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騎士物語  作者: RANPO
第七章 ~荒れる争奪戦とうねる世界~
52/113

第五十話 愛の力

主人公たち「ビックリ箱騎士団」とラコフの戦いがメインです。

同時に、首都で行われている戦いの一つが佳境を迎えます。

『ツァラトゥストラ・ネオ?』

「ツァラトゥストラ・ハイパーでもスーパーツァラトゥストラでもいいぞ。なんなら別の名前にすっか?」

『いや、どうでもいいが……いつの間に。』

 何かが入っている大きめの布袋を手に普段ドレスの女が座っているソファまでやってきたフードの人物は、キッチンから相当大きなピザを持って出て来たドレスの女が口にした妙な単語に首を傾げていた。

『昔のままのツァラトゥストラではないのか?』

「当たり前だ。んな変わり映えしないことをするわけねぇだろうが。」

『そうか。具体的に何が変わっているんだ?』

「ほれ、あれって一応誰でも使えるように作ったろ? でも時々相性がいいのかなんなのか、想定以上にパワーアップする奴がいたじゃねぇか。」

『いたな。まぁ生体部品だからそういう事もあるだろう。』

「そこだ。折角すげー確率で相性抜群のを装備したってのに、ちょっと強くなるってだけじゃもったいねぇ。つーことで、そういう場合はツァラトゥストラが進化するようにした。」

『進化……?』

「まずどこぞの魔法生物みてぇに再生能力が高まる。」

『……それは前にも起きていたが……より強力にしたということか?』

「相性がめちゃくちゃ良けりゃあ粉々にしても再生できる。いや、今回の場合は再生とは言えねぇな。」

『?』

「前のツァラトゥストラの再生は文字通り本人の身体の再生だったが、今回の再生は正確に言うとツァラトゥストラの浸食だ。」

『ほう。』

「再生を重ねるほどに本人とは違う肉体に進化してくのさ。最終的にはSランクの魔法生物みてぇな肉体で人間の頭っつー状態になる。」

『んん? 大抵のSランクは人間並みの知性があるだろう。』

「わかってねーな、アルハグーエ。人間並みの知性があったって、人間として生活した記憶や経験はねぇだろうが。」

『ああ、なるほど。確かに、それほど強大な力を手にしたモノが悪意と共に人間社会で動いたらどうなるか……興味深いな。』

「だろ?」

 悪そうに笑いながらピザを口に入れるドレスの女。

『……そのピザはバーナードのではないのか?』

「ああ、あいつの作り置きだ。つーかお前はここで何してんだ? S級殺しに行ったんじゃねぇのか?」

『行ったとも。結果汚れたから着替えに来た。』

 部屋が暗いのであまり目立たないのだが、フードの人物が羽織っている布には所々に赤黒いシミがついていた。

「かー、おしゃれ言ってやがる。」

『布切れの何がおしゃれなのやら。』

「んでそれは?」

 聞きはしたが大して興味なさそうにドレスの女が指差したのはフードの人物が手にしている布袋。これもよく見ると下の方に赤黒いシミが広がっており、そこからポタポタと……赤黒い液体が滴り落ちている。

『戦利品……まぁ、証拠だな。まずは一人。』

「ほー。どうだった。」

『どうとは?』

「久しぶりに本気は出せたか?」

 ドレスの女の、おそらくある程度答えを知っている嫌らしい顔での質問に肩を落としながらフードの人物は答えた。

『三割――といったところだな。』

「んだよ、そこそこ出せてんじゃねぇか。」

 予想と違ったらしく、ドレスの女は手にしていたピザを投げつけるが、フードの人物はさらりとかわす。

「つーかそれどーすんだ。あたいはいらねぇぞ。」

『これでもあいつらと同等の悪党だからな。ケバルライやバーナードあたりが面白く使うんじゃないかと思ってな。』

「ああ、それはありそうだな。とりあえず冷蔵庫にでも入れとけ。」

『間違ってはいないのだろうが……バーナードがおやつ感覚に食べてしまいそうだな。』




『ふん、最後の言葉? 分身がいなくなった程度で勝った気でいるのか?』

 ぎらりと並ぶ牙をガチガチ言わせながらラコフが笑う。

『いいぞ、ガキ共。この暇潰しも暇潰しながら佳境というやつだ。まだまだパワーアップできるならやるといい。待っててやる。』

 二本の腕で立って……っていうか浮きながら残りの二本で腕を組むラコフ……

なんか一層偉そうになった気がするわ……

「湧き上がる新たな力に全能感でも覚えているのだろう。しかしお姫様たるエリルくんに言われるとは相当だな。」

「うっさ――」

 ……? え、あたし今口に出した……?

「口には出していない。思っただけだ。」

 あたしが一人不思議に思ってるとラコフの方を向いてるユーリがフードの上から自分の頭をトントンと叩く。

「! さっきの通信モドキね。」

「モドキと言うほど偽物ではないが……この方が便利だろう。」

 そう言いながらこっちを向いたユーリは……なんか辛そう……?

「ユーリ、お前昼間に動き過ぎだぞ……」

 自分の方がよっぽど深刻な顔のロイドがそう言うと、ユーリが苦笑いした。

「あの男が油断しきっているからな……それを維持させるために挑発を織り交ぜたが……正直言うと私自身はそろそろ限界だ。」

「挑発して油断を維持って……オレには逆効果に聞こえるぞ……」

「ははは、ロイドよ。ああいう脳筋はそういう方がいいのさ。こちらのやる気を無駄なあがきと取る。」

「そういうもんなのか……?」

「人造人間を作ろうとする人間が、人間の最も人間たる部位である心の研究をしないわけがないだろう? 肉体も精神も、それが人体であれば私の専門だ。」

 ……確かユーリってあたしたちと同い年なのよね……普通に強い上に魔法とか人体? にも詳しくて……なんかベテランの騎士みたいだわ……

「それはどうも……さて、今から私はさっき言ったような援護に徹する。ブレイブナイトの『ブレイブアップ』は最後の一撃に温存するとして、一先ずはエリルさんたちがさっきまでやっていた作戦を続けよう。」

「動けなくしてわたしの氷の槍でという作戦か……しかしついさっきわたしの氷――ロイドくんの愛によって生まれた氷は砕かれたばかりだ。あの化け物姿の状態で『一万倍』となったあれに通じるかどうか……」

「ああ……攻撃力はさっき私が削っておいたが、防御には関係ないからな……」

 ? 攻撃力を削った?

「だが策はある。ああいうのは来るとわかっているよりもサプライズで伝わった方が嬉しいモノだからな。」

 ?? なんの話よ。

「こちらの話だ。私が強化を行ったらみんなはそれを信じてあの男を叩けばいい。きっとあの姿になる前の方が強かったと思うだろう。」

 死人顔でニッと笑ったユーリは電気で出来た右腕をあたしたちに向けた。

「『ウルストンクラフト』。」

 その腕っていうか手が大きくなってあたしたちを覆うと、一瞬パチンっていう……どこが痛いのかわかんないけど痛みを感じて……

「……! なによ、これ……」

 たぶん見た目に変化はないんだけど、あたしは明らかな変化を感じてた。なんていうか……身体が軽い……? いえ、速い?

「おお、なんかわからねぇがすげぇ。んじゃまぁ俺から行くぜ!」

 何が起こったのかもよく理解しないまま、そう言って踏み込んだアレキサンダーはさっきまでとは比べ物にならない速度でラコフの方へとんでった。

『ふん、お前はさっきからワンパターンだなデカイの!』

 組んでた腕を解き、アレキサンダーの攻撃に合わせて拳を放つラコフ。確かに今日何度目かの光景だったんだけど――結果が違った。


 ガキィッン!


 相変わらずの金属を叩いたみたいな音。ラコフの拳には傷一つついてないけどアレキサンダーのバトルアックスは――ラコフの拳を弾き返してた。

『なっ!?』

 たぶんこれまでで一番驚いた顔になったラコフ。同様にびっくりしてたあたしに直後、一つの言葉――いえ、思考みたいなモノが頭の中に直接入って来た。まるで自分で何かをふっと思いついたみたいな、だけど確かに自分のモノじゃないってわかる考え。

 アレキサンダーが次に何をしようとしてるか、それを直感のように理解した。

「おらああああっ!!」

 振り切ったバトルアックスに再度力を込め、アレキサンダーがラコフに追撃を叩き込む。そしてあたし――いえ、あたしたち全員が理解した通りの方向に吹っ飛ぶラコフの行く先に二本の氷の柱が一瞬でそびえ立つ。

「はっ!」

 完璧なタイミングで左右から倒れる――っていうよりは振り下ろされた氷の柱は側面が刃物みたいになってて、まるで巨大なギロチンにかかるみたいにラコフは地面に叩きつけられた。

『くそガ――』

 普通なら身体が真っ二つになるだろうその攻撃を受けても無傷で立ち上が――ろうとしたラコフだったけど、ローゼルがこいつを地面に寝かせるって事を知ってたあたしとアンジュは真上から強襲し、『メテオバレット』と特大の『ヒートボム』を撃ち込んだ。

『ばがらばっ!』

 変な叫び声をあげながら更に地面に埋まるラコフ。

で、なんであたしたちがこうしたかって言うと――

「『アンビルセル』っ!」

 身体の半分くらいが埋まったラコフを中心に広がる魔法陣。アレキサンダーが突撃した時から呪文を唱えて準備してたパムの魔法によってラコフの周囲の地面が動き、四本の腕以外を包み込んでズンッっていう音と共に圧縮し始めた。

 腕ごと潰そうとすると内側から腕で押し返されるけど、ああやって腕だけ外に出されると内側から押す力が減るから脱出が難しくなる。それにこいつを倒して街に戻るにはツァラトゥストラである『腕』が必要だし、こうしておけば切断しやすい――っていう考えがパムから頭の中に伝わってきた。

 呪文を唱えないでもこの魔法は発動できるけど、唱えた方が威力は大きい。アレキサンダーが飛び出した時点でパムが準備を始めたのは、アレキサンダーの攻撃が基本的にバトルアックスを相手を叩きつけるモノで、とんでもない硬さのラコフが相手の場合は大抵どこかにふっ飛ぶことになるから。そうなった後、他のメンバーでラコフを地面に埋めておけば、パムの魔法が最大限の威力を発揮する。

