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~Episode7 戦闘意識~

「えっ…」


 目の前には(あおい)先輩と、文寺(ふみでら)、いやテツ先輩の背中があった。碧先輩は僕の元へと駆け寄って来る。

(しゅう)君、ここは逃げるわよ。あなた、能力のおかげで少し治癒はしてるけど、このままじゃ出血多量で死んでしまうわ」

 そういって僕を抱きかかえる。いわゆる「お姫様抱っこ」だ。本来なら照れながら、「胸がッ、胸が当たってるッ!」とでも思う所だが、僕は致死量に近い量の出血をしていたらしく、そんなことを考えてる暇も無かった。それでも力を振り絞って、碧先輩に訴えかける。

「ま、まだ紅葉(くれは)が…、碧先輩ッ、まだ…まだ紅――――――」

「大丈夫だから。文寺君がなんとかしてくれる。だからあなたはもうしゃべらないで」

 僕の言葉は碧先輩に遮られる。


 …そして僕の意識はそこで途切れた……………………………………。






「……く…、………んっ!、しゅ…く…っ」

 ん?なんだ?誰の、声だ…?僕は…あの後…、あの後?あの後って?……………っ!

「あっ!」

「わっ!」

 僕は倒れる直前の事を思い出し、急いで上体を上げる。それに対して目の前にいる碧先輩は驚いて少し椅子ごと後ずさりしていた。

「うっっ!」

 意識が覚醒した途端、右肩に激痛が走る。

「ほら、まだ寝ていないと」

 碧先輩が右手で僕の背中を支え、左手で僕の右肩を持ち、つまりは少しばかり覆い被さる様にして僕をベットに寝かせる。

「あの、ここは?」

 僕は落ち着きを半ば取り戻し、この状況の確認をする。

「市内の病院。隣に紅葉ちゃんも寝てるわ。良かったわね、一緒の病室で♪」

 碧先輩はいつもの調子で別段慌てた様子も無く淡々と続けた。

「さっき(こう)にも伝えたからもうすぐ来ると思うわ。でも」

 碧先輩は人差し指で僕の額を軽く突っつく。

「集君、あんまり無理をしたらいけないわよ♪」

「は、はい。……………で、でも先輩ッ!」

「わかってる♪でも危険だったんだから、今度から気を付けなさいって事♪」」

 碧先輩は僕に向かって微笑む。

「あ、あと質問なんですけど…」

「なあに?」

「なんで魅蓮(みれん)の事知ってんですか?」

 しかも苗字じゃなくて名前だし。

「う~ん。それはね~―――――――――」

 碧先輩が顔を上に上げて少し困った顔をしていると、


「――――私が説明する」


 魅蓮が扉を開け、碧先輩の言葉を続けた。

「碧、ご苦労。もう帰っていいぞ」

「私を顎で使って…。友達なのにぃ…」

 碧先輩は頬を少し膨らませ、皮肉のように言った。

「悪かったって言ってるだろう。お前の方が近かったんだから仕方ないだろっ」

「はいはい。わかってます♪じゃあ先に御暇しますっ。お大事にね集君っ♪」

 碧先輩はそう言って、病室を去った。

「おい」

 魅蓮が、さっきまで碧先輩が座っていた椅子に腰かけたかと思うと、僕の方を向き低い声で言った。

「なぜ逃げなかったんだ?」

 鋭い目つき、僕は初めて魅蓮の本気と思われる殺気を感じて、竦みあがっていた。

「そ、それは紅葉をっ―――」

 奴が傷つけたからっ!と言おうとしたら、魅蓮は食い気味に僕の言葉に反論をする。

「鮮紅を言い訳にするつもりか?私は『逃げろ』って言ったよな」

「くッ」

 僕は言い返せなくて、視線を落とす。そこには能力のせいか何かで筋肉痛になり、全く脳の命令を受け付けない肉塊があった。

「死にたかったのか?それとも鮮紅(せんこう)にかっこいいところでも見せたかったのか?勝てると思ったのか?マンガみたく、能力がいきなり完全にコントロールできたり、必殺技でも生まれるとでも思ったのか?まるで子供だな」

 魅蓮は僕を嘲笑うかのように言った。

 僕は、僕は…ただ、紅葉を護りたかっただけなんだ……。

 そんな僕に魅蓮はトドメという名の「追い打ち」をかける。いやこの場合「ダメ押し」なのかもしれない…。


「いいか、お前がした事は、さらに|鮮紅を傷つける《・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 》事だったんだぞッ!お前が勝てもしない勝負をしたから鮮紅は戦う事になった。煤良木、|お前のせい《 ・ ・ ・ ・ ・ 》

