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騎士物語  作者: RANPO
第七章 ~荒れる争奪戦とうねる世界~
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第四十四話 バカ正直な優柔不断と開かれる戦端

相変わらずの女ったらしロイドくんの活躍(?)、そして国王軍とオズマンドの戦いの始まりです。

 早朝、セイリオス学院に軍服をまとった小柄な女がやってきた。彼女は騎士の学校などには通わずに直接国王軍に入った為、学院との間につながりはなかった。だが今は彼女を鍛えた国王軍の指導教官が教員をしており、何より生き別れていた彼女の兄が通っている事もあって最近はちょくちょく訪ねるようになっている。

 彼女の兄は立派な騎士を目指して日々頑張っており、朝も寮の庭で鍛錬に励んでいるのだが、彼には一つ問題があった。

 彼女と再会する前、彼女の兄は恋愛マスターという妙な名前ではあるが人智を超えた存在に出会っており、簡単に言ってしまうと多くの女子から好意を寄せられるという状態にあるのだ。

 その上、部屋の空きの関係で彼女の兄は女子寮で生活しており、四六時中彼に想いを寄せる女子に囲まれている為、彼女の目下の心配事は兄の貞操となっていた。

 ただ、今日彼女が学院にやってきたのは兄の純潔の確認がついでで、メインは昨日発覚した、兄妹にとって重要な事案についての報告だったのだが……


「ぎゃびゃぁっ!? ごごご、ごめんなさいっ!!」


 聞きなれた兄の声で響く聞きなれない悲鳴に驚き、女子寮の庭に駆けつけた小柄な女が目にしたのは、数人の女子を押し倒した状態で破廉恥なところを覗いたり触ったりしている兄の姿だった。


「やん、もぅ、ロイくんてばこういう事はボク相手だけにして欲しいな。」

「……ま、まったく朝から……まぁいいのだが……」

「さ、触るところとか……触り方とか……ド、ドンドン、えっちになるね……」

「五人同時だしねー。」

「このドスケベ……」

「ずびばせん……あぁ、カラードたちがいればこんな事には――あ、あれ?」

 小柄な女を見つけた彼女の兄だったが、その表情はさーっと青ざめ――


「お兄ちゃんのばかあああああぁぁっ!!!」


 地面から伸びた砂の拳に殴り飛ばされた。




 部屋の中に戻ったあたしたちは、妹のパムに叱られながら今の状態を説明するロイドを眺めてた。

「……つまり魔人族――いえ、吸血鬼としての力が弱まっているせいで恋愛マスターの力が過剰に働き、結果変態兄さんが出来上がったと。」

「は、はい……変態兄さんです……」

「……着々と師匠であるあのゴリラのようになっていて、自分は悲しいですよ兄さん。」

「い、いやいやオレはその……「よぉよぉ美人さん方、俺様と一緒に酒を飲まないか?」なんて言わないぞ……」

「当たり前です。それで……その、一応確認しますけど…………どど、どこまでやっちゃったんですか……?」

「ドコマデ!?」

「おやおや、パムくんもそういう事には興味津々なのだな。」

「ち、違いますよ! あくまで兄さんの事を心配してです!」

「うふふ、みんなはどーか知らないけどボクはロイくんと――えへへへ。」

「兄さん!?」

「や! あの!」

「心配ないよー妹ちゃん。結局全員似たようなところまでは行ってるからねー。」

「兄さんっ!?!?」

 その後しばらく、パムの質問攻めによってロイドとあたしたちが……その、ど、どういう感じなのかが……小姑の知るところとなった。

「兄さんのスケベ。」

「はい、スケベな兄さんです……」

「そして皆さんも……も、もう少し恥じらいを……ま、まだ学生なんですよ……?」

「甘いぞパムくん。きみのお兄ちゃんはモテモテなのだ。攻められる時に攻めておかなければ、並み居る強敵と渡り合えないのだ。」

「どっかの女王様もいるしねー。たぶんこの先も増えるだろーしー。」

 確かにパムのツッコミはその通りなんだと思うんだけど、ローゼルが言った事もその通りで……実際、ちゃ、ちゃんと両想い――で、ここ、恋人になったはずのあたしですらローゼルたちと戦う毎日だし、アンジュのこの先も増えるっていう意見もたぶんそうなのよね……恋愛マスターの力的に……

 よく考えたらどうなってんのよあたしの……か、彼氏は……

「はぁ……やっぱり自分がここにいないとダメですね。兄さんがゴリラになってしまいます。なんとかして生徒か教員として学院に……」

「あ、そうだ!」

 いいこと思いついたって顔と、話を別の方向にそらすチャンスっていう顔が混ざった顔でロイドがパンと手を叩いた。

「パム、お兄ちゃんたちの部活の顧問にならないか?」

「部活? 顧問? え、兄さんいつからスポーツに精を入れるように?」

「あー、そういうんじゃなくてね――」

 そうしてロイドは『ビックリ箱騎士団』について話し始めた。

 セイリオスの部活には確かにスポーツをするところもあるけど、いわゆる騎士団を作ってる生徒もいる。授業以外の時間も使ってもっと強くなりたいって生徒が集まって模擬戦なんかをやってて、別に部活として申請しなきゃいけないわけじゃないんだけど、すれば正式に場所がもらえたりするからお得みたいね。

「それで顧問は先生でも先輩でも現役の騎士でもいいらしいんだ。上級騎士――セラームのパムならちょっとした遠征みたいのも許可が出やすいだろうし……あ、ほら、それにちゃんとお給料も出――」

「引き受けます。」

 食い入る感じで即答するパム。

「え……い、いや、嬉しいけど……そんな即答でいいのか? お兄ちゃん、国王軍の仕事とかちゃんと理解しないでお願いしているから都合とか――」

「関係ありません。自分にとっての最優先は兄さんです。顧問ともなればこの学院でもう一歩融通が利くようになるでしょうから、兄さんを色香から守りやすいです。」

「イ、イロカ……そ、そうか。で、でも一応軍には確認を取るんだよ……」

「はい。」

 パムが顧問……まぁ、史上最年少のセラームっていう天才騎士だし、これ以上はないのかもだけど……色々と大変そうだわ。

「え、えっと……そういえばだけ、ど……そもそもパムちゃんは……ど、どうしてこんな朝早くに……?」

「は、そうでした。兄さんがスケベなので頭からとんでました。今日来たのはこれです。」

 そう言ってパムが取り出したのは……前はしてなかったと思うんだけど、パムの手にはまってるのと同じデザインの指輪だった。

「? 指輪?」

「え! 妹ちゃんってば、なんだかんだ言ってロイくんのことが好きだから婚約指輪持ってきたの!?」

「そんなわけないでしょう!!」

 ……ロイドが言うに正真正銘の兄妹らしいけど……でもパムってかなりのお兄ちゃんっこだし、実は血がつながってなかったとか言われてもロイドならあり得そうなのよね……

「こ、これは……兄さんが会ったご先祖様、マトリアが言っていたというモノです。」

「! うちに代々受け継がれているっていう!?」

 少し興奮気味に、前のめりでその指輪を手にしたロイドは――

「――!」

 急に身体から力が抜けたのか、その勢いのままパムにもたれかかった。

「わわ、お兄ちゃん!?」

 ロイドを受け止めて真っ赤になるパム……ああ、なんかやっぱりそうなんじゃ……

「――……あ、ごめん……急に頭が……」

「じ、自分もそうなりました。その指輪の使い方が一瞬で頭の中に入ってきたんですよね?」

「うん……マトリアさんが言っていた通り、魂を受け継がせる魔法を……なんていうか外側から補助してるんだね、これ。」

「そうです。代々サードニクス家に受け継がれていたらしく、自分たちの場合はお母さんがその血筋だったようですね。」

「血筋……そうだ、結局マトリアさんが何者かってわかったの?」

「それは……」

 そこでふと、パムがあたしたちを見た。

「……まぁ、あなたたちなら大丈夫でしょう。公になると面倒なことなので他言無用にお願いします。」

「ほう。魂を子孫につなげていくなどという大魔法を使う人がご先祖様なのだからな、もしや今は無き名門騎士の家系だったりしたのか?」

 師匠が十二騎士、妹が天才騎士、魔人族とも交流があるこの田舎者に今更どんなラベルが追加されたってそんなに驚かない……そんな風に思ってたあたしに、パムはとんでもない事を言った。


