~Episode8 再戦準備~
「じゃあちょっと早いが、聞かせてもらおうか」
魅蓮は僕の方を向いて真っ直ぐ瞳を見ている。いや、「見ている」という表現では甘いかもしれない。「貫いている」という表し方の方が適切だと思う。
……これは、ダメだな。
きっとこの人には嘘を言っても瞬間的にバレるだろう。どんなに口が上手くても、心底そう思っていなければ、ダメだ。意味がない。本心を言うしかないだろう。
…正直ずっと見られてると、僕の意思が揺らいでいく。何かこう、僕が決めた事は僕が本当に心からそうしたいと思っているのか、その辺りが不安になっていく。でもここまできたら言うしかないだろう。
僕は決心をして、魅蓮の視線に合わした。
「僕は、魅蓮の言う事が正当であると思う」
静かに魅蓮は僕の言葉を聞いて、なおも視線を僕から外さない。僕も対抗するように視線をずらさず、言い続けた。
「けど、『正当』が『正解』であるとは思わないし、矛盾するかもしれないけど『正解』があるとも思わない」
「…だから?」
魅蓮は挑発的な顔に変えて、挑発的な言動をとった。僕は何かの説明をするかのように淡々と語る。
「僕はゆえに魅蓮、あんたのいう事を否定する。『逃げ』とは大切な事かもしれない。あんたは、時には『逃げ』る事で助ける事が出来ると言った。じゃあその後に襲われる人はどうなる?」
「………まぁ、襲われる側の力量によるが、死ぬかもな」
「…それは『助けた』事になると僕は思わない。僕には護りたいもの全てを護りきる力は無い。でも僕はあえてこう言いたい。『全てを護る』。『力が無いから』というのはそれこそ自分に対する言い訳だろ」
「だが、力が足りなければ、煤良木、お前は死ぬかもしれない。死んだら元も子も無いだろう」
「死なない」
「何を根拠にそんな事を言っている?そんな意思は圧倒的な力の前に、あっさり崩れ、壊れる」
「僕は紅葉がいるかぎり、絶対に死なない。死ぬ気は毛頭無い。それにあんたの言う通り、このままでは確実にただの『理想』で終わる。だから僕はあんたにこう言いに来たんだ」
僕は目力を込めて、魅蓮の目を見続ける。そしてはっきりと言った。
「僕は目の前にいる人だけでなく、全てを護りたい。だけど、その力が僕には無いのは自分でも重々わかってる。だから魅蓮、僕はあなたにそれができるだけの力を欲する」
…魅蓮は笑っていた。いや微笑んでいた?「笑顔」とは言い難いが、その顔は笑っているようでいて、微笑んでいるようでいて、今まで僕には現していない、もしくは表に出していない感情で、表情だった。
「その考え方を貫くのは大変だぞ?」
「わかってる」
魅蓮はまたしてもクスリと笑った。
「それでも自分が非力とわかって、そのために私に頭を下げた事はまぁ良しとしておこう」
「じゃあな」
振り返って歩き出す。
「お、おいっ」
僕が呼び止めようとすると、魅蓮はとんでもない事を言った。
「Return to an early favorite person's place.」
姿が消える間際に流暢な英語で僕にそう言い去った。結構とんでもない事を言っていたのだが、到底僕なんかが理解できるわけも無く、「は?」と返答するしかなかった。
「はぁ~疲れた」
「あっ、集。おかえり」
僕は精神的に疲労しまくっていたので、ゆっくりと病室のドアを開け、のろのろと歩き、覇気がまるで感じられない声で返答する。
「……ただいま」
そのままベッドにダイブする。冷やりとした感覚が全身を包み、それをひしひしと肌で感じながら一息ついた。ダイブした影響で傷が痛むのではないかと懸念していたが、その時はそのような事も無く、ケガが治りかかっている事を実感させた。そのまま、僕は時間を忘れるほど、何も考えずにうつぶせていた。
僕はそのまま寝てしまっていたらしく、初めて魅蓮に会った時に教えてもらった「ソート・リンク」についての内容を思い出していた。
『先に言っておくと、能力、つまり異能だな。そのようなものは、大抵ただでは手に入らないし、無限にホイホイと使用できるわけではない。全ての物には「等価交換」とは言わないが、それだけの代償やリスクがある』
『…と言うと?』
『能力がいいものとは限らない、って事だよ。例に挙げるとそこにいる鮮紅の力「無限の具現化」。これは鮮紅が想像した物が創造されるというメリットがあるが、代わりに「その創造物が複雑、又は大きければ大きい程、脳に多大な負荷をかける」というリスクがある。これは下手をすると脳が耐え切れなくて死んでしまったり、感情がおかしくなったり、記憶が混線してしまう可能性がある、とんでもない力だ。こんな感じで絶対に代償やリスクはついてくる。そのせいで人生が大きく変わってしまう事もあるんだ。わかるな?』
この時、魅蓮は何か遠い顔をしていた。その意味をこの時の僕は知らず、気にも止めなかったのを覚えている。まぁその事を知る事になるのはもっともっと先の事なのだが。
『煤良木、力と言うのは大き過ぎても、そんな力など意味も無い。この言葉を覚えておけ』
…こんな事言っておきながら、結局その後に僕は魅蓮にナイフを突きつけられることになるのだけれど…………。
…僕は、さらにテツ先輩に教えてもらった敵の情報を思い出していた。
『あいつの名前は諷刺優里。数値(能力の強さを数字で表したもの)は四万二千五百十三。身体能力は特に足の数値が高いが平均は五百三十一だと。これは半年前のデータだから今はわかんねぇけど』
テツ先輩はデータが書いてある紙を僕に放り投げる。僕は受け取り、目を通しながら会話を続けた。
『確か、能力は二万前後、身体能力は三百前後が平均でしたよね』
『あぁ。煤良木、見ればわかると思うが身体能力自体は大した脅威にならない。スポーツ選手ともなれば、五百五十くらいはある。オリンピックに出るような選手だと七百近くいく奴もいるからな。問題は能力だろ。奴は「風神」の名を持ってる。「神」の名だ。そんな異名を持ってるんだ。とんでもないのは間違いないだろ』
僕はそのまま目を覚ました。あまり寝ていた感覚が無く、起きる時もすんなり起きる事が出来た。隣を見ると紅葉はまだ寝ていた。無理もない。まだ日も登り始めたばかりで、まだ病院も夜の闇に包まれていた。
プロスポーツ選手が七百、ね…。
僕はテツ先輩からもらった紙に目をやった。紙に書いてある人物の足の所には「762」と表示されていた。
いかがだったでしょうか?今回は普段より短めなので早く投稿する事ができましたっ!
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