 ……みたいな考えが一気に頭の中に流れ込んできて……今こうなった。

 テレパシーみたいにお互いの考えがわかったのはユーリの……なんかこう、脳から出てる電波とかをどうこうする魔法のおかげ。

 でもって……そうやっていきなり頭に入って来た作戦に即座に反応し、まるで反射みたいな速度でコンボを決められたのは……うるすとんなんちゃらとかいう魔法のおかげ。火事場の馬鹿力っていうのかしら……なんとなく制限が無くなったみたいに力が出る上に、熱いモノに触った時に手を引っ込めるような反射運動並みの早さと速さで思考と行動ができる身体……

 強化魔法とはちょっと違う、身体が持ってる能力を最大限に引き出すような感じ……こういう魔法もあるのね……

……まぁ、確かに身体への負担がすごそうな魔法だけど……

「『ブレイブアップ』は必要なかったのでは?」

 地面から四本の腕が生えてるマヌケな光景を前にカラードがちょっと残念そうにそう言ったけど、ユーリが首を横に振る。

「むしろここから。自分に何が起きたのかわからず、あの男はいよいよ本気を出すだろう。それに耐え、あの男をもっと怒らせて――数魔法維持の為の集中力を乱れさせる。そうすればあの防御力も弱まるだろう。」

「そうか、出番がありそうでなによりだが……集中力を切れさせるのがさっき言っていた策なのか? あまりサプライズ感はないのだが。」

「いや、これではない。」

 死人顔で含みのある笑みを浮かべるユーリが怖いんだけど……サプライズよりもラコフがなんか弱くなったのが気になるわ……

「ああ、俺も気になるな。ユーリの言った通りあいつの力、弱くなってたぞ?」

 ……思った事に相づちされるのって変な気分だわ……

「そこは我慢してもらうとして……ほら、私がこっちに戻った時あの男に雷を落としただろう? 『ガルヴァーニ』という技なのだが、あれは――」

「解説中すみませんが――破られます……!」

 個人的にはこの攻撃で仕留めるつもりだったけど、分身との戦いで思った以上に消耗してたみたいです――的なパムの思考が頭に入ってくると同時に、ラコフを潰してた地面が噴火みたいに吹っ飛んだ。


『がああああああっ!!』


 地面の下から登場する四本腕の化け物。腕が外に出てる状態でパムのぺしゃんこ攻撃を押し返したってことは脚とか背中をジタバタ動かして破ったってことよね……想像するとさらにマヌケだわ。

「確かに。さぁみんな、さっきの感じでボコボコにしてやろう。」




 稲妻みたいな速度で走り出し、息ピッタリのスーパーコンボを決めていくみんなを……オレは寝っ転がって眺めていた。

 出会い頭にいきなり体力を奪われて気絶し、目覚めてみたらリリーちゃんが嫌な顔をしてて……だからついというか……ああ、またあとでエリルに殴られそうな約束を……ローゼルさんの時みたいな事がリリーちゃんとでも起きたらオレは……

 んん? そういえばさっきエリルが「通信モドキ」って言ってたな……もしかしてユーリのテレパシーを使ってるのか? それだとみんなのコンビネーションも頷けるけど――あ、あれ? もしかして今のオレの思考もみんなに……?

「心配するな、ロイドのはつないでない。」

 オレが転がってる……たぶんパムが作ったベッドの横で腕組みしてるユーリが答える。

「戦闘中は戦闘を行っている者の頭だけをつないだ方が余計なモノがなくていいからな。」

「そりゃそうだ……えっと、なんか相手が怪物みたいになったけど、大丈夫か?」

「それはこれからの一押しによる。」

「?」

「ところでだが……」

「ん?」

「ロイドはエリルさんのどこが好きなんだ?」

「え、そりゃあ――は!? な、なんだいきなり!」

「いきなりというわけではない。」

 くるりとこっちを向いたユーリは真剣な顔だった。

「ローゼルさんのあの氷やリリーさんの位置魔法。愛の力はこの戦況に重要なモノだ。」

「あ、愛の力……」

「私はフランケンシュタインだからな。愛の力を信じる者として、みんなが好意――いや、想いをよせるロイドがみんなをどう思っているのかを理解すれば更なるパワーアップの手助けもできるだろう。その為の情報をな。」

「そ、そうか、パワーアップのためか……ど、どこがと聞かれると……ぜ、全部というか……」

「全部? 性格、人柄、はてはあの身体も含めてということか?」

「カラダッ!?」

「ああ。この点で話を始めるとローゼルさんが圧倒的に見えるが、その人物のひととなりに合った形というのもあるはずだからな。ロイド的にエリルさんは負けず劣らずナイスバディであるということか?」

 ユーリの唐突な、しかもローゼルさんとのい、一件の影響で頭の中がそっち系の妄想に走りがちな今のオレには攻撃力の高い質問が耳に届くや否や、ラッキースケベ含めて今までに色々やらかしたエリルとのあれこれが……我ながらやらしいというか仕方ないというか、かなり鮮明に思い出される。

 体温、感触、匂い、声、光景、一つでも理性が飛びかける記憶――い、いや! なな、何もこれだけでエリルがすす、好きってわけじゃないぞ!

「そそそ、そうだな! 確かにエリルはナナ、ナイスバディだとも! だが勿論、エリルの――むすっとしてる顔とか、別にいつも不機嫌なわけじゃなくてその裏には可愛い感情やら考え方ってのがあって――あと熱くて強い意思がだな!」

「ああ悪い悪い。エロい記憶を掘り起こそうとしたわけじゃないんだ。純粋にロイドの内なる愛を――」

「ちょ、ちょっと待てユーリ! お、お前まさかオ、オレの頭の中の――え、映像まで見れるんじゃないだろうな!」

「安心しろ、映像まで見ようと思ったらロイドとどこかの神経をつながないと無理だ。そしてロイドよ、それを気にしたのは今までに見たエロい光景を私に見られるのが嫌だからか?」

「そ、そりゃあ――」

「彼女たちの為にか? それとも――自分だけの記憶としたいからか?」

「びゃっ!?!?」

 みんなの為か、オレが独り占めにしたいだけか……? そんなの――みみ、みんなの為にもいくらユーリと言えど…………独り占め……自分だけの……

「思考が止まったな。まぁ、彼女であるエリルさんに関してはそうだろうが、他のみんなはどうなのだろうな。ロイドは昔から好意に弱く、惚れっぽいからな。」

「え……えっ!? 昔から!? ちょちょ、まさかその――スピエルドルフでもミラちゃん以外にそそ、そういう女の子が――」

「おそらくエリルさんに対する感情に……劣りはするかもしれないが同種のモノを他のみんなにも抱いているのだろうな。では次はローゼルさんだが――」

「ぜぜ、全員分今の質問をする気か!?!?」

「当たり前だ。ついでに――まぁ、さすがにあの大きな人へはないだろうが、妹への愛情はあるだろう。それも聞くぞ。」

「ぼぁっ!?!?」

 ローゼルさんは? ティアナさんは? リリーさんは? アンジュさんは? 妹さんは? と、連続で放たれる恥ずかしい質問に、しかしユーリは真剣だし相手――ラコフというらしいあの男に勝利する為というのもあるから……が、頑張って答えていく。

 いつだったか、フィリウスに聞かれてみんなの……チャ、チャームポイント的なところを話した時みたいな恥ずかしさがこみ上げたのだが、その度合いがあの頃よりも大きくなっている。

 みんなの素敵なところをあの頃よりもたくさん知っている今、いいところを挙げ出したらキリがないというか、今やす、好きなところになるというか……

加えてそんなみんなから好きだと言われ……オレもまた、同じ想いを抱いて……とうとうエ、エロイあれこれまで……!

 カラードたちに言われたようにオレがああいう攻撃に抗えるとは思えないから……本当にちゃんと、みんなのことを考え――って! 今考える事なのか!? こ、これ本当にみんなのパワーアップにつながるのか!? そもそもユーリに話して意味はあるのか!?

「お、おいユーリ! 今更だがこれって――」

 熱い顔でユーリの方を見ると、それまで真剣な顔で話をしていたユーリがいたずらっぽくにやけた。

「さすがだなロイド。これは想像以上のモノが見られるかもしれないぞ。」




「みゃあああああっ!!」

 普段なら腕を痛めることになるからやらないレベルの爆発をガントレットに起こし、あたしはラコフを殴り飛ばした。

「ぬぉわっ!? ど、どうしたいきなり!」

 あたしとアンジュと一緒にラコフへの直接攻撃を連携してやってたアレキサンダーがいきなり暴走したあたしを見て面食らう。

 でもそれどころじゃ……それどころじゃないのよ!!

 いきなり頭に流れ込んできたロイドの――あ、あたしに対する思考。スカートをめくられた時とかお風呂場で押し倒された時とかラッキースケベで突っ込んできた時とか……! それぞれの場面でロイドが何を考え、思い、そして今どう感じているかが言葉じゃない、ま、まるでロイドの感情そのものが直接放り込まれたみたいにあたしの頭の中で破裂した……!!

 死ぬかと思うくらいの恥ずかしさが一気にこみ上げて――あ、あのドスケベ!! すっとぼけた顔であああ、あんなこと思って……!!

 しし、しかもこれだけでも死にそうなのにやや、やらしいのの後ろから追撃で――もっと威力の高いのが……ロロ、ロイドがあたしの……こういうところがいいとかああいうところが可愛いとか――だ、だから好き――みたいな気持ちが爆発して……!!!

 な、何度か本人の口から聞いたこともあるけど――そ、それの純度っていうか、破壊力がケタ違い……!

 そんな――こんなに――あ、あのバカがあたしを……あたしを……

 な、なによもう! こ、こんなにアレならそっちからもっと……だいたいあ、あたしだって同じくらい――好き――なのよっ!

 そうよ! 好きよ! 浮気者のあんたと違ってあたしはあんただけをだだ――大好きで――!!

「――っ……!!」

 胸が燃える、心臓が破裂する……恥ずかしいからっていうのも勿論あるけどそれよりもこれは……この感覚は嬉しさ……!

