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騎士物語  作者: RANPO
第六章 ~交流祭~
44/113

第四十二話 祭の終わり

長かった第六章、交流祭編の終わりです。

最後に違う意味での「戦い」があります。


「流石の少年も興奮を抑えられんようだのぅ。猛る狼が牙を見せておる。しかし少年はその星からして常とは逆しま、どちらかと言えば羊の方であるからのぅ。その運命を妾の失態にてひっくり返しては少年の愛の形が歪んでしまうというもの。ここは一つ、妾が静めるとしよう。」

 感触、匂い、そして声。頭の中をバチバチと白く染めていく刺激の強襲。オレを殴り飛ばしたエリルの……真っ赤な顔で艶のある息をはきながらスカートを抑えて座り込んだエリルの、その表情を見た瞬間に殴られた痛みはどこかへ飛んで行った。

 かつて無いほどに希薄になった理性はわきあがる渇きを止められず、ただただ目の前のエリルをどうにかしたいと一歩前に出たオレの背中に恋愛マスターが飛びついた。

「落ち着くのだ少年。」

 急激に上がった熱がすーっと引いていく。頭がクリアになり、オレは――

「!! エ、エリルごめん!」

 と、未だ視界に入ると何かがこみ上げる表情のエリルに土下座をした――のだが……

「おおぅ。」

 背中にくっついていた恋愛マスターが土下座の勢いでぐるりと回転し、ぴょこんとオレの頭の上に座る姿勢になった。

「やや、少年よ。確かに少年はどの女性相手にもこういう感じの立ち位置になるであろうが、それを実演せんでも良いのだぞ?」

「えぇ!?」

 聞き捨てならないというかやっぱりというか、割と大事な一言が含まれるセリフに顔を上げたのだが、結果オレは……いや、きっと実年齢は相当なモノでオレたちの尺度で考えてはいけない存在だとは思うのだが――オレは、小さな女の子の脚の間から顔を出すという状態に……

「ロイドくん……ついに幼女にまで……」

「ちち、違いますよ!」

「おおー、これは久方ぶりの体験よのぅ。」

 慌てて立ち上がり、恋愛マスターを肩車する状態になったオレは……い、いかん、頭の中がてんてこ舞いだ……

「えぇっと――い、いったん座ります! ちょっと落ち着かせてください!」

 そうして数分後、オレは恋愛マスターと並んでベンチに座っていた。周りにはみんなで……ま、まだちょっとエリルの方は見れない……あぁ、怒ってるよなぁ……

「で、この幼女は誰なのだ?」

「えぇっと――」

「妾こそが全能の恋愛師、恋愛マスターよ。」

 えっへんという顔になる恋愛マスターに目を丸くしたローゼルさんが見てきたので、オレはこくりと頷いた。

「最初に会った時は大人の女性だったんだけど、この前からこんな感じで……」

「以前も言うたが、いつもの姿で、しかも多感な年頃の者ばかりのこの場所に現れるのはいささかのぅ。とりあえず初めましてだのぅ。」

 相変わらず、小さい女の子の姿だというのに口調や雰囲気が妙に色っぽい恋愛マスター。運命をいじって――たぶんここに並ぶみんなと出会わせてくれた人であり、別の言い方をすれば……明らかにキャパオーバーなれ、恋愛の渦にオレを放り込んだ人だ……

 そう……全てはオレの願いを叶えるため――家族を与えるために。

「そ、そうか、きみ――いや貴女が恋愛マスターか……こんなところで突然会えるとは……」

「ねぇねぇボクだよね!? ロイくんの運命の相手はボクだよね!?」

「残念ながら答えられんのぅ。運命の赤い糸はそうであると言葉にした途端に切れる事もあるのでのぅ。」

 色々と聞きたい事は山積みだがとりあえず……

「と、というかどうやってここに……」

「これくらいの結界は王であれば容易い。というか少年、妾の話は一先ず置いておくが良い。妾がここに来たのは、早急に説明しなければならぬ事があるからなのだ。言いにくい事ではあるが、妾の失態故の影響をのぅ。」

「え……それはその、ミラちゃんたちの事を忘れてしまったっていう……」

「それに関連するもう一つの問題よ。ついさっき、少年がここに並ぶ乙女らに行った破廉恥の原因と言えば良いかのぅ。」

「えぇっ!?!?」

「原因だと!? あ、あれはロイドくんがふらふらなせいで――」

「まさか。転んだだけであのようになるわけなかろう? 全ては運命のなせる技……まぁ長い話になる故……うむ、そこの草の上で話そうか。男と子供が座って乙女が立ったままではのぅ?」

 そそそっとベンチの裏にある公園――というわけではないけどちょっとした原っぱみたいになっているところでオレたちは円を描いて座――

「――!!」

「……なによ……」

「い、いや……」

 顔を見れないエリルが隣に――! あぁ、またドキドキしてきたぞ……

 と、というかエリルは怒っていないのだろうか……?

「おほんおほん。では話をはじめよう。」

 こ、こうして……えぇっと、恋愛マスターの――これまた長ーい話が始まった。


「誰かの願いを叶える時、妾は妾の力を使ってその者の運命に干渉するわけだが、必要となる力の量は願いの内容は勿論、その者によっても変化する。多くの異性に好意を寄せられたいという願いに対し、常にある程度の異性が周囲にいる者と全くいない者では必要な力に差が生じるということは想像できるであろぅ? つまり、願いを叶える為に妾が消費しなければならない力の量は、叶えてみん事にはわからぬのだ。かつて少年の願いを叶えた時、妾は……そうだのぅ、ざっくり「五」の力を使った。少年の願いが珍しいモノだった事もあり、この少年のこの願いを叶えるにはこれくらいの力が必要なのかと――当時の妾はそれで納得したのだが、これが間違いだったのだ。前回話したように、その時の妾は異種を恋愛の対象の外にしておった故、少年に用いた力は人間に対するモノ。しかし少年の身体には吸血鬼――魔人族という異種の要素が含まれており、それは対人間用の力をはねのけてしまう。結果、そうしてはねのけられた分を不足と捉えた当時の妾は、仮に少年が純粋な人間であったなら過剰とも言える量の力を使ってしまったのだ。そうして今、先の戦闘にて異種の力を出し切った少年の異種の要素が希薄になり、普段ならばはねのけている分の力をそのまま受けてしまっている――といのが今の少年だ。」


 ……ダメだ、この前以上にわからない……

「ロイドくんにかかっている力というのはつまり運命の相手……も含めてロイドくんと親しい仲になり得る異性を引き寄せる力――でいいのか?」

「正しくは運命の相手に出会う力であり、その他は副作用として考えてもらいたいのぅ。まぁ、願いの性質上、副作用であっても深い関係にはならざるを得ないだろうがのぅ。」

「……正式にスーパー浮気男となったな、ロイドくん。」

「へ、変なネーミングやめてください……」

「ロイドくんにかかっているその力が普段よりも過剰に働いている状態が今として……それでどうして――あ、あんなスケベロイドくんになるのだ……?」

「どうしてとな? それが最後の到達点とは言わぬが、恋愛の向かう先に性的接触は欠かせぬだろう?」

 空気がかたまった。あっさりと言った恋愛マスターだったが、彼女に比べたらまだまだ子供なオレたちには凄まじい威力の言葉で……う、うわ、そう言われるとさっきオレがしたことは……ああああああ……

「何者かを好きになり、恋焦がれ、想いが通って結ばれた先、互いの愛を確かめる為に唇や肌を重ねる事は当然の欲求。恋愛という言葉には激しい情欲も含まれている事を忘れてはいかんのぅ。まぁ、清らかなる事を是とする恋愛もあるが、少なくとも少年や乙女らの中にはきちんとそういう欲――おっと、この辺にしておくかのぅ。先代同様、妾もこの辺の議論には熱くなってしまうが、少年らには刺激が強すぎたのぅ。」

 さっきの……ローゼルさん的にいうところのスケベロイドもあって、オレたちは全員が真っ赤になっていた。

「つまりだのぅ。少年にかかっている力は、普段であれば出会いのキッカケに導く、もしくは引き寄せる程度なのだ。故に出会った時点で力は影響しなくなり、その先どう進展していくかは少年らしだいよ。だが過剰となっている今は出会ったその先まで導こうと力が働くのだ。既に知り合いであるなら更に親密になるようにと、例えば妙に二人きりになる時間が増えたりする。既に大抵一緒にいる友達以上恋人未満であるなら、互いの意識が恋愛に向くような出来事が周囲に起こる。そして少年らのように既に……まぁ口にせんでもよいだろう、のぅ? そういうことだ。」

 意味ありげにニヤリと笑う恋愛マスターに再び熱くなるオレたち……ああああああ……

「え、えっとさー……つまりさー……あたしたち相手だと今のロイドは――ラッキースケベ発生装置になってるってことー?」

 アンジュがかみ砕いた言い方に変えてくれ――ってなんじゃそりゃ!

「ふ、ふむ、そういうことか、そうかそうか。歩く度に胸に飛び込んでくるわけか。」

「ロ、ロイドくん……えっち……」

「ロイくんが……事あるごとにボクに……やん、そんなぁん……ボク困っちゃうなぁ……」

「……それ、ちゃんと元に戻るんでしょうね……」

「! そ、そうだ、それが重要だ! どうなんでしょうか恋愛マスター!」

「戻るとはすなわち、少年の異種の要素である吸血鬼性がいつもの程度まで戻るかどうかにかかっておるから微妙に妾の専門ではないのだが……まぁ、力を使いすぎたからといってその右眼が溶けてなくなるわけもなし、戻るであろうよ。どれくらいの時間を要するかはわからぬが。」

「あ、ああそうですよね。この場合はミラちゃんに聞くべきか……でも戻りそうでよかった……」

「んん? つまりこの後は回復していくだけだから、今のロイドくんが一番スケベという事か。さっきはいきなりであれだったが、これは今のうちに……」

「ロ、ローゼルさん?」

「いやそれよりも……密かにロイドくんに恋している者の前に今のロイドくんが行けば力によって何かが起きるわけだから、この状況を利用すれば隠れた敵を見つける事もできるのだな……よしロイドくん。とりあえずプロキオンとカペラの会長の前で転んでくるのだ。」

「あ、あの二人は大丈夫ですってば……というか人を探知機みたいに使わないでください……」

「しかしこんな機会――ああっ!!」

「えぇっ!? な、なんですか!?」

「いや……その……」

 突如叫んだローゼルさんは段々と声が小さくなっていき……

「ばば、場合によってはロイドくんがラッキースケベ状態のまま……わたしは今週末のお泊りデートに行く……のだなと……」

「にゃっ!?!?」

「ほう、お泊りとな。それは――む、そろそろお暇せねばならぬか。ではの。」

「えぇ!?」

 と、恋愛マスターの方に顔を向けるとその場にはもういなくて、一瞬の後、その場所にメイド服の人――ゴーゴンさんが現れた。

「――逃げられましたか。しかしこの移動、魔法ではありませんね……一体何者……」

「ゴ、ゴーゴンさん……?」

「ロイド様、お怪我はありませんか?」

「あ、はい大丈夫ですけど……もしかして恋愛マスターを追いかけて……?」

「恋愛マスター!?」

 なぜかゴーゴンさんは、会ってから初めて見る驚きと焦りを見せた。

「まさかこんなところでニアミスを……女王様になんと言えば……」

「女王って……ミラちゃんが? 恋愛マスターを探しているんですか?」

「女王様もそうですが……私たち自身――全レギオンのメンバーが探しています。」

「えぇ!? な、なんでまた……」

 オレの質問に対し、ゴーゴンさんは割と怖い顔で遠くを眺めながら答えた。

「女王様がロイド様を忘れてしまった原因であり、私たちがロイド様への感謝を失ってしまった原因だからです。恋愛マスターの捜索と捕獲は勅命であると同時に、全レギオンメンバーの上位優先目標なのです。」

 た、確かにその辺の記憶のもろもろは恋愛マスターの力が関係しているけど……そ、そんな国をあげて探していたなんて……

「しかし……そうですか、何の気配かわからないモノがロイド様に近づきましたので急行しましたが、あれが恋愛マスターの……次は逃しません。それでは。」

 そう言い残し、ゴーゴンさんは再び消えた。

「……魔人族総出……ミラならやりかねないわね。ていうか、色々とあたしたちを超えた力を持ってる魔人族がそうまでしてるのに見つけられてないってところがすごいのかもしれないわね。」

