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騎士物語  作者: RANPO
第七章 ~荒れる争奪戦とうねる世界~
47/113

第四十五話 優等生の猛攻と揺れる騎士

二度目になる、優等生ことローゼルさんのターン。

そしてオズマンドの次なる攻撃と、大悪党のお料理教室です。

「あんな約束するんじゃなかった……!」

 交流祭の後の最初の週末の朝。女子寮の前でオレはニコニコ顔のローゼルさんの隣で他のみんなに睨まれていた。

「おやおや、商人ともあろう者が約束を違えてはいけないぞ。さぁさぁ、ここまで頼むぞ、リリーくん。」

 そう言いながら地図を見せるローゼルさんにぐぬぬ顔のリリーちゃん。

 交流祭の前日になされた取引で、この……お、お泊りデートにおいて、みんながそれぞれに行きたい場所までリリーちゃんが連れていく代わりに、リリーちゃんは全員に貸しを一つ作る、というモノがあった。

 つまりリリーちゃんは今後、何かしら……その、オレと……み、みんなの間で、な、何かしらの……何かがあった時に、そのチャンスを優先的に得られる――みたいな、そんな感じの取引なのだ……

「え、ここ海の近くだよ? もう寒いし泳げないよ?」

「いいのだ、ここで。」

「……何企んでるのかわかんないけど……ロイくん!」

「は、はい!」

「ローゼルちゃんとえ、えっちな事しちゃダメなんだからね! そういうのはボクとの時にとっておくんだよ!」

「えぇ!?」

「やれやれ、リリーくんはその話ばかりだな。いやらしいことだ。」

「ロゼちゃんも……結構だと、思うけど……昨日とか部屋で、そ、そういう事しか言ってなかった、よ……?」

「ソウイウコト!?」

「はてなんのことやら。ほれほれリリーくん。」

「んもー!!」

 そこそこ距離があるからか、リリーちゃんが地面に何かを書き始める。

 位置魔法は基本的に自分と自分が所有するモノ、そして魔法で印をつけたモノしか移動できないのだけど、移動する人がそれを了承しているなら他人でも移動できる。普段はこれといった呪文も無しにパパッと移動するリリーちゃんだけど、移動するモノの重さや距離が一定値を超えるとこういう儀式的なモノが必要なのだろう。

「ロイくん、はいこれ。」

 魔法陣を書き終わったリリーちゃんが……なんていえばいいのか、ポチッと押すボタンがついているだけの小さな箱をくれた。

「これは?」

「マジックアイテム。今そのボタンとこの場所を位置魔法でつないだから、それを押せばいつでもここに戻ってこれるの。」

「へぇー、便利だね。」

「身の危険を感じたらすぐに押してね。」

「えぇ!?」

「ほう、明日はこれで帰るのだな。」

「そういうこと。じゃー飛ばすけど……二人ともダメだからね!」

「まー、ちゃんとオオカミにもなるしラッキースケベ状態なロイドだけど、なんか結局鼻血で終わりそうな気がするなー。」

「ロ、ロゼちゃん……昨日言ってたこと、とか、し、しちゃダメ……だからね……」

 ティアナの発言が気になるところなのだが、ふと視界の隅っこに入ったエリルは――


「…………」


 それはそれは恐ろしい――というのとは違うけどそれに似た顔でオレを睨んでいた。そ、そうだぞ、オレ……状況がおかしいけど、オ、オレの彼女はエリル――

「ちなみに。」

 位置魔法が発動し、ぼんやりとした光に包まれる中でローゼルさんがオレの顔を覗く。

「前回同様、このデート中はわたしを彼女として扱うのだぞ。」

「ほへ!? や、でもぜ、前回はカカ、カップルでないと店に入れないからという理由で――」

「扱うのだぞ。」

 冷ややかな笑顔で迫られてコクリと頷きながら、オレとローゼルさんは『テレポート』によって海辺にあるらしい街へと移動した。

「わ、急に空気が……」

「うむ、いい風だな。」

 ぬくぬくの部屋から涼しい外に出た時のような、新鮮な空気が身体にしみる感覚。海が近い――というか海を見下ろすような場所に出たオレたちはしばし潮風を楽しみ……オレはこの後のことというか今日の流れというか……確認を始める。

「えぇっと……じゃ、じゃあ前みたいに……ロ、ローゼルって呼び捨てですか……」

「うーむ、それなのだが……確かに前はそういうのに憧れていたが、今となってはどちらでも良いような気がしてな。違和感の方が強いから、いつも通りで良しとしよう。」

「そ、そうですか。」

「ちなみにロイドくんがわたしと話す時になる敬語とそうでないのが入り混じるヘンテコなしゃべり方もそのままでいいぞ。」

「す、すみません……ローゼルさんの雰囲気が大人っぽいというか色っぽいというか美人さんというか、そういうのでつい――ってわっ!」

 思わず出た言葉に慌てて口を閉じるが、ローゼルさんはほんのり赤い顔でご機嫌な笑顔だった。

「うむ、わたしは美人だな。」

「は、はひ……あ、そ、そういえば、そ、その服なのですね!」

「ふふふ、そりゃあロイドくんに選んでもらった服だからな。お気に入りの一着なのだ。」

 前のデートの時にオレが選んだ……というか選ばされたわけだけど、カッコいいシャツに……えっと、確かサブリナっていう名前のちょっと丈の短いズボン。そこへ更に色々なアレンジの加わった格好が今日のローゼルさんで……こういうのをクールビューティーと言うのだろうか。

「まぁ、スカートと違って中を覗けないから、ロイドくん的には少し残念かな?」

「ななな、なにを――」

「ふふふ。」

 きょ、今日のローゼルさんはたまになるテンションの高いローゼルさんだな……こ、これは明日までドキドキされっぱなしかもしれない……

「実はこの街にやってきたのもこの服が絡んでいてな。ここにはこのブランドの本店があるのだ。」

 そう言いながら、ローゼルさんはシャツの襟の辺りに刺しゅうされているイルカのマークを指差した。オレがその服を選んだところもそのブランドのお店だったわけで、どうやらあちこちにある有名ブランドらしい。

「本店という事はこの街からそのイルカが……なんだか納得だ。」

 海に面した綺麗な街にイルカのイメージというのはよく合う。もしかしたら近くの海でイルカを見られるのかもしれないな。

「じゃあ本店の……本店にしかないような服を買いに?」

「その通りだが少し違う。このブランドは基本的に女性向けなのだが、本店にのみ、男性向けの服があるのだ。」

「へぇ……え、男性?」

「うむ。今度はわたしがコーディネートするから、おそろいのブランドを着ようじゃないか。」

「えぇ!? で、でもオレ、そんなオシャレ服が似合うかどうか……」

「大丈夫だ。ちゃんとするとロイドくんは妙にカッコよくなるからな。」

「カッコヨク……そ、そうですか……」

「そうだぞ。ロイドくんはもっと自信を――いや、持たない方がいいな。ロイドくんに惚れる女の子が増えてしまう。」

「はい……」

「ちなみに、これに関してはさすがに男性用はないのだが、本店にしかないモノというともう一つあるのだ。」

「本店は何かとレア度が高いんですね……何があるんですか?」

「下着だ。」

 ……

…………

……え、し、下着……?

「し、しし――」

「下着、だ。」

 ローゼルさんがニンマリしている……

「へ、へぇー……そ、そうなんですか……」

「うむ。」

 ローゼルさんがニンマリしているっ!!

