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騎士物語  作者: RANPO
第三章 ~夏休み~
14/113

第十二話 師匠と妹

ようやっと彼が登場です。


夏休みは、夏休みに入る一歩手前が一番ワクワクしませんか?

ロイドたちもそんな感じにウキウキです。


勿論、悪い人たちもウキウキです。

 試験の結果はまぁまぁだった。ローゼルさんが学年で五本の指に入る成績を出した以外、我ら『ビックリ箱騎士団』は真ん中とか、真ん中よりちょっと上とかそんな感じだった。個人的にビックリなのはついこの間入学したばっかりのリリーちゃんもそんな感じの成績だったって事だけど、本人に聞いてみたらニッコリ笑うだけだったから深くは聞かない事にした。

 そんでもって今日は夏休み前最後の登校日。休み中の注意事項を聞いたり宿題をもらったりして学校は午前中に終了。みんながいつもよりテンション高めに校舎から出ていく中、何故か我ら『ビックリ箱騎士団』はちょっと残れと先生に言われた。

「先生、オレ、カンニングはしてないですよ?」

「なんだその、いかにもやりましたって感じの否定は。この学院でカンニングなんてできるものならやってみろ。成功した時点で全教科満点にしてやるよ。」

「で、なんであたしたちが残されたのよ。」

「私に文句を言うなよ。言ったのは私でも残したのは私じゃない。」

 と、先生が嫌な顔して教卓に座りながらそんなことを言うと教室の扉がガラッと開いた。

「あれ? デルフさん。」

「やぁ、サードニクスくん。」

 教室に入って来たのは銀髪美青年のデルフさん――と、この前デルフさんを叱っていたツインテールの女の子。

「今日はいつも裸の付き合いをするデルフさんじゃなく、生徒会長のソグディアナイトとして来たのだよ。ちなみ、彼女はヴェロニカ・レイテッド。二年生で副会長だ。」

 デルフさんに紹介されたツインテールの女の子――レイテッドさんはぺこりと頭を下げた。

 個人的に、ツインテールと聞くと元気な女の子みたいなのをイメージするんだけど、レイテッドさんの髪の色はなんだかすごく上品な紫色で、加えてその表情はローゼルさんみたいなキリリッとした感じ。その上副会長というのだから、元気な女の子というよりはデキるレディ。オレの中のツインテールイメージを改めなければならないな。

「さて、残ってもらったのは『ビックリ箱騎士団』のメンバーで、残したのは生徒会長である僕。とくれば、話すことは決まっているというものだね。」

 と、ニコリと笑うデルフさんなんだが――オレにはさっぱりだ。

「ずばり――君たち、生徒会に入らないか? というお誘いだね。」

「えぇ? なんでまた……」

「なんでも何もないと思うけどね。A級犯罪者を撃退したサードニクスくんと、そんな君が毎朝特訓しているという『ビックリ箱騎士団』。その実力はワイバーンの件で確認済み……他の生徒が強いと認めるには充分ではないかな。」

「ほらみろ、私の言った通りになったぞ。」

 この場で唯一の外野である先生が教卓にあごをのせた状態でニンマリする。

「で、でもデルフさん。そのお誘いを受けたとしても、すぐに入れるわけじゃないでしょう? 選挙でみんなに認められて初めてなるん――ですよね?」

「そうだね。だから、もしも君たちが承諾してくれたなら――僕が生徒会長として君たちを推薦する。」

「……という事はえっと……?」

 ちょっと追いついていないオレに、優等生モードのローゼルさんが説明してくれた。

「学院の皆が最も強い生徒だと認めている生徒会長という人物に推薦される。その影響はとても大きいものです。最早、当選確実でしょうね。」

「そういう事だ。どうかな?」

「どうもこうもないねー。」

 オレが何かを言う前に、リリーちゃんが不満そうな顔で不満そうに言った。

「一応さ、生徒会に入るって事がどういう事なのかはこの前聞いたよ? でも、まだランク戦ってゆーのも経験してないボクたちにその価値はわかりづらいよ。そういうあんまりちゃんと理解できてないボクたち相手に話をするんだから、もっとわかりやすい利益を示してくれないと、縦にも横にも首がふれないんだけど?」

「さすがは商人。手厳しいがその通りだね。僕がこの前言ったのは――そう、いずれ君たちも憧れるであろう存在が生徒会……という程度だ。確かにこんな霞がかった利益じゃあお客さんは手を出さないね。であれば――うん、まだどこにも所属していない君たちにこの学院に存在する組織について説明し――」

「会長、組織についてであれば入学時に配布される冊子に記載があります。」

 デルフさんが意気揚々と説明しようとした瞬間、レイテッドさんがそう言った。

「しかしね、レイテッドくん。僕から誘っている以上、最低限の説明は――」

「それにそろそろ時間です、会長。休み中の生徒会の日程の話合い等を行うため、既にメンバーが生徒会室にそろっています。」

「で、でもねレイテッドく――」

「いーんですよ、もう! 会長が生徒会に誘っているという事実だけ伝える事ができれば! それが何を意味するかなんて調べればすぐにわかる事です! わざわざ会長が説明する程ではありません!」

 ……うん……どうやらレイテッドさんという副会長さんはデルフさんの監視役というかお世話役というか、そんな感じなのだろう。

「それにそこの商人! 何やらビジネスじみた考えで会長に意見しましたが、それ以前に生徒会や委員会の価値くらい把握しておきなさい! 学院生相手に商売する人間がそんなのではどうかと思いますね!」

 リリーちゃんに文句を言った後、レイテッドさんはデルフさんを引きずって教室から出ていった。

「……んま、そういうことらしいし……解散な。」

 そして先生も、あの二人のやりとりを見慣れているのか、大して表情を変えずにふらふらと教室から出ていった。

「……締まらない最後で休みに入る事になってしまったな。」

 ぼそりと、いつもの感じに戻ったローゼルさんがそう言った。

「えぇっと……ちなみにローゼルさんはデルフさんが説明しようとした事って知ってる?」

「大体は。しかしあの生徒会長から直に説明されるとなると、もっと詳しい事を知れるのかと思っていたのだが……まぁ、それこそロイドくんにお風呂で「デルフさん」に聞いてもらうとしよう。」

 とは言いつつも、実際あんまり興味なさそうな顔のローゼルさんがさらりと説明してくれた。

「ざっくりと言うと……この学院には生徒会や委員会というちょっとした組織があるのだ。図書委員会とか風紀委員会とか……まぁ、騎士の学校でなくても同じ名前の委員会はあると思うが、やはりここのそれは特殊なのだ。」

「せ、選挙するとか?」

「いや、委員会は希望して入る。ただ、どの委員会にも入るための試験があるのだ。魔法の技術を試したり、純粋な戦闘力だったりと様々だが。」

「ふぅん。」

 これまた興味なさげにリリーちゃんが相槌を打つ。

「つまり、一定以上の実力が要るってことなんだね。でもってそこまでして入るわけだから、入ったらいい事がある……そうでしょ?」

「ああ。例えば図書委員なら、一般生徒では閲覧できない貴重な文献を読めたりする。加えて、卒業後も進みたい先によっては優遇もあるとかないとか。」

「えぇ? 卒業した後にも影響力があるのか。ということは、生徒会にも特典があるって事か……なんだろう。」

「正直、その辺りが明確にならないと判断できないところだな。」

 むぅ。これは確かに、お風呂場で聞いてみるしかないな。

「――それはそうとリリーちゃん。」

「? なぁに?」

「いや……さっきレイテッドさんが言った事がオレも気になって。」

「?」

「オレの中だと、リリーちゃんって結構やり手の商人ってイメージがあるから……この学院の事なら何でも知っているって言われても納得できちゃうくらいだったんだけど……」

「……商人のボクがそういう事情を把握してないからなんでだろーって事?」

「そうそう。」

「ふぅん……ロイくんってば――」

 そこで何故かリリーちゃんはほっぺを赤らめて意地悪に笑う。

「そんなにボクの事が知りたいんだ?」

「えぇ!? いや、そういう事では――」

「うぅーん、どうしようかなぁー。でもまぁ、ボクは商人だからね。ロイくんが払うモノによっては、教えてあげてもいいけど?」

「えぇ……例えば?」

「た、例えば?」

 何故か要求したリリーちゃんが動揺している。

「そそそ、そうだね……ボクの情報をあげるんだから、もらうのはロイくんの情報――かな?」

「オレの情報? 好きな食べ物とか?」

「そ、そうだねー。好きな本とか好きな動物とか――」

 珍しくあたふたしているリリーちゃんは、顔を赤くして目を逸らしながら続きを言った。


「好きな人――とか?」




 教室の中が凍り付いた。別にローゼルが魔法を使ったわけじゃないんだけど……あたしたちはリリーの言葉を聞いて固まった。

 ロ、ロイドのすきな……ひ、ひと……

 べべべ、別にロイドがだだだ……誰を好きでもいいけど……そうよ、いいわよ! で、でもほら、あたしはロイドの友達だから、そういうのはやっぱり気になっちゃう感じよ、そうなのよ。

