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~Episode15邂逅と襲来~

「はぁ~、ギリギリだったな」

 僕、煤良木集(すすらぎしゅう)は言い表す事も躊躇われる程の人ごみを抜け、何とか獲得する事の出来た2人用の席で少しばかりの優越感に浸りながら休んでいたのだった。

「ホントだぞ!貴様のせいで汗までかいて……」

 そう言って優里(ゆうり)はハンカチで額や腕についた微量の汗を拭う。

 フードコートは時間的にピークを迎えており、人は減りそうもなく注文しに行くことだけでも困難な様子だった。僕は周辺を見渡した後に一つの提案をする。

「なぁ優里、一人ずつ買いに行くのも大変だから僕が買ってこようと思うんだけど」

「………ん」

 ―――聞こえてなかったのか?

 僕はそう考えて再度質問を繰り返す。

「優里の分も僕が一緒に買って来ようかと考えてるんだけど、それでいいか?」

「…………ん」

「優里?」

 返答が生返事というかいまいちパッとしない感じだったので、僕は林立している店に向けている顔を優里のいるテーブルの方へと戻す。

「…んん。んん~~」

「何してるんだよ」

 僕の目の前にいる小柄な女の子は健気に背中に小さなハンカチをあてようと頑張っていた。

「貴様はそんな事もわからないのか?汗を拭こうとしているに決まっているだろう!」

「…いや、そういう事が言いたいんじゃなくて」

 ―――そんな小さいハンカチじゃまず背中全体に届かないし。というか人に頼むという事を知らないのかこいつは。

「貸せよ」

「え?」

 僕は半ば強引に優里が手にしていたハンカチを取り上げると、優里の後ろに回って拭いてあげようとする。

「ほら、もう一回髪上げて」

「あ、あぁ」

 優里のほんのりと火照っていて、それでも尚透き通るような真っ白な肌を見て、僕は若干戸惑いながらもゆっくりと拭いていく。背中に手が触れたときは思わず声が出そうになってしまったりと、正直健全な男子高校生には少し酷なシーンだった。

「これでいいな。ま、時間も時間だし僕が適当に買ってくるよ。優里は荷物の番しといて」

「あぁ、わかった」

 僕はそう言ってフードコートのエリアの溢れんばかりの人ゴミの中に、財布片手に歩いていったのだった。






「そういえば」

 現在僕と優里はテーブルの上に並べられた洋風の料理を食しながら会話をしていた。ピークも過ぎているため人が減り始めており、僕達は狭苦しい事も無くゆったりと会話をしていたのだった。

「…なんだ?」

 優里はフォークでスパゲティをくるくると絡め取りながら返答する。当然目はこちらに向けていない。

「どうして僕の事を『貴様』って呼ぶんだよ。紅葉には『紅葉』だし、他の人だってちゃんと苗字で呼んでるのに」

「じゃあ貴様は私の事をなんで『優里』と呼ぶんだ?」

 ―――質問を質問で返すなよ。

 そう思いながら僕は料理を口に運び、咀嚼した所でもう一度口を開く。

「それはお前の名前だからだろ」

「だからといってなぜ苗字ではなく名前なんだ!そ、それでは…ま、まるで…」

 優里はスパゲティが完全に絡まっているフォークをさらに速くクルクルと回転させて、俯いて小声で言った。

「…まるで?」

「こ、恋人…みたい……では…無いか……」

 顔を真っ赤にさせて優里が呟く。そんな事は僕は考えていないけれど、優里が言った事により、僕もなぜか恥ずかしい&緊張して顔が真っ赤になってしまう。

「なっ、何言ってんだよっ!」

 冷静に訂正をしたいのに、僕の気持ちとは裏腹に体は恥ずかしさと緊張で体が熱くなり、早口になったり、半オクターブ高くなったりしてしまい全くの逆効果となってしまう。

「ほ、ほら、貴様も意識しているのではないかっ!」

「ち、違うに決まってるだろっ!こ…これはっ、ゆ、優里がそんな事言うからっ…」

 ―――なんて言えば納得するんだ?

