010 お正月特別記事
本日は元旦である。幾ら特定の休みが在って無いような記者業でも、年末年始はさすがに休みを取る事が多いのだが、元旦にサプライズがあるなどと予告されてしまっては記者としては働かざる得ない。
とは言えサプライズまでの予告時間である18時まで時間が余る事だし、今回の記事はこれまでの特集で書かれなかった様々な事に触れていこうと思う。
さてお正月、皆さんはどのようにお過ごしだろうか? 去年までなら、おこた、蜜柑、そしてTVで新年特番の隠し芸でも見ていた所だろう。
だが今年は殆どの人が旧世代の地デジなどではなくinfinity放送を見ているのではないかと思う。
高画質を売りに普及した地デジであったが、ことのほか早い終焉を迎えそうである。なにせあらゆる点においてinfinity放送のほうが圧倒的に勝っているからだ。まずは画質だ。infinity放送は基本、映像が上下も含めた360度の全方位である。大画面TVどころの話ではなく、迫力が違う。フルHDが高画質なんて話は遠い過去のようだ。
infinity放送では実際録画された場所と同じ場所に立っているのとなんら変わらない風景をそのまま感じる事が出来る。望遠鏡をもって遠く見るとちゃんと遠くの様子がわかるレベルであり、画質云々を比べるのは可哀想である。ただ、場所の移動こそ出来ないが、フレキシブルな3D映像であり、寝転がりながらのローアングルでの鑑賞も可能なため、女優さんのスカートが長くなったはご愛敬である。
音に関しても私には細かくは解らないが、オーディオ担当記者によれば、オーケストラ番組ではそれぞれの楽器の場所がハッキリ解る程の、本当にその場にいるのと変わらない音場ということで非常に好評らしい。しかもベクトル制御により視聴者以外には全く音が漏れないので何時でも大音響、大迫力で聞く事ができる
ただ実際の所、infinity放送があっという間に地デジを駆逐した原因は、infinity動画形式の迫力よりも、infinityショッピングと連動した番組を作れる事が大きいだろう。
infinityショッピングはリプリケーター機能を使用し、商品をその場で購入でき、その場で手に入れる事が出来る便利なシステムだ。ここで特に威力を発揮したのが食品関係である。なにせ番組から商品販促のために匂いがするのだ。しかも場合により一口試食が出来る事が結構ある。これはかなり大きい。一口食べると余計お腹すくし、残りも食べたくなるのが心情だ。
しかも値段はこれまでの外食に比べかなり安い。まぁリプリケーターは元手無しで幾らでも作れるのだから当然だと思うかもしれないが、それは違う。確かにDimension Corp.がやろうと思えば無料同然で提供をする事も可能だろう。だがそれでは生産に関わる人は収入が無くなる。その為、商品にはそれぞれに値段がつけられ、売れた量に応じて生産者に報酬が支払われる様になっているのだ。とはいえ、実際の流通販売より、リプリケーターでの販売の方が圧倒的に安くなる。
まず安さの要因として、流通費や人件費が掛からない事だ。例えば大抵の食材は農家などに直接買い付ければお店で売られている値段の半額以下に成る事が多い。流通は交通にかかる費用だけでなく、倉庫での在庫管理等の問屋としての役割もあり、結構お金が掛かるのだ。だがその費用が要らなくなる。もっとも、その分流通関係者が割を食ってはいるのだが……
次に重要なのが食材の品質の向上と、高級食材の低価格化だ。まずリプリケーターの特性として同じ物を幾らでも作れる訳だが、その特性を利用して最高品質の物だけを1個だけ出荷しさえすれば全てを最高品質に揃える事が出来るのである。即ち農家は薄利多売方式ではなく、細心の注意を払い、たった一つでも最高品質の物を出荷すれば良いのだ。
そして高級食材。高級食材の高級たる所以はその多くが希少価値による部分が多い。だがこれも幾らでも増やせるために、値段を下げてより多くの人に食べて貰った方が儲かるわけだ。