 抑えきれない――あふれ出す感情、湧き上がる想い、胸の中から噴きあがる炎みたいなそれは――今すぐに何とかしないと止まらなくなってあたしがあたしを制御できなくなる……!

 だから――だからっ!!


『ふん、なかなかのパンチだがお前のそれは飛ばした方が威力は上だぞ? 直接殴るのは急所を確実に狙う為なんだろうが、今のオレの身体には意味のない――』


「うっっっさぁぁぁぁいっ!!!」




 例えるならストレス発散の為に何かを殴るかのような、そんな勢いでエリルがラコフを再度殴る。たまに聞くエリル独特の叫びと共に放ったさっきのパンチはまるで効いていないようだったラコフだが、今度のパンチはそれを受けた瞬間――

『がああああああああああああっっ!?!?』

 ものすごく辛いモノを食べた時の漫画的表現のように、目と口とから爆炎を噴き出しながら叫んだ。熱さにもだえ、熱源をどうにかしようとするもそれは体内にあって、ラコフはどうしようもなく腕を振り回しながら絶叫する。

「ふむ、身体を内から焼く魔法か。あの男が使用している防御力『一万倍』という魔法には耐衝撃は勿論、耐熱耐電などの特殊なダメージも含まれているのだろうが……なるほど、外と内では差があるのかもしれないな。」

「そ、外と内?」

「防御力と言ったら外からの力をどれだけ内に届かせないかという視点になるのが普通だ。盾や鎧を選ぶ時、裏側や内側からの力に対してどれくらい頑丈か――なんてことを考える者はそういないだろう?」

「じゃあラコフは……全身を強化しているつもりで、無意識に内側はおろそかだったってことか?」

「おろそかというか考えてもいないだろうな。そして魔法というのはそういう認識――イメージの影響を大きく受けるモノだ。リリーさんが短剣を突き刺せるのも、あの氷の硬さに加えてそういう理由があるのかもしれないな。」

「イメージか……え、じゃあエリルは――殴った相手が内から燃える的なイメージで殴っているってことか……? 今までそんなのを考えているって話は聞いた事なかったけどな……」

「あれは意図せずだろう。あふれる想いの発散という思考からああなったのだろうな。」

「? よくわかんないが……そもそもなんでいきなりあんな……顔真っ赤だし……」

 最近しょっちゅう新記録が出ている気もするが、過去最高に赤い顔で……しかも瞳をちょっとうるませながら『ブレイズアーツ』によるパンチキックを叩き込んでいくエリル。そんな……個人的には可愛いと思う表情に対しラコフの方は絶叫しっぱなしで、熱せられた鉄みたいにだんだんと身体が赤く光り始めている。

 四本腕の怪物な上に数魔法で尋常ではない強化を施したラコフをエリルが一人で追いつめている……この状況は一体……

「愛の力さ。ロイドのな。」

「えぇ?」

「実はな、さっき彼女たちについてあれこれ質問している間にロイドが思った事や脳裏によぎった感情、ちょこっとしたスケベ心なんかを本人の――無論、本人の頭だけに送ったんだ。」

「……はい?」

「本来言葉にしなければ伝わらず、しかも言葉にした時点で熱量の何割かは失われてしまうそれを、産地直送の百パーセントで伝えたのさ。」

「はっ!?!?」

 感情――スケベ心!?!? みんなの事を聞かれてそれぞれにオレが思った事が――みんなにツツヌケ!?!?

「おおお、おま――どど、どうしてそんなことを――」

「言っただろう? ローゼルさんの氷やリリーさんの位置魔法のようなパワーアップの為さ。」

 見るとオレの近くで戦いを眺めているカラードと突然のことに驚くアレクを除くみんなが……わなわなと震えている……!!

「魔法にはイメージが大事だとよく言われるが、それだけですごい魔法が使えるなら十二騎士は常識にとらわれない純真無垢な子供たちで構成されるだろう。要するに、ちゃんとした技術も必要なのだ。」

 アレク以外のみんなの足が止まっているという、ラコフからしたらチャンスの危険な状態なのだが……そのラコフはエリルの攻撃を受ける度にのたうち回っていて……だからなのか、ユーリがさらりと解説を始めた。

「しかし技術を磨き、経験を積むほどに常識の壁は厚くなり、発想力に「そんなことできるわけがない」という鍵がかかる。これは私たち魔人族にも存在するジレンマで、この鍵を取り除く事は非常に難しい。無理だと思っていた事を誰かがやってのけるのを見るというのがよくある開錠方法だが、先人のマネでとどまるのでは根本的な解決にはならない。だが――そんなモノですら愛は打ち砕いてしまうのだ。」

 エリルの可愛い叫び声とラコフの絶叫を前に、政治家……いや、宣教師みたいな演説を続けるユーリ……

「愛する人の為ならばと限界を超える、誰もが後ずさる脅威を前に並々ならぬ勇気を見せる――愛には己の枷を外し、その者を何段階も押し上げる力がある。常識という壁、不可能という諦めの鍵、それらを飲み込み、破壊するほどの感情の奔流――彼女たちは今、その技術力であれば出来たはずの、しかし蓋をされてしまっていた可能性をロイドの愛によって引き出したのだ。」

 言いながらパチンと――電気で出来ている右手を鳴らすユーリ。すると寝転がるオレの頭の横に小さなガラス玉がコロンと転がった。それは透明な玉で、中に電気の塊みたいなモノが浮いている。

「この戦いが終わったらそれをおでこにあてるんだ。ロイドの愛を受けた彼女たちの感情や想い――つまりはお返事がその中に詰まっている。」

「な――」

「その瀕死の状態では死にかねない程の感情の爆発だろうからな。心して受け取れよ?」




『このクソガキャ――ああああああああああっ!!』

 殴る度、蹴る度にあたしの両手両足から噴き出る炎、その爆発の威力はさっきまでと変わらない。だけどガントレットとソールレットが紅く光ってて、攻撃すると相手の中で魔法の炎が爆裂する。

『――っ――痛覚『一万分の一』――!!』

 防御力を『一万倍』にしたはずのこいつがダメージを受けてるってことは、身体の中までは『一万倍』にしてなかった――というか考えてなかったんでしょうね。いきなり体内で爆発が起きるなんて思わないもの。

 相変わらずの再生能力のおかげでたぶん、焼かれた中身はすぐに元通りなんでしょうけど……ユーリの作戦の、こいつの集中力……と、あと冷静さとかを崩す効果はたぶん結構あった。

 ぶっつけ本番どころか考えもしてなかった魔法をいきなり使えたのは……使わざるを得なかったのは…………炎を――爆発させないと気が済まなかったのは…………


 あんのバカァァァアアアアアァァアアァァアアアアッ!!!!


 まだおさまらない、まだ熱い、まだ――!!

 たぶんあの死人顔の仕業――サ、サプライズって――なんてことしてくれてんのよ!

 どどど、どうやってロイドの顔見れば――あんなに想われてるなんて知ったらあたし――!!

 なんとかするのよ、なんとかしなきゃダメだわ! こいつを――この脳筋野郎をボコボコにして発散しなきゃ止められなくなる!!

今すぐ、こいつを――消し炭にしてやるっ!!

『クソがぁっ! ここまで防御力を上げた状態で痛みを抑えることになるたぁ――あの顔色最悪のガキ! 何をやりやが――』

「はぁああああっ!!」

 感情のまま、あたしは紅い光を更に強くしたガントレットをラコフに打ち込んだ。




「おお、まだ上があるのか。」

 身体を内側から焼かれ、流石に何度もそういう技を受ければ身体の内部にまで防御力アップの魔法を意識しただろうラコフにエリルが再度拳を打ち込むと、目や口からに加えて打ち込まれた腹の裏側、つまり背中の方からも炎が噴き出して――というか背中が全面的に吹き飛んだ。

『なにぃぃぃいいっ!?!?』

 目や口から炎が出るのは体内と直通だからだろうけど、背中からということは炎が身体を突き破ったということ。

 体内の防御力もアップしたはずのラコフをさらに上回る炎の力……

「あれは最早炎の力ではないな……対象がなんであれ、「炎で吹き飛ばす」という現象そのものを魔法で生み出している感じだ……さすがにあれは今のエリルさんの技術を超えているから……やれやれ、ロイドの愛はイメージだけで魔法を実現させるほどに強いという事か?」

「いや、首を傾げられても困るというかユーリが何を言ってんのかわからんというか……」

「さっき言った「蓋をされていた可能性」のさらに先にまでエリルさんが手を伸ばしているという話さ。いずれ辿り着くであろう到達点――いや、通過点かもしれないな。内から燃やすというのは今のエリルさんの技術の範囲内だから、こうして一度経験してしまえば今後もできるようになるだろう。だがあれは今のエリルさんには出来ないはずの魔法だ。」

「で、できないはずの事が――あ、愛の力で出来るようになったってことか……?」

「愛の力による限界突破は珍しい事じゃない。ただ、それはちょっとした心の暴走ゆえの結果だからな。この戦いの後もそれができるようになるというわけではない。ま、一度経験した事でそこに到達しやすくはなっているだろうが。」

「心の暴走――だ、大丈夫なのか……?」

「魔法使用による負荷は大きいだろうし、更に強力な魔法を使おうとすれば危険なレベルだが――心配するな、その時は私が止める。」

「……みんなに危ない事すんなよ……」

「私としたことが愛の力を甘く見ていた。すまない。」

 ……状況的に、こうして瀕死の状態になったオレを助ける為にみんなは……ユーリは戦っていて、このパワーアップもその為の策……それをわかってはいるけれどそう言わざるを得なかったオレに対し、これといった言い訳もなく謝罪するユーリは……いい奴だ。

「しかしこの愛の力、我らが姫たるミラに与えたらどうなるのだろうなぁ……ロイドの血を少し吸うだけで世界最強と言っても過言じゃない強さになるのだから、場合によっては神様になってしまうぞ。」

「そ、そうか……?」

「お、他のみんなが動き出すぞ。」

 ユーリの言った通りに今の一撃は負荷が大きかったのか、エリルが少しふらつきながらラコフから距離をとる。対するラコフは爆散した背中が再生能力のすごい魔法生物みたいにすぐさま塞がっていったが、状況が理解できないという顔でエリルを、そしてユーリを睨みつけた。

『一体何が――なにをしたぁぁあっ!!』

 砲弾のような速度でオレたち――いや、ユーリの方に突進したラコフだったが、その随分手前で見えない壁にぶつかって愉快な顔をさらした。

『ぶがっ!? こ、これは――ぐふっ!?』

 ぶつかった衝撃で後ろに戻されるラコフの胸に穴が開き、次の瞬間同様のモノが体中に生じた。

『――!! オレの身体をつらぬかばあああっ!』

 穴が開いた……のだが、その穴を開けたモノがなんなのかよくわからないでいると、まるで見えない何かに引っ張られるようにラコフの身体が宙を舞い、空中でぐるんと方向転換して地面に突っ込んだ。

「?? え、な、何が……」

「ああそうか、それだけ疲労していれば余計にわからないだろうな。ほら、ローゼルさんだよ。」

 ユーリが指差した先にはローゼルさんが立っていたのだが……あれ、いつもトリアイナを包んでいる氷の刃がない……?