「え、えぇっと……い、今のはこのブランドの豆知識的な……ただの紹介――ですよね……?」

「ふふふ。」

 色っぽく微笑みながら、ローゼルさんの手がオレの手をつかむ――というか絡む。

「うむ、恋人つなぎもこころなしか様になるようになったな。」

「どど、どういう意味――」

「あの時よりも……」

 つないだ手をそのままに、ローゼルさんがオレに寄り掛かって耳元で囁く。

「わたしたちの距離が縮まったということさ。」




 田舎者の青年が濃い青色の髪の美女に引っぱられて街へ繰り出した頃、フェルブランドの端に位置する森の中。十人ほどの騎士が獣道の途中、大きな岩が腰かけにちょうどいい少しひらけた場所で休息していた。

「城に戻るまでが――ではあるが、皆良くやったな。」

 黒いマント――俗に中級騎士と呼ばれるスローンという階級の騎士たちの中で一人、白いマントを身に着けた男が満足気な表情でそう言った。

 端正な顔立ちとショートカットくらいの金髪。顔以外を鏡のような銀色甲冑で包んだ唯一の上級騎士――セラームの階級にある彼の労いに、スローンの面々は「いえいえ」と首を横に振った。

「アルジェントさんがいたからこそ俺たちも頑張れたんですよ。なんて言うか、心強かったです!」

「ふふ、仮にそうだとしても、やはり皆に実力があってこその勝利だ。私のおかげなどと、謙遜しなくても良い。」

「いえいえ、でもやっぱり――」

「そうか? となると私がいなくても実力を発揮できるように訓練をしないといけないな?」

 本人にその気はなく、そうと思った事もないのだが、そのいたずらっぽい笑みは女性を虜にする武器であり、実際この場にいた数人の女性騎士がドキリとした。

 騎士と呼ばれる者のイメージそのままの格好、ルックス、そして何よりその強さからフェルブランド王国において十二騎士以上の人気を集める騎士。セラームのリーダーを務め、『光帝』と呼ばれてはいるが高圧的というわけではないその騎士は、気さくに同じ国王軍の仲間との会話を楽しんでいた。

 だがそんな中、おそらくこのメンバーでは彼だけが気づいたであろう気配。それがどういうモノであるかを察し、彼がある事をした直後――


 ズンッ!!


 彼らが座っていた場所を中心に半径数十メートルの地面が陥没した。


「んん?」


 何かが空から降ってきた跡のような巨大なクレーターとなったその場所のふちに、ふらりと男が現れて首をかしげた。

「妙な手応えだ……全員捉えたと思ったのだが……」

 鉄板を曲げて縄で縛っただけのモノを両手両足に装備し、ボロボロの道着と長いハチマキを身につけた、見るからに武道家という身なりのその男が軽く右腕を振る。すると立ち込めていた土煙が吹き飛び、クレーターの中がハッキリと見えるようになった。

「ああ……ああ、そういうことか。」

 そこにいたのは銀色の甲冑をまとった騎士のみで、さっきまでいたはずの十数名の騎士はいなくなっていた。

「何代目かの《オクトウバ》が生み出したというマジックアイテム。騎士の殉職を少しでも減らす為に作られたそれは、念じるだけで事前に指定しておいた場所へ『テレポート』ができるというモノだった。帰還目的にしか使えなかったり移動先が限られたりと、使用する際にクリアしなければならない条件は多いものの、その代わりに位置魔法が使えない者でも使用可能。今や緊急時の離脱アイテムとして多くの国で騎士の標準装備となっている代物……確かディアーブとか言ったか。要するにあんた以外はそれを使って逃げたってことか。」

「……長い説明をわざわざご苦労な事だが、最後が違う。」

「ほう?」

「規模に関係なく、部隊の指揮を任される者には部下のディアーブを強制的に発動させるアイテムが渡される。つまりディアーブを使用したのは彼らではなく私。逃げたなどと、彼らを侮辱するのはやめてもらおう。」

「なるほど。しかし見ようによっては侮辱しているのはあんたじゃないか?」

「なに?」

「要するに、オレとの勝負に足手まといと判断したから帰したんだろう? 戦う前から負けると思ってるのって、侮辱じゃないのか?」

「侮辱も何も、ただの事実だ。彼らは次代の騎士だが、まだ無謀の混ざった勇敢を持つ。未来、今よりも衰える私では守り切れない戦いに勝利する彼らを無事に成長させる為、無謀となる悪党の相手を今が全盛の私が請け負うのは当然のこと。」

「そうかい。まぁオレの狙いはあんただから別にいいんだがな。こっちからしゃべっておいてなんだが、無駄話はこの辺にしようや。」

「……そのマーク、オズマンドか。」

 スッと拳を構えた男の手に括りつけられた雑な籠手。そこに刻まれた十字のマークを見た騎士の呟きに、男はハッとする。

「おっとっと、名乗りを忘れてた。いかにもオレはオズマンド所属、ナンバーファイブのドレパノだ。」

「ドレパノ……確か第六系統の使い手だな。」

「ほー、オレのこと知ってんのか。」

「オズマンドとの戦いは今に始まったことではない。幹部クラスとの戦闘記録くらいある。だが……」

 構えた男を前に、しかし騎士は剣に手を伸ばすわけでもなく無防備に後ろを向いた。

「第六系統の重さの魔法――重力魔法でここまでの威力を生むには相当量のマナを必要とするはず。だが先ほど感じたマナの動きはそれほど大きくなかった。まるでイメロを使ったかのようだが……これがツァラトゥストラの力というわけか。」

「あーやっぱその情報は掴んでるのか。プレウロメのやつが先走ったからなぁ。ま、そういうことだ。」

「……イメロはその特性故、所有者が悪党となった場合には最優先の危険人物として扱う。ツァラトゥストラを同等のモノとするなら、記録上スローンと互角の勝負をしたお前の現在の危険度はセラームで対処すべきレベルと考えていいだろう。」

「おいおい、そりゃあちょっと甘くないか?」

 ニッと笑った男――ドレパノは右の拳を空に伸ばし、すぅっと息を吸う。直後、先ほどと同等の衝撃が地面に走った。

「これは……」

 いつの間にかクレーターのふちに移動していた騎士は倍の深さに陥没した地面を見て驚いた。

「イメロと同等? それ以上だろ、これは。」

 そう言いながら、ドレパノはトントンと自分の胸の辺りを叩く。

「オレのツァラトゥストラは肺。少量のマナで大量の魔力を生み出す力がある。おまけに魔法使用による負荷も軽減……というかほぼない。半分魔法生物になったみたいなもんだ。」

 強大な力と共に更なる笑みを見せたドレパノだったが、騎士は至って冷静だった。

「ふむ、ツァラトゥストラはその部位によって能力が異なるのか。良い情報を得た。《ディセンバ》殿が回収した眼球と合わせて解析すれば更に詳しい事がわかるだろう。」

「……余裕だな。さすがは『光帝』、アクロライト・アルジェント。十二騎士を除けば国内最強の騎士様ってか。」

「人間と思えば厄介だが、特殊な魔法生物と見ればどうということはない。」

「言ってくれる。その余裕がいつまで――」

「その前にもう一つ、オズマンドのメンバーと戦う時はいつも聞いていることがある。」

「……なんだ。」

 早く戦いを始めたいのだが、自分から始めた無駄話のせいで会話が続く状況にドレパノは微妙な顔になる。

「オズマンドは武力を行使する反政府組織、いわゆるテロリスト。ならばメンバー全員に今のフェルブランドに対する不満があるはずだ。むろん、支持率百パーセントの国政など不可能だろうが、こうして行動を起こしたお前たちの声を聞いておくことは今後の為になる。だから聞かせて欲しい……お前はどうしてオズマンドに?」

「……メンバーの誰も彼もがそうってわけじゃない。真面目なテロリストが半分、残り半分の半分が居場所を求めただけ、もう半分があの人の為に動く奴だ。」

「あの人……国王軍にはオズマンドの……さっきお前が言っていたナンバーで言うところのスリー、ツー、ワンとの交戦、遭遇の記録がない。今度こそ出会えるといいのだがな。」

「出会えるといい? はっ。」

 騎士――アクロライトの言葉に、ドレパノの表情は馬鹿にするのと呆れるのが混ざったモノになった。

「会ってどうする? 長きにわたるオズマンドと国王軍の戦いに終止符を打つってか?」

「できればそうしたいが。」

「不可能だな。」

 再び拳を構え、ドレパノが半笑いで姿勢を低くする。そして――


「お前なんかが勝てるわけないだろうがっ!」


 脚力だけではない何かの力を働かせ、ドレパノは弾丸のようにアクロライトへ突撃。勢いそのままに右の拳を打ち込み、それをアクロライトが片手で受け止める。両者の手が触れた瞬間、濃い紫の光と真っ白な光が閃光となって周囲に散った。