「オレの好きな人?」

「た、例えばだよ、例えば!」

 あははと笑うリリーだけど、横目な感じでロイドを見つめる。ちなみにローゼルもティアナもそんな感じ。

「うーん。それは言えないなぁ。」

「ええ!! いるの!?」

 ロイドの発言にリリーは立ち上がり、あたしは心臓が飛び出るかと思った。

「それも言えないかな。」

「ななな、なんで! どーして!?」

 なんかもう必死なリリー。

 あたしも……なんか信じられないくらいドキドキしてる……

「フィリウスとの旅で、昔恋愛マスターに会ったんだけど――」

「れ、恋愛マスター??」

 この空気の中に飛び出してきたへんちくりんな単語にリリーがへんちくりんな顔をしたけど、ロイドの方は至って真面目に話を続ける。

「その人が言うに、恋心ってのはそれが向かう相手は勿論、それが有るか無いかも含めて、最初に伝えるべきは意中の相手だ! って。オレもフィリウスもその人のマスターぶりには驚いたもんでね。だからきっとそうなんだろうと思って――」

「ちょ、ちょっとまってロイくん。恋愛マスター?」

「うん、恋愛マスター。占い師の美人のお姉さんなんだけど――」

「美人のお姉さん!?」

「髪の長い褐色の肌のお姉さんで、占いがよく当たるって噂を聞いて――」

 そこから先、フィリウスさんとの旅で出会った色んな――お、女の人の話がひょいひょい出てきて、一つ一つにリリーがものすごい反応するっていうやりとりが十分くらい続いて……

「……おい、お前ら。いつまで教室にいるんだ?」

 ――っていう、戻って来た先生のツッコミで、あたしたちはようやく校舎を出た。

 ローゼルもティアナもリリーも何となく顔が赤くて、なんとなくロイドの方をじっと見ていて、きっと色んな事を考えて頭の中がぐるぐるで……たぶんあたしと同じ感じ――じゃないわよ!

 な、なんであたしがロイドのいいい、色恋沙汰に一々反応しなきゃ……いけないのよ……

「あ。」

 いきなりロイドがそう言ったから、てんやわんやなあたしたちはいつも以上にビックリしながら立ち止まる。

「な、なによ、どうしたのよ。」

「いや、ほらあれ……」

 ロイドが指差したのは女子寮の方。なんか入口の前に女子生徒の人だかりができててわーわー騒いでる。

「なぁにあれ? 痴漢でも出たのかな?」

「……この学院にはいくつもの罠が仕掛けてあるし、《ディセンバ》によってそれは完璧なモノとなっているはずだ。そういう輩の侵入は不可能だろう。」

 ってローゼルが言ったんだけど、近づくにつれて聞こえて来る女子生徒の叫び声は――


「変態!」

「ち、痴漢よ!」


「……リリーの予想通りみたいね。」

「へ、変態さんが……?」

 ティアナがすごく不安気な顔になるのと、ロイドが一歩前に出るのは同時だった。

「ロイド?」

「一応、オレ男だし……もしそうならなんとかしないと……」

 そう言ってスタスタと人だかりに近づき、一番外側にいる生徒に声をかけるロイド。


「あ、ロイドくん!」


 一人がその――なんか安心した風な口調でそう言うと女子生徒の人だかりが開いて真ん中が見えるようになった。

「んな……」

 ロイドが微妙な声を出す。追いついたあたしたちはロイドの後ろからそれを見た。


 そこにいたのは布きれ一枚だけを腰に巻いたほぼ全裸の男だった。


「だ、だから誤解だ! 変態でも痴漢でもない! こう見えても俺様は立派な騎士だぞ!」

 裸の男は腰に手を当ててキリッとしたポーズをとるけど、まるで――その鍛え抜かれた筋肉質な身体を女子生徒にみせつけてるようにしか見えなくて――

「やっぱり変態じゃない!」

 寮の部屋から武器を持ってきた生徒に刃を突き付けられた。

 そんな変な男を前に、何故かロイドはげんなりした顔で、ついでになんでかリリーまで呆れ顔だった。

「こんなとこで何してんだよ……」

 ロイドがそう言ったのを聞いてクルッとこっちを向いた裸の男はニカッとものすごくいい笑顔になった。

「大将! とリリーちゃんか? 大将はともかく何故にリリーちゃんまで――というかやっぱりかわいかったか! なんだ、学院に入れるまでもなく俺様は大将に出会いを与えられていたわけか! しかし、驚くべきはそれをモノにする大将の手際だな!」

「いやいや、何言ってんのかさっぱりだけど、とりあえずなんでそんな格好でここにいんだよ……」

 ロイドが――なんだかあたしたちと話す時とはちょっと違う感じの雰囲気でそう言った。

「いや、聞いてくれよ大将! 今日が終業式ってのは知ってたから、部屋で待ち伏せて大将をビックリさせてやろうと思って学院に侵入したんだが……」

「なんで正面からこねーんだよ。」

「どうせならあの髭仙人も驚かせようと思ってな。だがいざ侵入してみたらトラップの場所とか種類がガラッと変わって、しかもより凶悪になってたんだ。命からがらここまで来た時、ふと気が付くと俺様は布きれ一枚になっていたわけだ。」

「なんじゃそりゃ……」

「あ、あのロイドくん……こ、この人は?」

 ティアナがなるべく裸の男を見ないようにしながらロイドに聞くと、ロイドはその場にいる全員に聞こえるように言った。


「こいつはフィリウス。今の……《オウガスト》だ。」


「《オウガスト》……!? 変態さんが?」

 フィリウス――ロイドを拾い、育て、強くした十二騎士の一人。ロイドの話に何度も登場するその人が、今目の前に立っている。……裸で。


「え、《オウガスト》……?」


 さすがにざわつく女子生徒たち。あまりの事にあたしもついて行くのがやっとだったその時――


「こんの変態がぁぁぁぁぁっ!!」


 空高くからそんな声が聞こえたかと思うと、あたしたちには少しも余波が来ない一本の雷がそのムキムキの身体に落ちた。



「まったく、年頃の女子生徒に何というモノを見せておるのじゃ。」

「何を言うかと思えば。惚れさせるの間違いではな――痛い! 教官、痛い!」

「黙ってろ筋肉だるま。」

 結構な顔ぶれを前に、あたしたちは学院長の部屋にいた。雷と一緒に落ちてきた先生の一撃を受けて頭にたんこぶ乗っけたフィリウスさんがそのまま連行されたから、なんとなくあたしたちもそれについていったところ、そんなに広くない学院長の部屋に五人と三人で八人も集まった。

「それで――終業式のこの日に塀を乗り越えた理由はなんじゃって?」

「大将と、ついでに学院長を驚かせようと思ってな! そしたらあんな恐ろしい罠に変わっているのだから、いやー、まいった。やっぱり女子高ともなると厳しくなるんだな……」

「? 何を言っておるのじゃ。」

「? 知らない間にセイリオスは女子高になったんだろ?」

「誰からの情報じゃ……」

「いや、だって大将、女の子に囲まれてるぞ?」

 ロイドが拾い集めた服を着て、きっといつもの格好っていうのになってるフィリウスさんがロイドを指差す。

「大将は別にナヨナヨのまるで女の子ーって感じの男ってわけじゃないからな。女の子に間違えられる事はない。なのに女友達しかいないってんなら、こりゃ学院に男がいないって事だろう?」

