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騎士物語  作者: RANPO
第六章 ~交流祭~
39/113

第三十七話 挑む者たち

色々な人が色々な事に挑み挑まれるプロローグです。

「輝け! ブレイブアーップ!!」

 ランク戦でやっていた口上を告げ、四校の生徒が見ている前で堂々とブレイブナイトと名乗ったカラードは試合開始の合図と共に、その白銀の甲冑を黄金に変えた。

 最長で三分。正義の騎士とリゲル騎士学校の生徒会長の戦いが始まった。

「貫け! ブレイブチャァァジッ!!」

 一閃。黄金に輝く一条の光となったカラードがゴールドさんに突撃する。が、直後凄まじい威力の衝撃をまき散らして、その突進は止まった。

 サマーちゃんのコンサートでも見せた魔法――もしくはそういう武器だったりするのかもしれないが、ゴールドさんの見えない壁によって一撃を止められたカラード。しかしそうなるや否や、カラードは手にしたランスを空中に置き去りにして一瞬でゴールドさんの背後にまわった。

「!」

 オレも経験した事があるから気持ちはよくわかるのだが……ランスを手放して本人だけが移動するというのを想定していなかっただろうゴールドさんが驚いた表情で振り向く。

 しかし、時既に遅し。

「撃ち抜け! ブレイブブロォォッ!」

 何かが砕ける音を響かせならが、カラードの拳がゴールドさんを殴り飛ばす。砲弾のような速度で壁に叩きつけられたゴールドさんに向け、まだ落下していなかったランスを手にしたカラードは――

「射抜け! ブレイブストライクッ!!」

 これまた砲弾のような速度でランスを投擲――すると同時に自身もゴールドさんの方へ駆け出す。

 だが、ここでオレに――あとたぶんカラードにも予想外の事が起きる。投擲したランスがカラードの後方の壁に突き刺さったのだ。

 何らかの魔法ではね返されたのか、速すぎてよくわからなかったが……しかしそれで脚を止めるカラードではなく、全力疾走の威力をそのままにドロップキックの態勢で突っ込んでいった。

 さっきのブレイブチャージの時ほどではないが、金属同士が激しくぶつかり合ったような音がして、カラードのキックはゴールドさんの見えない壁に止められた。

 カラードは……おそらく止められる事を予想していたのだろう、そのまま脚をバネにして見えない壁を蹴り、ランスの方へと跳んで戻った。ランスが突き刺さった壁に着地しながらそれを回収し、再び壁を蹴ってゴールドさんへと突撃し直すカラード。

 言葉で説明するとそうは感じないが、カラードが見えない壁を蹴り、ランスを回収して再度突撃したこの流れはほんの一瞬の出来事であり……スクリーンを通して見なければ闘技場を端から端へ光が往復したようにしか見えない。

 再度の突撃も見えない壁に止められてしまったが、今度はその壁の前から移動せず、カラードは槍を構える。

「刻め! ブレイブラーッシュッ!!」

 超高速で繰り出される突きのラッシュ。壁を背に、見えない壁を展開してカラードの攻撃を防ぐゴールドさんは――しかし、特に焦った様子でもなかった。


「ふふふ。ゴールドくんが両手を前に出して頑張って防御している光景はなかなかレアだね。」

 カラードの開幕速攻によって実況のパールさんも何も言えずにいた十数秒。ようやくラッシュの攻防によって観客の人たちが声を出す時間が出来たところでデルフさんが笑った。

「ゴールドくんの二つ名の『エンドブロック』の所以はね、ありとあらゆる攻撃が彼に届く前に見えない壁によって止められてしまうからなんだ。防御力という点において、彼はこの四校の全生徒の中で最強だろうね。」

「壁……なんとなく……あれって空気――ですよね?」

「おや、さすが第八系統の使い手だね。その通り、彼の見えない壁の正体は尋常でないレベルまで強化された空気さ。ちなみに言えば、彼の得意な系統は第一系統の強化だ。」

ポリアンサさんと同じか。第一系統は割と誰でも使えるから、それが得意な系統だと軽く見られるという事があるらしいのだが……誰だそんな事言い始めたのは。

「しかし、やはりレオノチスくんはすごいね。自分の一撃が止められてもひるむことなく、まさかのランス手放しで背後に回って放ったあの一撃。ゴールドくんも反応はできていたけど、あのパンチを防ぐだけの硬度を持った壁を作るのが間に合わず、結果、もろい壁しか作れずに殴られてしまった。」

「あ、やっぱりさっきの音は壁が砕ける音でしたか。」

「うん。そしてその後もセンスが光っていたね。投擲したランスが戻って来たのは、ゴールドくんが曲がった壁でコースを作って向きを変えたからだけど、その後のドロップキック……きっとランスを回収する為にゴールドくんの壁の利用を前提にした攻撃だ。キックで壁が砕けるのなら良し、砕けずともそのまま跳躍すればランスを回収できる――あの一瞬でこの判断は素晴らしいね。」

「魔法を使わないでランク戦の準決勝まで残るような実力ですからね……」

「有無を言わせない攻撃力、高い戦闘技術にバトルセンス。セイリオスの――いや、この国の未来は明るいね。」


「これだけの強者を相手に防戦一方では勿体無い上に生徒会長として格好が悪い。三分待つような恥はさらすまい。」

 デルフさんがおじいさんのような事を言ったあたりで、ゴールドさんが口を開いた。すると、見えない壁を砕かんとラッシュを続けていたカラードがふと何かに気づき、その場から後退する。

 直後、カラードが立っていた場所が陥没した。

「『コンダクター』のような速度や機動性は無いが――自分も、複数のモノを同時に操る攻撃を得意としている。堪能してくれ、ブレイブナイト。我が『ヘカトンケイル』を。」

 カラードが回避行動を始め、それに一瞬遅れて地面が砕かれていく。


「ゴールドくんは自分が強化して固めた空気の塊をブロックと呼んでいてね。それが二つ名にもつながるわけだけど、ブロックはああして盾以外にも使えるわけだ。簡単に言えば、見えないハンマーを振り下ろされるような感覚かな。」

 たぶんブレイブアップで強化した眼で見えないはずのブロックを捉えているのだろうカラードは、さっきまでの猛攻から一転して防戦一方になった。ブレイブチャージなんかを防ぐわけだから硬度がすごい事は確かだが、そうは言っても空気なわけだから重さはないはず……いや、それならカラードの一撃を受け止められるはずはない。でもどんなに重くてもカラードの攻撃でびくともしない重さを空気に与えることなんてできるのか……?

「硬いだけでどうして防御できるのか悩んでいるね?」

「……相変わらずこころを読みますね……はい、そうです。」

「簡単は話だよ。サードニクスくんガールズのトラピッチェくんお得意の第十系統さ。」

「ガールズ……え、じゃあゴールドさんは位置魔法を?」

「不思議な事ではないよ。第十二系統を除いて、全ての人は第一から第十一までの系統は使えるのだから。勿論、得意でない系統についてはそれ相応の修行が必要だけれどね。」

「……んまぁ、ポリアンサさんみたいな人がいるんですもんね。」

「彼女は一種の天才だからあれだけど……セイリオス学院が全ての系統を満遍なく教えるのに対して、リゲルはその生徒の武器や性格、特性なんかから教える系統を絞って教育する方針があるんだ。あの学校の生徒は大抵、複数の系統を組み合わせる戦い方をするね。」

「系統を絞っている分、修行も集中してできる……リゲルの卒業生がみんな実力者っていうのの理由の一つがそれなんですね。」

「そうだね。」


「良い動きだ。速度も瞬発力も素晴らしい。ならばこれはどうする。」

 ゴールドさんが勢いよく手を叩く。するとカラードは動きを止めてランスを地面に突き刺し、両腕を左右に広げた。ガキィンという音が響き、カラードはその場から動かなくなる。

 見えないからわかりにくいけど……たぶん、逃げ場がないくらいに巨大な壁に左右から挟まれている。自分を潰そうとするその壁を、全力で押しとどめているのだ。

「――っ! 煌めけ! ブレイブアーップッ!!」

 カラードの金色の甲冑が輝きを増す。

 カラードのブレイブアップの効果時間は三分間だが、それは重ねがけをしなかった場合だ。例えば三分の内の一分を代償に更なるパワーを得る――なんてことができる。

 今、カラードが残り時間のどれだけを代償にしたのかはわからないが……おそらく、この戦いで全てを出し切る事にしたのだ。

「ブレイブブロウッ!!」

 左右に伸ばしていた腕を引いてクロスさせ、右手で左を、左手で右の壁をパンチするという無茶な動きをしたカラード。

「ブレイブゥゥゥ――」

何かが盛大に砕ける音が響く。おそらく左右から迫る壁を破壊したのであろうカラードは、ランスを手にして一直線にゴールドさんの方へ駆ける。

「チャァァァッジッ!!」

 叫びと同時に、その叫び声を遥かに超える速度の光と化したカラードの一撃は――


 ガキュゥンッ


 ――という聞きなれない音を散らして再び阻まれた。

「君であればあの壁は壊すと思っていた。」

 見えない壁の奥、ゴールドさんはメガネをくいっとさせてカラードに告げる。

「圧倒的なパワーとスピードの前では自分のブロックがまだまだ未熟であると学べた。感謝しよう。お礼として、君の弱点――純粋な戦闘力の塊である君が今後警戒すべき類の技を見せよう。」