「マトリア・サードニクスの旧姓――元々の名は……マトリア・ベルナークでした。」




「なんだか大変そうねん。」

「他人事じゃねぇぞ。その内セラームにも任務は来る。」

 ツァラトゥストラ。十二騎士によってもたらされたその情報は昨日の内に国王軍や騎士団の面々に伝えられ、最悪の時代の再来となるかもしれない状況に多くの騎士が緊張を隠せずにいた。

「なんだか城内もピリピリしてるわん。この前の侵攻がアフューカスの部下の仕業って情報も広がってるから、いよいよ史上最凶最悪の悪党が動き出したかーってねん。」

 フェルブランド王国の王城の敷地内にある国王軍の訓練場にて、赤い髪と赤いドレスという目立つ容姿の艶めかしい女がそう言うと、筋骨隆々とした男は難しい顔をした。

「それは良くないな。どっちかっつーと、今は目先の悪党に警戒して欲しいところだ。」

「そうねん。アフューカス一味は確かに注意しなきゃだけど、連中ほどの悪党は悪の道とやらが真っすぐだものねん。」

「ああ。ツァラトゥストラっつー中途半端に強力な力をいきなりゲットした小悪党の方が動きが読めない分厄介だ。遊びで街を滅ぼしかねねぇ。」

「ちなみに一番面倒なパターンとして、オズマンドがそれをゲットした場合っていうのがあるけどん?」

「場合も何もあるだろうな、それは。組織力はともかく、注意するべき強い奴が数人しかいなかったあの組織にツァラトゥストラが持ち込まれたら確実に面倒くさい。アフューカスらが同じタイミングで動いたら、正直どうしようもない混沌だ。」

「フィリウス、あなたスピエルドルフに応援は頼めないのん? 魔人族の力を借りられるなら百人力ってものよん?」

「難しいな。友好的な関係ではあるが支援はしないだろう。根っこの部分じゃ人間に対してはドライなんだよ。あるとすれば、大将がカーミラちゃんと結婚して王様になるしかない。」

「愛の力ねん。ま、アフューカスはともかく、オズマンドはうちの国の問題だものねん。」

 と、そこまで真面目な雰囲気で会話をしていた二人だったのだが、赤い女がコロッと話題を変えた。

「そういえばアフューカスってかなりの美女って噂だけど、どうだったのん?」

「ああ?」

「数多の女性と夜を駆け抜けた《オウガスト》からしてどうよん。抱けるのん?」

「抱けるかあんな化け物。確かに外見は相当なモンだったが中身が最悪だ。目の前にいるだけで冷や汗が―」


「何の話をしているのだ?」


 朝っぱらから女を抱く抱かないの話をしていた二人のところに一人の女性がやってきた。これまた騎士の訓練場には似合わないどこぞの町娘のような素朴な格好の金髪の女性で、温度の低い笑顔を見せている。

「あらま!」

 男がギクッとするのに対し、赤い女は楽しそうな顔になった。

「今あのアフューカスを抱けるかどうかって話をしてたんだけど――もー、やーねー見境ないんだからん。」

「お前がふった話だろうが。」

「あ! まさか『ムーンナイツ』新入りのオリアナにまで手を出しちゃってたり!?」

「するか!」

「だ、そうよセルヴィア。だけどこの男の首根っこはしっかりと掴んでおくのよん? それじゃお姉さんはこの辺でさよーならー。」

 そう言って赤い女は投げキスを放ちながらそそくさと去って行った。

「……サルビアさんは会う度に応援していると言って背中を叩いてくれるし、あの話も知っているが……フィリウス、本当に彼女とは何もないのか? かなり親しそうだが。」

「気色悪い事を言うな。前のあいつを知ってる奴ならどんだけナイスバディでも女とは見れねーよ。」

「しかし生物的には完璧に女性なのだろう?」

「医者によるとガキも産めるらしいからな。ああ、確かにあれは女だ。だがあれと同じ性格、同じ実力の男騎士がいたことも確かなんだ。しかも俺様はあれと同期なんだぞ? 余計に女に見えねぇ。」

「そうか。ところで朝は食べたか? おいしい手作りサンドイッチがあるのだが。」

 町娘の格好の女性、《ディセンバ》ことセルヴィアがずいっとサンドイッチを差し出すと、筋骨隆々とした男、《オウガスト》ことフィリウスはしぶしぶ――というよりは色々と諦めたような顔でそれを受け取り、二人は訓練場の隅っこで並んでサンドイッチを食べ始めた。

 そんな二人の仲睦まじい光景は国王軍の中では既に見慣れたモノとなっており、騎士たちはそれを温かく見守っている。

 ただ今朝は――

「早速とは律儀だな。」

「まったくだ。侵攻以来、首都を覆う魔法は更に強力になったんだがな。城の前まで来ちまうとは、この辺もツァラトゥストラの特性なのか?」

 そう言いながら二人は空を――城を見上げる。すると青い空を一瞬染めるほどの赤い光線が走った。真っすぐに城へ向かうその光線は、しかし城の手前に出現した巨大な魔法陣に弾かれ、空高くへとのぼっていった。

「さすが学院長がかけた防御魔法だが、打ち消せずに弾いたところ見ると相当な威力だな。」

「血液ではなく、ツァラトゥストラの内臓系の所有者かもしれないな。」

「まだツァラトゥストラ所有者とは決まってな――」

 フィリウスの言葉を遮って、突如二人の近くに何かが落ちてきた。


「わざわざ城の敷地内に入れてくれるとは、頭の弱い騎士もいたものですね!」


 落下地点に立ち込める土煙の中から出てきたのは、ジャケット、ネクタイ、スラックスと、スーツではないがカッチリとした格好の男。


「! その上さっきの攻撃を見ておいて空中から迫るとは――いよいよバカなようだっ!」


 叫ぶと同時に男の左目から赤い光線が放たれた。先ほど城に向かったモノと同じ光の先には、甲冑をまとい、ランスを手にし、マントをはためかせる桃色の髪の女騎士。そのままであれば光線に直撃だったが、女騎士は空中で直角に進路を変えてこれをかわし、落下の勢いに突風を乗せて男に突撃した。

