~Episode14不旋律前~
鳴り響く轟音と、歪な形や大きさの鉄の塊がそこかしこに転がっていて、かつては人の集まる所だったとは到底信じる事も出来ないような場所。周りは高層ビルが立ち並ぶ中、そこだけは完全に別世界と化していて、そこは地獄とでも表現すべき場所であった。しかし警察やSATすら手も出せないその空間には三つの人影があった。一つは身長175くらいの男、もう一つは165くらいの男、もう一つは身長145~50くらいの女の子だった。一人目の男があとの二人と対峙するような位置で何かの上に立ち、あとの二人と話をしているようだった。
――――5時間前
「なぁ、優里」
「ん?なんだ。気安く私を呼ぶな」
僕と優里はある目的のためにデパートに赴き、エレベーターに乗っていた。幸いというか何と言うべきかエレベーター内は僕と優里だけしかおらず、こうして話しているのだった。
その目的はと言いますと…
「お前って、どんな服が欲しいんだ?」
「いらないと言っているだろう」
「『い・ら・な・い』じゃない。種類を聞いてんだよ」
「ふんっ」
―――こいつ、迷子にさせてアナウンスに流して辱めてやろうか。
僕は口角を少しばかり上げ、ヒクつかせていると、エレベーターが心地の良い音を出し、動きを止めて、静かにドアが開いた。勿論、会話から察する事が出来ると思うが、止まった所は〈子供服、レディース服売り場〉である。
「いいから、とりあえず行くぞ」
「あっ」
僕は優里の手を握って引っ張る。その時は普段のように反抗したりせず、むしろ静かすぎるくらいだった。優里の小さな手はとても温かく、小さいながらも全てを包み込んでしまいそうな程に柔らかかった。僕も繋いで引っ張っている間に微妙に緊張してきて、少し意識していたりしていなかったり、不思議な感覚を味わう事となっていた。だがそれは到着すると同時に見事に粉砕する事となった。
「……………な……」
「ここなら優里にぴったりの服が見つけられそうだなっ」
二人の目の前に書いてあるフロア名は〈子供服売り場〉である。僕には背が小さい優里にはここが最適の場所だと思って連れてきたのだが、
「……………………ふ」
「ふ?」
「ふざけるなっ!私は帰るッ!」
優里が体をワナワナと小刻みに震えて俯いたかと思うと、今度は顔を上げて、憤慨し今まで通った道を歩いて帰ろうとしていた。
僕はこの時に、やっと優里怒っている理由に察しがついて、帰ろうとする優里の手を握り、動きを止めた。
「……えっ」
急に歩みを止めたがために、優里は軽くつんのめる形になって吃驚して声が漏れていた。転ばないように力の加減をして、その後僕の方に顔を向けさせて優しく声をかける。その時に優里の顔が一気に燃え上がる様に赤くなったような気がするが、まぁ気にしないでおこう。
「悪かったって、お前は大人っぽい服が着たいんだよな」
ブチッ!
―――あれあれあれ?違ったかな?
僕は訂正の代わりに言葉を注ぎ足す。
「背伸びしたかっただけなんだよな。わかったわかったっ。でも今の子供服だって大人の服に劣らないと思うぞ」
ブチブチブチッ!!
―――え?
