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ぼく の かんがえた さいきょう の PC  作者: ぽむ
第一章 テクニカルライター
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002 最強がもたらす影響

 その日自分は某有名家電メーカーの新製品ノートPCレクバルのレビューを書きあげ、編集長への原稿メールを終えた所だった。自分は基本フリーのテクニカルライターであるため、本来ならば自宅作業で原稿をあげても良いのだが、レビューなどの実機の検証となると編集部に用意された部屋でメーカー貸し出し機材を元に原稿を書き上げていく事が多い。今日の仕事もその類のモノで編集部内で用意された自分用の机で原稿を書き上げていたのである。


 後は編集長から原稿のチェックを受けOKを貰えば心おきなく帰る事が出来る。まぁ可否を確認せず帰っても良いのだけど、もし没の場合に再び編集部にやって来て実機の検証し直しとなるため、出来れば帰る前に編集長から結果を貰っておきたい。


 そんな訳で編集長の机の前まで来たのだが、どうも様子がおかしい。というかこの表情は見た事がある。それはスポンサーさんからの苦情や無理難題を突きつけられた時だ。


 ぶっちゃけた話をしよう。PC情報誌というのはPCの宣伝媒体である。雑誌を作るためにはスポンサーさんがいて、広告料を払ってくれるからあの値段で雑誌が出せるのだ。そしてお金を貰っている以上、スポンサーの意向に沿って宣伝を行う。今書き上げた記事だってそうだ。自分では買いそうもないなと思う商品であっても『これは素晴らしいものだ!』と書き、読者の購買意欲をかき立てるのがライターの仕事なのである。


 特に日本のPC雑誌はその傾向が強い。逆に海外では広告が無くて当たり前で、スポンサーの意向を入れずシビアで平等な視点の雑誌が主流だ。何故ならメーカーの意向が混入した公平でない記事を書くと途端に雑誌の信用を失うからだ。とはいえ海外でもスポンサーの意向が入る雑誌は当然ある。だがそう言う雑誌は宣伝でありチラシと同等という意識から多くが無料で配られている物なのだ。まぁ最近の秋葉原では無料PC雑誌も珍しくなくなってきたが……。


 ともかく何が言いたいかというと、この編集部が出しているPC雑誌もスポンサーの意向を大きく取り入れた紙面作りを余儀なくされているのである。


 編集長である沢木さんは正に苦渋を飲まされていると言う表現がピッタリの表情をしていた。


 またN社あたりから無茶な比較記事でも書けって言われたのかな? ま、自分はあの会社とは親しくないし、指名は無いから安心だけど。


「沢木さん、原稿はもう送ってあるのですが、今日ちょっと早めに帰りたいので出来れば先にチェックお願いできますでしょうか?」


「ん? ああ、幹本さんか…… チェックね…… ちょっと待って」


 沢木さんはそれなりに速読術が使えるので原稿チェックも結構早い。1~2分で自分の原稿を読み終えOKを出してくれた。


「ところで幹本さん、早く帰りたいとの事だったけどもしかしてなんか予定ある?」


「予定と言う程の物はないですけど、久々に早く仕事が終ったので家でネトゲでもしようかなと……」


「ネトゲですか…… と言う事はまだ君は知らないと言う事か」


「え? 何かあったんですか?」


「今現在ヌチャンネルで祭りが起きてる」


「はぁ、祭りですか。まあヌチャンネルじゃよくある事ですね。もしかして先月号の記事とかでどっかの雑誌が不味い事でも書きました?」


「いや、そういう事じゃない。原因はこれだ」


 そう言って沢木さんが机の上にあるウルトラブックのノートPCを指差す。


「新製品ですか? 結構良い感じのデザインじゃないですか」


「デザインの良さなんてオマケに過ぎん」


「はぁ……」


 いや、ウルトラブックとか携帯を前提にしたノートならデザインは重要でしょ!と思ったが、口には出さないでおく。


「まぁ取りあえず、システムのプロパティでCPUのクロック確認してみろ」


「え? はい」


 言われたとおり、システムのプロパティを確認する。と言うかこのモニタえらい解像度高いな…… えっとCPUクロックは……


「………は? なんすかこれ?」


「まぁそれが普通の反応だよな。所がだそれ冗談でも何でもないんだわ」


「え? どういう事ですか? CPUクロック表示が10000000GHzってなってるんですけど? え~と10P(ペタ)Hz? 有り得ないでしょ?」


「まぁそう思うよなぁ、物理的にもおかしいと思うよな? 所がだベンチマーク動かすとそれ相応以上のスコア叩き出すんだよ」


「マジすか?」


「しかもだ、そのモニタ裸眼3Dモニタなんだが、通常の裸眼3Dモニタと全く違う」


「どういう事ですか?」


「適当に3D系のベンチマーク動かせば解る」


「はぁ……」


 沢木さんに促されてデスクトップに散らばっていたアイコンの中から3D系のベンチマークを起動する。すると想像とは全く違う3D映像が表示された。


 通常の3D表示というのは右目用と左目用の2画面を用意する事で奥行きを錯覚させると言うものだ。だが、この3Dは全く違う。全方位の何処から見ても3Dなのだ。右目用、左目用ではない。モニタの奥に3D空間がそのまま広がっており、下から覗けばフィールドの空が見え、上から覗けばフィールドの地面が普通に見えるのである。完全なノングレアなのか、モニタの枠がまるで異世界に繋がっている窓のように自由に中を見れるのだ。


「な、なんすかこれ? こんな技術見た事も聞いた事もないんすけど?」


「うん、俺もだ。そこまで完全な3Dとか見たら今までの3Dシステムとかゴミにしか思えなくなるな」


「というか、何方向分レンダリングされてればこんな事が可能なんですか? 理論的にはあらゆる方向の画像をレンダリングして、その方向に的確に画像を飛ばせればれば不可能ではないでしょうけど…… 視線移動させても画像の切り替えポイントが全く解らないっす」