 地面に何かが落下したというよりは暴風が体当たりしてきたかのようで、女騎士のランスが地面に突き刺さると周囲に突風が吹き荒れた。


「――っとと、なるほど、少し訂正ですね。ちょっとはデキるバカのようです。」


 女騎士の突撃をかわした男はぴょんぴょんと後退して距離を取る。


「……あの奇妙な左目が高い動体視力を備えているのか、単に本人の力量か……どうにも違和感の大きい相手ですね……」


 独り言を呟いた女騎士は、ふと視界の隅っこに座っている二人に気づいた。

「!! フィリウス――とキャストライト殿! あ、す、すみません、お二人の時間を――」

 変な事に謝罪する女騎士に微妙な表情を返しながら、フィリウスは落ちてきた男を指差す。

「悪党と戦う騎士に悪いことなんかないぞ、オリアナ。それよりいい判断だったな。そこの変なのをここに放り込んだのは。」

「なに?」

 ピクリと反応する「変なの」に、フィリウスは座ったまま答える。

「街中でさっきのみたいな攻撃をされると困る。それにここには騎士がたくさんいるからな。お前がどんな力を持っていようと対応できるだろうよ。」

「……後悔しないといいですね。」

「お前こそ。悪党からしたら最悪の相手が目の前にいるんだぞ?」

「は?」

 と、数秒フィリウスとセルヴィアを眺めてハッとした男は――しかし驚愕や焦りではなく笑みを浮かべた。

「十二騎士……ふふふ! ここで貴様らを倒しておけば我々も動きやすくなる!」

 そう言うと男はジャケットを脱ぎ捨て、背中から幅広のサーベルを抜く。その刀身には渦の中心に十字架というシンボルが刻まれていた。


「オズマンド、ナンバーテン、プレウロメ! 貴様らを正しき世への篝火とする者だ!」


 男――プレウロメの堂々たる名乗りに、しかしフィリウスとセルヴィアはため息をつく。

「……どうやらツァラトゥストラとオズマンドという今一番面倒な組み合わせがやって来たようだな、フィリウス。」

「あんなへんちくりんな目ん玉は間違いないだろうな。魔眼の類なら相応の気配ってのがあるが、あれはなんともまぁ気持ち悪い気配だ。ったく。」

「フィリウス!」

 やれやれと腰を上げかけたフィリウスに、女騎士――オリアナが敬礼する。

「この男、自分に任せてはもらえないでしょうか!」

「おお、流石だな。割と未知の敵だがまぁいいだろう。俺様がここにいる。好きに挑め。」

「ありがとうございます!」

「ちなみに、んな教官を相手にするみたいに言わなくていいぞ。「私に任せろフィリウス」でいい。」

「は、はい。」

「随分と舐められたモノだ……その女は黒マント――中級のスローンが私の相手とはね。まぁいいでしょう……準備運動ということで。」

 くるりとサーベルをまわしたプレウロメに、風に乗ったオリアナが突撃した。初めの一突きを慌てて弾いたプレウロメに更に繰り出される突きの連続攻撃。中距離でランスとサーベルの応酬が響き渡る。

 間合いで言えばランスの方が有利であり、事実オリアナの攻めをプレウロメが受けるという形になっている。しかしプレウロメはその攻撃の一つずつを確実に受け――

「――っらぁあっ!!」

 じりじりと迫っていたオリアナに左目からの光線を放つ。速度と威力を合わせ持つそれをかわす度に後退させられるオリアナだったが、彼女は諦める事無く攻め続けた。


「さっき城に向かって放たれた一撃は相当量のマナをためて撃ったのだな。今の光線にはあれほどの威力はない。とはいえ当たればかなりのダメージ……あの距離であの速さの攻撃に、彼女は全く臆していないようだ。」

「『イェドの双子』の二人に一人で挑む奴だからな。今は無謀でも、後に勇気と称されるだろうあのガッツの行く先が、俺様は気になるのさ。」

「なるほど。」


 手を出す気のない二人の前で繰り広げられる攻防の中、オリアナが仕掛ける。ランスを手から離し、風を利用してのフェイント。突如空中にとどまった持ち主のいないランスに戸惑うプレウロメの懐へ、小さな竜巻の乗った手の平を打ち込もうと踏み込んだのだが――

「――!!」

 まるで意志があるかのように、光線を放っていたプレウロメの左目だけがギョロリと動いてオリアナを捉えた。

「――っ!」

 攻撃の為の勢いを風と筋力で無理矢理殺し、かする熱に頬を焼きながらも、オリアナはその光線をかわした。


「うぇ、なんだ今の。目ん玉だけで動いたぞ。ツァラトゥストラってのは全部あんなんなのか?」

「腕や脚など、外に出ている部品はそうかもしれないな。さすがに内臓系は勝手に動かないと思うが。」

「勘弁して欲しいな。」

「しかし……ツァラトゥストラ抜きにしてもあの男、なかなかやる。ナンバーテンと言っていたが、あれは組織内の序列だろう? オズマンドで厄介な相手は上位三人くらいという認識だったのだが。」

「んん? あれの強さのほとんどはツァラトゥストラの力だぞ。」

「? ツァラトゥストラが与えているのはあの光線と動体視力だけではないのか?」

「身体能力も強化されてるぞ。」

「……強化魔法の気配は感じないが……」

「魔法じゃないからな。かと言って筋力を増強しているとかそういうのでもない。あいつがしてる動きをするのに必要な筋肉はあいつにない。」

「さすが、その辺りは見るだけでわかるのだな。では一体?」

「妙な感覚だが、強いて言えば操り人形だな。身体を無理やり引っ張って動いている感じだ。どういう仕組みかは知らないが、何にせよ身体への負荷は相当なもんだろう。」

「……ハイリスクな代物とは聞いていたがそれほどとは。」

「おかげで魔法を検知する結界にも引っかからないみたいだが。」


「やり方を変えます。」

 そう呟くとオリアナはふわりと風に乗り、プレウロメから距離を取った。

「はっ! 遠距離攻撃を仕掛ける私から離れるとは、やはりバカなよ――」

 プレウロメの言葉を遮ったのは細い竜巻。まるで蛇のようにうねって頭上から迫ったそれにプレウロメは光線を放つ。だが――

「――!!」

 その竜巻をかき消すことはできたのだが、続け様に同様の竜巻に左右から挟まれ、プレウロメは慌てて後退した。

「――すぅぅ……」

 十を超える竜巻でプレウロメを踊らせながら、オリアナは静かにランスを――投てきの姿勢で構えた。


「お。オリアナはツァラトゥストラを回収するつもりみたいだな。無傷でってのは難しいだろうが、ある程度の情報は得られるだろう。」

「回収? まさか射抜くつもりなのか?」

「オリアナほどの精密操作ができるなら可能だろう。ああいうのは俺様にはできないところだな。」

「……随分と高評価なのだな……」

「なんだその目は。」


「だっ、ら、くそ!」

 竜巻の猛攻を必死にかわし、時折光線でそれらをかき消すも次から次に襲い掛かる渦巻く蛇に余裕が無くなっていくプレウロメに、明らかな変化が起きた。


「あの男の左目……煙を出しているな。オーバーヒートか?」

「それほど連射はできないんだが竜巻のせいでそうせざるをえなくなったってとこか。まぁ、その辺はオリアナの狙い通りなんだろう。」

「あえて距離を取り、あの目よりも連発の利く風を使って自滅を誘う……先の近距離の攻防でそれを見抜いたわけだな。なるほど、あのアフューカスがバラまいた力という事で身構えていたが、丁寧に対処すればちゃんと戦えるようだ。」

「あの目ん玉がツァラトゥストラの中でどれくらいのすごさなのかわからんがな。ま、昔の騎士らが一度は勝利してる代物なんだ、俺様たちにだってできるだろうよ。」


「――っ、うっとうしい風だっ!!」

 痛みか熱か、苦痛の表情で比較的大きな光線を放ち、そのまま顔を動かすことで竜巻を薙ぎ払ったプレウロメ。だがオリアナや座り込む十二騎士には届かない短い一撃で、そのか細さに歯ぎしりをしながらオリアナを睨みつけたその時、プレウロメの視界は一瞬何かで埋まり――


「――がああああああっ!!」


 直後、左目に激痛が走った。その時は鎮痛剤を使っていたが、この左目を身につけるにあたって本来の左目をえぐった時と同じ感覚が顔の左半分の奥に生じた。

「――っあああ……あああ!! 目が――私の左目が!! 私の力が――ぐふっ!」

 顔をおさえて呻き、喚くプレウロメの腹部にオリアナのランスの鋭利な先端とは逆側――石突きがめり込み、プレウロメは気絶した。

「フィ、フィリウス! あ、あの、これはどうしたら……!」

 勝利したオリアナはそう言いながら慌ててフィリウスたちの方へと駆けてきた。彼女が言っているのは倒れたプレウロメではなく、ランスの先端から回収した左目。生々しい眼球をのっけているのだろうオリアナの手を覗くと、そこには徐々に砂になっていく目玉があった。

