表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼく の かんがえた さいきょう の PC  作者: ぽむ
第一章 テクニカルライター
3/17

003 オーバーテクノロジー

 しかし、ヌチャンネルの祭りの具合は本当のようだな。最初のスレは朝に立てられたに関わらず既に3スレ目に突入していた。たかだかPCスペックごときで何をそんなに語る事があるのか?と普通なら思うのだが、既に『荒し』と呼ばれる妨害工作も始まっているようである。まぁ恐らくこういうのが得意な某メーカーあたりのネット工作員なのだろうが…… そりゃこんなのが売れちゃったら自社製品売れ無いどころか下手すれば倒産の危機だ。解らなくはない。


 荒しの手法も『現実的な物理学を考えて無理に決ってるだろ? 馬鹿じゃねーの?』と科学的な否定を交えつつ、こんな物を信じるとか人間性を疑う等と言った正論の影に悪意を含ませてスレの雰囲気を悪化させようとしたり、純粋に意味不明な罵詈雑言を正に有る事無い事書き立てて荒らしたり等、ありとあらゆる手で本気で荒らそうとしているのが良く解る。


 一方、真面目に情報を得たい人間は、何人かのトリップつきの発言を参考に質疑応答を繰り返していく。トリップ付の発言をしているのは最初に『infinity』のサンプル展示を行ったPCショップの店長や自分と同じように編集部などで『infinity』の担当を任されたと思われる編集者が多いようだ。ソレによってスペックは既にかなり公開され、例の裸眼3Dについても動画をまじえて通常の3D表示とは全く別物である事も既に公開されている。そして何より、スレを賑わせた事実は、この超高性能PCは仮想PCソフト上の物でしかないと言う事だ。


 仮想PCと言うのは簡単に言えばPCハードその物をソフトウェアでエミュレーションするアプリだ。目的はMacintoshやLinux等の別のOS上からWindowsアプリを動かしたい時や、旧バージョンのWindowsOSでしか動かないもの等を多少の速度低下を犠牲にしても動かしたい、と言う時に用いられる。そう、多少なりとも速度は低下するのである。当然だ。例え仮想といえどもOSが二つ動いているのだし、しかも純粋に2つ動いているのではなく、仮想PCの方は本来ハードウェアがこなさなければいけない幾つかの処理をソフトで行っているため当然その処理速度も、表現限界も本来の性能よりも落ちざる得ないのだ。


 具体的な例を挙げるなら、今現在のOSが扱えるグラフィックはDirectX11となるが、仮想PC上では二昔前のDirectX9迄でしかも一部制限があり全ての機能が正常に動くというわけではない。ところが『infinity』に初期搭載されている見た事もないOSに唯一入っている仮想PC構築ソフトは今現在発売されているどのハードよりも高性能な仮想PCを生成する。


 そしてこの仮想PCソフトにはこれまでの仮想PCソフトには無い項目が幾つか存在する。特に特徴的な物はCPU設定、そしてモニタ設定だ。今までに存在した仮想PCソフトであるならCPU設定は精々元のハードが持っていたCPUコアのうちいくつを割り当てるのか?と設定するぐらいだろう。所がだ、この仮想PCソフトではクロック周波数とコア数が無制限に設定できるようになっているのだ。また無制限という範疇で語るならメモリやHDDの容量なども同じく無制限に設定可能となっている。


 ただ、幾ら無制限に設定できるとはいえ、あまり大きな数値にすると幾つかの警告が出る。警告の理由はあまりに高性能にするとOSやその上で動くアプリケーションがそんな高性能を想定していないために正常に動かなくなってしまうのだ。例えばベンチマークプログラムでスコア計算をしているとしよう。特定の処理を時間で割った物がスコアになるとして、もしその処理が0秒で終ったとしたら計算不可能な0除算が発生し、結果としてエラーとなる。


 アプリケーションは通常、0除算が発生した場合の例外処理として別の処理をさせるようにプログラムを組むのだが、ありとあらゆる処理がOSの認識できる最小時間単位より小さい、即ち0秒で終る可能性がある等と誰が想像するだろうか。


 他にも整数を扱う上でよく使われる数の型は32bitで構成され、その表現可能な最大値は4294967295迄である。例えば今現在の高性能PCで万単位のスコアが出せるとするなら、『infinity』上の仮想PCで10万倍以上のパフォーマンスに設定するとスコアの数値が最大値を超え、ケタが溢れてしまうのである。高性能過ぎる事が逆に弊害になるわけだ。


