散歩と喧嘩とホラー
僕と姉は今までいた家を離れ、小さなマンションを借りた。
夫婦とお邪魔虫の僕の三人の生活がスタートした。
一週間がたった今、僕は分かったことがある。
姉の旦那は性格がバカで、お調子者。でも、家事や掃除を手伝ったりもする優男。
本気で姉さんが好きで、そして僕とも仲良くしたがっている。
とりあえず害はない。
ということ。
僕は、ただ仕事で誰もいなくなったマンションで、一人何をすることもなく
ベットに転がった。
(明日から学校か・・・友達できるかな・・・)
そんなことを考えたら、なんとも心が重くなった。
現在の時間は16時37分。
後、30分もしない間に、
姉さんの旦那こと井上崇史さんは早番で帰ってくる。
はっきりいって二人で長い時間を過ごしたことがない。
正直どう話せばいいのか分からない。
気が重い。
そんな状況から逃げ出したかったのか
書き置きで「散歩してきます。」
と書き残し僕は、外へ出た。
どこへ行くわけでもなく、ただ歩いた。
学校からマンションまでの道しか分からない僕は、
学校の方に向かった。
これから嫌でも通る道の風景。
よく吠える犬や、人懐っこい猫。虫がたくさんいるであろう田んぼ道。
ジャングルジムや鉄棒などの、
遊び道具が一つもなく子供たちがサッカーをしている、
あまり手入れのされていない空き地。
どこから見ても、自然に囲まれていて、前いた街とは違い高層ビルなんてなく、
唯一見えるのは僕がいたマンション。
それほど大きいというわけでもなく、前のいた街と比べれば小さいマンション。
田舎だ。
しばらく歩いていると、制服を着た人を見かけるようになった。
制服を着た人たちの何人かは、見かけない顔で私服の僕を不思議そうに見ていく。
これ以上、人が増えて面倒なことになっては困る。僕は元来た道を引き返した。
僕の前を、制服を着た男、3人が歩いている。ズボンをだらしなく着て裾の部分はすり減っている。
一人は缶ジュースを片手に変な持ち方をして飲んでいる。
髪の毛が皆あざやかに染まりワックスでギトギトになるまで、つけてあり光って見える。
不良なのだろうか。
その割には見たところ学校に行っているようだし、タバコも外では吸っていないようだ。
そんなことより、後、10分もしないうちに家についてしまう。
もう崇史さんは帰ってきているだろうか。
不良の事よりもそっちが気がかりで、迂回しようか・・・と考えていた。
子供たちの遊んでいる空き地を横切ったあたりで、迂回しようと思っていた時だった。
空き地から勢いよく飛んできたサッカーボールが、前を歩いていた不良の一人の顔に当たった。
「ご、ごめんなさ・・・・い」おびえながらもボールを取りに来た少年が不良に言った。
不良は怒鳴った。
それですめばいいが、すむはずもなく少年の胸ぐらをつかみあげた。
少年は声をあげることもできずに、泣き始めてしまった。
今まで一緒にサッカーをして遊んでいた少年の友達も後ずさりして何も声を発さなかった。
僕は、見過ごすことも出来ず少年を掴んでいる男を思い切り、ぶん殴った。
転がり落ちた少年は道の端っこでただ泣きながらこちらを見ていた。
少年から僕へとターゲットが変わり、残りの2人が一斉に殴りかかってきた。
小さく「ごめん」と僕は言って、お腹に蹴りやパンチを入れた。
あっけなく倒れた2人を見て、僕は安心してしまった。
少年を助ける際に殴った男が起き上がっていたことに僕は今になって気がついた。
僕は遅かった。もう殴りに来ている一撃は覚悟を決めた。
その時だった。殴りに来ていた男の手が止まった。
男は僕を見て汗をふきだし、うろたえ始めた。
「あははー。喧嘩はだめだよぉ?」
僕の後ろから聞こえるのは聞き覚えのある声。
男がうろたえていたのは僕ではなく、その人であるのは明らかだった。
「泰地危なかったね。」
そして僕の名前を知る人は紛れもなく、姉の旦那の崇史さん。
仕事帰りなのか制服をそのまま着ている。
そう彼の仕事を警察官。
「ああ、崇史さん。今、帰りですか?」
「ああ、遅くなったね。バスに乗り遅れちゃって・・・ごめん。もしかして迎えに来てくれたの?」
「いえ、散歩してたんです。」
「なんだ少しショック。ま、いいや。事情は泰地から聞くとして、不良君。名前は?」
崇史さんは不良の方を見た。
男は仲間を捨て、走って逃げた。
身元などは倒れている彼らに聞けばすぐに捕まえられるので、崇史さんは追わなかった。
