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ぼく の かんがえた さいきょう の PC  作者: ぽむ
第二章 開拓星フロンティア
14/17

014 教授と生き甲斐

二話同時更新

教授の身体能力について、12話公開当時よりも訂正が入っています。

変更の詳細は12話の後書きにて

 呼び出しを受けて受付に向かうと、サクラ嬢が明細を書いた一覧表と共にトートバックを返却してくれる。


「トートバックの返却とこちらが納品された一覧となります。合計で54万3734円での買い取りになります。いつも通り振り込みで処理なさいますか?」


「お願いします」


「了解しました。振り込み処理を行います」


「入金を確認したワン!」


「では、またのお越しをお待ちしております」


「ああ、何時もありがとう」


「いえいえ。教授も霊学修行頑張って下さい」


「もちろんだ」


 ちなみにフロンティアにおいて現金を持ち歩く事は殆ど無い。口座のお金を直接やり取りできるので、どちらかというと電子マネーといよりもデビットカードに近いのだが、口座決済の使えないお店はフロンティアに存在しない。そもそもinfinityやギルドカード同士でのやり取りも可能なので、例え小規模な個人商店でも現金を使用せずお金のやり取りが可能なのだ。まぁどうしても現金が必要な場合はATMよろしくinfinityがその役割を果たし、リプリケート機能で現金を出す事も一応出来る。


 が、ハッキリ言って現金を持ち歩く意味は全く無い様に思う。セキュリティの面も当然高い。生体認証を更に進めたような霊体認証といえる物で他人には絶対使えないし、infinityもギルドカードも絶対無くす事がない所持品なので「サイフを落とした!」なんて事で慌てる事だってない。結果的に小さな子供であっても現金は持ち歩かない状態になってしまっているのだ。ちなみに霊体認証というのは精霊たんによると思考波による方言パターンと同じ事らしい。


 現状、フロンティアで現金をわざわざ使うのは観光客の一部ぐらいだと思われる。あ、でも一部の企業はボーナスやアルバイトへの給料は現金で渡す事で『金の重みを知って貰う』なんて方針を採っているらしいので、そう言う企業はフロンティアでも同じかもしれない。


 口座の残高を確認するとざっと五千二百万円程ある。子供は出来なかったし、特に贅沢な暮しもせずひたすら研究に没頭していたので無駄に貯金だけはある。65歳と言えば定年の歳だが、私立大学の教授職ともなれば引退をせず教授職を続行する事も出来る。だが長年付き添ってきた芳恵を失った事で研究を続けるための張り合いも失っていたのだ。なので、老後をのんびり暮らすのも一興だろうと退職金を受け取って教授職を引退した。


 その後は自宅でインターネットやゲームなどで遊んだ。研究データをまとめるためにパソコンはそれなりに使用していたが趣味で使う事は殆どしていなかった。仕事の道具を遊びに使っては分別が付かぬと思っていたからだ。しかしゲームはやってみると思っていたよりも楽しかった。なるほどエンターテイメントというのはこういう物なのかと感心した。


 ネットゲームというのにも手を出した。最初のゲームは基本無料を謳っていたものだ。そして初プレイでは馬鹿正直に本名で登録し、自分のプライベートもまるで隠さなかった。だが、その中であった最初の話し相手は丁寧にネット上の常識を教えてくれた。しかし彼の言葉で一番印象的だったのは『ネットゲームの良い所はリアルの立場や肩書き、年齢や性別も含めて全てに縛られない本当の自分で居られる事だ』と言う言葉だ。それは私にとっては新しい、いや忘れかけていた認識だったのだ。


 そう言う意味でネトゲという環境は私自身をもう一度再確認するのに最適な場所だったのだ。私にそれを気付かせてくれた彼は、話題のネトゲが出る度に転々と移動するタイプのネットゲーマーだったらしく早々に引っ越ししてしまったが、彼とコンタクトを取れなくなってもネトゲは続けた。


 ネトゲは面白いと思う。何より若い人間と話すという行為は若返る。教授職だった関係から若い学生と話す機会は沢山あったが、友達のようにタメ口で話すなんて無かったのだ。それはとても新鮮な事で、自然と私自身の言葉遣いも考え方も若くなっていた。


