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女尊男卑法  作者: 音根ch
9/10

捌、人間の三大欲求


雨の後には綺麗な太陽が出る。

そのうえ、虹も出る。

だから、どんなに辛いことがあっても頑張れるのだろう。


そう、例え風も吹き、雷も鳴り、豪雨で、夜中だとしても。


「過酷過ぎだよーーっ!!」


ついつい叫ぶ。

でも、近所迷惑にならない。

雨の音で声が掻き消されるから。


私を急かせて走らせる原動力はなんだろ。

やっぱり、その先に待つ太陽と虹かな?


太陽が准一で、虹が准一の家かな。

初めて行くから緊張する。

あわよくば入りたい。


准一の家かぁ、ちょっと気が早いけどお義父さんお義母さんの家になるんだよね。

子供のお世話をたまに頼んだり、夏休みになったらお泊りに行かせたり、大きくなれば自転車で行くようになったり…

って、子供!?


いや、そんな、まだ気が早いよぉ//


落ち着くんだ。

素数を数えよう。

431、433、439、443、449…

落ち着いたら、寒くなってきちゃった。


何か考えながらじゃないとこの状態が辛い。

そうだな、例えば准一の家についたら、まずは安否確認かな。

その後、この時間帯に押しかけたことを謝って帰宅。は、したくないから、なんとか乗り込みたい。


でも、流石に親御さんに迷惑かかるよね。

今、悪印象与えておきたくないし。


それじゃあ、やっぱり大人しく帰ることにするかな。


よし、こうしよう!

もし、もしだけども、迷惑をかける事なく入る事が出来たら、目一杯甘えよう!


突拍子もなく考えついた事だけど、これは神様との賭け。

私と准一の仲を祝福してくれるなら、この願いは聞き入れられる。

でも、祝福してくれないなら、私は家に入る事が出来ない。


入れなかった時の精神的ダメージがとてつもなく大きそうだけど、これくらいのリスクは負わないとね!


という訳で、准一の家に入れますように!


…でも、入れなくても、ここまで頑張ったんだから、准一のこと准ちゃんって呼んでもバチはあたらないよね?


二人っきりの時だけに使うニックネームにも憧れてたからさ。

いいよね?


なんだか、ワクワクしてきましたよ!



准一家までの道のりにラストスパートをかけた。



















タンッタンッタンッ



「さくらー、何作ってんだー?」


私は今、色々あって准ちゃんに夜食の野菜炒めを作っていた。


本当に色々あった。


簡潔に述べると、神様は私達を祝福してくれてるみたい。


どうして准ちゃんのご両親がいないのかは気になるけど、はぐらかされちゃったし、何か言いたくないことなのかもしれないから出来るだけ意識の外に出すようにした。


初めて准ちゃんの家に来て、いきなり台所に立つ事が出来るとは思わなかったな。

嬉しい誤算ってやつだね!

冷蔵庫の材料や時間的に簡単な野菜炒めにしたけど、准ちゃん野菜は苦手とかあるのかな。

まぁ、料理にはある程度自信があるから、アピールにも最適!


と、いう訳で完成。


よし、上出来!




『「いただきまーす。」』


この時間に食うのは、少し抵抗があったものの、人間の三大欲求に敵うほどのものではなく、あえなく白旗。

准ちゃんと一緒に食べる事にした。


「んっ、おいしい!桜、すごくおいしいよ!」


准ちゃんが屈託なく笑って褒めてくれる。

無性に嬉しくなって、頬が緩む。


男を落とすなら胃袋から。なんて、どこかで聞いたことあるけど、どうなんだろう。

好印象を与えてるとは思うんだけどね。


それにしても、この状況は私の心臓に大きく負担をかける。悪い意味ではなくて、良い意味で。


そう、このシチュエーション。

妄想はあまりした事ないけど、するとしたら、新婚で夫が仕事から帰って来て一緒にご飯を食べてる、みたいな。

残業があって、帰りが遅くなったけど、一緒に食べるために食べずに待ってた。それで、やっと帰って来て微笑ましく食事。


准ちゃん、おいしそうに食べてるなぁ


「ん?どうした?俺の顔に何かついてるか?」


ううん。

何もついてないよ。

ただ、ね?

今のこの状況が新婚の夫婦さんたちみたいだな~って思ったの。

流石にまだちょっと気が早いかな?

でも、絵空事なんかじゃないよね?


いつか……






ぐわフッ!






バターン!と、椅子が後ろに倒れる効果音付きで形容出来ない音を発する准ちゃん。


え?


視界から、准ちゃんが消えた。

理由は分からないけど、後ろに椅子ごと倒れたみたいだ。


椅子から立ち上がって、机越しに安否を確認する。


手は頭より上の方でピクピクしてる。

もしかして、頭を庇ってないの?

大丈夫!?と、聞いてみるけど、返事がない。

まるで、ただの屍のよう…


って、冗談言ってる場合じゃない!