 何かを感じたのか、それとも次の一手に移ろうとしたのか、見えない壁からカラードが一歩下がった瞬間、闘技場内に爆音が轟いた。突風が吹き荒れ、観客席が騒然とする。

「自分の交流祭が今年で終わる事を残念に思う。」

 ゴールドさんの呟きを合図にしたかのように……見えない壁の前に立っていたカラードはガシャンと大の字に倒れた。


『…………は! あ、えぇっと――し、試合終了です! しょ、勝者、ベリル・ゴールド選手!』



 時間にしたら一分と少しだろうか。あっという間に終わった試合になんとなく物足りなさを感じてそわそわしている観客を横目に、オレとデルフさんは選手が出て来る出口に向かった。

「んお、会長じゃねぇか。」

 当然と言えば当然にそこにはアレクもいて、三人でしばらく待っていると、カションカションという音と共に全身甲冑姿のカラードが出てきた。

「やあレオノチスくん。良い試合だったね。」

「生徒会長? 観ていてくれたのですか。」

「うん。でもって――もしかすると何を受けて負けたのかイマイチわかってないかもと思い、可愛い後輩の為にこうして説明しにきたのだ。」

「おお、そうだそうだ。上からじゃわかんなかったんだが……おいカラード、お前何をくらったんだ? 甲冑着こんでるお前が甲冑に傷一つ無い状態で気絶ってどういうことだよ。」

「生徒会長の言う通り、正直おれにもよくわからない。一撃――一瞬で意識を断たれた。」

「やっぱり。じゃあ説明するけど、実はレオノチスくんが受けた攻撃のエネルギーはレオノチスくんのモノなんだ。」

「カラードの攻撃をカラードが受けたって事ですか……? つまり……カウンター?」

「その通り。ゴールドくんの得意技の一つでね。空気で作ったブロックを組み上げ、一つ一つに絶妙な硬度調節を行うことで――いわば衝撃吸収装置を作り出すんだ。」

「衝撃吸収……そうか。最後の一撃、妙な手ごたえと思ったのはそのせいか。」

「そして吸収した衝撃を空気を媒介にしてそのまま返す。甲冑を着こんでいても、その内側には空気があるし、むしろ閉ざされた空間に衝撃が走ると反射を繰り返して威力を増してしまう。結果、レオノチスくんは意識を断たれたのだね。」

「カウンターか……パワーでごりごり行く俺とかカラードには確かに弱点かもしれないな。」

「ふふふ。勿論、ゴールドくんの衝撃吸収にだって限度はあるからね。相手がカウンター使いであろうと、カウンターできないほどのパワーであれば問題はない。見極めが大切だね。」

「色んな魔法があるんだなぁ……ところでカラード、パワーは三分間分使い切ったのか?」

「もしもそうならこうして歩いて出てこれていないさ。」

 ん? 言われてみれば……そういう場合は誰かが連れ出してくれるんだろうか?

「使い切るつもりで突撃したのだが……ああして一瞬で意識をとばされたからな。ざっくり一分は残っているだろう。」



 あのまま交流祭をまわるつもりなのか、甲冑を着たまま、今度はアレクの対戦相手を探しに行くと言う……エリルが言うところの強化コンビと別れ、デルフさんもぶらぶらすると言ってふらふらといなくなった。

 再び一人になったオレは……さて、どうしようか。




 回転剣、トリアイナ、スナイパーライフル、短剣、魔法格闘、ランス。割合的には一番多いはずの「普通の剣士」がそういえばあたしの周りにはいないと思って……ふと目についた、剣を腰にぶらさげた他校の生徒に勝負を挑んでみた。

 相手は二年生だったんだけど、セイリオスでのランク戦、一年生優勝っていうのが結構効果あるらしくてそいつはあたしの挑戦を受けた。

 プロキオンの生徒で得意な系統は第七系統の水魔法。ついでに魔眼持ち。

 まぁ、魔眼持ちだってことは試合中にわかったんだけど…………なんていうか…………


 弱かった。


「そりゃー贅沢な悩みだよー、お姫様。」

 不完全燃焼で歩いてたらたまたま近くで試合をしてたらしいアンジュと合流した。アンジュは……案の定っていうとアレだけど、リゲルの生徒にからまれて試合をして――ボコボコにしてきたらしい。ちなみにこっちも相手は二年生。

「あたしはほら、一応貴族のお嬢様なんだよー。」

「知ってるわよ。あたしは王族よ。」

「うわぁ嫌味な返しー。でね、そんなお嬢様なあたしの強くなりたいってお願いを聞いて鍛えてくれたあたしの師匠が言ってたんだー。人が強さを得るのに必要なのは、毎日の訓練とある日ある時ある一瞬の刺激だってねー。」

「刺激?」

「小さい頃から毎日家の道場で修行して、今は毎日騎士の学校に通って……でもそうやって出来上がるのはまぁ強い騎士が限界なんだってさー。ホントーに強い騎士は全員が何かしら、「強さ」ってゆーのを実感する体験をしてるんだってー。」

 ……ポステリオールに会った時に先生が言ってたわね。あたしたちはいい経験をしたって。倒すべき敵の頂点に立つ連中の強さを知ったって。目指すべき目標を……得たって。

「あたしは途中からだけどさー。朝の鍛錬もそーだけど、ロイドが来てから色んな事を経験してるでしょー? お姫様と優等生ちゃんはA級犯罪者の襲撃を受けて、その後『ビックリ箱騎士団』は魔法生物の侵攻を経験して、夏休みにはS級犯罪者に会ったりさー。でもってあたしが加わった後は魔人族の国に行ったし、そこで世界最強の生き物って言っても過言じゃない女王様とS級犯罪者のバトルを見たでしょー? もー刺激だらけだよねー。」

「……ついでに言えば、ロイドは十二騎士直伝の技を教えてくれてるし、最近はバカみたいに強いカラードも加わってるわね。」

「そーそー。要するに、あたしたちってたぶん、すごくいい環境ですごく順調に強くなってるんだよー。とりあえず、セイリオス一年生のトップランカーに全員が入るくらいにはさー。一年生最強と二年生の普通じゃあ、もしかしたら勝負にならないのかもでしょー?」

「そう……かもしれないわね。」

 強くなってる。でもあいつは……ついさっき、カペラ最強の生徒と戦って更に刺激を得てた。あたしよりも早く、ドンドン……強くなってく。


『互いの夢を――壊さない為に。』


 ちょっと前に聞いた先生の言葉が頭をよぎる。順調に強くなってくあいつの邪魔に、いつか自分がなるかもしれないっていう……不安が、その言葉によって引っ張り出される。

「……」

「? お姫様?」

 ……まぁ、考えたってしょうがないわ。そうよ、その内本人に相談したらいいんだわ。あたしとあいつはこ、恋人なんだから。

「……アンジュ、あんたってなんでロイドが好きなの?」

「いきなりだねー。まー、現状、ロイドの彼女になってるお姫様からしたら気になるのかなー?」

「ランク戦の時にいきなり現れて、ロイドが欲しいってあたしに勝負を仕掛けて……ロイドが友達になろうって言ったら好きって……」

「んー、あたしは結構段階踏んで好きになってると思うよー。将来有望過ぎるロイドをあたしの騎士にしようって思って、もっと良く知ろうと思ってじーっと見てたらなんかいっつも女の子に囲まれちゃってて……何がいいんだろうってそういう目でも見るようになって……それでランク戦っていうチャンスが来たからお姫様からロイドを奪おうって思ったらなんかスカートペロッてしちゃって――」

「はぁ? あ、あれをそんな――なんとなくでやったわけ!?」

「そうだよー。やった後、部屋に戻ってどうしてあんなことしたんだろーってジタバタしたんだからねー。でもつまり、その時にはそれくらいしてもいいくらいにロイドが欲しかったんだよねー。騎士としても……男の子としても。」

「……質問の答えになってないわよ。」

「そう言われてもねー。好きなモノは好きなんだからしょうがないんだよー。」

 ニンマリ笑うアンジュ……仮にあたしたちが恋愛マスターの運命操作で集められた――ロイドの事をすごく好きになっちゃう人だとすると……

 運命の相手って、そうであればあるほどに好きになる理由がよくわからないのかもしれないわね。

「あ、商人ちゃんだ。」

 我ながらなんだか恥ずかしい事を考えてたら、ふらりと視界に入ったリリーをアンジュが指差す。

 結構そういうところがあるんだけど、リリーはあたしたちと一緒にいない時や商売中じゃない時、すごく……冷たい顔をしてる。

 まぁ、誰だって近くに何もなければ無表情だろうけど、普段あたしたちが見てるリリーとの落差がすごく大きいのよね。

「リリー。」

「エリルちゃんとアンジュちゃん。あれ、試合は終わったの?」

「拍子抜けにねー。商人ちゃんはー?」

「リゲルの三年生と戦って来たよ。」

「三年!? すごいわね。」

「んー、正直ちょろかったよ。」

 愛用の短剣をくるくるさせて、リリーは何でもないようにそう言った。

 朝の鍛錬の時に感じるけど……元暗殺者――のリリーの攻撃はあたしたちのそれとは種類が違う。攻撃して倒そうっていうんじゃなくて、気づかれる事無く一撃で……命を絶つ……そんな攻撃をリリーはする。寸止めはしてくれるけど、模擬戦でも普通に急所を狙ってくるし……『暗殺商人』は伊達じゃないわね。