 気が付けば、自分は妻を失った時の喪失感「後は墓にはいるまで何事もなく暮らせればそれで良い」なんて言う爺むさい考えは消えていた。研究以外にも私の知らない事は本当に沢山ある事を思い知らされた。ネトゲで知り合った友人に勧められるままにアニメやラノベも見るようになった。彼が名作と絶賛する作品は本当に面白かった。ヌチャンネルも覗くようになった。正に65歳からのオタクデビューである。


 すっかりオタク文化にハマっていた私だったが、ある時ネトゲ仲間からのメッセンジャーでinfinityを知る事になる。私の研究内容は主に電子機器関連であった為、そんな話を聞いても信じる事は出来なかったのだが、私の良く行くPCショップでもサンプル展示があると知って見に行く事にしたのだ。


 しかしそのサンプルは私の常識をひっくり返した。「今までの私の研究は何だったのだ?」なんて事は思わなかった。ただただ驚嘆し自分の全く知らない技術がある事に震えが走った。その震えは恐怖ではない。喜びだ。正直、専門に研究していたからこそ解る。今の科学技術は色んな意味で頭打ちなのだ。半導体に適した新素材を見つける行為などは宝くじを買うようなものだ。解法も指針も出尽くした。今ある指針を突き詰めれば確かに多少は進歩するかもしれない。だがもう、それ以上を求めるには偶然という名の奇跡にすがるような状況だったのだ。


 だが、奇跡は現れた。それもとびきりの奇跡だ。説明会にも当然応募した。運悪く落選したが、説明会の動画は何度も見た。彼は人間の科学は偏りすぎていると、解らないからと否定する事こそ馬鹿らしいと言った。そして人間がオカルトとして理解を放棄した分野について、いずれそれを学べる場を提供すると約束していた。胸が躍った。


 当然発売日にinfinityを購入し、即日飛行機能を試した。家にも帰らず10時間程飛び続けた。これが彼の持つ技術なのだ。彼はこれを与えてくれると言っているのだ。想像するだけで顔がニヤけるのを止められなかった。


 そして運命の元旦。ついに説明会で言っていた約束が果たされたのだ。


 私は即座にシロから詳細を聞き出し、開拓星に移動する事にした。研究づくめの人生だったため個人ポイントも一万ポイント程あった事から、その殆どを若さと霊学初級解説本に費やす。強化は全て金で解決した。その他の金で解決できる図鑑なども全部まとめて購入した。


 評価ポイントも職業柄それなりに在ったのだが、ネットではその危険性も既に話題になっていたし、私自身も思い当たる節は山程あったため迷わず無効化した。これから第二の人生と呼べる生活を始めるというのに、数値化された人間関係に気を使いながら暮らす等まっぴらゴメンだからだ。それにシロに聞いてみると霊学をしっかり学べば評価ポイントなんて無くても十分にポイントが得られると聞いた事も大きい。

 

 早速開拓星に転送されると、発表から数時間だというのに既に1000人程の人間がはじまりの街にやって来ていた。どうも移住するかどうかは別として取りあえず様子見も兼ねてフロンティアを見学に来たと言う感じらしい。そんな見学者を尻目に、シロに案内されて防具屋を訪ねる。まずそこで防弾防刃効果の高い布でできた服を買う。防護服と書かないのは、防具屋と言いつつ、一見普通の服屋のように普段着が沢山売られていたのだ。しかし実はその全てが防弾防刃効果の高い繊維と布で作られているらしく、この辺ならそれで十分だとの事。それに低反発素材等がバッチリ入ったいわゆる防護服では少々動きづらい為、若返ったばかりの身体に慣れるまえに変な癖が付くのは良くないと言われたからだ。


 次に向かったのは武器屋。そこには銃器はもちろん、日本刀から西洋刀、手榴弾まで、古今東西のあらゆる武器が並んでいた。当然平和な日本に住んでいた以上、武器など使った事はないのだが、身体強化を適用しているなら拳銃よりも剣や刀のほうがお薦めと言われ、解体用のナイフと日本刀を二本購入する。


 そうそう、これは重要な事だが、日本では銃刀法違反があるのでここで買った武器は日本に持って帰る事は出来ない。なのでギルドなどに設置されているロッカーなどを使用し、日本に戻る際は武器を全て預けることになる。まぁ現実的な話をすれば、infinityが普及した今では持って帰った所で安全なので銃刀法違反にどれ程意味があるのか微妙な所だが。