 僕は頭がパンクしてしまいそうでなんにも考えられず、そのまま口籠ってしまい無言になってしまう。数秒間、いや実際は数分だったのかもしれないが、その微々たる時間を無言で過ごした後、優里がもう一度口を開く。

「…で、結局貴様はなんで『優里』と名前で呼ぶのだ?」

 先程とは違う落ち着いた声で問いかけるので僕も変に落ち着いてしまい、少し不思議な感覚に苛まれながらも素の考えを返す。

「それはまぁ色々あるけど、『諷刺』より『優里』の方が女の子っぽいし、僕は仲良くなれたかなと思ってそうしているんだけど」

 よくよく考えてみればこんな小恥ずかしいセリフも無いものだけど、言われた方の優里は

「そ、そう…なのか」

 微妙に納得しているようなしていないような反応を見せる。「女の子」の所で軽く反応しかけたように見えたけどあれは一体なんだったのだろうか?

 ―――あれ?最初に言った僕の質問ってどうなったんだ?

 ものすごくというわけでもないが、まだ答えをもらってない事に僕は気付いて再度ここぞとばかりに質問を投げる。

「おいっ!僕の質問はどうなったんだよ。どうして僕を『貴様』と呼ぶんだよ。こっちも答えたんだからそっちも答えろよ」

 質問を当てられた優里はと言いますと、急に堂々とした態度になり、キッパリと断言する。

「そんな事は至極簡単な事、そちらの方が呼びやすいからだ」

「…おい」

「ん?なんだ」

 僕は自分で言うのもなんだが、凄い気迫で優里に言う。

「お前そんな理由で呼んでたのかよっ!そんなふざけた理由なら今すぐやめろっ!」

「嫌だ」

 ―――キッパリと堂々としていらっしゃる……。

 もう真っ直ぐ面と向かって言うものだから、これはいくら言ってもダメだろうと諦めて、食事に戻る。

「優里はさ―――」

 僕が話題転換をしようと思ってもう一度話しかけようとしたその時だった。


「よう!」


「ッッ!」

 突然の声に驚き、僕は目を蒼く染め上げて声の主がいるであろう場所を振り向くと――。

元気(げんき)かよ」

 僕は純粋な蒼い色を元の漆黒のような色に戻す。ここは近所のデパートだから知り合いに会う可能性も考えておくのを忘れてしまったと後悔の念で押しつぶされそうになっているところに今後安易に想像できる質問を元気はしてくる。

「あの子誰だよっ。ってかお前ロリコンだったのか?」

「ち、違う違うっ!そんなわけないだろッ」

 なんで今日はこうも危機に陥らねばならんのだ!とでも思いながら適当に言い繕って元気を追い払う。

「親戚の子でさ、少しの間預かってるんだよ。それだけだから、なっ」

 それを聞いた元気は何か意味深な顔をして渋々といった感じで離れる。

「ホントか~?ま、それならそれでいいけど。じゃ、また学校でな」

「あ、あぁ」

 なんとか追い返した後、僕は即座に食事を終わらせてバックを持ち優里の手を握る。

「なぁ屋上に行こうぜっ」

「べ、別に構わないが…」

 返事も満足に聞かないまま僕は屋上へ連れていく。というのも最初に出くわした相手が元気だから良かったもののほかの学校の奴に見られた場合、もっと学校での立場&状況が悪くなるであろうと察したからである。

「はぁ~」

 屋上には休日というのに全くといっていい程に人が少なく、とても静かでそこだけ穏やかに時間が流れていた。

 僕は空いているベンチに優里と腰かけて、静かな時間を過ごす。僕はしばらく経った後に近くの自販機でジュースとコーヒーを買って優里に手渡す。

「どっちがいい?」

「ん?あぁ、ではコーヒーの方で」

「はい」

 僕はもう一つのジュースの方の缶を開ける。プシュッと炭酸特有の音は静かに風の音に混ざり消えていった。ゆっくりと時間を堪能しながら僕は質問し損ねた内容をゆっくりと空を見ながら問いかける。

「なぁ、優里の過去ってどんなだったかって聞いていいのか?」

「別にいいが、良い物ではないぞ」

 優里も空を見上げて静かに答える。穏やかに流れる風は優里の日光に輝く銀髪を撫でる。

「わかってる」

 僕はそう言いながら大分前に魅蓮(みれん)に言われた言葉を思い返す。


『さっき能力っていうのは思い出や想いに関するという事は言ったが、どちらか言うと想い、思い出っていうのは言ってしまえば「トラウマ」の事なんだよ。だから能力者は大抵ろくな人生を送ってないんだ。想いっていうのもその辛い過去に「こんな力があったら」とか「こいつを殺したい」とかの復讐の念から生まれるんだ。能力の特徴なんかはその想いや状況によって異なる。能力の強さは発現した後に変わるが、常人ならざる憎しみとかを持っている奴は最初から化け物みたいな強さなんだ。なんでお前にこんな事を言ったかわかるか?これからそういう奴に関わっていくんだからこその忠告だ。いいか、能力者に過去を(・ ・ ・)聞くなよ(・ ・ ・ ・)。この事は絶対に忘れるなよ』