私が頭の中で独り相撲を繰り広げている間、准ちゃんは天井を遠い目で見ていた。ように見えたけど、実際どうだったかはその時の私には確認する余裕がなかった。(後日談


…私、落ち着きなさい。

何後日談って。

浮かれているのは分かるけど、今はそんなことしてる場合じゃないんだってば!


「あぁ、悪い桜。少し頭を打ってしまったようだ。腫れてないか見てくれないか?」


ビクッとした。

混乱してる状態から急に話しかけられたのでビックリしたっていうのもあるけど、瞬きひとつしない准ちゃんの不気味さに一番驚いた。

能面とまでは言わないけど、天井を黙って見てたのに頭打ったなんて言われたら不気味に見えて仕方がないと思う。


とりあえず、正常な状態ではないことは、一目瞭然。

見て欲しいと准ちゃん自身でも望んでるみたいだし、見ておいた方がいいよね。

腫れてたりしたら冷やすんだっけ。




テーブルを迂回して准ちゃんに近付こうとした時、一瞬思ってしまった。


『まだ甘えてない』


なんて。



だって、賭けしたんだし。


「もうちょっとこっちに来てくれないか?」


この准ちゃんの発言が火付けとなった。

私の中の悪魔が囁くのだ、「とことん甘えちゃいなよ、YOU」

さらに続ける、「何、悪い事はないさ。頭の怪我を確認してあげるだけなんだから。だから、ついつい上に乗っかっちゃっても悪くない。それどころか慈善行為だ。」

そう、だよね。

ついつい上に乗っかっちゃっても仕方ないよね。


悪魔が囁いてると自覚があるものの、人間の三大欲には勝てないのだ。

そこまでするつもりはないけど。というか、まだ心の準備とか出来てないし…


とりあえず、甘えたいな。

それだけなの。



「あの、もしもし、桜さん?近くに来てとは言いましましたが、マウントポジションをとれとは言ってませんよ?」


「え?だって、頭を打ったっていうから、見てあげようと思って。」


咄嗟に口から出た言い訳がこれ。

2割程度間違ってはないけど、8割は陰謀で渦巻いてます。

というか、この言い訳が通用するってことは、私変な人みたいに見られてる?

普通、頭見るのにマウントポジションとるなんて変だよね。

まぁ、この際なんでもいいのです。


でも、具体的に甘えるって何だろ。

とりあえず、出来るだけ准ちゃんの近くによろうとしたものの、この先が思いつかない。

んーと、まずは頭の安否確認?


うん、そうしよう。


「それで、どこら辺が痛いの?」


質問しながら准ちゃんの頭を探ってみるも、反応なし。

特に腫れているところもなさそう。

多少赤くなってるところならあるけど、大丈夫そうだしいいかな。


さて、無事を確認出来たところでどうしようか。

抱きついちゃいましょーか?

「ダメダメ!そういうのは、もっと順序立ててやっていかなきゃ!それに、自分からあんまりガツガツいくと嫌われるよ!」天使さん初登場。

出てくるのが1分ほど遅いです。

「いや、んなことないって。向こうも好いてくれてるんだし、ガバッといっちゃいなよ。」悪魔さんも遅れて登場。

ガバッとは、ちょっと勇気ないかも。

「だめよ!ガバッといってガツガツっといったら、嫌われるわ!」

んー、天使さんの方が正しい事言ってるのかな。

「積極的な女子が嫌いな男子なんていねーよ!それどころか、好感度も株価も思いのままアップだよ!」

それは、おいしそうな話しです。

でも、リスクが高いなぁ。



脳内審議の結果

勝訴、天使さん

結論、何もせずイスに戻る。


結局、甘えるなんて出来なかったけど、また今度でもいいかな。

いつでも一緒にいられる関係になれたし!



















ど、どうしよう。

私、准ちゃんの家のお風呂場で裸になってシャワー浴びてますよ?

何がどうしてこうなった。


夜食の野菜炒めを食べた後、准ちゃんとの大告白大会を開催して、准ちゃんのお父さんとお母さんが家出とか追っかけとかでいないって話しを聞いて、帰ろうとしたら泊まっていけって誘われて…


ん?

誘われて?



「………あう///」


「さくらー、着替え一式ここに置いておくぞー」


「…………ッ!?」


タイミングを図ったかのように声をかけてきてまたしてもビックリさせられました。

そして、そんなことよりも、この扉一枚の向こうに准ちゃんがいるなんてことを考えたら頭の中がぐちゃぐちゃでぐにゃぐにゃです。はい。

私、裸ですのよ?


「桜、大丈夫か?のぼせてるのか?入るぞ。」


!!!???


入る?

ここに?

え?え?え?


あっ、ちょっ、待って!

よく分からないけど入って来ないで!