 まぁそれはともかく、武器の実際の使用についてだが、例え身体強化があっても闇雲に刀を振り回すだけでは正直心許ない。出来れば基本的な武術のイロハぐらいは学びたい所ではある。ただその事を武器屋に相談すると、このあたりでは必要ないと言われてしまった。


 そのかわり面白い話を聞けた。はじまりの街では武術を教える道場主なども募集しているのだが、それ以外にも学習ソフトという形で仮想空間内で自身の身体を使って武術を学べるアプリが幾つか販売予定らしい。これは現在活動中の武術家の提携によって作成されるとの事だ。Dimension Corp.製ではないのでどの程度のレベルで武術が学べるのか会社によって差が出るだろうが、生身の身体で学べるというのは興味深い。剣術一つとっても様々な流派が存在するのだし、色んな流派の武術学習ソフトが出て来そうだ。


 他にもいわゆるFPSと呼ばれていた銃器を中心に扱うゲームも、幾つかの名作が仮想空間内に生身で入ってプレイできる形でリメイクされるそうだ。当然ゲームであるので、痛みや実際のダメージなどは問題のないレベルに調整できるので安全に様々な事をゲーム形式で訓練する事が出来る。とくにFPS関連は銃器を現存の物に限定し、メンテナンスもリアルに行わなければ行けないリアリティーモードを選ぶ事で本格的な銃器の扱いを学ぶ事が出来るように改変されているらしい。武器屋によれば銃器の扱いを学ぶならこれが一番だと言っていた。


 さらに将来的には100万ポイントを使って歴史上の有名な武術の達人達に直接弟子入りし、その人間の監修の元、アプリ化しようと言う試みもあるらしい。これについては当分先の事になるだろうが実現したら失伝した武術を拝めると言う意味で学術的に面白いかもしれない。


 まぁ実際の所、これらの武術学習ソフトに関しての発案は、Dimension Corp.から各ソフトウェア会社への提案という形らしい。考えてみればDimension Corp.がそれをしてしまうと、偉人に弟子入りした人に学ぶではなく、偉人その物に弟子入りできるソフトとか作れそうだし、そうなると他のソフト会社が手を出す隙間が無くなってしまう。そう言う意味で配慮した結果なのだろう。


 ただ、考えてみると、概算予測で15年もすれば自力飛行が可能な人間が現れる訳で、その時には当然幾つかの魔法も使用可能になる。その環境下では、今までの武術の常識だけでは対処できなくなる筈だ。必然それらの要素を取り入れた新しい流派が産まれ、それを学ぶ学習ソフトの需要なんかも出てくる事だろう。そう考えると武術世界の未来も面白い事になりそうだ。


 武器屋で様々な雑談をした後、本命の魔法屋にも行った。が、此方は話だけ聞いて帰る事になる。簡単に言うと基本的な霊体操作ができない状態では魔法具は何の反応も示さないので意味がないとの事。最低限の霊感修行が必要なようだ。


 初期霊感修行の方法は既にシロから聞いている。街の外にいる長耳とか言う魔物を倒し、その霊視角膜を使用するのだ。


 そんな訳で早速狩りに……と思ったのだが、シロに思いっきり止められた。ギルドには訓練場があるのでまずは其処で自分の身体の反応がどう変わったか確認しつつ、自分の認識と身体の挙動を一致させてから狩りに出るべきだと説得されてしまったのだ。飼い犬に説得されてしまうというのは複雑な気分だったが、言ってる事はとても正しい。というか、直後にそれを思い知る事になる。


 訓練場は身体を鍛える機器が沢山あるスポーツジムのような場所と、自動的に復活するカカシが沢山生えている場所、模擬戦などを行う無駄に広い広場の3つの場所で構成されている。


 軽く屈伸運動などをして早速身体を動かそうと思った所で、シロから確認が入る。今はサービス期間でどんな重傷でも100円で回復できるので、大怪我をした際に自分の判断でそれを使用して良いか?と言うものだ。なんで訓練前に?と思ったのだがこれが大正解だった。


