プロローグ その2 お姫様
プロローグその1の――続きではありませんがその2です。
あたし、エリル・クォーツには守りたい人がいて、その為に目指してる人がいる。
守りたい人はあたしの二番目のお姉ちゃん。クォーツ家の兄弟姉妹の中、いっつも兄さんや姉さんにいじめられてた末っ子のあたしに唯一優しくしてくれた人。ただ優しいだけじゃなくて……とっても、心の強い人。そんなお姉ちゃんからは色々なモノをもらったし、教えてもらった。
そのお姉ちゃんは、今すごく危ない状況になってる。元々そういう可能性はあるって言われてたけど、一番目の姉さんが賊に襲われて命を落とした事でそれを強く実感した。
そして一番目の姉さんが死んだ事で、二番目のお姉ちゃんは一番目の姉さんの仕事を引き継ぐことになってしまった。もちろん護衛はつくけど、死んだ一番目の姉さんにだって護衛はついてたわけで……だから安心なんてできない。
だからあたしは……末っ子だからクォーツ家の面倒な仕事には関わる事のないあたしはお姉ちゃんを守る騎士になろうと思った。
騎士として、あたしが目指してる人はクォーツ家に仕えてる一人の女性騎士。
昔は騎士と言えば男だったみたいだけど、魔法技術が発展した今は女の騎士も男と同じくらいいる。
その女性騎士はすごく強くて、だけど気取らずに上品で……目指すと同時に憧れてる騎士。あの人みたいな騎士になってお姉ちゃんを守る。それがあたしの目標。
だからあたしはセイリオス学院への入学を希望した。もちろん家族からは猛反対された。クォーツ家は守る側ではなくて守られる側だとか、身分を貶めるとか言われたけど、最終的にはお姉ちゃんのおかげで入学の許可が出た。
なんだか最初の目的と矛盾してるような気もするんだけど、一番目の姉さんの仕事を引き継いだことで、お姉ちゃんの……こういう言い方は嫌なんだけど、家の中での発言力――みたいなモノが大きくなってて……初めは心配そうな顔をしてたけど、あたしが決めた道ならと、あたしを応援してくれた。
でもそれで終わりじゃない。家の許可が下りても試験をクリアしないと入学はできない。試験はもちろん戦闘技術を見るモノ。護身術としての格闘技は教わったけど、戦う訓練っていうのはしてこなかったあたしは猛特訓した。
騎士と言えば何かしらの武器を持ってるのが普通で、なんでもいいんだけど、あたしは不器用でどんな武器もしっくりこなかった。だからあたしは、いるにはいるけど数は少ないスタイルで騎士を目指す事にした。
そして今から二か月前に、あたしはセイリオス学院に入学した。どこの学院も大抵は寮生活になるから、あたしはできるだけお姉ちゃんの近くにいれるっていうのと、名門って言われるここなら強くなれると思ってセイリオス学院を選んだ。
名門っていうのは伊達じゃなくて、あたしと同じ年のはずの新入生たちは当たり前みたいに自分の武器を振り回してた。
特訓したとは言っても小さい時から稽古を受けてる騎士の家の子たちには全然届かない。だけどあたしにはその子たちとは違う特技があった。それが魔法。
クォーツ家は確かに守られる側だけど、魔法は普通に便利だし、それに魔法を使う生活っていうのが優雅で上品っていう考えが上の方にはあるから、あたしも小さい頃から魔法の勉強をやらされた。
そりゃあ騎士の家の子も魔法の使い方くらい学ぶだろうけど、たぶん、あたしの方がよっぽど厳しく魔法の指導を受けてきた。優雅たれ、上品たれって散々言われてきたんだから。
未熟な戦闘技術にちょっと先取りしてた魔法を追加して、あたしは同級生と同じくらいの強さにはなった。
でも同級生と同じになる事が目的じゃない。こうしてる今も、お姉ちゃんは危険と隣り合わせで仕事をしてる。あたしは早く強くならなきゃいけない。
一つでも多くの戦いを経験する。一つでも多くの戦術を学ぶ。戦いの歴史が騎士の強さだって、憧れの騎士は言ってた。
もっとたくさん、もっと強い人と、もっと、もっと、もっと――
あたしの家の事はすぐに学院の生徒たちに知られた。別に隠してもなかったし。
最初は下心丸見えの連中ばっかり集まって来た。そんな連中にイライラしてたら、段々と寄って来る人はいなくなって、逆に距離を取られるようになった。
場違いなお姫様。戦闘好きの戦闘狂。センスの無いあだ名をいくつもつけられた。だけどそんな事はどうでもいい。強くなれさえすればそれでいい。
だけど変な所でその影響が出た。生徒同士の模擬戦がこの学院では認められてて、あたしは片っ端から他の生徒に模擬戦を挑んだ。
でも全然意味がない。初めの頃はお姫様扱いで手加減されて、今となってはあたしの挑戦を受ける生徒なんて一人もいない。あたしが強いからとかそういうわけじゃなくて……もっと嫌な理由で誰もあたしの相手をしてくれない。
強くならなきゃいけないのに――強くならなきゃお姉ちゃんを守れないのに。
先生との戦いは禁止されてるから……あたしは戦う機会を、強くなるチャンスを失った。経験が積めない。戦術を知れない。強く……なれない。
誰でもいいから……あたしを強く――だからあたしと――
プロローグはこれで終わりです。
次から物語の始まりです。