「そう考えるとそうだな……ああそうだ、ちょうどフィリウスもいるし、王っていうのについて聞いて――」

 普通に会話してしまったエリルと目が合う。あぁ、フラッシュバックする……

「な、なに赤くなってんのよバカ!」

「だだだ、だって……その……お、怒ってない――ですか?」

「……な、なによ……怒られたいわけ……?」

「そ、そういうわけでは……」

「あ、あんなの――に、似たようなことあたしたちにしょっちゅうしてるじゃないエロロイド!」

「あんなのはしたことないですよ!?」

「う、うっさいわね! と、とにかくああいうのは……違うのよ……」

「な、何が……」

 ムスッとした可愛い顔で、エリルはそっぽを向いた。

「……許す許さないの話じゃない……のよ……」

「そそ、それはどういう……」

「だ、だから――」

 エリルが何かを言おうとした瞬間、原っぱで滑ったのかなんなのか、今度はエリルがオレの方に倒れてきた。


「うびゃ!?」


 変な声が出た。背中に広がる痛みはともかくとして、変な場所にドキッとする感触が来たのだ。

「ん――ん!?」

「ぎゃあっ!? エ、エリル!?!?」

 オレの上に転がるエリルは……まるで吸血鬼のようにオレの首にその唇を押し付けていて、加えてエリルの右手がオレのシャツを押し上げている。まるでアンジュみたいなへそ出しスタイルになっていることはともかく、その押し上げたエリルの右手は現在、オレのシャツの内側に滑り込んでいて……つ、つまりはオレの素肌、胸のあたりに触れていた。

「――!!」

 唇を離し、手を引き抜いたエリルは起き上がって……オレの上にぺたりと座り込んだ状態でオレを見下ろした。

「と、とりあえずさっきみたいになんなくて良かったけど……あの、エリル……?」

「あたし……あんたの……あんたって……」

「??」

 急激に顔が赤くなっていくエリル……え、オレどこか触っちゃったのか……!?

「ほほー、逆の場合もあるわけか。」

 ローゼルさんのその言葉でシュバッと横にずれたエリル。オレは何が何やらという感じに上体を起こした。

「へぇー、ふーん? ねぇねぇエリルちゃん、ロイくんの身体はどうだった?」

「!! し、知らないわよ!」

「あんなふーに手なんて入れちゃってー。お姫様ってばやーらしー。」

「やらし……え、オレなんかした……?」

「ロイドくん、そうではないぞ。」

「えぇ?」

「まぁざっくり言うと、ロイドくんがわたしたちの裸を見てドキドキするのと同じように、わたしたちもロイドくんの裸を見たらドキドキするのさ。」




そこそこ筋肉はあると思ってたけど……触ってみると意外と……

て、ていうかなによこの変な感じ……手にまだ触れてるみたいな……ああ、ロイドがあたし――とか他ののを触った時に「感触が残ってるんです!」とか言ってしばらく赤いけど、あれってこんな感じなのね……

「手をにぎにぎしてやらしいぞエリルくん。」

「ばっ、違うわよ!」

「ロイくんとあんなにベッタリして! ロイくん、次ボク! っていうかボクだけロイくんに触られてない! エリルちゃんにやったのボクにも!」

「えぇっ!?!? あ、あんなの連続でやったら出血多量で死んじゃうよ!」

「じゃあちょっと休憩したらね!」

「連続でなければいいっていう話じゃないんですが!?」

「…………あんなのってなによ……」

「びょっ!? ち、違うぞエリル! 悪い意味じゃなくてその――」

「ほう? つまり「あんなに素晴らしいこと」という意味か、ロイドくん?」

「スバラッ!?!?」

 赤くなって固まるロイド。……このバカはああいう事をすると謝るけど……な、内心はう、嬉しかったり……し、してる――のかしら……

 ――! なな、何考えて……で、でも……


「芝生に座って何をしているのだ?」

「ピクニックにしちゃあ時間が遅いんじゃねーか?」


 変な考えが頭に浮かび始めたところで強化コンビがやって来た。車いすに座ってるカラードとそれを押すアレキサンダーっていう光景にも慣れたわね。

「実況が言ってた通り、さっきのバトルが区切りになったみてーだ。あっちこっちで腕輪の回収をしてるぜ。」

「ポイントを集計して閉会式にて結果発表を行うそうだ。一応今日も六時まで試合は可能だそうだが、ほとんとの生徒が三回戦い終わっているようだから、ぽっかりとヒマになってしまったな。」

「へー。あ、じゃあロイくん、ちょっとお店をまわろうよ。ボク、結局出店できなかったから情報収集したいんだ。」

「そ、それはいいね! うん、ゆっくりお店を見てまわろうか!」

 リリーのせいで変な空気になってたのをカラードたちが戻し、それを維持しようとしてるのが丸わかりのロイドが変なテンションでそう言った。

「と、その前にカラードにお願いがあるんだが!」

「ん? またヘルムが欲しいのか?」

「それよりも厄介なことになってるんだよ……」

 前に一回会ってるからか、強化コンビは恋愛マスターの話をすんなり聞いて……ロイドの現状をあっさり理解した。

そうしてとりあえず……ラッキースケベ発生装置になってるロイドはあたしたちからちょっと離れて、カラードの車いすを担当する形になった。そうしておけばさっきみたいな事にはならないと思ったらしい。まぁ、あたしたちから距離をとれば物理的にああいう事にはならない……はずだものね……

「しっかしラッキースケベたぁ漫画みてぇだな。カラード、ロイドに車いす任せて大丈夫か?」

「少し危ないかもしれないな。」

「えぇ!? いやいやさすがに二人に対しては何も起きないだろ!」

「む? あー、そうじゃないぞロイド。男同士のラッキースケベは流石の恋愛マスターも……いや、恋愛マスターと言うくらいだから可能かもしれないがそういう心配ではない。身の安全の話だ。」

「なんだそれ?」

 ……あたしたちと話す時とは違う、フィリウスさんと話す時に近い口調のロイド……

「例えばの話、彼女たちの……そうだな、スカートがめくれたとして、それをロイドが見る分には軽くほっぺをつねられるだけだろう。しかしそれをおれやアレクが見てしまったら、きっとおれたちは記憶がなくなるまでボコボコにされる。」

「え、ボコボコ?」

「ラッキースケベとしてロイドとくんずほぐれつは良しとしても、そういう光景をおれたちに見られる事は良しとしない……そうだろう?」

 いつものように裏表のない真っすぐな顔であたしたちの方を見るカラードに対して――

「無論だ。わたしの全てはロイドくんのモノであり、そしてロイドくんはわたしのモノなのだ。」

 さらっとそう答えたローゼル――ってまたこいつは!

「ボコボコ……そうか、ローゼルさんは物凄い硬度の氷で甲冑を凍らせて動きを鈍らせたりできそうだもんなぁ。」

「ロイドくん? わたしのセリフに対しては何もないのか?」

「いやーカラードの全力とみんなの戦いというのも観てみたいものですな。やや、あれはなんだろう、珍しい置物があるよリリーちゃん!」

「無理矢理話を流そうとしているな? まぁいいともさ。その分週末を楽しむと――お、本当に変な置物があるな。」

 それぞれの学校が建ってる地域から出店してきているお店には各地方の名産なんかが並んでて、中には試合そっちのけで買い物に三日間を費やす人もいるくらいに面白いものがたくさんある。

「で、でも……スピエルドルフの街並みを、み、見ちゃうと……あそこよりも珍しいっていうか……面白いお店は、ないよね……」

「売ってるものがそもそも人間用じゃないしねー。そーいえばロイド、吸血鬼の力を昨日と今日で使ったわけだけど、プロキオンの会長との試合で見せたのが全力全開なのー?」

「なんだアンジュくん、まるで「あれだけ?」とでも言いたげだな。充分とんでもない力だったろうに。」

「でもさー、あたしたちは女王様の戦うところを見たでしょー? あれに比べるとさー。」

「そりゃあまぁミラちゃんは純粋な吸血鬼だからね。ただオレのもあれが全力かって言うとたぶん違くて……血を飲み切った後も……なんていうか、試合の時のハイテンションで無理矢理追加を引き出せた気がするし……それに血を飲めば飲むほど、とも言われているしね。正直どこらへんが限界なのかわかんないよ。」

「でもロイくん、そうやって頑張ったから今そんなにふらふらなんでしょ? 魔法が使えなくなってるのは魔力を前借りしたからだろうけど、身体にもそれなりに疲労がたまってるからそうなってるんだろうし、あんまり無理したらダメだよ?」

「おお、リリーくんが真面目な事を……」

「どういう意味かな?」

 試合の後、ふらふらになってるロイドは……試合中に魔眼ユリオプスを使ってた影響で今は魔法が使えない。あれだけ大量の剣を生み出して強力な風を回したんだから、相当な前借りをしてるはず……

「実際あんた、どれくらい先の分を前借りしたのよ。ずいぶん派手に魔法使ってたけど。」

「それほど借りてないよ。吸血鬼――ノクターンモードになると魔法的な感覚が鋭くなるからいつもより上手く魔法が使えるんだ。だから派手に見えても普段よりは燃費がいいから……そうだなぁ、どんなに多くても一週間はないはずだ。」

「それでも結構長いじゃない。」

「ほう……つまりわたしとのデートの時、わたしが強引に持ち込めばロイドくんは抵抗できないと。」

「えぇ!?」

「デートとの前にあれがあるよねー。ほら、ご褒美がさー。」

「えぇ? いやぁ、でもオレ、マーガレットさんに勝ってないからなぁ……」

「負けてないからいーんじゃなーいー? もう一回あたしの裸エプロン見られるねー。」

「ひょっ!?」

「ご、ご褒美って言ったら……ポイント勝負も、あるよね……」

「そうだな。ロイドくん以外は全戦全勝だが……しかし三年生で生徒会長の『女帝』と引き分けたというのはポイントが高そうだし、あの時間使いも相当なモノだった。これは案外ロイドくんが上位に入るのではないか?」

「そ、そうですかね……」

 このポイント勝負、一番でないとロイドは……誰かからたぶんデート的なお願いをされるからドギマギしてるわね……

「はっは、ロイドは交流祭が終わってからの方がイベントが多そうだな。」

「イベントっつーと、うちの学校はあと何があんだ?」


「一年生なら次は校外実習って感じかなー。」


 そこそこの人数でぞろぞろ歩きながら話をしてたら、いつの間にかカラードの車いすの横に変な女が立ってた。ボリュームのある茶色混じりの金髪にぐるぐるメガネ。白衣を着てるくせにアクセサリーをチャラチャラさせた、博士なんだかギャルなんだかわかんない格好……確か生徒会の――

「えぇっと……プルメリアさん?」

「んー。」

 どっちともとれる曖昧な返事をしたそいつは、ぐるぐるメガネをかけてロイドに顔を近づけた。

「え、あの……」

「いー数値出してんねー。その内実験させてもらおーかなー。」

「はぁ……」

 お決まりのロイドに惚れた……的な雰囲気じゃないからいいけど、じゃあなんの用なのかしら。

「ああ、確か生徒会の会計の方だったか。確か『確率の魔女』、ペペロ・プルメリアさん……校外実習があるのですか?」

 ロイドの顔を覗くプルメリアを車いすから見上げたカラードを見下ろすペペロ。

「そーそー。この前侵攻があったから一足早く経験しちゃったかもだけど、一年生はそこで魔法生物の討伐を経験するの。その次は生徒会選挙で、最後にランク戦って感じ。」

「なるほど。ありがとうございます。」

「んー。」

 なにしに来たのか、それだけ話してペペロはどっか行った。デルフも結構変なやつだし、生徒会も大概ね……

「校外実習か。魔法生物討伐という事は実際の任務を体験するのだろうか。楽しみだな、アレク。」

「それはそうだが……今の会計、ロイドの何を見てたんだ?」

「『確率の魔女』というくらいだから、ロイドの何かの確率を見たんじゃないか?」

「えぇ、怖いなばああっ!?」

 いきなりバカみたいな声をあげるロイド。あたしたちの後ろを歩いてたロイドの背中に誰かが抱きついて――って早速ラッキースケベが!?