が
走って逃げた不良は僕が殴った時に足をひねったようで派手に転び、
恥ずかしさからなのか、足が動かないのか、彼は動こうとはしなかった。
後は、崇史さんが電話でパトカーを呼び、僕に事情聴取をして
到着した警察官に対処は任せ、ともに帰路についた。
家に着くと崇史さんは、僕を怒った。怒り方は優しかったが怒っていた。
勇敢だったけど、止める前に殴ったこと。
僕がもしもあの喧嘩に負けていた時のこと。
それだけ怒るといつもの崇史と変わらなかった。
「すいませんでした。ご飯作るんですよね?手伝います。」
「もう謝らなくていいよ。今から僕の大好きな生姜焼きと泰地の好きなマカロニグラタンをつくるよ!」
そう言うと器用に作業をする崇史さんに習って、
自分でもやってみるが、中々うまくはいかず、僕は少し崇史さんを見直した。
ご飯をつくり終えると
「もうすぐ、莉子(姉:リコ)が帰ってくるよ!お腹空いたね。ご飯作ったし一緒にテレビ見よう?」
僕は崇史さんの隣に座り、何見るんですか?と尋ねてみた。
「今日ね、ホラー映像ランキング100やるんだ~一人は怖いし、莉子遅いし、莉子ホラー苦手だし、泰地と一緒に見ようと思ってたんだぁ。」
楽しそうに崇史さんは言った。
僕はホラーに興味がなく姉さんが苦手だったため一度もホラーを見たことがない。
「あ、泰地はホラー大丈夫だった?」
番組をつけるまえに思い出したかのように崇史さんは言った。
「見たことがないので、多分大丈夫だと思いますけど。」
僕がそういうと見たことないことに驚いて騒いではいたが、時間がきたのかすぐにテレビをつけた。
不気味なBGM。叫び声。それに見合った迫力のある映像に僕は驚いた。
鳥肌がたち、肌寒くなり、少し崇史さんの方に寄った。
今は梅雨。寒くなるなんてことはなかったのだが、身体の震えはとまらず、映像に魅入られ、
ランキングが上位になればなるほど、崇史さんに近寄った。僕はホラーが怖い。苦手なことを学んだ。
10位になる前に僕は知らない間に崇史さんにしがみついてた。
流石のこれには驚いたのか、崇史さんは僕を見た。
僕を見ながら崇史さんは、優しそうに、にこりと笑うとすぐに意地悪そうな笑みを浮かべた。
「泰地?テレビ変えようか?充分楽しんだし。」
この時、僕は嬉しかったが、見たいと言った崇史さんが見れなくなるのは少し気が引ける。
なので、僕は遠慮してしまいでた言葉が
「え、いいんですか?ラストですよ?」
だった。
「変えてほしいって顔してるよ?ほんとの事言ってみなよ。」
崇史さんは僕がホラーを好きではない事を理解したらしい。
ここまできたら大丈夫ですとじゃ言えなかった。
「か、かえてほしーです。」
そういうとまた、意地悪そうな笑みを浮かべた崇史さんは、とんでもないことを言った。
「そっか、じゃ、敬語とったら変えてあげるよ?」
そう年もだいぶ年上だし、姉さんの旦那さんだし、敬語は取れない。
かと言ってホラーからは逃れたい。違う部屋に行くなんて一人でなんて無理だ。
ヘタレな自分に悲しくなった。
「さ?どおする泰地?」
そういうとテレビの音量を大きくした。大音量でホラー。
僕にとっては地獄だった。我慢出来なかった。
ニコニコ笑う崇史さんに負けた僕は言った。
「わ、分かりました。敬語をとりますよ(慌」
そういうと崇史さんは音量を戻し、「敬語。」
と一言言った。「分かったっ!敬語取るよ!崇史さん(汗」
そういった途端にチャンネルが変わった。
崇史さんは凄く笑顔で僕の頭をなでて
「やっと、はずれたねぇ~。上出来上出来。普通に言っても取ってくれなさそうだったから意地悪しちゃったね。ごめんね。」
僕は少し恥ずかしくなって目をそらした。
そんな僕をみて崇史さんは笑った。
すると玄関からガタガタっと音が聞こえた。
「ただいまぁ~」
姉さんが帰ってきた。
現在時間は20時ちょっと。
「莉子、おかえり。さ、ご飯温めて皆で食べよう?」
「うん。先に食べてても良かったのに~。おなか減ったでしょ?」
姉さんは電子レンジのボタンを押しながら言った。
その後は、皆でご飯を食べている途中に
今日あった全ての出来ごとを洗いざらい姉さんに伝えられ
少し恥ずかしかった。
「でも、泰地。小さいころから空手や合気道とか習っててよかったわね。役に立ったじゃない。」
「うん、そだね。」
「明日学校だったわね。早くお風呂入って寝ちゃいなさい。」
「分かった。」
そうして僕の一日が終わった。