~Episode5 不協和音~
紅葉と同居し始めて早2週間が経った。そして僕は改めて感じさせられた。
「学校のネットワークって怖いな……」
同居初日、僕達は同居する事を隠していこうと決めていたのだが、早くも疑われる羽目になった。当然翌日から質問攻めに合った。僕と紅葉は二人別々に行動し、極力二人での会話も避け、これ以上の情報の流失を抑えようとしたのだが、逆にそれが仇となり、結局大事になり、さらに話がどんどん膨れ上がり、真実を捻じ曲げて広がっていった。
…そして現在、もう半ば諦めて僕は紅葉と共に登校している。なぜなら少し小耳に挟んだ話によると、「僕が紅葉のHな秘密を握りそれで脅して同居したりおもちゃにして遊んでいる」という話になっていて、取り返しのつかないことを悟ったからである。勘違いも甚だしい。しかしそうあきれて済む問題でもないのだ。事情を話した数名の友を除き、僕は学校全体から如何わしい目で見られる事となった。ちなみに「学校全体」という所がみそだ。元々先生からよく思われていないがために先生にも何度も呼び出され、怒られた。紅葉も呼ばれたのだが、性格上あまり強く言えないので意味がない。そして今僕は紅葉と共に生徒指導室に怒られに向かっている。その足取りは足にまるで100キロの重りを着けられているかのように重い。
「こんなことでまさか学校全体の事になるなんて…」
僕は頭を抱えながらそう言った。
「もう23回目だッ!あのアホ教師、こっちの言い分も聞かねぇし、もう疲れた…」
「大丈夫?集」
紅葉が背をさすってくれる。紅葉がいなかったらもう僕死んでるんじゃないかなぁ…。あ、でも紅葉がいなかったらこんな事にもなってないのか…。
「何か私にできる事、ある?」
紅葉が顔を覗き込んでくる。
「うわぁ!」
近い近い近い近い近い近いッ!ぼーとしていて半ば考え事をして床ばかりを見ていたので突然整っていて目鼻だちの良い美少女の顔が視界いっぱいに広がり、素っ頓狂な声を出してしまった。まだ免疫がついていない証拠だ。早くしないと違う意味で僕が壊れてしまいそうだ。
「え?い、いいよ。大丈夫」
僕は苦し紛れにそういい、全力の作り笑いをした。
「……わかった」
紅葉は作り笑いなどの僕の演技をわかっていた様子だったが、僕の意図を察してくれたようで素直に返事をしてくれた。
「おいこら煤良木ッ!お前なんで呼ばれたかわかってるよなぁ。自分で言ってみろッ!」
「…僕が鮮紅さんを脅したからです……………」
鼓膜が張り裂けそうな声で怒鳴ってくる先生とは対照的に僕はボソボソとふて腐れたように言った。
「なんだその態度はッ!何度も何度も言うようだがなぁ、お前反省しているのかッ!」
「していません」
先生の質問にこれ以上ないくらいはっきりと答弁する。
「煤良木ィ…お前脅された奴の事を考えてみろッ!」
………お前は全くの冤罪で怒られてる奴の事を考えてみろッ!とそう叫びたい気分だった。が、当然そんな事を言えるわけもなく、静かに下を向いて黙っていた。
先生は紅葉の方に向きを変え、優しい声で言った。
「鮮紅、お前も辛かったよなぁ」
「い、いえ先生。別に私…煤良木君に脅されてなんか…………」
先生の言葉に紅葉も言葉を返し、否定しようとするが、
「鮮紅、正直に言っていいんだぞ」
…………取り合ってもらえない。
「煤良木ッ!お前を今日こそ反省させて更生させてやるッ!」
今日も部活に参加できそうもないな…。まだ4時なのに僕はそう確信していた。
「今日はこの辺にしておいてやるッ!頭を冷やせッ!」
午後8時。ほとんどの部活は終わり帰ってしまっている時間。僕はガンガンとなり響いている頭を押さえて歩き出した。すると
「よっ!冴えない顔してどうした?」
…元気が校門で待っていてくれていた。ホント友人は心の支えになるなぁ。
「また怒られたのか、ま、いいけどさ、たまには部活に来いよ。碧先輩も待ってるぜ」
「…………………………あぁ」
「おい、大丈夫か?顔がやつれてるけど」
「大丈夫大丈夫」
そう言っている僕の顔は健康とは正反対にあるような「ザ・不健康」面だったらしい。
「それより…僕と紅葉の噂って今どうなってんの?」
すると元気は苦々しい顔付きで「それ聞いちゃう?」と言い、紙とペンを取り出して説明を始めた。
「まずこれがお前と鮮紅。でこれが謎の男A。ちなみに男Aは超イケメンって設定」
…いつの間に一人増えたんだよ……
元気は一通り紙に書き終えて説明を再開する。
「男Aと鮮紅は元々付き合っていて子供ができていた。その事実を鮮紅も男Aも周囲に黙っていたのだが、たまたまその二人が会っているところを集が目撃。集は写真を撮り、数日後に鮮紅に接触し、脅迫。そのせいで子供は流産させられ、今度は集が毎晩鮮紅に孕ませようとしているって感じなんだけど、って集ッ!?」
「…………………ぇ、何…………?」
僕はもうツッこむ気すら完全に失せていた。が、それでも必死に少しだけ心の中で叫ぶ。
………………………これじゃ僕完全に犯罪者じゃないかっ!