 シロに今自分の身体がどんな状態なのか知るためにまずは全力で垂直跳びをしてみてと言われ、言われるがままに垂直跳びをする。が、次の瞬間驚愕する事になる。なんと自分は2.5mも垂直跳びでジャンプしていたのだ。2.5mといえば一般的な家の二階の高さだ。予想外の高さに空中でバランスを崩し、前のめりに落下。顔で着地する訳には行かないので腕を付いたが変な付き方をして、思いっきり手首をくじいてしまった。


 実は身体強化に関しては、シロの勧めで取った部分がある。理由は40年を一気に若返ったらまともに身体を動かせなかったからだ。考えてみればある意味当然で、例の説明会で言っていた脳波だけのVR云々という講釈に近い状態なのだろう。通常ここまで差の離れた若返りだと、リハビリに二週間程掛かると言われたのだが、裏技でそれを短縮する方法があると言われ、それが運動神経調整だった。運動神経調整は精神と肉体のシンクロ率を高める事も含まれているために、今回のようなケースでも手っ取り早く身体を動かせる様になると言う事だった。


 ただこの運動神経調整はある意味ヤバイ程の効率化を実現する。某漫画などでは人体は普段身体を壊さないように、本来の30%しか力を出せないなんて解説があったりするが実は違う。これは実に単純な話で人間は文明社会で暮らす事により、身体の動かし方が極端に下手になってるだけだと言うものだ。


 その証拠に野生動物で筋肉を効率よく動かせないなんて種族はまず存在しない。例えばチンパンジーなどはあの細腕で握力500㎏という凄まじい力を発揮する。人間がチンパンジーよりも筋肉量が多いにも関わらず大した握力にならないのは握るという動作をしても、開くための筋肉も一緒に収縮しているからだ。結局人間が力を出せないのは、筋肉を収縮させる運動神経の信号効率が悪いからに過ぎない。


 これを最適化するのが運動神経調整だ。実際、調整後の自分の握力は600㎏近くになっていた。ほぼ10倍である。ただ、これを取る際に残り二つも必ず取るようにとも言われた。しかも順番指定付である。取る順番は細胞強化、次に神経強化、そして最期に運動神経調整である。


 細胞強化は細胞同士の繋がりや不壊性を強化する。細かく言えば霊魂の範囲内にある自身の細胞を構成する分子の分子間力を強める働きがある。これには人体が生命活動を行うための酵素や体内細菌も含まれる。


 結果として外部からの物理的な衝撃や、酸や毒、細菌への耐性が上昇する。安易に考えれば薬物全般の効きが悪くなりそうだが、生命活動が変わる訳ではないので、消化吸収などにおいて細胞に取り込む機能はそのままある。しかし害に対する備え、白血球などの免疫細胞はより強い物に変化するため、結果的にいいとこ取りになる。


 だが実際の所、細胞強化で一番重要なのは、熱耐性が上昇する事だ。これは次の神経強化に大きく影響する。単純に神経の伝達速度が上がり頭の回転が上がると、脳内で消費されるカロリーは爆発的に上がる。CPUがクロック周波数を二倍に上げると消費電力が4倍になるのと同じように、その発生する熱量は膨大だ。実際、脳は人体の中で最も熱を発生する基幹であり、循環する血液の最大の役目は栄養を送る事よりもラジエーターとしての冷却の役割の方が大きい。


 例えば心臓が止まると何故脳が死ぬのかと言う最大の理由が熱によるタンパク質の凝固なのだ。人間が数分息を止める事が可能なように、血中の酸素も栄養も直ぐに枯渇する事はない。結果として血流が止まってもしばらくの間、脳は活動できる。そのためいつも通り活動し、あっという間にタンパク質の変質温度を超えて脳が破壊されるのだ。この事は氷海で溺れた人間が心肺停止に陥った後に蘇生した場合、通常ならば脳死をしていてもおかしくないケースで氷海で冷やされていたために後遺症無く復帰できるケースが少なくない事からも証明されている。


 結果として、神経強化によって頭の回転が上がり、普段より考えすぎても知恵熱に陥らなくなるのだ。細胞強化によって細胞耐性温度は60度近くにまで上がっているため、強化された人間の平均温度も上がっている。通常の人間の平熱36.5度に対し、二つの強化を受けた人間の平熱は45度に上がり、心拍数は120、血圧も同じく上昇する。