ただ、リプリケーターによる出荷に問題がないわけではない。簡単に言うと、食品等、生活必需品として常に消費される品物は最初の1回商品登録すれば、働かずとも永遠に儲ける事が出来てしまう。Dimension Corp.ではそれを防ぐために消費期限ならぬリプリケート期限を設けている。米などの一年に一度の収穫物は一月プラスして13ヶ月。それを超えるとinfinityショッピングで買えなくなる。それ以外の農産物等に関しても、細かくリプリケート期限が決められている。その為農家はinfinityショッピングで商品を売るためにちゃんと農業をし、定期的に登録をし直さなければいけないのだ。
ただ、農家への恩恵はかなり高い。infinityショッピングでの最大の利点は天候による影響をほぼ無視できる点だ。例えば米の場合、冷害や台風などで不作となっても、ぶっちゃけて言えば最高の一粒さえ出荷出来ればいい、台風で林檎が殆ど落ちようと落ちなかった物から良い物を選べばいいのである。そう言う点では畑や水田を縮小し、その分より手を掛けた栽培に専念できる。それにより、全体の手間は減っても品質を上げる事が出来るのだ。
他にもリプリケーターには面白い仕組みがある。例えば100gで20円の米を使って天丼を作ったとしよう。すると天丼が1個売れる度に、米も100g売れたとしてその米を出荷した農家に売り上げが入る形式なのだ。どうやらリプリケートされた物は、素子内の未使用メモリに商品情報が書き込まれるらしく、これにより原材料に該当食材を使用するとその出荷元に収入がいくのである。結果として、みんなが食べた米の総量に応じて、売り上げは漏れなく農家に入るようになっているのだ。(※商品情報は動植物に吸収されると自動的に消去され通常の素子に戻る)
これらの理由によりリプリケーターで得られる食事は安い割に異様に美味しい。なにせ料理の食材は安いのに最高峰だし、料理にしても幾つか作った中から最高の一品だけが登録されているからだ。
以上のような理由で、infinityショッピングによる食品CM効果は瞬く間に知れ渡り、多くのスポンサーがinfinity放送で番組を造るように成ったのである。なにせinfinity放送は地方だけでなく、全世界の消費者に見て貰え、しかもその場で購入して貰えるチャンスがある。これまでは流通や交通機関の関係から地方独特のCMがあったが、どんな場所にも商品を売る事が出来る以上、地方オンリーのCMにする必要はない。スポンサーがinfinity放送につくのは当たり前である。
結果、スポンサーの大移動に釣られるように民放各局も地デジ放送に早々に見切りをつけinfinity放送への参入を決定したのだ。ただそのおかげで、食事に関係のないドラマにまでやたらと食事シーンがあったり、町の散策もやたらといい匂いのする商店街を通る話が増えたのもご愛敬である。もっとも、食品以外の商品についても全世界に向けての宣伝効果が高いのは言うまでもなく、今後も様々な番組が作られていくだろう。
ただ、このスポンサーの大移動により今現在の地デジ放送は、NHK以外は昼間でも何も放送していない局が多数ある状況だ。そして今、NHKはinfinity放送に参入を認められていない。NHKは公共放送と言いつつ料金を無差別に徴収する有料放送なのだが、この無差別徴収方式が問題らしい。NHKはスポンサーの意向を挟まない公平な番組作りのためとしているが、海外などのそう言った主張を目的とした有料番組はCATV等を通じ、番組視聴権を視聴者に個別に購入して貰う事で実現している。infinity放送の言い分は公共電波に無理矢理乗せた押し売り商法で料金を徴収するのはおかしいという理由だ。infinity放送ではもちろん番組毎や局毎の料金設定も可能であり、海外のその手の局は既にその方法でinfinity放送に参入している。料金形態を改めない限り、NHKの参入は認められないだろう。もっとも、今現在地デジTVを破棄する家庭も増えているのでこれも時間の問題と思われる。
とりあえず地デジの終焉については時代の流れとして仕方がないものとして、infinity放送について話を戻そう。
