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騎士物語  作者: RANPO
第六章 ~交流祭~
34/113

第三十二話 祭の準備

第六章の始まりです。

サブタイトルにもありますが、「ランク戦」に続く学校イベント、「交流祭」のお話です。

「久しぶりだなぁ。元気にしてるかなぁ。」

「おい、バカ! 何してんだナヨ、邪魔になってんぞ!」

 ぼんやりと想いを馳せていた青年は、呼ばれて振り返って初めて、自分の真後ろに怖い顔をした女性が立っている事に気が付いた。

「はわわ、す、すみません!」

 わたわたと隅による青年を横目に、女性はすたすたと歩を進めて祭壇のような場所の中央に立った。

「……始まりは、互いの交流が目的だった。しかし今ではそれぞれの威信をかけた戦いだ。いずれ母校と呼ぶことになる場所に泥を塗らない為にも、皆、気を引き締めて欲しい。」

 女性にじろりと睨まれた青年は隣の人の後ろに隠れた。

「……では行こうか。」




「既に聞いてる者もいると思うが、今年からあっちにあの『雷槍』が教師として加わった。先生やるならうちでやって欲しかったが……まぁしょうがない。あの元国王軍指導教官の教え子と戦える事を良い経験として捉え――いや……」

 大勢を相手に声を発している女性は、手にした槍を高々と掲げた。

「むしろ超えるべきだろう! 全ての女性騎士の憧れと言っても過言ではない人物と、間接的とはいえ戦い、勝利することであたし達はもっと強くなれるはずだ! 平等がうたわれているとは言え、未だに女と侮るクソ野郎共を蹴散らし、立場を逆転させる勢いで邁進すべし! 時代はあたしたちのモノだ!」

 女性の言葉に答える大歓声の中、ぼそりと一人の青年が呟いた。

「姉ちゃん、俺の立場は……」




「我らは弱い!」

 一糸乱れずに並ぶ者たちの前で一人の男が叫ぶ。

「ここ二年、我らは首位をとれずにいる! その理由を『神速』と分析する輩もいるが、そんな事は弱者の言い訳! 理由などわかり切っている! 我らが弱い、その一点のみ!」

 鼓膜を突き破らんばかりの怒声だが、それを聞く者らは表情をぴくりとも変えない。

「その昔、勝敗は勝負の前に決まっていると言った策士がいた! 何をバカな! 勝敗は勝負の中で決まるのだ! 強い者が勝利するのではない、勝利した者が強いのだ! 勝負の前の余裕、緊張、慢心、策略、奇策、大いに結構! 全てに意味を与えるモノは結果のみ! 掴み取るのだ! 勝負と言う刹那の中、その手に勝利を! そして強さを手に入れろ! 我らは騎士、敗北を許されない背水の戦士ぞ!」




「外国で過ごす週末はどうだったかな、サードニクスくん。」

「……色々ありました。」

 いつもと違う――あーつまり、お風呂場ではないとある一室でテーブルを挟んで向かい合うオレとデルフさん。

「羨ましい限りだね。魔人族と聞くとどうしても怪物のようなシルエットをイメージしてしまうが、そうではないのだろうね。どんな人がいるんだい?」

「どんな――」

 ふとデルフさんの目つきが鋭くなった……気がした。そうか、あの話か……

「えっと……」

 オレとデルフさんがいるこの部屋はオレたちだけの二人きりというわけではなく、何人かがそれぞれの作業をしながらもなんとなくオレたちの会話を聞いている――という状態だ。なんとなく、あの話は他言するようなモノじゃないような気がしたオレは、頑張って言葉を選んだ。

「吸血鬼とか人魚とか、物語に出て来るような人たちもいれば動物じゃなくて……虫? 的なのが混じってる人もいますよ。オレの知り合いにサソリがいますし、あと――蜘蛛の人もいましたね。」

「ほう。サソリは……きっと尻尾が生えているのだろうね。蜘蛛は……目が八つあったりするのかな?」

「ええ、紅い眼がギラリと光っていましたよ。いやぁ、蛇の人とかもいるんですけど、外見が普通に怖い人にはドキドキしますね。」

「興味深いね。ふむ、その辺りはまた今度、じっくりと聞かせてもらおうかな。」

 オレが伝えたかった事が伝わったのか、デルフさんがこくりと頷いた。


「どーぞー。」


 コトンと、テーブルにお茶――お茶? なんか紫の液体をお茶のように置いたのは……えぇっと確かペペロ・プルメリアさん。生徒会の会計だったかな。

「プルメリアくん、これは紫キャベツの煮汁か何かかい?」

「チョーっと濃い緑茶みたいな感じ?」

「緑が濃くなって紫になるなんて聞いた事ないけどね。」

 とは言いつつも普通にずずずと紫の液体を飲むデルフさんはすごいなぁと思った。


 ここはセイリオス学院の生徒会室。スピエルドルフに行く前にプルメリアさんからもらった部活申請書やデルフさんがちょいちょい言っている生徒会立候補の件を詳しく話したいと思っていた時、突然デルフさんに呼び出されたオレは丁度いいかもしれないと思って生徒会室へやってきて……現在、紫色の液体とにらめっこしている。

「さて、僕からの話が一つあるけど……サードニクスくんからは何かあるかな?」

「あ、はい……部活――なんですけど……」

 もらった申請書をテーブルに置き、オレは顧問の名前を書く欄を指差した。

「その、顧問の先生って今からでも大丈夫なんですか?」

「? どういう意味かな。」

「えぇっと……部活って、調べてみましたけど結構たくさんあって、たぶん一人の先生がかけ持っていたりするんですよね……? そこに新しい部活を加えるってなると先生の負担が大きそうで……」

「ああ、なるほど。ふふ、とりあえず一つ勘違いしているよ、サードニクスくん。顧問は、別に教師でなくても良いのだ。」

「えぇ?」

「部活における顧問の役割は指導者というよりも保護者という意味合いが強くてね。つまり、ちょっと骨のある魔法生物と一戦交えて経験を積もうと生徒が思った時、いざという時に助けてくれる人が顧問なのさ。だから教師である必要はないんだ。」

「えぇ? それじゃあどういう人が……先輩とかですか?」

「それもありだね。でもたいていは外部の騎士を顧問にするかな。」

「外部?」

「うん。国王軍に所属してる人とか個人で騎士団をやってる人とか、現役の騎士の人をつかまえて顧問をお願いするのさ。」

「あ、そういう……え、でもそんな現役の人が学生の保護者役なんてやってくれるんですか? 忙しいでしょうし……」

「教師の場合は無いけど、外部の人に顧問を頼む場合、その人には学院から顧問料が出るのさ。言ってしまえば、ちょっとしたお仕事になるわけだね。」

「顧問料……で、でもそんな都合よく騎士の方が見つかるんでしょうか……」

「ここは国の首都だからね、腕利きの騎士が結構集まるんだ。街に繰り出して顧問を探せば一人や二人は見つかるよ。むしろ積極的に引き受けようと声をかけてくる人もいるくらいだ。いやらしい言い方だけど、これがセイリオス学院の力というやつだね。」

「なるほど……外部の騎士や先輩もありという事ですと……それじゃあ極端な話、顧問は誰でもいい感じなんですか?」

「やろうとする事によるかな。上級騎士であるセラームの人たちでも苦戦するような相手を倒しに行くのに学内の先輩を顧問にするというのでは許可は下りないよ。」

「ある程度の実力を持つ人を顧問にすれば、それだけできることの範囲が広がるって事ですか……わかりました、ちょっと探してみます。あ、あともう一つ話が……」

「生徒会選挙の事かな?」

「あ、はい。」

「ふふ、早い方が良いと思って話をしたけど――近々行われるイベントを終えてからの方が考えやすいかもしれないね。」

「イベント?」

「腕利きの騎士を顧問として迎える事ができるくらいの力と信用のあるセイリオス学院で生徒会役員を務めるという事の意味を体感できると思うから……そう、だからとりあえず選挙の話は一時保留として、僕の話はそのイベントについてなのだ。」