「ロイドくんすごいのねー、お姉ちゃんびっくりだわ。」

「――って、お姉ちゃん!?」

「はーい、お姉ちゃんですよー。」

 ロイドの後ろからひょっこり顔を出すお姉ちゃん。そういえば試合観てたのよね……

「素人の私にもわかるわ。ロイドくんはなんだかすごいってねー。うんうん、フェルブランドの未来は明るいわ。」

「カメリア様、ロイド様にそのようなことをいたしますとエリル様が……」

「あらあらやだわ、私ったら。ごめんねエリー。」

 ニコニコしながらロイドから離れたお姉ちゃん……はともかく、アイリスは十二騎士なんだからこんなところにいたら生徒に囲まれるんじゃないかしら?

「わー、生の《エイプリル》だー。」

 予想通り早速そんな声が……ってアンジュじゃない。そういえばアンジュはアイリスの戦い方を参考にしてるんだったわね。

「あらあら、やっぱり十二騎士は人気ね。アイリスさん、こちらエリーの恋のライバルのアンジュ・カンパニュラちゃん。」

「どんな紹介よ!」

「カンパニュラ……と言いますと火の国の貴族の?」

「あ、はい、そうです。」

 ぺこりとお辞儀するアンジュ……なんかかしこまってるわね。

「私はアイリス・ディモルフォセカ。クォーツ家にお仕えしております。どうぞよろしくお願いします。」

「こ、こちらこそです。」

 緊張してるアンジュって珍しいわね……

「……そういえばパムもアンジュの名前聞いた時にそんな反応してたわね。カンパニュラってそんなに有名な貴族なの?」

「あらあらエリーったら、他国の勉強が足りないわね。そもそも恋敵の事はきちんと調べておかないとダメよ? カンパニュラと言ったら火の国ヴァルカノの貴族の中で一番の力を持ってる家よ。実質、国内で二番目の権力持ちね。」

「……あんたそんなんだったの……?」

「王族のお姫様には負けるよー。」

「うふふ、王族に貴族に女王様なんて、ロイドくんの周りはロイヤルねー。他にもそういう知り合いがいたりするのかしら?」

「ど、どうでしょう……そうとは知らずにフィリウスに連れてかれた場合もあるので……」

今更だけど、こいつの七年はどうなってんのよ……




「で、結局なんだったのじゃ、お主の弟子の力は。」

 十二騎士の自覚のない筋肉ダルマをとっ捕まえてきた私が、そっちはそっちでいなくなると困るカメリア様と《エイプリル》の二人がいない事にため息をついているとジジイがそう言った。

「わしの孫、マーガレットの力は魔眼ユーレック。対してお主の弟子の魔眼はなんなのじゃ? 隻眼というだけでも聞いた事ないというのにあの力……いささか度を越えておるぞ?」

「何言ってんだ《フェブラリ》。正義の道を行く騎士の卵なんだ、手にした力は大きければ大きいほど俺様たちの世界は明るいだろ?」

「そういう話ではない。お主にもわからぬとほざくのであれば、わしが自ら――」

 ジジイが厳しい顔でそこまで言ったところで、筋肉ダルマ――《オウガスト》が《フェブラリ》の肩にポンと手を置いた。


「それくらいにしておけ、ヒソップ。」


 ぞっとする声色でヒソップ――《フェブラリ》の本名を言った《オウガスト》。こんなふざけた奴が、本当に十二騎士に名を連ねる男なのだと再確認してしまう圧力。対して――


「ほう……お主がそこまで睨みを利かせるか、フィリウス。」


 ハツラツとした顔を、強敵を前にして昂る歴戦の猛者の表情にする《フェブラリ》。

 アルマースの街の一角、あまり生徒が来ないところでこそこそしていた私たちだったが、そうしておいて良かったと本気で思った。この気配、場合によっちゃ生徒が気絶しかねない。

「ふん。普段お気楽に笑うお主がそういう顔をした時は、毎回裏に腰を抜かすほどの大事が隠れておった。なるほど、あの少年はそれほどの何かを持っておるわけか。ふふふ。」

 悪党みたいな顔で笑った《フェブラリ》は、傾いた身体でやれやれと肩を落とした。

「じゃが同時に、そういう顔で忠告するお主を無視してその剣のさびになってきた者を大勢知っておる。よいよい、この件はもう話すまい。」

「それはそうと勝負はどうする。引き分けの場合を考えてなかったぞ?」

「そうさのぅ……」

 ……一瞬で元に戻りやがった。ったく、こいつら……

「つーかとっとと帰れ。用事は済んだんだろーが。」

「いやいや! 途中参加とは言え祭に来といて最後までいないってんじゃあ漢がすたるからな! 閉会式までいさせてもらうぞ! 例年通りなら宴会だろ?」

「ほう、宴か。アドニス、酒はないのか?」

「学生のイベントにあるわけねぇだろうがっ!」


「おーおー、そうそうたる顔ぶれだな。」


 バカ二人に怒鳴ってると、キシシと笑いながらカペラの校長――グロリオーサが来た。相変わらずサメみたいな歯だな、こいつ。

「言っちまえばただの学生のイベントに《オウガスト》と《フェブラリ》、ついでに《エイプリル》ってんだから豪華だよな。おい、《ジュライ》は来てねーのか?」

「残念ながらおらんな。何用じゃ、『豪槍』。」

「爺様にはないな。おいルビル、お前のとこのありゃあ一体なんなんだ? 反則だろうが。」

「なんの話だ?」

「生徒の話だ! あたしの弟とやりあったそっちの生徒だよ!」

 あー……そういえば勝負しろとか言ってたな。そうか、一応勝ったことになんのか。

「なんなんだあの吸血鬼のコスプレは! 卑怯だろーが!」

「ベルナークの剣まで持ち出した奴のセリフかよ。おまけに未来予知のマーカサイトとか、いろいろ盛り過ぎだろ、お前の弟。」

「どの口が! ユーレックの持ち主相手にガチ勝負で引き分ける能力の方が盛ってるだろ!」

「文句ならそこの筋肉に言え。育てたのはそいつだ。」

「『豪槍』! ベルナークの剣を大将にゆずってくれ!」

「い、いきなりなんだ。ゆずるわけねーだろ!」

「なら残りの一本の場所を知ってたら教えろ!」

「知らねーよ! おいルビル、この保護者なんなんだ!」

「私に聞くな。つーか校長でもこの街に入っちゃダメなんじゃねーのか? 最後まで学生主体だろ?」

「あの勝負はノーカンだって言いに来ただけだ。」

「そもそも受けてねーよ。てかそれはともかく、ベルナークの剣、いいのか?」

「なんだ、ルビルもそこの筋肉みたいに欲しいのか?」

「そうじゃない。学生には余る代物だろうが。魔眼よりも手軽に奪えて高く売れる……いいマトだぞ、お前の弟。」

「ああ、下手すりゃガラの悪い騎士にすら狙われるだろうよ。実際来た事あるが……おかげで頼れる仲間もできた様子だし、いいんじゃねーか?」

「どっちかっつーとあれが悪党にわたる事を心配してんだが。」

「んなやわな育て方してねーよ。それに、いざとなったらあたしが責任を取る。」

 決意固めた顔しやがって……まぁ、人様の家庭事情学校事情に首つっこむのはどうかと思うし、これくらいにして――

「むぅ、もしや……」

「どうした《フェブラリ》! この強さと美しさを備えた女騎士に見とれたか!」

「お主じゃあるまいし……じゃがそう、この二人じゃ。両名とも名の知れた騎士……次代の十二騎士とも言われておるが――そうはなっておらぬ。」

「ジジイ、喧嘩売ってんのか。」

「そこで現十二騎士の女性に目を向けるのじゃ。例えばついさっきまでいた《エイプリル》やお主の妻である《ディセンバ》……ほれ、この二人との違いがあろう。」

「おいまて、いつからキャストライトが俺様の――」

「おもしれーな。あたしらと十二騎士の差か。で、なんなんだ?」

「まて『豪槍』、その前に妻ってところを――」


「ずばり、女らしさじゃ。」


 瞬間、大して仲がいいわけでもないグロリオーサと次の行動が合致した。

「話しているところを見ておるとわかるわい。そこの二人は乱暴な物言い。じゃが《エイプリル》も《ディセンバ》も丁寧な言葉遣い……立ち振る舞いにも女性としての気品があるわい――のぅ?」

「よし、俺様は一足先に宴会場に行くとしよう。前と同じで闘技場だろう? さらば!」

「ぬぉ!? なんじゃいあやつ、珍しく風で飛んでいきおった――む? なんじゃ、この殺気は……おいおい、何ゆえ二人とも槍を手にしておるのだ? まてまて、戦闘レベルの魔法の流れを感じるぞ? まったく、たった今女らしさが大切だと言ったばかりだろうに――」

「「くたばれクソジジイッ!!」」




「んん? どこかでアレクが斧を振り下ろした時のような音が……」

「あん? 俺はここにいんぞ?」

 カメリアさんと少し話し、試合可能な時間帯を過ぎてしばらくの後、閉会式の為に四校の生徒が集められた。開会式と同じように一番大きな闘技場が会場なのだが、今回は立食パーティーのようになるらしく、食器が並ぶたくさんのテーブルを前に四校の生徒がガヤガヤとしている。

 ……こころなしか試合をした時よりも闘技場の中が広くなっている気がするのは、きっと気のせいではないのだろう……相変わらずすごい魔法だ。

「ロイくんてば、いつまで車いす掴んでるの?」

「だ、だってまたあんな事になったら困るし……今は人も多いし……」

「そっか! じゃあボクが食べさせてあげるね!」

「うん……うん? そ、それも何かがどうにかなってさっきみたいのになんないかな……」

「おれは大丈夫だと思うぞ、ロイド。」

「えぇ?」

「さっきも言っただろう? 彼女らはそれを他の誰かに見られる事を良しとはしない。運命が導くキッカケとは言え、こんな場所で発動してはその後のムードもないだろう?」

「お、おお……一理あるな……」

 何に対しても真っすぐに考えるカラードはこういう時に――いや、こんな時そうそうあっちゃ困るけど、この冷静さは頼りになる。

「よ、よし……えっと……リリーちゃん、握手しよう。」

「いーよー。えいっ。」

「ぎゃあっ!? そ、それは握手じゃなくて抱きつき――」

 ――! 何も起きない……転ばない! これはカラードの予想通りか!

「良かった! これで安心して料理を食べられるぞ!」

「だからボクが食べさせてあげるってばー。」

「む。ここの料理を片端から食べさせればロイドくんの好物もわかりそうだな。そしてリリーくんは離れるのだ。」

「気合入ってるねー、優等生ちゃん。まー手料理って言ったら何気にポイント高い部分だもんねー。あたしは何作ろうかなー。」

 ティアナの提案により、マーガレットさんとの試合で……一応負けなかったオレはみんなに手料理を作ってもらう事になった。

 他にも……お、お泊りデートなる心臓に悪い事をみんなとやるという事にもなっていて、交流祭のあとも色々と……あぁあ、どうすれば……

「どうしたロイド、そんな迷い多い顔をして。」

「い、いや……」

「んお、おい見ろよロイド。お前みたいのがあっちにいるぜ。」

 人の倍――とは言わないけどかなりの高身長のアレクが遠くを指差した。


「すごーい、これがベルナークシリーズなんだ!」

「あたしにも触らせてー!」


 たくさんの女子生徒に囲まれて困った顔をしているのはラクスさん。やっぱりベルナークの武器はすごいんだなぁ……

「ありゃあロイドよりモテてるぞ。おい、いいのか?」

「いや、なんの勝負だよ……そんなことよりあれは大丈夫なのかな……ベルナークシリーズってレアものなんだろう? 悪党とかも狙うんじゃ……」

「承知の上だろう。力というモノは同等かそれ以上の力を呼び寄せるモノだ。そういう意味では、ロイドも気を付けなければな。」

「そうだな……」

「ついでに女性も引き付けるようだな。」

「そうだ――いや、そこは関係ないはずだ!」

 真っすぐ――いや、天然なのか、時折ツッコミが必要なことをさらりというカラードに今日もまたツッコミを入れたところで、闘技場の中の一点にスポットライトが当たった。


『皆さんお疲れ様です。閉会式でも司会を務めさせていただくプロキオン騎士学校新聞部のパールです。ご察しの通り、この後たくさんの料理が運ばれてきますが、まずは祭の最後をしめると致しましょう。』


 この三日間で完全に聞きなれた声が響き、まだ多少のざわつきはあるものの、四校の生徒が正面……と言えばいいのか、パールさんの方を向いた。そこには一段高くなった舞台のようなモノがあって、パールさんはその端っこに立っている。


『ありがとうございます。では早速のあいさつをわが校の生徒会長から――と、いきたいところですがそれは最後。まずは他の生徒会長からお言葉をいただきましょう!』


 パールさんの言葉を合図に追加で三つのライトが灯る。それぞれに照らされているのは各校の生徒会長。カペラ女学園のポリアンサさん、リゲル騎士学校のゴールドさん、そして我らがデルフさん。


『ではカペラ女学園からお願いしましょう! 『魔剣』、プリムラ・ポリアンサさんです!』

『……去年も先の会長を見て思いましたが、アイドルか何かのようですわね。』


 自分を照らす光を眩しそうに見つめ、ポリアンサさんはマイクを手にした。


『みなさんごきげんよう、カペラ女学園生徒会長のポリアンサですわ。きっと堅苦しいタイプのスピーチは『女帝』がなさるのでしょうから、わたくしは軽く。』


 螺旋を描く金髪をふわりとさせて、ポリアンサさんはスピーチをはじめた。


『過去二回、普段は見る機会のない戦法や技術を見て刺激を得てきましたけれど、今年はそれらを上回っていました。同学年の進化と、後輩たちの驚くべき力……ドルムですらないわたくしですが、それでも最高学年の三年生として言わせてもらえば、四校の未来は明るいですわね。はい、『エンドブロック』。次はあなたよ。』


 本当に軽くしゃべっただけのポリアンサさんは隣に立つゴールドさんにマイクを手渡した。なんだろう、ポリアンサさん……疲れている……?