多くの民放がinfinity放送に移ってきたわけだが、私が特にお薦めしたいのは民放ではない。infinity放送におけるNHK的な存在、Dimension Media放送局、通称DMBだ。DMBでは宣伝CMは基本的になく、完全にDimension Corp.によるサービスによって作成されている番組群なのだがその番組内容の質は非常に高い。番組作りの傾向としては、知的好奇心をくすぐる物が多いのも私好みである。
例えば科学系番組だ。素人にも解りやすい量子力学の概論から、それらの実際の利用法と、それによって何が可能なのか等が楽しく解説される。まさに『夢を膨らませる』内容で番組が構成されるのだ。これを見たら『こんな事が出来るようになるなら、本格的に勉強してみようかな』と思う事請け合いである。もちろんそう思った人向けに、より専門的な教育が受けられる番組ももちろん用意されている。
動物系番組では例の説明会でも解説されたような、人間という種では理解できなかった生態も含め事細かに解説される。例えば『犬』を扱った番組では実際に犬がテレパシーによってどの程度のコミュニケーションを図っているのかを人間に解るように翻訳付でみる事が出来るのだ。またある一定以上のコミュニケーションを取れる種族に対してはスタッフによる動物への直接インタビュー等もある。これによって一部の動物がアイドル化したり、動物愛護団体が必死に訴える知的動物が思っていたよりも知性が無く、赤っ恥と成ったのも記憶に新しい。
尚、動物語翻訳については、追加で補助AIを購入する事で『infinity』ユーザーは自分のアシスタントを通し動物との会話も可能になる。動物学者にとっては全種類揃えたい所だろう。
ここで少し脱線して補助AIの解説もしておこう。アシスタントは個人個人で実はかなり能力に隔たりがある。本来ならプログラムなどが組めなさそうなキャラにまで優秀なアプリを作成できるのはこの補助AIのおかげである。アシスタントにとっては補助AIは各種便利ツールと言う位置づけで、アプリ作成の場合を例に挙げるなら、ユーザーの思考をアシスタントが読み取り、製作用補助AIの認識できる共通方式に翻訳して渡す事でアプリ生成を実現しているのだ。そのために一見プログラムが組めそうに無いアシスタントでも、補助AIのオペレーターとして全くバグの無いアプリが組めるわけである。本当に便利な世の中である。
ま、それはともかく、本題に戻ろう。DMBの最大の目玉番組は歴史系番組だろう。Dimension Corp.の技術を使えば過去の実際の映像をそのまま使用できるのである。説明会の話を信じるなら時間を最大50億年分遡れるシステムがあり、今の状況は40億年程遡った状態であるので、残り10億年遡れるとinfinityマニアなら自慢気に答えるかも知れない。が、実は単純に映像だけであるなら宇宙創生まで遡れるらしいのだ。
しかもその映像精度は其処にいる生物が何を考えているのか迄詳細に解るレベルらしい。
具体的には本能寺の変の意外な事実だったり、義経の八艘飛び、義経が大陸に渡ってチンギスハーンになった等と言った歴史的な逸話の検証から、歴史上傾国の美女と言われる人物の素顔や、過去に猛将と言われていた人間がどれ位強かったのか等、実際の映像をまじえて検証可能なのである。ただ、猛将の件などは超グロ指定であるので未成年は閲覧禁止だ。
だが、これによって自国に都合の良い歴史を教える国家や宗教の嘘も次々に暴かれる形になった。某国の件はあからさまなのでともかく、大抵の国や宗教は多かれ少なかれ都合の良いように歴史をねじ曲げ後世に伝えているので、問題は某国だけの話ではない。まぁ殆どの場合『過去の事ですし』と笑って誤魔化すしかないわけだが……
そう言う意味では某国で『infinity』が販売不可なのは某国からすると良かったのかも知れない。もし全ての国民が事実を知れば混乱間違い無しである。なにせお得意の情報統制はinfinity放送では不可能なのだから。
さて、察しの良い読者なら既に気付いていると思うが、この過去に起きた事を実際に見る事が出来る機能は犯罪の立証にも非常に役に立つ。実際の犯行現場の様子をその場にいるかのごとく検証可能な上に、その時にその場にいる人間が何を考えているのかすら丸見えなのである。ただし、現時点では法整備が整っていないためにこれを証拠として使用する事は出来ない。だが、法整備がすめばありとあらゆる冤罪や迷宮入り事件が解決し、汚職なども全て白日の下に晒される事だろう。