「あの男の身体に負けない硬さとそれを貫くだけの速度とパワー。それを同時に複数放ったことに加え、氷の透明度がとんでもない事になっているな。」

「透明度……え、じゃあさっきラコフに開いた穴は――」

「ああ、『アイスブレッド』だったか? 透明な氷の槍が突き刺さった結果だ。その透明度は硬さと同様に自然界ではありえないレベル――彼女が生み出す魔法の氷はさらに進化したようだな。」

 つまり見えないだけでトリアイナはいつものように氷に包まれているということか。ただでさえ変幻自在の水と氷の技がこの上見えなくなるって――


「あぁ――はぁ……」


 肌がピリッとするくらいに熱い視線を感じたオレはローゼルさんと目が合う。それはあの夜、オレがヨヨ、ヨクボウのままにおそ――ってしまったあの時の表情に近く、見ていると理性が溶かされる妖艶な微笑みで……!

「もはや人間を超えた身体になっているあの男の、その上での『一万倍』をあっさり貫くとはおそれいるが――やはりツァラトゥストラである『腕』そのものは別だったか。」

「ドド、ドウイウコトダ!?」

「なぜ片言なんだ? いやな、ロイドには見えていないからアレだろうが、ローゼルさんの槍はあの男の腕にも放たれたんだ。あとから増えた二本の腕は貫いたのだが……ツァラトゥストラの『腕』には通らなかった。」

 とはいえ全身を穴だらけにされた上に結構な勢いで地面に叩きつけられたラコフなのだがその穴はすぐに塞がり、叩きつけられたダメージに関しては全く効果なしという感じでゆっくりと立ち上がった。

ただ――

『強化したこの身体が二度も――いや、あり得ない! 力が上手く出ないのも含めて、やはりあのガキが何かを――』

 身体は無傷ながらも表情はひきつっている。ユーリの狙いである、怒らせて心を乱し、数魔法を弱めるという作戦は順調に進んでいるようだ。

「お、次はティアナさんだぞ。」

ラコフが再度ユーリの方を睨んで一歩踏み出そうとしたその時、何発かの銃声が響いた。

『……ふん……魔法はともかく、銃弾でオレの身体は貫けねぇぞ。』

 イラついた顔で銃を構えているティアナの方へ身体を向けたラコフだったが――完全に向き切る前にその動作をピタリと止めた。

『……なんだ……?』

 何かに違和感を覚えているらしいラコフの前、更に何発か銃を撃つティアナ――ってあれ……? さっきから着弾した音がしないぞ……? まさか空砲なわけはないし……

「おお、これはすごい。」

 腕を何種類も持っているように目玉もいくつか持っているユーリが……あれは確かティアナの魔眼みたいに遠いモノや速いモノをよく見る為の目だったか、それを右目につけてラコフを見ている。

「ティアナさんは発射した銃弾の形状をいじることで弾の軌道を曲げるのだったな。」

「あ、ああ……」

「それをこういう形で進化させるとは。見えにくいだろうがあの男の腕をよく見てみろ。」

「あー……んん? あれは……ワイヤーか……?」

 光の加減でなんとか見えた鉄線。地面から伸びたそれはラコフの腕をぐるぐる巻きにしてその場につなぎとめていた。

『ふん、こんな針金でオレが――』

 縛られている腕に力を入れてそれをちぎろうとするラコフだったが……

『――!? な、なんだこれは……力が……どうなっている!?』

 そう言う間も響く銃声。その度にラコフを縛る鉄線が増えていき、段々とラコフが身動きとれなくなっていった……

え、ど、どういうことだ? あの鉄線がどこから出てきてるっていうのもそうだし、あんな細い線でどうしてラコフを止められる……?

「あの鉄線は元々銃弾。ティアナさんが形状を変化させて作り出したモノだぞ、ロイド。」

「銃弾!? い、いや、第九系統がそういう魔法っていうのはわかってるが――発射された銃弾をそんな一瞬でか!?」

「それを可能にしたのだろう? ロイドの愛が。」

「う――じゃ、じゃああの強度は一体どういう――」

「あの男を動けなくしているのは強度の問題じゃない。あれはあくまで銃弾が変形しただけの大したことのない鉄線さ。ポイントはあれで縛っている場所や角度だ。」

「場所……?」

「さっきロイドの妹さんがあの男を四本の腕を外に出したまま潰そうとしたのと同じだ。あの腕にどれほどの怪力が宿っていようと、その力が発揮できない状態にしてしまえば無意味だ。」

「……あの縛り方にそういう効果が……?」

「ティアナさんが縛り、動けなくしている箇所は動作の起点となるような場所なんだ。何かをする時にまず初めに動き、そこが動かないと肝心な場所が動かない――銃の撃鉄に詰め物をして発砲が起きないようにしている感じだな。」

「理屈はなんとなくわかるが……そういう箇所ってそんなすぐわかるモノなのか……? 人の形をしているならともかく、あんな四本腕……」

「形状の魔法の使い手として『変身』を行えるほどに肉体というモノに精通しているティアナさんの知識は勿論だが、おそらく今の彼女の魔眼ペリドットには見えているのだ。重心の位置や筋肉の収縮などが――ロイドの愛によってな。」

「――! ま、魔眼の能力まで上がるのか!?」

「上がったと言うよりは使いこなせていなかった部分を引き出したという感じだな。魔眼だって魔法の産物――心の影響は受けるとも。」

「そ、そういうものか……」

「ちなみにあの鉄線は地面の下で木の根のように広がり、ちょっとやそっとじゃ抜けないようになっている。私があの男のパワーを弱めたとはいえ、見事な拘束だ。」

「弱めた……?」

「『ガルヴァーニ』。私があの男にくらわせた雷は相手の神経系を狂わせる魔法でな。あの男は今、やろうと思った事と実際に身体がなす事に大きなズレが生じている。」

「……わかりやすく言うと……?」

「全力でパンチをしているつもりでも、実際に脳から身体に送られる命令は「半分の力でパンチしろ」というモノになっている。本人はフルパワーのつもりだから、急に力が入らなくなったような感覚だろうな。」

『が……な、なぜ……オレが……一万――『一万倍』だぞ……! どうしてこの程度を破れないっ!』

 全身ぐるぐる巻きというわけではなく身体の一部だけがギチギチに縛られた状態で、パッと見では簡単に抜け出せそうなのだが、歯を食いしばって力を入れるラコフは微動だにできず――


「……」


 ――! ラ、ラコフを拘束したティアナがふと横目でオレに視線を……それだけで息が止まるくらいの色っぽさを含んだ熱い視線を、お、送って――その場から離れて……ああああぁぁ……


「んん――熱い……冷まして――もらわないとねー……」


 ティアナと交代するように動けないラコフの前に立ったのは――ツインテールを揺らし、艶めかしく唇を濡らしつつも反則的な――この上ない笑顔でオレにウインクを送るアンジュ……あぁ、かわい――はぅあ! い、いかんいか――おわ、なんだ!? 急に眩しく……

「ああ、あれほどの規模になると口から放つ以上の威力になりそうだな。」

 相変わらず体力がカツカツで瀕死だというのに心臓をバクバクさせるオレは、ユーリが感心しながら見上げるそれを見た。

 一瞬太陽かと思うくらいの輝き。ランク戦でエリルやローゼルさんと戦った時に巨大な『ヒートボム』を出していたけど……あれとはレベルが違う。

アンジュの『ヒートボム』は「高温」そのものを圧縮して球状にし、触れるとその「高温」が破裂し、結果爆発を起こすという技だ。今はそれに火のマナから生まれた火の魔力を一時的に込める事でアンジュの必殺技『ヒートブラスト』のミニバージョンを放ったりするわけなのだが……あの太陽みたいな特大『ヒートボム』に圧縮された熱量と魔力の量は今のオレにもわかるくらいに――尋常じゃない……!

「ふむ、エリルさんが暴れ始めた辺りからタメ続けていたようだな。ロイドの愛で感情が渦巻いてもなお、連携がとれるのは素晴らしい。」

「ま、まぁ、なんだかんだ朝の鍛錬でお互いのことは――い、いやそれよりもあれ……まさか貯金を全部つぎ込んだのか……?」

 アンジュの持つ魔眼フロレンティンは魔力を貯めておくことができるから、マナから魔力への変換時に生じる、いわゆる魔法の負荷なしに強力な魔法が使えるという特徴がある。だからアンジュは毎日ちょっとずつ魔力を貯める習慣があるわけだが……

「どうやらそうらしい。魔法の中に魔力を留めておくなんていう特殊な行為は……あの男も分身に魔力を与えていたから誉めるようでしゃくだが、相当な高等技術だ。量が増えればそれだけ維持も難しいわけだが――アンジュさんはため込んでいた全魔力をあの『ヒートボム』に注ぎ込んだようだ。」

「――! こ、これも……あ、愛の力だって言うのか……?」

「多少はそうだろうが――メインはこの後だろうな。」

「メ、メイン?」

 オレがそう聞き返した直後、アンジュの頭上に浮かんでいた特大の『ヒートボム』が小さくなった。いや、あれは圧縮した――のか?