「……私は第三、お前は第六。私たちの魔法は反系統の関係にある。互いが弱点であり、かつ有利な相手。不安定な戦闘になる事は目に見えているというのに、私を倒す為にお前がやってくるというのは妙な話だ。」

「そうでもない。」

 ドレパノがニヤリと笑う。するとドレパノの拳を完全に止めたはずのアクロライトの身体に衝撃が走り、後方へ弾き飛ばされた。

「! これは――」

 空中でくるりと態勢を整えて着地したアクロライトは自分の右手を、そしてドレパノを見た。

「その驚き、これで二回目だぞ? 案外学習しないんだな。」

 両手を広げ、その四肢に紫色の魔力をまとうドレパノ。

「腕のいい奴ってのは、相手が魔法を使う時のマナの流れとかを読んで防御に必要な魔法を最適なモノにするという。だが生憎と、あんたの前にいる男はあんたが相手にした奴の中で最高のマナの変換効率の持ち主だ。今までの感覚で防御してたらこの勝負、あっという間だぞ!」

「……説明をわざわざご苦労。これも二回目だ。」

「はっ!」

 ドレパノが短く笑うのを合図に、今度はアクロライトが仕掛ける。背中に背負っていた、フィリウスの大剣ほどではないにしろ平均よりはやや大きめの剣を片手で抜き、その刀身に光を宿した。

「『スワロ』っ!」

「『グラビティウォール』!」

 アクロライトの右腕が霞むと同時に十数の光の柱が斬撃として放たれたが、それらは両者の間に出現した紫色の壁に阻まれた。

「評判通り、とんでもない速さでとんでもない攻撃をしてくるんだな。だが今のオレならその速さに防御が追いつ――」

「ファイヤ。」

 自慢げに笑うドレパノをよそに、左手を『グラビティウォール』にかざしたアクロライトがそう言うとその手の平で爆発が起きた。

「どわっ!」

 先ほど光の斬撃を防いだ壁は砕け、ドレパノは衝撃で吹き飛ぶ。

「くそ、なんだ今の――」

 宙を舞う刹那、着地の準備をしながら正面に目をやったドレパノは、自身を切断せんと目前に迫っていた光に――

「――っつあああああっ!!」

 加減無しの全力の重力魔法を仕掛けた。先ほどと同程度の範囲が先ほど以上にへこみ、土と草木をまき散らしながら砕け、辺りは土煙で何も見えなくなった。

「――っ、ああ、だあ……さっきのは一体……」

「なるほど、それが最大のようだな。」

 辺りを包んでいた土煙が光の一閃で吹き飛び、肩で息をしていたドレパノはアクロライトを見てぎょっとした。

「! なんだそりゃ……」

 剣の間合いを遥かに超える距離――クレーターを挟んでドレパノの正面に立っていたアクロライトの手には、その光る刀身を伸ばし、鞭のようにしならせた剣があった。

「は、いつから『光帝』様は鞭使いになったんだ?」

「鞭ではない。切断してしまうからな。」

 ブンッと横に振られた剣は伸びた刀身を元に戻し、再び光り輝く大剣となった。

「お前の今の反撃、空中でのとっさの行動故、おそらく手加減無しの全力だっただろう。つまりお前があの一瞬で出すことのできる魔法はこれくらいが限界というわけだ。この規模は確かに驚くべきだが、程度がわかれば対応できる。」

「――!! それはどうかなっ!」

 ドレパノが素早く息を吸い込むと、クレーターを覆うほどの巨大な魔法陣が出現した。

「あんたは神や悪魔を信じるタイプか!?」

 そう叫びながらドレパノが空中にいくつかのマークを描くと、魔法陣の中心から巨大な腕が伸び、身長が十メートルはあろうかという角の生えた怪物が雄叫びと共に這い出てきた。

「こっからは二対い――」

 一閃。アクロライトの剣の動きに合わせて横に走った閃光は、その怪物を上と下とに切断した。

「な――」

 開いた口が塞がらないという状態そのままのドレパノは、登場の雄叫びがそのまま断末魔となった怪物がチリとなって消えていく光景に驚愕する。

「召喚速度、召喚された者のレベルには驚きだが、口を開けて万歳のポーズで引っ張り出すのはいただけないな。斬れと言っているようなものだ。」

 剣を持つ手をだらんとさせ、アクロライトはため息をつく。

「認めよう。お前のツァラトゥストラの持つ力はイメロを遥かに超える。お前はどの騎士よりも強力な魔法の力を手にしているのだろう。だが……使い方が話にならない。」

「……!!」

「お前が力に驕らずに技を磨いてから私の前に現れなくて良かった。」

「――っ……まだ勝負は終わってないぞ『光帝』っ!」

 ズンッと、アクロライトを中心にした一定範囲内にのしかかる重さ。そこへ最初と同様に突撃するドレパノ。

「『グラビティパン――」

 重さの乗った拳を打ち込む前に、ドレパノの目の前にせり上がった地面が壁となって立ちふさがる。拳を振り切る前の状態で壁に激突したドレパノは微妙な勢いと微妙な姿勢でアクロライトの正面にたどり着き――

「さっきも今もそうだが――」

 アクロライトの剣の腹で地面へと叩きつけられた。

「――技名が、あまりに安直ではないか?」

 コメディのように大の字で地面にめり込んだドレパノはそれ以上動くことなく、アクロライトは剣をおさめた。

「…………別にそうであって欲しいわけではないが、この男よりは腕が立つのだろうな。」

 そしてクレーターの外側、森の中に向けてそんな事を言った。


「腕は立たないわねぇ、アタシのナンバーはナインだもの。」


 アクロライトの問いかけに答えながら森から姿を現したのは女。どこのモノなのか学生服を着ているのだが、学生であるかは疑わしい。顔立ちやスタイル的には美女と称されるべきなのだが、目の下の隈や本人の濁った雰囲気のせいでそうとは表現しにくい。

 髪は黒、制服も黒、加えて暗い印象と、様々な色合いが黒い女は、ケヒッと笑いながらその黒々とした目をアクロライトの足元のドレパノに向けた。

「相手が『光帝』じゃなきゃそいつもそんなかませ犬みたいな様にはならなかったんだろうけど、それでも今日のところはこれで成功なのよねぇ。」

「……オトリか。」

「察しがいいこと。念には念をって事でアタシが仕事を終えるまであんたの相手をすんのがドレパノの仕事だったわけ。「倒してしまってもいいんだろう?」とかカッコつけてたけどねぇ。」

「それで、この後は? 仕事終わりに私と勝負か?」

「しないわねぇ。たぶんそいつも言ったと思うけど――」

 女がパチンと指を鳴らす。するとクレーターを取り囲むように森の中から百を超える数の人が現れた。

「アタシらの狙いはあんたなのよねぇ。」

「――! この人たちは……!」

「そ、昨日あたりにあんたが魔法生物の侵攻から救った村の住人たち。」

 見るからに戦闘経験のなさそうな人々が調理器具や農工具を手に虚ろな目で立っているのを見て、アクロライトは今日一番の厳しい表情を見せる。

「魔法で操っているのか……! 私が狙いなら私だけ狙え! 無関係な者を巻き込むな!」

「あっは。テロリスト的に言わせてもらえば、大義の為のちょっとした犠牲よねぇ。でもよかったわ、効果抜群みたいで。」

 嬉しそうに女が手を叩くと、村人全員が手にした武器を自身の首や腹に向けた。

「!! 彼らを人質に私を倒すつもりか、卑怯者め!」

「勝てばいいのよ、何事も。それに倒すつもりはないわねぇ。さっき言った「狙い」って言葉の意味はやっつけるって事じゃないわよ?」

「なに?」

「アタシとそこで寝てるドレパノの仕事は、今のフェルブランドで最も人気のある騎士であるあんたをこっち側に取り込むこと。こいつらはその為の人質。」

「私に国を裏切れと……?」

「ちょっと違うわねぇ。別に裏切んなくていいわよ、あんたはあんたのままで。ただ――」

 黒い女は、口尻をキュッと上げてにやけた口から舌を出してこう言った。

「――アタシの人形になるだけ。」




 お昼。ランチを食べる為に入った喫茶店で、オレは顔を真っ赤にしながら注文した料理を待っていた。対してローゼルさんは……オレほどではないけど少し赤い顔で、けれど嬉しそうに微笑んでいた。

「この街に移動してから今まで計七回、ロイドくんはわたしにいやらしい事をしたな。」

「はひ……」

「内三回はズボンだと言うのに下着を見られたな。」

「はひ……」

「そして一回……エリルくんのスカートに突っ込んだのと同等の事をしたな。」

「はひ……」

「やれやれ、周りに人がいれば発動しないと思っていたのだが、ちょっとした死角、一瞬のスキをついて突撃してくるのだからなぁ……ロイドくん、実は狙ってやっているのでは?」

「しょ、しょんなことは!!」

「ふふふ、冗談だ。どちらかと言えばそれはわたしだしな。」

「へ?」

「ああなる事を見越してロイドくんに下着を選んでもらったところもあるのだ。」

「んなっ!?!?」

 脳裏によぎるヤバイ光景と感触――ああああああああああ!!

