第三章
(私は何故こんな所でのん気にお茶など飲んでいるのだろうか・・・・)
ことりの家は、一人で住んでいるにしては、広い家だった。綺麗にかたずけられているからというのもあるのだろうが、生活に不必要な物が殆ど置かれていない為、家の広さがより一層目立った。
「ところで、千羅は風を自由に操れるって聞いたけど、それって本当なの?」
ことりは興味深そうに言った。
「ああ。それは本当だ。私の力は風を操る力だ。お前の持っている力は何だ?」
フレア達はみな、特別な力を持って生まれてくる。アルタのどこかにある、「生命の樹」という神のような樹がフレアに不思議な力を与えるのだそうだ。その力のことを、フレア達は「生命の絆」と呼んでいる。そして、「生命の樹」に特別愛された者は、自然を自由に操ることのできる力も持って生まれてくるのだという。つまり、千羅は「生命の樹」に特別愛された存在なのだ。
「私?私は、防御とか、回復とかそういう力と、あと炎を自由に操ることのできる力だよ」
千羅もことりも、お互い驚いていた。「生命の樹」に特別愛された存在が二人いるということだけでも驚くことなのに、その二人が出会ったというのは、まだ聞いた例がなかった。
『聞いた?この近くに、<紅凰>の異名を持つフレアが住んでるらしいよ。何でも炎を自在に操れるとか』
『こうおう?』
『紅い鳳凰って意味らしいよね。でも、会ったって話はあんまり聞いたことないよ。』
女性のフレアたちがそんな噂をしていたのを小耳に挟んだことがあった。その時千羅はどうせ嘘だろうと思っていたのだが、まさか本当の事だったとは・・・・・。
「ねぇ、千羅・・・」
ことりは躊躇いながら言った。
「実は、私ね・・・。
名前が、無いの・・・・・。」
そしてことりは話し出した。
「私、今14歳なんだけど、10歳までの記憶が少し欠けてるんだぁ。思い出せることも少しはあるんだけど、何故か一番大切な部分の記憶が欠けているの。自分の名前も、何て名前の場所に住んでいたのかも思い出せない。だから、ことりって名前にしたんだ。いつか、大空を自由に羽ばたけるくらいの大物になりたいと思って!初対面の人にこんな事話すのもなんだと思ってたんだけど、千羅といると何だか懐かしいような感じがして・・・」
ことりの話に、千羅は何かが引っかかった。
「!!まさかっ、お前!」
驚愕した表情で千羅がそう言った時、外から大きな音が聞こえた。
「あ、ごめん千羅!私ちょっと様子見てくるから、そこで待ってて!!」
深刻な表情で、ことりは駆け出していた。
「こんな誰もいないような所に、普通のフレアが来る筈ないよっ!」
千羅に聞こえないよう、小声でことりは言った。
「随分とお早い追っ手なことだ」
ため息混じりにそう呟き、千羅は立ち上がった。
「小娘、お前狐の尻尾と耳のある、白髪のガキ見なかったか!?」
ことりを見るなり、大柄な男が言った。
(・・・・千羅のことね)
「私、先ほどから家におりましたので、悪いけれど分からないわ」
「見え透いた嘘などつくなよ?小娘。俺の力は匂いを探知する能力だ。お前からはあのガキの匂いがプンプンしてやがる。さあ、さっさと白狐の居場所を吐け!!」
「フンッ!アンタの能力、ハッキリ言って犬みたい。どうせならもっと素敵でかっこいい力もらえたら良かったのにねっ!それに、アンタみたいに礼儀も知らない男に、千羅の居場所なんか言うワケないでしょ!?」
「こンの生意気小娘、言わせておけばっ!!」
男はもうカンカンだ。それに対してことりは至って冷静で、静かに相手を見ていた。
「あら?私とやり合う気?もう少し弱い相手と遊んでいれば?言っとくけど私、アンタなんかよりよっぽど強いわよ?それに、私礼儀の分からない無礼なヤツが、この世で一番嫌いなの。見ていてイライラするわ」
男が持っていた剣を振り上げ、二人が戦闘態勢に入ろうとしたその時、木陰から声がした。
「そこまでだ」
皆様こんにちは!遅くなってしまいましたが、第三章が完成致しました〜!ことり、怒ると口調が変わります。でも、何だか二重人格っぽいですね(汗 こんな筈では・・・・。