「どういう理屈じゃ……そもそも、女子高であったなら彼は入学できんじゃろうが。」

「そこは大将お得意の女装で何とかしたんだろ。なぁ?」

「なぁ? じゃねーよ! んなわけあるか!」

 あたしたちの前じゃこうはならない――男の子っぽい口調でロイドが言った。

「え……じゃ、じゃあなんだ? 大将はその――モテるのか? 四人もはべらせてるのか!?」

「は、はべらせてるんじゃねーよ! 友達だ! 変な事言うな!」

「一応聞くが大将、男友達はいるのか?」

「いるわ!」

 ってロイドは言ったけど、たぶんそれってデルフの事で――デルフしかいない。

「そうか、今日はたまたまか。俺様はてっきりこの七年間で恐ろしい女ったらしを育ててしまったのかとひやひやしたぞ。」

 …………実は大正解かもしれないわね…………

って、なに考えてんの、あたし……

「あー……わかったわかった。儂は充分驚かされた。あとは弟子との久しぶりの再会を楽しむといい……」

「そうか? んじゃあこれで。」

 ニカッと笑ったあと、フィリウスさんはスタスタと部屋から出ていった。

「まったく、相変わらずじゃが――元気そうでなにより。」



 学院長の部屋がある建物から出たあたしたちは、その正面でフィリウスさんと対峙した。

「さて、久しぶり――と言っても一か月とちょっとか。元気だったか、大将。」

「……んまぁ、いきなり入学させられた割には頑張ってるよ。」

「みたいだな。ざっと……五本か? 回せるのは?」

「んな……」

 ロイドが驚く。たぶんフィリウスさんが言ってるのは、ロイドが風を使って回転させる事ができる剣の本数……確かに、今のロイドは五本が最大だけど……

「見ただけでわかるのか?」

「そりゃな。『セカンド・クロック』の襲撃の話とかも聞いたから、大将がその剣術の本来の姿に辿り着いたのは知ってる。それを踏まえてみると――大将の身体の成長具合的にはできて五本。無理をすれば――八か九ってところだ。」

「成長? 別に背は伸びてないけど……」

「魔法を使う時に負担がかかる部分だ。人間の身体には痛みや負荷に対して、次に同じダメージが来てもいいように強くなる力がある。だからその部分を見れば魔法の熟練度がわかるってわけだ。ま、俺様が見て理解できるのは第八系統で負荷がかかる場所だけだがな。」

 そこまで言うと、フィリウスさんはその大きな手をロイドの頭に乗っけた。

「着実に成長してる。こりゃ卒業する頃が楽しみだ。」

「フィリウス……」

 ロイドが――なんか照れてるようなそうじゃないような微妙な顔でフィリウスさんを見上げた。

「もう聞いた――っつーかさっき大将自分で言ってたもんな。改めて――実は俺様、十二騎士の一人、《オウガスト》を任されてる騎士だったのだ! すごいだろ!」

「……なんで黙ってたんだ、それ。」

「黙るも何も、騎士について何も知らない――と言うか教えてない大将に言ってもしょうがないだろ? できれば、他の騎士はどんな奴なんだろうとか、十二騎士ってどれくらいすごいんだろうとか、余計な事を考えないで剣術の修行に集中して欲しかったんだ。曲芸剣術は、それだけを極める者にしかできない剣術だからな。」

「ああ……聞いたよ。」

「俺様も最初はそっちがやりたかったんだが――根本的に不器用でできなかったんだ。だから見込みのある大将をそうしようと思った。悪いな、なんとなく俺様が出来なかった事を勝手に託しちまった。」

「……別にいいさ。おかげで大事な人を守れる。」

「そうか。んなら気兼ねなく俺様の夢を言っておくぞ?」

「?」


「いつか大将が俺様に挑んで、でもって――《オウガスト》を俺様から奪っていく。これが俺様の夢だ。」


 息がつまった。あたしのなのかロイドのなのか……わからないけど、きっと今この瞬間が……誰かの人生の大きな……ターニングポイントとか転機とか、そんな感じのモノだ。

そんな何かすごい瞬間を見たような……そんな気がしたんだけど――

「……」

 当のロイドはローゼルみたいな半目顔で――

「なんで?」

 と言った。対してフィリウスさんは――

「大将、俺様だっていつかは引退する日が来るんだぜ? それが自分の弟子に奪われる――いや、託していくなんて――渋過ぎるだろ! モテるぞー、これは!」

 台無しだわ。なんか一瞬感動したあたしがバカみたい。

 というか……なるほどね。フィリウスさんって人は要するにこんな人なのね。

「よし、大将との再会は果たした! 次はそっちのお嬢ちゃんたちだな。」

 ヒョイと、ロイド越しにあたしたちを見るフィリウスさん。

「紹介しろよ、大将。名前と――あと大将から見て好みのポイントを。」

「ああ――って、なんだって?」

「あるだろう? 別に恋仲でなくたって、男なら女を見た時、「ここがいいなぁ」って思うとこが。まぁ、嫌いな女相手にんな感想持たないかもだが、友達レベルならあるはずだ。俺様としちゃあ同年代の異性との出会いが少なかった大将にそういう目っつーか感覚がちゃんとあるのか気になってるんだ。もしも女に興味が無いとかいうのになってたら育てた俺様の責任って事になるからな。」

 冗談なのかそうじゃないのか。割と真面目な顔でフィリウスさんがそう言った。

「リ、リリーちゃんがいただろ……同年代の異性……」

「顔も見た事なかったリリーちゃんはそういう出会いに入らんだろ。だが今ならカウントに入るってもんだ。さぁ、大将。」

 ロイドが少し顔を赤くしながらあたしを見た。

 ちょ、ちょっと……そんな顔で見ないでよ……

 て、ていうかなんであたしからなのよ……

「え、えっと、この赤い子が――エリル。あ、エリル・クォーツ。」

 赤い子って……間違ってないけど……

「ああ。大公の方のクォーツ家の末っ子だろ。騎士になろうってんだから、なかなかガッツのあるお姫様だよな。そういうの、俺様は好きだぜ。んで? チャーミングポイントは?」

 数秒前の真面目顔から一気にへらへらした――明らかに楽しんでるフィリウスさんのニヤニヤ顔が視界の隅っこに入るけど、今のあたしの頭の中を占めてるのはロイドの真っ赤な顔だった。あたしも、自分の顔にものすごい勢いで血が流れて行ってるのを感じる。

「エ、エリルの……い、いいところは……」

 視線が合う……すごく気まずくてすごく恥ずかしいのに――目がそらせない。

 ロイドの……次の言葉が気になってしょうがない……な、何を言うのかがすごく気になる……!

 だ、だめだわ……し、死ぬほど顔が熱い……! どうになりそう……!

「そ、その――」


「ぶべらっ!」


 あたしとロイドが死ぬほど――アレな状態になってたら、いきなりフィリウスさんがそんな声をあげた。


「兄さんに何をやらせているんですか、このゴリラは。」


 数メートル離れたところに転がるフィリウスさん。そして今までフィリウスさんがいた場所には、あたしよりも小さな女の子が白いマントをなびかせて立っていた。

「パ、パム!?」

 ロイドが赤い顔のままビックリすると、パムの表情が冷たいそれからぱぁっと明るくなるんだけど、ぶんぶんと首が振られて冷静な顔に戻る。

「おに――兄さん。今日で一学期は終了ですよね? 自分も自分に課せられた任務はしっかりこなしてきました。さぁ兄さん。この夏休みは……その、自分と……」

「俺様に蹴りを当てるとは並じゃないと思ったが――おい、大将。その上級騎士のお嬢ちゃんは知り合いか?」

 ほっぺを押さえながら起き上がるフィリウスさん。

「あー……オレの妹だ。パム、こいつはフィリウス……というか《オウガスト》だ……」

「? ああ、確かによく見れば《オウガスト》ですね。十二騎士がこんな所で何を?」

 まるで興味ない感じのパムに対して、フィリウスさんはすごく驚き顔。

「妹? 大将の妹は七年前に――」

「あ、ああ。そうなんだけど……生きてたんだ。」

「本当か! そりゃあ良かったな!」

 自分の事みたいにすごく嬉しそうな顔になるフィリウスさんに、パムは怪訝な顔を向ける。

「兄さん? 《オウガスト》とはどういう関係なのですか?」

 ロイドの腕にギュッと抱き付いてるパム……! を見てニヤリと笑ったフィリウスさんはものすごく偉そうなポーズをとった。

「ふふ、何を隠そう、七年前に大将を拾ってここまで育てたのは俺様だ!」

 その発言に今度はパムが驚き顔になる。ロイドの方を見たパムはロイドが頷くのと同時に、まるで王様に謁見に来た人みたいな低姿勢になってフィリウスさんに頭を下げた。

「兄さんを助けてくれて、ありがとうございました。」

「お、おお、あまりの変わり身に俺様もビックリだが気にすんな。」

 逆に戸惑うフィリウスさんがなんだか面白い。

 ……ロ、ロイドのあたしたちの紹介……ロイドがなんて言おうとしたのかが気になるけど、とにかく続けさせまいと思って、あたしはいきなりやってきた二人に聞いた。

「それで……はれて夏休みになったんだけど……フィリウスさんが来たのは挨拶する為だけ? それともこの夏は修行の旅にでもロイドを連れてくの? でもってパムは何する予定なのよ。」