「ああ、そういえば今日、カペラの会長は我々の会長と試合をしていたからな。」

 オレの疑問を――こころを読んだのか、車いすの上でカラードが呟いた。

「さすがの激戦で、最終的には彼女が魔法の負荷による……いわゆる魔法切れの状態になって勝負が決した。後半、会長は光の速さで逃げ回っていたからな。」

「えぇ……いいのか、それ。」

「立派な戦術だ。そしてそれ故にあの疲れ具合なのだろう。」


『疲労しているからと言って投げやりなスピーチとはらしくないな。まぁ、学生最後の交流祭の試合で逃げ勝ちされては致し方なしか。』

『で、では続いて『エンドブロック』、ベリル・ゴールドさん!』

『ああ。リゲル騎士学校生徒会長のゴールドだ。このような場所で何かを言う予定はなかったのだが一つ、リゲルの学生全てが愚弟のような男だとは思わないで欲しい。母校が野獣の檻のように見られるのは少々困るのでな。以上だ。』


「スピーチというかなんというか……気になるのはそこなんだなぁ……」

「大口で下品な事を言ったというのにわたしにボコボコにされたのだからな。女子から嫌われ、男子の期待を裏切り、八方塞がりだろうな。」

「だ、男子のみんながそういうのを期待していたわけではないはずですが……」


『で、ではお次は『神速』、デルフ・ソグディアナイトさん!』


 あまりにあっさりとした二人に戸惑いながらデルフさんに番を回すパールさん。そしてそんな困り顔に応えるように――


『やーやー、お疲れ。セイリオス学院の生徒会長です。ここの二人に勝ったデルフさんです。』

『あなたねぇ……』


 いつもの楽しそうなテンションでマイクを受け取ったデルフさんはふふんと笑ってそう言った。


『やれやれ、負けた二人はテンションが低いからちょっとしゃべることにしようかな。二年前、僕が一年生だった時ここに立っていた人たちは、それはもう怪物か何かに見えていたのを覚えているよ。もしかしてみんなには今の僕たちがそう見えていたりするのかな?』


 闘技場内に笑いが起きる。実際、生徒会長の面々は怪物――というか、何か別の次元の存在のような印象がある。他の三年生とは違う雰囲気……そう、きっとこういうのを格が違うと言うのだろう。


『こりゃあ格が違うなぁとか思っているのかな。でも驚いて欲しいのだけど、僕らは――いやぁ、少なくとも僕は普通の人だよ。さっきも言ったように、先代の会長を見て強さの差に呆れていた一人の男子生徒だったね。けれど今、僕は呆れられる側に立っている。僕は突然変異でもして怪物になった? いやいやまさか。昔も今も銀髪をなびかせて時々女の子と間違えられるデルフさんさ。』


 軽くこっちのこころを読んできたけど……ああ……なんだろうこの感じ。そうだ、ランク戦の開会式の時にもこんな雰囲気のあいさつをしていた気がする。自然と話に引き込まれるというか……相変わらず不思議な人だ。


『昔の僕と今の僕の違い――それは経験だ。そしてこの交流祭というのはたくさんの経験の中でひときわ光る面白いモノだね。この三日間で初めて見たものが一つでもあったなら、それはもう怪物への一歩を踏み出したということさ。いいなぁと思うモノが一つでもあったなら、それはきみを怪物にする力を手に入れたということさ。まねでもオマージュでもなんでもいい、受けた刺激を吸収して自分のモノにしようじゃないか。無数の経験で組み上げられていくきみは二年後、ここに立つ怪物の一人になる――そう、僕のように。』


 コンコンと足を鳴らし、デルフさんは――どこか挑発するかのように言った。


『この場所はそんなに遠くない。遥かな格上の世界などと思わないで欲しい。この場の全員が怪物と呆れられる可能性を持っている。強くなるんだ、後輩諸君!』


 わーっと拍手が起こる。その反応に満足したのか、むふふーという顔でにやけたデルフさんは、しかし段々と「やっちまった」的な顔になっていった。


『しまった。なんだか卒業する時のスピーチみたいだったね。卒業式で言う事がなくなってしまったのではないだろうか。』

『相変わらず口がまわりますわね……ですけど人を怪物呼ばわりはどうかと思いますわ。』

『十一個の系統を使いこなす人は半分魔法生物と思われても仕方ないと思うけどね。』

『ほう。では自分の場合はどこか怪物なのだ?』

『ゴールドくんはどこかに脳みそを十個くらい隠し持っているはずだね。その頭の良さは怪物級だからね。』


 再び盛り上がる闘技場。笑いと歓声に包まれ、三人の生徒会長はスポットライトから抜けていった。そして――


『ありがとうございました! それでは最後の挨拶を、我らがプロキオン騎士学校生徒会長、マーガレット・アフェランドラからいただきます!』


 全員の正面に灯る一つのライト。その下に切りそろえられた長い黒髪をゆらす女性――マーガレットさんが立っていた。


『……私たちは普段、それぞれの学校という小さな世界で腕を磨いている。』


 前置き無く始まるマーガレットさんの話。相変わらず妙な迫力というか……『女帝』という二つ名が似合う雰囲気を放っているが、そんな中にどこか清々しいような表情が読み取れる。


『世界が広いという事は知っていても、それを実感する事は少ないだろう。交流祭はそんな経験のできる稀な機会の一つであり、そこには多くのキッカケが転がっている。例えば、騎士を目指す私たちの周りに常にある「強さ」の比較。四校それぞれに強者、もしくは弱者とされる生徒がいることだろうが、先に言ったように、これらはそれぞれの小さな世界の話だ。』


 しかしきっとそういう表情を読み取れる人は数少なく、ほとんどの人には……『女帝』が威圧的に淡々としゃべっているように見えている……ような気がするなぁ……

 ――っと、今はマーガレットさんの話を聞かないと。


『武器や魔法には無数のスタイルがあり、最強と呼べるモノはない。だからそこには相性というモノが必ず存在する。いつも自分がいる世界にはたまたま相性の良い相手、悪い相手しかいなかったとしたら……「強さ」は外の世界で逆転し得る。もしかするとこの交流祭において、強いと思っていた者が他校の生徒にあっさりと負け、弱いと思っていた者が他校で強者とされる生徒を打ち負かす――そんな場面に遭遇した生徒がいるかもしれない。そこまではいかずとも、普段は見る事のできないスタイルを前に、自分や他人の技の思わぬ強み、弱みに気が付いた者はいるかもしれない。そう……これがキッカケだ。』


 ……思わぬ強みと弱み……オレの場合は相手がなんだか色々と凄すぎて、頑張っている内に終わった感じだったなぁ……相変わらず、オレの弱点は魔法技術の低さだし。

 んまぁでも……そうだな、マーガレットさんの鉄球はオレの回転剣と似ているところがあるし、参考にできるところは多そうだ。あとでユーリの眼の記録を見直してみよう。


『ソグディアナイトが言っていた事も含め、今言ったような強くなるキッカケはたくさんある。それらを是非モノにして欲しい……と、思うには思うが……個人的には違う種類のキッカケも探して欲しいと思っている。』


 ん? マーガレットさんの雰囲気が……誰の目にもわかる感じで少し柔らかくなったぞ。


『結果として強さにも影響するかもしれないが、主に皆のこころに影響を与えるキッカケ……出会いだ。』


 ふとマーガレットさんと目が合う。開会式の時と同じように、だけど今度は互いに微笑みを返す。


『強さに憧れ、その在り様を目指そうと思える相手。自身と同等かそれ以上に守りたいと思う相手。どのような時でも負けたくない相手。安心して背中を任せることのできる相手。同性の絆でも異性の恋慕でも何でも、小さな世界を容易く打ち破って自身を先に進めるような誰か――そういう者との出会いを、皆にして欲しいと思う。』


 本人の意図しない高圧的な雰囲気によって『女帝』と呼ばれていたマーガレットさんのその時の表情は、たぶんマーガレットさん本来の……優しくて頼りになる良いお姉さん――のような笑顔だった。


『まぁ、出会いは探せば得られるようなキッカケではないが……二年生はあと一回、一年生はあと二回、同じ志で同年代のそういう相手に出会える可能性がある。頭の片隅程度で意識しておくと、良い事があるかもしれないぞ?』


 ――! ドキッとする微笑み。この色々と包み込みそうな雰囲気は……ああそうだ、カメリアさんに似ている。やっぱりマーガレットさんはお姉さん気質なのだなぁ……


『さて、正直言って私も疲れているし、お腹もすいている。退屈な話はこのくらいにして――今年の交流祭最後の交流の時間へと入ろうか。パールくん。』

『…………ほえ、あ、はい! えっと……そ、そうですね! 会長、ありがとうございました! それでは食事の時間といたしましょう!』



 各校の生徒会長の挨拶の後、食器だけが並んでいたテーブルに突如として豪華な食事が出現し、閉会式は立食パーティーへと移行した。

「プロキオンの生徒会長はロイドの影響で随分と魅力的な女性になったな。」

「誤解されるような事を言うな! マ、マーガレットさんは元々ああいう人なんだよ。今まではそれが表に出なかっただけで――」

「それをロイドのテクニックで引っ張り出したってこったろ? さすがだな!」

「アレクまで何言ってんだ!」

 強化コンビにニシシといじられ、背後からエリルたちに睨まれていると――

「やーやーお疲れお疲れ。」

 ひらひらと手を振りながらデルフさんがやってきた。

「……あんたは事あるごとにあたしたちのところに来るわね……」

「事あるごとに用事ができるからね。」

 今更ながら一応の先輩に相変わらずの口調のエリルだが、デルフさんは気にせずにニコニコ顔でふとオレの方を向き――

「サードニクスくん、どうもありがとう。」

 ぺこりと頭を下げ――えぇ!?

