表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

始ノ始ヲ語ル 星ノ譚 4


 三角頭と戦う。これはとても無謀なことに思える。

 奴らの数とチームワークは半端じゃない。

 おそらくだが……妖精たちと同じように知性を持ち合わせているのだろう。

 妖精たちは僕が奴らを退けたというが……どうしてそうなったか全く分からない。

 僕はただ奴らに傷を負わされ、囲まれて喰われそうになっただけ。その後に奴らが勝手に退いたのだ。

 妖精の話からすると、そのときに三角頭を恐れさせる要因が何かあったはずだ。

 ん?まてよ……。

 二度目に奴らに襲われたとき、やつらは躊躇いもなく僕を襲ってきた。

 仮に僕に奴らを退ける『何か』があったとする。

 その『何か』を僕が持つことは、先のことで奴らはわかっているはずだ。

 奴らほど高度な知性を持つ生き物が、一度天敵と知った相手に再び無謀な戦いを挑むだろうか?

 いや、挑まないだろう。

 ということは、だ。

 僕が奴らを退ける『何か』を持っているのではなく。

 あのときに偶然奴らを退ける『条件』が整った、と考えるほうがしっくりくる。

 しかし……仮にそうだとしても、その条件とは一体何なのだろう。

 奴らを退ける条件……。

 そういえば奴らは僕が川に落ちたとき、僕を襲ってこなかった。

 ということは、そのときも『条件』が整ったということか?

 砂漠での出来事……川との関連性……。

 ……そうか!分かったぞ!!


 塩分だ!


 川での出来事と砂漠での出来事の共通点。

 あの川の水は塩水である。三角頭が塩分を苦手とするなら、あの川は渡れまい。

 砂漠で僕が襲われたとき、僕は大量の汗をかいていた。

 普通の汗ではない。恐怖からくる、とても塩分の濃い汗だ。

 加えて砂漠の熱で汗の水分が乾き、さらに汗は濃くなっていた。

 塩分濃度は相当高かっただろう。

 どちらも塩分が関係している。

 僕の読みが正しければ、弱点は塩分。

 とすれば……奴らを倒すには、あの川の水を利用してやればいい。

「あの川まで案内してくれ」

 妖精に言った。

 妖精は『ついて来い』と合図した。


         *

 川に着いた。

 作戦を練ろう。

 まず三角頭の弱点は塩水。これは分かった。

 塩水はどうするか。例の川を利用すればいい。

 そこで僕が考えた作戦は、まず自分がこの川に浸かる。

 確かに弱点が塩分なら、塩分濃度が高い水に守られて奴らは僕を攻撃できないだろう。

 そして奴らが怯えているところを叩き潰す。妖精たちには同じように水に浸かってもらって、僕のサポートを頼む。

 ペットボトルに例の川の水を入れ、キャップを閉める。

 川の水に浸る。

 弱点の読みが外れていたら死ぬかもしれない。

 しかしどちらにせよ戦わなければ死ぬのだ。

 次にいつ転移できるか分からない。

 それまで逃げ回るなんてのはごめんだ。

 川から上がる。

 作戦結構は今すぐ。

 向かうは、砂漠。

 目をつぶって深く息を吸う。

 ……息を吐く。

 間を置き、目を見開く。

「さあ、反撃開始だ」

 勇み歩を進め、砂漠へと向かう。


       *

 一匹、また一匹と手にした太い棒で叩き潰す。

 ギチィ!ギチチチ……

 三角頭が断末魔の悲鳴を上げる。

 砂漠に行く前に、森の中で奴らと出くわした。

 僕の読みは当たったようだ。

 三角頭は僕を襲ってこない。

 確実に奴らの数は減っていた。

(これならいける……!)