 そしてこの細胞強化と神経強化は運動神経強化を使いこなすには必須の効果だ。簡単に言うと、筋肉負担は変わらないのだが、得られる効果が10倍となるためにその変化に追従可能な反射速度や思考速度がないと人間の認識では上手く扱いきれない。また、細胞強化を行わないと得られた筋力効率も十分に発揮できない。細胞そのままの状態で600㎏の握力で物を思いっきりに握ると、それだけで手の皮膚や脂肪が潰れる。故に細胞強化も必須となる訳だ。


 シロから理屈を細かく解説され、なるほどと納得する。魔法の様な効果であってもちゃんと理屈の上で効果が発揮されているのだ。ちなみに神経がどうなれば強化されるのかについても解説を求めた所、単純に神経密度を上げる事で効果を上げているそうだ。地球上の生命は神経細胞の密度を上げる事で神経の伝達速度を上げてきた。簡単に言うと、10の距離にある部位に、10の長さの1個の神経で信号を伝達するよりも、1の長さの10個の神経で伝達する方が早いのだ。


 一見、複数介した方が時間が掛かりそうな気がするが、そうではない。解りやすい例は、玉突き現象だ。長い溝があったとして、AとBの二つの玉を離して置く。その片方、Aの側から、Cという玉をぶつける。とうぜんAはBに向かって転がり、しばらく進んだ後Bをはじき飛ばす事で、Aに伝わった衝撃をBに伝える事ができる。これはAが実際にBまで転がると言う時間がとても掛かる事を意味する。


 ここでAとBの間に隙間無く玉を詰めると、Cの玉をAにぶつけた瞬間にBにその力が伝わり、Bは即座にはじき飛ばされる。これが神経伝達に置ける密度が高い方が伝達速度が上がる理屈となる。


 信号の伝達という物は、基本的に導体の密度が高い方が早く伝わるのだ。例えば音一つとってもそうだ。密度の薄い空気を伝わるよりも海中などの液体を通る方が圧倒的に早く伝わるし、固体になれば更に早い。


 良く解った事としては、何でもかんでも未知の不思議パワーで解決しているのではなく、基本的には今の物理化学で理解できる現象と言う事だ。もちろん、どうしたら分子間力を上げる事ができるのか等と言った事はまだ解らないが、霊魂の覆う範囲という条件がある所を見ると霊学に関する事なのだろう。他は実際の人体改造手段が今の人間には不可能な事である以外は、改造後にもたらされる仕組みは我々の知る科学からまるで外れていない事になる。


 これは逆に言えば未知に思える不思議現象であっても、今まで蓄えた知識でも十分に理解の助けとなり、応用が利くと言う事を意味している。即ち解らないから否定するのではなく、理解しようとする事を諦めてはならないと言う事だ。


 悪魔の証明という言う言葉がある。これは存在しない事を証明する事はできないと言う真理だが、人間の多くはこれを取り違えてしまったのだ。


 存在しない事を証明する事はできないのは真であるが、その逆は真ではない。だと言うのに自分たちが証明できないからと言って、それを無いものとして扱い、否定してきたのだ。ともすれば今の科学の停滞とはこれに因するのかもしれない。自分から道を閉ざしていては其処から先に行く事もできないのは当然だ。それに気付かせてくれただけでも神崎氏の登場には意味があったのだ。


 その後、沢山の怪我をしながら深夜までひたすら身体を動かし、自身の身体の把握に努め、その後は泥のように眠った。その後も色々あった。芳恵をヘルプアシスタントに追加したのもその一つだ。二人で研究に明け暮れた日々、あの頃は本当に充実していた。自分の得た事を話す仲間がいるというのは嬉しい事だ。もちろんシロも居るが「これからの俺は老いぼれ老人ではない、リア充になるのだ!」と言う意味もこめて芳恵というヘルプアシスタントを作ったのだ。


「何考えているんです?」


「ん? もう三ヶ月たったんだなと思ってな」


 ちなみに思考制御に関してはシロに一任しているので、芳恵とは人間として付き合えるように普段の思考読み取りはOFFにしてある。


「こんな短い期間だというのに本当に様々な事があり、この歳になってこんなにワクワクできるとは思っていなかった。ここに来て本当に良かったよ」


「ふふふ、そうですか」


 芳恵が隣でニッコリと笑う。今日もバッチリ頑張ろう!

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