「修行? んな事しないぞ? 俺様が教えたい事は教えたし、この先俺様が教えられる事と言ったら俺様自身の戦い方ぐらいだが……今や俺様と大将は全然違う剣術の使い手だからな、大将にはむしろ邪魔になる教えになっちまう。俺様はただ、七年間鍛えてこの間お披露目した俺様の弟子の顔を見に来ただけさ。」

 ニカッと笑うフィリウスさんと照れくさそうなロイド。

 フィリウスさんの前だと、あたしの知らないロイドがころころ出て来るわね……

「自分は兄さんを迎えに来たのです。兄さんには自分の家に来てもらって、兄妹水入らずで過ごすのです。」

「んまぁ、それはいいけど……オレ、エリルやローゼルさんの家に遊びに行く予定が……」

「構いません。自分もついて行きます。」

 ぎゅーって音が聞こえるんじゃないかってくらい抱き付いてるパム……! に少しおどおどしながらロイドがあたしたちに困った顔を向ける。

「ふむ。入学して初めての夏休みだ。ここはしっかりと計画を立てて遊ぶべきだな。寮でその辺りを話そうではないか。」

 若干引きつった笑顔でローゼルがそう言ったから、とりあえず寮に向かって歩き出した時、フィリウスさんがロイドの頭を掴んだ。

「大将を少し借りていいか? 俺様、もうちょっと大将と話がしたいんだ。男同士でな!」




 右腕を圧迫するパムの――なんか柔らかいモノから解放されたオレは、フィリウスについて少し歩く。

「お、丁度いい噴水があるな。いつの間にか学院もオシャレになったもんだ! 大将、とりあえずあそこに座るぞ!」

 噴水の縁に並んで腰かけると、馬車に乗ってる時はずっとそうだった状況――フィリウスと並んで座るって事が随分と懐かしく思えた。

「で、大将。お姫様のいいところはなんなんだ?」

「それの続きを話すのか!?」

「本人の前じゃハードルが高過ぎたかと、こうして二人になったんだろ? ま、話しておきたい事があるにはあるんだが、まずはそっちだ。」

 何というか……異性の好みとかたまらないポイントについて語る時のノリノリの顔だった。これは話さないと先に進まないな……

「……エ、エリルのいいところは……」

「おうおう!」

「すごく――頑張り屋さんなところかな。」

「ほうほう!」

「騎士になってやりたい事がはっきりしてて……そのために努力をし続けてるんだ。フィリウスに教わった体術とかをエリルにもそのまま教えたりしてるんだけど……すごく真剣で。んまぁ、そのせいかいつもムスッとした顔なんだけど、そこがまたかわ――」

 ふとフィリウスの、過去に類を見ないニヤニヤ顔が視界に入ったから、オレは慌てて言葉を止めた。

「何を言いかけたかを追求したいところだが――ま、今日のところは及第点にしてやろう! だがな、大将。ああいうムスッとした顔もいいと思うって事は、そうじゃない顔を知ってるって事だ。だからこそ、他から見たらただの仏頂面も可愛く見える! なるほど、大将とお姫様はなかなか親密なのだな!」

「へ、部屋が一緒だから……た、たまたま知ってるというか……」

「だっはっは! 部屋が一緒でもそんな顔を見せるくらいに気を許してる異性ってのはたまたまでは済まんさ! 大将は――なんつったか。《ノーベンバー》がいうところの――そうだ、ツンデレ好きなんだな!」

「なんだそれ?」

「だっはっは! 都会じゃ一般的な言葉だぞ? 今度お姫様にでも聞いてみろ。でもって次だ!」

「えっと……青い人がローゼルさん。ローゼル・リシアンサス。」

「リシアンサスか。これまた名門だな。槍とか薙刀とか、長い武器を専門に使うとこだ。」

「そうなのか? ローゼルさんもトリアイナって武器を使うぞ。それに第七系統の水を合わせて氷をこう、巧みに使って攻撃する感じだ。」

「水が得意系統か。ちなみにお姫様は――まぁ火だろうな。クォーツ家の連中は何か知らんが全員火が得意だ。」

「得意な系統って遺伝するのか?」

「さてな。ま、だからこそ《エイプリル》がすすんで護衛についてるんだが――それは今はおいておこう。で、あのナイスバディちゃんのいいところは?」

「ナ、ナイスバディって……」

「んん? 出るとこ出てるのに加えて美人顔だ。ああいうのをナイスバディと言う。」

「た、確かにローゼルさんはスタイルいいけど……」

「ほう? やっぱ大将も男だったか! そこがいいと!」

「い、いや、ロ、ローゼルさんは……その、すごく親切なんだ。オレの知らない事を色々教えてくれる。すごく優秀だし――び、美人だし? 憧れる人も結構いると思う。」

「大将もか?」

「いや、オレは――そんなローゼルさんが実は結構めんどくさがり屋なことを知っているからな。だけど……そう、本性――っていうとアレだけど、それでもついつい面倒見ちゃうみたいなところが好きだな。一回りしてやっぱり親切――いや、優しいのかな。あといつもはクールだけど時々あたふたするところも好きだ。」

「ほう、大将はギャップに弱いタイプか。」

「よ、弱いとかそんなんじゃ……」

「まーまー。ほれ、次は?」

「……あー、金髪の子がティアナ・マリーゴールド。ああ見えて魔眼を持ってて、その上ガルドのとこのライフルを使うんだ。」

「あの――おどおどした感じなのにか? そりゃまた大将好みのギャップっ子だな。」

「なんだよギャップっ子って……ティアナは――すごく純粋だな。なんだかキラキラしてて、守ってあげたくなるんだけど本人は自分の力で頑張ろうとしているから、それを応援したくなる。なんとなく癒される感じだな。でもって料理が上手で、あの四人の中だと一番「女の子」って感じで……近くにいるとホッとするとこがいいな。」

「なるほど、ほんわかした魅力ってのがあるわけだ。しかし、つまり大将にとっての「女の子」ってのは家庭的なイメージなんだな。」

「んー……それとはちょっと違う気がするんだけど……表現するとなると「女の子」としか思いつかないってのが正解かな。」

「ははぁん。よし、最後はもう一人のナイスバディのリリーちゃんだ。」

「……そればっかだな、フィリウス。」

「リリーちゃんはいっつもグルグル巻きだったからな! 俺様にとっちゃ驚きのナイスバディだ! 大将もそうだろ?」

「オ、オレはバ、バディよりも素顔にビックリしたな。」

「ふむふむ! 確かにありゃ可愛い顔してるな! そんなリリーちゃんの真ん丸な眼とかキュートな唇がたまらんと。」

「な、なんでそうなるんだ! リ、リリーちゃんは……なんか一番知っているはずなのに一番謎が多いミステリーな女の子だな。」

「ほう? あの元気っ子なリリーちゃんをミステリアスガールと言うか!」

「ちょこちょこと……か、からかわれたりイタズラされたりして……きょ、距離が一番近いとは思うんだけど、ところどころ裏が見えるというか、だけどそれを教えてはくれないというか。でも基本的に笑顔がかわ――似合う元気な女の子だな。振り回されてる感じもちょっと楽しいし……一緒にいると色々な意味で賑やかになるとこがい、いいかな。」

「そうかそうか!」

 こうしてオレの友達である四人の女の子に対するかなり恥ずかしい事を言い終えたオレは、とても満足そうなフィリウスを睨みつける。

「くそ、楽しそうな顔しやがって……」

「だっはっは! これは楽しいというよりは嬉しいだ! ちゃんと大将も恋ができそうでよかったよかった!」

「こ、恋ぃ!?」

「おうともよ! お嬢ちゃんたちが何を考えてるか知らないが、俺様は俺様なりの余計な事をして大将の人生を華やかにしてやろうと思ったわけだ! 人生の師である俺様の親心よ!」