「試着中に狭い更衣室であんな事を……まったくロイドくんは。」

「や、いや、あの――」

「ふふふ。ま、ここで改めて知って欲しいのだ。」

 真っ赤に震えるオレの手にすぅっと触れるローゼルさん――!!

「あんな風に見られたら触られたりしてもこうして一緒にランチを食べようとしている……つまりあれくらいが気にならないほどに、そして今言ったように、むしろああいう触れ合いを求めるくらいに、わたしはきみが好きなのだ。」

「――!!!」

 ――! ――!! ま、まったくこの美人さんは!!

「でで、でも――その、ちょちょ、ちょっとあの――スス、スケベさん過ぎるのではありませぬか――!」

「おや、スケベロイドくんに言われてしまったか。だがまぁいいだろう。ならばわたしとロイドくんはスケベ同士でお似合いだ。」

「ひゃばっ!?」

「そもそも今日は――」

 と、何かを言いかけたローゼルさんは、ふと……照れたというか恥ずかしそうというか、そういう感じの顔になる。

「と、ともあれ……こうしてお昼前から色々と起きて……そしてロイドくんはその……や、やらしいことばかりしているとお、襲ってしまうぞーとよく言っているわけだが……ど、どうなのだ……?」

「ど、どうとは……」

「わたしを……襲う気に、なったのか……?」

「ぶほっ! ななな、何を――!?」

「何って……今夜は一つの部屋でお泊りなのだぞ……? 聞いておかねばなるまいよ……」

「いや! あの! ――とと、というか……そ、それでオレがそ、そうですねって言ったらど、どうするんですか!!」

「そ、それは勿論――潔くベッドの上に寝転がるだけだとも!!」

 と、赤い顔でプルプル震えながらローゼルさんはそう言った。

「――!! ど、どうしてそ、そこまでその……オ、オレにやや、ヤラシイ――こと、をささ、されたいん――ですか!」

「んな……そ、それを直接聞いてくるとは……ロイドくんもいよいよドSだな……」

「ドエス!?」

 スケベに続いてドSなる称号も与えられたオレに、ローゼルさんは……真っ赤な顔で、でも割と真面目に話した。

「す、好きになったのだ。一緒にいたいとかもっと話したいとか思うようになったら次は――手をつないだりするくらいのふ、触れ合いがしたくなって、キ、キスも……そしてそこまで到達したらもっと先……いや、段階というべきか……わたしが求めるようにロイドくんにも……わ、わたしを求めて欲しくなる――のだ……」

「モモモモトメ――」

「互いに求め合ったなら今まで以上の深さで触れ合いたくて――つつ、詰まるところア、アイシアウ的な――」

「わわわかりまひた! も、もう大丈夫れすから!」

「ほわっ。」

 恥ずかしさに色々なモノが混ざった感情で頭が茹で上がり、オレは両手でバチーンとローゼルさんの顔――というかほっぺを挟んだ。

「お、おまたせしました……」

 オレがローゼルさんをひょっとこみたいな顔にしたところで頼んでいたランチが運ばれてきた。

「ご、ごゆっくり……」

 微妙な表情の店員さんに変な笑顔を返してため息をつくオレ。

「彼女のほっぺを左右から叩くなど、ひどいじゃないか。」

「すみません……」

「それと……結局答えを聞いてないぞ、ロイドくん。」

「う――! ……んまぁそのぉ……よ、夜のお楽しみということで……」

「……なんだかいやらしい響きだな……」

「んにゃっ!?」

「まぁ……うむ、楽しみにしておくとしよう。いただきます。」

「い、いただきます……」

 その後、海鮮系の美味しいランチを味わい、何度か……た、互いにア、アーンと食べさせ合うというアレをして午前の部が終わった。

 午後は……夜は……ど、どうなるのだろうか……




店員にひそひそ話をされながら田舎者の青年と濃い青色の髪の美女が喫茶店を後にした頃、国王軍の中には緊張が走っていた。

「アクロライトが一人でか。それはまずいかもな。」

 国王軍の訓練場内にある、主に作戦会議などを行う場所に、任務などで外に出ている者を除く全てのセラームと、十二騎士であるフィリウス、セルヴィアが集まっていた。

「アルジェントの判断は正しかったと思いますが、昨日の今日……タイミング的に相手はオズマンドで間違いないでしょう。」

 本来セラームを取りまとめるアクロライトが不在の為、その役を代わりに務めているのはどこかのほほんとした雰囲気の、休日のお父さん風の男性。彼はペンを手に、ボードに情報をまとめながら話を整理する。

「任務後の疲労している状態とは言え、アルジェントが十数名のスローン騎士を全員離脱させたほどの相手。仮にその者がツァラトゥストラの所有者あった場合、最悪アルジェントの敗北もあり得ます。」

「ツァラトゥストラには魔法的な気配がないからな。正直ベテランほど相手の強さを見誤るだろう。それにあり得るも何も、おそらくそうなってるぞ。」

 フィリウスの言葉にセラームたちが息を飲む。

「スローンの連中がディアーブでこっちに戻ってきてから一時間以上経ってる。大型魔法生物の討伐じゃあるまいし、戦闘がそこまで長引くとは考えにくい。そしてあの真面目騎士なら、相手を倒した後は同じようにディアーブを使ってこっちに戻り、情報を伝えるだろう。だが未だあいつは戻らない。」

「それほどの強敵という事でしょうか……」

「そうとも限らない。騎士相手に民間人の人質が効果的なんてのは誰でも知ってることだしな。さて、どうしたもんか。」

 普段あまりならない自分の悩み顔を見てセルヴィアが妙にホクホクした顔になっているのを横目に、フィリウスは言葉を続ける。

「ぶっちゃけ、《オクトウバ》ならすぐにアクロライトを見つけられるし、ちょっとした知り合い連中の力を借りられるならオズマンドの壊滅も含めて三十分くらいで片が付くんだがな。そうもできないのがやれやれだ。」


 騎士の階級の頂点に位置する十二騎士は、同時に世界中のほとんどの国が加盟している世界連合が指揮権を持つ世界最小にして最強の部隊を指す言葉でもある。加盟国がその存続に関わるような問題を抱えた時、要請に従って世界連合から出動を命じられるというのが正式な手順だが、それほどの大事は滅多にない。それ故、十二騎士たちは本来所属している組織に従って活動するのが一般的である。

 フィリウスとセルヴィア――《オウガスト》と《ディセンバ》は国王軍に所属する騎士であり、所属としてはセラームという事になる。ただしフィリウスは半分軍人で半分傭兵のような立ち位置となっており、彼の弟子がセイリオス学院に入るまでは国内外を問わずにあちこちを放浪し、自らの正義に従ってその力を振るっていた。結果、国王軍では得られない情報や協力者とのパイプを持っている為、軍は「それはそれでよい」という判断を下し、自由にさせている。