「どこかの正義の騎士みたいに全身甲冑とかでない限り、試合開始と同時に終わりだね。」

 たぶんその三年生も、持ってる技とか魔法はすごかったんだろうけど、それを披露する前に終わっちゃったんだわ……

「というか二人とも随分近くにいたんだね。この街広いのに。」

「特に目当ての相手がいないんだし、目についた相手に挑んでれば自然と近場になるわよ。」

「あたしは挑まれた……っていうかナンパ? だったけどねー。商人ちゃんは?」

「ボクも挑まれた方。なんかかわいいねーって声かけてきたけど、見るからに弱そうだったからそう言ったら試合する事になった。」

「はぁ? なにそれ、あんたたち二人とも……その、ナンパから入ったわけ?」

「どっちもリゲルだしねー。やっぱりそういう学校なんじゃなーいー?」

それもあるだろうけど……つまり、やっぱり二人は男子からしたら「かわいい女子」ってことよね……ローゼルとか今頃どうなってんのかしら。

「……残りの二人も近くにいそうね。ちょっと探してみようかしら。」

 アンジュとリリーがどうだったかはわからないけど、あたしは一番小さな闘技場で試合をした。あれは本当に観戦者は身内だけって感じのサイズで、試合をしてる所の入口には「使用中」って文字が出るだけだし、ギャラリーを気にしないで戦いに集中できる場所だった。

 対してロイドがさっき使ってた一番大きいのとか中くらいのは観戦ありきって感じで、使ってると外に誰が戦ってるのかが表示される。

 そんなこんなで、エリアで言うとカペラに近い辺りをうろうろしてたら、カペラのエリアにある中くらいの闘技場にティアナの名前を見つけて驚いた。

「わ、結構人いるよ? ティアナちゃんって実は人気者なの?」

 八割くらいの席が埋まってる観客席から見下ろすと、ティアナが鳥――っていうか鷲か鷹みたいな脚で相手を蹴り飛ばしてるのが見えた。

 第九系統の形状、その中でも上級魔法に数えられるのが『変身』魔法。上級――セラームレベルの騎士になると、自分が想像した姿に『変身』する事もできるらしいその魔法を、ティアナは身体の一部っていう範囲だけだけど使える。

 人間とは比べ物にならない運動能力を持った生き物の脚とか腕に自分のそれを『変身』させた、本来距離をとって戦うべき狙撃手であるティアナは近接戦でも強い。

「スナイパーちゃん、近くで格闘始めたかと思ったらいきなり生やした尻尾でこっちを遠くに放り投げてスナイパーライフルを構えたりするからねー。優等生ちゃんの氷以上に変幻自在だよねー。さすが『カレイドスコープ』って感じかなー?」

 相手もティアナの銃と似たようなモノを持っててパンパン撃ってるんだけど、たぶん全弾見えてる上に人間以上の身体能力で軽々かわす。そして左手に持った拳銃で相手の銃を撃ち落とし、強靭な脚で一気に距離をとって右手に持ってたスナイパーライフルを構えて――撃つ。目の前で殴られたみたいに相手がふっとび、そこで試合は終わった。

「あ、ありがとう……ござい、ました……」

 脱いでた靴と靴下を回収して、ティアナはそそくさと闘技場の外へ向かう。あたしたちは外に出て、そんなティアナを出口で待った。

「あ、あれ、みんな……」

「やー、スナイパーちゃん強いねー。ギャラリーも沸くわけだねー。」

「そ、そんな……へ、『変身』が珍しいだけ、だよ……」

「もしくはティアナちゃんの生足目当てかもよ?」

「なまあし……」

 ニヤニヤ顔のリリーの言葉を受けてまじまじと自分の脚を眺めたティアナは――

「ロ、ロイドくん……こういうの好き、かな……」

 と言っ――な、何言ってんの!?

「……前々からそうだけど、ティアナちゃんって割かしエッチだよね。」

「リ、リリーちゃんには言われたく、ないよ……だ、だってロゼちゃんとか、け、結構すごいから……あ、あたしも頑張んないと……」

「ひ、人の恋人――の篭絡作戦をたててんじゃないわよ……!」

「ボクからしたらエリルちゃんこそ、ロイくんを横取りした泥棒猫ちゃんなんだけど。」

「……あんたの顔、セイリオスで初めて見たって言ってたけど……?」

 いつもの文句の言い合いだけど、いつも圧倒的なむね――攻撃力で仕掛けてくるローゼルがいないと割と平和――

「あ、ロゼちゃん。」

 うわさをすれば……ってなにあれ。

「うわ、優等生モード全開だね。」

 濃い青色の髪をなびかせ、モデルみたいな歩き方ですっすっと歩いてくる美女。いつだったか、いつもつけてる白いカチューシャは女神の光輪なのだーとか男子の誰かが言ってたわね。とにかく、そんな感じの高嶺の花の塊が両手いっぱいの花束と共にこっちに歩いてきた。

「おや、おそろいで。みな、試合は終えたのか?」

「そうよ……っていうか何よそれ。」

「うむ。わたしたちは他校が校内で行っている模擬戦の映像など見た事なというのに、ランク戦のそれは各校に広まっているというのだから、さすがのセイリオスという事なのだろう。」

「何の話よ。」

「ランク戦の映像でわたしを見た他校の生徒が、「付き合って下さい」やら「お姉さまと呼んでもいいですか」やら言いながらこういうモノを渡してきたのだ。」

「うわー、絵に描いたような人気女子生徒だねー。」

「正直困るのだがな。」

 そう言うと、ローゼルは両手に抱えてた花束をドサッと地面に落とす。ちょっと意外な行動だったんだけど……あたしたちを前にしていつものローゼルに戻ったローゼルの表情はめんどくさそうな顔だった。

「ランク戦の映像という事は、みなが言うところの優等生モードのわたしを見てこういう贈り物をしようという気になったのだろう? つまり、これはわたし宛てであってわたし宛てではない。」

「そんなこと言ったって……あんたが猫かぶってるのか悪いんじゃない。」

「まぁ確かに、そういうのがクセになっているわたしもわたしだろうが……しかし出会ってすぐにわたしから猫の被り物を取っ払ってしまう男の子もいるのだから、キチンと見抜けないままにプレゼントを贈る面々もどうかと思うぞ? わたしは全てのプレゼントを快く受けとるアイドルではないのだから。」

「……あんた、今だいぶ不機嫌ね……」

「仕方がないのだ……言って欲しい相手になかなか言ってもらえない言葉を初対面の人間から軽々に浴びせられるのだから……ああ、こういう苛立ちも初体験だな。」

「ロ、ロゼちゃん、このお花……どうするの……?」

「どうしたものかな。貰って困る贈り物一位ではなかろうか。」

「とりあえず邪魔だし、ボクが寮に移動させとくよ。」

 そう言いながらリリーが指を鳴らすと、花の山はパッと消えた。

「ありがとうリリーくん。」

「貸し一って事で、ロイくんを諦めてね。」

「踏み倒させてもらおう。そうだ、ロイドくんはどこだろうか。」

 今会ったら問答無用で抱きつきそうなローゼルがキョロキョロし始めたその時、それを待ってたかのようにこんな一言が聞こえて来た。


「ロイドは今、プロキオンのエリアにいますよ。」


 男とも女ともとれる中性的な声。あたしたちの輪の外にいつの間にか立ってたそいつはプロキオンの制服を着てる、あたしくらいの背のもしゃもしゃ茶髪の……女子に見える男子。

 キキョウ・オカトトキがそこにいた。

「オカトトキさんだったでしょうか。親切にどうも。」

 猫かぶりモードのローゼルがそう言うと、キキョウは人畜無害そうな顔をキリッとさせてこう言った。

「さっきまで見せていた普段の口調でいいですよ。それと、ぼくはロイドの居場所を教える為だけに話しかけたわけではありません。」

「……ほう。何かしらの用がわたしたちにあると。」

「みなさん……ええ、そうなるかもしれませんが、現状一番言いたい事があるのはクォーツさんです。」

「あたし? 何よ。」

「……少し場所を変えましょうか。大事な話です。」

「? ……わかったわ。」

 よく知らない男にのこのこついていくっていうのはどうかと思うけど、こっちは五人で相手は一人だし……まぁ、そもそもロイドの知り合いだし、変な事はしないわよ。

 変人ではあるかもだけど。

「人気のないところだねー。一体何する気なのかなー?」

 ちょっと暗い路地に入ってアンジュがニヤニヤ笑うのに対し、キキョウは真面目な顔で口を開く。

「……みなさんはロイドの事を――騎士の卵としてどう評価しますか?」

「……騎士の……? ロイドくんの強さという事か?」

「それも含め、騎士としての将来性です。」

「妙な質問だが……そうだな、一言で表現すれば将来有望というところではないか?」

「なぜです?」

 詳細を聞かれたローゼルは……その時何かを察したのか、ふっと真面目な顔になった。

「……十二騎士の一人である《オウガスト》から直々の指導を受けて高い戦闘技術を身に付けている上に、扱う技は歴史上最強の《オウガスト》と言われている騎士が使った曲芸剣術。しかもそれの副産物として並外れた精度で風を起こすことができ、魔法においてもこの先の成長は未知数だろう。」

「他には?」

「……七年に及ぶフィリウス殿との旅によって得た経験も将来性を増すモノだろう。十二騎士でしか入れないような場所に行った事があるだろうし、様々な人と出会って人脈も広い。スピエルドルフとのつながりなどがいい例だろうな。おかげで後天的に魔眼を得ているし。」

「そうですね。そうなったのは始まりに悲しい出来事があったからではありますが……実際、ロイドの将来性は非常に高い。これはみなさん一致の理解かと思います。」

「そうね。で、それを再確認してなんなのよ。」

「それを理解している上でというのなら、あなたは性質が悪いですね、エリル・クォーツ。」

 初対面もいいとこのあたしにいきなり悪口を言ったキキョウは、ビッとあたしを指差してこう言った。


「クォーツさん、ロイドと別れて下さい。」


 わかれ……別れろ?