必死に否定してたと思う。

ただ、何を口走ったのかは自分でも分からない。

だって、それだけ慌てるような事態だったし。

でも、「ああ、そうか。」と、准ちゃんの声が聞こえてきた時はすごく安心した。

少しも残念だったなんて思ってない。思ってない。


安心すると、一気に冷静さが戻ってくる感覚になるのは何でなんだろう。そのせいで、恥ずかしい思いをするんじゃないかと思うわけです。

まさに、今がそうでして。

対処方としては、なかった事にするのが一番な訳でして。

困った時の話題替えでして。

私は聞いた訳です。


「着替え一式って、下着もかな?」


なんて。

普通に考えれば、一式なのだから下着も当然入ってるはず。でも、その下着はどこから湧いて出てくるの?

そして、着替えという言い方だと、私が履いていた下着とは別物ということになるの?

もしかして、お義母さんの物とか?

それはそれで、それなら私の下着はどこに?

洗濯篭に入れる訳にはいかないから、服と一緒に畳んで置いておいたはず。

出た後はどうするかなんて考えてなかったけど、最悪ノーパンでも仕方がないのかなと。


とりあえず、私の下着は何処?


って、聞いたらはぐらかされてしまった。

え、なんかすごく怖い。

触ってないなら、まだ服と一緒にあるんだろうけど、はぐらかすのは何で?


必死になって聞いてみたところ、洗濯してるとのこと。


見られたみたい。

触られたみたい。


羞恥とか色々な感情が混ざってよく分からない。



気が付いたら、もう准ちゃんは扉一枚向こうにはいなくて。

今日はよく記憶が飛ぶなぁと、思い。

何かトチ狂った発言してた気がするなぁと、考えに耽り。

風呂場から出て、准ちゃんが出してくれたバスタオルで体を拭いて。

用意されていた下着を確認して唖然。


この赤い下着は…

まさか、お義母さんのもの!?


戦慄とは、こういう時に使われるものだと、まさか肌で実感する日が来るなんて夢にも思わなかった。


お義母さんのものじゃなかったら、なんて想像は怖いので遮断。

きっと、まだ若い人なんだよ。と、自己解決で落ち着く。


寝巻きは以外と普通な感じ。水玉模様みたいなのが上下に散りばめられてるようなもので、普段感じることのないような安心感が胸中に渦巻く、のも束の間。すぐに不安感も混じって来る。


アレが、ない。


確かに、下の下着はあった。

でも、上の下着が見当たらない。どこにも。

私の頭の中では二つの理由が思い浮かぶ。

一つは、忘れてしまった。

もう一つは、その、警告、じゃないし、なんていうか。

わ、分かりなさいよ!


結局、これも前者によるものと自己解決。

とはいえ、どしたものかな。


私が着けてたものはきっとまだ洗濯機の中だと思うし、准ちゃんを呼ぶ訳にもいかないし。


やっぱり、着けないでいるしかないのかな。


ん~、と悩むこと数十秒。

今日一日は仕方ないと妥協することで決着した。

恥ずかしいけど、仕方ないと自己暗示で乗り切ることにしたのでした。



















「というわけで、描いて下さい、桜さん。」


暗い廊下で気恥ずかしくてなかなか部屋に入れない私は准ちゃんの独り言を聞いて楽しんでいた。

新しい一面を知って、少しばかり浮かれていた私に奇襲攻撃。

心臓がドキドキと痛むほど高鳴っている。

多少の罪悪感と今更な恥ずかしさで咄嗟に断ってしまった。

結果的にはやることになってしまったのだけれどもね。


いそいそと図を描く。

美術関連に関しては、得意とまではいかないものの、ある程度の自信はあるつもり。

中学生の時は、よくクラス代表の作品として大会とかに出展されることも何度かあったくらい。

描くこと自体は、あまり好きじゃないけど、描き終わった後の達成感と作品の評価は何度同じものでも好きではある。だから、人に頼まれたものについては快く受けることが多いかな。

ただ、自分で描こうと思うことはないけど。

だから、この頼み事に関しても断ることなんて何もなかったのに、それどころか准ちゃんの頼み事だったのに、最初はつい断っちゃった。

その後、すぐに言い直せば良かったのだけども、ついつい好奇心に負けてしまいまして。そのせいで、からかわれる羽目にもなっちゃいまして。


図を描き終えたと同時に、まるで計ったかのように准ちゃんが話かけてきた。


「桜、俺シャワー浴びてくるから。」


返事はしどろもどろになるのも仕方ない。

時刻は深夜の3時過ぎ。

成り行きとはいえ、彼氏の部屋に一人でいることになるのだから。


特に何か付け足す訳でもなく、准ちゃんは部屋を出て行った。

無駄に働く心臓を止めるべく、ベッドにダイブ。

いや、他意はないんだよ?

ただ、この心臓が少しうるさくてですね。



あぁ、准ちゃんの匂いがする。



この匂いを間近で嗅ぐのは、この瞬間を含めて三度目。

一度目は、遠い昔。

二度目は、昨日の告白時。

三度目が今。


何と言いますか、すごく安心する匂いです。

あの時も、この匂いのおかげで安心出来た。


そう、とても私を落ち着かせる。


とても、落ち着く…




薄れ行く意識の中で、やっぱり人間の三大欲求には敵わないんだなぁと、思ったのでした。

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