 セルヴィアも一定の自由が認められているがどちらかと言うと軍人よりであり、王族などの護衛を任されることが多く、大抵は王城にいる。

 所属上、この二名と普段はメイドの仕事をしている《エイプリル》はフェルブランド王国における問題解決の為に動くことができる十二騎士であるが、その他はそうはいかない。

 例えば第十系統の頂点に立つ《オクトウバ》だが、彼はフェルブランドの人間ではない。田舎者の青年が夏休みに遭遇した事件の応援に駆けつけたのは、本人の希望もあったが、元々は国に損害を与えることのできるほどの力を持つ故に国に関係なく出動が認められているS級犯罪者、その一角たる『イェドの双子』が現れたからである。

 また、先のスピエルドルフ絡みの一件にこれまた国外の人間である《ジューン》がやってきたのも、指名手配こそされてはいないものの、歴代の《ジューン》が追い続けていたザビクという犯罪者が姿を見せたからである。


「え、あの……《オクトウバ》さんのことは理解できますが……さ、三十分?」

「世界は広いんだぞ、リシアンサス。十二騎士が束になっても勝てないだろう連中ってのがいるんだよ。ある一つの条件をクリアしない限り、基本的に俺様たちに関心のないあいつらは助けてくれないだろうな。」

「もしかして……噂の魔人族ですか……」

「ん? 知ってたのか。」

「アルジェントがスライムみたいな方にあったと。」

「あいつ、内緒にしとけって言ったのに。」

「魔人族に会ったのは初めてだったようで、興奮していましたから。」

「ったく。」

「その魔人族の方々は《オウガスト》さんのお知り合いなのですよね。それでも助力は頼めないのですか?」

「個人的な頼みならもしかしたら聞いてくれるかもしれない。だが国が絡むとなるとな。」

「では先ほど言っていたある一つの条件というのは……」

「俺様が手出しできない熾烈なバトルの勝敗で決まるから無理だな。」

「はあ……」

 そのバトルに自身の娘が参戦していることを知らない休日のお父さん風の男が気の抜けた返事をすると、これまで黙っていたセルヴィアが口を開いた。

「アクロライトさんの安否についてはいくら考えても答えは出ない。一先ずオズマンドが狙いそうな重要人物にセラームの護衛をつけて……今は相手の出方を待つしかないんじゃないか?」

「まぁそうだな。昨日今日の勢いで連中、間髪入れずに来そうだしな。セラーム総動員だな、こりゃ。」

「そういえばウィステリア……ロイドくんの妹さんが見当たりませんね。特に任務は受けていなかったはずですが……」

「ここにいないなら学院だろう。だがそれはそれでお姫様の護衛になるからいいだろう。」

「ですがウィステリアが一人の護衛につくとなると少々痛手ですね。彼女は一人で城などを護衛できるタイプの魔法の使い手ですから。」

「人手の問題は別口にあたることになるだろうな。」

「別口?」

「国や民を守る騎士団は国王軍だけじゃないだろ? あーほら、バラとかタカとか。」

「名前覚えてないのか、フィリウス。」

「仕方ないだろ。連中、騎士のケレン味出してスカした長い名前にするから覚えにくいんだよ。大将の『ビックリ箱騎士団』くらいがインパクトあっていいと俺様は思うぞ。」

「割とフィリウスは弟子バカだな。」




「兄さんがお泊りデート!?!?」

 朝早くにロイドとローゼルが出かけて、そうなるとルームメイトの関係上、残った全員は部屋に一人になって、他が何してるかはしらないけど、あたしは宿題を……モヤモヤするせいでいつもの倍以上の時間を費やして片づけた。

 で、そろそろお昼かしらって、いつもならロイドと学食なり外に出たりするタイミングでパムが部屋にやってきた。ロイドがいないことに気づいてどこに行ったかを聞かれたから……一応、今何が起きてるかをさらさらと説明したんだけど……そしたらパムはこの世の終わりみたいな顔になった。

「兄さんが男の欲望を体現したかのようなローゼルさんと!」

「ひどい言いようね……」

「あんな魅力的な女性と一晩ですよ!? いくら兄さんでも!!」

「……つまり一緒の部屋のあたしには魅力ないってわけ?」

「程度の問題です! ローゼルさんは異常なんです! ああ、兄さん……」

 ……ローゼルの……その、み、魅力的なアレがすごいのは確かだけど……あ、あたしだって……て、ていうかロイド、あたしに対しては結構……

「――!! とと、というかあんたは何しに来たのよ……!」

「部活の顧問の件です。国王軍としては優秀な人材の育成という事で依頼があればできるだけ引き受けるようにというスタンスでしたので、問題なく顧問を引き受けることができます。」

「そ。」

「でもそんな事よりも兄さんです! 一体どこの街に行ったんです!? 追いかけて監視します!」

「……そりゃあできればあたし――たちもそうしたいけど……そういうのはしないって決めたのよ……」

「ええそうでしょうそうでしょう、自分のターンがまわってくるのですからね! ですが自分には関係ありません!」

 確かにそうね……でも……ローゼルとのデ、デートが心配なのはそうだけどあ、あたしの番もあるって考えるとアレでコレで……と、とにかくパムは止めないといけない……わ。

「そ、それはどうかしら。一応ロイドだって……そ、その、デートをう、受けた以上、ちゃんとこなしたい――と、思うのよね、あいつの性格的に。それを邪魔したらあんた……怒られるんじゃないの……?」

「!!」

 うわ、予想以上の顔になったわ。

「に、兄さんに? 怒られる? 自分が? そんなこと……でも……」

 この妹、義理の妹になったら相当めんど――ってなに考えてんのあたし!

「そういう――こ、ことだから、何もしない方がいい気がするわよ……」

「…………そうですね……」

 沈んだ顔になるパム。

 ……ロイドの妹としてはあれだけど、よく考えたら現役の上級――セラームの騎士なのよね。ポステリオールとの戦いでも相当すごかったし……これはちょっとしたチャンスなんじゃないかしら。

「……折角だし、あんたが顧問をする事になる部活のメンバーと手合わせしてみない?」

「……なるほど、未来の姉候補の実力確認ですか。」

「ば、男もいるわよ!」

「え、兄さんはそっちの人では……」

「そういう意味じゃないわよ!」



 頼んでおいてなんだけど国王軍のセラームのくせにヒマなのか、提案を受けたパムを連れて、あたしたちは普段実技の授業で使ってる校庭に来た。いつもは他の部活が使ってるんだけど、交流祭後最初の週末はどこも休息してるらしくて誰もいなかった。

「まーロイドのこと考えてモンモンと部屋にいてもあれだもんねー。いい運動になるかなー。」

「ロイくんで変な想像しないでよ! ボクのなんだから!」

「ロゼちゃん、勢い余って……変な事してない、かな……」

 ロイドとローゼルのデートのことでモヤモヤしてる……あたしも含めて四人と――

「うおお、こんな形で現役のセラームとやれるなんてな! 腕がなるぜ。」

「史上最年少の天才騎士……今のおれの力はどこまで通じるか……」

 やる気満々の強化コンビの二人、合計六人がパムの前に集まった。

「そういえば……えぇっとカラードさん――でしたか? 自分はその時いませんでしたが、セラームのメンバーと手合わせしたことがあるとか。」

「うむ。三分しかもたなかった。」

「三分もじゃねぇのか?」

「何を言う、アレク。おれの全身全霊でようやっと同等なのだぞ。」

「相手は三人だったんだろ? つーかそもそもなんで一対三だったんだよ。」

「初めは一人だったのだが、おれの『ブレイブアップ』に興味を持って途中から参戦したのだ。」

「学生相手に大人げねぇな、セラーム。」

「そんなものですよ。」

 うへぇという顔をするアレキサンダーに、パムはケロッと答える。

「人間的な立派さと強さは比例しません。言ってしまえばただの戦闘バカも多いんです。あの筋肉ゴリラに代表されるように。さて……」

 軍服を着たあたしたちより一つ下の女騎士は、腰に手をあてて何かの教官みたいに話し始めた。

「セイリオス学院でみなさんが次に迎えるイベントは実際の任務を受ける形で行う魔法生物の討伐――と聞いています。」

「そうよ。魔法生物講座でもしてくれるの?」

「そんなのは学院が行うでしょうから、自分が教えられることは……チームとしての動きでしょうね。」

「チーム?」

「ランク戦、交流祭と、みなさんは個人の実力をはかり、高めるイベントを経験してきたわけですが、魔法生物の討伐はチームでの戦い。これまでとは違う点に頭を使う必要があるんです。」