「……どういう意味よ。」

「そのままです。ロイドは多くの女性をつれていますが、その中であなたと交際しているという噂でした。そして今日、実際に会ってみてそれは真実だと理解しました。そうでしょう?」

 なんなの……こいつ。さっき初めて会った時はいかにもロイドの友達っぽいちょっと抜けた感じっていうか、顔の通りで人畜無害な印象だった。だけど今のこいつは何か違う。ちょっと見ただけでそういう関係だってわかるっていうのも引っかかるし……

 さっきとのギャップっていうか……まるでリリーだわ。

「……そうよ。あたしとロイドは――恋人関係よ。」

 いつもなら「一時的の」とかツッコミを入れるローゼル達も、今は黙ってる。

「エリル・クォーツ。王族であるあなたが騎士を目指している事、それ自体は別に否定しません。あなたの夢なのでしょうから、歩めばいい。しかし……歩んだ結果、仮にセラームや十二騎士になったとしても、それでもあなたは王族だ。」

「……そうね。」

「あなたは大公の家の末。その王位継承権は最も順位が下。王家の人間の大方は国務を担いますが、現状、それがあなたに回ってくる事もない。王家の中で最も王家から遠い場所にいる人物、それがあなただ。こうして騎士を目指す事が出来ているのがその証でしょう。ですが……極端な話、あなた以外の王族が亡くなった場合、あなたは騎士でなく女王になる。」

「……随分危ない事を言うわね。」

「理解しています。ですがそれが事実。女王と言わずとも、あなたより上の立ち位置にいる王族が一人、二人亡くなれば、国務の任があなたに回ってくるでしょう。ユスラ・クォーツが賊に襲われて命を落とし、結果、カメリア・クォーツが繰り上がったように。」

「――!」

「ああ、ユスラ・クォーツの件を考えるなら、例えば王城で王族が亡くなるようなテロが発生しても、セイリオスの学生寮で生活しているあなたは無傷。女王という話もそれほど可能性の低いモノではなさそうですね。」

「あんた!」

 思わずキキョウのむなぐらを掴む。二人の兄さんはどっちかって言うと嫌いだし、本筋の方の王家の連中とはほとんど顔を合わせないから、正直お姉ちゃん以外はどうでもいいような感じだけど――それでも身内が死ぬ例え話には腹が立つ……!

「……論点がズレましたね。要するに、さっきも言いましたがあなたはどこまで行っても王族だという話です。」

 むなぐらをつかまれてもなお、キキョウの口調――態度は変わらない。

それに……近づいて覗いたその眼の奥には、揺るがない信念のようなモノが見えた。

「王族の身で騎士を目指すあなたには、一般の騎士には一切影響のない問題が大きな壁となって立ちはだかる場合がある。今言ったような、突然騎士をやめさせられる可能性のようなモノが。考えてもみて下さい。あなたが騎士になり、貴族の護衛の任務を受けたらどうなります? 王族が貴族の護衛ですよ? そこで欠片も摩擦が生じないとでも?」

「っ――」

 あたしは手を離す。キキョウは乱れた服を軽く直しながら言葉を続ける。

「あなたの騎士の道には様々な障害が存在しています。それはあなたも承知しているのでしょうし、それでもあなたは騎士を目指すのでしょう。しかし――その障害はあなたの周りの者にも影響を与える……!」

 厳しい表情をしていたキキョウが、今日一番の厳しい視線をあたしに送る。

「騎士として偉大な道を歩んでいるロイドとあなたが恋仲……騎士としては問題ないでしょうが、そこに王家が絡むとなるとそうはいきません。あなたと恋仲である事で、ロイドに本来存在しなかった障害を与えるのではないですか? 昔から多くの騎士が苦い思いをしてきた、政治という壁を余計に増やすのではないですか? 場合によっては恋仲であるあなたの為にロイドが騎士を諦めるという場面も起こり得るのではないですか? そういう可能性が……普通ならゼロだったはずの確率をあなたがはね上げるのではないですか――!?」

 段々と口調を強めながらあたしに一歩近づいたキキョウは、その鋭い視線を直接あたしの眼に送り込む。


「端的に言って――あなたはロイドの騎士道の邪魔になる!!」


 こいつは――キキョウは……昔何があったのか知らないけど、ロイドが偉大な騎士になると信じてる。その未来を確実なモノだと思ってる。

 あたしはそれを邪魔する者。キキョウからあたしに向けられる感情は怒りに近い。


 そんなこと……そんなこと、言われなくたってわかってるわよ……あいつを好きだって思った時から考えてるわ。でも――それでも……!


「…………決めつけないで欲しいわね……そういう可能性があるってしか、さっきからあんた言ってないじゃない……」

「本来なら無いはずの可能性です。仮にもロイドの事を想うのであれば――」


「ストップ。」


 話を黙って聞いてたローゼルが、あたしとキキョウの間に入った。

「キキョウくん、君が今言おうとした事はあまりに浅はかだ。想いを理屈で考えるなど、恋する乙女をなめているぞ。」

「……それはどういう……」

「経験しなければわからないことだ。さて、きっとこの話はどこまで行っても平行線だろう。エリルくんが言ったように、所詮は「かもしれない」の話なのだから。そしてそういう議論がなされた場合に行われる事など昔から決まっている。ちょうど良い事に二人とも騎士学校に通う学生で、ここには闘技場がある。」

「……試合をして決めるというわけですか? しかしこの問題に強さは関係ない。クォーツさんの立場と政治的な――」

「関係なくはないだろう。君も騎士の卵であるならわかると思うが、強さとは戦闘能力の高さだけでは測れない。精神――こころの強さというモノが大きく関わる。」

「……」

「普通の騎士では経験しない面倒事に巻き込まれ、それがロイドくんの足を引っ張る……だが、そんな障害など問題にならないほどの力があるのなら解決だろう? あらゆる政治的しばりをモノともせずに自分の信念を貫く……そう、君が憧れるフィリウス殿のような力があるのなら。」

「!」

「可能性の話をするのなら、このエリルくんにそういう力がある可能性も否定はできまい。」

 フィリウスさんの名前を出され、その上自分の考え方を逆手に取られたキキョウは口をつぐむ。

「まぁ、この場合障害を乗り越えるのはエリルくんとロイドくんの二人になるが……君が偉大な騎士になると信じるロイドくんにその力がないわけはない――だろう?」

「それは……」

「ならば残るはエリルくんの力で、それを確かめる方法は一つ……心身の強さがモノを言う戦闘という場において見極めるしかない。ほら、関係なくはない。」

「…………」

 言い返す言葉もなく悔しそうな顔で数秒目をそむけたキキョウは、ふっと息を吐いて意を決した顔をあたしに向けた。

「……リシアンサスさんの意見は一理ありますし、一方的に言われるよりも目に見える形で決着をつけた方が納得もし易いでしょう。クォーツさん、ぼくと勝負しましょう。この交流祭で、ロイドとの今後をかけて。」


 ……前にもこんなのあったわね……ていうか別に、キキョウに何を言われてもあたしがそれに従う理由は無い。わざわざ指摘してくれたわかり切った問題も、あたしが解決するべきことでこいつは関係ない。

 だけど……どうすればいいのかわからない問題だった事は確か。これを機会にちゃんと答えを出して……頭の中にずっとあったモヤモヤしたモノをここで無くす……!

 ついでにこいつを殴り飛ばせばスッキリってものよ!


「わかったわ。その勝負、受けるわ。」

「ぼくが勝ったらロイドと別れて……いえ、できればそれ以上に距離をおいてもらいたい。災いの種には遠ざかって欲しいですから。」

「言ってくれるわね……あたしが勝ったら今のまま。でもって、今後一切の口出しを禁止するわ。あたしとロイドの関係に、あんたに文句は言わせない。」

「いいでしょう。いつにしますか?」

「今すぐって言いたいとこだけど……今日は一戦しちゃってるし、明日の朝一は?」

「わかりました。では明日の朝、セイリオスのエリアにうかがいます。」

 その言葉を最後に、キキョウはくるりと向きを変えて暗い路地から出て行った。



「余計な提案だったか?」

 キキョウがいなくなった後、大きなため息をついたローゼルはやれやれって顔でそう言った。

「……むしろいい機会だったわよ。でも、あんたからしたらあたしは悩んでるままでいた方がよかったんじゃないの?」

「まぁ……恋敵が意中の男性との交際について悩んでいるというのなら、それは格好のチャンスではあるが……残念ながら、キキョウくんの指摘はエリルくんにしか当てはまらないというわけではないのだ。」

「そんなわけないじゃない。特にあんたの場合は……」

「そうでもない。ロイドくんと同等に騎士としての期待値が高い人物などいないだろう。要するに……誰であれ、自分はロイドくんに釣り合うのかという問題は生じるのだ。自分が足を引っ張るというよりは、別の誰かの方がより良いフォローをできるのではないかという不安がある。キキョウくんはああ言ったが……正直、王族とのつながりを与える事のできるエリルくんはかなり――いや、ともかくエリルくんに限った問題ではないのだ。だから……わたしも一つ、答えが知りたかったのだ。」

「……そ。」

「タイムリーだよねー。ついこの前先生に言われたばっかりだったでしょー? あたしも一応貴族だからさー。」

「こ、こういうのって……ロ、ロイドくんにも、話すべき……なのかな……?」

「あ、いいね。エリルちゃんは王族で面倒だからボクにするべきだって言おう。」

「あんたねぇ……」

「ふふふ。ま、ロイドくんの意見も聞かざるを得まいよ。これだけの女性を悩ませるあのとぼけたプレイボーイを、とりあえず捕まえに行こうではないか。」




「おーいたいた。やれやれ、会えてよかったぜ。」

 アフェランドラさんとの約束もあるし、なんとなくプロキオンのエリアの方に歩いていたオレを呼び止めたのは、四校のどことも違う制服を来たぼさぼさ黒髪の男子――ラクスさんだった。

「ラクスさん? どうしたんですか?」

「いや、ちょっと野暮用が――」


「え、なにラクス、あんた『コンダクター』と知り合いなの?」


 ラクスさんの後ろからひょっこり顔を出したのは赤い髪の女の子。左右に結んだつばさみたいな髪を揺らすその人は……なんとなくエリルに似ている。エリルがムスッとしているのに対して彼女はツンツンしてて……とりあえず不機嫌そうな顔だ。

 んまぁ、エリルのムスり顔に機嫌のいいムスッと本当にムスッとしてるのの二種類があるように、きっとこの人にもご機嫌なツンツン顔があったりするんだろう。

「あー……プリムラつながりで。な?」

「そうですね。それでオレに何か……」

「ああ、プリムラの奴、これを渡し忘れたって言ってな。」

 そう言ってラクスさんがくれたのは一冊の本。ハードカバーの分厚い本で……タイトルから察するに、これは剣術の指南書か?