「えぇっと……オレ、この学校のイベントは把握できてないんですけど……次は何があるんでしたっけ。」

「ふふふ、ちょっとしたお祭りだよ。是非サードニクスくんにも協力して欲しい。」

「えぇ? オレが何かできるモノなんですか?」

「ああ。聞いたところによるとサードニクスくんは――」




「ふむ……こうして改めてこの場に立つと緊張してしまうな。アレクは女性経験豊富か?」

「答えのわかり切った事を聞くな。」

 会長に呼び出されて、ついでに部活の事とか聞いてくると言ってロイドが出て行った教室で、あたしたちはなんとなく雑談をしてた。ロイド抜きで話すなんてのはお風呂場でくらいしかなかった事だけど、最近はそうでもない……ようになってきた気がする。一応コイガタキっぽい何かの間柄のはずなんだけど……

まぁ……そんな風に教室に居残って魔法の事とか珍しく真面目な話題で話をしてたらお客がやってきた。もう一人のコイガタキ的な奴のアンジュ……それにカラードとアレキサンダーの強化コンビまでが会話に加わった。

 ……ロイドを中心に集まった面々だと思うんだけど、朝の鍛錬に参加してる事もあってカラードとはよくしゃべるようになったし、そのおまけみたいな感じでアレキサンダーとも話をする。

 アンジュは黙っててもひょこひょこやってきてロイドを真っ赤にしてくからアレだけど……たぶん、あたしたちは……ト、トモダチ的なあれなんだと思う。

 セイリオスに入学してから数か月、ずっと一人で焦ってたあの時期が嘘みたいだわ。これも、あのすっとぼけ田舎者――あ、あたしのかか、彼氏……のおかげなのかしらね……!

「……エリルくんが腹の立つ事を考えていそうだが……ブレイブナイト殿は何に緊張しているのだ?」

 あたしの心を読んでふくれっ面になったローゼルに聞かれたカラードは、真面目な顔でこう言った。

「これだけの美女が揃っているからな。お付き合いの経験もないおれには落ち着かない状況なのだ。こんな中に常に身を投じているロイドはすごい。世の男が憧れる状況ではあるが、しかして実際になってみると苦労が多そうだ。」

「何度も言うが、そういう事をバカ正直にすらすら言うお前も相当すごい奴だと俺は思っているぞ。」

「そうか?」

「ふふ、そういうところはロイドくんと似ているが、しかしロイドくんがすっとぼけた感じにうっかり言うのに対して、カラードくんは……それこそバカ正直に真っすぐだな。」

「おだてても何も出ないぞ。」

 褒め言葉と受け取ったらしい正義の騎士に、ローゼルは「ああ、そうだ」と言ってついでに質問した。

「最近はここにいるメンバー以外とはほとんど会話をしないから、噂話というモノに疎くなってしまっていてな。カラードくんは男子寮における噂などに詳しそうだから一つ聞きたい。」

「おれもそこまでではないが……なんだろうか。」

「他の生徒の認識の話だ。ここにいる――カラードくんが言うところの美女の面々はロイドくんの事が好きだ。皆、特に人目を気にせずにぐいぐいとロイドくんにアタックをしかけ……とりあえず今だけはエリルくんがロイドくんの恋人になってしまっている。」

「しまっているとか言うんじゃないわよ。」

「そんな事実があるのに対し、他の生徒の間ではわたしたちはどういう風に見えているのだろうか。『コンダクター』の恋人は『水氷の女神』という話になっていたりしないだろうか。」

「あんたねぇ……」

「そういう話か。前にも話したが、ロイドはクォーツさんと夫婦で愛人が沢山いるという認識であり、その愛人――ここで言うとリシアンサスさんたちだが、別に弱みを握られているからとかではなく、純粋にロイドに恋い焦がれているという事は皆が知っている。『ビックリ箱騎士団』の夫婦漫才や修羅場は学食で有名だからな。」

「そんな認識なのか。いや、しかしわたしがロイドくんを好きという事が皆に知られているというのは良い事だ。」

「え……そ、そうなのロゼちゃん……あ、あんまり好きな人が誰かって……知られたくないんじゃないの……」

「他のどうでもいい男が寄ってこない。」

「うわぁー、優等生ちゃんってホントにあれだよねー。」

「ふふ、貴族のアンジュくんはお見合いとかが来るのではないか? 大変だな。」

「別にー。」

「ああ、そういえばこの前カルクから女子の間におけるロイドの認識というのを聞いたぞ。」

「ほう……それは気になるな。今以上に敵が増えるのは勘弁して欲しいのだが。」

「あたしのセリフよ、それ。」

「どうやら、ロイドという男子生徒をいいなぁと思う女子生徒は多いようだ。しかし現状、王族やら名門騎士やら、ロイドを囲んでいる美女軍団があまりに強力過ぎて手が出せないらしい。」

「なによそれ……あたしは城壁か何かなわけ……? ていうか美女軍団って……」

「しかし隙あらばという姿勢はキープしているとか。なにせロイドは押せば倒れるから。」

「……否定できない事実が周知されているようだな……」

「多くの女子が虎視眈々とロイドを狙っているという、男子にとっては何とかしたい恐ろしい状況なわけだ。前にした可愛い子の写真が出回るという話、女子の間ではそれの男子版があるそうだから、きっとロイドのも……」

 と、そこまで言ってカラードはくるりとリリーの方を向いた。

「そういえば、学食の隅の辺りに増設された購買に近日開店と貼ってあったが。」

「そーだよー。ホントは夏休み明けに開店だったんだけど、ランク戦とか魔人族とかでバタバタしちゃって。ようやく開店だよ。」

「そうか。いや、男子寮の中で色々な妄想が飛び交っていてな……トラピッチェさんはいつも欲しいモノを売ってくれる商人で、それが学院に根付いたというならきっと……もっと素敵なモノを販売するのだろうと。」

「? 男子が喜ぶモノってことかな。えっちな本なら学校側にダメって言われたけど。」

「はぁ!? あ、あんた何を売ろうとしてんのよ!」

「だって売れるんだもん。」

「そうか、それは残念に思う男子生徒が多そうだ。他にも……前に少し話したような、可愛い女子生徒の写真とか売ってくれたらいいなぁという話もあった。」

「それも許可が……っていうかどうして男の子ってそんなのばっかり欲しがるの? マニアックになるとその子が使った食器だとか下着だとか欲しがるけど……手に入れてどうするの?」

「さぁ。アレクはわかるか?」

「……ここで俺がわかったら怖いだろう……知るか。」

 真っすぐ……っていうかただの強化バカの二人が首をかしげてると、「うへぇ」っていう珍しい顔をしたアンジュが呟いた。

「その質問、自分にしたらいーんじゃないのー。商人ちゃん、絶対ロイドが着てたシャツとか欲しいでしょー。」

「……」

 こっちも割と珍しい真顔でちょっと考えたリリーは……

「そういうことか。」

 と、納得した。


「あれ、なんでこんなに人が多いんだ?」


 すごいタイミングでロイドが教室に戻って来た。

「やぁロイド。ロイドは毎日すごいんだな。」

「?? 何の話だ? というかカラードとアレクはなんでここに?」

「なに、『ビックリ箱騎士団』を部活にするという話があったがどうなったかと思ってな。設立されたら、是非おれとアレクを部員にして欲しいのだが。」

「ああ、それか。顧問を見つけ次第、部活として申請するよ。部員としても歓迎する――というかダメって言う理由がないだろうに。」

「いや、折角のハーレム騎士団だから。」

「な、なにを言うんだなにを! べ、別にそういうつもりはないから入ってどうぞ!」

「それは良かった。部ができたら教えてくれ。」

 本当に用事はそれだけだったみたいで、強化コンビは顔を赤くしたロイドに手を振って教室から出て行った。

「……よくみんなにすっとぼけって言われるけど、カラードも大概だな……」

「ロイドくん、あれは別物だよ。」

 ロイドが戻って来たから、あたしたちは女子寮に戻ろうと立ち上がる。そんなあたしたちを眺めながらロイドが言った。

「あー、ローゼルさん。」

「なんだい?」

 いつも通りの何気ない会話が始まったと誰もが思ったんだけど……直後、ロイドはとんでもない事を言った。


「嫌じゃなかったらだけど、ローゼルさんの制服を借りてもいいかな。」


 ピタリ。

 まるで全員氷漬けにされたみたいに動作を止めた。そしてきっと全員の頭の中に……さっきリリーがしてた会話が再生される。

「そそ、それはど、どういう意味……あ、あれか! ロ、ロイドくんの趣味の女装用か!」

「趣味じゃないです!」

「な、ならば――!! わわわ、わたしの――匂いでも嗅ぐのか!? そ、それはなんというか妙な気分というか別に直接嗅げばいいというか――こ、この変態ロイドくんめ!!」