「そ、そういえば前の……ま、魔法生物が首都、に、侵攻してきた時にやった……ね……チーム。」

「そう、あれです。あの頃よりもみなさん強くなっているでしょうし、そもそも未経験の人もいますよね。」

「だねー。あたしはその時後方待機だったよー。」

「おれは車イスだった。」

「俺はその車イスを押してたな。」

 ……強化チームだけシュールね。

「とまぁそんなところなわけですから、一つやってみましょう。」

 そう言うとパムはロッドで地面をトントンと叩いた。

「大地よ、その母なる腕をかしたまえ。立ち上がれ、『エメト』。」

 そして慣れた感じに呪文を唱えると校庭の地面が一部砂と化し、それが集まって巨大な何かに形を変えていった。

「自分が訓練でよく作っている……というか作らされているゴーレムを使いましょう。」

 前の社会科見学の時に見た、セラームの騎士数人を相手に大暴れしてたドラゴンの形のゴーレム。あれの……一回りくらい小さなバージョンが校庭の真ん中に出現した。

「いつもなら自分が動かすのですが……最初ですから、まずは簡単な知能での自律状態と戦ってもらいましょう。」

「自律? え、あんたのゴーレムってそんなことできるの?」

「そんなことも何も、ゴーレムとは勝手に動くモノです。か弱い人々を守る為に一人の魔法使いが生み出した自動防衛魔法なんですから。」

 そう言いながらパムが後ろに下がると、ドラゴンゴーレムは獣みたいな仕草であたしたちを捉え、のしのしと近づいて来た。

「じゃーまーとりあえずこれかなー。」

 始めの合図もなしに始まった疑似魔法生物との模擬戦。まだ武器も構えてなかったあたしたちの中、唯一武器無しで戦うスタイルのアンジュが先制攻撃を――『ヒートボム』を発射する。

 ロイドの回転剣みたいな見えなくなるほどの速さじゃないけど決して遅くはない赤い光の玉は、ドラゴンゴーレムの腕に当たると真っ赤な光と熱をまき散らしながら爆発した。

「悪くない威力の攻撃ですね。」

 ふむふむと頷くパムの前、『ヒートボム』を受けたドラゴンゴーレムはその腕が肩のあたりから無くなっていた。

「あれ、意外ともろいんだねー。やっぱり砂だから――ってうわ!」

 アンジュの『ヒートボム』が効くならあたしのパンチでもふっ飛ばせそうねとか思ってたら、元々腕があった場所に砂が補充されてあっという間に元に戻ってしまった。

「ゴーレム故の特性とは思わないで下さいね。高い再生能力を持つ魔法生物は結構いますから。」

「おいおいマジか。こんなんどうやって倒すんだ?」

 デカい斧を担いだアレキサンダーがそう言うと、ティアナがおずおずと答えた。

「ど、どんなに凄い再生能力、でも……身体の元々の形、を、覚えておく為の……か、核みたいのがあるはずだから……そういう魔法生物を倒す時は、そ、その核を探すところから……始めるらしい……よ……」

 第九系統の形状の魔法、その奥義の一つの『変身』を使いこなすティアナには、流石にそういう……生物学っていうのかしら? そんな知識が豊富だわ。

 まぁ、一か月も学校休んでそっち系の本を読み漁ったらしいから当然と言えば当然かしら。

「よく知っていますね。ずばりその通りですので、このゴーレムには特別に弱点を用意しています。そこを見つけて破壊すれば皆さんの勝利です。」

「……特別にってことは、ゴーレムには普通そういうのはないってわけね。」

「それはゴーレムの作り方によりますね。核を中心にして作られるゴーレムは魔法の負荷も小さく、簡単に動かせますが複雑な動きはできません。逆に核を用意せず、使用する土や岩へ均等に意識と魔法を分散させて作るゴーレムは、負荷が大きく集中力も必要ですが細かな動作が可能になります。この辺は術者の趣味と腕によりけりでしょうね。」

 ……さらっと言ったけど……そもそも砂なんていう、土や岩よりも多くて細かい分ものすごい魔法の技術が必要なはずの材料でワイバーンを真っ二つにするような巨大なゴーレムをあっという間に作っちゃうパムって……

「ふむ。勿論痛みを感じるわけはないだろうからひるませるといったタイプの攻撃は意味がなさそうだ。となればさっきのカンパニュラさんのように手足を攻撃して動きを鈍らせながら核を探して砕く――というところだろうか。」

 パムと模擬戦やるって言ったら男子寮から甲冑姿で出て来たカラードは……たぶん嬉しそうにランスを構えた。

なんかカラード一人でも倒せそうだけど、今回のこれはチーム戦。この前のワイバーンの時みたいに役割を決めて……えっと、どうすればいいのかしら……

「そんなに悩まなくていいですよ、エリルさん。」

 あたしが難しい顔をしてるのを見てパムがそう言った。

「まずはいつも通りに挑んでみて下さい。そうすればチーム戦特有のポイントに嫌でも気づきますから。これはその為の模擬戦です。」

「そ……じゃあいくわよ。」

 こうして、現役セラームが作ったゴーレムと騎士学校一年生六人の模擬戦が始まった。




 セイリオス学院にて現役の国王軍騎士による模擬戦が行われている頃、フェルブランドのとある村――特に畜産が盛んなその場所に、太った男と身体にフィットするボディスーツのような服で首から下を覆っている少女がいた。二人は村のとある家を訪ね、そこで飼育されていた牛を一頭購入し、村の空き地にその牛を連れてやってきた。

 体形や服装からして奇妙なこの二人を怪しみながらも何をするのかと多くの村人が空き地を覗いている中、太った男は傍にビニールシートを敷くと牛の頭に手を置いた。すると牛は突如睡魔に襲われたのようにぐらりと揺れてそのまま地面に倒れた。

「いいっすか、コルン。そのままかぶりつくというのも美味しい食べ方ではあるっすが、無駄なく食べるのなら解体するのが一番でさぁ。」

「……」

 太った男にコルンと呼ばれた少女は言葉を発しはしなかったが、興味津々な表情で話を聞いていた。

「じゃあ上手な解体とはどういうモノかって話っすが、これは簡単なんでさぁ。要するに機械と同じ、それを組み立てる時の順番を逆に辿ればきれいにバラせるんでさぁ。」

「……」

「母親の中だろうと卵の殻の中だろうと、ある日突然一瞬にして生物の形が出来上がるわけじゃないんでさぁ。頭からお尻に向かって重要な器官を作りながら生物は出来上がっていくんでさぁ。機械と違うのはただ一つ、それぞれの部品のくっつき方だけでさぁ。」

「……」

「それじゃあ実践でさぁ。あっしの手本をよく見るでさぁ。」

 太った男がそう言うと、その太い右腕が二股に裂け、それぞれが鋭い刃物へと形を変えた。村人たちから悲鳴があがるが、太った男は気にせずにその刃を倒れている牛へ向ける。

「料理によって使い方は違うっすから、何においても鮮度が命とは言わないでさぁ。だけど良い方が美味い、これは確かでさぁ。だからできるだけ素早く解体するんでさぁ。」

 直後、刃と化した太った男の右腕が目にも止まらぬ速度で振るわれ、瞬く間に牛は、不思議な事に血の一滴も出さずにその中身を抜かれて皮と骨だけになった。

「さぁ、部位の勉強でさぁ。」

 敷いてあったビニールシートの上に綺麗に並べられた牛の中身に村人たちは先ほどよりも恐怖の強い悲鳴をあげ、その大半が逃げ出した。

「ちなみに解体する時にあんな感じの悲鳴を食材に出させるのはいけないでさぁ。恐怖で筋肉がかたまったままの状態で解体したら美味しさが落ちるんで――」


「割とまともに料理人しとるんじゃの。」


 蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていく村人の中、一人の老人がその場から動かずに太った男を見ていた。