でだッ!良く聞けよ。『助ける=(イコール)相手を倒す』じゃない。倒す必要の無い敵は倒さなくていいし、倒せない敵だったら逃げる。それが当たり前だッ!その行為を『逃げ』だとか『情けない』と思ってる奴はただの阿呆だ。お前がした行為は『自己満足』だ。自分が『戦う』事によって、自分は鮮紅を助ける努力をした。そう思いたかっただけなんだろ」


 魅蓮は僕を切り捨てた後、「以上だ」と言い、病室を出て行こうとする。ドアノブに手をかける。開ける直前

「治ったら、一回事務所に来い。お前の『考え』を聞こう」

 …そう言い残して。




 夕方にはテツ先輩がやって来た。先輩は1,5リットルのジュースを何本か持って来て、昨日の僕の意識が無くなった後の事、紅葉の傷は想像以上に悪くて退院するにはもうしばらくかかるという事、さらには僕達が戦った相手の事。先輩がASGに入る事になった経緯、たくさんの事を話した。最後に先輩はテンション高く、

「また殺しに来ると思うけどそんときゃ俺が守ってやるさっ」

 そう言った。僕は自分の非力さを唇で噛みしめて「はい…」としか答えられなかった。

 その夜僕はほとんど眠る事が出来なかった。動けば傷が痛み、それは同時に僕の心も傷つけてとても眠る事の出来る心境ではなかった。


  …そしてその日、紅葉が起きる事は無かった。





 まぁ、いくら寝つけられなかったとはいえ、夜明けくらいにはゆっくりと意識が薄れていった。現在AM8:53、僕はゆっくりと体を起こした。

 目の前にはとにかく「白」ばかりで、白い天井、白衣を着た人々、白い治療器具、色がついているとしても、貧相な病院食だけ。プラス慣れないベッドで寝たせいなのか感じる微妙な違和感。朝の病院というのはまた昼とは違い、僕は別世界に放り出されたかのような妙な感覚を味わう。

「痛ッ」

 そんな僕を、やっぱり傷口の痛みが現実に引き戻す。

「あ、集っ」

「ん?」

 僕は目を擦り、訝しげに声の主を探る。瞬間僕の目が見開いた。

「紅葉っ!起きたのかっ。…痛ッ!」

 驚いて、僕は自分のベッドから乗り出す。当然ながら痛みが僕を襲う。紅葉は不思議そうに僕の様子を窺う。

「『起きた』?『起きてた』じゃなくて?」

 ……紅葉からの当然の指摘。まぁ無理もない。丸1日寝ていた事なんて本人にはわからないんだから。

 そ・れ・よ・り・も!僕「紅葉が起きる事は無かった」なんて意味深な事言っちゃったよッ!起きたのはいい事なんだけど……。なんかこう………………もういいや。

 僕は数秒間複雑な、変な感覚に苛まれ、結局、表現する事を諦めた。

「そ、それよりもっ、ケガは大丈夫なのか?」

 テツ先輩にはかなり抽象的にしか教えてもらってないので、傷の具合を聞き出そうと試みる。

「…うん。大丈夫」

「良かった~」

 見た感じでも目立った外傷は無く、僕はほっと一息つく。この病室では窓が開いており、桜の甘い臭いと、初春の心地よい風が僕の頬を撫でる。こうしてゆっくりと話す事がとても久しい感じがした。

「昨日は気付かなかったけど、この病室ってたくさんベッドがあるのに、使ってるのは僕と紅葉の2人だけなんだな」

 部屋には8つのベッドがあり、僕は窓際でその隣が紅葉だった。「日本人は広いところより少し狭い方が安心する」とどこかで耳にした事があったが、どうやら本当らしい。広すぎる病室は僕達1人1人の言葉を復唱するかのように響き、少し落ち着かなかった。

「集は私と2人は…嫌?」

 例によって紅葉は首をかしげる。

「い、いやっ、いやいやいや、嫌な訳ないじゃん」

 …ただ変に緊張してしまうだけで。

「というか、家から病院に場所が変わっただけでしょ」

 僕はとにかく必死で紅葉に、いや自分に言い訳をしていた。…まぁ「だけ」では無くて、かなり変わっているんだが。

 例えば服装。入院しているから病院服なのは当たり前なのだが、やっぱりどんな質素な服でも超絶美人が着ればものすごく映えるわけで、つまりはもうドレスみたいな感じ。決して過剰表現ではなく。詳しく言ってしまうと服は浴衣のような前で2重に重ねて止めるタイプのもので、さらに鮮葉は裸(少なくとも上の下着は着けていない)の上から着ているみたいで、その女性特有の膨らみが本来見えてはいけないレベルまで見えていて、退院するまで理性を保てるかの方が不安だった。