「それで曲芸剣術の弱点を埋めて欲しいとさ。」

「じゃくて――弱点!?」

 さらりと重要な言葉が出てきたぞ!

「ああ、たぶん慣れちまってるから忘れてんだな。あんたの剣術を見たら誰もが思うことだぜ?」

「えぇ? な、なにを……」

「自分を斬っちまわないのかってさ。」

 そういえば……そうだ。今となっては慣れたモノだけど、教わりたての頃は自分を斬らないようにおっかなびっくり剣を回していた覚えがあるけど……それが弱点?

「遠距離や中距離の、剣を飛ばす間合いなら関係ないんだろうが、真正面で武器を振り回し合う近距離が問題だ。あんたは回転する剣を随分器用に振り回すけど、自分を斬らない為に避けてる軌道ってのがあるはずだ。」

「そう……ですね……」

「つまり、その軌道上を狙われるとあんたは剣で弾くって選択ができずに避けるしかなくなるんだ。相手の次の行動をこっちで決められるなんて、結構な弱点だろう?」

 最近は剣を飛ばすことばかりに意識が行っていたけど、今日みたいに目の前まで迫られたら昔のように近距離戦の出番になるわけで……まさかそこにそんな弱点があったとは……

「だからプリムラはその本でアドバイスしてるわけだ。あんたは、剣を回転させない剣術を一つ身につけるべきだってな。」

「! それで……」

「まー、使えるようになるのが滅茶苦茶難しいっていう曲芸剣術を使えるあんたの身体は筋肉のつき方とかがそれ用に特化してるだろうから、たぶん覚えられる剣術には限りがある。だけどそんな限りある中で最善を選んで教えてくれるのがプリムラだ。伊達に『魔剣』って呼ばれてないぜ?」

「それは……ありがたいですけど……どうしてオレにそこまで……」

「あー、それはあいつがそういう奴だからだな。どの学校でも、他の生徒は自分のライバルって思ってる奴ばっかりだと思うけど、プリムラは「いずれ共に戦う仲間」って考え方をしてる。だから、成長できる相手にはアドバイスを惜しまない。生徒会長に選ばれたのも、実力とそういうカッコよさがあるからだ。」

「確かに、それはかっこいいですね。今度会ったらお礼を言いますよ。」

「ああ、そうして――ん、どうした?」

 ラクスさんがポリアンサさんの話を始めた辺りで紅い髪の女の子がどんどん不機嫌な顔になっていき、話を終えた辺りで彼女はそっぽを向いた。

「ふん、随分とまぁプリムラの事を理解してるのね!」

「そりゃあそれなりにな。」

「あっそ!」

 赤い髪の女の子がプンスカしているのをやれやれと眺めるラクスさんは、そこで再び重要な事をさらりと言った。

「あぁそうだ。良かったら明日、俺と試合しないか?」

「はぁ……えぇ!?」

「俺は二年だけど、プリムラと試合するようなあんただから気にしないだろ? 俺も曲芸剣術を体験してみたいんだ。」

 ラクスさん……ラクス・テーパーバケッド。イクシードと呼ばれる特殊な体質らしく、第十二系統の使い手でありながら他の系統も使えるというずるい人。

 んまぁそれは正直それほど気にしていなくて、やっぱり一番は時間魔法を使えるってところだろう。第十二系統が得意な系統の人はすごく少ないらしいし……《ディセンバ》さんは格が違い過ぎて参考にならなかったから、ここで時間魔法を体験できるのはいいことかもしれない。

「……オレで良ければ。」

「決まりだな。んじゃ明日……おい待てよ。」

 プリプリ怒っている赤い髪の女の子がスタスタと歩いて行ってしまうのをめんどくさそうに追いかけるラクスさん。

 しかし……いや、戦えることは嬉しいんだけど……こりゃあエリルたちとの勝負には勝てなさそうだなぁ。みんなどんな人と戦っているんだろうか。

「……ん? なんかいい匂いがするな……」

 遠ざかるラクスさんの背中を眺めながらみんなの事を考えていると、甘い匂いがふんわりと漂って来た。

「焼き菓子の匂いかな……」

 匂いを辿ってふらふらと歩いて行くと、プロキオンのエリアに入ってすぐの所にある喫茶店にたどり着いた。お菓子の匂いの元はここのようだ。

「うん……情報は酒場で集めるもんだってフィリウス言ってたし……学生の場合は喫茶店って事になるんじゃないか?」

 エリルやティアナが作ってくれるお菓子が美味しくて、あとたぶんフィリウスとの旅ではあんまり食べられなかった事もあって、段々とお菓子好きになりつつあるオレはそれっぽい理由でなんとなく納得して喫茶店に入る。座ってお菓子を食べているだけでいい感じに他校の噂話が聞こえてくる……かもしれない!

「いらっしゃ――!?」

 さっきのレストランほど女性に偏っていない店内にほっとしたのも束の間、近づいてきた店員さんがオレを見て目を丸くした。

 ここはプロキオンのエリアなわけだから……も、もしかして『淫靡なる夜の指揮者』とかいう変な二つ名のせいで嫌われていたりするのだろうか……

「――失礼しました。いらっしゃいませ。お一人ですか?」

「あ、はい……」

 この喫茶店の制服なのか、エリルの家にいるメイドさん兼護衛である十二騎士の一人、アイリスさんが着ていたメイド服よりもだいぶ可愛い感じにフリフリしている服を着ている店員さんにつれられて……あれ、テラス席?

「こちらでいかがでしょう。」

 外から丸見えなのをみんな嫌がるのか、テラス席には誰もいない。や、やっぱりあの二つ名のせいで外に追いやられたのかな……

 んまぁ、テラス席が嫌ってわけじゃないからいいんだけど。

「だ、大丈夫です……」

「メニューになります。お決まりの頃にお伺いしますね。」

 くるりと店内に戻って行く店員さん。

 ……しかし……さっきのレストランはお店の人が大人だったけど、見る限りこの喫茶店の店員さんは全員オレくらい――つまり学生じゃないか?

「……ん? ああそういうことか。」

 テラス席だからこの喫茶店の入口が見えるのだが、そこには「プロキオン騎士学校料理研究部経営」と書かれていた。

 この交流祭、なにも出店する人は商売人だけじゃないってわけか。

「……試合をやりながら交代でまわしているのかな……」

 そう思いながらなんとなく店内に目をやると、さっきの店員さんがこっちにやってくるのが見えた。しまった、注文したそうなそぶりに見えちゃったかな。

「あ、すみません、まだ決まって――」

「ここ、よろしいでしょうか。」

「は――へ?」

 どういうわけか、店員さんはオレの向かいの席を指差して座っていいかどうかを聞いてきた。あれ、もしかして店員さんとおしゃべりできる的な喫茶店だったのか?

「ど、どうぞ……」

 オレがそう言うと、店員さんはペコリとお辞儀して席に座った。

 たぶん学年はオレより上だから二年か三年なんだろうけど……でもそれ以上の年齢と言われても頷けてしまいそうな、とにかく落ち着いた雰囲気の女性。ふちが四角いメガネをかけ、長い黒髪……いや、濃い緑色の髪を結んで肩の上に乗せている。

 ローゼルさんみたいにクラス代表とかをやっていそうな、そんなキリッとした店員さんとふりふりの服はアンマッチだと思うのだが、これはこれでありと思えるのは不思議なところだ。

「アップルティーと当店自慢のアップルパイを頼んでおきましたが……大丈夫でしたか?」

「へ? あ、いや……そ、それで大丈夫だと思いますけど……えぇっと……?」

 アップルだらけ……なんでオレがリンゴ好きって知っているんだ?