 逃げていく三角頭をしとめた。

 しばらく戦っていると、三角頭は敵わないと察したのか僕らから遠ざかっていく。

「このまま砂漠へと向かおう」

 妖精へ告げ、走り出した。

 やがて森が開け、砂漠へ出た。

 日が傾き、黄褐色の砂漠は茜色に染まっていた。

 その朱い砂漠で僕らを待ち構えていたのは、

 砂漠と同じように紅に染められた、

 数千の忌まわしき虫と、


 一匹の、巨大な三角頭だった


 圧倒される。その巨大な体躯は龍を思わせ、奴らとのあきらかなる相違はその二対の巨大なハサミ。

 その腹部には無数の半透明の卵があり、その中ではあの虫たちが『早く出せ』と言わんばかりに蠢いていた。

 おそらく、あれが親玉だろう。

 高さ約2メートル。

 尾を合わせて全長は6メートルにはなるだろう。

 あんなのに、勝てるのか?

 三角龍の空気が裂けんばかりの咆哮とともに、幾千の三角頭がこちらに向かって走る。

 僕はペットボトルの塩水を四分の一被ると、叫びながら三角龍のもとへと疾った。  

「でぇえやぁあああ!!」

 走りぬき、手にした棒で三角龍の腹部に一閃。

 ガゴッ!

 硬い音。手が痺れる。相手側に全くダメージはない。

 振り向く。巨大なハサミが迫る。

 横に跳びこれを避ける。

 このでかさになると塩水も効かないのか……

 轟音とともに、さっきまで僕がいた場所に巨大な穴が開いた。

 冗談じゃない。あんなのを喰らったら即死だ。

 叫び、砂を巻き上げながら三角龍はこちらへ向かってきた。

 逃げるか?

 いや、逃げたところで無駄だ。

 すぐに捕まる。

 僕と三角龍を囲むように、数千の三角頭がこちらを見ている。

 まるでこのショーを見に来た観客のようだ。

 ギチギチと耳障りな歓声ではやし立てる。

 くそ……どうすれば……。

 よそ見をしている間に腹の真横にまでハサミが迫っていた。

 しまった!

 ドグォッ!……ドガッ、ガッシャッ!

 思い切り横っ腹にヒットした。吹っ飛ばされ、1バウンドして三角頭の群れの中に叩きつけられる。

 あばらをやられたかもしれない。

 ……まだ立てる。

 立ち上がる。衝撃でペットボトルから塩水が零れだしていた。

 そしてあることに気づく。

 ペットボトルから滴り落ちた塩水が三角頭にかかり、その三角頭がバキバキと音を立ててしぼんでいた。


 ……そうか!高張液だ!


   生物には基準とする体内の塩分濃度があり、その濃度と同じ液体を等張液という。

   そしてその濃度より低い濃度の液体を低張液、高いものを高張液という。

   生物に等張液をかけても変化はないが、低、高張液をかけると変化が生じる。

   低張液をかけるとその生物の細胞はふくらみ、やがては破裂する。

   高張液をかけるとその生物の細胞はしぼみ、死滅する。

   その生物の基準となる塩分濃度との差が激しいほど、変化は激しい。


 ――つまり。

 この塩水は。

 あの虫どもに対するとんでもない高張液ってわけだ。

 再びこちらに向かってきた三角龍の一撃をかわす。

 こいつをかければ、あいつの細胞はしぼみ、やがては死滅する。

 二対のハサミから繰り出される四連続攻撃をバク転でかわす。

 つまりこいつを浴びせちまえば僕らの勝ち。

 一振り。

 親玉を倒せばもう虫は増えることがない。

 二振り。

 別の親玉はいないと妖精は言った。

 三振り。

 チャンスは、一回。

 四振り。

 今だ!!

 三角龍の懐に潜り込む。

 目の前で卵の中の三角頭が動く。

 キャップをあけてペットボトルを構える。

 狙うは、頭。

 すなわち、真上!

「くらぇえええええええ!!」

 バシャァ!

 キュゥォオオオオオオオオ!!!

 バキバキバキバキ!!

 悲鳴を上げながら三角龍がのたうつ。

 勝った!

 と思ったその瞬間が、

 甘かった。

 ぎりぎり視認できるくらいの速さの一撃。

 最後の、一撃。

 油断した。

 間違えなくよけられない。

 行動より一瞬早く頭が理解する。

 ドンッ!!

 腹部に衝撃。

 目の前が暗くなる。

 死を、覚悟した。

次で最後です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