「まぁ気を付けろよ。警察事になると面倒だぞ」
「…どう気を付ければいいんだよ」
「さぁ?」
……………………おい。
「ま、なんかあったら俺に言えよ。俺は一応事情を知ってるわけだし、協力できることならなんでもするから」
「あぁ」
「じゃあな、また明日っ!」
「おぉ」
僕は軽く手を振る。その手にはもはや余力が全く無いことをまじまじと感じさせられた。
翌日。目を開けると、そこには紅葉が寝ていた。紅葉はいつものようにパジャマ姿だったのだが、寝ていたので服がはだけて、その、なんというか、し、下着が見えていた。しかもほぼ体を密着状態なので、女の子特有のほんのり甘い匂いが僕の脳いっぱいに広がり、理性を溶かし始めていた。
「うっ、ううん」
全ての動作が僕には耐えがたいもので、艶めかしい声を上げ、寝返りした時に肌と肌が擦れ合った時は僕は色んな意味で昇天してしまいそうになった。
「んっ…あ、おはよう」
紅葉が目を開けて僕に挨拶をする。うん、挨拶する事は良い事だ。…じゃなくてッ!
「なんでここで寝てんのッ!」
紅葉はゆっくりと起き上がる。乱れた服がさらに僕をドキドキさせた。
「一人じゃ…眠れなくて…」
「うっ」
紅葉はそう言いながら僕と目を合わせる。緊張もするし、彼女の境遇からも僕は何も言えなくなっていた。
「…はぁ、まぁいいけど。今日は土曜日だろ、紅葉はなんか用事あるの?」
時計の針は9時を指していて、今から出かけるとしても10時を過ぎることになるが、僕は用事が無かったので、何か手伝う事が無いかという疑問も込めて尋ねた。
「今日は魅蓮に呼ばれてる。集の事について」
「僕の?」
「うん。だから集も来て」
「え、別にいいけど…」
紅葉と出かけるのはうれしいんだけどなぁ。魅蓮には会いたくないなぁ。あの女苦手っていうか、好きじゃないしなぁ。
「……う、集っ」
「…………………何?」
「集が上の空みたいだったから」
「あぁ、ごめん。で、何?」
「今から朝ごはん作るから、集は準備してて」
「うん、わかった」
僕は紅葉が出ていくのを目で見送った後、横にかけてある服を手に取った。
「じゃあ、行こ」
「う、うん」
AM10:13、僕と紅葉は朝食を済ませ、家を出た。
紅葉の私服はこの2週間で何回かは見た事があったが、何度見てもまだ慣れなかった。
僕は主に制服か、パジャマ姿しか見ていないのでまだまだ私服姿は新鮮だった。
紅葉は顔もスタイルも抜群に良く、センスもかなり良いので、自分に合った服をしっかり着こなしている。なんだかモデルのようで、隣にいる僕は自分の服装を見て溜息をついた。いや決して僕の服装がダサいわけではないのだが、比べるともうなんというか「惨敗」
という感じで、別に争ってるわけでもないのに妙な敗北感を味わっていた。
「なぁ、あの子チョーかわいくね?」
「うわホントだ。スゲーなモデルみてー」
「隣にいるのって連れ?」
「うわ合わね~」
「釣り合わねぇだろ」
ただ道端を歩いているだけなのに、あちこちで会話の対象になっていた。こっちはもう辛くて辛くてここから急いで逃げ出したい気分なのに紅葉は全く気にしていないようで、スタスタとスピードも変えずに歩いていた。
「な、なぁ紅葉?」
「…なに?」
いつものように首を少しかしげて聞いてくる紅葉に、内心ドキドキしているのを、なんとか理性で押さえつける。
「気にならないのか?」
僕は目線を周囲に向ける。
「全然」
紅葉は全く迷った様子もなく言った。
「ならいいんだけど」
…正直僕が気になるし、大丈夫じゃないんだが。
その後も非常にそわそわした気持ちで数分間歩いていたら、見覚えのあるビルの前に着いた。
…ここに来るのは2度目だな………………さて、どういう態度をとろうか……………?
