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~Episode4 二人の夜~

   「急がないと……」


 僕は無我夢中で家まで走った。そしてPM7:45に家に着いた。どう考えても歩いて20分の距離を、走ったからといって約4分で着くのは異常なのだが、その時の僕はそんな事にまで気が回らなかった。焦っているせいで鍵を開けるのにも普段の2倍くらいかかってしまった。やっとの事で開けて僕はまるで警官が突入する時のように、ドアを打ち破る勢いで盛大に「バンッ!」と開けた。


「「あ……………」」


 入ってすぐの廊下にはお風呂からあがったばかりの鮮紅(せんこう)がいた。当然鮮紅の体にはバスタオルしか身についておらず正直とても健全な男子高校生にはいけない光景だった。頬は真っ赤に染まっており、ほんのりピンク色を帯びた肌が露出してそして綺麗な曲線を描いた鮮紅の体が(あら)わになっていた。

「「……………………………………………」」

 沈黙が二人を包む。1分弱くらいだろうか、何とも言えない沈黙が続き、僕が決心をして沈黙を打ち砕く。

「ご、ごめんっ!」

 精一杯の謝罪の気持ちを込めて90度体を曲げて謝る。すると鮮紅は黙ってリビングに逃げていった。

「や、やってしまった……」

 僕はorzのポーズをとって自分に説明を始める。

「い、いや僕は覗きたくてやったわけじゃないし、じこ……そう!事故!事故なんだ。決して悪くない。悪くない……はず。で、でも見てしまった事には変わりないしどうすればいいんだろう!?」

 同棲……じゃなくて同居し始めて1日目でこんな事になるとか絶対嫌われただろ…。

 後悔しまくって廊下に打ちひしがれていると廊下とリビングを繋ぐドアがノックされた。

「…い、いい、よ」

 どうしようか!?入らないといけないんだろうけど入ったら絶対気まずくなるに決まってるッ!

 僕はゆっくりと立ち上がりドアノブに手をかける。そして脳をフル回転させてこの危機の回避方法をまさぐる。


   よし、もう一回さっきの事を含めて謝ろうっ!


 そう僕は再度決心をしてリビングに入った。正直ドラ○エの魔王との決戦に行くときより緊張した。この時の事を僕は一生忘れないだろう。



「ど、どう……かな」

「お、おう」

 眼前には視界に入り切らないくらいの料理が並んでいた。ポテトサラダや煮っ転がしなどの煮物系、さらには生姜焼きも刺身もあった。そして僕の席の目の前にはとてもうまく盛り付けられた「肉じゃが」があった。

「す、すげぇ………」

 さらに驚いた事に、鮮紅がパジャマ姿だった。赤に近いピンク色のいかにも「女の子」的な感じを漂わせ、僕はこれまで女の子(しかも超美人)のパジャマ姿など拝んだ事もなく、