「あ、あの…諷刺、さん………?」
「わ、わたしは…」
「大人だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ゆっくりと拳を引き、次の瞬間には怒りの言葉と共に眼前にはその拳があったのであった。
バキッ!とでも表現すべき音が鳴ると同時に僕の体は宙に舞い、数メートルを飛び壁に打ち付けられた。マジで洒落にならないくらい痛かった。
「おい、こんなのはどうだ?お前にすごく似合いそうだ」
僕と優里は流れ的に当然ではあるのだが、まぁ言っておくと、ちゃんと大人の、レディースの、服の、売り場に来ているのだ。やっぱりというか、仕方ないというか、優里に合うサイズの服は少ないわけで、選択肢も相当に激減していた。「やっぱり戻らないか?あっちの方が種類が豊富だし」とは口が裂けても言えない。そんな中でも僕は優里に似合いそうな服を探していた。で、現在僕が手にしている服は普段絶対に優里が着そうにない、肩が露出した黒色のワンピース。ところどころにフリルのあしらいがあり、可愛らしさを演出しているものだった。
「はっ。そんな露出度が高い服など着れるか。貴様の変態趣味で選んだ服など触りたくもない」
「こういう方が良いに決まっている」
そう言って優里が手にしている服はデニムのショートパンツやコットンシャツなど、一応オシャレ的な物を選んではいるもののいわゆる「機能性」を重視した感じの服だった。
「…ま、お前が気に入った服なら別にどうこう言うつもりもないけどさ、買う時は言ってくれ。僕が払うから。あ、あと、僕はちょっと装飾品の方を見てくる。迷子になるなよ」
「貴様なんかに心配されなくても大丈夫だ!」
優里は僕が背を向けて歩き出した途端、試着室へと向かっていた。その手には先程僕が薦めた洋服も入っていたのだが、その時の僕が気が付くことは無かったのだった。
「これなんか、いいかもしれないな」
僕が手にしているのは女性用の腕時計とネックレスだった。どちらもキラキラと輝き、綺麗で変に派手さも無く、服(特に僕が薦めた方)にも合いそうな物であった。当然値がある程度は張るものの、払えない程ではなく、僕はプレゼント用に包装してもらい、服売り場へと戻った。
「おい」
「な、なんだ……」
戻った優里はもう会計を済ませて、店の前の椅子に座っていた。服は買ったばかりの物に着替えていて、すっかり人形と間違われても全く不思議ではない(見た目だけでいえば)佇まいだった。のだが、
「……なんでその服を着てるんだ。あんなに嫌がってたくせに」
「な、何を着ようが私の勝手だろうがっ!」
優里が着ているのは先程あんなに渋っていた僕が薦めた方の服だった。
「べ、別に貴様が選んでくれたからってわけではないぞっ!私がいいと思ったから買ったのだっ!」
「はいはい」
あまり優里にツッこむと無数の罵倒が飛んできそうなので、僕はほどほどにいなした後に、買ってきたばかりの二つの箱をプレゼントした。
「はい、これ」
「な、なんだ……?」
数秒前と同じ反応。少しは違う反応出来ないのかよ。
「プレゼント、だ。腕時計とネックレス。あんまり高い物じゃないけどさ」
「あ、あああ、あああ」
「ん?」
「あ、あり、ありがとう」
「お、おぉ」
普段はツンツンしまくりの優里だからこそ、「ありがとう」などという直接的な感謝の言葉はとても貴重で、その言葉を頬を赤らめ、少しモジモジしながら言う所が、なんというか、僕には反応しづらくて、結局生返事しかする事が出来なかった。
「もう12時か、せっかく着替えた事なんだし、ここで食ってから帰るか」
僕は時計を見て時刻を確認後、優里に提案する。細かい事を言うと現在AM11:47で12時というわけではないのだが、12時過ぎのピーク前に席をとりたかったためにその辺りは無視をした。
「し、ししし、しゅ、集っ!」
「なんだ?」
―――ん?今こいつ僕の事初めて「集」って呼ばなかったか?
優里はプレゼントの包装を綺麗に剥がして、腕時計とネックレスを出して手に持っていた。
「い、今っ、つ…着けても…いい、の…か?」
「あぁ、いいよ」
そのまま僕達はフードコートまでスタスタと歩いて………ってあれ?
―――優里がいない?
「おいっ、優里!?」
「ん、んん」
…優里は大分後ろの方で立ち止まっていた。なぜかというと
「ネックレスがつけられない?」
「わ、笑いたければ笑うがいいっ!」
「い、いや、別に笑うようなことじゃないけど」
僕は優里の持っていたネックレスを受け取り、背後に回る。
「ほら、髪あげろよ。着けてやるから」
「……ん」
静かに優里は髪を上げる。上げる時にふわっと甘い香りを散らしながら、美しい銀髪がぱらぱらと舞う。うなじに萌える、とかそういうわけではないのだが、その時ばかりはドキッとした事を覚えている。
「よし、これでいいな」
行きの時とは全く違う優里の姿はとても女の子っぽくて、雰囲気も違っていた。頬を赤らめる姿にも少しときめいたり、とても印象深い姿だった。
「もう時間なるから急ぐぞ」
なにはともあれ、その後僕と優里は小走りでフードコートへと向かったのであった。
え~と、捕捉なんですけど、このお話(集と優里の)はまだ続きます!
優里の過去がもうそろそろ語れるといいなぁ……。
次回か、その次くらいにバトルになるかも…です。
最後に一言
今回も投稿が遅くなってスミマセン!
これからも「ソート・リンク」ヨロシクお願いします!
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