「一度装着したら他人には渡せないって話はマジだったみたいだな。キャストライト、止められるか?」

「やってみよう。軋む歯車、反発する長針、流れよ逆巻け――『バック』。」

 呪文を唱えて魔法を発動させるセルヴィア。すると砂と化していた眼球に生々しさが戻ってきた。

「……『ストップ』。」

 まるでコップに注がれる飲み物を止めるかのようにそう言うと、眼球は完全な状態でその変化を停止させた。

「おお、さすがだな。」

「私にかかれば冷めた料理も瞬く間に熱を取り戻す。良い妻になれると思わないか?」

「お前もさすがだったなオリアナ! そのデカいランスで目ん玉だけ抜き取るとは大したもんだ!」

「は、はい。」

 そこでふと、オリアナはパッと浮かんだ疑問を口にした。

「そういえばフィリウスは、何故セルヴィア殿だけ名前で呼ばないのですか?」

「よし! こういうのに詳しいのは《セプテンバー》だな! あいつ今どこにいるんだ!」

「《セプテンバー》は一応他国の騎士だぞ、フィリウス。」

「オズマンドはうちの国の問題でも、ツァラトゥストラは関係ないだろ。まぁ、まずはそこの男を牢屋に放り込んで情報を聞き出すところからだが――」

 と、そこまで言ったところで「ぐー」という音がフィリウスの腹のあたりから聞こえてきた。

「――それよりも先に朝飯だったな。」

「は、そうでした! お二人の邪魔をしてすみませんでした! 自分は食堂に行きますのでこれにて!」

 ビシッと敬礼を決めた後、気絶したプレウロメを風で浮かせて運びながら、オリアナもそそくさとそこから去って行った。

「……将を射んと――ではないが、先に外堀が埋められて何よりだ。」

 何とも言えない顔を下に向けるフィリウスと、にっこりとした笑顔を上に向けるセルヴィア。かみ合いそうにない表情だったが、何事もなかったかのように朝食の続きが始まった。




「ベルナークとは、これは同じく名家たるリシアンサスと結ばれるべきだな。そうだろう?」

「予想以上っていうか最高だねー。これ以上はないよねー。やっぱりあたしの騎士はロイドだねー。」

 部活の顧問について国王軍に確認を取ってくると言ってパムが帰った後、ローゼルさんたちがそんな事を言った。だが……

「……そ、それでそうなると……どうなるんでしょうか……」

 前にカラードから聞いてはいるのだが、ベルナークのすごさというのをイマイチわかっていないオレの微妙な顔を見て、いつものようにエリルがため息をついてローゼルさんが説明をしてくれた。

「久しぶりの、騎士について何も知らないロイドくんだな。」

「ちょ、ちょっとは知っていますよ……えっと、昔あった小さな国の騎士団のリーダーを代々務めていた家系で、負け知らずで、今はもうその家系はないけど、彼らが使った強力な武器は有名でベルナークシリーズって呼ばれていて……」

「ふむ。武器についてはある程度知っているのだな。まぁ、交流祭で相手にしていたしな。となると知らないのは今のベルナーク家についてか。確かにベルナークの名を持つ家はもうないが、その血を引き継ぐ家系はある。」

「つ、強そうですね……」

「確かにどこも名家だが……ベルナークの血筋だから特別強いというわけではないよ。まぁ、ベルナークシリーズはどこよりも持っているだろうからそういう意味では強いかもしれないが。」

「それだけでも充分強いような気もしますけど……えぇっとじゃあ、もしもオレやパムがベルナークの血筋ですよーって公表したら……騎士の名家サードニクスの誕生ということに……?」

「実績がないから何とも言えないな。だが交流祭でもあったように、ベルナークシリーズはその血筋の者が持つと真の力を発揮する。まぁ、わたしも実際に見るまでは噂としか思っていなかったが……ロイドくんとパムくんはそれを発動させることができる数少ない人物。相応の特別待遇が待っているだろうな。場合によってはセイリオスを離れる可能性も……」

「え、それはやだな。」

 特に何も考えずにそのままの感想を口にしたのだが……みんなの空気が妙な感じになった。

「ほ、ほうほう。それはつまりわたしと離れたくないということだな?」

「えぇ――あ、いや、それは勿論で――」

「ロイくんボクは!」

「いや、リリーちゃんだって――というかみんなそうだよ。カラードやアレクも含めて、折角仲良くなったみんなと離れたくはないよ。」

「仲良くっていうか、あたしたちの場合はもーっと深い仲だもんねー?」

「フカイナカ……」

「ぬ、そうだそうだった。ベルナーク云々よりも今はドアの件が問題なのだ。」

 ドアの件。空間を繋げたりなんなりしている学院長の魔法があるのだが、その学院長がセイリオスにいないせいで少し不安定になり、この寮の中だけではあるけど、ドアを開いた先が別の部屋につながるという現象が起きているのだ。

 学院長の魔法がかかっているのがリリーちゃんの部屋のドアだからという、魔法に関してはまだまだ知らない事の多いオレにはイマイチわからない理由だけど、そういう変な事が起こるのはリリーちゃんが使った事のあるドアだけとなっている。

「商人ちゃんってしょっちゅう位置魔法使ってるから、そーゆーのも影響してるのかもねー。それで、商人ちゃんが使った事のある寮の中のドアっでどこなんだっけー?」

「ロイドくんたちの部屋とわたしたちの部屋はまず確定だ。加えてリリーくん本人の部屋もそうであるわけだが……ここからが問題だ。」

「ローゼルちゃんったら、何が問題なの? 要するに三つの部屋のドアを使ったらちゃんと廊下に出るか他の二つの部屋に出るかってだけでしょー?」

 と、妙にニヤニヤした顔で言うリリーちゃん……

「他にもあるだろう……リリーくんの部屋の中にもドアが! お風呂場が!」

「えぇ!? そ、そっちにもつながる可能性が!?」

「現段階の情報で考えるとそうなるのだ。しかもリリーくんがわたしたちやロイドくんたちの部屋のお風呂場を使った事はないだろうからリリーくんの部屋のお風呂場限定なのだ。」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……寮の中のドアで言うなら大浴場にもつながるって事じゃない……!」

「えぇっ!?」

「可能性はあるだろうな。だが一番の問題はロイドくんなのだ。」

「ででで、ですよね! どど、どうしよう、ドア開けたら女湯なんてなったらオレ――」

「いや、おそらく今はそうならない。大浴場をこのメンバーで貸し切りでもしない限り。」

「えぇ?」

「いいかロイドくん、こんな絶好のチャンスを運命とやらが利用しないわけがないのだ。昨日だって――ド、ドアをくぐる度に……その、アレだっただろう……」

 その言葉で昨日の事がフラッシュバック。ああああぁぁあ……

「え、えっと、と、という事は……あ、あたしたちがドアを使う時は……た、たぶん移動先はランダムなんだけど……ロイドくんが使うと……き、着替えてたりお風呂に入ってたりする……だ、誰かのところに行っちゃう可能性が、高いって、こと……?」

「そうなるだろうな。」

「えぇ……」

「今回のラッキースケベはあくまで過剰な運命の力によるモノであり、その目的は……わ、わたし……たち、とロイドくんの仲を更に進める事にある。他の男子がいる前では起きない事はカラードくんらがいる前で起きなかった事でわかっているのだから、おそらく他の女子――しかも裸の女子がたくさんいる女湯など、ロイドくんが目移りして目的に合わないからそこでも起きない。」

「あ、あの、めめ、目移りするとか、その、オレはですね……」

「つまり、ロイドくんがドアを使った時につながるのは――ロイドくんの部屋のドア、わたしたちの部屋のドア、そしてリリーくんの部屋と部屋の中のドアなのだ!」

「なるほどー。商人ちゃんのところにいく確率が高いんだねー。」

「そうだ! しかも昨日――う、うむ、わたしたちも体験したわけだが……ど、どうやらこのラッキースケベ、ロイドくんに突撃させるのと同時に……わ、わたしたち自身もその気にさせるようで――だ、だからスケベなリリーくんが相手となると非常に危険なのだ!」

 あとで本人たちが恥ずかしがるほどに、確かに昨日のローゼルさんとティアナはやばくて……あぁあああぁぁぁ……

「……そういえばちゃんと聞いてなかったわね……ロイド、あんたローゼルとティアナ、ついでにリリーと……な、なにしたのよ……」

「えぇっ!?!?」

 昨日、ドアが変っていう事でなんとなく流れた話がここで!