「え、な、何がですか……」

「アフェランドラさんの件だよ。」

「えぇ?」

 何のことやらさっぱりのオレに、さっきマーガレットさんが立っていた場所を眺めながらデルフさんは話した。

「生まれ持った異能、これ以上ない指導者、その指導に応える才能。彼女は騎士として最高のモノを持っている。」

「……あんただってすごいじゃない。何もないのにあんな魔法使えるんだから。」

「? ああいやいや、そういう話じゃないんだよ、クォーツくん。僕が言いたいのは、彼女が強くなったってことさ。」

「マーガレットさんが?」

「さっき言ったモノを持つことを彼女はどこかマイナスに考えていたみたいなのだけど、サードニクスくんとの試合で何かをつかみ、それを受け入れたみたいだ。彼女のあんな柔らかい表情は初めて見たからね。つまり、今の彼女は数時間前の彼女よりも心が強くなったわけだね。」

「そ、それがどうしてオレへのお礼に……」

「彼女と僕は同期だからね。いつか背中を任せる事になるかもしれない者が強くなったのだから喜ばしい事さ。頼もしいし、何より張り合いが出る。だからサードニクスくんにありがとうなのさ。」

「そうですか……ど、どういたしまして……」

「うんうん。ところでだいたい察しはついているけれど、あの黒い力は――」


「ロロ・オニキスだな?」


 デルフさんの質問を淡々とした声が遮った。

 割と重要な案件だったはずだが、他の色々な事に押しつぶされていた件。オレの女装時の名前をすたすたと近づいてきた人が……ゴールドさんが口にした。変わらない無表情のまま、しかしてしっかりとオレを見て。こ、これはつまり……

「なぜもっと早く気が付かなかったのか。マーガレットとの試合を観てようやくだ。開会式で見せた棒の回転、ダンスで描く円の動き、どれもが『コンダクター』の技術につながる。そしてそれを考慮して目の前の少年を見てみれば――なるほど、ロロ・オニキスと同じ形の顔だ。」

 交流祭初日の開会式、そこで行われた各校の出し物でデルフさんと一緒にちょっとしたショーを披露したオレ。その時のオレはフィリウスとの長い旅によって得た特技――女装をしていて……その女装したオレに……リゲルの生徒会長であるゴールドさんがひ、一目惚れしてしまった。

 デルフさんが色々とはぐらかせていたけど……この頭のいい人にいつまでも通用するわけもなかったというわけか……

 ていうかそりゃあやっぱり曲芸剣術でバレるよなぁ……ああ、もしやこの後はゴールドさんにボコボコにされる的な展開に……

「どうりでデルフが妙な顔で笑うわけだ。」

 普通なら呆れか怒り顔で大きくため息をつく場面だろうに、相変わらず無表情のままのゴールドさん……いや、それが逆に恐ろしい。き、きちんと謝罪をせねば……!

「あ、あのですね、その――オ、オレ、だだ、だますつもりでは……」

「気にするな。」

 きにするな……気にするな? あれ、怒っているわけじゃないのか?

「それに罪悪感を覚えるべき者がいるとすれば、こっちだろう。」

 無表情な顔をオレからデルフさんへ向けるゴールドさん。

「ふふふ。ゴールドくんなら気が付くとは思っていたけど……あのゴールドくんがと思うと面白くてね。まぁゴールドくんならそういう感情を知る事ができたという事で良しとしてしまうだろう?」

「感情……ああ、これがつまり恋という事なのだろう。稀有な経験だ。」

「そうだろう、そうだろう。その感情が、そこのリシアンサスくんの驚異的な魔法の元となったモノだからね。始まる前に終わりはしたけれど、ゴールドくんは更に強くなったに違いない。」

「キッカケは得る事ができたな。だがデルフ、別にこの恋は終わっていないぞ。」

 ゴールドさんの口から「恋が終わっていない」なんてロマンチックなセリフが出るとは思わなかったけど……え、どういう意味だ?

「んん? それはどういう……もしかしてゴールドくんは相手が男性でもオッケーというタイプなのかい?」

えぇっ!?!?

「まさか。単に「ロロ・オニキス」という「女性」の可能性はゼロではないというだけだ。」

 ??? な、何を言っているんだ、ゴールドさんは……? ロロ・オニキスっていう……そ、そりゃあ同じ名前の女性はいるかもしれないけどたぶんそういう意味じゃないだろうし……でもオレは男だし……えぇ???

「ゴールドくん……まさかあの、伝説の中のそのまた噂程度にしか語られないアレを探すつもりなのかい?」

 え、デルフさんが真剣な顔に……ていうかアレってなんだ!?

「語られているだけで充分だろう。火のない所に煙は立たない――そう語られたという事はそれが、もしくはそれに近い何かがあったという証であると、自分は思う。」

「夢見る探検家のようだね……正直、僕はその可能性を否定するよ。」

「構わない。それにちょうど良い。」

「何がだい?」

「自分は騎士を目指している。リゲル騎士学校に入学し、生徒会長という任にもつかせてもらった。卒業後は世の正義の為に戦おう。しかしそれだけでは――信念や目標がたった一本では揺らいだ際に支えられない。だからもう一つ、自分は何かを欲していたのだ。」

「……アレを探す事を、そのもう一つにしようと?」

「その通りだ。だからデルフ、そして『コンダクター』、二人には礼を言う。」

「えぇ……あ、あの何が何やら……」

「妙な事を目標にするのだね。ゴールドくんらしさがどこかに行ってしまったようだ。」

「デルフにらしさを語られるとはな。」

「……どういう意味だい?」

「人に好かれ、強さもあり、まさに理想的であろう男の戦う目的が、という話だ。」

 ゴールドさんの遠回しな言葉に、デルフさんの顔が険しくなった。

「それが達成されれば世界は一つ良くなるのだから、誰も否定はしないだろうがな。試合の時の約束もある。卒業前にこちらに顔を出せ、デルフ。自分が知っている事を教えよう。」

 デルフさんの目的は……復讐。かつて大切な者を奪ったS級犯罪者、マルフィを倒すことがデルフさんの強くなる理由。確かに、普段のデルフさんから「復讐」という言葉はなかなか出てこないだろう。

 ……というかゴールドさんは何か知っているみたいだな……どうしてこう生徒会長というのは色んな情報を知っているのだろうか……

「ではいずれ。」

 こっちが心配したほどの事にはならなかったけど変な疑問を残してすぐに去っていったゴールドさん……アレとは一体……これはデルフさんに聞いておかないと。

「あの、デルフさ――」

「これはまた、サードニクスくんにもう一度お礼かな。」

「アレって――えぇ? オ、オレ、ゴールドさんとは戦ってないですよ?」

「ふふふ。ほら、さっき言っていただろう? 自分を支えるもう一本を得たって。これもまた心の成長――愛を知ったゴールドくんはもっと強くなるよ。」

「は、はぁ……」

「それじゃあ僕は他の三年生とも交流を深めてくるかな。またね。」

 アレとやらについて聞きたかったけれど……そういえばデルフさんにとってはこれが最後の交流祭だ。三年生同士の交流を優先するべきだろう。んまぁ、セイリオスに帰ってからでもいいわけだし。

「じゃあオレたちも交流祭らしく交流しようか。とりあえず知り合った他校の人に挨拶でも。」

「同学年はキキョウとヒースくらいね。あとは生徒会長二人とロイド二号。」

「えぇ? エリルたちはもっと他の人とも戦ったんだろう?」

「……あんまり覚えてないわね。」

「えぇ……」

「無理もないだろう。拍子抜けに弱かったりしたからな。全員がロイドくんの相手みたいにとんでもない生徒ではないのだ。」

「生徒会長二人とベルナーク使いだもんねー。でも優等生ちゃんの相手だって一応すご腕だったでしょー?」

「はて、どれの事を言っているのかな、アンジュくん。」

 冷ややかな笑み。どうやらパライバはいなかったことになっているらしい……

「な、ならとりあえずはキキョウを探してみ――」

「んお、ここにいたぞナヨ。」

「さすがヒースくん。ぼくもそれくらい身長があればなぁ……」

 とかなんとか言ってたらキキョウとヒースがやってきた。

「ロイド、さっきのすごかったね! あの吸血鬼みたいな恰好はどんな魔法なの!?」

「ま、魔法というかなんというか……話すと長いけど、ざっくり言えば魔眼の力だな……」

「へぇー、魔眼って色んなのがあるんだね。アフェランドラさんも『雷帝』状態はすごかったし。」

 おお、そうだ。キキョウと言えばマーガレットさんだ。試合の後肩をかしてたという事はそれなりに仲良くなった……はずだ。

「そ、そういえばキキョウ、さっきマーガレットさんに肩をかしてたな。」

「え!? う、うん……た、たまたま出口で会って……ヒースくんじゃ身長が合わないから……ぐ、偶然だよ!」

 偶然……心配で出口で待ってたとかじゃないんだろうか。

「ったくよー。おれよりちっせーのにあんなにつえぇんだからなぁ。羨ましいぜ、色々と。」

「え、ヒースくんも魔眼が欲しいの?」

「そりゃー無いよりはある方がいいだろ? 普通に有利だしよ。」

「そうだね。でも確かフィリウスさんが言ってたんだけど、腕利きの魔法使いが相手だとその魔眼を利用されたりするらしいよ?」

「マジか!?」

「うん。だからやっぱり最後にモノを言うのは魔法に寄らない身体だって。」

「おお……フィリウスさんがそう言うなら、やっぱ筋肉か!」

「そうだ! いい日焼けの筋肉だがまだまだ上がある! 精進しろ若者!」

「おお! ――って誰だ?」

 アレクとヒースを遠目で見分けようと思ったら肌の焼き具合だなぁとか思っていたら、聞き覚えがある上に聞き間違えない声がした。

「懐かしい顔だ! 久しぶりだなキキョウ!」

 くるりと振り返ったキキョウとヒースの後ろに立つのはヒースをも超える筋肉の塊……フィリウスだった。

「ぼぁっ!? オオ、《オウガスト》!? 本物のフィリウスさん!?」

「おう! 確かにそうだがあんましデカい声をあげると校長がかけた魔法が解けるから気をつけろよ!」

 デカい声を出すなとデカい声で言いながらくいっとあごを動かして周りを見るように促すフィリウス。学生がわんさかいる立食パーティの場に十二騎士が立っているというのに誰も気づいていない。校長というのはセイリオスの校長だろうから、きっとそういう特殊な魔法をかけてもらっているのだろう。

 というかヒース、物凄い驚いたな……

「お、おれヒース・クルクマって言います! ナヨの――キキョウのダチで……えっと、フィリウスさんのファンです! 握手してください!」

「おう! 未来の担い手にもいい筋肉が育っていて何よりだ!」

 ガシィッと音が響きそうな力強い握手をするフィリウスとヒース。

「ほう、風を利用したパワータイプのスタイルだな! しかしパワーばかりで速度に対応し切れていない筋肉だ! 風で補うのも一つの手だが、できればバランスのいい筋肉を仕上げて欲しいところだ! 腕は上々、まずは脚だな!」

「は、はい!」

 えぇ……? まさか握手だけでそこまでわかるのか……?

「お久しぶりです、フィリウスさん。その節は本当に――」

「キキョウ! ずいぶんと強くなったな!」

「え――も、もしかして試合を……?」

「いや、見てない! だが身体を見ればわかる!」

 デカい手をキキョウの肩にポンと置くフィリウス。

「柔軟な、いい筋肉だ! マナと魔力の流れもいい! 相手の攻撃を自分の風に巻き込んで相手の力ごと吹き飛ばし、トドメはよどみなく流れる力を使った相手内部への強力な衝撃ってところだろ!」

「! は、はい!」

 目を丸くするキキョウ。でもその驚きは当然だ。なぜなら今フィリウスが言ったことはキキョウがエリルとの試合でしたことそのままなのだから。

「ヒースくんもですけど……触れただけでそこまで……」

「体術も魔法も身体を使うのだから、そこから読み取れないわけがない! それにキキョウの場合は昔を知ってるし、そもそもあの道場に入れたのは俺様だからな!」

 ……こういうのを見るとやっぱり十二騎士なんだなぁと思ってしまうが……いかんせん、七年間の旅で見てきたテキトーなフィリウスの方が印象が強いからなぁ……あんまりすごく思えないのが変な気分だ。

「で、何しに来たんだよ。」

「折角来たんだからな! 最後まで――んん? 大将、いつの間にそんな羨ましい技を覚えたんだ? 俺様にも教えろ!」

「は? 何の話だ?」

「何って、今の大将のラッキースケベモードの話だ。」

「えぇっ!?」

びっくりした。言葉的にはフィリウスがにやにやしながら言いそうな単語だが、恋愛マスターの力によるモノであるこれは魔法とは違うモノ……いくらフィリウスでもそれに気が付くなんて……

 い、いや待てよ。そういえば恋愛マスターの運命の操る力がかかっている影響でオレには呪いとかが効かなくて、だからこの前のザビクの一件の時も無事だったらしいし……魔法の干渉を受けるって事は根本的には似た力なのか……?

 と、という事はもしかして、頑張れば制御もできたり……!