「さすが、かの『マダム』と肩を並べる食の大悪党じゃの。」

「んん? その顔は確か……十二騎士でさぁ?」

「ほう、わしの方からはお主の目が見えぬのだが、ちゃんと前は見えとるようじゃの。」

 ピシッとした上下に身を包み、杖に身体を預けて少し傾いて立っている老人は、ふと骨と皮だけになった牛を指差した。

「疑問なんじゃが、そこまで解体しておいて何故……血が一滴も出ておらぬのじゃ?」

「少しいじって流れないようにしてるだけさぁ。全身の血液が血管の中で氷にでもなったと思えばいいでさぁ。」

「なるほど。変形した腕、その外見、物体の性質を根本から変貌させるほどの形状魔法。お主がS級犯罪者の一人、『滅国のドラグーン』、バーナードか。」

「そういうそっちは十二騎士、第二系統のてっぺん、《フェブラリ》でさぁ。」

 わずかに残っていた村人も二人の――いや、太った男の素性を聞いて逃げ出し、とうとう空き地には三人のみとなった。

「しかし不思議でさぁ、どうしてあっしの居場所が? ここに来るまで、誰も食べてないんすが。」

「わしもお主に会うとは思っていなかったわ。孫の活躍を見にフェルブランドへやってきて、そろそろ帰ろうと思ったら空におかしな電波が走っておったのでな。辿ってみたらここに来たんじゃ。」

「電波?」

「どうやらそっちの少女から出ておるようじゃがの。」

「ああ、なるほどでさぁ。きっとケバルライがデータ収集とか言ってコルンの体調とかを自分のコンピューターに送ってるんでさぁ。それを見られるとは、あっしらも運がないでさぁ。」

 何の気なしにそう言った太った男だったが、それを聞いた《フェブラリ》の表情は険しいモノになった。

「ケバルライじゃと? そうか、そういえばフィリウスが言っておったの……今の『紅い蛇』のメンバーにはお主と『ディザスター』がおると。するとその少女はあのイカレたジジイの作品か。」

「ジジイがジジイをジジイって言うのはなんだか面白いでさぁ。」

「どうせロクなモノではないんじゃろうな。」

「さぁ、あっしも詳しい事は知らないでさぁ。」

 刃に変形していた腕を元に戻し、太った男――バーナードは解体した牛を骨と皮も含めてビニールシートに包んで少女――コルンに渡し、まるで準備運動か何かのように手をぷらぷらと揺らし始めた。

「一応魔法で鮮度を保つ仕組みがあるんすが、そうすると食材に魔法の味がつくんでさぁ。農家の人が美味しく育てた食材をダメにするわけにはいかないっすから、あっしらはとっとと逃げるでさぁ。」

「お主のような悪党にそんな殊勝な心掛けがあるとはな。」

「当然でさぁ。あっしは食べる者。料理を作る者と食材を生み出す者には敬意を払うでさぁ。」

「その調子で善良な者を全て愛せば良いものを。」

「生憎、あっしにとってそれ以外は大抵、ただの食い物でさぁ。」

 凶悪な眼を垂れた肉の奥で光らせたバーナードの、広げた両腕がその形状を変えていく。

「……」

 解体されているとは言え、牛一頭分の重さがあるはずのビニールシートの包みを軽々背負った少女は、腕以外の場所も変貌していくバーナードの背中にぴょんと飛び乗った。

「十二騎士としてお主ほどの大悪党を逃すわけにはいかぬし、何より『ディザスター』の作品は無視できぬ。年に数度のこの力、今年一発目の使いどころはここじゃろうて。」

 拳の大きさほどのイメロがついた杖を掲げると、自然の中ではありえないほどの規模の雷が落ち、《フェブラリ》はその雷を――紫色の稲妻を身にまとった。

「覚悟せい、お主はここでお縄じゃ。」

 どこにでもあるような小さな村の空き地から巨大な魔法生物のようなモノが飛び上がり、それを追うようにして紫色の閃光が走り、怪物の叫びと雷鳴が上空で激突した。




夕方。夕食を食べる為に入ったレストランで、オレは顔を更に真っ赤にしながら注文した料理を待っていた。対してローゼルさんは…………ヤバかった。

「絶妙なタイミングの死角とは言え、公衆の中であんなことを……」

「はひ……」

「ま、まったく、いきなり服の中に手を入れてくるのだからなぁ、ロイドくんは……」

「すみません……」

 前にローゼルさんにこ、告白された時と同じような個室的な席に座っているのだが……こ、こういう席で良かった……

 ランチの後も相変わらず発動したラッキースケベによってオ、オレが色々とやや、やらしいことをしてしまったローゼルさんはその……息が荒いというか色っぽいというか……しょ、正直……とてもエロい……

「さ、さっきなんてしし、下着の中に……」

「ひぅっ!」

 感触、その時のローゼルさんの表情、声……あぁあ……まじめにヤバイ……この前エリルをオ、オソイ――そうになったあの時に感覚がすごく近い……ああぁぁあ……

「ほ、本当にドスケベだな、ドスケベロイドくん。」

「はい、ドスケベです……」

「やはり紛れて本当に触っているのではないか?」

「にゃっ!?!? ほ、他に人がいる場所であ、あんなことをしようとは――おもいまへん!!」

「……誰もいなければやると。」

「しょしょ、しょうゆうことでは!!」

「しかしながら……うむ、きっとロイドくんにここまでされた女の子は過去に……いや、もしかするとカーミラくんが……いやいや、仮に何かあったとしてもまだまだ子供のロイドくんだ。今のロイドくんの方がいやらしいはず……」

「ド、ドウデショウカ……」

「なんだ、ついさっき背後から服の下に手を入れてし、下着をずらして直接――も、揉みしだいた男がいやらしくない――とでも……?」

「はぎゃ! ここ、言葉にしないでください!」

「手が抜けないなどと嘘を言いながら一分ほど……」

「抜けなかったというか身動きがというか!」

「その数分前はお……お尻にも直接だったな……」

「ぎゃああっ! ちょ、あの、すみませんでした!」

「…………ちなみロイドくんは……」

「はひ!」

「……きょ、今日起こったラッキースケベを……どれか一つでも……その、わたし――にしてみたいなぁと思った事はある……のか?」

「べぇっ!?!?」

 ローゼルさんに!? ローゼルさんにっ!?!? あばら、だ、ダメだ、そんなことを言われると頭の中が変な妄想だらけに――い、今のオレはダメだ!

「――! ――!! リョ、リョウリ、ローゼルさんは何を頼んらんへしたっけ!!」

「話のそらしかたが雑だぞ……」

「で、でもそ、そんな――こ、答えにくい質問をされてはですね!」

「わ、わたしだって聞きにくい質問なのだぞ。だが……気になるのだ。ロイドくんに……わたしはどど、どう見られているのだろうかと……」

 色っぽい表情で、かつ少しすねたような顔でグラスをまわすローゼルさん。中身はジュースだというのに、雰囲気のせいでワインに見えるくらいの色気が……!

「前にも言ったが、わたしだって驚いているのだ。わたしが……一人の男の子とあれこれしたいと思うようになっている現状に。そして理解している……わたしの恋心というモノは、きっと世に言うそれよりも遥かに深くて……言ってしまえば過剰なレベルなのだろうと。」

「そ、そんな……ことは……」

「ふふ、そこでフォローしようとするロイドくんはロイドくんだな。」

「いや、あの……」

「しかしだな、実はその過剰さも、よくよく考えてみれば当然なのだ。」

「と、当然!?」

「これも前に話したが……ロイドくんは恋愛マスターの力によって運命の相手と出会うことが約束され、相性百点満点の女性と出会えるように運命が引き寄せられたわけだが、その副作用によって九十九点や九十八点の相手とも出会うことになった。結果、今のようなモテモテロイドくんが出来上がっている。」

「はひ……」

「まぁそれは今さらとして、ここで注目すべきは九十点という点数だ。考えてもみるのだ。世の中のカップルや夫婦の相性が全部九十や百だと思うか? そんなに簡単に、運命の相手に誰もが出会えると?」

「…………ま、まぁ、確かにそうかもですね……」

「おそらく八十や七十、もしかするともっと低い点数であっても惹かれ合い、結ばれる。きっとそれが世の平均的な恋愛なのだ。そんな中で九十やら百なのだぞ? 普通を超えて求めてしまうことは仕方がないと思わないか?」

「ソ、ソウデショウカ……」

「そうなのだ。だからわたしが……ちょ、ちょっとかか、過激にロイドくんに迫るのも、相性が良すぎる故に――いや、そもそもわたしこそが百点の相手なのだからこれくらいは当たり前……だから――」

「ひゃっ!?」

 すぅっと伸びてきたローゼルさんの手がオレの手に絡みついて……!