「えへへ、ボクなんかロイくんに――やんやん、もぅ、ロイくんてば!」

「……あんたたちは……?」

「な、なに、大したことはないとも。」

「う、うん……」

「…………ロイド……?」

「はひっ!」

「毎度のそれはいーけどさー、それだとあたしのとこに来る可能性はゼロってことだよねー。」

「ぬ、ま、まぁそうなるな。アンジュくんの部屋にはそもそも誰も行った事がないのだから。」

「不公平だよねー。じゃあ今から……はもう時間ないから放課後あたしの部屋に来なよー。」

「いやアンジュくん、部屋に行っても結局ロイドくんがそっちに突撃することはないと思うぞ。きみの部屋にはルームメイトがいるのだから。」

「あー、それなら大丈夫だと思うんだよねー。とにかく一回おいでよー。ほら、あたしの部屋が選択肢に入ったらそれだけ商人ちゃんのとこに行く確率が減るでしょー?」

「あの、そ、それはつまり……ア、アンジュのきき、着替えの時とかにも移動してしまう可能性が出るって事ですよね……」

「そうだねー。でも今更じゃないのー?」

 そう言ってオレに対してだけ無防備な鉄壁スカートをひらひらさせるアンジュ。

「――! とと、とりあえずご飯を食べよう、朝ご飯を!」



「昨日は割とクタクタだったが一日経つと元気になるな。さすがの若さだ。」

 言っている本人もまだまだ若いと思うのだが、にししと笑いながら先生がそう言った。そういえば先生っていくつなのだろうか。

「一応言っとくが、先生は何歳なんですかとか聞いた奴は黒焦げにするからな。」

 オレの心を読みながら、先生はペロンと一枚の封筒を取り出した。

「んで、昨日話すのを忘れてた事があって……お前ら、他校へ手紙を出せるぞ。」

 手紙? いや、まぁ……そりゃあそうか。交流祭でしか話す機会がないってわけじゃないし、個人的に連絡先を交換した人だっていたはずだ。そうか、なんとなく次は一年後――みたいな気分でいたぞ。

「交流祭じゃあ学校の威信をかけて戦う敵みたいになってるが、どの学校の生徒であれ、数年後に騎士として共に戦う仲間だからな。こういう交流も大事なわけだ。で、別に個人的に文通したって構わないんだが、実は四校をつなぐ特殊なポストがあってな。相手が生徒であれば切手とか貼らなくても向こうに届くんだ。」

 へぇ、便利だなぁ。キキョウにでも出してみるか。

「でもって早速、この手紙が届いたわけだ。」

 そう言って手にした封筒をゆらゆらさせる先生。あれは実際に届いた手紙だったのか。

「普通は男女それぞれの寮長に渡されてお前らの手元に行くんだが、学院長がいないせいで若干ポストが不調でな。こうして手渡す羽目になった。」

 校長先生がいない影響がここにも……え、というかそれじゃあ校長先生って普段ずっとこの学院にいるのか……? まさか校長室って自宅も兼ねているのか?

「ほい、リシアンサス。お前にだ。」

「え、わたしですか。」

 教室の構造的に、前の方に座るローゼルさんは一番後ろに座るオレからだと少し見下ろす感じに眺める事になるわけで、そうしてチラリと見えた封筒の裏には――

「なにあれ、ハート?」

 同じように眺めていたらしいエリルが呟く。ハートのシールで封がされた手紙。これはもしや噂に聞くあの伝説の……!!

「ちなみに、うちだとソグディアナイトなんかがそうなんだが、他校にたくさんのファンを作って大量の手紙を受け取るなんて奴もいるんだぞ、サードニクス。」

「……あの、どうしてオレに……」

「さてとお前ら、ランク戦も交流祭も終わって気が抜けてるかもしれないが、お前らにはまだまだイベントがあるぞ。」

 コロッと話題を変えた先生は、黒板にカツカツと今後の予定を箇条書きにしていった。

「まず一年生だけのイベントとして校外実習がある。騎士の仕事の大部分を占める事になる魔法生物討伐――これを実際に任務を受けることで体験するわけだ。」

 ああ、プルメリアさんが言っていたやつか。実際の任務ってところがドキドキするな。

「その次に生徒会選挙。生徒会メンバーを決めるわけだが、例年ミニランク戦みたいになる。」

 ミニランク戦……? 変な単語が出て来たな……

「んで最後に二回目のランク戦。前回Aランクを取った奴は上の学年に挑めるから、毎年大波乱になる。ここでのランクが次の学年でのスタート位置になるから、気合入れろよ。」

 校外実習、生徒会選挙、ランク戦……全力勝負の機会がまだまだあるんだな……

「普通の学校なら運動会やら文化祭やらが入ってくるところだが、ここは騎士を育成する学校だからな。毎年の行事としては存在しない。ただ……あのお祭り好きの生徒会長が生徒会主催でなんかやるとかなんとか言ってたな。ま、強くなるための機会は学院がたくさん用意してくれるからな。たまに遊んだりして青春ってのもしっかり楽しめよ。」

 学校行事に加えてデルフさん主催のイベント……色々と盛りだくさんだ。こりゃあ一年生の時期なんてあっという間に過ぎ去ってしまう。気づいたら三年生になってそうだ。



 昨日は軽めだったのに対し、一日経てばもういいだろうという事なのか、今日はいつも通りの授業が行われたわけだが……交流祭での戦いを思い出してふと考える。

体術や魔法の授業の……成果とでも言えばいいのか、そういうモノは日々の模擬戦や交流祭のような時に実感できる。だけど騎士として頭に入れておくべき事として授業で教わった魔法生物などの知識というのが活きたことはまだない。

 たぶん実戦……というか騎士として受ける事になるだろう任務の中でその知識が必要な瞬間が来るのだろう。

 ふむ……そういう経験を『ビックリ箱騎士団』の活動として一足早くできたらいいな。そういえばパムの顧問の件はどうなっただろうか。

「なーんて書いてあったのー、優等生ちゃん。」

 放課後、オレが部活についてぼんやり考えていると、もはやこのメンバーのたまり場となっているオレとエリルの部屋でみんながローゼルさんがもらった手紙について話していた。

「そ、それってやっぱり……ラ、ラブレター……なんだよ、ね……?」

「うむ……」

「交流祭であんな事言ったのにそんな手紙出すなんて相当好きなんじゃないの? ローゼルちゃん、想いには答えてあげないとダメだと、ボクは思うな。」

「いい事を言った風な顔でニヤニヤするな、リリーくん。そもそも……まぁ、確かに中身は恋文に近いそれなのだがそうではないのだ……」

「どういう意味よ。」

「考えてもみろ。男子がハートのシールなんて使うか?」

「は? じゃあその手紙出したのって……」

「ああ……カペラ女学園の生徒――つまり女子だ。」

「何よそれ。」

「わたしも漫画などからの知識ではあるが、つまりは「お姉様」と呼んでいいですかというような話さ。あの触手魔人をボコボコにしたのがカッコよかったとかなんとか……女子校では本当にそういうのがあるのだなぁ……さてどうしたものか。」

「どうもこうもないよ、ローゼルちゃん。今から女の子同士の愛に目覚めてそっちに行くしかないと、ボクは思うな。」

「ここぞとばかりに……慕ってくれるのは嬉しいのだがな。この恋文レベルに想われると、色々と面倒そうだ。」

「……あんたってそんな見た目で結構そういうことズバズバ言うわよね……」

「ローゼルさんは面倒くさがり屋だからなぁ。」

 と、そんな感じに話に入ると……なぜかローゼルさんがジトッとした目で睨んできた。

「な、なんでしょう……」

「……中身は結局あれだったが……わたしは――いや、わたしが恋文をもらったのだぞ? どうにも普段と変わらないが、ロイドくんには何か思うところはないのか?」

「えぇ?」

「えぇ? ではない。わたしはロイドくんの事が好きで、ロイドくんも……今はエリルくんの方に寄り道してはいるが、わたしの事が好き――なのだろう……?」

「――!」

「寄り道言うんじゃないわよ!」

 毎度のエリルのツッコミを流し、手紙で口元を隠して目線をそらしながら、ローゼルさんはこう言った。


「わ、わたしがこういうのをもらって……ど、どう思ったのだ……?」


 クールなローゼルさんの可愛い仕草というかなんというか、そんな威力絶大のそれを前にオレは何度か口をパクパクさせ――い、いや、可愛さにどうこうなっている場合じゃない。この質問はオレとローゼルさん――というかみんなとの関係の話だ。