ちなみに現時点ではこの機能の使用は、DMB以外には認められていない。なぜならこれを誰でも自由に使えるようにすると、プライバシーの侵害等で多大な影響があるからだ。妥当な判断である。ついでに言っておくとDimension Corp.及びDMBに人間は所属していない。一応社長である神崎氏を人間と思うなら一人と数える事が出来るが、それを今更信じる人は居ないだろう。そしてその他のスタッフは全てinfinityヘルプアシスタントと同じ存在、通称『精霊たん』で構成されている。プライバシーに関しても知られるのが利害関係の薄い精霊たんなら安心である。もともと彼らには筒抜けであるのだし。ちなみに番組への要望は自分のヘルプアシスタントを通じて出す事が出来るので、知りたい事があったら要望を出すのも良いかもしれない。
さて、infinity放送についてはここまでとして、その他の事についても今日は幅広く取り上げていく。
リプリケーターの便利さは既に皆さんの知る所ではあるが、海外ではデレプリケーターの評価もかなり高い。日本でのゴミ出しは国が無料で回収してくれるのだが、海外では基本有料である。デレプリケーターはその名の通り物質を無に帰す方法でゴミ箱の変わりに『infinity』アプリとしてDimension Corp.から提供される有料アプリだ。
有料と言っても価格はゴミ箱を買うのと同じような値段だ。だがその機能は通常のゴミ箱を遙かに上回る。まず、ゴミの履歴が自動で保存される。保存期間は一年か、重さ5トンを超える迄であり、間違って何かを捨ててしまった場合、もしくは捨てた事を惜しくなった場合も、思考制御で検索に掛ければ直ぐに発見し取り戻す事が可能なのである。しかもゴミの分別などを考える必要は全くないし、ゴミ箱に入れた物を収集日を気にすることなく、即座に消去できるので生ゴミなども臭う事はない。当然溜まったゴミを集積場に持っていく必要もないし、なにげに便利なのである。実は私も各部屋に一つずつ設置してある程だ。
もちろん犯罪に悪用される事がないよう配慮もされている。違法性の高い物は自動で判別され、捨てた人へ警告がされたのち、場合によっては通報となる。もちろん通報の場合は捨てた物は証拠品となるのでその国の警察組織に通報と一緒に届けられる。Dimension Corp.の犯罪抑止規定は相変わらず徹底された物があるようだ。
さぁ、今日の記事は実はここからが本題である。ここまでの私の記事は『infinity』に対して比較的好意的な記事を書いてきた。実際に様々な点で便利になり私としても手放せない一品になったのは間違いない。
だが『infinity』の登場により、幾つかの業種は苦境に立たされ、場合によって壊滅的とも言えるダメージを受け、関係者とって全く先の見えない絶望的な状況に立たされている人達が居る。
最期に、これらの業種について取り上げ、本日の締めにしたいと思う。
壊滅的なダメージを負った業種は幾つかあるが、まずは通販業者だろう。通販業者と言えば尼村や濁点などが有名だが、これまでの通販の利点は家にいながらにして手軽な値段で買物が出来、わざわざ配達迄してくれると言うものだ。所がinfinityショッピングの手軽さはそれどころの比ではない。家にいなくても、出かけ先だろうが、空を飛んでいる最中だろうが、思いついた時、欲しいと思った時にその場で注文でき、その場で商品を受け取る事が出来る。これ以上の便利さはなく、今後通販業に関しては完全にinfinityショッピングの独占市場になることが予想される。その他の業者が逆転する可能性は全く思いつかない。
また、この便利さに派生する形で苦境に追い込まれている業種もある。コンビニエンス業界だ。コンビニエンスの利点は深夜でも家からちょっと出れば直ぐに品物が買えると言う利点なのだが、これもinfinityショッピングに敵わない。ただ、店舗で売るという行為は並んでいる品物を眺めながら買物をするという『買物の楽しみ』が在るため、需要がないわけではない。しかし、コンビニエンス業界の雄である老村がバーチャルコンビニをinfinityネットに出店し、一般店舗の縮小を発表した事で風向きが変化する。