「友人にお願いしてあなたと話す時間をもらいました。ご迷惑とは思いましたが、折角の機会でしたので。」

「はぁ……」

「私はプロキオン騎士学校二年のライア・パムブレドと言います。」

「えぇっと……セイリオス学院一年のロイド・サードニクスです……」

「……少々失礼を。」

 名前を名乗ると、店員さんはメガネを外して……どういうわけか、オレをじっと睨んだ。

「あ、あの……」

「……確認しました。」

「え? な、なにを――」

 困惑だらけのオレに対し、店員さんは――

「まことに失礼いたしました! どうかお許し下さい!」

 ――すっと立ち上がって直角に腰を曲げてきた。

「えぇ!? い、いやいいですよ、アップルティーもアップルパイも好きですから! というかなんというか――状況がさっぱりです!」

 わたわたしてそう言うと、店員さんはハッとして席に戻った。

「す、すみません、少し興奮してしまいまして……きちんとお話する事が先でしたね。」

 そう言いながら、店員さんはくいっとメガネをずらしてくるりと周囲を見渡した。

「ど、どうかしましたか?」

「いえ、これで準備完了です。もう一度名乗らせていただけますか?」

「えぇ?」

 更に訳が分からなくなるオレに対し、店員さんは――さっきよりもピシッとした姿勢とキリッとした顔でこう言った。


「私はスピエルドルフ、陸のレギオン所属、ライア・ゴーゴンと言います。」


 すぴえ――スピエルドルフ!? え、という事は……

「え、えっと……つ、つまりあなたはその……あの、に、人間ではないあの……」

「口に出してもらって結構ですよ。一部の空気を石化させて私とロイド様の会話が他の者には聞こえないようにしましたので。」

「あ、そうです――え、石化!?」

「ゴーゴンの一族が持つ眼の力です。極めれば概念すら停止できると言われていますが……報告通り、呪いの一種であるこの力はロイド様には効果がありませんでしたね。」

「! さ、さっきメガネを外したのはオレに石化の呪いを!?」

「一応本人かどうかを確かめたかったのです。大変失礼いたしました。」


 呪いは、呪いをかける対象に既に別の呪いがかかっている場合は互いが干渉し合うらしく、また二つの呪いの……格とでも言うのか、レベルに差があると低い方が高い方に打ち消されてしまうらしい。

恋愛マスターによる運命の操作は分類すると呪いと言えなくもないらしく、レベルで言ったら人智を超えた域にあるそれを受けているオレに呪いをかけると、そのことごとくが打ち消されてしまうから……事実上、オレに呪いは効かないのだとか。


「えぇっと……そ、それでオレに何か――というかどうしてプロキオンに?」

「詳細をお伝えする事はできませんが……大雑把に言えば人間の動向をチェックするための監視役です。魔法技術と科学技術の両方を見る事ができる立地ということで、プロキオン騎士学校に。」

「なるほ――あれ? それってつまりこっそりと潜入しているって事ですよね……ち、ちなみにこの事を知っているのは……」

「人間では、今現在ロイド様だけですね。」

 だあぁ……プロキオンの生徒はもちろん、先生方も気づいていない割と重要な秘密を知ってしまった……

「私たちは人間と積極的に接触はしませんが、完全に無関心でいられるとも思っていません。十二騎士のように、レギオンマスターに匹敵する戦闘力を持つ者もいるわけですからね。なので私のような……スパイと言いましょうか、そんな存在がそれなりにいるのですよ。」

 きっと国レベルの機密であろう事をさらりとしゃべる店員――ゴーゴンさん。

「とはいえ、こうしてロイド様と話をしている事はそれとは無関係です。この交流祭においてロイド様をお見かけする事はあるかもしれないとは思っていましたが、接触するつもりはありませんでした。しかし、こうしてロイド様が私たちの店に来てくださったのですから、挨拶をと。」

「挨拶ですか……えぇっと、それはやっぱり――」

 自分で言うのはだいぶ嫌な感じなのだが……

「オ、オレが……その、み、未来の王様……だからですか……?」

 そうなっている理由を思い出せていない事もあってじんわりとした罪悪感があるせいか、思わずそう聞いてしまったオレに、ゴーゴンさんは優しい笑みを返した。

「それもある――というところでしょうか。主な理由を申し上げるのであれば、それはそうなった経緯ゆえですね。」

「……経緯……」

「お話する事は禁じられていますが……確かな事は、その経緯ゆえにスピエルドルフの国民のほとんどがロイド様に感謝し、是非女王様と婚約をと望んでいるのです。」

「……そんな風に思ってもらえているのに……すみません、ちゃんと思い出せていなくて。」

 言い訳もできずに申し訳なく思っていると、ゴーゴンさんはふふふと笑った。

「慌てて思い出さなくても構いませんよ。ロイド様がなさったという過去の事実は揺るぎませんし、それゆえに私たちも変わりませんから。」

 本当に何をしたらこんな……大きな信頼を得るのやら……

「おや、来ましたよ。」

 ゴーゴンさんの視線の先に……なんだろう、妙にニヤニヤした顔でアップルティーとアップルパイを運んでくる別の店員さんがいた。

「まさかライア先輩が年下好きだったなんて、意外ですよー。」

「やれやれ。ちょっとお話しているだけですよ。」

 ニヤニヤ笑う店員さんを苦笑いでしっしと追い払うゴーゴンさん。

「……そういえばゴーゴンさんは随分若いですよね。レギオンって何歳から入れるんですか?」

 別の店員さんとの親しげなやり取りを見てなんとなく思った事を尋ねると、ゴーゴンさんはいたずらっぽくニンマリする。

「おやおやロイド様。若く見てもらえる事は嬉しい限りですが、何かお忘れでは?」

「はい?」

「私の種族はその名の通りにゴーゴンですから、私の身体には蛇の血が流れているのですよ?」

「あ……そうか、脱皮がありましたね。」


 魔人族に分類される数多くの種族の中には蛇の血を受け継ぐ人たちがいる。そしてその人たちには共通して脱皮という……なんだろう、生理現象というか単なる成長というか……とにかくそれが起こる。

普通の蛇とかセミがやるような脱皮は身体の表面の古い組織を脱ぐ事を言うけど、蛇の血を持つ魔人族に起きるそれはちょっと違って……詳しい仕組みはわからないけど、彼らは脱皮の度に若返るのだ。

 他にも脱皮しそうな魔人族がいるのに、どうして蛇の血を持つ者だけなのかという事は長年の研究テーマらしいんだけど……んまぁとにかく。この現象があるから、蛇の血を持つ魔人族は大抵、見かけと実年齢に差が出るのだ。


「種族によって寿命に差がありますから、何歳になればレギオンへの入隊が認められるという規則はありません。ですが……少なくとも私は「若くしてレギオンに入隊」したわけではありません。これでもそろそろ六十歳になりますから。」

「えぇ!? だ、大先輩でしたか……」

「ふふふ。」

 となるとゴーゴンさんは……こうして潜入任務を任されるくらいだし、レギオンの中でもベテランさんなのだ。

「でもそうなると、ゴーゴンさんからしたらこの場に集まっている学生全員がひよっこに見えるんじゃないですか?」

 スパイ的な立場のゴーゴンさんが本当の実力を見せる事はないだろうけど、もしもそうなったらぶっちぎりで強いはず……!

と、思ったのだが――

「いえいえ、そうでもありませんよ。」

 ゴーゴンさんは楽しそうに微笑んだ。

「例えば先ほどロイド様が戦っておられた女性騎士ですが、終盤で彼女が使った魔法は私たちでも扱えるものが一握りしかおりません。」

「えぇっと、空間魔法でしたっけ。」

「ええ。あれは対象の存在に干渉する魔法なのですが、それに剣の形を与えていた彼女は写真をはさみで切るように世界を切断できるでしょう。」

 オレが感じたのと似た表現をするゴーゴンさん……っていうかそんな恐ろしい魔法だったのか!?

「それに加えて中々の剣技でしたからね。レギオンのメンバーであっても苦戦するでしょう。」

 魔人族の……言うなれば戦士が苦戦するレベルって相当な事だと思うのだが……

「他には……私が所属しているプロキオン騎士学校の現生徒会長も素晴らしい能力を持っていますね。少なくとも私は勝てません。」

「えぇ!?」

 ゴーゴンさんが勝てないと言い切った! おそるべし、『雷帝』!

「はぁ……すごい人ばっかりですね……」

「ふふ、ロイド様がそれを言いますか?」

 そこでふと、ゴーゴンさんがからかうような、でも割と真面目な顔をオレに向けた。

「その者が扱える力の総量で勝負するのでしたら、この場における最強の人物はずばり、ロイド様になりますよ。」

「?? えぇっと……ああ、魔眼ユリオプスの事ですか?」

「それはあまり。膨大な魔力は確かに脅威ですが、残念ながら今のロイド様にはそれを使いこなすだけの魔法技術がありません。」

「うぅ、ごもっともです……で、でもじゃあなんで……」

「私たちがおりますので。」

「……?? えぇっと……?」

「ふふふ、いいですかロイド様。私たちスピエルドルフの者にとってロイド様は特別な存在です。女王様が恋い焦がれる相手だという事を除いても、私たちはロイド様と仲良くありたく、また互いに信頼を築いていきたいと考えています。かつての恩返しもしたくありますし、それでも感謝しきれない感情もあります。」

「は、はぁ……」

「ですから私たちには――もっと言えばレギオンには、ロイド様からの「助けて欲しい」という願いに応える準備が常にあるのです。」

「助け――え、えぇ?」

「強大な敵に立ち向かう為に助力が必要とあれば、スピエルドルフはレギオンを動かして援護に向かいます。ロイド様が窮地に立たされ、助けを求めるのであれば全力で助けますし、それをロイド様から頼まれなかったとしても必要だと判断すればこちらは動きます。仮にロイド様に重傷を負わせるような輩がいたなら、全軍を挙げて報復するでしょう。まぁ、いずれの場合でもまず女王様が黙っていないでしょうが。」

「オ、オレの……為に……? レギオンが……?」

「未来の王にと願うくらいに、私たちはロイド様とそういう間柄でいたいわけです。ゆえにロイド様は唯一、多くの国がその力を恐れているスピエルドルフという国を自身の意思一つで動かせる存在なのです。どうです? 最強でしょう?」