「そ、そんなことしません! だだ、大体匂いならついこの前たっぷりと――」

「!?!? それはどういう意味だ!? い、一体いつわたしの――」

「あ、いや、だ、だからほら――ミラちゃんのとこでぜ、全員いっしょに寝ちゃったじゃないですか! あ、あの時ローゼルさん――と、というか別にローゼルさんに限らないけどみんなのいい匂いを――じゃ、じゃなくてそうではなくてそういう理由ではありませびゃあっ!!」

「ロイくんてばやらしいんだから。制服ならボクがかしてあげるよ。」

「い、いきなり後ろに移動して抱き付かないでリリーちゃん!」

「なによー。エリルちゃんとは抱き合って寝てた癖にー。」

「だ、抱き合ってなんかないわよ! う、上に乗ってただけ!」

「同じだよそんなの! んもぅ、今度のお泊りデートは覚悟してね?」

「うえぇっ!?」

「え、まさかロイくん忘れてるの? ランク戦の時に約束したでしょー。」

「い、言っておくがわたしともだぞ!」

「あ、あたし……とも……」

「あたしは……実は約束とかしてないけどー……ま、この流れならあたしもだよねー。」

「あんたたち人のかれ――て、ていうかロイド! 制服借りるってどういう事よ!」

「ど、どういう事と言われると……えっと、女装用なんだけど……」

「あんたやっぱりそっちの趣味が――」

「趣味じゃないって言ってるだろ――でしょうが! デルフさんにお願いされたんです!」

 ! 今ちょっとだけ……フィリウスさんとかと話す感じのちょっと乱暴な口調に……

 ――って、何ドキドキしてんのあたし!

「か、会長さんにお、お願いされて……ロゼちゃんの制服で……女装……?」

「ロ、ローゼルさんにお願いしたのはみんなの中だとオレと身長が同じくらいなのがローゼルさんだからだけど……」

「……確かに、わたしは背が高い方だからな。みんなはちょっとばかし小柄だ。」

「ローゼルちゃん、何気にスタイリッシュ風なポーズとらなくていいから。」

「で、会長のお願いってどゆことー? なんでロイドが女装するのー?」

「え、えぇっとね……」




「――女装が得意だそうだね。」

 生徒会室で生徒会長であるデルフさんからそんな事を聞かれるとは思わなかった。

「ど、どこでそれを……」

「生徒会の情報網とだけ言っておこうかな。それで一つ確認したいのだけど、サードニクスくんの女装は一発芸的なモノではなく、誰もが女性だと思うレベルのモノという事でいいかな?」

「は、はい……昔、フィリウスと旅をしている時に男子禁制の町に入る用事があって……フィリウスはあんなんですから試しにってオレを女装させたら案外としっくりきて……それでオレがその町に入る事に。一週間くらい滞在しましたけど、終始バレずにすみましたよ。」

「それはすごい。」

「えっと……なんでいきなりこの話に……?」

「うん、初めから説明するよ。さっきお祭りがあると言っただろう? そのイベントは……あまりに文字通り過ぎるからもうちょっとカッコよくした方が良いと思うけど、交流祭というモノなんだ。」

「交流祭――ですか。」

 もちろん聞いた事のないオレのため、デルフさんは説明を始めた。

「多くの十二騎士を輩出しているフェルブランド王国には騎士を養成する学校が七つあって、その内の四つは同盟のような協力関係を築いている。腕利きの先生を共有したり、魔法生物や悪党の襲撃で学校が使えなくなった時に避難させてもらったりとかね。それでその四校は年に一度、お互いの親睦を深めるという意味で交流祭というイベントを催すんだ。」

「他の学校との交流……楽しそうですね。お祭りって事は出店とかがあるんですか?」

「あるにはあるけど、それがメインだったのは昔の話でね。そもそも、今となっては交流祭よりも交流戦と呼ばれる方が多い。」

「えぇ?」

「始めた当初の頃はおそらく、サードニクスくんが思い描いたお祭りそのものだったと思うよ。だけど現在、交流祭はそれぞれの学校の威信をかけたイベントになっているんだよ。ランク戦のように、各校の生徒がぶつかりあうバトル大会にね。」

「そうなんですか……」

「ま、詳しい内容とかはその内担任から説明があるだろうから省くとして、僕のお願いは初日に行われるパフォーマンスについてなんだ。」

「初日って……え、何日かやるんですか?」

「三日間だね。」

「結構やるんですね……」

「勉強という意味でも貴重な経験なのだよ。各学校がそれぞれの教育方針を掲げているから、同年代でも学校によって全く質の異なる強さを身につけているんだ。」

「質?」

「うん。例えばセイリオスはどの系統もどの分野も広く教えるスタイルで、卒業する頃には大抵の事を経験した騎士が出来上がる。そこからどの道を究めていくのか、あるいは全てを手広くやるのか、選択するのはその人次第。対して、中には生徒の得意な系統で特化した授業を行うところもあってね。そういう所を卒業すると、その時点で即戦力の騎士が出来上がってたりするんだ。」

「なるほど、その辺が学校を選ぶ時の基準にもなるんでしょうね。んまぁ、オレは勝手に放り込まれましたけど……えっと、それでその初日にパフォーマンスを……」

「各学校が出し物をするんだよ。演劇をしたり合唱をしたり……最近だとその学校の生徒同士の模擬戦なんてものもあったかな。そしてセイリオス学院においては代々、その出し物は生徒会長が行うのが伝統なんだ。」

「デルフさんが? え、一人でですか?」

「いやいや、別に他の生徒を巻き込んでもオーケーさ。ただ、生徒会長は必ず参加する。去年なんかは、会長が生徒会メンバーと一緒に巨大な岩を彫刻していくのを披露していたよ。」

「へぇ……」

「で、今年――つまり僕はちょっとしたショーをやろうと思っているんだ。光の魔法を使ってきらびやかなモノをね。」

「えぇ? でもデルフさんの光魔法って速すぎて何も見えませんよ?」

「ははは、みんなが言うような『神速』をやるつもりはないよ。イルミネーションのような魔法をするのだよ。」

「ああ、それはきれいそうですね。」

「うん。でも、僕だけだと今一つパンチが足りないと思ってね。何かないかと考えていたら思い出したのだ。そういえば、この学院には曲芸剣術といううってつけの技を使う生徒がいたなぁ、とね。」

「えぇ? そこでオレですか?」

「想像してみてくれ。普段回している剣を、例えば光るステッキのようなモノに変えたらどうだろうか。それを何十本も回し、舞わせたなら美しいと思わないかい?」

「んまぁ……」

「しかしここで問題だ。僕は男でサードニクスくんも男。輝くステージを魅せたとしても男二人とあっては華がない。せめて男女ペアであって欲しいわけだが、ならば片方が女装するしかないだろう? 僕はよく女の子に間違えられるが、セイリオス学院では毎年生徒会長が出し物を行うという事と、今年の生徒会長は男という事は他の三校も知るところだ。ならば必然的に女装はサードニクスくんという事になる。」

「な、なんかすごい理由ですね……」

「その上サードニクスくんは女装の達人。もうこの上ないピッタリ具合さ。」

「はぁ……んまぁ、オレで良ければ手伝いますよ。」

 揚々と話すデルフさんにそう言うと、デルフさんは少し不思議な顔をした。

「……一応、無理強いをするつもりはないのだけど……サードニクスくんは女装する事に抵抗がないのかい?」

「……例の町の後、フィリウスが「これは色々使えるぞ!」って言って結構やりましたからね……抵抗がないというかもう慣れているというか……それにそのショーっていうのにちょっと興味があるんです。」

「ほう?」

「曲芸剣術って呼ばれているオレの剣術、その名の通りに使ったらどうなるんだろうって、思った事があるんですよ。誰かを楽しませるような事ができるのかなぁっと……んまぁ、それほど気になっていたわけじゃないんですけど、そういう機会があるのなら。」