「わたしがこんなんなのは仕方がないことなのだ……うむ……」

「はぅあ、あの、手――」

「まぁ、同時に九十点代のおまけであるエリルくんらがグイグイ迫るのも仕方がないという事になってしまうが、それこそ仕方がない。未来の妻として夫を守るとしよう。」

「ツマ――オット!」

「そ、そうだぞ。わたしたちはそういう――ああ、そういえば……」

 オレの手をいじくりながら、ローゼルさんは嬉しそうに照れる。

「であればこのお泊りデート……今夜はつまり……言ってしまえばしょ――初夜みたいなモノ――だな……」

「ショッ!?!?」

「何事も最初が肝心であるから……ま、まぁ、いくらドスケベでもロイドくんであれば大丈夫だと思うが……い、いや、むしろそういうのもいいのかもしれないができれば……」

「な、何の話を……」

「何のって……わかっているのだろう……? かか、過激に迫るわたしとラッキースケベなロイドくんが邪魔のない一部屋で夜を過ごすのだ……ロイドくんの理性も吹き飛ぶ――可能性がある、だろう……? 要するにその――わたしがオソワレル……可能性が……」

「そそそ、それってつまり――」

 あれ、これは、まずい、のでは……? エリルにオシオキ――した時みたいに、な、なんか身体の抑えが効かないというか頭の中が真っ白というか理性が――

「なんか嫌な予感がします! あの、この話題はこれくらいに――」


「あ、あまりハードなのは困るというか――しし、紳士的にお願いしたいぞ……」


 あ、ダメだこりゃ。

「んん!?」

 知らない誰かが頭の中に乗り込んでオレを操縦したのか、もしくは理性を脱ぎ捨てた純粋なオレがちゅうちょするオレを後押ししたか、絡んでいた手をグイっと引いたオレは引っ張られて身を乗り出したローゼルさんの唇を自分のそれで覆った。

「…………ん!?」

 数秒後、理性を通さずに実行されたその行動に気づいたオレは大慌てでローゼルさんから離れ、万歳ポーズで固まった。

「ひゃの、ここ、これはその――」

「……」

 目を丸くしたまま、ゆっくりと元の姿勢に戻ってポフンと椅子におさまったローゼルさんは、その顔をみるみる嬉しそうなモノに変えていって――

「本当に、今夜が楽しみだな。」

 と、ニンマリした。



 美味しかったと思うのだが、正直それどころじゃなかった夕食を終え、オレは今日の……このお泊りデートの最終ステージというかラスボスにたどり着いた。

 ローゼルさんとの二回目のデート……午前中はし、下着――を含んだ洋服屋さん巡りをして海鮮系の美味しいランチを食べ、午後は小物を眺めたり食べ歩きをして……さっきの夕食を迎えた。ラ、ラッキースケベが時々――というかかなり混ざってドキドキしっぱなしではあったけど、き、基本的には色々な事を話して楽しく過ごした。

 そしてとうとうこれといった対策も思い浮かばないまま……むしろレストランでのアレのせいで逆向きに後押ししてしまった状態で、オレはローゼルさんに引っぱられるままに今日の宿にやってきてしまった。

オーシャンビューとか言うらしい眺めのいい部屋で、内装も青色が基調となっているからすごく……ローゼルさんっぽいチョイス――なのだが……


「今日は楽しかったな、ロイドくん。」

「……」

「ロイドくん?」

「はひ!」

 真っ暗かと思いきやポツポツと光る船がきれいな夜の海――そんなモノを楽しむ余裕なんて欠片もなく、チェックインしてからお互いにお風呂に入ってゆったりとくつろいでいる今現在までの記憶があんまりないくらいに、とにかく頭の中がや、やばい感じになっている……!!

「そういえばわたしがお風呂に入っている間、覗きに来なかったな。」

「覗きませんよ!」

「……覗いてもわたしが怒らないと知っていても? となるとわたしに魅力がないということに……」

「あり過ぎですから!」

「む? あり過ぎるとどうして覗かないのだ?」

「だ、いや、い、今そんなことしたらホントに……」

「お、襲ってしまう……と……?」

「――!!」

 これ以上赤くならないはずの顔が更に熱くなる。普段の水色のパジャマではない、部屋にあったガウンを着ているせいでいつも以上に色っぽいローゼルさんは恥ずかしそうに微笑む。

「そうかそうか。」

 まずい、本当にまずい! 早々になんとかしなければ――!!

「! !! オ、オレ、そろそろ寝ようかなとばぁっ!」

 窓辺に置いてある椅子に座っていたオレは、急に立ち上がった勢いでオレたちの間にあるテーブルの脚に小指をぶつけ、痛みで前に倒れ――


「ひゃっ!」


 向かいの椅子に同じように座っていたローゼルさんを椅子ごと押し倒し、オレは――オレの手はローゼルさんのガウンの中に滑り込み、お風呂上りで少し熱く、すべすべの肌というか胸をがっしりと――!!

「びゃあああっ!?!?」

 全力で手を引き抜くが、そのせいで少しはだけたガウンの下から覗くナイスバディがああああ!

「しゅびばしぇん!」

 しゅばっと立ち上がったオレを……な、なんだかヤバイ、今日一番の色っぽい表情と潤んだ瞳で見上げるローゼルさんは、ゆっくりと身体を起こした。

「……ふふ、ふふふ……」

 そしてガウンをなおしながらゆらりと立ち上がり、オレの肩をポンポンと叩いた。

「朝から晩まで、ぶれずにラッキースケベだな、ロイドくん……」

「すみません!」

「しかしきっと、これがなかったら今の……頭の中がグルグルして理性が飛びそうなロイドくんはなかっただろう。くじ引きでお泊りデートの最初の一人になったのは運が良かったというべきか、それともわたしたちの運命故なのか。」

「へ、あの、ローゼルさん……?」

 肩に置かれた手に段々と力が入ってくる……な、なんだか前にもこんな感じの……そ、そうだ、ローゼルさんに告白されたときもこんな……

「一つ聞くがな、ロイドくん。理性がとびそうになるのがロイドくんの……男の子特有の現象だとでも思っているのか?」

「へ!?」

「一日中あんなことやこんなことをされて、いきなり熱い口づけを受け、そうしてもう限界というところで再びあんなことを……襲ってしまうというのがロイドくんだけの可能性とでも?」

「ロロロ、ローゼルさ――」


「もう、我慢できない……!」


 直後、流れるような体術でぐるんと宙を舞ったオレは、寮のを遥かに超えるふかふか布団に放り投げられた。

「あびゃ! ちょちょちょ、あの、その、ローゼルさん!?!?」

何が起きたのか、凄みのあるオーラを放ちながらベッドの傍で仁王立ちのローゼルさん……!?

「美人なわたしのナイスバディとラッキースケベのコンボでロイドくんをオオカミにする予定だったというのに……そうだ、さっきのキスがいけないのだ……あれで一気に狂ってしまった……!」

「ほぇっ!? あの、どど、どうし――」

「どうもこうもない。わたしをこんなに惚れさせたロイドくんが悪く、今日一日で散々その気にさせたロイドくんが悪い。往生するのだ。」

「びゃっ、あの、寝るならオ、オレはそっちのソファーで――ぎゃああああああっ!」

ローゼルさんがついに――ですね。ロイドくんはどうなるでしょう。

男側の悲鳴で終わると言うのはなかなか珍しいのではないでしょうか。


そっちはそっちとしてもう一方の激戦も気になるところなのですが……

凶悪な顔で食事するところしかなかったバーナードのちょっとした一面が見られて面白かったです。

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