 さらりと言われた事実。そしてそれが意味する事の大きさ。

 田舎道をゆらゆらと馬車で旅していた頃にはあまり実感のなかった、個々の戦闘能力の合計とは少し違う……国の力。そんな大きすぎる力がオレの意思で動く。

 あまりに恐ろしいことだ。あまりに分不相応だ。オレではない誰かが持つべき力だと感じる。

「…………」

「? ロイド様?」

 でも……でもだ。しかしてそれを手にしているのはオレなのだ。好意と信頼を寄せられているのはオレなのだ。

 応えなければいけないはずだ。その想いに。

「ゴーゴンさん! オレ、頑張ります! 魔人族の方々の気持ちに釣り合うような立派な騎士に――」

「あの、ロイド様。手を……」

 我ながら決意を固めたセリフを口にしていたのだが、ゴーゴンさんは「やばい」という顔で目線を下に向けている。見ると、オレの手はゴーゴンさんの手を握っていた。

「あ、すみません! つ、つい……」

「い、いえ……その、手を握っていただける事は嬉しい事なのですが――これが女王様のお耳に入ると……」

「え……あー……お、怒られたり……しますか……?」

「怒られはしませんが……とてもうらやましそうな視線が飛んできます……罪悪感を覚えてしまうくらいの……」

「そう……なんですか……」

「ヨルムさんによると、ロイド様と再会してからというもの、ロイド様を想ってぼーっとしている事が多くなったそうです。そろそろ国務に影響が出るのではと心配しています。」

「そ、そんなに!?」

「ですからロイド様には週一……いえ、三日に一回くらいは女王様に会いに行って欲しいところです。」

「――! そ、そうですね……」

「それと……私の手を握るとまずい理由があちらにも。」

「えぇ?」




「そういえば、ロイドくんは一人の時どんな感じなのだろうか。」

「は?」

 キキョウが言ってたプロキオンのエリアを目指して歩いてると、ローゼルがそんな事を言った。

「ほれ、わたしたちが男女で分かれるなどお風呂の時だけだろう? その時は当然ロイドくんはお風呂に入っているわけだが――こういう街中で一人になった時は何をするのだろうと思ってな。」

「他の学校の情報を集めてるんじゃないの。」

「今はそうだろうが……気になったお店などに入ったりするくらいあるだろう? 要するに……むぅ、今更ではあるがなぜ今まで考えなかったのやら……」

「なんなのよ。」

「つまり、ロイドくんの趣味についてだ。」

 ローゼルの言葉に一拍しんとなった後、おずおずとティアナが手をあげた。

「ロ、ロイドくんは……リンゴが好きだよね……」

「そうね……あとロイドは釣りが趣味――っていうか得意らしいわね……」

「色だと割と緑が好きだな、ロイドくんは。」

 …………

 ……あれ、出尽くしたわ……

「うわー、みんなそんななんだー。あたしはちょっと尾行してた時期があるからもうちょっと知ってるよー?」

「尾行――な、夏休みの後半の事だな! い、一体何を知っているのだアンジュくん!」

「えー、教えなーい。」

「……知ってる量で言ったらリリーが一番なんじゃないの?」

「ふふーん。ロイくん歴数か月のみんなよりはそりゃあ知ってるよ? やっぱりボクだよね、ロイくんのパートナーは。」

「ぬぐ……よし、ロイドくんを見つけるぞ。」

「あれー、優等生ちゃんてばストーカーになるのかなー?」

「そうだったアンジュくんに言われたくないな。これは……そう、わたしに隠れて女の子をナンパしていないかチェックするのだ。」

「ロ、ロイドくんの場合……される側じゃ、ないかな……」

「既に二人の生徒会長から誘われているからな……もしやロイドくんは年上キラーか?」

 ローゼルがアホな単語を言ってしばらくした後、あたしたちはプロキオンのエリアに入って――割とすぐに探し物を見つけた。

「あ、ロイくん!」

 リリーの指の先を見ると、どこのエリアにもいくつかあるらしい飲食店の……レストランっていうよりは喫茶店って感じのおしゃれな店のテラス席にロイドが座ってた。でもって予想通りっていうかなんというか……向かいに女子が座ってるのを見て、あたしたちはなんとなく隠れる。

「……誰よあの女。」

「服装から察するに、あの喫茶店の店員だな。」

「ローゼルちゃんみたいな真面目ちゃんっぽいのにあんな可愛い服着て……ギャップ狙いのあざとい女だよ!」

「ほ、本人も好きで着てる……んじゃない、かも……」

「その辺はどーでもいーけどさー。何話してんだろーねー。」

 テラス席でロイドと向かい合ってるのは……アイリスのとはちょっと違う感じのメイド服を着てるメガネの女。大人しめの髪型でキリッとした、リリーが言うようにローゼルみたいな雰囲気。

「わ! ロイくんてばあの女の手を握ったよ!」

「……女の方は気まずそうな顔してるわよ……」

「あ、離したー。「すみません、つい」って顔してるねー。」

「あ、あれ……あの女の人、あ、あたしたちの方を指差してない……?」

「む、ロイドくんがこっちを向いたぞ。「びゃっ!?」っという顔をしている。」

「あの女、なんかくすくす笑ってる! あ、ロイくんに近づいた!」

「何やらひそひそ話しているな。ロイドくんは相変わらず顔が赤くなっている。」

「あれ、あのメイドさんいなくなっちゃったよー?」

「ロ、ロイドくん……すごく慌ててるね……」

「……なんか手招きしてるわよ。」



 数分後、あたしたちはロイドが頼んだ人数分のアップルティーとアップルパイが並ぶテラス席に座ってた。

「や、やー、偶然だね、みんな。ここの美味しいんだよ。」

「で?」

「あ、あのエリルさん、そんな「またかこいつ」みたいな顔をしないで下さい……これは誤解なんです、あの人はそうじゃないです。」

「じゃあなによ。」

「それは――えっと、詳しく話すと怒られちゃうので……か、彼女はライア・ゴ――ラ、ライア・パムブレドっていって、プロキオンの……二年か三年です!」

 ……こういう事で隠し事はしないロイドが話さないってことはそれなりの理由がありそうね……あの女、何者かしら。

「詳しく話せないと? ふむ、それは気になるが……ならば一つだけ確かめよう。彼女はわたしたちのような立ち位置になりうる女子なのか?」

「た、立ち位置……?」

「ロイドくんが好きな女の子というポジションだ。」

「にゃっ!? ち、違います、違います!」

「ロイくんがそう言ってもあっちはそうじゃないかもしれないんだよねー。ロイくんてばもう!」

「そ、それはないと……思うんだけど……たぶん……」

 色々と自信なさげに、きっと男子からしたら羨ましい限りに小さくなっていくロイド。

「……まぁ、その場合はここで何を話してもどうにもならないか。ロイドくんがいつものように女性をたらしこんだと、そういうお決まりのパターンが起きたというだけだ。」

「いつからお決まりに!? それにたらしこんでません! 彼女は本当にそういうのじゃないですから!」

「さてどうかな? ま、敵になったら倒すまでだとも。よし、それはそれとして他校の生徒について何か情報はつかめたのかい、ロイドくん。」

「じょ、情報……リゲルの会長さんとカラードの戦いを観たくらいで……あとはポリアンサさんに本をもらって、この喫茶店で噂話に聞き耳をたてようと思ったら――さ、さっきの有様でした。」

「使えないわね。」

「うぅ……み、みんなは? 試合はしたの?」

「わたしはカペラの二年生と勝負して勝ってきたぞ。」

「あたしとアンジュも二年に勝って、リリーは三年。ティアナは――」

「あ、あたしも三、年生と……か、勝ったよ……」

「えぇ? みんな上級生と戦ったのか。すごいなぁ……」

「生徒会長といい勝負をしていたロイドくんに言われてもな。それより、もっと大事な話があるのだ。」

 そう言ってローゼルはあたしの方を見る。そうね……話すべきはあたしよね。

「ロイド、実は――」


 キキョウから言われたこと、あたしたちが何となく思ってたこと、ついでに先生もちょっと心配してたことをロイドに話す。本人には欠片も悪いところがない……むしろ良いところばっかりだから周りが困ってるっていう変な迷惑話を、ロイドは黙って聞く。

 そして……話が終わった後、軽いため息の後にこう言った。


「オレは気にしないよ。」


結構たくさんしゃべったから紅茶に手を伸ばしてたあたしを、なんでもないようないつもの顔で見つめるロイド。

「色んな理屈はあるかもしれないけど、友達になったのならしょうがないし、好きになっちゃったのならしょうがない。諦めるんじゃなくて受け入れる――そういうのを全部ひっくるめて、オレは大事な人を大事な人と言っているんだから。」


 騎士として恵まれた環境にいて、その道を着実に歩んでるロイド。そんなロイドの傍に王家出身の騎士なんてのがいたら……いつかその道を邪魔する事になる。それはロイドの為にならないからロイドから離れろ――と、キキョウは言った。たぶんその通りの事が起きるだろうし、ロイドの邪魔をするのは嫌だとあたしも思う。

 ……あたしに限らず、あまりに眩しい騎士の道を歩くロイドに釣り合う騎士の卵はきっといなくて、だから誰もが思う。自分は横に立っていいのかなって。

 そうやって、段々と明らかになってきたロイド・サードニクスって田舎者の豪華過ぎる立ち位置に不安を感じてたあたしたちの想いに……当の本人は「気にしない」の一言を返したのだった。


「……あんたらしいって言えばらしいけど……キキョウの言う通り、あたしはあんたをきっと面倒な事に巻き込むわ……そうやってあんたの足を引っ張っても……その、あんたはいいってわけ?」

「いやぁ、良くはないけど……だからってエリルから離れる程、エリルの魅力は薄くないよ。」

「――!!」

 またこいつはこうやってさらりと――!!