「あれほどのエネルギーをさらに圧縮……誤爆の可能性が大きいゆえにとてつもない集中力を要するだろうこれを出来て当然というようにあっさりなすとは。ローゼルさんのように、今の自分に出来ないことはないという心ゆえの偉業――これがロイドの愛の力だな。」

 特大の『ヒートボム』に込められた熱と魔力。それらが人の頭ほどの大きさまで圧縮された。残るはその圧倒的な力の開放――!


「『ヒートブラスト』。」


 規模は前に見た時の二、三倍と言ったところ。しかし放たれた瞬間に周囲が歪み、地面が溶け、瞬時に膨張する空気が破壊をまき散らす中、目を閉じてもなお眩しい紅い閃光と共に走る熱線はラコフの右肩――二本の右腕が生えている辺りに直撃した。

『――――!!』

 叫んでいるのだろうが、喉が干上がったみたいに声の出ないラコフの右肩に収束した紅い光は次の瞬間、爆音と共にその場所を貫いて草原の遥か彼方で着弾――大爆発を起こした。

「おおー、これはまた、S級の魔法生物の全力の一撃に匹敵するエネルギーだな。」

 遅れて届いた轟音と爆風の中でのんきに感想を口にするユーリはさておき、そんな一撃を放ったアンジュはニンマリしたままバタリと倒れ――!

「アンジュ!」

「心配するなロイド、いわゆる魔法切れだ。放った魔力は貯金してあったそれでも、今の攻撃を形にしたのは今のアンジュさんが行った魔法――あんな一撃を放ったんだ、そりゃ倒れる。それでも、今のロイドよりは元気だ。」

「でも――」

「それに、ロイドには思考が届いてないが――これも彼女たちの作戦なんだ。見ろ、第一段階クリアだ。」

 大爆発が起きた遥か後方ではなく、もっと手前でもうもうと煙を出す存在――ラコフを指差すユーリ。

『――ば……ばかな……こ、こんな――こんなことがぁぁああっ!?!?』

 あの攻撃を受けても普通にしゃべれるところがとんでもないが、その右半身には致命的なダメージがあった。

 さっきユーリが言った通り、やはりツァラトゥストラである『腕』は少し焦げた程度でまだそこにあるのだが――その周囲、あとから追加されたもう一本の右腕や肩の周辺は黒い焦げをわずかに残して消し飛んでいる。

 要するに、ラコフの身体から右腕がちぎれて落ちていた。

『オレの、今のオレの身体を――だ、だがまだだ、ガキ共が! こんなのすぐに再生――』

 貼り付けたような虚勢で落ちている腕に一歩近づいた瞬間、地面がドロリと液状になってその右腕を飲み込んだ。

「まずは一本――です。」

 いつの間にかオレたちの近くに立っていたパムの横、地面からずるりと出て来た巨大な手に沈んだ右腕が握られていて――


「……」


 ――!! い、一瞬、パムが泣きそうなふくれっ面でオレを睨んで――巨大な手が一瞬で金属の塊になり、ラコフの右腕を封じ込めた……

な、なんだ今のドキッとする顔は……パ、パムは妹だぞ、オレ!

「……リリーさん、仕上げを!」

 可愛い顔をキリッとさせたパムがそう言うと、倒れたアンジュの近くにリリーちゃんが現れる。そしてアンジュのおでこをぺちんと叩くと、アンジュはオレが寝転がっている場所の近くに移動した。

『次から――次に……!!』

 さっきまでよりは少し速度が落ちたような気がするが、それでも充分な速さで焦げた部分が再生していくラコフ。右腕はパムがおさえているからそこだけは無いままだが、背中から生えた追加分は再生し、左に二本、右に一本という三本腕の状態になる。

『お行儀よく順番に――なめやがってえぇぇっ!!』

 多少驚いたりなんなりはしても余裕を残す表情だったラコフの顔がいよいよ怒りでいっぱいになり、ユーリではなく目の前に立つリリーちゃんの方へ飛びかかった。

 だが――

『!?!?』

 強化された身体によって一瞬でつめることのできるその距離を跳躍したはずのラコフは……同じ場所に着地した。

 え、なんだ今の……確かにリリーちゃんの方に跳んだように見えたのに……あれ、その場でぴょんと跳ねただけになっている……?

「これは……」

 色々とすごいみんなの魔法に驚いていたユーリだが、今回は若干顔が引きつっていた。

「……彼女たちのロイドへの想いの強さは横並びかもしれないがその量――積み重ねた時間で見ると頭一つ飛び出るだろうリリーさんはロイドの愛の影響を最も強く受ける……予想はしていたがこれほどとは……」

「な、何が起きたんだ……? リリーちゃんは何を……」

「起きた事は単純だ……飛びかかったあの男は――移動した分だけ後ろに戻されたんだ。」

「え……つまりラコフの位置を……? で、でも位置魔法にはルールが――他人を移動させる場合はその人の許可とか、もしくは印を刻むとかが必要なんだろ?」

「ああ、だからリリーさんはあの男を移動させたんじゃない……あの男がいる「空間」を移動させたんだ……」

「く、空間!? え、まさか――空間魔法!?」

 交流祭で出会ったカペラ女学園の生徒会長であるプリムラ・ポリアンサさん。彼女は第一から第十一までの系統をマスターし、加えてそれらを組み合わせることで初めて使う事ができる空間魔法というモノの使い手だ。それは風すらも真っ二つにするという、もはや防御力云々を完全に無視した力だった。

「ああ、半分正解だろうな。第一から第十一までの系統を合わせる事で時間を除く全ての事象に干渉できる力が空間魔法だが、その構成は十一の系統の等分ではなく……第十系統の位置魔法が主成分と言っていいモノだ。」

「え、そ、そうなのか……?」

「だがだからと言って位置魔法単体であの域に到達するとは……魔人族も含め、そこに至った者は歴史上数えるほどしかいない。」

「魔人族含めて……!?」

「まったく情けない限りだ。私はまだまだ、愛の力の強大さを理解できていなかったらしい。」

『な、何が……――ぐっ!?!?』

 何をされたのかわからずに立ち尽くしていたラコフの顔に苦痛の表情が走る。

『が――ああああぁぁっ!!』

 一本だけになった右腕で左肩のあたりをおさえるラコフに対し、たぶん何かの攻撃をしかけているのだろうリリーちゃんは――


「はぁん――ロイくん……やぁん…………ロイくん……ロイくん……」


 うつむき、肩を抱いて震えながらオ、オレの名を呟き続け、そしてふと力が抜けたようにその場にペタリと座り込んで――リ、リリーちゃん!?

「お、おいユーリ! リリーちゃんの様子が――」

「まさかそんな……こんなことまで……?」

 具合でも悪いのか、それとも空間の移動なんてすごい魔法を使った影響でアンジュみたいに魔法切れを起こしたのか、とにかくまずそうなリリーちゃんを助けて欲しいとユーリを呼んだのだが、そのユーリはひきつりにほんの少しの恐怖が混ざった驚愕顔で苦しむラコフを見ていた。

 そして――


「――んもぅ、ロイくんてばぁぁあぁんっ!!」


 うつむいていた顔が上を向き、そこに――も、ものすごくとろけた幸せいっぱいの笑顔を浮かべてリリーちゃんがオレの名を叫ぶと――


『あああああああっ!!』


 ――ラコフの二本の左腕が切断された。

 いや、切断というほどやさしいモノじゃない。断面から考えると――引きちぎられたと言ったほうがたぶん正解だ。強化によってとてつもない硬度になっているラコフの腕の一部を上、一部を下に引っ張って無理矢理破壊したような痕……尋常じゃない力が働いたに違いな――

「……!? な、なんだあれ……!?」

 ちぎられ、宙を舞う二本の腕の下にある地面にいつの間にか亀裂が走っている。い、いや亀裂とかそういうレベルじゃない……地割れ……? しかもあれ、どこまで続いて……

「……ここが草原でよかったな。街中であれをやっていたら断面の延長上にあるモノは全て真っ二つだったぞ……」

「オ、オレには何が起きたのかさっぱりなんだが……」

「ああ……リリーさんは……空間をずらしたんだ。」

「……つ、つまり……?」

「リリーさんから見て正面にある空間を、あの男の左腕を断つ向きで上下にずらしたんだ……あの生徒会長さんの魔法同様、どんなに硬かろうが関係ない――その断面の線上にあるモノは全てがずれる。あの地割れもその影響……おそらくリリーさんの視界に入っているところまで続いているだろう。」

 視界に入っていればそれがなんであれズレるなんて、なんだそのデタラメな魔法――というか今度こそリリーちゃんへの負荷がやばいんじゃ!


「ふにゃん……」


 ああ、思ってるそばからリリーちゃんが倒れた!

「心配するなロイド……リリーさんは魔法の負荷を受けていない……」

「えぇ!? いやでも倒れたぞ!」

「あの幸せそうな顔を見ろ……嬉しすぎて力が入らないとかそんな感じだ。愛の力が大きすぎたらしい……」

「そ、そうか――いやいや! 負荷がないってどういう――」

『ぶぐあっ!?』

 コテンと倒れたリリーちゃんの前方、右腕だけのラコフが突然血を吐いた。

『!?!? こ、この感覚は魔法の負荷――ツァラトゥストラが切断されたからか!?』

 地面から伸びた土の腕が切断された左腕――たぶんどっちがツァラトゥストラかよくわからないからだろう、二本ともを回収して右腕と同様にパムが金属でがっちりと抑えたため、今のラコフはツァラトゥストラとつながっていない。

 魔法使用による負荷を激減させるらしいツァラトゥストラと離れた事で今までの数魔法のツケみたいなモノが来たのか……?

