子だからさー……兄弟姉妹っていーなーなんて思ってて……どっちかって言うとかわいい弟妹よりも頼りになるお兄ちゃんお姉ちゃんに憧れがあったりしてねー……」

「へ、へぇ……あ、それならちょうどフェンネルさんがいいお兄さんって感じになったんじゃ……」

「師匠は……なんていうか近所に住んでるお兄さんって感覚で……しかもちょっとアレだから憧れのっていうのにはなんなくて……」

 た、確かにフェンネルさんのおしゃれセンスはマネできない感じだとは思うけど……そうか、アンジュもフェンネルさんのことを――「アレ」って思ってるのか……

 んまぁ、オレだってフィリウスは「アレ」な奴だと思ってるしなぁ……

「そんなあたしの前でロイドってば……ロイド、妹ちゃんと接するとき自分がどんな顔してるか知ってるー……? す、すっごく優しくて……たまに甘える感じになる妹ちゃんを「よしよし」ってしたりなんかして……絶対妹ちゃんの方が強いのに頼りになるお兄ちゃん感出しちゃって……」

「そ、そんな風になってるの……オレ……」

「それ見てたらすごくドキドキしてきちゃって……騎士としての将来性は抜群だし、歳は同じだから変な気遣いもいらないし、その上……も、もしかしたら……ばば、場合によっては――ふとした時なんかに、お、お兄ちゃんって感じに甘えられちゃったりしちゃったりするのかもとか考えちゃって……!」

「えぇ!? ア、アンジュが――オレに!?!?」

「た、例えばだよ! で、でもそう思っちゃったら止まんなくて――強くて優しくて……お兄ちゃん的な人をあたしの騎士にできたら……つ、ついでにコイビトとかダンナサマだったら、なーって、そんな風に見てたら――」

 ぼふっと枕に顔を沈めて数秒後、すこし顔を上げたアンジュがすごく恥ずかしそうな表情で一言――


「――好きになっちゃってたんだよー……」


 と言って……ああ……ああああ……

「ま、まーでもその気持ちが表に出てきたのはランク戦の後の……ロイドが友達になろーって言った時で……お姫様に勝負を挑んだ時はロイドを騎士にするためって気持ちだったけど――た、たぶん、あの時もうあたしはロイドの事をそ、そういう風に見てたから……し、下着見せた後は部屋ですっごく恥ずかし――」

 近づく体温、伝わる感触。近づいたのではなく近づけた――反射的に、オレはアンジュを抱き寄せていた。

「ロ、ロイド!?」

「――は! ごご、ごめんなしゃいっ!」

 だああああ、またやってしまった! お色気に負けて理性が飛ぶのと感覚は似てるけど種類が違うというか、言葉と表情でいきなり引き出される別のオオカミというか――あああああ、なんにせよ制御できないやばいのが出てしまった!

「つつつ、つい! あの、アンジュがその――」

「……別に抱きつく――抱きしめるくらいいくらでもしたらいーと思うけど……ふーん。」

 恥ずかしそうに頬を赤らめていたアンジュがニンマリと笑う。

「んふふー、力強く抱きしめちゃってー。こういう押し方するとそういう風に倒れるんだねー。大丈夫ー? なんかロイドって結構ちょろい感じになってるけどー?」

「ちょろいとか言わないで下さい! 別に誰かれ構わずではなくてアンジュ相手だからしょうがなくて、オ、オレは結構アンジュの事をスキ――に思ってたりしちゃったりするのでだから――ゆゆ、優柔不断は承知なのですがどうにもこうにも――」

「あははー、ロイドの中で、今のところはお姫様が一番だけど、みんなのことも好き――大好きっていうのはこの前の告白でわかってるよー。色々ヤラシーことを考えちゃってることもねー。でも――んふふー、ロイドの口からちゃんと「好き」って聞けたのはうれしーなー。」

「びゃっ!?」

 思わず抱きしめ、慌てて離したアンジュがさっきのオレのようにち、力強く抱きついてえぇぇぇっ!!