「わ、わけのわからん事を……」

「だっはっは! 青春しろよ、大将。」

 やり切った感のあるすがすがしい笑顔でそう言うフィリウス――だったんだが、ふと真面目な顔になった。

「んじゃあもう一つ、大将に伝えておきたい事がある。」

「な、なんだよ、改まって。」

 するとフィリウスは一枚の布きれをオレによこした。何かのシンボルだろうか、その布にはなにやら怖い感じの真っ赤なヘビが描かれていた。

「大将、アフューカスって知ってるか?」




 死ぬほど恥ずかしかった。

 寮に戻って、とりあえず全員があたしとロイドの部屋に来てそれぞれがペタンと座った瞬間、パムの方からロイドの声が聞こえてきた。

 パムが不思議な顔で声のする方――ポケットに手をつっこむと、そこから小さな……ラッパみたいのが出てきた。リリーが言うには、これは二つで一つの道具で一方が拾った音をもう一方に届けるモノらしい。

 そしてその道具から聞こえて来るのがロイドとフィリウスの声って事から、今二人がしてる会話が聞こえてきてるんだってわかった。あたしたちは勿論、パムにも心当たりがないこの道具から聞こえて来る会話を聞く事数分……パムを除く……あたしたち四人は顔を真っ赤にしてた。


『お嬢ちゃんたちが何を考えてるか知らないが、俺様は俺様なりの余計な事をして大将の人生を華やかにしてやろうと思ったわけだ!』


 半分くらいはあたしたちに向かって言われたこの言葉で、犯人がフィリウスさんだとわかったんだけど……ほっぺを膨らませてわなわなするパム以外はそれどころじゃないくらいに――恥ずかしさでいっぱいだった。

 が、頑張り屋さんとか、ムスッとした顔がかわ――……!!

 こ、これからどんな顔でロイドに……!

「あのゴリラ……お礼なんて言うんじゃありませんでしたね……」

 一人だけ顔色が変わってないパムがあたしたちをじろりと睨みながらそう呟いた。




「んじゃ、またその内顔出すからな、大将。」

 そう言って、オレをこのセイリオス学院の門の前に置いて行った時みたいな気楽さでフィリウスは帰った――いや、別にどっかに家があるわけじゃない……と思うから、また旅にでも出たんだろうか。

 今となっては妹しか家族のいないオレだけど、ああやって時々でも様子を見に来るような奴がいるっていうのはうれしいし――それだけでフィリウスはオレにとって家族みたいなモンなんだろう。

 立ち位置としては、親戚のおじさんって感じだが。

「ただいまばぁっ!?」

 みんながどこにいるのかわからないからとりあえずオレとエリルの部屋に戻って扉を開けた瞬間、パムが飛びついてきた。

「お兄ちゃんはいつからそんなんになっちゃったの!?」

「そんなん!?」

 何のことやらわからず、首にパムをぶらさげながら奥に入るとみんながいた。

「えっと……?」

 エリルとローゼルさんとティアナが俯いていて、リリーちゃんが満面の笑みというこれまたわけのわからない光景だった。

「な、夏休みの予定はどうなった……? なんか話した?」

「んふふー、まだだよロイくん。」

「そ、そうか。じゃあ早速――」

「あ、でもねーロイくん。」

「ん?」

「今はちょっと無理かなー。とりあえずさ、夏休みだーって事で美味しいモノでも食べようよ。計画はそのあとでも――んふふ。」

「な、なんか良い事あった?」

「んふふー! んもぅ、ロイくんってば!」

 なんでかバシバシ肩を叩かれ、ついでにぶら下がるパムにほっぺをつねられるという攻撃を受けたオレは、きっと我ながら面白い顔をしていたに違いない。




 大抵の「学校」と呼ばれる施設が長期の休暇に入るその頃、一年を通して特筆すべきイベントのないとある場所で、それが起きたと発覚するのが少し先の事になる事件が起きていた。

 その場所は海の真ん中に建てられており、中に入った者は許可を得ない限り外に出ることができない。

 世界に数ある同種の施設の中でも特に凶悪な者を迎え入れる場所として悪党らに恐れられているその場所は――俗にいう監獄である。

 街のスーパーで万引きをした程度では付かないが、そこそこの規模の犯罪をすると犯罪者としての級が付けられる。A級ともなればそのほとんどが全世界指名手配となり、この監獄はそんな大物を閉じ込める監獄の一つである。

 そんな監獄の一室、数メートル四方の灰色の部屋に男はいた。極悪人だらけのその場所では浮いてしまうだろう若さの青年。髪が栗のように尖っている事以外は特徴のないその男は、監獄の中にいつもと違う空気が流れている事に気が付いた。

 いつもそこそこに喧しい監獄内なのだが、少し種類の違う騒ぎがなんとなく聞こえたかと思うとそれが段々と近づき、とうとう男がいるフロアに悲鳴がこだました。

「……誰かが脱獄でもしたとするなら、騒ぎが下からこの上のフロアまで来るのは変な話だ。わざわざ上のフロアにいる悪党を解放してやろうってモノ好きはそういないからな。となると誰かがこの監獄にやってきたという方が現実味があるか。基本的に上のフロアにいる奴が悪党としての格が高い。でもって俺がいるこのフロアは最上階。自分で言うのもなんだがこの監獄じゃ最悪の連中がいるわけだ。そして、騒ぎがここまで来たって事はそんな最悪の誰かを目当てに監獄に襲撃をかけた馬鹿がいるって事だ。」

 誰かに説明するわけでもなく、かなり長々とした独り言を呟いた男は自分の隣の部屋の――名前も覚えていない誰かの悲鳴を聞き、次は自分かと鉄格子の外を見た。


「おぉ、やっと見つけたぞ。」

「ふぅん? パッとしない男ね。」


 鉄格子の向こうに立ったのは一組の男女。特に見覚えのない二人だったのだが、男の方のセリフからすると目当ては自分だったらしい。男は首を傾げながら二人に話しかけた。

「……時間魔法が入用なのか?」

 裏でも表でも、『セカンド・クロック』という名前で通っていた男――プロゴにしてみれば、見知らぬ誰かがわざわざ監獄まで来る用と言ったらそれくらいしか思いつかなかったのだが……

「いや? それに、そうだったとしたら普通にもう一人の方の所に行くさ。」

「いやな通り名よね? 一番じゃないからセカンドなんでしょう? まぁ、低級な連中でもお手軽に頼めるっていう意味じゃいいのかもしれないけれど。」

「……つまり、自分たちは低級じゃないって事か。ま、結構強い騎士とか看守がいるこの監獄を下から上まで突っ切って来たあんたらは確かに強いんだろうな。しかし、時間魔法じゃないとなると見知らぬあんたらがここに来た理由がさっぱりだ。俺がどこぞの巨大な組織に属してたとかいうならその辺の情報を求めてってのもあるかもだが、生憎俺は個人経営だったしな。もしかして、今までに俺がヤッた誰かに関する情報か? もしそうだったとしても――俺はそんなに頭よくないから大抵の事は覚えてないぞ? 残念だが役に立たない。」


「噂通りよくしゃべる男だな。おしゃべりな男は女の子に嫌われるぜ? 男は黙ってその花のような唇からこぼれる魅惑の声に耳を傾けるもんさ。男は飾り、世界は女の子で出来ているのだから。」

 誰かを口説くわけでもないのにキザな事をすらすらと言う男を、プロゴは甘すぎるココアを飲んだ時の顔をしながら眺めた。

 金髪の――言うなれば「美男子」というところか。オールバックならぬハーフバックとでも呼ぶべき奇妙な髪型――プロゴから見て左側を後ろに持っていき、右側は前に垂らすという愉快な頭をしているのだが、その美形な顔には良く似合う。むしろ、プロゴが疎いだけで最近の流行りなのではと疑いたくなるくらいだった。

 服は上下ともホストのようで、それだけならきっと職業はホストで間違いないのだが、この男の仕事が接客でないと言える点が一か所だけあった。

 それは肩にかける形で男が背負っている巨大な何か。外見的には銃のようで、持ち運び可能な大砲か何かかと思ったのだが、それにしては形が奇妙な鉄の塊。では一体何なのかと問われてもどう答えたら良いのかわからない、少なくともプロゴは見た事のない代物だった。

 唯一直感的に……武器である事はわかったが。


「いやだわ、愛でるだけなんて。相手を自分の情熱で飲み込んでこそでしょう? 男なら女を泣かせるくらいでないといけないわ。」

 そんな男に呆れる女だったが、こっちも相当だなとプロゴは思った。

 男と同じ金髪で髪型はショートカット。これまた一言で表現するなら「美女」となるだろう美しい顔立ち。腕を袖に通さない形で上着を羽織り、小さいのかそういうデザインなのかわからないが、胸元が大きく開いていてへそが丸出し、その上ボタンが一つしかないという色っぽいシャツを着ていた。