バーチャルコンビニは行こうと思ったその瞬間に、仮想の老村に入店でき、今までの老村と同じように店内を歩き品物を選んでの買物が可能になり、実際に購入が決った時点で商品が実体化すると言う仕組みである。これはinfinity登場以前のWebサイトによるアフィリエイト販売としくみは同じだ。老村の手法は『買物する楽しみを提供する場』を提供する事で商品の売れる機会を増やす事を生産者に提案したわけである。もちろん老村はその為の手数料を生産者から貰う形で商売が成り立つわけだ。
だが、問題となるのは物理的な店舗を持つ今までのコンビニである。ほぼ一方的な本社側コンビニ契約解除によって多くの店がブランドのないコンビニエンスに成り下がった。訴訟問題にも発展しそうになので知っている人も多いのではないだろうか。
基本的にinfinityショッピングが便利すぎるが故に、コンビニに関わらず全国展開する大型ショップであってもinfinityネットに存在する仮想ショップに押され気味である。仮想ショップに対抗するには結局仮想ショップを立ち上げるしか無く、そうする事で仮想ショップ全体が更に便利になり、物理的な店舗がますます苦境に立たされるという悪循環と成っている。地方自治体によっては町ぐるみの楽しい商店街をキャンペーンに打ちだし客の呼び込みをしているが、何処まで成果が出るのか不透明と言わざる得ない。
次に紹介する壊滅的ダメージを受けたのは公共交通網や各種乗物業だろう。まず『infinity』ユーザーは空を自由に飛べる。これはかなり便利である。今現在、町に出れば直ぐに解るが、以前はあれだけ走っていた車を殆ど見かけない。今車に乗っているのは根っからの車好きぐらいであり、殆どの人は飛行によって移動するからである。
これは電車バス等にも影響を与え本数が激減している。なぜなら、電車に乗るよりも、バスに乗るよりも、車に乗るよりも、飛んだ方が圧倒的に早く着くのだから。生活補助システムによって雨であろうが全く問題なく移動できる事も大きい。公共交通機関でまともに残っているのは、新幹線や飛行機などの時速100㎞/hを大幅に超える乗物だけである。
公共交通機関以外でも、特に車に関しては見るも無惨な状態になっている。なぜなら、本来車というのは金食い虫なのである。ガソリン代は掛かるし、駐車場料金は掛かるし、保険代だって掛かる。それらが全く要らなくなるのだ。買物の荷物運びのためと言う役割も在りそうだが、ちょっとした買物であれば四次元トートバックで重さを気にせず買いにいけるし、それに入らないような大きな買物はそもそもinfinityショッピングで買った方が楽なのである。何しろ大物であっても全く運ぶ必要がなく、必要な場所に出現させられるのだ。今までのように車に入れ運搬し、家に着いたら車からだし、設置する部屋まで狭い廊下を汗水垂らしながら運ぶなんて真似は今となっては無駄だからだ。
すると車の利用価値が車好き以外にまるで見いだせない。結果として、中古車市場はあっという間に溢れ、現在では何処も買い取り拒否であり、うち幾つかは廃業を決定した。車を売れなかったユーザーは無駄に場所を取るだけの荷物に保険料払わなくてはいけなくなり、かといって車を処分するには高い廃車料が必要という状態に陥ったのだ。
ただ、この廃車問題に対しDimension Corp.は1台100円という超低価格で廃車請け負う事を決めたため、市場に溢れた廃車候補の車は瞬く間に姿を消し、自動車保険会社やガソリン業者を干上がらせる事になる。もちろん新規で車の購入を考える人間も殆ど居ないため、新車業界もお先真っ暗な状態だ。
上の記事でも少し触れているが、所謂流通業や問屋にもかなりのダメージを与えている。物を売るために運ぶという、今までは必須だった行程が一切必要なくなったからだ。そして一カ所に集める事で便利に仕入れをするという問屋業も、在庫がそもそも要らず、仮想空間でまとめて品物が選べる状況では必要ない。結局いま流通がまともに行えているのは個人向けの宅配だけなのだが、infinityでは個人向けメールで物理的な品物を送る事も当然可能なようで、これを解禁してしまうと流通業の仕事が完全に奪われてしまう事になる。