「……あの男はああ言っているが……今あの男に降りかかった負荷は――リリーさんのモノだ。」

「えぇ?」

「強大な魔法だったからな、さすがに止めようかと思ったんだが――ああ……こう、魔人族的な感覚で悪いんだが、その瞬間、リリーさんの身体を覆おうとした負荷があの男の方に瞬間移動したんだ。つまり……自身に及ぶはずだった魔法の負荷の「位置を移動」させてあの男に押しつけたわけだな。」

「……?? なんだその言葉遊びみたいなの……そんなこと可能なのか?」

「ああして世界をズラすほどの域に達した位置魔法ならば……まぁ、不可能とは言えないな。そもそもこうして目の前で起きたのだから、受け止める他ないだろう? これも愛ゆえだ。」

「……そろそろ愛だけじゃ説明できないレベルじゃないか……?」

「どうかな。」

 ……んまぁ、今は考えても仕方がない。アンジュが魔法切れで、リリーちゃんが……う、嬉しすぎで……動けなくなりはしたけど、ツァラトゥストラである『腕』を奪った今、ラコフはかなり弱体化しているはず。

 いや、弱体化というか……あの怪物の姿はツァラトゥストラの力によるモノのはずだから、こうして切り離されたら元の人間に戻るんじゃないか? しかも両腕が無い状態……これはもうこっちの勝ちなのでは……

「そうもいかないようだぞ、ロイド。」

「……! まじか……」

 右肩にアンジュのスーパー『ヒートブラスト』を受け、左腕をリリーちゃんの空間ズラしで引きちぎられた上にその負荷を受けたラコフは……両腕のツァラトゥストラを失ったというのに身体の再生が始まり、二本腕に戻りはしたけど相変わらずの怪物姿でまだ立っていた。

「どうやらツァラトゥストラによって変化した身体はそのままのようだな……あれではもはや人間とは呼べない。腹立たしいがあの男は……半分魔人族になったらしい。」

「半分……」

「魔法器官は持たないからマナを作ることはできないが、人間を超えた強靭な肉体に魔法の負荷を受けにくい身体――中途半端な存在になったものだ。」

「負荷を受けにくい? リリーちゃんの魔法の負荷で血を吐いてたぞ?」

「空間をズラすような魔法の負荷を受けてその程度――という事だ。」

「なるほど……さっきまでの四本腕状態よりは弱くなったけど、相変わらず厄介な相手なわけだな……」

「まぁそうだが……愛の力でパワーアップしたエリルさん、ローゼルさん、ティアナさんにロイドの妹さんがいて、まだまだ元気なアレキサンダーさんがいて、ブレイブナイトの『ブレイブアップ』も残っている。大丈夫さ。」

「む、おれの出番はまだあるのか?」

 完全に一人待ちぼうけ状態のカラードが少し驚きつつも嬉しそうな感じで反応する。

「待たせて悪かったな。だがようやくあの男は……初めから出しておけばよかったと後悔しているであろう「本気」を出してくる。」

「うえ、ここまでやってやっとかよ。つーか確かにまだ元気だが、俺は必要か?」

 とんでもない魔法のオンパレードをぽかんと眺めていたアレクが頭をポリポリかきながらユーリにたずねる。

「今のエリルさんたちの力はオーバーパワー。限界がいつ来るかもわからないからな。素であの男と力比べのできる戦力は必要だ。」

「……なんか拗ねてるところをおだてられた気分だが……置き物と化してるカラードよりはましか。」

「アレク、気にしていることを。」

 キシシと笑うアレクとムッとするカラード。

「ふふふ、二人にも愛の力を手にする時が来る。パワーアップはその時までのお楽しみに――おっと、あの男が動くぞ。」

 ユーリの言葉に構えをとるアレク。そしてその思考が伝わったのか、か、可愛いくムスっとしているエリル、ほほに手を添えて、よ、妖艶な雰囲気で立つローゼルさん、横目でオ、オレをじーっと見つめるティアナ、倒れたリリーちゃんをオレたちがいる場所まで移動させて、じゃ、若干オレを睨んでいるパムも同じく武器を構えた。

『……アネウロは言った。オレの望みの世界が来ると……』

 ツァラトゥストラではない新たに生えた両腕に視線を落とすラコフ。

『世界を救うために世界を征服する……理由なんざどうでもいいが、とにかくあいつは戦争を引き起こそうしてやがる。世界中のやべぇ奴らが表に出て、力がモノを言う世界が来る……ああ、楽しみだ……生まれる時代がもっと早けりゃと嘆く時間はもう終わりだ……バトルが始まる――命をかけた血みどろの殺し合いが日常になるんだ! それを目前にこんなところでガキ相手に……? あぁ? オレが負けるわけがねぇ。んなわけ……んなわけがあるかぁあああぁぁっ!!』

 これでもかという怒号が響き渡り、ラコフが完全にキレた顔をこっちに向けた。角やら牙やらいろいろとんがった怪物顔でさらに叫ぶ。

『もう容赦はしねぇ、ガチで殺しに行く! お前らの魔法なんざひねりつぶして全員バラバラにしてやらぁっ!!』

 ……昔フィリウスがAランクの魔法生物を討伐するのを手伝った事があるが、その魔法生物が追いつめられて死に物狂いの本気を見せた時のプレッシャーに似たモノを今のラコフから感じる。本当に、人間から離れた存在になったらしい……

「勝手に手加減してキレてんじゃ世話ねぇな、おい。」

 小さい子なら泣き出すのを通り越して全員気絶するだろう迫力を前に、アレクがぼそりと呟いた。

『ああ……?』

「いや……俺にはお前の今の言葉がわからないでもねぇんだ。強い奴がわんさか出てきてそいつらとバトルができるってのはなかなか楽しそうだと思う。そういう奴は戦闘狂とか呼ばれるわけで、別にそれは構やしねぇんだが……似た者のはずのお前の考え方が俺にはよくわからん。」

 全身を強化し、どんな攻撃も跳ねのけて突き進み、強力な一撃を叩き込む――自分と似た戦い方をするラコフに対し、だけど自分とは違うとアレクは言葉を続ける。

「思ったよりも相手が強かった時、本当に戦いが好きな戦闘狂って呼ばれる奴なら喜ぶもんだ。十二騎士のトーナメントじゃよくある光景だぜ? 負けたことよりも強い相手に会えたことに笑って退場していく騎士ってのは。だがお前は……予想外に強かった俺らにブチ切れた。てことは要するによ、お前は――」

 巨大な斧に力をこめ、別に怒るでも笑うでもなくアレクは言った。

「――弱い者いじめが好きなだけだ。」

 アレクの言葉が空気に溶けて数秒後、ラコフは咆哮と共に駆け出した。




 対水害用の防御魔法を利用した水の檻の中に閉じ込められた首都。あちこちで戦闘音が響く中、とある一角では竜巻と光線が飛び交っていた。

 その身を甲冑で包む桃色の髪の女騎士オリアナは、左目から放たれる赤い光線と手にしたサーベルを武器に戦うオズマンドのメンバーの一人、プレウロメとの二度目の戦闘を繰り広げていた。

「……妙ですね。」

 周囲の建物などお構いなしに連発される光線に苦い顔をしつつそれをかわし、風とランスによる攻撃をしかけるオリアナは、サーベルで応戦するプレウロメの動きに違和感を覚えていた。

「は――何がだっ!」

 オリアナの目の前、ランスを受け流した直後、位置魔法による移動のような速度でオリアナの背後にまわるプレウロメ。だが巧みな手さばきでくるりと回転させたランスを背に回して死角からの一撃を防いだオリアナは、自身とプレウロメの間に突風を起こして距離をあけた。

「器用に防ぐ……一芸魅せるじゃないか。」

「今もそう。」

 ランスの腕を茶化すプレウロメの言葉を無視し、オリアナは確認するようにプレウロメのサーベルへ視線を移す。

「仕組みは不明ですが、あなたは自身の経過時間を加速させることができる。であればなぜ――あなたは加速したままで攻撃を行わないのか。」

「――!」

「加速によって私の背後をとったならそのままの速度で斬りかかればいいものを、何故かあなたは直前でその加速を止めている。こうしてお互いが間合いの外にいる距離であっても加速して近づき、そのまま攻撃を仕掛ければいいのにあなたは私の目の前までの移動で加速をやめてしまう。」

「……なんだ? まるで攻撃されたがっているように聞こえるが?」

「時間魔法の使い手とは何度か手合わせの経験がありますが、そのような制約は無かったはずです。」

 話しかけているようで独り言だったらしいオリアナにプレウロメがイラつきを見せた瞬間その顔――左目に向かって砂埃が舞った。

「――!?」

 反射的に目を閉じたプレウロメだったが、それが非常にまずいことであると直感し、自身の時間を急加速させて無理矢理目を開く。そして直前に迫っていたランスを視認するや否や、更なる加速でその場から離脱した。

 だがその攻撃を薄目で見たプレウロメはそれがランスだけだった事に気づかず、回避方向に先回りしていたオリアナによって背中に高速回転する小さな竜巻を打ち込まれた。

「――っが!?」

 背中の一部にねじれるような痛みが走り、プレウロメはぐるぐる回転しながら元来た方向に飛ばされる。そしてその方向には何故か空中で静止しているランスがまだあり――

「――!! だあぁああっ!!」

 それに気づいたプレウロメは光線を放ち、その反動によって自身が飛んでいく軌道をズラす。結果、ランスは右肩をえぐり、プレウロメは瓦礫に突っ込んだ。

「はああぁっ!」

 間髪入れず、オリアナは空中で静止していたランスを風で手元に戻し、そこに風をまとわせ――

「『エアカッター』っ!」

 ランスを剣のように振り下ろした。すると巨大な風の刃が走り、プレウロメが突っ込んだ場所に大きな斬撃を刻んだ。

「――!」

 追撃を決めたと思ったその瞬間、オリアナは何かに気づいてその場から移動し、直後その場所を赤い光線が走った。

「ったく、できれば殺したくないという割には容赦のない。この前もさらりと目玉をくりぬいたしな。」

 右肩を押さえてため息をつくプレウロメに対し、オリアナは着地と同時にランスを構えなおす。

「……加速による高速復帰がある以上、追撃は決まりにくいですね。一撃でとなるとフィリウス殿が得意とする技を……」

「……妙と言えばそっちもだいぶ妙だな。」

 オリアナが一人呟いている間、マネをするようにプレウロメも一人でしゃべり出す。

「ランスはともかく、風魔法の方は一貫性がないというか、色々な奴の技を使ってる感じで……いや、試しているという方が正解か……?」


 プレウロメの予想はその通りで、オリアナという女騎士は今、第八系統の様々な風魔法を試している。

 S級犯罪者である『イェドの双子』に遭遇し、中級騎士――スローンでありながらたった一人で化け物クラスの猛者に挑んだ無謀を《オウガスト》であるフィリウスに「いいガッツ」と見込まれ、十二騎士がそれぞれに持つ専属部隊『ムーンナイツ』に招かれた。