「ローゼルさんも、ティアナも、リリーちゃんも、アンジュも……ミラちゃんも。ついでにカラードやアレクも、みんなの何かの影響でオレが大変な目に……みんなと仲良くなってなかったら起こらなかったかもしれない良くない出来事に遭遇するとしても、それで離れたりはしないよ。だいたい、オレのせいでS級犯罪者に目をつけられるかもっていう迷惑をこっちからやっているっていうのに、オレがそんなんじゃダメじゃないか。」

「……確かに、ロイドくんの方が迷惑千万だな。」

「そ、そうですよ。だから気にしなくて――」

「それはそうとわたしに魅力は?」

「――! あ、ありますよ……魅力一杯です……! ティアナもリリーちゃんもアンジュも!」

「ぶー、なんかついでっぽい。」

「そんなことないです!」

 ……深刻な話をしたはずなのに、話終わって一分もしたらいつも通りなんだからすごいわよね……

 なんか、こっちが真面目に悩んでるのにロイドは「何を今更」って感じにケロッとしてる事って多い気がするわ。フィリウスさん譲りの豪快さなのか、単にバカなだけなのか……

「でもそうか……キキョウがそんな事を。オレ、そんな風に思われるほど大層な事はしてないと思うんだけどなぁ……主にしたのはフィリウスだし。」

「……何したのよ。」

「うん……キキョウの家、オカトトキの家は桜の国――ルブルソレーユの名門騎士の家で……んまぁ、そうだっていうのはフィリウスに教えてもらったんだけど……あっちの国じゃ有名な刀使いの家なんだ。」

 刀……ルブルソレーユの方で一般的な剣。切れ味に特化してて、達人が使えば魔法無しで鉄を斬れるとか。

「そこの三男としてキキョウも毎日剣術の修行をしてたんだけど……二人のお兄さんがどんどん上達していくのに、キキョウだけはいつまでたっても上手くならなくて……それで悩んでた頃にオレとフィリウスがオカトトキの家のある街にやって来たんだ。」

「ほう。もしや、そこでフィリウス殿がキキョウくんに剣術の指導をしてあげたとかか?」

「ううん。フィリウスはキキョウに……剣術を止めろって言ったんだ。」

「なにそれ。随分じゃない。」

「オレもそう思ったけど、フィリウスは続けてこう言った――お前の身体は違う分野において天賦の才を発揮するって。」

「へー。まー剣士の家に生まれたからって必ずしも剣の才能に恵まれるわけじゃないよねー。」

「それでフィリウスはオカトトキの家を説得して、キキョウをキキョウに合った武術を学べる場所に入門させたんだ。ざっくり言うと……徒手空拳の流派に。」

 そこでロイドはあたしを見た。

「キキョウはエリルと同じ格闘タイプ。オレが知っているのは入門したての頃のキキョウだから今はどうなっているかわからないけど……フィリウスがああいうくらいだから、相当強くなっていると思う。」

 もちろん、キキョウと……その、ロイドとの今後を賭けて勝負する事になったって事も話したから、ロイドはあたしにアドバイスをくれたんだと思う。

 ……まぁ、ざっくりし過ぎて何もわかんないけど……

「ふむ……十二騎士が太鼓判を押した才能と、十二騎士から指導を受けたエリルくんのぶつかり合いというわけか。ということはエリルくんが負ける可能性もそれなりに高く……おお、そうなれば、はれてロイドくんはわたしのモノになるのだな。」

「ば、ま、負けないわよ!」

 そ、そうよ、もし負けたらロイドとわかれ――て、ていうか!

「あ、あんた、あたしとキキョウがした約束については何も意見がないわけ……?」

「んまぁ……オレはエリルが勝つって信じているし、万が一負けたとしてもそれで終わりにはならないし。」

「な、なによそれ、どういうことよ……」

「もしそうなっても、オレはエリルを取り戻すためにキキョウに勝負を挑めるだろう? エリルがもう一戦って言うのはダメかもだけど、今回の約束にオレは入ってないから。」

「な――」

 あ、あたしをとと、取り戻す為に挑む――!?!?

「エリルに障害を越える力が無いってキキョウが判断したとしても、オレに二人分の力があると示してみせるってわけで……ああいや、さっきも言ったけどそもそも負けると思ってな――」

「あんたはどうしてそう恥ずかしい事をさらりと言うのよバカ!」

「ぎゃあっ!」

「そうだぞロイドくん。もちろん、わたしが今のエリルくんのような立場になっても同じ事を言ってくれるのだろう?」

「いははは! ほ、ほひほんへふ!」

 ローゼルに始まっていつものように全員がロイドをつねる。

 ……ロイドの馬鹿もいつもの事だけど……あたしが負けると思ってないなんて、変なプレッシャーかけてくれるわ。勿論負けるつもりなんてないけど……フィリウスさんが天才って言った相手なんだもの、ちょっとくらい不安になる。

 でも……もしかしたらいい機会なのかもしれない。王族なのに騎士を目指すあたしが騎士としての才能を持ってる相手と戦って……それに勝てたなら、その勝利はあたしの自信になる――と思う。

 それにこれは……あたしが王族故に降りかかってくる障害の、きっと最初の一つ。

 超えてみせるわ……必ず。




 恋する乙女が交流戦に新たな決意を加えている頃、フェルブランド王国の王城の廊下を歩いていた筋骨隆々とした男は、珍しい人物に遭遇していた。

「ついこの前会ったばっかりだが、こんなとこで会うとはな。一応、あんたからするとここは他国の王城なんだが?」

「わしのとこにもずけずけと来おった男がどの口でそんな事を言うのやら。」

 口調の通り、筋骨隆々とした男の前に立っているのは老人だった。拳ほどの大きさのイメロがついた杖に身体を預け、横に傾いた姿勢で立っているのだが、その表情ははつらつとしている。

 白髪まみれだが薄くはない頭にしゃれた帽子を乗せ、カチッとした上下に身を包む元気の良い老人は、カッカッカと笑いながら筋骨隆々とした男を指差す。

「わしがここにいるのは他でもない、おぬしと勝負するためじゃ。」

「それは燃える誘いだが、十二騎士同士の戦闘を行う場合は場所の用意が面倒だぞ?」

「誰が直接対決と言った。だいたいわしがおぬしに勝てるわけなかろう。」

「本気のあんたなら話は別だろう?」

「年に一、二回しか出せない力をこんなところで使うか、たわけ。」

「年に一、二回しか出せない力を毎年毎年教官に使ってる奴が言う台詞かね。いい加減交代したらどうだ、《フェブラリ》?」

「わしの本気を超えてこそ、アドニスは真に最強の雷使いとなるのじゃ。」

「そうかい。で、直接じゃないなら間接って事か? 勝負は。」

「そうじゃ。数奇な巡り合わせにより、今年のみ叶う戦いじゃよ。」

「なんの話だ?」

「カッカッカ、その様子では気づいておらんようじゃの。それとも、おぬしは放任主義か?」

「! まさかあんたの?」

「そうじゃ。」

 ニヤリと笑みをこぼす老人に、筋骨隆々とした男も同様の笑みを返す。

「何か賭けるか?」

「互いの極上の酒でどうじゃ?」

「いいだろう。」

 差し出された細い手が太い手にガシッと包まれ、二人の勝負はここに成立した。

「で、もちろんそれだけじゃないんだろ?」

「そりゃあの。まったく、おぬしが『ディザスター』の名前なんぞ出すから、年甲斐もなくたぎってしまったわ。」

「ほほー、同じジジイには負けられんと?」

「同じ第二系統の使い手として――じゃ、愚か者。」

「なるほど。《オクトウバ》が『イェドの双子』を追うように、《ジューン》がザビクを追ってたように、あんたもってわけか。」

「おぬしの弟子にひかれて集まるのであろう? 紅い蛇は。なれば、この国にいる方が奴と相対するチャンスは大きい。」

「引退前の大仕事になりそうだな。」

「他人事のように言いおって。おぬしも結構な歳じゃろうが。」

「俺様はまだまだ現役だ。あんたくらいまでは頑張るつもりだぞ?」

「先の長い話じゃな。早うせんと《ディセンバ》が婆さんになってしまうぞ。」

「何の話だ?」

「うん? おぬしは十二騎士を寿引退するのじゃろう?」

「誰情報だそれは。仮に寿的な事になったとしても、それで引退はしないぞ。俺様には俺様の、理想の引退の仕方というのがある。」

「引退に理想も何もなかろうに……ああ、先の話に戻すが、わしのところのは今年で卒業でな。どういう道に進むか知らんが、ここの国王軍に入った時にはよろしく頼むぞ。」

「かたや引退話というのに、かたや入隊話か。時が経つのはあっという間だな。」

「ジジイみたいな事言いおって。年寄りのセリフをとるでないわ。」

「ああそうだ。ついでに聞くんだが、ベルナークシリーズの場所を知らないか? 特に剣。」

「ついでというには話が飛び過ぎな気がするが……なんじゃ唐突に。」

「ちょっと面白い事があってな。」

「……まぁよかろう。ベルナークの――剣じゃったか? 三本の内の一本はそこの武器屋じゃろう? そして一本は行方知れずじゃが、もう一本は『豪槍』が持っとると聞いたぞ。」

「グロリオーサが? あいつは槍使いだろ。」

「どこぞの悪党を叩いた時にそいつのアジトで見つかったとかなんとか。」

「そいつは残念だな。さすがのベルナークシリーズと言えど、槍使いが一瞬で剣の使い手になるほどの能力はないだろうし、宝の持ち腐れだな。」

「持ち腐れというなら元々悪党の手にあったという事が問題じゃろう。イェドのプリオル然り、価値の高いモノは悪党の手に渡る事が多いもんじゃ。」

 老人がやれやれとため息をつく横で、筋骨隆々とした男はふと思い出す。


「あん? そういえば『豪槍』にはレアな能力を持ってる弟がいたよな。」

思いついた話をみんなやろうとしている結果、これは相当複雑な事になるなと……広げた風呂敷の大きさに驚いています。交流祭編は長くなりそうですね。


しかし生徒会長の座についている面々は化物ぞろいですね。

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