「と、とにかく」

 これ以上この話をすると、僕の中で取り返しのつかない事を考えそうだったのでわざと大げさ咳払いをして話題を切り替える。

「それは置いといて、先日の件なんだけど――――――」


「…うれしかった」


「え?」

 唐突に僕の脳に響く感謝の言葉。その言葉に僕は驚きの色を隠せないでいると、紅葉はそのまま言葉を紡ぐ。

「…私はいつも、依頼を受けて『お金』という代償を受けて人を護っていた。昔も道行く人は私を憐みの目で見るだけで、結局はそれだけ。これまでの人生で『護る』事はあっても、『護られる』事は無かった。……だ、だから」

 紅葉は少し俯いていた顔を上げて微笑む。そこには感情の赴くがままに笑う紅葉の顔があった。普段からそんなに大胆に表情を変える事は無いので、まだぎこちない感じはどうしてもあるが、決して「微」はつかない、笑顔が僕に向けられていた。

「うれしかった。お金とか何も関係なしに私を護ってくれた事が。…………集」

 優しく問いかけるような口ぶりで僕を呼ぶ。

「何?」

 紅葉はゆっくりと息を吸い、言い放つ。


「ありがとうっ」


「…うん。どういたしまして」

 普段より少し高めの声で、なんなら「♪♪」とつけても良いような、とても真っ直ぐで、素の発言。その言葉は僕の体に染み渡り、人生で初めて、本当の「感動」を味わったような気がした。いや「気がした」じゃない、僕はこの時に初めて「感動」の感覚を知った。

 その言葉をしっかりと胸に刻んだ後ゆっくりと上着を手に取り、袖を通す。

「…どこかに行くの?」

 紅葉は僕の傷口を見ながら僕に問う。

「ちょっと、ね。すぐに戻るよ」

 僕の傷では本来は外出禁止レベルで、医者に止められている。病院の関係者に見られると大変面倒くさくなるので、慎重に見定め、病室を抜け出す。

 あとは敷地外まで突っ切るだけだっ。そうすれば事務所まで行ける。魅蓮に、言える。

 僕は走り出そうと、足に全神経を集中し、スタートダッシュを切った。


「私に用があるんだろ。煤良木」


 病院の門の所に、壁に背中を預けて腕組みをした魅蓮がいた。当然僕はつんのめりそうになる。

「み、魅蓮ッ。なんでここに?」

 魅蓮は腕組みを止め、僕の前に立つ。

「ただの見舞いだよ」

 魅蓮は僕に向かってニヤリと笑う。

 絶対嘘ついてるだろ。顔が全力で「嘘」って言ってるしッ!………はぁ。全部見抜いてたのか。僕がこのタイミングで来る事を、そして僕が自分の答えを掴んだって事も。

 瞬間的に考えて、僕はあえて嘘に乗って話をする。

「見舞いに来てくれたんですか。ありがとうございます」

「あぁ。これ、受け取れ」

 魅蓮は花束を投げてくる。かろうじてキャッチすると少しだけ花びらが舞い、僕を魅せる。これは……ゼラニウム?

「これ…。ゼラニウムですよね?」

「よく知ってるな」

 なんでゼラニウムだけ?…いやもちろん綺麗なんだけど………。

「花言葉はわかるか?それはゼラニウム。花言葉はいろいろある。『慰め』『真の友情』、『愛情』、それは黄色だから『偶然の出会い』っていう意味もある。が、私が言いたいのは――――――」

「――――『決意』」

 僕は魅蓮の言葉に続けるようにして言った。その言葉を聞いて、少し驚いた顔を見せたかと思ったらまたニヤリと笑った。

「ふんっ。わかってるじゃないか。いちいち説明させるな」

「たまたまですよ」

 数日前にドラマで見たというホントの偶然。確かその時は『愛情』って意味で使ってたっけ。

 魅蓮はもったいつけるように、というか正直超極悪人のような口調で言った。


「じゃあちょっと早いが、聞かせてもらおうか」



 あぁ~小説書くのは好きだけど、疲れました~。僕がまだ学生という事は言っているとおもいますが、最近は友と遊ぶ事も多く、カラオケに行ったりして帰って爆睡してしまうこともしばしば。自分で「3日以内に更新しよう」とルールを決めていたのですが、もう遅れてしまいました…。

 こうなったら「2本を1日で書いてしまえばいいじゃないっ」的な感じの、いわゆる「挽回」をしようと思うのですが、やっぱりそこは現実という壁があってなかなか。

 これからも、せめて高校に入る前までは「ルール」を守りたいですね…。

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