ただただ傍観していた。制服以外の鮮紅はとても新鮮でこの料理と鮮紅がいるだけで、いつも過ごしていて慣れているはずのリビングが別の世界になっているようだった。

「これ…全部作ったのか」

 僕はおそるおそる指を指して尋ねる。

「うん……あ、嫌いな物とかあった?」

「い、いやいやいやそんなのないよ。じゃ、じゃあ早速食べてもいいかな?」

「うん」

 鮮紅が僕の椅子を引いてくれた。僕が座るのを確認すると、ご飯を盛って僕の向かい側の席に座った。

「あ、あのさ」

「何?」

 鮮紅が首をかしげてこっちを見てくる。その時、僕と目が合って僕は思わず目を逸らせた。

「帰って来るの遅くなってごめんっ!実は(あおい)先輩が、………いやこれはただの言い訳だな。

あとさっきの事なんだけど…」

 鮮紅が耳まで真っ赤にして顔を伏せる。

「だ、大丈夫…!」

「え…?」

 突然鮮紅が大きい声を出したので僕は驚き、少し下げていた頭を上げた。

「びっくりはしたけど…」

 鮮紅は付け加えるようにそう言った。

「…わかった。じゃあこの話はまず終わっていい?」

 鮮紅は黙ってコクンとうなずいた。

 その後、僕は鮮紅と料理を食べながら今日あった出来事を話したり楽しく過ごした。

 うまくやれそうだな。心の中で僕はそう呟いた。




 AM1:54、僕は目が()えてしまい、リビングへと赴いた。

「ん?鮮紅?」

 リビングには窓を開けて月を見ている鮮紅がいた。そういえば少し肌寒いな…。まだ4月だからか。

「眠れなかったのか」

「…うん」

 静かに二人で月を見る。そこには先程にような気まずい沈黙はなく、ゆったりとした時間が流れていた。

「なぁ、鮮紅」

「あ、あの煤良木(すすらぎ)君っ」

 二人の声がぴったり重なる。

「「あ……」」

「あ、いいよ先に言って」

「煤良木君からいいよ」

 また。

「「………………………………………………………」」

「名前初めて呼んでくれたな」

 同級生だから呼び捨ていいのになぁ。

「でも僕の事は『(しゅう)』でいいよ」

「………………………紅葉(くれは)

「え?」

「私の名前。私も『紅葉』でいい」

「…うん。わかった」

 僕は小さく頷いて承諾した。

「…で、鮮…紅葉の質問は?」

 呼び方を変えようと言ってもすぐに変わえられるわけでもなく、つい「鮮紅」と言いそうになり、急いで言い直す。

「あ、あのご両親…は?」

 唐突に紅葉に尋ねられて僕は少し口を(つぐ)む。そしてそのとてもとても重たい口を開く。

「『血の雨の日曜日ブラッドシェッド・サンディ』って言ったらわかる?」

 紅葉は重々しく頷く。

 「血の雨の日曜日ブラッドシェッド・サンディ」というのは今から6年前の2025年3月23日に起きた前代未聞のテロ事件である。この事件は成田空港で起き、春休みで旅行するために来ていた僕達は巻き込まれる事となった。この事件では約50万人近く死亡者を出しており、中学生の教科書にも載る大事件となった。僕は奇跡的に助けられた人間でほとんどの関係者は死んでおり、今でもあの、火と銃弾にまみれた光景は夢にまで出てくるほどだ。

「私も…集と一緒」

「え?まさか…」

 紅葉は頷く。その行動だけで僕は今まで紅葉がどのような人生を送ってきたか容易に想像できた。大抵どの時代もこんな大事件に巻き込まれた奴を歓迎はしない。それどころか避けるくらいだ。僕は親戚の家に行き、なんとか今日まで生きてこれたが、紅葉はきっと頼るところも無く、一人で放浪していたのだろう。きっとそこで魅蓮に拾われたのだろう。

「うっ…ううっ」

 僕は気付いたら涙を流していた。紅葉も隣で涙を流していた。

「ずっと一人だったよな…」

 紅葉は黙って頷く。

「僕も君も」

 また。

「辛かったよなぁ」

 力強く頷く。

 僕はこんな人を求めていたんだ。そう確信した。親戚などたくさんの人が「つらかったねぇ」とか「もう大丈夫だよ」などと言っていたが、僕の中にはずっと虚無感があった。

きっと僕は言葉を超えてこの虚無感を通じ合えて、満たせるような人を探していたんだ。

「ッ!」

 突然肩に衝撃が走った。ゆっくり横を見ると紅葉が頭を肩にのせてスースーと寝息をたてて寝ていた。



   …………こんなに安心したのはいつ以来だろう………………………………



 あれ…なんか急に僕も眠く…………。


 結局朝になるまで二人で寄り添って寝ていた。当然窓を開けっぱなしなのでその後風邪気味になったのはいうまでもない。

第4話いかがだったでしょうかっ!アクセス数も少しずつ増えていっていてうれしいです。さて今回のお話ですが、かなりシリアスです。集も紅葉も辛い過去を持っていたんです。次のお話くらいからAGSのお仕事が始まります!そして集の能力がわかるかも…(Episode6くらいになる可能性もありますが)。ちなみにソートって「Thought」からきているんですよ。

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