「た、確かに今はそんな感じだが……よくわかったな。」

「当たり前だ! そういう星の下に生まれた奴ってのは確かにいて、場合によっては俺様からいい女を奪っていく! そんな奴らと戦う為、俺様は長い修行を経てラッキースケベを見分けられるようになったのだ!」

「しょーもない修行すんな!」

 一瞬期待したオレが馬鹿だった……

「ま、恋愛マスター絡みの何かなんだろうが、これは俺様としたことが失敗だったな! すまん、大将!」

「いや、別にフィリウスのせいじゃ……」

「こんな事なら大将には夜のテクニックを伝授すべきだった。」

「え、夜?」

「ん? モテモテ大将がそんな状態って事は、お嬢ちゃんたちとあんな感じにこんな感じにくんずほぐれつになるだろう?」

「な!?」

 さっきの事が鮮明に思い出され――つーかあんな状態で使うテテ、テクニックって何言ってんだこの筋肉は!!

「やはりリードは男がするべきだろうからな! まったく、大将はきれいなお姉ちゃんの店に行ってもいつも隅っこにいたからなぁ。あそこで技を磨いておけば――」

「ちょっと待ってくれフィリウス殿。その話詳しく。」

「ロイくんてばそんなお店行ってたの!?」

「えぇっ!? い、いやオレは――」

 そ、そういえばそんな店にも連れていかれたような記憶が……あ、明らかにみんなからタコ殴りにされる話題じゃないか、フィリウスめ!

「えー? それにしてはロイドって平均以下で色々耐性ないよねー。」

「そこも俺様の失敗だな。例えるなら、酒を飲んだことない奴にその美味さを教えてやろうと思うあまり、まだ身体がアルコールに慣れてないそいつにキツイ酒をじゃんじゃか飲ませたみたいな状態だ。」

「そ、それは……ぎゃ、逆に苦手ない、意識が強く……なっちゃうパターン、だね……」

「良かれと思ったんだがな。初等のガキンチョには早かったか。」

「そ、そんな時のオレをそんな店に連れてったのか!」

「なんだ覚えてないのか? 大人の美女たちに羨ましいくらい可愛がられてたぞ?」

「……ロイド……?」

「ちっさい頃の話だぞ、エリル!」


『あ、あー皆さん、食べながらで構いませんので少しこちらに注目していただけますでしょうか。』


 エリルはもちろん、みんなからジトッと睨まれたところでパールさんの焦った声がした。


『我らが生徒会長が「お腹がすいた」などと珍しい事を言いましたので会の進行が頭からとんでおりました。あ、いえ、会長のせいというわけでは……え、えっと忘れておりましたが、今回の交流祭の結果を発表したいと思います!』


 ああ、そういえばそれがあった……というかそうだ、オレたちのポイント勝負もあるぞ! 結果によっては色々大変なことになりそうな……うぅ、ドキドキしてきた……


『各校の生徒が得たポイントの合計によって四校の順位を決めるこの交流祭! 今年の勝者はどの学校なのでしょうか! まずは第三位から!』


 使われてなかった闘技場内の大きなスクリーンが光り、四校の名前がスロットのようにくるくる回る。三位から発表という事は、一位と四位を最後にするパターンか。


『三位は――我らがプロキオン騎士学校! 司会をした身としては一位として発表したかったところですが、残念です!』


 マーガレットさんが三位……ああいや、全校生徒の合計だもんなぁ。というかそういえばマーガレットさん、オレ以外と試合してたっけか?


『二位は――カペラ女学園! 全体的に好成績であるところは流石ですが一歩及ばずでした!』


「なんてこと! ラクスさんが『コンダクター』に負けてしまうからですよ!」

「俺のせいかよ!」

 ――という会話が聞こえてきて笑いが起こった。んまぁ、仮にそうだったとしてもラクスさんは二年生だし、オレに勝っても大したポイントはゲットできなそうだけどなぁ。


『残るは一位と四位ですが――同時に発表しましょう! ご覧ください!』


 スクリーンの中、一と四の数字の下で二校の名前がくるくる回り……バーンと止まる。湧き上がる歓声は――セイリオスの生徒のモノだった。


『残念ながら四位となったのはリゲル騎士学校! 途中までは他校と並んでいたのですが、二日目の途中から急に試合そのものの数が減っていってしまったのが原因でしょうか!』


「二日目の途中から? 何が起きたんだろう……」

「わたしが『ディゾルブ』を氷漬けにしたな。」

 ぼそりと呟いたローゼルさん。え、まさかあの試合……というかパライバのせいでリゲルのイメージが悪くなって……?

「……ゴールドさんがため息ついてそうだな……」


『そして栄えある一位はなんと三年連続一位! セイリオス学院! 全体を見ればカペラ女学園と同等の戦績なのですが、他校より抜きん出ていますのは一年生の活躍! これが勝敗を分けました!』


 一年生……ああそうか。ポイントって仕組み的に一年生がたくさんゲットしやすいのか。エリルたちが上級生を倒しちゃっているから、その分かな。


『中でも一番の稼ぎ頭は話題の絶えない『コンダクター』! カペラ女学園のベルナーク使いとの試合もさることながら、三年生かつ生徒会長である我らが『女帝』と引き分けたことが評価され、多くのポイントを得ております!』


 へぇ、引き分けでもポイントが……ん? 今一番の稼ぎ頭って……とういうことは!

「むぅ……ポイント勝負はロイドくんの勝ちか。」

 一番になった人が他の人に何でもお願いできるというこの勝負……相手が強い人ばっかりで諦めていたが、まさかのどんでん返しが!

「おお! やったぞ!」

「へー。ロイドってばあたしたちに命令できるのがそんなにうれしーんだー。」

「メイレイ!? い、いやそういうわけでは――」

 あれ? 勝ったのに逆に追い詰められたような気になるのは一体……

「楽しんでるな、大将! 青春謳歌、なによりだ! やはり夜のテクニックを――」

「いらんわ!」

「そうか? まぁ必要になったら言えよ。さて俺様は――」

「ん、帰るのか?」

「馬鹿言え、大将。こっそり飯を食うに決まってる。」

 何が決まってるのやら……たぶんキキョウの顔を見に来たんだろうフィリウスはのしのしと料理の並ぶテーブルの方に歩いて行った。

「うおお握手しちまったぜ……やっぱでっけー人だなぁ、おい。かっけー……」

「ヒースくんでも大きいって思うんだ……」

「身体もそうだが器っつーのか? 豪放磊落ってのがぴったりだぜ。」


 その後、ラクスさんらカペラの人たちと話し、マーガレットさんとも……な、なんとなくエリルに睨まれながら話し、各校近隣のご飯屋さんが作ったらしい色々な料理を食べ、また来年、次は負けないと約束をして……初めての交流祭は幕を閉じた。



「忘れ物はないかな? 今の内に気づかないと、次に取りに行けるのは来年になってしまうからね。」

 交流祭の舞台、アルマースの街からセイリオスに戻った全校生徒は、ゲートのまわりでざわざわと集まってデルフさんの話を聞いていた。

「おかげさまで僕ら三年生は三年連続優勝という経験をさせてもらった。みんなありがとう。」

 ぺこりと頭をさげるデルフさん。それにならって他の三年生から一、二年生に向けて拍手が送られる。

「さて、三日間のお祭りはあっというまで、またすぐに授業が始まるからね。今夜と、今週末くらいはしっかりと休息をとって欲しいかな。ではこれにて解散!」

 全校生徒がどわーっと散っていき、オレたちもそれにまじって寮に戻ろうとしたところで――


「あー、ちょっと待って欲しいわ。」


 と、立食パーティーの時はひっそりとデザートのケーキをパクパク食べていたカメリアさんに呼び止められた。

「カメリアさん……あれ、もう結構夜ですけど……いいんですか? その、王族が……」

「大丈夫よー。アイリスさんもいるし。それよりロイドくんに話があるのよ。」

「オ、オレですか……」

「あらあら、そんなに緊張しなくていいのよ? 大丈夫、結婚式の段取りはこのカメリアさんがバッチリやるから。」

「お姉ちゃん!?」

「うふふ、でも今日はそれじゃないの。ロイドくんに謝らなきゃいけないことがあるのよ。」

「えぇ?」

「実はね、貴族からエリーへの求婚の手紙がたくさん来てるのよ。」

「えぇ!?」

「な――そ、それどういうことよ、お姉ちゃん!」

「この前と同じよ。一番下のエリーとつながってお手軽に王族に仲間入りってね。勝手に最有力って豪語していたムイレーフがああなったから、他の頭の軽い貴族連中がチャンスと見てこぞって――ってところかしらね。」

 ……いつもニコニコしているし雰囲気も柔らかいカメリアさんだが、こういう話題の時は言い方が厳しくなるなぁ……

「だから私、この前スピエルドルフの女王に対抗して作った書類を見せたのよ。エリーの旦那様はロイドくんよーって。」

 書類……今のオレは忘れてしまっているスピエルドルフでの一年間において、オレがミラちゃんと作った……こ、婚約の書類と戦う為と言ってカメリアさんが作ったモノで、オレとエリルのここ、交際を正式に認める……的なことが書かれた書類だ。

「お、お姉ちゃん……そ、そんな大々的にそれを……」

「あらあら、恥ずかしがりながらも嬉しそうね、エリー。」

「お姉ちゃんっ!!」

「この場合は単なる虫よけよ。本来はあくまで、私が応援しているわよーっていうのを形にしたモノだからね。エリーにはこの学院でしっかり戦って勝って欲しいわ。ま、私はもうロイドくんを弟だと思っているけれど。」

「ソ、ソウデスカ……」

 ぱちんと飛んできたカメリアさんのウインクにどう反応すればいいのかわからず、変な発音をしてしまった。

「それでね、そしたら貴族連中がロイドくんの事を調べ始めたのよ。どこの生まれとか家柄とか。だからもしかすると、その内面倒なのがロイドくんのところに現れてあれこれ聞いてくるかもなの。ごめんなさいね。ムイレーフみたいに適当に殴っておいて構わないから。」

「カメリア様、流石に殴るのは……」

 カメリアさんの後ろにひっそりと立っていたアイリスさんがツッコミを入れる。

 というか……

「そのムイレーフって……七大貴族でしたっけ……その、オレが関わったせいで……ザビクに……」

「あー、気にしないのよ、そんなこと。」

 実は結構こころに残ることだったのだが、カメリアさんが……ちょっと冷たくも思える感じにケロッと言った。

「で、でも……」

「誰かに関わったからあんな目にあったーなんて、責任転嫁もいいところよ。それにムイレーフの場合はピエールの自業自得の飛び火。」

 政治的な話をする時の厳しい表情で近づき、正面からオレを見据えたカメリアさんは、今やフェルブランドにこの人ありと言われるカメリア・クォーツの顔で言った。

「何より、もういない誰かの影響で受け入れるべきはプラスの方向のそれのみでいいの。死者に足を引っ張られて生者が転ぶなんていけないわ。」

「は、はい……」

「カメリア様、ロイド様が委縮しています。」

「あら――あらあら、ごめんなさいね。」

 コロッといつものニコニコ顔に戻るカメリアさん。こ、これがミラちゃんも警戒するカメリアさんか……

「話を戻すけど、ロイドくんの家族の事とか、思い出したくない事も聞いてくるかもだけど気にしないでね。いっそ、我こそは十二騎士の弟子なるぞーって威張ってもいいわ。」

「は、はい……」

 それで貴族が引くとは思えないけど……貴族かぁ。アンジュは例外として、何人か旅で知り合ったのがいるけど……みんな偉そうだったなぁ……

「あ、そうだ家族と言えば……もしかするとロイドくんはただの田舎者じゃないかもってフィリウスさんが言っていたわね。」

「えぇ?」

「ロイドくんの妹さんと何か調べてるみたいよ?」

「パムと? なんだろう……」



 妙な謎は残ったが……まぁそれは今度聞くとして、オレたちはカメリアさんとアイリスさんを正門で見送り、今度こそ寮に向かって歩き出した。さっきまであんなにいた全校生徒がすっかりいなくなった暗い敷地内をとぼとぼ進む。

「貴族が絡むとは、やはり王族は大変だな。ロイドくん、こんなめんどうくさいエリルくんよりも名門騎士のわたしでは?」

「あんたねぇ……」

「ふっふっふ。ああ、ところでロイドくん、一つはっきりさせたいのだが。」

「え、あ、はい。」

「きれいなお姉ちゃんのお店について確認したい。」

「びょっ!? だ、だからそれは小さい時の話で――」

「それはわかった。肝心なのは最後に行ったのがいつかという点だ。今もその光景が鮮明に残っているというのなら、まずはその記憶を消去する方法を相談しようではないか。」

「こ、怖い事を言わないでください……しょ、正直店の中の記憶はほとんどないよ。ああいうお店がそういうお店だってわかってからは入らないようにしてたから……」

「ふーん。じゃあロイくんはフィルさんがそういうところにいる時何してたの?」

 オレの前を歩くリリーちゃんがくるりと回り、後ろ歩きでぐいっとオレを下から覗き込む。か、可愛い――じゃ、じゃなくて……

「そ、そうだね……先に宿に帰ったり散歩したりしてたかな……」

「ほんとー? 町で知り合った女の子と一緒だったりしなかった?」

「……いやー……」

「……ロイくん……?」

「た、たまーにそういうこともあったかなぁと……」

「ロイくんてば!」

 プイッと前を向くリリーちゃん。そしてみんなからもジトッと睨まれ――


「どわっ!?」


 忘れた頃に――いや、油断していたところを攻撃されたというべきか。いつも通りの雰囲気にすっかり頭から抜けていた自分の現状。事あるごとにみんなに突っ込んでいってしまう非常に危険な状態。運命という名の抗い難き力によってすっ転んだオレは前を歩くリリーちゃんを後ろから押しながら倒れた。


「ひゃあっ!?」


 数時間前に連続で聞いた、あまり聞いてはいけないような気のするタイプの声……そのリリーちゃんバージョンが耳に届く。同時に顔を柔らかいモノが覆い、両手にも同様の感触が広がる。

 ああ、オレはまたしても女の子の胸に……いや、体勢というか身体の向き的に胸というのはおかしい気が……

 と、となるとこれは――!!