「ふふふ、何事も経験というやつだね。よし、ならばいっしょにショーをやるという事で……まずは一度女装姿を見てみたいな。」

「わかりました。」




「――という感じなんです。」

 ロイドの話を聞き終わり、あたしたちは変なため息をついた。

「……まぁ、ロイドくんとだいぶ似ているパムくんがいるわけだし、女装しても違和感がないだろうという想像はできるな。」

 ローゼルの言う通り、くせっ毛の強いパムがお風呂に入ると、かなりロイドに近づくのよね。

「確かにオレとパムって似てるけど……さすがにカツラとかがないと違和感が――ああそうだ、そういえばカツラがないぞ。どうしよう……」

「あ、カツラならボク持ってるよ。」

 この辺りにそんな変なモノ売ってる店あったかしらと、思い出そうとする前にリリーが手をあげた。

「えぇ? なんでリリーちゃんが……あ、もしかして売り物?」

「うん。『ポケットマーケット』を見て購買に仕入れるモノを決めてたら、なんでか女性用のカツラがリストにあってね。こんなの誰が買うんだろうって思ってたんだけど、まさかロイくんだったなんて。」

「便利だね、『ポケットマーケット』……それで、そのカツラってもうあるの?」

「あるよー。そうだ、丁度いいから一回購買に行こうよ。ボクの部屋もようやく出来上がったし。」



 今まで宿直室で寝泊まりしてたらしいリリーの部屋は購買の……裏って言うか奥っていうか、そんな場所にあるらしい。

「え、でもそれってリリーちゃんの部屋は学食の中にあるって事だよね? お風呂とかはあるの?」

「みんなの部屋についてるのよりも広いお風呂があるよ。工事の時にボクが個人的に出資してボク好みに結構いじったから快適なの。ちなみに学食の中って言うよりは学食の下だよ。」

「下?」

 面白そうに笑うリリーに連れられて、放課後になったばっかりで夕食には早いからそんなに人はいない学食をぞろぞろと歩き、あたしたちはシャッターが閉まってる購買の前にやってきた。

 学食の一角と言うよりは、壁の一部がお店になったっていう感じね。

「む? このシャッターは購買そのものの扉として、リリーくんの部屋にはどうやって入るのだ?」

「うふふー。実はここからは入れないんだ。」

「どういう事だ? さっき下と言っていたから、この床の下にあるのだろう?」

「校長の魔法だよ。部屋は確かにこの下だけど、入口は女子寮にあるの。」

 そう言いながらリリーが指を鳴らすと、あたしたちはいつの間にか女子寮の入口に移動してた。

「……だったらなぜ学食に行ったのだ……」

「自分のお店は人に見せたくなるんだよ。」

 ニシシと笑うリリーは女子寮に入ると……なぜかあたしとロイドの部屋の正面の壁の前で立ち止まった。

「ここの壁にこうすると――」

 何もない壁にペタンと手のひらを重ねる。すると、まるで塗装が剥がれるみたい壁の色が変わっていき、あたしとロイドの部屋の扉と同じ様式のドアがそこに出現した。

「ようこそ、ボクの部屋に。」

 ドアの向こうには、あたしたちが使ってる部屋よりは狭いけど、一人用として考えると結構広い部屋があった。ベッドがあって机があって、リリーが言った通りあたしたちのよりも大きなお風呂もあって……確かに快適そうだった。

「えぇっと……女子寮のドアをくぐったけど、実際には今オレたちは学食の地下に来てるんだよね……あれ、なんで外が見える窓があるの?」

「それも校長の魔法だよ。その窓を通ると女子寮の庭に出られるの。」

「……本当にすごいんだなぁ、学院長って……」

「それで……こうしてリリーくんの部屋に来たわけだが、カツラもここにあるのか?」

「あの箱の中にね。」

 リリーが指差したのは部屋の隅っこにデカデカと置いてある宝箱みたいな箱で、大きな錠前がついてる。

「あの箱は商品を置いておく倉庫なの。」

「……マジックアイテムか?」

「そうだよ。あの中、人が何百人も入れるくらいの部屋なの。」

「便利なモノがあるのだな……しかし購買に並べる商品の倉庫がリリーくんの部屋というのは、少々不便なのでは?」

「ローゼルちゃん、ボク第十系統の使い手なんだよ? 購買と倉庫の移動なんて一瞬だよ。」

「しかし、それだと他の位置魔法の使い手も入ってこられるのではないか?」

「セキュリティは万全だよ。ドアを通らずにこの部屋や倉庫に入れるのはボクだけだし、ドアと錠前のロックはボクの魔力。これでも商人歴長いんだよ、ボク。」

 ふふんと笑ったリリーは宝箱――倉庫の錠前を外し、ぱかりと開いて中に手を入れてガサゴソする。

「あったあった。これでどうかな、ロイくん。」

 リリーが見せたのは、ロイドと同じ黒髪がロングになってるカツラ。ちょうどローゼルの髪型になるわね、あれだと。

「うん、いいと思う。」

「良かった。でもまだダメだよ、ロイくん。」

 普通にロイドにカツラを渡すかと思ったら、リリーはカツラをひらひらさせて悪い顔で笑った。

「ボクは商人でこれはボクが仕入れた商品だもんねー。」

「だ、代金ですか……でもオレ、学院からもらったカードしか持ってないよ……」

「大丈夫、ロイくんからお金はとらないから。」

「?」

「まー、そんなに高いモノじゃないからね。ぎゅっと抱きしめて熱いチューでもしてくれればいいよ。」

「そっか、それはよか――って何を言っているのですかリリーちゃん!?」

「どさくさ紛れに何しようとしてんのよ!」

「だってほらロイくん、この前してくれたでしょ、チュー。あれをもうちょっとラブラブな感じにしてくれればいいから。」

「だ、ば、で、でもあの……」

 大焦りのロイドは手とか首をたくさん振ったあと、あたしをチラ見しながらうんうん唸って……最終的に、リリーから目をそらしながらぼそりと言った。

「ツ……ツケはききますか……」

「んふふー、それってもしかして今度のデートでお支払いって事かなー? うふふー、いいよー。」



 ニコニコ笑顔のリリー以外がロイドのほっぺをつねった後、あたしたちはあたしとロイドの部屋にやってきた。何故かと言うと……

「ちょうどいいカーテンがあるからな。」

 と、ローゼルが言ってロイドを引きずって来たからだ。

「え、ちょ、ローゼルさん、べ、別に今かしてもらわなくても――ふ、普通にお部屋で私服に着替えてもらった後でいいですよ!?」

「いやいや、折角の機会だから取り替えっこしようではないか。わたしのをかすからロイドくんのもかしてくれ。」

「オ、オレの!?」

「よし、ロイドくんはそっちで制服を脱ぐのだ。わたしはこっちで。」

 誰かが何かをつっこむ前に、ローゼルはロイドをロイドのエリアに放り込んでカーテンを閉じた。

「な、なんでここで着替えんのよ!」

「だからカーテンがあるからだ。」

「お風呂場とかでやりなさいよ!」

「あー、もう遅いぞー。スカートを下したからなー。」

 カーテンの向こうのロイドに聞こえるように、棒読みでそう言ったローゼルは言葉通りにスカートをぱさっと落とした。

「優等生ちゃんって結構エロいこと考えるよねー……」

「おや、なんの事かなへそ出しアンジュくん。シャツのボタンを外すぞー。」

 上着を脱ぎ、リボンを解き、言った通りにシャツを脱ぎ始める。

「カーテンの向こうで女の子がお着換え中とか、男の子からしたら悶々とする展開だもんねー。まして、そんな脱ぎたての服を交換するんだもん……きっと今、ロイドは顔真っ赤だよー……」