 更に言えば、今の主流OSは64bitである。64bitで表現可能な整数は14E(エクサ)であり、ソレが即ちOSの管理できるメモリの総量となる。ところがこれも問題がある。今現在のOSはメモリと同量のページファイルをHDD上に作成し、仮想的にメモリの嵩を増やそうとする。こうする事で実メモリでまかなえない量のメモリオーダーが発生した時に、HDDにあるページファイルを仮想的なメモリとして扱う事で例え低速になろうとも強制終了などが起らないようにしているわけだ。


 ところがメモリ設定を14Eバイトに設定した場合ページファイルも同じく14E作成され、結果的に64bitOSで扱えるメモリ量を超え、正常に動かなくなってしまうのだ。もし大量のメモリを使用したい場合は、一旦少なめにメモリ設定を行い、OSインストール後に、ページファイルを使用しない設定にした上に、14Eバイト以内に改めて設定する等の配慮が必要になる。HDDの容量設定に関してもメモリと同様の注意点が必要だ。


 色々面倒な事を書いたが、実際の設定はもっと簡単だ。処理が早すぎて問題の起るアプリケーションは既に一覧になっているし、そのアプリがベストパフォーマンスを起こす設定値もその一覧に書かれている。更にはパフォーマンス調整ユーティリティという専用ソフトをインストールすれば、アプリケーション毎に自動で割り当てられたCPUコアの処理速度をダウンさせ、正常に動作する範囲にまで性能を落としてくれるのだ。結果として普通に使う分には全く問題なく常に最高のパフォーマンスで扱う事が出来る。


 で、処理速度に関する設定はこんな所だが、モニタに関する設定は既存の3Dモニタとの互換性の問題である。簡単に言えば既存の裸眼3Dもどきにするか、『infinity』独自の3D表示にするかである。もちろんこれもインストールしたOS内のビデオカードドライバの設定で自動を選択すれば、たいていの場合、『infinity』独自の3D表示で問題なく動作する。


 ちゃんと動かないのは一部の特殊なエフェクト処理、具体的には3Dであるのに2D的な処理が非常に強い場合等で、全方向3Dにすると見た目がおかしくなる場合がある。例えばキャラクターの影を2Dドローイング調の掛け網で表現されている場合、掛け網自体はあくまで陰影のディフォルメ表現であるため、3D的に考えるとは存在しない線なのである。結果的に3Dとして破綻しているために、全方向3Dの場合、かなり違和感のある映像が浮かび上がる。


 具体的に言えば顔に大量の落書きがあるキャラクターにしか見えないのである。しかもその落書きはうねうねと見る角度によって動くのである。ハッキリ言って気持ち悪い。そう言う場合は3D表示を切るか、既存の裸眼3Dもどきにした方が違和感なくみる事が出来る。まあ、もともと一般的な想定範囲で画面造りをしているのだからある意味当然だ。


 その他のモニタ設定は、タッチデバイスの設定だ。通常の指によるマルチタッチももちろん有効だが、筆圧対応のペンデバイスによる操作も同時に可能だ。また、画面を外側にして折りたたんで、タブレットデバイスとしても普通に使えるので有用性はかなり高い。大きさもシステム手帳サイズであるし、解像度も高いため、文章の読み書きにも向いている。また性能も馬鹿高いために、本格的なお絵かきソフトを起動してもサクサク動作する。通常、PCでお絵かきと言えば家に籠もって描くのが普通だったが、これなら外で『infinity』を画板代わりの写生をしてもストレスは感じないだろう。


 こんな物を作り上げる技術力もそうだが、想定される事態へのフォローも素晴らしいと言わざる得ない。マジでこれ一つあれば他のPC要らなくなるような性能である。


 で、ここまでの話は直接的な性能面での話なのだが、幾つか気になる性能(?)も存在する。一つはモニタの粒子、そしてBDドライブについてだ。


 モニタの液晶素子というのはグレア形式のモニタなら直ぐに確認できるのだが、ルーペなどで見ると画像を構成するRGB、赤緑青の液晶素子が実は割とハッキリ見える。文房具屋に売っているルーペのレベルでも十分に解る。最近はUSBの拡大鏡などで100倍スケールなども売っているので、そんなの使えば、液晶素子の一つ一つの形すらハッキリ判別でき、その形状から何処の液晶パネルメーカーでどの形式の液晶なのかも大まかに検討がつくのである。ちなみにノングレア処理されたモニタであってもセロハンテープ等を貼り付け、ノングレアを有効にしているモニタ表面の凸凹をならしてやるとノングレアモニタでもハッキリ確認可能だ。