 ちゃんと選んだはずなのに、諦めない攻撃にみんなへの感情が優柔不断に育ってしまったオレのダメさの結果の話。今更でも、だけど「それじゃあまぁいいか」とは……な、なりそうなオレがまたアレだけど、ここは――少なくとも今の正直な気持ちを答えたい。


「えっと……そ、その……正直に言いますと……」

「う、うむ。ロイドくんは嘘が下手くそだからな。その方がいいぞ。」


 明後日の方を見ながらチラチラとオレを見るローゼルさん。その視線からは期待のようなモノが感じられて……ああ、きっとオレは今からローゼルさんを傷つけてしまうのだろう。でもやっぱり……


「……は、半分半分です……」

「は、半分……? な、何がどう半分なのだ……?」

「ひ、一つは……ロ、ローゼルさんにその手紙がキッカケとなって……オ、オレじゃない、も、もっと良い人との出会いがあるかもっていう期待……です……」

「――!」

 ローゼルさんの表情が……少し悲しく、少し怒ったモノになる。いや、ローゼルさんだけじゃない……エリル以外のみんなの顔にも心に刺さる表情が混ざる……

「…………ひどいじゃないか……」

「……」

「わ、わたしの想いを知って……か、感じた上でまだ……そ、そんな風にわたしを……」

 痛い。心がきしむ。でも――

「オレは……一人だけの相手を……もう選んでいて……だから……」

「…………」

 ああ……昔はこういうのはダメな大人なんだろうと思っていたフィリウスの女好きなところが、それでも誰かを泣かせているところを見たことのない師匠をすごいとおも――

「……じゃあ、残りの半分はなんだ。」

 涙を蓄えた眼で一層オレを睨むローゼルさんの問いかけに一瞬呼吸が止まる。残りの半分……こ、こっちも正直に言わないと……で、でもさすがにひどすぎる……しかし……あぁぁあ……

「残りは……?」

「――っ……た、たった今ああ言った直後で……じ、自分でも滅茶苦茶でひどいというのはわかっているのですが……そ、その手紙の相手が……ちゃんとした人なのかどうかを確かめたいというか……」

「ちゃんと……というのはつまりなんなのだ……」

「――! えぇっと、その、ロロ、ローゼルさんをし、幸せにできるかどうかと言いますか……」

「!」

 ローゼルさんの怒った顔にハッとした表情が走る。

「ほ、ほう……まるで父親のようだな……」

「い、いや……親とは違うというか……も、もしも相手がダメな人だったら……」

「たら?」

 ああああああぁああ恥ずかしい! 今から言おうとしている事が恥ずかしい上にさっきと言っている事が違いすぎて、これじゃあただのクズ野郎だぞ!

「ややや、やっぱり……オ、オレが、ななな、なんとか……オレがしなければというか……オレが――」

 心臓が破裂するかと思うくらいの恥ずかしさの中、冷静に考えれば告白の一つ上の段階の言葉のようなそれが口から出て来た。


「――オレが幸せにしなければと……」


 言ったオレも言われたローゼルさんも聞いていたみんなも一瞬で真っ赤に――

「あああぁぁぁああごごご、ごめんなさいごめんなさい! ちょちょ、ちょっと何かが違ったような気がするので今のを忘れてテイクツーをお願いしま――」

 恥ずかしさに大わらわのオレだったが、すっと近づいたローゼルさんによってオレの口は……ローゼルさんの唇に閉ざされた。

「んん!?」

 ジタバタするオレをよそに、ローゼルさんは深い口づけを――体感では一時間くらいされた気もするのだが実際には一分ほどした後、オレを抱き寄せて耳元で囁いた。

「――まったく、ロイドくんはこれだから……」

「ひゃ、ひゃひ!?」

「谷底に突き落としてきたと思ったら、直後雲の上まで引き上げるのだからなぁ……ずるいぞ、この女ったらしめ……はむ。」

「びゃああ! 耳をかじらないでくらさい!!」

「こほはふ。」

「あびゃああっ!?」

「――!! このバカ、離れなさいよっ!」

 エリルがうしろから引っ張るが、過去最強クラスのホールドでくっつくローゼルさんは離れず、みんながいっせーのでひっぺがすまでの数十秒間、オレはローゼルさんにあれやこれやと頭の中をぐるぐるにされた。

「はぁ……」

 ついさっきオレが泣かせそうになった女の子は、今や至福の表情でオレのベッドの上にぺたりと座っていた。

「以前のウェディングドレスの勘違いの時とは段違い……ふふふ……いい言葉だな……幸せにするか……」

「優等生ちゃんが完全にとろけてるねー。ほんと、ロイドってそういう事をいいタイミングでポロッと口にするんだからー。前半はかなりひどいこと言ってたくせにねー。」

「ひどいも何も当然じゃない。ロイドはあたしを――え、選んでるんだから。あ、あんたたちの諦めが悪いせいじゃないの。」

「唇奪って下着のぞいてお尻に触ったりしておいてー?」

「全部あんたが自分で仕掛けたことじゃない!」

「で、でもまだわからない、から……ロイドくんの運命の相手は……そ、卒業までは……」

「そうだよ! だいたい前半の部分の方をちゃんとわかってるの、ローゼルちゃん! ロイくんがこの人ならオッケーって思ったらそれで終わりなんだから! ロイくん、適当な男にオッケーって言っちゃっていいよ!」

「ふ、ふふふ……きみこそわかってないなリリーくん……つまり、誰が来ようともわたしが断り続けるのならば……ロイドくんはわたしの――ふふふふふ。」

「いや! その! だだ、だからちょっと言い方を間違えたと言いますか!」

「ふふふ、男に二言無しだぞ、ロイドくん……」

「しょしょ、しょれは――」

 心臓をバクバクさせながらあたふたしていると、エリルにガシッと腕をつかまれて――

「そういうのを言ったりやったりするのはいつも他の女からよね……あんた。」

「はひっ!?」

 身長的に傍まで寄られるとそうなるのだが、上目遣いでエリルが――可愛いムスり顔でぼそっと言う。

「…………あたしは……?」

「ひゃばっ!?!?」

「ロイくん、ボク! ボクを幸せにできるのはロイくんだけなんだよ!」

「あ、あたし……も、い、言って欲しいなぁ……って……」

「いよいよ女ったらしっていうか落としにきてるっていうか、ひどい男だよねー。あたしも幸せになりたいなー。」

 熱のこもった視線が突き刺さる。さっき気づいたら三年生になってそうと思ったが、このまま行くと気づけばフィリウスみたいな――いや、下手をすればそれ以上のアレになってそうだ……あぁあぁああ……

「ふふふ、これは明日からのお泊りデートが楽しみだな。」

「えぇっ!?!?」

「おやおやロイドくん、まさか忘れていたのか? 今週の授業は今日で終わり、明日から週末だぞ。」


 ランク戦の時、みんなから……ここ、告白されたりしたと同時にデートの話になり、リリーちゃんによってそこにお泊りが追加され、あれやこれやといつの間にかみんなとする事になってしまった……お泊りデートなる魅惑的かつ恐ろしいイベント。デルフさんのアドバイスに従い、誘惑に負けない鋼の精神を鍛える場と考えれば乗り切れるかと思ったが、今のオレにはハードルの高すぎる試練のような気がしてきている。