「な、そ、そんなのずるいよ、ローゼルちゃん!」

「熱いキスを約束させたあくどい商人に言われたくないぞ。さー、もう下着姿だぞー。」

 シャツを脱いで本当に下着姿になったローゼルは……お風呂に入る時にさんざん見てるはずなんだけど……なんていうか、やっぱりスタイルがいい……

「む、なんだジロジロと。」

「……何をどうしたらそういう身体になんのかしらね……」

「羨ましそうに見てもあげないぞ。だいたい、こんなに美女なわたしが手に入れられないモノをエリルくんは手に入れているではないか。まぁすぐにでも奪い返すが。」

「う、うっさい……て、ていうか何でシャツまで脱いでんのよ……!」

「? 交換する為だ。男性用と女性用ではボタンの位置が異なるだろう?」

「上着来たらほとんど見えないわよ!」


「あ、あのー……」


 カーテンの向こうから……物凄く恥ずかしそうにしてるロイドの声が聞こえた。

「脱ぎ終わったか? ちゃんとシャツもだぞ。」

「……話が聞こえたので脱ぎました……」

「よし、ではカーテンの下を通して互いの制服を交換だ。」

 しゃがんで自分の制服をすすーっとカーテンの下に通すローゼル。すると向こう側からロイドの制服が顔を出した。

「ロイドくん、気が付いているか?」

「な、なんですか。」

「わたしとロイドくんは今、お互いに下着姿で向かい合っているのだ。カーテンという布一枚越しに。」

「――!!」

「ロイドくんが望むならこのカーテン、シャラリと開いても良いが?」

「にゃ、にゃに言ってんですか!」

「ふふふ……ああ、いやむしろわたしが望むから開――む、エリルくん、腕をつかまないでくれ。」

「さっさと着替えなさいよ色ボケ女神!」

 あたしがそう言うとふふーんとにやけて、ローゼルはロイドの制服を着始めた。

「ホントにあんた、いつからそんなキャラになったのよ。クラス代表よね?」

「わたしは何も変わっていないぞ。単に、わたしがこうなるような相手が今までいなかっただけのことだ。」

 ロイドの制服をかっちりと着こなして男装の麗人となったローゼルは、腰に手を当ててキリッとカッコよく立つ。

「ふむ……」

 腕を回したりして感触を確かめるローゼル。

 ローゼルの私服というと最近は……ロイドに買ってもらったらしいサブリナばっかりはいてるからスカートじゃない格好っていうのは別に珍しくない。だけどネクタイともなるとしてるところを見るのは初めてで、それでも似合ってしまうのだから冗談じゃないわね。

「なんか女子にモテそうだねー。お姉さま的なー?」

「……」

 アンジュがニヤニヤしてそう言ったんだけど、ローゼルはふと身体を動かすのを止めた。

「? 優等生ちゃん? なんか固まってるけどどうしたのー?」

「ああ……なんというか……」

 バシッと決まってたローゼルが急にモジモジし出した。

「そ、そのなんというか……妙な気分でな。ほんのりと残るロイドくんの体温と服についているロイドくんの匂いが合わさって……抱きしめられた時の感覚に似たモノが……あぁ……」

 自分の肩を抱き、少し顔を赤くしてむずかゆそうな顔になるローゼル……

「ふぁあ……これは……ヤバイかもしれん……」

「ローゼルちゃん! 今すぐそれを脱ぐんだよ!」

 跳びかかったリリーをするりとかわし、ローゼルはくるくる回ってあたしのベッドにボフンと座り込んだ。

「ふ……ふふふ、そうするとわたしは下着姿になってしまうぞ……? 何せ今、わたしの制服はロイドくんが着ているのだから。あぁ、もしかするとロイドくんも同じような感覚におそわれているのではないか……?」

「あ、あれはあんたほど変態じゃない……わよ。ていうかあんた、今抱きしめられたって……」

「変態とは失礼な、羨ましいクセに。そして今更だな、エリルくん。」

 ほんのり顔を赤くしたまま、ローゼルはロイドの制服を着た状態で脚を組み、挑発するような顔であたしを見る。

「デートをし、キスをし合ったところに加えてスカートをめくられたりお風呂を覗かれたり、ついでに胸を揉みしだかれてこの前は一緒に寝た間柄だぞ? きっとその内、奥手なエリルくんをおいてけぼりにわたしとロイドくんは――」


「揉みしだいてませんからっ!!」


 カーテンがシャッと開き、向こうから顔を出した人物が顔を真っ赤にして抗議する。

「お、お風呂場のあれはそもそもじ、事故というかなんというか、そ、その、ローゼルさんのむ――あ、あれに触った事は認めますけどもも、揉んでませんよ! あとスカートの件は風魔法の失敗で、そ、その言い方だとオレがわざとやったみたいですけど違いますから!!」

 ローゼルが改ざんした諸々の事件に文句を言ってるのはロイド……そう、ロイドのはずだ。

 だけどどうしたことやら、カーテンの向こうから出てきたのは間違いなく……女の子だ。

「……は? え、ロイド?」

「そ、そんな疑わしい顔しなくても……ほ、ほら、だいたいオレがそんなえ、えろいことやろうモノなら気づいた時には鼻血で気絶ですよ!」

「いや、そっちじゃなくて――え、あんた本当にロイド……なのよね……?」

 なんていうか、すごく変なんだけど……言われてみればロイドだわ。

「ロイくんってば……え、ちょっとすごいね。似合ってるとかそういう問題じゃない気がする……あれ、でもロイくんなんだよね……?」

「へ、変な感じ……だね……な、なんか最初からこう、だったみたいな……気がする……ま、まるでそういう魔法を……かけられちゃったみたいな気分……」

「あ、ああ、それか……それはフィリウスにも言われたよ。」

 困った顔で笑うロイド……?

「似合ってる似合ってないのレベルを通り越している。オレが女装しているって知らなかったら女としか思わない――ってね。その時は我ながら変な特技があるもんだなぁって思ったけど……おばあちゃん――マトリアさんの件を知って、オレはその影響があるんじゃないかと思ってるよ。」


 マトリア……マトリア・サードニクス。ロイドの遠いご先祖様らしいおばあちゃんの名前。


ザビクとの戦いの次の日、ロイドが気絶してる間に何があったのかをあたしたちとロイドとで互いに話しあった。

 あたしたちが話したのは、部下を引き連れて現れた『世界の悪』ことアフューカスについて。

いつか街で会った変な女がアフューカスの変装したモノだったって事。

その時にした会話――「悪とは」みたいな話でロイドがアフューカスに気に入られて、そのせいで狙われてるって事。

だけど今は、思想がどうとかの理由で恋愛マスターのレコードとかいうモノを追ってるって事。

だから……今はロイドに手を出さないって事。

 そして、そんな話を聞いたフィリウスさんが剣を抜いてアフューカスに攻撃をしかけたその時、突然おばさんっぽいしゃべり方になったロイドがフィリウスさんの一撃を止めた事。

 まぁ色々とあったんだけど結局、ザビクは死んで――っていうのかマジックアイテムになったっていうのかイマイチわかんないけど、あの事件の黒幕はもういなくなった事。


 S級犯罪者のオンパレードだった状況の中で気絶してたロイドは、あたしたちの話の後にご先祖様に会ったとかいう変な話を始めた。

 農家としてのサードニクス家の初代、マトリア・サードニクス。はっきりはしなかったらしいけど、彼女はサードニクスに嫁入りする前はもっと違う事をしてたらしく、そのせいで自分の子供や孫が危ない目にあわないように――というかあったときに助けられるようにと魔法をかけた。

 それは、自分の魂の一部を親から子供へと代々受け継がせていき、いざという時に自分が表に出て対処するとかいうとんでもないモノだった。

 そうして今回、表に出てきた彼女は十二騎士の本気の一撃を受け止めたわけで……


「ロイドくんの遠いおばあさま……そういえば何かわかったのか? 一体何者なのか。」

「フィリウスとパムが調べてくれているけど、まだ何も。」

「えーっとー? そのマトリアさんっていう人の魂……つまりは女の人の魂が代々受け継がれるせいで、サードニクス家の男の子はみんな中性的な顔立ちになっちゃうんだっけー。」

「あ、うん。そう、それの影響なんだけどね、もしかしたらこうやって女の人の格好をしたり……あとは女装って事で「女の子になりきるぞ」っていう意思を持ったりすると、そのマトリアさんの魂が少し顔を出して……内面というか、精神……雰囲気? 的なモノまで女性に近づけちゃうんじゃないかなぁとオレは思ったんだ。」

「ふむ……トンデモ理論ではあるが、納得はできそうな予想だな。可能性は否定できない。しかしなロイドくん。原因はさておき、注目すべきはロイドくんに女装がしっくりくるという点だ。」