 所がだ、このモニタ、ノングレアっぽい、というか完全に反射をしない、理論的に有り得ないと思われるノングレアなのだが、更に有り得ない事にノングレアに特有のルーペで拡大した際のピンぼけが一切ない。というか100倍に拡大されたルーペ画像で表示されたドットは綺麗な正方形として写っている。そう、角がハッキリ解るのに、RGBの各素子が全く見えないのである。


 と言う事は何か? モニタ解像度が3840*2160ってなってるけど実際にはそれ以上の解像度がこのモニタにあるって事か?


 気になった俺はもう幾つか検証することにする。一つは黒画面を表示した際のバックライト漏れの検証。結果バックライト漏れ無し。黒は完全に漆黒であり、光が発生していない事が判明。即ちこれはバックライト透過型の液晶パネルではないと言う事だ。有機EL形式なのか? まあそれにしてもRGBの各素子が見えないのはおかしいのだが……


 次に検証したのは3D表示を2D設定した状態でポリゴンの観察。職業柄ベンチマークは様々なモニタで何度も見ているのだが、解像度が高いにしても表示が綺麗すぎるのだ。アンチエイリアスが効いているにしてもジャギーが全く確認できないのである。しかもこのアンチエイリアスは『infinity』に付いて来たドライバの独自形式となっているのだ。明らかに怪しい。とはいえ、ソレをスクリーンショットで撮影すると見ていた画像よりも画質が悪い気がする画質しか得られない……いやもちろん最高峰の画質ではあるのだが、リアルタイムで動いている物に比べて画質が落ちているような気がするのである。そんな訳でふと良い方法を思いついた俺は、3D制作ソフトを立ち上げ、静止した3Dを表示し、その状態でルーペで見る。結果はビンゴである。


 近くに2Dドットのある状態で見るとソレが良く解る。このポリゴン表示、アンチエイリアスじゃなくて、普通に線です。斜め線を正方形のドットの集まりで表示しているのではなく、斜めは本当に斜めなのだ。大昔のアーケードゲームで存在したベクター式のモニタ。レーザー光を使用して斜め線は本当に斜めに光線を移動させソレを表現する形式。それは今のモニタの主流方式であるスキャンライン方式では絶対に表現できない本当の斜めの直線だ。当時、宇宙戦争物のアーケードゲームではその線だけで表示された3D映像に一喜一憂したものだ。


 ともかくこのモニタはスキャンラインのドットで構成される画像とベクターで構成される画像の二つが混在している。どういう方式でソレを可能にしているのか全く解らないが、少なくとも言える事は、このモニタは現存するあらゆるモニタの形式に当てはまらない方法で製造されていると言う事である。


 ひとまずモニタに対しての新発見があったため、これまでのまとめ情報も含め、我が編集部のWeb情報サイトに速報としてアップした。そしてヌチャンネルの該当スレにもその情報を載せる。その書き込みを見た人間で、検証可能だった人物が同様に検証、同意してくれた事で再びプチ祭りとなり、スレが加速した。


 うん、自分の書き込みでスレが加速するとちょっと気分いいな。


 だがこのハードにはまだ明らかにおかしい点があるのだ。それはBD/DVDドライブである。先程までの検証で、アプリケーションをインストールした時はUSB接続の外部ドライブを使用していた。何故ならウルトラブックではこういった方式が普通だからである。だって、本体がディスクよりも小さいのだからDVDやBDが入るなんて思うはずもないじゃん?