「このままあんなことやこんなことしちゃったら色々すごいんだろーけどねー。ガマンしないと夜中にコッソリ起きれないからねー。とりあえず寝ようよロイドー。」

「こにょままで!?」

「おやすみー。」

 昨日のティアナの直接的な攻撃よりはマシかと思いきやアンジュからもう一度告白されたような状況で抱きつかれたままというのは方向が違うだけで同レベルのやばさで……あああ……

別の何かを考えるんだ……何か……ナニカを……




「おいおいおい、大事な話の最中によそ見をしてくれるなよ。」

 田舎者の青年が貴族令嬢の腕の中で自分の師匠の筋肉自慢を思い出している頃、火の国における人間以外の住民が暮らすエリアの片隅で、大きな岩の塊に腰かけている人物が会話の相手に文句を言った。

『……妙な気配を感じた。山の中に何か……』

「おいおいおい、頼むぜ? ビジネスは互いの信頼が第一なんだから、印象悪くするようなことはしない方がいいぞ?」

 ハットにストール、スーツにサングラスというどこぞのマフィアのボスのような格好をしているが口には棒付きの飴をくわえているその男の忠告に、しかし会話の相手は睨みを返す。

『こちらは別にお前でなくても良いのだから、お得意のゴマすりはお前だけがしていればいいだろう。』

「どーかねー? あんたからするとどいつもこいつも同じなのかもしれねーが、それぞれに得手不得手ってのはあるんだぜ? あんたの要望に応えられてあんたの頼みを聞いてくれる奴ってのはそう簡単に見つかるもんじゃない。ここでうちと切れちまうと間に合わないだろう?」

『……』

「そう邪険にしなさんな。うちの欲しいモノをあんたが持っている以上、関係は友好的にありたいのが本音なんだからな。」

『本音と言って語る言葉に本音が混ざるとは思えないが。』

「おいおいおい、わかっているじゃないか。人間の黒さについてよくご存じだ。」

『……だからこうして終わらせようとしている。』

「納得だな。うちとしては思うところもないわけで、儲けが出るならそれで満足だ。報酬は半分前払いってのが通例だが……信頼の無さを考慮して全額後払いでいいだろう。新しい顧客ってのは大事にしないとな。うまくいったらごひいきに。ま、うまくいかすがね。」

『……任せたぞ。』

 会話の相手がその場から音もなく去っていくと、男はちゅぽんと口から飴を抜いてニヤリと笑った。

「価値観の違いってのはいいもんだな。こんなちょろい仕事であれが手に入るなんて、笑いが止まら――」


 ピピピ、ピピピ。


 ニヤケを抑えられずに一人ニマニマしていた男の胸元で電子音が鳴り響く。男はニヤケたまま音源である小さな電話を手に取ってその電子音――呼び出しに応じた。

「はいよ、どちら様――ってお前か。なんだ儲け話――いや、聞こえねぇよ。おま、電話する時くらい男しつけんのやめ――だから男の喘ぎなんざ聞きたくねぇって…………は? おいおいおい、そりゃ確かな情報か? マジで言ってんのか!?」

 ニヤケ顔が瞬時に絶望と怒りの混じったような表情に変わる。

「くっそ、んだそりゃ! こんなおいしい仕事に――くそっくそっ! あの女はいつもいつも二度とねぇような儲け話にちょっかいを――バカ、勝てるわけ――あ? あいつが? いやあいつは金が……だぁあ、背に腹はってか……わかった、払うって言っとけ。くそ、余計な出費を……はぁ!? お前にまで情報料――わーった、わーったよ! ガメツイ野郎め――うるせぇっ! 今更お前を女扱いなんかするか、鏡見ていえ!」

 電話のスイッチを切り、そのまま投げ捨てようとして思いとどまり、男は棒の先の飴をかみ砕いた。

「だから嫌いなんだよ、『紅い蛇』の連中は……『ゴッドハンド』め、ここで始末してやる。」

ある程度の段階まで進んでしまったローゼルさんやリリーちゃんは攻めの威力が半端なく、他のみんなもグイグイ来ていますから、ロイドくんは大変ですね。(なんだか毎度あとがきでこう書いている気がします。)


魔人族の新しい方も登場しました。エリルの言葉を借りると「マグマ人間」ですが、武器探しだけをさせる気はありませんので活躍の場があるかと思います。


不穏な影も動き出しましたが、次はようやく「ワルプルガってなに?」ですね。

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