かなり胸が有る為、そのボタンには相当量の力がかかっているだろうから、ちょっとした事でボタンがとび、その胸が露わになるのではと男心にプロゴは思った。

下はホットパンツにブーツだが、後付したと思われるスカートのように長い布が腰から伸びている為に生足はそこまで見えない。が、その左脚にある赤い蛇の刺青の主張は大きかった。

 そして何より目を引くのは腰の左右にぶら下がるホルスターに入った拳銃。パッと見で言うなら、ずばりこの女はガンナー。二丁拳銃の使い手だろう。


「飲み込む上に泣かせる? おいおい、妹よ。それじゃあただの陵辱じゃないか。せめられて喜ぶのは極々一部の人間だぞ? 花は愛でるモノであって食べ物ではない。」

「わかっていないのはあなたよ、弟。痛みを伴う責めは兎も角、そこに快楽が付随するのであれば大方の人間は責められたい側よ?」

 自分を蚊帳の外にしての二人の恋愛観に関する会話にため息をつきながら、プロゴは思った事を口にする。

「こんな所まで来て結論の出ない個人差の話をするとは。しかしまぁ随分とデコボコなコンビだな。同じなのは髪の色だけ――」

 そこまで言って、プロゴの頭に目の前の二人が何者かという事に対する一つの心当たりが生じた。

「金髪の美男美女のペア……互いの妙な呼び方……巨大な得物と二丁拳銃……聞いたことがあるな。騎士にとっての十二騎士のような存在――俺たち悪党にとっての一つの憧れみたいなモノでもあるS級犯罪者の中にそんな二人組がいると。確か通称――『イェドの双子』。」

 プロゴが半ば独り言のようにそう言うと男の方が鼻を鳴らす。

「正解だ。ちなみにイェドというのはボクらの故郷の名前だ。覚えておくといい。」

「故郷が通り名に使われるのか。住んでいる者がみな殺し屋とか、そういう危険な故郷なのか?」

 なんとなく思った事を言うと、女が笑った。

「あはは! まさか、普通の町よ。あなたもそうであるように、名が上がると二つ名とか通称みたいなのが付くでしょう? でもあのデブ饅頭みたいに『滅国のドラグーン』とかいう品の無いのをつけられてもたまらないから、あたしたちが自分でそう名乗っているだけよ。」

「故郷としてはいい迷惑だろうな。世界的犯罪者の通り名に町の名前が使われるのだから。」

「そうでもないわ。もしも町に手を出そうものなら、『イェドの双子』が黙っていない――ほら、町は名をかかげるだけで色々とお得でしょう? きっと誇らしく思っているわ。故郷へ錦を飾るってこういう事よね?」

「少し違う気がするがな。」

 騎士の連中が勝手につけた格付けだが、実際A級の自分がS級のこの二人と戦って勝てる道理はなく、意味もなく殺されるという可能性も充分ある。プロゴはとりあえず命を諦め、改めて二人に尋ねた。

「――で、俺に何の用だ?」

「情報さ。」

「……さっきも言ったが、俺はそんなに――」

「関係ない。お前の口から聞こうってわけじゃないからな。とりあえず、ボクらについて来てもらうぜ。」

「聞くわけではないが欲しいのは情報ときたか。となると、何らかの方法で俺の頭の中でも覗こうってわけか。恐らく拒否権はないだろうし、しようがしまいが俺の末路は見えている。ならば、残りの人生ってのをもう少し長くしてできるだけ謳歌するとしよう。」

「長々とした返事だが……了承って事でいいだよな? ならこれを首につけろ。」

 牢の中に放り込まれたのは鉄の首輪。イメロか何かか、妙な色の石がくっついている変な首輪だった。

「これは……?」

「時間魔法で逃げないようにする為のモノさ。」


 イェドの双子の後ろをトボトボ歩きながらだいぶ早まった出所をするプロゴは、この双子が自分の所に来るまでに倒した――いや、殺したのだろう多くの看守や騎士、そして囚人の死体を眺めていた。

 襲撃したのが二人なのだから当然と言えば当然に、監獄内の死体には二種類あった。

 一つは全身に銃弾を浴びせられた死体。まるで親の仇か何かに対するモノのように頭のてっぺんから足の先まで銃弾の跡が散りばめられている。ただ妙な事に、何故かその銃弾の跡は死体の背中にまであった。

 普通、銃で相手を撃ち殺すというのであれば弾が当たるのは相手の一面のみ。大抵相手は自分の方を向いているから基本的に銃弾の跡は相手の前面に残る。それが背中――背面にまで来ているという事はつまり、相手の後ろからも銃弾が来たという事。

 相手の周りをグルグル走り回りながら銃を乱射したのか、はたまた何かの魔法なのか。何にせよ、イェドの双子の女は普通とは少し違うガンナーのようだ。

 そして死体のもう一つのパターン。こちらは逆に、刃物――恐らく剣や槍で心臓や頭といった急所を一突きされている。それ自体におかしな点は無いのだが……消去法的にこっちの死体を作ったのが男の方だとすると少し妙だ。何故なら男はそういった武器を持っていない。

 氷や砂で作った剣の使い手なのかもしれないが、だとすると背中の得物は何なのか。

さすがというべきか、女もそうなら男の方も、少し変わった戦闘スタイルを持っているようだった。




 夏休みになった。んまぁ、正確に言えば昨日の午後からそうだったんだけど。

 街に出てちょっと豪華な夕飯を食べた後、オレたちは夏休みの計画を立てた。とは言っても、みんなの家族がこの休みに何かをしようとしている――例えば旅行とかを計画している可能性はあるわけで、その辺を一度確認しないと計画を考えるのは難しい。

 ただ、唯一エリルの家に行くというイベントは日時が決まっていた。エリルのお姉さんの都合なのか、夏休みに入ってからちょうど一週間後を指定する電話がエリルにかかってきたのだ。

 もしかしたらその日に何かをする予定をいれている家もあるのでは? と思ったのだが、ローゼルさん曰く、その日に何かを予定していようとも、王家の招待を断る騎士の家はないとのこと。

「家の誰かが死んだりしない限り、何をおいてもこの招待は受けろと言われるだろうな。」

「そうか……オレとしては友達の家に遊びに行く感覚だけど、騎士からしたら王家へのご招待なわけか……一大事だな。」

「一応招いてるのはお姉ちゃんだから……そういうつもりはないと思うけど。」

 なにはともあれ、エリルの家に行くイベントは最早強制イベントみたいなものになった。

「ふむ、ではこうしよう。皆はそれぞれの実家に帰り、そこで予定を確認する。そして一週間後にエリルくんの家でその予定を合わせ、他の皆の家に遊びに行く日を決めるのだ。」

「え、てゆーか全員の家にお邪魔するのは決定なの? ボクとロイくんは無いとして、クォーツ家とリシアンサス家とマリーゴールド家に?」

「クォーツ家がエリルくんを救ってくれたお礼をロイドくんにするのなら、リシアンサス家――というよりはわたしは、わたしを強くしてくれたロイドくんにお礼をするのさ。騎士を目指すのなら、名門と名高い我が家を見ておいて損はないはずだ。」

「あっそ……」

「あ、あたしは別に良いよ……ちょっと遠いけど……」

 と、きっとこういうのをなし崩しと言うんだろうけど、みんなの家にお邪魔する事が決まった。

「おお……なんだかすごく楽しくなってきたぞ。」



 こうしてひとまず一週間後の予定が決まり、始まった夏休みにウキウキしていたオレは次の日の朝、いつの間にかオレの荷物をまとめていたパムに引っ張られ、慌ただしくもエリルにちょっとの間のお別れの挨拶をした後、パムの家にやってきた。