僕は心底どうでもいい事で悩んでいた。まぁ実際、前回は微妙な感じで出てきたから魅蓮に敬語でいいのかタメ口でいいのかが悩めるところなんだよなぁ…。結局僕は悩んだまま3階の事務所に着いた。
「よぉ煤良木、鮮紅。1週、いや2週間ぶりか」
魅蓮はいつものように、しわのついた服を着ていてすごくラフな感じだった。
「僕と紅葉を呼び出して何のようですか?」
僕は1回目の事は無かった事にすると決めて、敬語を使うことに決定した。
「ん?もう名前で呼び合うほど仲が良くなったのか。結構結構。いい感じに進展してるようだな」
「し、進展って…」
僕は少し照れる。
「ふふ。初々しくていいなぁ」
魅蓮は妖艶な笑みを浮かべ淡々と話し始める。
「ここに呼んだのはのは他でもない。お前のこれからの身の振り方の事だ」
「身の、振り方?」
「ああ。お前は能力は使えないとしても覚醒はしている。端的に言ってしまうと狙われる可能性があるわけだ」
「…で?」
「能力を使って何かをしようとする奴らにとって、私たちのような能力使いのトラブルバスターは警察よりも厄介だ。じゃあどうするか。わかるだろ?」
「…先に潰しておく」
僕は考えるよりも先に自然に言葉が出ていた。魅蓮はその言葉を聞いて頷く。
「だから常に鮮紅と一緒に行動するようにする事」
魅蓮は僕達を指で指す。
「あ、あぁ」
「よし。あと一つこれはもっと大事な事なんだが、まずこれを見ろ」
魅蓮はポケットから不思議な紋章が描かれたバッジを取り出した。
「これは?」
「私たちのようなトラブルバスターの証だ。まぁ紋章は会社によって違うがな」
「で、だ。ここからが問題なんだが、そのバッジをつけている奴も襲ってくる場合もある。
それはだいたい会社の意思とは無関係で、個人が同業者を潰す事で自分の強さをアピールし、そして仕事が集中するようにするようにしたいがためだ。だから気を付けて欲しいんだ」
「…どうやって?」
「これだ」
魅蓮はさらにポケットから物を出す。今度のそれはディスプレイがついていて腕に巻く、
いわゆる「腕時計」のような物だった。
「これは能力の強さを測るための物だ。能力は何段階かアップする物もあるという事は前回言ったな」
…確かそんな事言ってたような気もするけどあんまり覚えてないなぁ……
そんな僕の心情を察してか魅蓮は目を細める。
「ま・さ・か、覚えてないのか」
「い、いえ」
「…まぁいいか。それでこれはその能力の強さを測るんだが、相手にこれをかざすと運動能力も数値化されて表示される」
僕は魅蓮からそれを受け取って腕に巻きつける。
「これからはそれを普段からチェックをするように心がけろ。すぐに襲われる事は無いだろうが用心しろよ」
「はぁ。…でこれってどのくらいが標準なんですか?」
「まぁ普通は2万前後ってところだろ」
「わかりました。じゃあこれで」
僕と紅葉は出ていこうとする。すると魅蓮は思い出したかのように振り返って言った。
「あぁそれと。ちゃんと表の仕事もあるから定期的に来いよ」
「はい」
そして僕達は歩き出し、そのビルを後にした。
その時
「お前、ソート・リンク使いだろ」
突然ありえない程低い声音が僕の耳を遮った。
僕は急いで、いや反射といっても過言ではないくらいの速さで振り返った。
僕は紅葉と目で会話する。
…逃げたら殺される…………。
僕の本能が必死にそう叫んでいた。数値が4万を超えていたが、その時の僕はそんな事には全く気付かず、ただただ足がすくみ、立っている事しかできなかった。
~Episode5 不協和音~いかがだったでしょうか?やっとバトルものになってきて全体の流れが固まってきていい感じです!
この作品が初めて書く作品という事は言っていますが、実はこの作品で、僕はコメディーとバトル、どっちが合っているのか試してしている部分があります。バトルもうまく書けるように頑張りたいですっ!
アドバイスなどもらえるととてもありがたいです!