「はぅ――ロ、ロイくんてばぁん……」


 上に視線を移す。胸であったならリリーちゃんの顔が見える場所にあるのはクシャッとめくれたスカートと、その向こうで同様にめくれているシャツの内側から顔を出しているくびれた腰……

 これは――リリ、リリーちゃんのおお、おしり!?!?

「びゃっ、ごごごめ――」

「ひゃんっ!」

 柔らかな肌色を包むみ、見てはいけない白い布から顔を上げ、続けて手を離そうとした瞬間、手――というか指が何かに引っ張られた。

 見るとオレの指はリリーちゃんの下着のう、内側に入っており、そのまま手を動かしたことによってオレは――リリ、リリーちゃんの下着をグイっと引き上げたコトニ!!!!

「ひっぱったら――だ、だめだよぅ……」

 色気のある声と表情で身を震わせたリリーちゃん。下着を脱がす方向じゃなかった事は幸いと言うべきなのだろうが、しかし上に引っ張るとはつまり……そ、その下着をクイコマ……!!

「すすすいませんでしたっ!!」

「きゃんっ!」

 指にかかるリリーちゃんの下着をほどくと、下着はそのままリリーちゃんの肌にパチンとあたり、加えて元の位置より少し下にずれて――リリ、リリーひゃんのおお、おしりがチラリと!!


「んもぅ……ロイくんのえっちぃ……」


 めくれたシャツとスカート。あらわになる素肌とお尻と……ずれた下着。そして火照った顔で何かを我慢して震えながらもほほ笑むリリーちゃん――

 あ、ダメだ……理性が――とぶ――

「エロロイド!」

「ドスケベロイドくんめ!」

「ロ、ロイドくんだめ……!」

「ちょっとエッチすぎー!」

 ――前に、熱かったり冷たかったりする衝撃が身体を襲い、オレはそこから数メートルふっとばされた。




 田舎者の青年が四人の女子、三つの系統によって殴り飛ばされた頃、普段どこにいても立っている事が多いフードの人物が椅子に座って一息ついていた。

「その様子、ヒメサマの悪巧みの仕込みが終わったというところか。」

 薄暗い部屋の中、椅子に座るフードの人物の前に血の付いた白衣を羽織った老人が現れた。

『アフューカスの事だから一々説明はしないだろうが……まぁざっくり言えば今勢いのある悪党を後押ししたというところだな。』

「ツァラトゥストラ。ワレらの先輩にあたる悪党たちへヒメサマが与えた超常の人体部品。それを一度回収し、筋のいい連中に配って歩いたと。」

『なんだ、知っていたのか。』

「調べたのだ。お前の言う通り、ヒメサマは何も言わないからな。大方、ワレらが恋愛マスターの捜索をしている間のひまつぶし……か、悪党ここにありと忘れさせないためか。」

『さてな。そういうお前は何をしているのだ? 恋愛マスターの捜索はどうした。』

「ワレら、ヒメサマに勝手に付き従う悪党連中。命令はこなすが、しかしてワレらは悪党であるからな。たまに悪事をせんと調子が出ん。」

『お前の悪事というと?』

「ワレの場合は趣味が正義とずれておるだけだ。なに、ツァラトゥストラを見たら意欲が止められなくなってな。愛娘を完成させたくなった。」

『以前言っていた子供か。女だったのだな。』

「水溶液に裸体を浮かべるのだ。女である方が絵面が良いであろう?」

『よくわからないが……それを動かすのか? 場合によってはツァラトゥストラを手にした他の連中と時期がかぶってしまうが。』

「どちらかと言えば、その連中を相手にしたいな。」

『ほう?』

「ヒメサマが作った生体兵器……ぜひ、ワレの娘に競わせたい。」

『ふむ、科学者の性というやつか?』

「強い者に心を躍らせる悪党はいるが、ワレはそうではないぞ? 科学者もそういう者ばかりではないともさ。」

『では何故に?』

「そこに、ワレの知らぬ理論で形作られた作品があるからだ。」

『作品か。『ディザスター』たるお前のこれまでの悪事――いや、趣味はお前の作品なのか?』

「善行であれ悪行であれ、科学者とは自身が夢想する世界を技術という筆で描く者だからな。」




「そんな事してたの、あんた。」

 リリーにス、スケベな事をしたロイドを全員でボコボコにし、「ロイくんてばぁん……」しか言わなくなった壊れたリリーを部屋に放り込み、まだラッキースケベの力があるらしいロイドと二人にしまいとするローゼルたちを追い返し、そうして今あたしは……ロイドと部屋で二人きりになってた。

 寝る前のよくある状態……それぞれのベッドの上にペタリと座り込んでちょっと話をする状態になったあたしとロイド。さすがにこれだけ離れてれば恋愛マスターの運命の力も働かないわよね……

「あんまり他の人に話すのはどうかと思って……ごめん。」

 ロイドが電話みたいな機械でこそこそ話してた相手はマーガレットで、交流祭初日にマーガレットとキキョウをくっつける手伝い――みたいな事を頼まれてたらしい。妙にマーガレットと親しいっていうかなんていうか、あれはそういうことだったのね。

「いくらキキョウと仲がいいからって……あんたに恋のキューピットをねぇ……」

「オ、オレだってどうかと思ったぞ……! でもまぁ、マーガレットさんと試合する為の交換条件みたいに思えばいいかなぁと……」

「……それであの女と戦友になっちゃったわけね。」

「そ、そうですね……で、でも戦友だし、マーガレットさんはキキョウが好きだから大丈夫だぞ!」

「何がよ。」

「だ、だからそのー……マーガレットさんがオレを好き的な状態ではないよと……さ、さっきのパーティの時もマーガレットさんに挨拶に行ったけど転んだりしなかったし!」

 焦った顔でしゃべるロイド……て、ていうか二人きりのこの状況でその話題を引っ張り出すとか……!! たださえ「二人きり」っていうのを変に意識しちゃってるのに……

 ……こいつは……どうなのかしら……

「さ、さて……エリル、そろそろ寝ようか。なんだかんだで三日分の疲れがある気がするよ。」

 こっちはあ、あんなことされてからずっとモヤモヤっていうか……変な気分が抜けないのに、こいつはもうケロッとしてる――ように見える。いつも通りにちょっとしたことで赤くなってわたわたするだけのいつものロイド……

「あんたは――」

 部屋の電気を消そうと立ち上がりかけたロイドに、あたしは言った。

「あんたは……あ、あれだけの事があって……今、あたしとあんたは一つの部屋で二人きり……なのに……ふ、普通に寝ようと――」

「ふ、普通じゃないぞ!」

 我ながら、きっとむすっとした顔をしてると思うあたしに、ロイドは恥ずかしそうな顔を向けた。

「オレだってあんなことがあって――い、色々と意識しちゃうから……だ、だから早く寝るんです!」

「そ、そう……」

 意識してる……そうは見えなかったけど今のロイドはあんまり見ないロイドだわ……そっか、ちゃんと意識してるのね……

「ふ、ふぅん……ちなみにあんたは何を――あ、あたしのどこを意識してる……のよ。」

「えぇっ!?!?」

 ! あたし何聞いて……で、でも気になる……わね……

 前にロイドは言った。あたしを抱きしめ……た、たいっていう気持ちとかはあるって。あたしだってそういうのはあったりなかったりだし、だ、だからキスだって……し、したくなる時だってそこそこあるわ……

 他の女に何かやらしいことをしちゃった時はお、同じ事――を、あたしにする……っていう変なルールも決めて実際何回か……ででで、でもこれには……ロイド自身のよ、欲っていうか、そういうのがない……のよね……

 抱きしめたりキスしたりっていうのの先……ロ、ロイドはあたしの何を意識……そ、そういう気持ちがあるのならあたしのどどど、どこに触ってみたかったりなんなりスルノカシラ!?

「な、何をっていうか……えっと……いや、そもそも……あぁぁぁぁ……よ、よし! この際だから!」

 挙動不審にわたわたしたロイドは、沸騰しそうな顔でふと、何かを決意してあたしを見た。

「どこをと聞かれたら、も、もう全部としか言いようがありません! しょしょ、正直に言うと! あの時ホントにやばかったんです!」

「全部――て、ていうか何よいきなり。何の話よ……」

「エリルのスス、スカートから顔を出した後の話……」

「――!!」

「その……その時のエリルを見た瞬間どど、どうしようもない衝動が……れ、恋愛マスターが止めなかったらオレは――」

 恥ずかしさの頂点に達したみたいなむずむず顔でロイドはこう言った。

「――エリルを襲ってましたっ!」

 あたしを襲う――おそう……襲う!?!?

「は、はぁっ!? お、襲うって――」

「もちろん攻撃って意味じゃないからな! 男が女を襲うっていう意味だぞ!」

「――!!! ば、馬鹿じゃないの! そ、そんな事――」

「そんな事とかのレベルじゃなかったんだぞあの時のエリルは! 死ぬほど可愛くて息飲むほどエロくて――みんながいたけどそんなの関係なしに、オレはエリルを――こ、こねくり回す寸前だったんです!」

「うっさいうっさいうっさい! かわい――エロいってな、何言ってんの変態!」

「でもってこうして二人になったらあの時の感覚がじわじわと……もうなんというか――あれなんです! だ、だから早く寝るんです!」

「――!!!!」

 なによそれ……つ、つまりロイドはあの時あたしに――よ、欲情して――今もそうなりそうってこと!?