 割と大事な話題だった気がするけど、ローゼルは自分の制服を着てカツラをかぶったロイドを上から下へじっくりと眺めた。

「元がロイドくん……男の子という事もあって、可愛い系よりはわたしのような美人系の女性になっているな。普通にモテそうだ。」

「そ、そうかな……ローゼルさんも似合ってるね。カッコイイです。」

「ふふふ。しかしながら、ロイドくんの体温と匂いに包まれて妙な気分を味わっているところでもあるぞ? ロイドくんはどうかな?」

「どど、どうって……ま、まぁ……ローゼルさんの匂いはしますけど……」

「ロイドくん……え、えっちだよ……」

「ロイくんってばやらしー。」

「えぇっ!?」

 動揺したり驚く仕草はロイドそのものなんだけど、ちょっと顔を赤らめて照れてる女の子っていう外見だから変な気分……

「ねーロイドー。そのスカートの下ってどうなってるのー?」

 自分のこ、恋人……の、女装姿っていうのに複雑な気分でいると、アンジュがそんな事を聞いた。

「えぇ? いや、普通にパンツ……」

「女モノのー?」

「男モノです! オレのパンツです!」

「ふーん。じゃーそのスカートめくるとロイドのパンツが見えるんだー。」

「そりゃまぁ……な、なにをそんな興味津々に……男のパンツなんか見たって何にもならないでしょ……」

「そっかなー。ロイドがあたしのパンツ見て鼻血出すのと同じ感じに、あたしだってロイドの……まー鼻血は出ないけど、興味はあるよー? その辺の男はともかく、好きな男の子のだもん。」

「えぇっ!?」

 アンジュ――というかアンジュがそんな事を言ったせいで全員の視線がなんとなくロイドのスカートに向けられて、ロイドは両手でスカートを押さえた。

「ロイドくん……そ、そういう仕草まで……女の子っぽいね……」

「いやいやティアナ、男らしいスカートの押さえ方なんてないですから!」

 しゃべり方が女の子のそれだったら、間違いなくドキッとする男がいるだろうロイドの仕草にさらに変な気分になる……

「……あまり考えた事がなかったが……この部屋での生活において、ロイドくんはヘタレだからエリルくんの諸々を覗いたりはしないだろうがその逆はどうなのだ?」

「ヘタレ……」

 ショックな顔をしてるロイドを横目に、ローゼルはあたしの方に顔を向けた。

「ど、どういう意味よ……」

「ロイドくんの着替えを覗いたりとか――という意味だ。」

「あ、あんたじゃあるまいし、しないわよそんな事!」

「前科があるだろう? ロイドくんのベッドで――」

「うっさいうっさいうっさい!」

「……? たまにその話してるけど、エリルがオレのベッドでどうしたんだ?」

「――!! な、なんでもないわよバカ! と、とりあえずもういいんじゃないのその格好!」

「ん、そうだな。みんなから見ても女の子に見えるなら大丈夫だろう。ローゼルさん、元に――」

「わたしはもうしばらくこのままでもいいのだが。」

「とっと脱ぎなさいよエロ女神!」




 街に入る為とか、情報収集の為にやってた女装がこんなところでも役に立つとはと思わなかったけど……デルフさんに見せたところ――


「想像以上だ! これなら完璧だな――サードニクス子ちゃん!」

「会長、ネーミングセンス最悪ですね。」


 というデルフさんとレイテッドさんの漫才が繰り広げられ、オレは交流祭の出し物に女装して参加する事が決定したのだった。女装はともかく、曲芸剣術でショーをするというところを楽しみにしていると、デルフさんが言った通り、ある日先生が交流祭について説明を始めた。


「あー……今からざっと二週間後に恒例行事である交流祭が開催されるわけだが……どうせやっぱり何も知らない奴がこのクラスにはいるから、初めから説明をする。よく聞けよ、サードニクス。」

「……はい……」

「フェルブランド王国には騎士の学校が七つある。その中の四校――セイリオス学院とプロキオン騎士学校、それと女子高のカペラ女学園と男子校のリゲル騎士学校が合同で開催するその名の通りの交流イベント、それが交流祭だ。だが、この交流祭という正式名称よりは通称である――交流戦って名前の方が、今はしっくりくるだろう。」

 デルフさんが言っていた通りだ。セイリオスはここだから、プロキオン、カペラ、リゲルという名前の学校がここに……ん? ここに来るのか? そういえばどこでやるんだ、交流祭。

「始まりは第何回目かの交流祭。他校の生徒に個人的に挑む生徒が多かったことから、いっそそれを交流祭のイベントの一つとしてしまおうということになってから――交流戦は始まった。それぞれの学校の威信をかけたガチバトルのイベントに。」

 ……「ガチバトルのイベントに。」と言った辺りから先生の雰囲気が……そう、ランク戦の前の時みたいなテンションの高いあれになった。

 やっぱり先生ってバトル好きの人なんだな……

「交流祭――いや、交流戦は三日間。期間中、四校の生徒は全員これを身につける。」

 そう言って先生が手にしたのは、それぞれが金、銀、銅の色に輝く三つの腕輪。青い宝石のようなモノがどの腕輪にも三つはまっている。

「金色が三年、銀が二年で銅が一年用。この青い石は残り戦闘可能回数を示していて、バトルすっと灰色になる。」

せ、戦闘可能回数?

「交流戦の間、四校の生徒は他校の生徒と三回まで戦うことができ、その勝負に勝ったら自分の学校にポイントが入る。最終的に、一番多くのポイントをゲットした学校が今年のナンバーワンってわけだ。」

ああ、そういうイベントなのか……

「別に一番になったからといってその学校に何かがあるわけじゃない。まぁ、学校ごとに自校の生徒にご褒美を与えるとこもあるらしいが、基本的には威信のみをかけたイベントだ。」

 ……ん? 待てよ……

「あの先生、ちょっと確認なんですけど……」

「なんだ?」

「他校の生徒に勝負を挑んで、勝ったら自分の学校にポイントって、これだと……その、三年生が他校の一年生に挑むようなことが多発しませんか……?」

 勝てばポイントというのなら、自分よりも下の相手を選ぶ方が勝率は高いのだからそうする人が多いと思うんだが……

「あまいなサードニクス。この腕輪は装着している者とそいつと戦っている相手の力量を測定して判断できるんだ。相手が、生徒にとって上なのか同等なのか下なのかってのをな。でもって、例え勝ったとしても格下に勝ったってだけならもらえるポイントはほんのちょっと。格上に勝てたならがっぽりポイントが入る。簡単に言えば、ポイントが戦う相手の強さによって変化するんだ。」

 なるほど……三年生が一年生に挑めば、それは確かに勝てるかもしれないけどポイントはちょっとだけ――の可能性が大きい。そしてちょっとだけしかもらえていないのに一回バトルをした事には変わりないから挑戦権は一個減る。

 もしも自分の学校を一番にしようと……たくさんのポイントを自分の学校に入れたいと思ったなら、自分よりも格上だと思う他校の生徒に挑んで勝利する事が大事なわけだ。

「まー、前にも言ったが、学年の差で生じる実力差は相当デカいからな。普通は自分の腕輪と同じ色の相手に挑むもんだ。」

 そこまで話してふと、先生が真面目な顔になる。

「思い付きみたいに始まったイベントだが、実はかなり実戦的だ。学校によってその教育方針には差があるから、同世代でも全く種類の異なる強さを身につけた奴が相手になる。セイリオスじゃまず見ないだろう戦法や武器、魔法……戦いの際に敵の情報がそろってるなんざ実際にはほとんどないから、これはいい訓練になるんだ。未知の相手とどう戦うかって事のな。」

 三つの腕輪を一つの指でくるくる回す先生。

「加えて、外見的にわかるのは学年……とまぁ時々武器のみ。自分の学校を勝たせようと思ったら見極めなきゃならない。たった三回という戦いのチャンスの中、相手が自分よりも強いのか、自分は勝てるのかってのをな。情報収集を綿密にするも良し、向かい合った時の感覚――勘に頼るも良し。なんにせよ、敵の強さを測る訓練になる。」

 色んなモノを訓練につなげてくるセイリオスだけど、今先生が言った事はフィリウスもよく言っていた。なるほど、これは予想以上に鍛えられそうなイベントだな。

「……とまぁ、これが交流戦の説明で、ほとんどそこの田舎者の為にしゃべったが、ここからの話は全員聞いておけ。」

 今のいままでテンション高めにしゃべってた先生だったが、でろーんといつものイマイチやる気の感じられない状態になった。

「祭のは華と言えばそうかもしれないが、学校間のトラブルってのが毎年結構ある。」

 だるだると、先生は黒板に丸を五つ描いた。一つが他の四つに囲まれているような配置だ。

「話は聞いてても実際にどういう風なのかを知ってる奴は多くないだろうから説明するが、全然違う所に建ってるこの四校は期間中、この真ん中の丸を中心にして空間的につながる事になる。」

「空間? ランク戦の時の闘技場みたいな不思議空間が、学院長の魔法でまた出来上がるんですか?」

「不思議空間とか言うなサードニクス。位相の異なる同軸空間くらい言っておけ。でもってお前の質問に対しての答えはノーだ。」

 いそうのことなる……?