 パムの家は普通に同じ街にあるんだけど……そうは言ってもここは天下の首都。結構広いわけでちょっと遠出すると風景が変わって同じ街とは思えない感じになる。

 街の真ん中の王宮を挟んでちょうどセイリオス学院とは反対側の方向にオレの妹の家はあった。

「家って言うよりは国王軍の寮って感じだけどね。」

 もちろん、二人一部屋のセイリオス学院の寮と比べれば部屋は小さいけど、一人暮らしとすると結構広い。

「もしかして……上級騎士だからこんなに広い部屋とか?」

「そうだね。軍って上と下の区別がいい意味でも悪い意味でもはっきりしてるんだよ。」

「そっか。すごいんだなぁ、パムは。お兄ちゃんびっくりだよ。」

 と、何となくそう呟くとパムが凄く驚いた顔になり、そしてすぐに目をキラキラさせた。

「それ、すっごく懐かしい! っていうかやっと聞けたっていうのかな。お兄ちゃんってばなんか他人行儀だったから、パムちょっと心配だったんだよ?」

 なんの話だろうと一瞬思ったけど、そういえばオレはパムと話す時、自分の事を「お兄ちゃん」と呼んでいた。

「そりゃあ……ほら、パムが随分美人になっているから……」

「お兄ちゃんもかっこよくなっててビックリしたよ!」

 そう言いながらパムは台所で何かを淹れ、壁際に置いてあるソファの前のテーブルのそれを二つ並べて自分はソファに沈み込んだ。

「はい、お兄ちゃんはこっちね。」

「?」

 自分の隣をバシバシ叩くパムに従い、オレはパムの隣に座る。

「! これハチミツ茶?」

「うん! お母さんがよく淹れてくれたよね。」

 オレに寄りかかりながらそれを飲むパム。オレもそれを飲み、その懐かしい甘さにほっこりする。

「さぁ、お兄ちゃん。たくさんお話しよう。」

「話……」

「この七年間、パムが何をしてたのか、お兄ちゃんが何をしてたのか。とりあえず一週間あるからね!」

 一週間もしゃべる予定なのか……

「そうだね。んじゃあ、お兄ちゃんからしゃべろうかな。」


 オレがそうだからたぶんパムもそうだろうと思い、オレはあの夜の事は話さずにフィリウスに拾われた所から話を始めた。

 後悔とか未練とか、そういう後ろ向きなモノを全て筋肉に変えてしまったんじゃないかってくらいに豪快なフィリウスに拾われたからか、オレは一週間くらいで……とりあえず笑えるようになった。

 そこからさらに数日の間、オレはフィリウスの横にいるだけの子だったんだが、ある日ふとフィリウスがオレに仕事を頼むようになった。

 仕事と言っても、例えばまきを割ったり魚を釣ったりと子供にもできる――というか、そういうことを日頃やっていたオレには教えられなくてもできる事だった。


「お兄ちゃん、釣りがすごく上手だもんね。結局村の誰にも負けなかったでしょ?」

「うん。フィリウスはあれで狩りの技術を全く持ってない奴だったから……大抵ご飯は魚だったな。たまに何かの偶然で獣がとれると嬉しかったもんだよ。」


 そうやって横にいる子から一緒に旅をしている子になったくらいで、オレはフィリウスの旅の目的が気になった。だけど聞いたらフィリウスはこう言った。


「特に無いぞ? 強いて言えば、旅をする事が目的の旅だな!」


 その時はただの放浪好きかと思ったけど、今にして思えば十二騎士として普段目の届かない地方を見てまわっていたのかもしれない。

 でもってたぶんオレがその質問をした頃だったと思うが、フィリウスはオレに戦い方を教え始めた。確かに、それまでに何度か盗賊とか危険な野生生物にも遭遇したから、そういうモノへの対処の仕方っていうのを覚える事は大事だなと思ったオレはフィリウスの教えに耳を傾けた。

 最初にやったのは基礎的な身体作り。体力や筋力は何においても基本だからと、走ったり腕立てしたりした。それに身体が慣れてくると、今度は戦い方の基本みたいなのを教えてくれた。

 獣と戦う時、剣を持った相手と戦う時、自分より大きい敵、飛び道具の使い手――色んな相手を想定し、その時の自分の動き方をなんだかたくさん教えられた。


「十二騎士のマンツーマン……お兄ちゃんが強くなるわけだね。」

「あれ? パムはお兄ちゃんが戦うところ見た事あるんだっけ?」

「見た事ないけど、『セカンド・クロック』の話とか聞いたもん。」

「追い払っただけだけどね……」


 避け方とか素手での防御の仕方を学んだ後、今度はこっちからの攻め方かと思いきや、何故かフィリウスはオレに二本の剣を渡し、それを回せるようになれと言った。

 武術とか剣術というのを全く知らないオレは、すごく強いフィリウスの言う事だから何かあるんだろうと思い、とにかく回す練習をした。

 片手ではなんとか安定して回せるようになったくらいで、ようやくフィリウスは攻撃の仕方を教え始めた。避け方の時もよく言われた円を意識した動きを取り入れた攻め方はここでひとまず形になったのだ。


「曲芸剣術かぁ……後で見せてね、お兄ちゃん。」

「うん……パムも見た事ないのか?」

「パムもって言うか、あれを使える人って冗談抜きで今の時代はお兄ちゃんだけだと思うよ?」

「えぇ? 確かに前に先生が難しいって言っていたけど……そこまで?」

「第八系統の使い手で剣士を目指すなら、きっとみんなが一回は調べて見た事あるとは思うよ? でも古流剣術に分類されちゃってるし、名前も曲芸剣術っていう如何にも駄目そうな名前だし。初めて剣を握る人が最初に選ぶ剣術じゃないんだよ。そして、他の剣術を学んじゃったらあれは出来なくなっちゃう。だからお兄ちゃんみたいになんにも知らない時にそれしか教えられなかったとか、そういう場合でもない限りあれの使い手になる事はないんだよ。」

「そっか……」


 その後、フィリウスとまわったあっちこっちでの色んな思い出を話し、オレはオレの六……七年間の話を終えた。

旅の話は笑いながら聞いていたパムだったけど、学院に入ってからの事……特にエリルやローゼルさんとかとの出会いは何でか詳しく聞かれた。


「んもぅ、お兄ちゃんは。」

「な、なにが?」

「昔はそんなにアレじゃなかったのに。まぁでもお兄ちゃんはカッコイイから大人になればこうなるかもとは思ってたけど。」

「なんの話だ、パム。」

「まったくもぅ……誰をお嫁さんにするのかは知らないけど――」

「お、お嫁さん!?」

「そうだよ。別にあの中の誰かってわけじゃなくても、いつかは誰かをお嫁さんにするでしょう? その時はちゃんとパムに紹介してね。」

「そ、そりゃ勿論……」

「お兄ちゃんのお嫁さんにふさわしいかチェックするから。」

「こ、小姑だね。」

「そのかわり、お兄ちゃんもパムのお婿さんのチェックをするんだよ?」

「も、もちろん……」

 まだ十五歳なのにもう結婚の話とは気が早いなぁ。


 と、そんな感じでオレの話をした後はパムの話になったんだけど……パムがあの夜から今日までどういう経緯で今に至ったのかって言う事の大体は聞いたから、オレがパムに色々尋ねるって形になった。


「パムは――第五系統の土の使い手なんだよね。」

「うん。」

「ゴーレムっていうんだっけか。砂の巨人を一瞬で作ってたけど……あれってすごいんだろう?」

 魔法に関しては相変わらずわからない事の多いオレは、パムのすごさを確認しがてらそんな事を聞いた。

「巨人を作るっていう事ならあれくらいは誰でもできるかな。でもそれを制御するのが大変な砂で作れるパムはすごいって色んな人に言われたよ。」

 自慢したいんだけど自分で言うのもあれだからそんな風な言い回しをしながらオレの事を横目で見るパムは昔と変わらない。

「そっか。パムはすごいな。」

 昔を思い出しながら頭をなでると、パムは変わらない笑顔を見せた。

「普通は岩とか石でやるって聞いたけど……やっぱり砂の方が細かい動きとかできるから砂で作っているのか?」

「うーん……パムが砂で作るのは別に戦いを意識してじゃないんだよ。」

「?」

「えっとね……『死者蘇生』の魔法のこと、前に話したでしょ? その時にあれをやるための条件を話したと思うんだけど、その中の一つの――第五系統の使い手……しかも相当な達人じゃないとできないって所なんだけど、それに関係して……実はもう一つ条件があるの。」

「四つ目?」

「うん……別に必須じゃないんだけ、大抵は必須かな。」

「?」

「『死者蘇生』を簡単に説明するとね、あの世に行った故人の魂を呼び寄せて、土で作った新しい身体に定着させるっていう魔法なの。」

「えぇ? じゃあ復活した人は――土でできた身体なのか?」

「最初はね。でも魂の影響を受けて土の身体はだんだんと人間の身体になっていくの。だいたい一、二年くらいかかるけど、そうなればちゃんと成長もするしケガもするんだよ。」