 所が良く見ると、本体にDVDを入れる事が出来そうなスリットがついているのである。


 物理的に絶対に入りそうにないのであるが、周辺の印字やイジェクトボタンを確認する限り、これはBD/DVDドライブのスロットっぽいのである。ホントかよ? しかも『infinity』は重さが僅か100g程でスマホレベルの超薄型なのだ。BDのディスクを入れるのは良いとして、ソレを読み取るレンズやモーターなども入りそうにない程小さい、いやそもそも入っていたら100gの重さで済んでいるはずがない。


 通常ならバッテリーで100gは楽勝で超えそうだが、付属していた紙ペラにある永久電池を信じるならそういう事もあるのだろうか? まぁそれはともかく、万一ちゃんと読み取り装置が入っていたとして、まさかディスク剥き出しのまま回転させる気なのだろうか? いやCDプレイヤーなどでCDを剥き出しのまま回転させる物も無いわけではないが、最近の光学ディスクの回転速度はかなり高速で手でも触れたら危ない気がする。


 とはいえ、入れてみない事には始まらないので、勇気を持ってスリットにディスクを差し込む。


「…………は?」


 結果を言えば、絶対に入るはずのない大きさのディスクがすっぽりと飲み込まれた。何度かイジェクトボタンを押して出したり入れたりを繰り返してみたが全く構造が解らない。もしかして某国民的猫型ロボットのアレみたいに四次元構造なのか? そしてふと気になったので、まだディスクが入っているにも関わらず、追加でディスクを入れてみた。通常なら既にディスクが入っていれば入れる事が出来ない筈である。だがしかし、追加で入れたディスクはあっさりと飲み込まれたのだ。


「これはマジで四次元状態なのか?」


 『infinity』的に入れた複数のディスクはどういう扱いになっているのかと、仮想PCの設定画面を入念にチェックする。すると設定画面には『入れたディスクは全て新規追加ドライブとしてOSに認識させる』という選択と『専用ユーティリティでディスクの入れ替えやドライブ数を細かくチェックする』と言う2つの選択が選べるようになっていた。なる程、実際にOSの方では入れた枚数分のBDドライブが追加されていた。


 取りあえず専用ユーティリティを使用するを選択すると、OSに自動で専用ユーティリティがインストールされる。その状態でドライブ一覧で右クリックをすると今入れた2つのディスクが選択できるようになっていた。ちなみに仮想PCソフトの設定にも同様の機能がついていた。


 んじゃ取りあえず、これが何枚はいるのか手持ちのディスクを片っ端から入れてみよう。


 そんな感じで100枚程入れてみたが、見事キレイに飲み込まれた。しかも100枚入れているにも関わらず重さが100gから変化していない。


 うん、どう見ても4次元的なアレです。ありがとう御座いました!


 ちなみに読み込み速度が光学媒体とは思えない程、有り得ないスピードだった事などぶっちゃけどうでも良いぐらいの衝撃である。もちろんこれもWebに追加情報として公開した。再び祭りである。


 取りあえず、色々いじってみて解った事は『infinity』は地球上の科学で作られたとは到底思えないと言う事だ。これはサンプルに触る事が出来た人間全員に共通する意見と言える。おかげで荒し目的のアンチが『これは宇宙人の侵略行為の一環だ!こんな物を買うと洗脳されたり、侵略の先兵にされるぞ!』なんて書き込みまで出る始末だ。まぁ確かに侵略行為とは言えないまでも、この商品による経済ダメージは計り知れないと予測される。そう言う意味では間違いとも言い切れない。


 明らかに地球外技術と思われる仕様がネットに晒された事で、ちょっとスレの雰囲気も怪しい方向に流れ始めていた。具体的には『おい、このPC本当に大丈夫か?』と言う不安だ。しかしその雰囲気はある情報によって少し持ち直す。恐らくこのスレの内容を見ていたのだろう。ヌコヌコ動画の説明文、該当スレ、そしてDimension Corp.のHPに以下の告知がされた。


【あまりの技術力の違いに不安に思う方も多いと思われますので、一週間後の11/3に技術説明会を開きたいと思います。ご招待枠は今回サンプルを送った各店舗、編集部に加え、主要ソフトウェア、ハードウェア会社様の皆様も招待する予定です。また一般公募の参加者も募ります。予約した会場の広さの関係上、一般公募は500人程となる予定ですが、説明会参加者には漏れなく正規版『infinity』を先行プレゼントいたします。締め切りは三日後の10/29迄とし、所定のメールフォームよりご応募下さい。応募者多数の場合は抽選にて当選者を決めさせていただきます。当選はメールでお知らせし、会場へは後日郵送される入場券を必ずお持ち下さい。詳しい日時、場所に関しては応募フォームからご確認下さい。ps.私は宇宙人でも未来人でもありませんよ~】


 当然のごとく応募が殺到し、締め切り後の当選通知でスレが一喜一憂したのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