「でで、でもあんた普段――す、すっ転んだりとかしてあたし――とか他のにや、やらしいことしちゃう事あるけど……こ、こうやって二人の時は何もしないじゃない……!」

「それはが、我慢というか……だ、だってエリルが怒る――というかその……き、嫌われたら……嫌だから……」

「嫌いになんか――」


 !! ――ま、待って、待つのよエリル! この流れ、この空気でそれを言っていいの? い、いつもこいつは言ってるじゃない……あんまり――その、え、えっちな感じをされるとオオカミになるって……

 あたしが言いかけた言葉、これを口にしたらロイドは……あたしが怒らなくて、嫌いになんかならないって知ったらこいつは……自分で言うように止まらなく――なるんじゃないの……? もしかしたらこここ、事あるごとにそういうのが……

 でも……でもダメだわ……否定したいのと同じくらいに――ロイドが欲情したように、あたしだって似たようなモノ……

 だってあの時あたし……あのまま溶かされてもいいって……

 そして今、あたしに欲情してたって事を聞いて――それがすごく……普段何もしてこないけどちゃんとあたしに魅力を感じてるってわかって――

 嬉しく――思っちゃったんだもの……


「……嫌いになんかなんないわよ……」

「えぇっ!?」

「れ、恋愛マスターだって言ってたじゃない……あ、あたしはあんたが好きで……そ、そういう思いの行く先には――ああいうのがあるって……だ、だからあたしだってその……そういう気持ち――は、あるのよ……だ、だいたい前にも言ったじゃない……」

「そ、そうだけど……え、えっとエリルさん……? かか、確認するけど、お、男であるオレを前にじ、自分が何を言っているかわ、わかってますか……?」

「わ、わかってるわよ! あんたこそ、実は欲情してましたなんてバカ正直に言ってんじゃないの!」

「い、いや、こっちは過去の話というか――で、でも今のエリルのこ、言葉はその、この先の――」

「な、何よ今更……人のスカートの中に頭を突っ込んであ、あんなとこにかか、顔を押し付けておいて……!」

「ひぐ!」

「お、お尻までまさぐって……しまいにはあたしのパ、パンツ――脱がそうとしたじゃない……!」

「脱がっ!?!? ち、違います! あの、て、手をバタバタさせてたらその――ひ、引っかかったんです! そ、そう! さっきのリリーちゃんのみたいに!」

「どっちだって同じじゃない!」

 ああ……ダメだわ……いつもなんとなく思ってて、でも外には出した事のない感情が……言葉になってとめどなく出てくる……

「そ、それでも――た、例え偶然でもあ、あんなにやらしい事をされてもあたしは……こ、こうして……あんたと二人きりの部屋にいる――のよ……」

「ソソ、ソレハ……」

「もちろん……あんたじゃなかったら……こ、こんな風にはならないわ……」

 言っちゃった……言っちゃったわ! あ、あたしなんてやらしい女……! で、でもこれがあたしの本心……他の女とそういうの――さっきみたいにティアナとかリリーとかローゼルとかアンジュとかにしてるの見たらあたしは……

「え、えっとつまりその……エ、エリルはオレに、い、いやオレになら……ヤヤ、ヤラシイコトを――ささ、されてもヨロシイト!?」

 上ずったカタコトで、だけどハッキリと言葉にされて恥ずかしさが倍増――で、でも!

「い、いつもローゼルとかリリーが言ってる事じゃない! 自分はあんたのモノとかなんとか――な、なによ今更そんなに赤くなって!」

「威力というか状況というか! ちょっと色々と違うと言いますか! エ、エリルが言うとヤバいのです!」

「な、なにがヤバいのよ!」

「そそ、そりゃだってエリルはオレの……そ、その、好きな人――だから、影響が段違いと言いますか――一番ソソソ、ソウシタイと思ってしまう相手なんです!」

「――!!」

 な、なにこれ……好きって言われたときみたいな嬉しさ――ってなに嬉しく思ってんのよ! やらしい事をしたい一番の相手って言われてるだけじゃな――

 …………一番……?

「…………ちょっと聞くけど……ティアナの胸に触った時、あんたティアナに……ヨ、ヨクジョー……したの……?」

「びぇぇっ!?!?」

「リリーのを覗いた時、ローゼルのを揉みしだいた時、アンジュのあんな場所にキスした時、でもってさっきのリリーのも……どうなのよ……」

「――!! たた、多少は……い、いえその……か、かなり……」

「……誰にでもそうなるんじゃない……」

「誰にでもってわけじゃないですから! す、好きな女の子とそういう感じになっちゃったらなってしまうと言いますか!」

「浮気者……」

「は、はひ……」

 本当に……客観的に見たら最低だわ。他の女も好きだなんて……だけどこいつは、好きっていうのも含めた「愛情」っていうのをくれたり、与えてたりした相手が一晩でいなくなった経験があって……だ、だから許すってわけじゃないけど……まぁ、こういうところもこいつだし……

「……でも中でもあたしが好き――だから……あたしに対しては……ヨ、ヨクジョーの仕方が違うって……こ、こと……?」

「そ、そうなりますかね……」

「ふ、ふぅん……」

 顔を赤くする裏にはちゃんと男の子的なや、やらしい考えもあって、中でもあたし相手だと……あたしがい、一番だからより一層に……

 ちょ、ちょっと待って……そ、それはそれとして――あ、あたしさっきされてもいいって言ったけど……な、何をされるのかしら……

「……い、一応聞いておきたいんだけど……えっと……た、確かにヤ、ヤラシイコトを……ま、まぁあんたにならそれなりにそこそこに気が向いた時にくらいは許してあげてもいいかもしれないような気がするわけだけど……ぐ、具体的にどど、どんなことをする……のよ……」

「えぇっ!?!?」

「た、例えばあんた、さっきあたしを襲いそうだったって言ったけど……こ、こねくり回すとか……つ、つまりどうしようと……してたのよ……」

「そそ、それを言うのか!? 本人に!?」

「あ、あたしはその……その内襲われるかもなんでしょ……? こ、こころの準備がいるわ……だから言いなさいよ……」

「――!!」

 これ以上ない赤さになるロイドだったけど……ふと、何かが切り替わった。

「ずずず、ずるいぞオレばっかりに――は、恥ずかしいこと言わせて! エリルも何か言うんだ!」

「は、はぁ!? な、なによそれ! あ、あたしは――あの時死ぬほど恥ずかしかったんだから!」

「オ、オレだってそうなんだからおあいこだ! ほ、ほら、エリルだってこんな話をするってことは――い、意識してるんだろ!」

「――!! ……そ、そうよ! なによ、してるわよ!」

「じゃ、じゃああの時エリル――なな、なんかすごくかわ、かわいい声出してたけど! あ、あれはどうしてなんだ!」

「は!?!?」

 かわいい声って――アンジュの裸エプロンの時もそうだったけどもしかしてこいつって声に――じゃ、じゃなくて――はぁ!?!? どど、どうしてってそんなの……!

「ひゃんとか言ってたろ! どど、どうしてあんな声が――出ちゃったのでしょうかエリルさん!」

「――!!! く、くすぐったかったからよ!」

「ほ、ほほー! な、なら次! オレと同じようにや、やらしいのを意識してるのなら――オ、オレとどんなことしし、したいんですか!」

「し、したいなんてべべ、別にあたしはそんな――そんなん言えるわけないでしょバカ!」

 な、なにこれ……いつも恥ずかしい事を言って真っ赤になるのはロイドなのに……きょ、今日に限って反撃なんて……

 い、いえ……つ、つまりロイドがそうなっちゃうくらいにこれは恥ずかしいってこと……

「ど、どうだ! 恥ずかしいだろ!」

「――!! わ、わかったわよ!」

 反撃したロイド……き、きっとこれはもう、こいつが言うところの――オオカミ一歩手前……なんだわ、たぶん……

 こ、このまま続けたらあたしはロイドに……い、嫌じゃないけどやっぱりもうちょっとムードっていうか――なな、何考えてんのあたし! あたしバカ!

 で、でもこれは大事なこと……だわ……オオカミロイドがどういう風かわかんないけど……い、一応言っておこうかしら……

「どどど、どんな事したいかなんて言えないけど……い、一個だけ……」

「ほぇ!? い、いやエリル――オレが悪かったからもう――」

「あ、あんた相手でもや、やっぱりその、こわい――から……だからその……」

「ちょ、ちょ! ちょっと待ったエリル! そ、その先は言わな――」


「あ、あんまり乱暴には――しないで欲しいわ……」


 あたしもそろそろ恥ずかしさの限界で、ロイドの方なんか見ずにそう言った。そしたらなぜかロイドは何も言わなくて……え、あれ……あたしなんか変な事言っ――え? なんで部屋の電気が消え――


「きゃっ!」


 突然両の手首に力が加わり、あたしはボフンとベッドの上に倒れた。前――っていうか上にはあたしの手首をつかんでるロイドが――ロイド!?

 え、あたし、今――ロイドに押し倒されてる!?

「……さ、さっき言っただろ……自分が何言ってるかわかってるかって……」

「は!? え!? い、いきなりにゃによ!」

「それと何回も……あんまりそうだと――オオカミになるぞって……」

「!! あ、あんた……」

「さっきの言葉……ら、乱暴にしないでとか……起爆剤としては相当な威力なんだぞ……だから……我慢の限界っていうのもあるけど……こ、ここは一つ、お、男の怖さというのを――お、教えてあげましょう……!」

「は!?!?」

「つまり――お……オシオキデス!」

 おしおき!? え、あたしやり過ぎた!? オオカミ寸前って思ったけど、とっくになってたってこと!?

 じゃじゃじゃ、じゃああたしは今から――で、電気も消してるってことはやっぱり――今日、ここで、あたしは、ロイドに――ロイドと――!?!?

「そいやっ!」

「きゃあ!?」

 ロイドの顔が迫ってきてキス、もしくはローゼルにしたみたいな事が起こる――そう思って目をつぶったら身体がぐわんと揺れ……っていうか回転して、あたしはあたしの布団の中に放り込まれた。

「は、へ? ちょ、なによこれ――」

「お、お邪魔します!」

「はぁっ!?」

 布団の中に転がるあたしの横にロイドが並ぶ。つまりロイドがあたしの布団の中に入ってき――!?!?

「ば、ばか! なに入ってきて――みゃああっ!?!?」

 蹴飛ばそうとしたけどそれよりも速く、ロイドは正面からあたしを抱きしめた。しかもいつも以上の力で、まるで締め技でもかけるみたいに――いえ、これはあたしを逃がさないための……!

「今日はこのまま寝ます!」

「はぁっ!?!? 何言ってんのバカロイド!」

「だ、だからお仕置きだ! 男の腕力というのは怖いんだぞ!」

「な――あ、あんたホントにバカね! あんたは魔法も使えないヘロヘロだけど、あたしは使えんのよ!? 炎でも強化でも、今のあんたなんかどうにでもなるわよ!」

「あれ!? あ、そ、そうか――じゃ、じゃあこれならどうだ! ふー!」

「ひゃああああ!?」

 正面から抱きつかれてるからロイドの顔はあたしの真横に来てて、そんな近距離でロイドは――あ、あたしの耳に息を吹きかけた。

「こういうのに弱い女の人がいるってフィリウスが言ってたからな! エリルにも効果はありそうだ! ふー、ふー!」

「ふぁああああ!? ちょ、やめ――あぁ――」

 だ、だめ、集中できない――あの時みたいに頭の中が溶ける……!

「あとは――よ、よし! さっきの質問に答えてあげましょう! これで一晩中恥ずかしい思いをするといい! ふー!」

「はぁ――んん――な、なによさっきの質問って……」

「だ、だからその――エ、エリルに何をしようとしたかってやつだよ!」

「――! ここ、こんな状態で!? や、やめなさいバカ!」

「ふー! えっと、まずは……あ、あの時のエリルはスカートがめくれてたから――」

「ひゃ――ちょ、待ってホントにやめ――」

「し、下着――いや! エ、エリルのパパ、パンツがちょっと見えてたから! ままま、まずはそれをよく見たいと思いましてですね!」

「ばかばかばかばかばか!!」

「そうしてスカートをめくり切ったら、きっと次はティアナやローゼルさんの事もあって――お、おそらくオレの目はエリルの胸に――ふー!」

「うっさいうっさいうっさああぁぁ!? バカロイドエロロイド!」

「うねうねともも、揉みしだいたならば! きっと直接見たくなるからボタンを外しにかかったでしょう!」

「みゃああああああっ!!!」


 全身を包むロイドの体温。かつてないほどに密着させる腕。耳にかかる息。死ぬほど恥ずかしくなる呪文。身体に力が入らない上に頭の中はめちゃくちゃ。魔法なんて使えるわけがない。

こんなことをロイドにされる――っていうかロイドができるなんて思ってもみなかったけど、そこら辺があまかった。

 とにかくその日、四校合同イベントの交流祭の最終日、お祭りの後の夜。あたしは翌朝身動き一つできなくなるくらいに、ロイドのお仕置きによってコテンパンにされた。

 ……ロイドの……くせに……!

 …………バカ……

色々な技を持つキャラクターが登場し、今後どこかでつなげられそうな伏線モドキのようなモノを散らしていきました。

他校の生徒の次の登場はいつになるかわかりませんが、ひょっこり出したいですね。


そして一時的に「ラッキースケベ」となったロイドくんが色々やらかしました。

第七章はそんな彼らのドタバタと、裏で動いていた悪党のお話です。

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