「だよな。しかも幹本さんの説でいけば描画負荷が2画面分所の騒ぎじゃないはずなのだが、ちょうヌルヌルで動いてるだろ? そのモニタ、リフレッシュレートが1GHzだってさ」


「はぁあああ? って、あ……ベンチ終った。ってスコア馬鹿高! ていうか本当になんなんですかコレ? 地球の科学ってこんなに進んでましたっけ?」


「いやいや、進んでないでしょ? 異星人か未来人の技術って言われたほうがしっくり来るよなぁ。しかもメモリの容量もHDDの容量もアホみたいに載ってんだぞソレ」


「えっと…… げ…… メモリ1E(エクサ)バイト、HDDが5E(エクサ)バイトってヤバすぎでしょう」


「しかもコア数が1万個らしいぜ? もう笑うしかないよな」


「た、たしかに……」


「まぁともかく言える事はだ…… そのPC一台で地球に存在するどのスパコンよりもブッチギリで早いって事だ」


「幻覚見てるってわけじゃないんですよね?」


「だったら良いんだけどな……」


「取りあえず信じられない程性能が高いのは解りましたが、まさかこれ売られるんですか?」


「そのまさかで売られるそうだ。しかも2万円で販売するそうだ」


「マジスカ!? 安!! 絶対買うっす! 何時発売っすか?」


「予定はクリスマス商戦にむけて12月3日だそうだ」


「うわぁ…… 荒れそうですね……。しかし、本当にこれ一体どういう経緯で出てきたんですかね? 科学技術的に100年以上先の技術と言われても信じられませんよ」


「わからん。だけど、これの性能が良すぎる事が問題なんだ」


「問題?」


「だってこれ買ったら他のPC買う必要ないだろ?」


「あ……」


「幸い、外部モニタ端子もついてるし、USBだってカードリーダーだってついてる。デスクトップマシンの変わりに使う事だって全然可能だ。しかもだそれ永久電池搭載で充電要らずらしいぜ」


「………… 永久電池って…… 絶対に地球の技術じゃないです」


「ほんとにな、何処のSFの世界だっての。まぁとにかくだ。ウチとしてはスポンサー様あっての出版な訳だし、もしそのPCの存在が公でなかったら我が雑誌では一切取り扱わず、スルーを決め込んでいたと思う」


「まぁこんなのをまともに雑誌で紹介したら、他の商品はゴミにしか見えないでしょうし、スポンサー様はカンカンでしょうね」


「うん、だが困った事に公になっちゃった訳ですよ」


「それがさっき言ってたヌチャンネルの祭りですか」


「そゆこと。発端は性能を紹介する動画がヌコヌコ動画にアップされからなんだが、この異常なスペックじゃ普通誰も信じないよな?」


「まぁそうですね。こうして実物見て確かめでもしなければ絶対信じません」


「ところがだ、このPCかなり大規模にPCショップやら家電量販店にサンプル貸し出ししたらしくてな…… まぁ最初は、どの店も性能がヤバすぎて傍観していたんだが…… 何しろこんなの販売したらショップの商品が殆どが在庫になっちまうからな」


「あー、確かに…… 少なくともCPU、メモリ、HDD、ビデオカードは売れなくなりますね」


「そういう事。ところが、某馬鹿ショップがサンプル展示と予約受付始めちゃったんだよ。んで事もあろうにヌチャンネルでソレを宣伝する始末。結果、ソレを見た人間がサンプルを見て、マジだって騒ぎ始めたわけだな」


「なるほど」


「もし、何処もサンプル展示を始めなければ、恐らくこの商品は闇に葬られて一生日の目を見なかったかも知れん。あの動画は釣り動画だったってな。でもだ、馬鹿が展示してしまった所為で、他の店も展示せざるえなくなった」


「ああ…… 一カ所でも売られ始めればその店の在庫パーツだけじゃなく、全てのPCショップの在庫が売れなくなりますもんね」


「そういう事、どうせ売れなくなるなら少しでも利益を得るために、自分の店でもこのPCを扱わざるえなくなったわけだ」


「で、ほぼ同じ理由でウチの雑誌でも特集を組まざる得ないと言う訳ですか?」


「そう。もし組まなければ組んだ雑誌に読者を取られ、最悪の場合廃刊へと突っ走る事になる。何故なら買う必要のない他社PCの宣伝しか載ってない雑誌なんて必要ないから。かといって、組んだら組んだでスポンサーからの批判は避けられず、スポンサーが離れる可能性は非常に高い」


「でも、長期的に見るなら特集組む方じゃないすか? どのみちこのPCを販売するメーカー以外は広告料を払えるだけの売り上げを上げられなくなると思いますし」


「まぁな…… 一部周辺機器メーカー以外は撤退せざる得ないだろう」


「ですねぇ…… しかしまぁ、一体全体これ発売する所はどういうメーカーなんです?」


「さあな。今まで全くの無名だった会社だ。『Dimension Corp.』だってよ。一応調べてみたら一年程前からISP事業をしてるようだな」


「プロバイダっすか…… ん? そう言えばこのPCはネット繋がってるんすか?」


「繋がってる。しかも無線の筈なのに有線並に早い。念のため接続先のドメイン情報調べたら予想通りDimension Corp.になってた」


「一応準備はされていたって事ですか」


「そういう事らしい。まぁそんな訳でレビュー頼めるかな? 取りあえずはWeb速報から」


「了解ッス」


 さてと…… なんか怪しさ満点だけど、まずは発端となったヌコヌコ動画と、ヌチャンネルのチェックから始めてみますか。

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