 十二騎士に並ぶような上級騎士――セラームからメンバーが選ばれる事の多い部隊にスローンの身で所属する事になったオリアナはフィリウスのアドバイスのもと、他の『ムーンナイツ』の風魔法を勉強させてもらっている。

 元々風の制御に関してはセラームでも並ぶ者が少ないほどの使い手であり、仕組みややり方さえ理解できれば大抵の魔法はマネができる為、それらを実戦においてどのように活用するか、またそこから新たな風魔法を生み出せないかを試行しているのである。


「……実験台にされているとあっちゃいい気分はしない。ふん、こっちも一人にかかり切りってわけにはいかないからな……そろそろ終わらせようか。」

 そう言うとプレウロメはポケットに手を入れ、中心に赤い石がはめ込まれている眼帯のようなモノを取り出した。

「……」

「……わざわざ待ってるとはまぬけだな。」

 それを装着している間、構えを崩しはしないが何もしないオリアナを鼻で笑うプレウロメだったが、オリアナは淡々と答えた。

「それを身につける時間も加速できるはずなのにじっくりと見せてくれるのですから、観察させてもらっているだけです。」

「……そうかい。」

 オリアナにじっくり見られながら眼帯を――左目に装着したプレウロメは、続けて先ほどとは逆のポケットから小さなガラス玉を取り出した。

「第八系統の風魔法の使い手は空気の流れを読んで相手の動きを先読みすると聞く。私が背後にまわろうと反応できるのはその為……いくら時間を加速させようと、瞬間移動しているわけではないから空気に流れを生んでしまい、それを読まれる。だが――」

 取り出したガラス玉を指で挟み、グッと力を込めるとそれはあっけなく砕け散った。

「いくら先読みしようと反応を超えるスピードで迫られれば対応はできまい。時間回収の速度を上げた今、私の速度は先ほどとは比べ物にならないぞ。」

「……時間回収……?」

「おっと、口が滑ったな。だがまぁ、数分後には立っていない者が知ったところで問題は――ない。」

 瞬間、オリアナは光線が放たれる時のわずかな温度の上昇、それによる空気の動きを感じ取って回避行動をとったのだが――

「――くっ!」

 その光線はプレウロメの左目からではなくオリアナの後方から放たれ、それに一瞬動揺したことで完全には回避できず、オリアナの左腕は赤い光に包まれた。

光線の対策として身体に耐熱魔法をかけているオリアナだが、序盤で受けたダメージと相まり、今の一撃で左腕をまともに動かせなくなる。

「驚いたか? こっちにはマジックアイテムを作るのがうまいメンバーがいてな。」

 プレウロメが赤い石の光る眼帯をトントンと叩くと、今度はオリアナの真上から光線が迫る。通常の回避が間に合わないと判断し、オリアナは突風による緊急回避を行ってプレウロメから大きく距離を取った。

「――位置魔法……確かオズマンドの序列四番のメンバーは第十系統の使い手でしたね……」

「ん? ああそうか、ナンバーフォーまでは国王軍も知ってるんだったか。まぁその通り、この眼帯の力で左目からの攻撃は好きな場所から撃てるってわけだ。」

「……それは嘘ですね。」

「……なに?」

 左腕をだらりとさせつつも、耐熱魔法に加えて自身の身体を風で覆ったオリアナは片腕でランスを構えなおす。

「好きな場所というのなら、私が甲冑をまとっていない顔などを狙ってゼロ距離で放てばいい。先ほどの背後からの攻撃も、そうとわかっていれば回避するのに十分な距離から放たれていた……おそらく距離――いえ、発射地点は大雑把にしか定められないのでしょう。」

「…………わかってもどうしようもない事というのは、あるものだぞ――!」

 プレウロメの姿が消えると同時に死角から放たれる光線。今度は完全に回避したオリアナだったがその顔には驚きと焦りがあり、直後動かない腕の方――左側に現れたプレウロメのサーベルを、ギリギリ反応の間に合った左脚で受けた。

「は! すごい防ぎ方だな!」

 再び消えるプレウロメに対し止まっているのは危険と判断したオリアナは追い風を利用した高速移動を開始したが、予想外の場所から放たれる光線の回避に足が止まり、再びプレウロメのサーベルを、今度は防御が間に合わない為にわずかに姿勢を崩すことで首元に迫った一撃を甲冑をまとった胸部で受ける。

「――っ!」

「やるが――いつまでもつ!」

 そこから始まる怒涛の連続攻撃。先ほどまでとは段違いの加速で動くプレウロメとどこからともなく発射される光線の猛攻。空気の動きによる先読みと風による回避を総動員してそれに対応するオリアナだが、攻めに転じることができずに防戦一方となる。

「ならば……」

 このまま続けば確実に負ける状況の中、突如オリアナはランスを真上に放り投げた。

「何をしてるのやら――武器を捨てるか!」

 もはやその言葉もどこから聞こえているのかわからなくなるほどのプレウロメの猛攻に、甲冑をまとっているとはいえ徒手空拳のみで対応していくオリアナ。ランスを振るうよりも小回りは利くようになったが、反面間合いが小さくなったことでプレウロメの攻撃を間近で受ける事になり、サーベルをギリギリ紙一重で防ぐような瞬間が増えていった。

「終わりが見えてきたな、中級騎士!」

 フェイントを含めつつ主にオリアナの頭部を狙ってサーベルや光線を放っていたプレウロメは、これまで狙わなかった脚にサーベルではなく蹴りを加える。

「――!」

 サーベルを振るう時もそうではあったが、第一系統の強化魔法を得意な系統としているプレウロメの蹴りは甲冑の上からでも十分な衝撃をオリアナの脚に与えた。

「とどめだっ!!」

 ガクンと体勢崩したオリアナの首を狙ってサーベルを振るうプレウロメ。

 だが――

「なにっ!?」

 突如何かにのしかかれたかのような衝撃を受け、プレウロメは地面に叩きつけられた。

「くそっ――」

そのまま地面に転がっていては致命的だが思うように身体を動かせないプレウロメは、装備しても前が見えるようになっている眼帯越しに周囲をその特殊な『眼』で瞬時に確認する。

 見ると、自分たちが戦闘を繰り広げている街の一角全体に上からの強風――暴風が、先ほどオリアナが投げたランスを起点に吹き下りていた。加えて、その風はオリアナが立っている場所を含めて一部には吹いていなかった。

「――うおおおっ!!」

 強化魔法を最大出力で身体にかけ、プレウロメは暴風域から無風の部分へと退避した。だが直後、プレウロメは自分が罠にはまった事に気づく。

 地面にへばりついてしまうほどの暴風が吹き荒れる中、一部だけに存在していた無風地帯。そこはオリアナが立っている場所を起点とする直線の道となっていたのだ。

「……なるほど……この暴風を起こす魔法をランスに仕込み、私の攻撃を耐え続けたお前はここぞというタイミング――勝機を見て私が一番油断する瞬間にそれを発動した。勝ったと思った直後突然のピンチ……思わずこの、暴風の来ない場所に出てしまった私は――こうしてお前の正面、直線状に顔を出す羽目になったわけだ。」

 そうしてプレウロメが一人呟く間、オリアナはグッと腰を落として拳を構えていた。

「おそらく普通に出来るのだろうこの暴風の魔法をわざわざランスを起点にしているのはこうして長時間持続させる為……大抵一瞬で吹き終わる普段の風ならともかく、こうして吹かせ続けるとなると何かを起点にした方がイメージがしやすいからな……しかし――」

 構えたままで止まっているオリアナを訝しげに見るプレウロメ。

「私がここに出て来た瞬間に攻撃すれば長時間風を起こす理由は無い。万全を期してというのならまぁわかるが、お前は未だそうして構えたまま……確かにこんな暴風の中じゃまともに動けないし、光線も真っすぐ進むか微妙。結局私はこの直線上でしか攻撃できないわけだが……お前はバカなのか?」

 自身の正面で拳を構えたまま固まっているオリアナに嘲笑とイラつきを見せながらプレウロメが眼帯を外す。

「私の攻撃はこの左目から放つ光線。こうして話してる間にもマナを貯め、今から放つ光線は最大威力と言っていい。対してお前の武器は空の上……私の高速移動と死角からの光線を封じても、状況は悪くなっているんだぞ?」

 赤い光が漏れ出す左目でオリアナを捉えるプレウロメ。それに対しオリアナは、プレウロメの言葉を頭半分に聞き流し、拳に意識を集中させながらある会話を思い出していた。



「ん? 俺様の技?」

「は、はい。フィリウス殿と言えば、あらゆる攻撃を回避し続けてここぞというタイミングで一撃必殺の剣を振り下ろす――という戦法が有名で、その雄姿は十二騎士のトーナメントでも拝見しているのですが……は、恥ずかしながらその……最後の一撃に使用している魔法が……自分にはわからなくて……」

「ほう! 俺様なんかよりも遥かに器用に風を使えるオリアナにもわからねぇとは自信がつくな! ま、あれは俺様オリジナルの魔法だからな!」

「オリジナル……そうですか……」

「んな残念そうな顔をすんな。別に教えてやってもいいんだぞ!」

「え――い、いえでもそんな……きっとフィリウス殿がたゆまぬ努力で編み出した魔法でしょうし――」

「たゆまぬ? この筋肉についてはその通りだが、魔法に関しちゃそんなことないぞ? 俺様、第八系統ですらセイリオスで落第するところだったからな。」

「えぇ!?」

「それが全部とは言わねぇが、魔法に大事なのはイメージだ! 難しく考えず、ただただ想像する! 道行く女を見てそのボディラインをイメージするように!」

「は、はあ……」

「俺様はちょこちょこダメージを与えてじわじわ削るみてーのが性に合わなくてな。だからどんな奴も一撃! ってのを目指したわけだが、俺様の得意な系統は第八系統の風魔法だった。風ってのはつまり空気だからな。スピードはあるしそこら中にあるから使い勝手もいいんだが、生憎破壊力って点においては微妙なところがある。」

「そ、そうでしょうか……暴風であれば建物を倒壊させたりしますが……」

「それは対象がデカいからだ。風速何十、何百っつー風を吹かせたところで、じゃあ道に転がる石ころを破壊できるかっつーとどうだ? 飛ばすだけで破壊はできねぇ。対して第四系統の火とかを使って爆発を起こせば、デカい建物でも石ころでも粉砕できる! ほれ、風って微妙だろ?」