 ―――一人の少女がいた。その子はごく一般の家庭に生まれ、平凡な幸せに包まれて暮らしていた。しかしある日その村はある人物のために潰されてしまう。その人物は能力者だったらしく、何の抵抗の出来ない人々は惨殺されていった。少女もその対象だったのだが、親が死ぬ間際にその少女の上に被さり少女の死を防いだのであった。その少女はたった一夜で起こった事を受け止めきれずに、泣くことも出来ず、本能か何かで隣町まで歩き、ただ放浪していた。何が起きたのか、そしてこれからどうすれば良いのかと考える事も出来ず数日間歩き続ける。食糧も無いし、親戚もわからない。小さな少女には何をすればよいのかもわからず、結局生き倒れたそうだ。

 風の強かったその日、ある男が手を伸ばしてくれた。少女にとってそれは天から差しのべられた手に等しく、その手を明るい顔をして掴んだのであった。その手が両親を殺した手だとも知らずに。

 その後は主に戦闘訓練をさせられ様々な事をやらされたらしい。殺しも当然、まだ幼かった少女はこれが異常だという事にも気づかずにただその人のいう事に従っていた。そして少女はある日真実を知ってしまったのだが、その時には既に時遅く、彼女はそれ以外の生き方が出来ない体になってしまっていた。彼女はその時に普通の生き方を知り、そしてそれを諦め、この道を行くことを決心した。






「そう…だったのか」

 僕はどういう顔をしていいのかわからず、空を見続ける。こういう時に変に同情するのは相手を不快にさせてしまうのは僕自身がよくわかっているからこそ静かに素直に口を開く。

「どうして話してくれたんだ?」

「貴様が尋ねたからに決まっているだろう」

「そうじゃなくて…さ」

 優里は一口コーヒーを含み、一泊置いて尚も空を向いたまま

「貴様なら話をしても同情などせず聞いてくれると思ったからな。同じ痛みを知る者として」

「僕の過去を知ってんのか?」

「まぁな、大体察しはつく」

「そうか」

 ゆっくりと雲を見ながらの昼食後のティータイム的な物も終わり、ジュースを飲み終えた所で腕時計を見て時間を確認する。

「優里、もうそろそろ帰るか。5時間くらいここにいるし」

「あぁ」

 と返事をした時に、別の方向からこの雰囲気に似合わない声が割って入ってくる。



「やぁ、随分と女らしくなったもんだなぁ~。『風神』」



 僕はその単語に反応し、敵意の目を向ける。

「お前、誰だっ!」

「俺の事がわからない?ふふっ、あっははははははッ!勉強不足もいい所だなぁ。じゃあ俺が誰だがわからせてやるよ」

 その男はポケットから一枚のコインを出し、こちらに放る。そのコインは男の手の中では百円玉サイズの大きさだったはずなのに、突如視界に収まり切らない程の大きな円盤へと変貌し、こちらに迫ってくる。

 突然の事で何がなんだかわからないまま、必死で優里を庇ってその円盤を避ける。僕達に当たり損ねた円盤はそのまま近くの木々などをへし折り、ドカンと鼓膜が破れそうな爆音と共に屋上を破壊していった。

「お前……!」

 静かに顔を上げ目を蒼くして何かの上に立って見下す形になっている相手を睨む。男は口角を上げ笑った後に、こう言い放った。


「俺の名は戴称操史(だいしょうそうし)、『人間ならざる十人イクスシェプショナリィ・テンス』2thにして、そこの『風神』の上司だァ!」

お久しぶりになります!!3週間近く空けてしまいました…。やっぱり構成をしっかり練る時間が欲しいです!

今回も夜という事で見直しが甘いと思いますが、どこかおかしな点があった場合は感想欄かツイッターに書いていただけると幸いです!

ではまた次回にお会いしましょう!

※今もまだ思うのですが、後書きってこんな感じで良いのでしょうか…?

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