「四校それぞれに設置されてるゲートと、交流戦――いや、交流祭の為に作られたとある施設っつーか街っつーか、そんな場所がつながるんだ。別に不思議空間が出来上がるわけじゃない。んで、その場所を経由する事で――例えば私らなら遠く離れた場所にあるはずのプロキオン、カペラ、リゲルの敷地内に入れるんだ。」

「他の学校を見学できるんですか? それは面白そうですね。」

「女子高のカペラに期待してるのか?」

「心外だ!」

「くく、ま、別にカペラに限らず、他校の敷地には入れてもほとんどの建物には入れないから雰囲気を見学する程度だ。交流祭の形としては、さっき言った経由する場所がバトルをする場所であり、自他校エリアは交流を深める場所っつー位置付けになってる。」

「なるほど……それで、トラブルっていうのはどんな……」

「主に自他校エリアで起きるもめ事だ。例えば……お前の学校は古臭いなぁ、なんだとこの野郎的なのとか、げへへ、この学校の女はレベルがたけぇぜ、ちょっとナンパすんぞ的なのとか。」

「えぇ……後半のみたいなのいるんですか……」

「ああ、特に男子校のリゲルにはそういう輩が多いな。ちなみにカペラは昔からお嬢様の校風だから、うふふ、いい男がいるわぁ、ちょっと味見的なのはないだろう。全く、昔も今も欲情したらオオカミになるのは決まって野郎だなぁおい、《オウガスト》の弟子のサードニクスくん?」

「反論しづらいのでやめてください……」

「くく、ま、こことは違う教育を受けた色んな奴があっちこっちから集まるわけだから、色々あるだろうって事は覚悟して……とりあえずセイリオスを一番にしてやろうじゃないか。」

 だるそうな姿勢でにししと笑う先生。

 んまぁ交流祭については理解できたし、やっぱり楽しみなんだけど……


「……」


 女子高のカペラに期待――のあたりからエリルにじとーっと睨まれているから、是非先生にはああいう話題を避けてもらいたいところだ……




「流石というかなんというか、一位を獲得した回数はセイリオスが一番多いようだ。」

 放課後、先生が言ってたゲートっていうのを見に、あたしたちは学院の敷地の隅っこに来た。入学した時に学内をぐるっと散策して以来、一度も来てないような場所だったけど……そういえばこんなのあったわねっていうゲートって言うよりはアーチみたいのがそこにあった。

「ちなみにここ二年は連続一位。噂によると生徒会長が他校の上級生を倒しているようだ。」

「さすがデルフさん……」

 ゲートの周りはちょっとした祭壇みたいになってて、座るのにちょうどいい岩っていうかオブジェ? みたいなのもあったから、あたしたちはなんとなくそれに座って話してた。

「そっちのクラスで話あったかわかんないけど、リゲルの男子ってケダモノが多いんだってさー。」

「びゃあっ!」

 一人だけ別のクラスのアンジュは、のほほんと座ってたロイドの肩に自分の手を乗せ、ロイドの頭の上にあごを置く感じに寄りかかった。

「ア、アンジュ!? あの、く、首の辺りにやや、やわらかい感触があるんですが!?」

「そーゆーのを実況しちゃうんだから、ロイドは結構えっちだよねー。」

「えぇ――はわぁっ!?」

 腕をロイドの胸にまわしてさらに密着――してんじゃないわよ!

「は、離れなさいよ! えっと――ロイドが気絶しちゃうじゃない!」

「えー、それが離れて欲しい理由―?」

 うりうりと自分の胸をロイドに押し付けるアンジュで、さらに奇声をあげるロイドだったけど、ふとロイドが何かに気づいてアンジュの方に目線を動かした。

「あ、あの……ア、アンジュ? も、もう夏もそろそろ終わる感じで涼しくなってきてるけど……そ、その格好は寒くないの?」

 相変わらず、ちょっと短い袖のシャツでお腹を出し、やばいレベルで短いスカートを揺らすアンジュは……嬉しそうに顔を赤らめた……

「んふふー、そんなに真っ赤になってるクセにそういう心配しちゃうロイドがあたしは好き。」

「!! ソ、ソウデスカ……」

「この服、大事なところは見えないようになってる以外にも仕掛けがあってねー。これ着てれば極端な寒暖でない限り適温で過ごせるんだよー。だから平気ー。」

「そうなんだ……」

「でもさー、こういう格好はリゲルの悪い生徒に目をつけられるかもしれないよって担任に言われたんだー。」

 ふっと、アンジュの顔が曇る。

「……きっとお姫様は王族だから、位が高過ぎてそんなにないかもだけど、あたしは一応貴族だからさー。お見合い話っていうのを数えきれないくらいやったんだよー。」

「お、お見合い? アンジュが?」

「そーだよー。両親はさ、あたしの好きな相手と結ばれたらいいって言ってくれてるんだけど、やっぱり貴族だからそういう話はバンバン来るんだよー。これでもあたしの国じゃ結構力のある家だからねー。自分の家の力を保ちたい他の貴族が結婚してーって言ってくるのー。でもってそういうのは、無下にできないのがまた貴族なんだよねー。」

 ……アンジュの言う通りで、貴族はそういう話が本当に多い。お姉ちゃんにもお見合いの話が来たりするけど、そもそも王族にそういう事ができる貴族は限られてるから回数は少ない。だけど貴族間ともなると……しかもアンジュは結構……か、可愛いと思うしスタイルもなかなかだから人気が高い気がするわ。

「政略結婚って割り切ってる奴はいーんだけどさー、女遊びが趣味の奴とか、自分は貴族だからこんな可愛い子と結婚できるんだぜーって勘違いしてる奴とかとお見合いするとさー……男の欲望をひしひしと感じちゃうんだよねー。あれって、あんまり気分いいものじゃないんだー。」

「……大丈夫……?」

「んふふ、大丈夫だよー。あたし自身が強くなって、強い騎士があたしの傍にいたらそんな男は近づけなくなるもんねー。まー……」

「だわぁっ!?」

 ぺろりと、アンジュがロイドの耳を舐め――!!

「好きな人ができて、その人と婚約してるんですーっていうのが一番効果的なんだけどねー。」

「ななな舐め! ロイくんの耳!」

「この変態、何してんのよ!」

 ローゼルもそうだけどこのアンジュとかいうのも何とかしないとヤバイ気がするわ!

「ていうことでさ、リゲルのケダモノからあたしを守ってね、ロイドー。」

「耳元でささやかないでくだはひぃ……が、頑張りますから……!」

「いい加減に離れなさいよこの痴女!」


「ふふふ、いつも楽しそうだね。」


 ロイドにしがみつくアンジュを羽交い絞めにしてると、すたすたと生徒会長が歩いてきた。

「デルフさん!」

「あー、そのままでいいよサードニクスくん。羨ましい体勢でなにより。」

 アンジュにくっつかれてるロイドを見てふふふと笑った会長は、ゲートの下までやってくるとポケットから古めかしい鍵を取り出した。

「い、いやこれはその――デ、デルフさんは何をしにここに?」

「会場の下見だね。」

 アーチで囲まれた何もない空間で、まるでそこに鍵穴があるかのように取り出した鍵をくるりと回す会長。するとアーチの内側が光り輝き、ちょうどスピエルドルフの検問所みたいな状態になった。

「担任の先生から聞いたとは思うけど、このゲートは交流祭のメイン会場につながっているんだ。」

「は、はい……え、じゃあ今そこへの入口を開けたんですか? 先生の話じゃ、交流祭は二週間くらい先って……」

「うん。だけど年一回しか使わない場所だからね。色々とチェックしなくちゃいけないんだ。」

「チェック? えぇっと……あれ、デルフさん。オレ、てっきり――会場? は闘技場みたいな場所だと思っていたんですけど……戦う場所の整備をするんですか?」

「闘技場のような場所が至るところにある事は確かだけど、それだけじゃないんだよ。あくまで、このイベントの始まりは交流目的だからね。それぞれの学校が準備するちょっとしたお店があったり、生徒同士がおしゃべりできる喫茶店なんかもあるんだよ。小さな街……そうだね、選手村とでも言った方が良いかもしれない。」