 特にくじ引きによってトップバッターとなったローゼルさんは女神と称されるほどの美貌とナイスバディの持ち主。加えて恋愛マスターの力とオレの吸血鬼性のあれこれによって発生しているラッキースケベなる運命のいたずらモード。乗り越えられる気がしない。


「い、色々あって意識の外にあったと言いますか――あ、明日!? どどど、どうすれば――というかオレ、特に何も……その、ど、どこ行くとか考えてなくて……」

「心配無用だ、デートプランは考えてある。それはそれは素敵な……いや、幸せな週末となるだろう……ふふふ。」

 とろける笑顔のローゼルさん……ああ、どうしよう……

「ロイくんてば、エッチなことはしちゃいけないんだからね!」

「き、昨日あんなことしてたリ、リリーちゃんが言うと……で、でも、ロ、ロイドくん……あ、あんまりハ、ハレンチなのは……ダメだよ……?」

「…………エロロイド……」

「ロイドは押しに弱いからねー。いっそ優等生ちゃんをぐるぐる巻きにして動けなくしておけばー?」

「ぐるぐる巻きにする途中でラッキースケベが働きそうだよ……」

「ぬ、ロイドくんにはそういう趣味が……」

「誤解です!」

「あっとそうだ、ラッキースケベと言えばさ、あたしの部屋に行こうよー。今となっては優等生ちゃんの部屋につながる確率も下げたいとこだしねー。」

「ああ、そういえばそうだったな……しかし今は……ふふふ、ドアの選択肢がいくつ増えようと、全てのチャンスはわたしに巡るだろう……ふふふ。」




 ……!! 「あたしは?」なんて、リリーみたいな事言っちゃったわ……で、でもこれはロイドのせいよ、ロイドの……ホントにこいつは……

「ここがあたしの部屋だよー。」

 ローゼルのトロケニヤケ顔がおさまらないまま、あたしたちはアンジュの部屋にやってきた。

「ああ、この流れはあれだな? アンジュくんのルームメイトがロイドくんに惚れるなりなんなりするのだろう? ああいや、構わないとも。何故ならロイドくんはわたしの……ふふ、ふふふ。」

「……今のローゼルは使い物になんないわね……」

「アンジュ、ちゃんのルームメイトって……どんな人、だろう……」

「は! アンジュちゃん以上のやらしー子だったら大変! ロイくん、目をつぶっててね!」

「商人ちゃんに言われたくないけど、でも残念、今日は会えないよー。ていうか当分はかなー。」

「はぁ?」

 よくわからないことを言いながら部屋のドアを開け、アンジュはあたしたちを中に入れた。部屋の間取り――っていうか家具の配置はあたしとロイドの部屋と同じの、左右でそれぞれのスペースを分けたタイプ。あたしたちは……その、男女っていうのもあるからそうしてるけど、小耳にはさんだ感じだとローゼルたちみたいに二人のベッドを片側に寄せる配置が一般的らしいわね。

「――ってなによあれ。」

 アンジュのスペースがどんな感じなのかじっくり見る前に視界に飛び込んできたそれにあたしは驚いた。

「ルームメイトの私物だよー。」

 アンジュのルームメイトのスペースには備え付けの家具以外ほとんど何もないんだけど、唯一ベッドの上に……大きなクマのぬいぐるみが置いてあった。

「ほとんどいないから、これを自分だと思ってーって言って置いていったんだよねー。」

「ほとんどいない? どういうことよ。」

「三年生なんだけどねー、なんかすごい優秀らしくって、半分現役の騎士として任務を受けてるんだってさー。」

「えぇ、すごいな。」

 デカいクマの手を持って握手的な事をしてるロイドがいつものすっとぼけ顔で驚く。

「あたしが入学した最初の二週間だけここにいて色々教えてくれて、その後出かけたっきり一度も帰って来てないんだよねー。」

「そ、それってちゃんと……卒業、で、できるのかな……授業とか、で、出てないんだよね……」

「特例とかじゃないのー? 騎士を育てる学校の生徒が騎士として活躍する事が悪いことなわけないしねー。」

「ふぅむ、会長のような飛びぬけた実力の持ち主なのだろうが、それでこんなクマのぬいぐるみだからな……わたしのような完璧美少女でティアナのようにかわいいモノが好き――という感じだろうか。」

「優等生ちゃんのこういうところ見たら、「お姉様」って呼びたくなくなるだろうねー。一応言っとくけど、彼女はローゼルちゃんとは真逆の容姿だよー。」

「わたしと逆?」

「二つ上の先輩なんだけど中等か、下手したら初等の子供に見えるくらいちっちゃくてかわいくていい子なんだよー。」

「そ、そう聞くと、このぬいぐるみも……な、納得だね……」

「でも……そうか、じゃあアンジュはずっと一人だったのか……」

「あれー? ロイド、あたしの部屋に来てくれる気になったのー?」

「へ!? や、そうじゃなくて……その、最初の二週間に色々教えてくれたって言ったけど、それでも一年生で最初っから一人っていうのは……」

 チラッとあたしを見るロイド……

「まー、でもあえてだろうけどねー。彼女がルームメイトなのはさー。」

「えぇ?」

「忘れてるかもしれないけど、あたしは一応他国の貴族だからねー。」

「えぇっと……?」

「ああ、つまりエリルくんの時と同じだな。下手なルームメイトを選んで問題が起きるよりは、一人にしておいた方が心配の種は少ない。それに相方になる方も気を使ったりなんなりで苦労してしまいそうだからな。」

「それでほとんどここにいない人がルームメイトに……なんだか寂しい気もするけど、こういうのが外交……? っていうのかな……」

「まー、そういうしばりをことごとく無視していく人を師匠に持つロイドにはわかりづらいかもねー。ま、ともかくそういうわけだからさー。あたしが着替えてたりお風呂上りだったりしてもロイドはドンドン来て大丈夫だからねー。」

「いやいや!」

「あ、そうだ。商人ちゃんが通ったドアが対象になるってことは、今商人ちゃんにこの部屋のお風呂場へのドアを通ってもらえばいーってことだねー。ほらほら、商人ちゃん通ってー。」

「え、やだよ。ロイくんが来るべきはボクのとこのお風呂場だけなんだから。」

「そーんなこと言わずにさー。」

「ぬ、そうか、その手があったな。よしリリーくん、次はわたしたちの部屋の風呂場にも来るといい。」

「やだってば。」

「ななな、なんでみんなしてそんなにお、お風呂に突撃されたいんですか!」

「突撃っていうか、その先を期待してる感じだよねー。」

「その先!?!?」

 全員のニンマリした顔に真っ赤になるエロロイド……これはしばらく、ロイドがドアを通る時にはいっしょにいた方が良さそうね……

 ……っていうかこのドア騒動、あたしだけ大して――って、べべ、別に着替えを見られたいわけじゃない――わよ!!