「そ、そう考えますと……確かに……」

「でも俺様は風しか使えねぇから色々と考え、ポンと一つの考えに至った! 要するに空気だからダメなんだってな!」

「え……?」

「空気ってモンがなんかよくわらかんエネルギーを受けて風ってモンになるのなら、そのエネルギーをもっと硬くて破壊力のあるモノに与えればいい!」

「……それはつまり……風で硬いモノを飛ばすということでは……」

「違う違う、エネルギーを直に硬いモノに与えるんだ!」

「…………す、すみません……理解が追い付きません……」

「だっはっは、だろうな! 誰に説明してもんな感じだ!」


 その時はまったく理解できなかったが、後日オリアナはフィリウスの話を真剣に考えてみた。

 科学的に考えるのなら、風を生み出しているのは気圧の力であり、フィリウスの言うよくわからんエネルギーとはそれになるだろう。

 だがこれは魔法という、世界の理を捻じ曲げて不思議な現象を引き起こす技術に関する話であり、その根っこはイメージというふわふわしたモノだ。風を空気とエネルギーの組み合わさったモノと捉え、そのエネルギーのみを取り出すという事も魔法においては不可能と断じることのできない事象なのだ。

 事実、それを実現させて世界の頂点に立っている男がいるのだから、やってみる価値は充分にある。そう考えたオリアナはイメージトレーニングから始め、フィリウスの魔法をマネすることに挑戦し続けた。

 そして――



「風――飛ばすだけの力も対象によっては破壊の力……その可能性の全てを風から抜き取り……エネルギーと、して……こめ――る……っ!」

 右手に装着している甲冑の籠手を対象として風をためる。あまりに不安定で制御など二の次にそこに留めておくだけで精いっぱいなその力を、オリアナは全身全霊で抑え込む。

 描くイメージはそのまま、なんだかよくわからないモノ。何かに何かの変化をもたらす力が、風や熱、電気などに姿を変える前の状態――あらゆる可能性を秘めた純粋な力――!

「それ――を、ただ一点――攻撃……破壊力にのみ、傾けて……放つっ……!!」

 籠手が震え、空気に溶けるかと思うような感覚――その限界点でオリアナは走り出した。

「――!? ああやっぱりか! 初めに会った時に言った通り、お前はバカだった!」

 風はおろか強化魔法の一つも使わずに自分の方へ走ってくるオリアナ。風による移動に見慣れたプレウロメからすれば遅い事この上ない突撃。

 オリアナがランスに魔法を仕込んだのは先ほどプレウロメが言ったのともう一つ、フィリウスの魔法を使う際にはそれにのみ集中することになる為、他の魔法が使えなくなるからだ。

 故に今、鍛えているとはいえ若い女性が、光線のダメージの残る身体を――甲冑に包まれた重たいそれを引きずって、駆けている。

「その右手はなんだ? 竜巻か? それが私に届くとでも思ってるのかっ――!!」

 放たれる赤い光線。暴風域の中、唯一作られた一直線の道をなぞって閃光が走る。

 迫る高温の壁を前に、オリアナは右の拳を突き出して叫んだ。


「『バスター・ゼロ』っっ!!!」


 オリアナの拳が光線に触れた瞬間、抑えられていた力が一気に溢れ出す。純粋な力であり、もはや風魔法とは呼べないはずのそれは、しかし第八系統の使い手であるオリアナのイメージによって横に走る光の竜巻となる。

それは光線を、プレウロメを、周囲の建物を、オリアナの正面にあるモノ全てを飲み込み――破裂した。

 反動で飛ばされたオリアナはとっさに風魔法をまとうも充分な防御とは言えない状態で後方の壁へ叩きつけられる。甲冑越しに伝わる衝撃に一瞬息が止まり、オリアナはずるずると壁伝いに落下して地面に座り込んだ。

「……!」

 叩きつけられた衝撃以前に、目の前で炸裂したエネルギーはオリアナの全身にも余波を与えており、特にいつの間にか籠手の無くなった右腕はおかしな方向へ曲がった上、ところどころ内部から破裂したように血が噴き出ている。

「……力を込めた……籠手は吹き飛び――ましたか……腕は、まだくっついているだけ――マシですね……」

 座り込む姿勢に落ち着けたのはいいが、身動き一つとれないオリアナは光の跡へと目をやる。

「……これは……人が扱っていい……力なのでしょうかね……」

 そこは凄まじいエネルギーが炸裂したとは思えないほどにスッキリとしていた。火の魔法などで爆発を起こせば、砕けたり黒く焦げたりした瓦礫が散乱して煙が立ち込める。しかし目の前の爆心地には何もない。その場にあったモノを何かが削り取ってしまったかのように、文字通り全てが消し飛んでいた。

「……こんな力をフィリウス殿は……やはり流石ですね……」

 大きな声で笑う十二騎士を思い浮かべながら、オリアナは視界にプレウロメがいないことに気づいてため息をついた。

「…………悪党を倒す――いえ、殺したのは初めてではありませんが……こればかりは、まったく慣れま……せん……」

 息も絶え絶えに一人呟き、オリアナはがくりと気を失った。



「おうおう、とんでもないでさぁ。」

 光の竜巻がその場の全てを消し飛ばした数分後、ピクリとも動かないが死んではいない桃色の髪の女騎士を見下ろし、太った男はまるで辛いモノでも食べたかのように舌を出していた。

「一体どんな魔法を使ったらこんな味になるんでさぁ? まるで全身が強力な魔法で防御されてるみたいでさぁ。」

『普通……ではな、い……魔法の反――応だな。まるで……核爆弾を使って――放射能を浴びたようだ。それは――食べない方が、いいぞ……バーナード。』

「ほうしゃ……? うまそうな響きっすが……そうっすね。血を舐めただけで舌がビリビリでさぁ。」

 耳にアンテナのついたイヤホンのようなモノをつけた太った男は、そこから聞こえてくる老人の声を聞いて残念そうに女騎士から視線を外す。

「というかなんか聞こえにくいでさぁ。この結界みたいな水の壁のせいっすか?」

『そ――のようだ。そっちにコルンがいる……ことでギリギリ……つながっている……少し出力、をあげ――るか。』

「ま、あっしたちは食事に来ただけっすから、お腹を膨らませたら適当に帰るでさぁ。」

『――……すでに充分ふくらんでいるだろうに。』


「ごはーん。」


 太った男がやはり物欲しそうに女騎士を見ていると、遠くから小さな子供の声が聞こえてきた。

「おー、お手軽でさぁ。もしやあっしよりも鼻が利くんでさぁ?」

 太った男がのしのしと歩いていくと、全身がひしゃげ、血塗れで倒れている男――プレウロメの横で小さな女の子が手を振っていた。

「あの騎士と戦ってたにしちゃぁ随分と飛ばされたんすね。さっきの爆発のせいっすかね。」

「ごはーん。」

「そうっすね、あっしも腹ペコ――ん? さすがにこの壊れ具合は死んでるんじゃないっすか? 確かツァラトゥストラは所有者が死ぬと消えて……」

 少し慌てた様子でプレウロメの顔を覗いた太った男は、白目をむいているが両目ともそこにあるのを見てふぅと息を吐く。

「死んでもすぐに消えるってわけじゃなさそうでさぁ。でも急がないと――早速いただくでさぁ。」

 かぶりつくように口を開いてプレウロメの腕をつかんだ太った男は、その腕が異常に硬いことに気がついた。

「硬直? いや、なんだか金属の塊みたいな硬さでさぁ……そういえば匂いもしないっすね。」

 あるかどうかもよくわからない首をかしげ、太った男はプレウロメが着ている服の端っこをつまんで引っ張る。先の戦闘でボロボロになっているプレウロメの服は、しかし一ミリたりとも動かせなかった。

『ほう、それは時間魔法だな。「停止」している。』

「? 死にそうになって自分を止めたってことでさぁ?」

『それはないな。見た所、これは完全に死んで――ああいや、その手前というところか。なんにせよ意識はないだろうから、予め仕込んでいようと発動させることはできん。あるとすれば他の誰かが仕込んだ場合のみだな。』

「となるとアネウロとかいう奴っすかね。」

『だろうな。』

「それはまた……あぁ、なんつーこってさぁ。姉御のお気に入りがいるからって折角バレないように忍び込んだのに食べられないってことっすか……」

『まぁ、ツァラトゥストラそのものは危険でもそれを身につけた者であれば食べられるかもというのはただの想像だからな。コルンの進化にもつながると思ってワレも手を貸したが……これを機に諦めたらどうだ?』

「おあずけされると余計に食べたくなるんでさぁ……こうなったら生きてる奴を見つけて「停止」する前に食べるでさぁ。」

『やれやれ……国王軍に見つかるなよ。ばれないようにと思うのなら。』

「安心するでさぁ。」

 太った男がそう言うと、そのダルマのような身体がうねり、縮み、みるみる内にその形を変えていった。

「これなら大丈夫でさぁ。」

 最終的に太った男は鎧を身にまとった国王軍に騎士の姿になり、ついでに少女が着ていたボディスーツのようなモノがその容姿にあう可愛いらしい、かつ少しボロボロになった服になる。

 傍から見れば取り残されていた少女を避難させる騎士であるが、その端正な顔には凶悪な笑みが浮かんでいた。

「美味いか不味いかはたまた珍味か、新しい味を求めていざいざでさぁ。」

愛の力です。何の気なしに巻き込まれただけのユーリが面白いことをしてくれました。

「ツギハギのフランケンシュタイン」→「身体を組み替えられる」くらいの流れで登場した魔人族だったのですが大活躍です。ロイドくんは戦々恐々です。


そして予想の外で出世していくもう一人、オリアナさん。初登場時は名前もなかったのですが、フィリウスさんがメインの一人へと引っぱりあげてしまいました。おかげで国王軍サイドが書きやすくなってたりします。


長々と続くバトルですが、さらなるイレギュラーが参戦しそうです。

「学生サイド」と「騎士サイド」が合流している今、こっそり進んでいた「悪党サイド」もここで加わるわけですね。


どうなることやら。

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