次に紹介するのは不動産業だ。仕事をするにはとても便利なタイムストレッチボックスだが、追加購入する事で部屋の拡張をほぼ無制限に行える機能によって、中型以上のアパートに住んでいた住人が次々引っ越す騒ぎとなった。かくいう私も一月二万円のアパートを説明会を受けた当日に契約し、正式発売と同時に自室の引っ越し作業を始め、11月一杯で以前のアパートを引き払っている。
タイムストレッチボックスがあれば、アパートがどんなに狭かろうと扉を置く場所さえあれば、広々とした快適な部屋を利用出来る。本物の窓がない事は少々難点だが、部屋内カスタマイズで仮想窓をつける事も可能で、外の景色も自由に選択でき、風も取り込む事も出来るためストレスは感じない。仮想窓は外に出る事は流石に出来ないのだが、全周を外の見える硝子張り状態にして露天風呂と同等の部屋にする事だって出来る。露天風呂専用部屋を追加設定している人も結構多いのではないだろうか。
そんな今居る賃貸料に関わりなく、豪華な環境で暮らせる事を知ってしまえば、中途半端に高い賃貸料を払ってアパートに住み続けるのはナンセンスでしかなく、少しでも賃貸料の安いアパートを求めるのは当然である。結果、大移動が起ったのである。
ただ、この動きにいち早く対応した地主もいる。コインパーク式駐車場から機械を取り去り、変わりに簡易郵便受けを大量に設置し、タイムストレッチボックス用の賃貸スペースとして格安で貸し出し始めたのだ。タイムストレッチボックスには扉から出てくるスペースさえあればいいので、かなり密集した状態でも扉を並べる事が出来る。一戸あたり月2万円の賃貸料であってもコインパーク駐車場よりも収益を見込めるわけだ。
こんな風に車社会の終焉を上手く利用した地主も居たが、一定以上の家賃を設定していたアパートの地主は今現在入居者が全く居ない状態もザラであり、これを解決するにはタイムストレッチボックスを多く受け入れるための改築工事が必要になってくるだろう。
さて最期の最期にもう一つ。壊滅的ダメージを受けた業種として、電力会社をあげておこう。天下りと隠蔽体質、詐称資料などで有名になった電力会社であるが、恐らく今、電力会社から電気を買っている人間は一人もいないだろう。何故なら永久コンセントが500円で購入できるからである。各部屋に1~2個買ったとしても大した値段にならない。買わない方が変である。ただ、PCやエアコンなどの電気を食う製品が必要無くなった為に永久コンセントは旧世代家電を使うために一応買っておく程度のものに成り下がっている。今日本で新規に販売される家電は全てDimension Corp.より提供された永久電池を搭載しているか、仮想物質で構成されている為そもそもコンセントが必要ない。日本から電線という物を見なくなる日も近いだろう。
ちなみに、先の地震による放射能汚染について何の責任も取らず、何もしてくれなかった上に、被害の補填を国民に払わせようとした電力会社だが、これについてはDimension Corp.が代わりに解決してくれた。今現在、福島の放射能汚染は一切ない。チェルノブイリについても同様で、放射能汚染は完全に除去され立ち入り禁止は解かれている。電力会社は永久コンセントによって強制的に操業停止追い込まれ壊滅的ダメージを受けたが、胸がすく思いを感じているのは私だけでは在るまい。
ただ、何の罪もない海外の電力会社も壊滅的なダメージを受けており、それに関してはお悔やみを申し上げたい。
尚、この世界的な電力会社の操業停止と車産業の廃業によって石油産業も壊滅的なダメージを受けている。CO₂問題的には化石燃料をほぼ使用しなくなった今の状況は喜ぶべき事だが、原油国にとっては死活問題である。今現在、石油を売りつける相手はDimension Corp.の製品が使えない某国しか無いのも気に掛かる。特に中東には過激な性質を持つ民族も多いため、一部で報復があるのではないかと噂になっており、注意したい所だ。
次回、サプライズ
やっと本題に近づきます。