「案の定、プレウロメさんは捕まりましたね。」

 いくつもの画面が光る暗い部屋という目の悪くなりそうな場所。剣と魔法の国であるフェルブランド王国では珍しいが、金属の国であるガルドでは広く普及しているコンピューターの前、奇怪な帽子をかぶった青年がキーボードを叩きながらそう言った。

「ま、おかげでいいデータがとれたんですけどね。」

「それを聞きに来たのである。何がわかった?」

「色々と。」

 画面が眩しいのか、それとも別の理由か、傍に立つ目を閉じたままの男の問いかけに、帽子の青年はタンッとキーを叩いて写真やグラフを画面に表示させた。

「元々下級騎士くらいの実力だったプレウロメさんが、負けはしましたけど中級騎士と勝負できました。これだけ見るとツァラトゥストラの効果は所有者の強さを一段階上げるって感じに見えますけど、そうではなさそうですね。」

「ツァラトゥストラの種類で変わると?」

「それもあるでしょうけど一番は所有者の元々の実力ですね。これ見てください。あの目玉が持っていたエネルギーとプレウロメさんが実際に出した――いや、出せた力。これには随分差があるんですよ。」

「ふむ、数値を見るとプレウロメはだいたい二割程度しか力を引き出せていなかったようであるな。」

「身体の一部とするモノですからね。例えばの話、普段運動なんかしないモヤシと日々心身を鍛えているマッチョが同じツァラトゥストラを使った時に得られる力が同じとは思えません。」

「なるほど。誰でも強くなれるアイテムであることは確かだが、それなりの実力がなければ最大限の力は引き出せぬと。」

「そうなりますね。でもここで注目すべきはさっきクラドさんが言った二割程度ってところ。言い換えれば、その程度の出力でも一段階上の戦闘力が手に入るって事ですからね。元々実力があってツァラトゥストラの力をより引き出せるなら、上級騎士クラスに手が届く人もいるでしょうね。」

「お前もか、ゾステロ。」

「ふふふ、まぁぼくの実力は中級くらいですから……推測通りであればそれくらいには。クラドさんなんか下手すれば十二騎士クラスでは?」

「そう単純な倍々ではないだろうがな。だがあの方であれば……」

「ですね……あーわくわくしてきましたよ。ぼくらもそろそろ出番ですかね?」

「ああ。単独の先走りとは言え、初戦敗北のままではしまらない。オズマンドとしての出発は大きい勝ち星で飾りたいところである。現在城の外に出ている国王軍の部隊でインパクトのある奴はいるか?」

「あー……いつものように魔法生物の討伐でいくつか部隊が――っと、これはちょっとパンチがあり過ぎですかね。」

「んん?」

「分隊規模で構成は上級一人と残りが中級。Aランクの魔法生物を相手にして帰ってくるところの部隊ですね。」

「? どこにパンチが?」

「部隊を指揮している上級騎士は……アクロライト・アルジェントです。」

「ほう、『光帝』か。十二騎士を除けば国内最強の騎士……ふむ……」

「いきなり過ぎますかね。」

「……いや、あちらはまだツァラトゥストラへの対応が整っていない。プレウロメの一戦だけでは何もわかるまいからな。それに上級が『光帝』のみという状況が良い。これは好機である。」

「おお、ならぜひともぼくに――と言いたいところですけど相手が相手ですからね。こっちのメンバーは慎重に選ばないといけませんね。」

「ああ。メンバーを集めておいてくれ。自分はあの方のところへ。」

「了解です。」

 暗い部屋を後にし、目を閉じたままの男は閉じたままで廊下を歩いて行った。まるでそれでも周りが見えているかのように。




「バーナード、頼みがある。」

「うほっふ!」

 どこかの国のどこかの森の中、既に半分ほどがしゃぶりつくされた骨となっている巨大な何かの横で豪快に肉を焼いていた太った男は、突如背後に現れた老人に妙な声をあげた。

「びっくりしたでさぁ。いつの間に位置魔法を?」

「使ってない。ワレの移動に音が無いだけだ。」

「それにしたってっすけど……もう用事は済んだんっすか?」

「ああ、思わぬ収穫が……というかバーナード、ワレがここを離れた昨日から座っている位置が変わっていないな。」

「この辺の生き物はこの花の匂いが好きなんでさぁ。ちょっといじって通常の数倍の匂いにしたら肉が次から次に来るんでさぁ。それで久しぶりにバーベキューでさぁ。」

 太った男は、遠目には丸太か何かに座っているように見えるのだが、実際にはあり得ないほどに巨大化した植物のくきに座っており、その先に咲いている巨大な花からは甘い匂いが香っている。

 加えて、太った男の周りには完全に骨のみとなった何かが十以上も転がっていた。

「恋愛マスターはちょこまか動くでさぁ、腹ごしらえしておかないともたないでさぁ。」

「ワレの数週間分くらいを食べておいてただの腹ごしらえとは相変わらずだな。しかし珍しいな、骨を残すとは。」

「あとで揚げるんでさぁ。」

「なるほどな。やはりお前以上の者はいないだろう。」

「なにがっすか?」

「ワレの娘に生き物の食べ方を教えてやって欲しい。」

 老人がそう言うと、その後ろから何も着ていない少女がひょっこりと顔を出した。普通ならその異常にあれこれと質問をするところだが、太った男はゲテモノ料理でも見たかのような顔になった。

「……ケバルライには悪いっすが……なんともまずそうでさぁ。色々混ぜすぎでさぁ。」

「お前に食べられる事は想定していないからな。」

「そうっすか。で、食べ方ってどういう事でさぁ? お箸の使い方でも教えるでさぁ?」

「一般的な食事の方法はワレが教える。頼みたいのはそういう、野生の生き物をそのまま食べる際の――言うなればきれいな食べ方だ。効率の良い摂取の為、場合によっては痕跡を残さない為、身につけさせておきたい。」

「何を食べるんでさぁ?」

「なんでもだ。ちなみに食べたモノによって成長する箇所が異なっていてな。一先ずは会話の為の知能が欲しい。」

「頭のいい生き物って言ったらSランクの魔法生物か人間になるでさぁ。」

「とりあえずはその辺の食べ方を教えてやって欲しい。済んだら今お前が食べているようなモノの食べ方を――」

「ケバルライ、あっしは悪党でさぁ。タダってわけにはいかないでさぁ。」

「わかっている。ザビクの時もそうだったからな。代金としてワレの作品をくれてやる。」

「おお! そこの娘っ子はともかく、あの辺のは一度食べてみたかったんでさぁ。できれば首が三つあった犬がいいでさぁ。」

「成立だな。もう少しで娘用の服ができあがるから、そうしたらよろしく頼む。」

「ま、姉御の仕事の息抜きがてらでさぁ。ちなみにその娘っ子、名前はなんでさぁ?」

「コルンだ。」

「コルン? なんだか普通に女の子っぽい名前でビックリでさぁ。てっきりなんちゃらニウムみたいな化学式っぽい名前かと思ったでさぁ。」

「ネーミングセンスの無さはムリフェンで足りている。それに妙な名前にしては街中で呼べないだろう。折角の人型なのだから、そういう場所でも動けるようにしたい。」

「そうっすか。とりあえずそのコルンがよだれダラダラでさぁ。」

「ん? お前の肉を見て腹を鳴らしているな。やはり食欲は知性の前に来るのだな。」

「ああ、わかるでさぁ。」

 首が肉に埋まっているせいで頷いているのか震えているのかよくわからない太った男がそう言うと、そのハムのような右腕が鋭い刃となり、老人と少女に肉を切り分けた。

「焦げと肉汁で楽しむでさぁ。ところでケバルライ。」

「ん?」

「あっしはあの国の出身じゃないからよく知らないんすが……アルハグーエが姉御のツァラトゥストラを渡したっていう連中、どんな奴らなんでさぁ。」

「普通のテロ集団だが……お前が興味を持つような要素はないはずだぞ?」

「いやぁ、ありありなんでさぁ。ツァラトゥストラをそのまま食べたら死ぬってアルハグーエは言ってたんすが……それを取り込んだ人間なら大丈夫じゃないかと思うんでさぁ。」

 今まさに巨大な肉を頬張っているというのに、太った男は一層のよだれを垂らし始め、垂れ下がった顔の肉に隠れた眼がその奥でギラリと光った。

「何かしらの理由があってツァラトゥストラを渡したのだろうから手は出さない方が良いと思うが……まぁ一人二人のつまみ食いならいいんじゃないか?」

「っすね……あぁ、楽しみでさぁ……」

 巨大な饅頭のような身体の、見方によってはコミカルな外見の太った男が凶悪な笑みを見せ、あふれるよだれをそのままに肉にかぶりつく。その時口の中に見えた歯は人間のそれとは言い難く、それを見た老人はやれやれと呟いた。


「久しぶりに、『滅国のドラグーン』が暴れるか?」

ロイドくんたちがどれほど進展するのか戦々恐々なのですが、一方フィリウスとセルヴィアの進展にはわくわくしています。


しかしこの物語、男は押される一方ですね。プリオルは別として、押しの強い男を登場させたいところです。

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