「なるほど。」

「でね、ここが大事なんだけど、その土の身体って人の形って事と、性別さえあってれば他は何でもいいの。」

「? というと……?」

「例えばパムがお兄ちゃんを甦らせたときに《オウガスト》みたいなマッチョな身体を用意してたら、お兄ちゃんはムキムキの姿で復活するんだよ。」

「えぇ!?」

「岩や石レベルでゴツゴツしててもさっき言った事をクリアさえしていれば魂は定着しちゃうみたいでね……だから術者にはどうしても、蘇らせる人の生前の身体をきれいに再現できるくらいの技術が必要なの。……まぁ、ゴツゴツでもいいって言うなら別にそれでもいいんだけど。」

「そっか……じゃあパムはお兄ちゃんの身体をきれいに作る為に……その、ゴーレムの練習を?」

「うん。正直、あれでもまだまだなんだ。シルエットはきれいでも、顔の――目とか鼻ってなると結構難しいの。」

「そっか。なにはともあれ、会えてよかったよ。」

 再会しなかったら、パムはずっと魔法の修行を続けて、そして『死者蘇生』をやって――オレは生きているわけだから失敗する。それを目標に頑張ってきたパムがそうなったらどうなっていたか……それを想像し、オレは隣のパムを抱きしめ――

「びゃあっ!?」

 ――たら突き飛ばされてソファから転げ落ちた。

「おおお、お兄ちゃん!? パムはお兄ちゃんの妹だよ!?」

 なんかそれ、前に似たのを聞いた気がするな。

「いや……こう、再会の喜びをもう一度実感して自然とって感じだったんだけど……」

「あ、そ、そっか! ごめんなさい!」

 のっそりとソファに戻ったオレはなんかエリルみたいな顔したパムを横目に呟く。

「――でもパム。この前一緒に寝たわけだし、そもそもお風呂にも入ろうとしたよね……」

「パ、パムからするのはいーんだよ! 妹なんだから!」

「お兄ちゃんからやるのはダメなのか……」

「妹がお兄ちゃんに甘えるのはあるけど、逆はないでしょ?」

「おお、なるほど。」

 妙に納得してしまった。

「だからいきなりああいうのはやっちゃダメだよ? せめてやる時はやるよって言ってくれないと……パムにもこ、心の準備があるんだから!」

 年頃の妹とのコミュニケーションは色々と難しいようだ。

「よ、よし。話題を変えよう。オレを育ててくれたのはフィリウスなわけだけど、パムを育ててくれた――ウィステリアさんっていうのはどういう人なんだ? 騎士って事は教えてもらったけど。」

「おじさん? おじさんはねぇ――」




 朝起きて、部屋の真ん中のカーテンを開けたらパムがロイドの首根っこを掴んで窓の方に向かって歩いてて、あたしが目を丸くしてたらロイドが「ま、またなエリル!」と言って、庭に出たパムがロイドを掴んだまますごいジャンプをして視界から消えてから数時間後、あたしはあたしの荷造りを終えた。

 お昼過ぎくらいに迎えをよこすってお姉ちゃんが言ってたからそれまで暇だわ。

「……ホントにロイドって私物が無いわね。」

 ベッドに座ってなんとなく眺めてたロイドのエリアには今やロイドの私物は何もない。二本の剣とボロい服とちまちました小物と数着の服。それがロイドの私物の全部で、あたしみたいに時計を置いたりとかしてないから……一人でこの部屋を使ってた時に戻った感じね。

「……」

 ちょっと前、リリーが来てこの部屋で殺気をばらまいた時……あの子はロイドの布団にくるまってた。

「…………」

 ふと立ち上がって、ちょっと歩いて、あたしはロイドのベッドに座り――

「………………」

 そのまま倒れた。あたしのベッドと別に変らないクッション――そりゃそうだわ。

「……ん。」

 仰向けからうつ伏せに向きを変える。そうしたってあたしのベッドと何も変わらない。

 ただ一つ――

 違うのは――

 ロイドのにお――

「何やってんのあたし!」

 ガバッと起き上がる。たぶん顔真っ赤だ。

 だけど誰もいないし誰も来ないし……

「……んぐ。」

 リリーがやってたみたいに布団の中にもぐりこんで丸まる。

 なんか変な気分だわ。

 だ、だいたいロイドのにお――なんてこの前……青い顔したロイドを抱きしめた時――

「――!!」

 今更色々恥ずかしくなったあたしはゴロゴロ転がる。

 ――ロイドが来てからこんなことばっかりだわ。うちに来るっていう話も、なんか一難ありそうに思うし。

「でも――あんまり嫌じゃないのが不思議ね……」

 そこまで一人で呟いたところで誰かが扉をノックした。飛び起きたあたしは布団をなおして深呼吸してから扉を開けた。

「……ローゼル。」

 扉の向こうにいた、大きな荷物を持った私服のローゼルはあたしを見てその表情をみるみる――あの半目への字に変えた。

「な、なによ。」

「……ロイドくんは?」

「朝早くにパムに連れてかれたわ……」

「じゃあ今は一人か。」

「……そうよ。」

「そうか……すると、その髪の毛のグシャグシャ具合はなんなのだ?」

「え――こ、これは……ね、寝癖よ!」

「ほう。まるで布団の中でゴロゴロ転がったかのようにその赤い髪が身体に巻き付いているし、そもそも服装がパジャマではないという事は――その格好で昨日寝たのか? でないとすると着替えた後、寝癖とやらがついたことになるが?」

「う、うるさいわね! どうだっていいでしょ、そんなこと! そんなことより何の用よ!」

「なに、わたしはそろそろ行くぞと、一先ずの挨拶に来ただけだ。」

「あっそ。じゃあ一週間後にね。」

「そうだな……それはそうとエリルくん。」

「な、なによ。」

「夏休みだからと言って、あまり羽目を外さないようにな。特にそう……ひと夏の経験とか。」

「ななな、なんの話よ!」

「さて、何の話かな。」

 そう言い残して、ローゼルは荷物をゴロゴロ転がしながら寮を後にした。

 その後しばらくしたら今度はティアナも来た。

「エリルちゃんは、まだ帰らないの……?」

「あたしも帰るわよ。お昼くらいに迎えが来るの。」

「そう……なんだ。えっと、ロイドくんは?」

「パムに連れてかれたわ。」

「そ、そうなんだ……えっと、じゃ、じゃあまたね。一週間後に……」

「ええ、またね。」

 例のスナイパーライフルが入ったバッグとローゼルのみたいなカバンを引きずりながら、ティアナも出発する。

これで寮に『ビックリ箱騎士団』のメンバーはあたしだけになったわねと思った時、ふと気が付いた。

「そういえばリリーってどこの部屋なのかしら? 部屋がもう無いからロイドがあたしのとこに来たわけだし……」

「ボクはとりあえず宿直室だよ。」

 独り言を部屋で呟いたら来るはずのない返事が来たんだけど、なんとなくそうなるような気がしてたあたしはそんなに驚かないで声の主を見た。

 私服……なんでしょうね。商売人としての格好でも制服でもない普通の服のリリーがロイドの机に座ってる。

「あんた、ドアをノックするって習慣がないわけ?」

「ここは特別かな。エリルちゃんとロイくんが何してるか知っとかないといけないからね。」

「な、なにもしてないわよ!」

 ついさっき潜ったロイドの布団をチラ見して、あたしは話題をそらす。

「それより宿直室ってどういう事よ。」

「んっとね。夏休み中に工事して学食に購買を作るんだけど、ボクの部屋はそこに併設される予定なんだよ。だからとりあえず、そこができるまでは宿直室。」

「ふぅん。」

「そんなことよりロイくんは? パムちゃんが連れてっちゃった?」

「朝早くにね。」

「そっか……」

 そう言いながらリリーは小さなメモ帳を取り出してそれを開いた。だけど何かを書くわけでもなく、ただ眺めただけですぐにしまった。

「さて……ボクも商会に行こうかな。また一週間後にね、エリルちゃん。」

「……ええ。」

 何しに来たのやら、そう言ってパッと消えるリリー。

「……結局全員が挨拶に来たわね……」

 部屋の場所的に寄り易いっていうのはわかるんだけど……こんな風に挨拶されて夏休みに入るなんて、ロイドが来る前なら思わなかったわね。

「……」

 こうして寮に一人になったあたしは……いつもなら間抜けな顔でそこにいるルームメイトの事を考えて、そいつのベッドを見て、ついさっき自分がそこでしてた事を思い出して――

「――――!!」

 自分の枕に顔を埋めた。

イェドの双子。サードニクス兄妹に合わせての登場というわけではないんです。偶然ですね。


作中でふれるかわからないのでここに書きますが、イェドの双子はどちらが先に生まれたの知らないのです。

故に、互いが互いに自分が上だと思っているので相手を弟、妹と呼んでおります。

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