「選手村……」

「それに利用者は生徒だけじゃなくてね。騎士の卵が勢ぞろいするようなイベントだから、それぞれの学校がある街の武器屋さんとか道具屋さんも臨時で出店するんだよ。」

「ふぅん。つまり、その会場には四つの地域それぞれで売られてる商品が集結するんだ。」

 いつもよりもキリッとした……商人モードになったリリーが呟く。

「その通り。だからそれぞれの施設がちゃんと使えるかをチェックする必要があるんだね。セイリオスが使うエリアは代々生徒会が点検するんだけど、例えばリゲルなんかは全校生徒で掃除なんかをするみたいだね。」

「……ねぇ生徒会長。ボクも出店していいかな。」

「……普通は騎士に関連するモノ、つまり武器や魔法に用いる道具を売るから雑貨をメインに扱っているトラピッチェ商店はあまり合わないと思うが……」

「需要は充分だと思うよ? 別の地域から来た生徒たちが首都にしか売ってないような小物に興味を持たないわけはないもん。その土地の人にしちゃなんでもなくても、別の土地から来た人にはお土産というラベルつきの商品になるんだよ。」

「ふむ。まぁ、前例がないだけで禁止されているわけではないからね。提案しておこう。」

 そう言うと、会長はひらひらと手を振りながらゲートの中に消え――

「あ、サードニクス子ちゃん。」

 ――ずに、身体の半分をゲートに埋めて、上半身だけでひょっこり話しかけてきた。

「……改名していいですか?」

「構わないよ。きっといつも使っている偽名などがあるのだろう?」

「んまぁ……はい。」

「ふふふ。例のショーの練習も始めていくから、準備しておいてくれ。」

 ――そう言って、会長は今度こそ光の中に消えた。


「あああっ! また会長は一人で勝手に!」


 ゲートの向こうがどうなってるのかちょっと気になって、頭だけでも突っ込んでみようかしらと思っているとそんな声が聞こえた。

見ると副会長を先頭に他の生徒会メンバーがドタドタと走ってきてて……あたしたちの方をチラ見もせず、会長を追って嵐のようにゲートに入って行った。

「……ロイドくん、一つ気になるのだが。」

「ふぇ、あ、はい。」

 生徒会のお通りにきょとんとしてたロイドはまぬけな顔でローゼルを見る。

「いつも使っている偽名と言ったな? 女装する時に名乗る名前ということは……もしやその名前を持つ女性が実在し、彼女とただならぬ関係だったとかそういう小説のような事はあるまいな?」

「か、考えすぎですよ、ローゼルさん……そもそも命名はフィリウスです……」

「フィルさんが? どんな名前なの?」

「『ロロ・オニキス』だよ。」

「ふむ……女装するとわたしのような美人系の女の子になるロイドくんには少し合わない名前の気がするが……まぁ、ロイドくんのロからとったのだろうな……」

「フィルさん単純……」




「ぶぇっくしょい!」

 大勢の人間がいるのに静まり返っているという不思議な空間――図書館にて盛大にくしゃみをした男は、立ち読みしていた本を棚に戻す。

「あらん? 風使いが風邪を引くとか、使い古されたギャグをお姉さんに言わせるつもりなのん?」

 身の丈もある大剣を背負った男の横に立つ、髪から服まで真っ赤に染まった色気あふれる女が艶めかしく笑った。

「サルビア、できれば俺様はその姿のお前とはいたくないぞ。誰もが知っている事だが、それでも妙に怒りそうな奴がいるからな。」

「あらん、言葉を濁すのねん? それはつまり、噂の彼女を意識しちゃってるってことよねん? いいと思うわよ、お姉さんは。」

「やかましい。それでどうだ? 魂が絡む魔法となるとお前が詳しいからこうして資料をあさらせているわけだが。」

「情報が少なすぎよん。確かに、自分の魂の欠片を子孫から子孫へ受け継がせていくなんて馬鹿みたいな魔法、できる者は限られるわん。だけどそうやって密かに我が子を守って来たような人物が、この辺の資料に自分の名前を残すようなヘマはしないわよん。せめてフルネームは欲しいところよねん。」

「そうか。やはり一度現地に行ってみるしかないか。この時期、セイリオスは交流祭だから大将を連れていく事はできないからな。妹ちゃんに案内してもらおう。」

 腕を組んでそう言った男を少し見上げながら、赤い女は声のトーンを低めに話しかけた。

「……ねぇ、フィリウス。」

「色っぽく話しかけるな。なんだ。」

「あなた理解してるのん? 大将ちゃんの立ち位置っていうか、あの子が持つ力を。」

「んん? 何が言いたい。」

「歴代最強と言われた《オウガスト》が使ったという古流剣術、曲芸剣術。今の《オウガスト》の唯一の弟子。王族や名門騎士、しまいにはスピエルドルフの女王ともつながる太いパイプ。吸血鬼の一族にのみ発現する強力無比な魔眼。三人の王の一人である恋愛マスターとの接触。そしてどこの誰かはわからないけど相当な使い手が残した守護魔法。とても、学院で騎士を目指してる一年生にくっつく設定じゃないわん。」

「現状に対し、得ている力が大きすぎると?」

「そうよん。そりゃあアフューカスくらい出て来るっていうものよん。」

「確かに危険が伴いはするが、力は無いよりも有る方が良いだろう? おまけに大悪党が釣れるなら騎士としちゃあいいことだ。」

「ひどい師匠ねん。」

「考え方の違いだな。俺様はむしろ、大物との遭遇は貴重な経験だと思っている。もちろん、俺様が全力で守りながらの経験だが。」

「なんだか親バカみたいだわん……」


「見つけました、フィリウス。」


 二人の近くにある本棚の裏から、長い桃色の髪を揺らす女がひょっこりと顔を出した。

「お、でかしたぞオリアナ。何に載ってた?」

「はい、これに。」

 そう言って桃色の髪の女が見せた本のタイトルを見て、赤い女は首を傾げた。

「家系……大全? 何その本。」

「えっとですね、王族や貴族、それと名門騎士の家系が初代から現在に至るまで載っている本です。サルビアさんが言ったみたいに名前を隠すようにしていたとしても、これは出生記録から起こしているモノなので、もしやと思いまして。」

「誰が使うのよ、こんな本……」

「血筋を重んじる連中が読むもんだ。ま、権力者の手にかかればこういう本ですら改ざんされていたりするが、あんな高等魔法の使い手が王族貴族の出身とは考えにくい。あるとすればやはり名門騎士。それで、どの家の者だった?」

「あ、はい……それが……」

 桃色の髪の女が開いたページを覗き込んだ二人は、そこに書かれている家の名前に驚いた。

「……想像以上に大物だったわねん……彼女は何代目だったのかしら?」

「ここです。自分も知らなかったのですが、いわゆる最後の代には姉弟がいたのですね。」

「なるほど、どうりで資料がないわけだ。ただでさえ最後の代は戦闘記録が少ない上に、騎士とは関係のない家に嫁入りしたとあっちゃあなぁ。」

「すごい大発見のような気がするけど……こうして本になってるんだものねん……単純にお姉さんたちが注目しなかっただけねん。それでどうするのん? ただの同姓同名っていう可能性もないわけじゃないわよん?」

「あれだけの魔法技術とこの家系はあまりにしっくりくるからな。まぁほぼ確定だろう。そして、それを確かめる方法もある。」

「そりゃそうだけど……あなた持ってるのん?」

「持ってない。だが持ってる奴を探すことは難しくないだろう。しかし事がコトだからな、大将で確認するのは避けたいところ。やっぱり妹ちゃんか。」

「最年少上級騎士……血は争えないってやつねん。納得だわん。」

 予想外の事実に大きなため息をする赤い女と桃色の髪の女だったが、男は一人、ふと違うところに注目していた。


「しかし、そんな彼女を惚れさせた農家のサードニクスってのは何者なんだ?」

この小説を書き始めた時の心持ちとして、「The ラノベみたいのを書こう」というモノがありました。

しかし、色々なお決まりシチュエーションを一人の主人公で描くのは難しい……


ということで、他の学校を呼んでみました。

第六章はそんなお話です。

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