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女尊男卑法  作者: 音根ch
7/10

陸、終わらない夜

なんとなく、気まずくなっている俺。

かっこいいやら好きやら連呼して恥らっている桜。

だんだん弱まり始め、止む気配を見せる天候。

家の中は静まりかえっている。


微かに降る雨の音だけが空間を支配する。


そんな中で不意に、桜が話しかけてきた。


「ね、ねぇ、ご飯途中だよ?食べよっ!」


俺の俺による桜のための作戦を成功させるために起こした未遂事件の唯一の被害者である野菜炒めさんは、すっかり温かさを失っているように見える。しかし、匂いは健在であり、食欲は次々と湧いてくる。蟻の巣に木の棒を突っ込んだ時に出てくる、卵を持った蟻の如く。


うぇ、想像したら気持ち悪くなってきた…

特に、あの黄色くてラグビーボールのような形をした卵をときたら…


「うえぇ…」


つい、口をついてしまった。

これでは、桜の料理に対して言ってるような感じになってしまうじゃないか!

弁明を!弁解させて戴きたい!


「あ、いや、その、桜?違うぞ?」


「え?何か言った?」


既に、野菜炒めに手を付けていた。だから、俺の呟くような小さな呻きは耳に入らなかったみたいだ。

セーフです。


ただ、桜が俺の野菜炒めにまで手を付けている事を除いては。



















「いやー、美味しかったね!」


「あぁ、美味しかった。良ければ、また作りに来て欲しいくらいだよ。」


「あわわ//」


また、か。

明日からマジでどうしよっかな。

自炊?無理無理。きっと米すら炊けないって。つい最近まで米炊くには洗剤で洗うとか思ってたくらいだから。

うーむ、どうしたものか。

外食出来るような予算ないし…



ま、なんとかなるか。

今考えてもしょうがないと思うし。


「准ちゃん、皿片付けておくからね?」


カチャカチャと家庭的な擬音を上げながら皿を重ねている。

毎日見る光景だというのに、母がするのと桜がするのとは全く違うものなんだと実感。


「桜、俺がやるよ。それくらいさせてくれないと不甲斐なくて仕方ない。」

「だーめ。私、従順的な亭主関白派なんだから!」


桜、どうしてそんなにデレデレなんだい。

急に准ちゃんって呼び方になってたり、一日中メール来るのを待ってたり。

もっとこう、活発的且つわがままな感じだったじゃないか。昨日だって待ち合わせ場所に遅れて来たのにさっさと走って行っちゃったり。

どうして、そんなにデレデレになったんだ。

これが俗に言う、ツンデレというやつなのか!?

いやしかし、ツンツンはしてなかった気がするし。


なんて、余計な事を考えている間に皿洗いを終えたようだ。



その後、ソファーに座り色々と雑談した。

その中で、今日の寝起き後のことについても、包み隠さず全て話した。出始めに、父さんと母さんが出て行ったと、切り出したものだからシリアス感を醸し出していたが、父さんの『歴史は繰り返す』のおかげで笑い話に一転した。初めに見た時はイラっとしたものの、今となってはグッジョブ馬鹿親父。

















「それじゃあ、そろそろ帰るね。」


時刻は夜の2時半。

高校一年生の健全な女子が同年代の男子と一つ屋根の下にいるような時間ではすでにない。しかし、こんな時間に外を歩かせる訳には行かない。条例とかに引っかかるレベル。という訳で。


「今日は泊まってけ。」


「え?今、何と仰いましたの?」


何その古めかしい敬語。


「いや、だから泊まってけば?って。迷惑なら無理にとは言わないけど。」


「と、泊まっていきます!」


うんうん。

それがいい。

送って行くような気力も残ってないし。

やめて!この子のヒットポイントはゼロよ!状態。なので、泊まってもらうことにしましたー。どんどんぱふぱふー。


「さて、それじゃ風呂..は、沸かすの面倒だからシャワーにでも入りますか。」


「そ、そうする。」


急にしおらしくなったな。口調は定まってないみたいだけど。


「先にどうぞ。ここから真っ直ぐ行って右側だから。」


トテトテと、子供のような足取りで暗い廊下を進んで行った。

さて、俺は部屋に戻って明日の宿題でも片付けますか。と、その前に、桜の着替えを準備してやらねば。姉のやつでいいか。


姉の部屋に向かう途中、雨合羽から垂れた雨水で滑って転んでる桜を見て、なんとなく安心した。
















「どれにすりゃいいんだ。」


姉の部屋に侵入して、タンスを開けて寝巻きを出したはいいものの、下着が一向に決まらない。

一番手前にあるやつでも持って行こうと思っていたのだが、どうも派手すぎる。こ、こんな趣味あったの?と、どこからともなく誰かの心の声が聞こえてしまいそうなくらいのレベル。なので、それなりにおとしやかな感じのものにしようとしたのだが、どうも勝手が分からない。

女子の下着とは、黒と赤ばっかりなのだろうか。もっと、白とか縞パンとかだと思っていたのに。



……………



はぁ、これは童貞の幻想なのか。

とりあえず、奥の方にあったまだ未使用だと思われる赤を取り出して寝巻きとバスタオルを一緒に置いておくことにした。




「さくらー、着替え一式ここに置いておくぞー」


「……………」


返事が返って来ない。

うむ、どうしたものか。


「桜、大丈夫か?のぼせてるのか?入るぞ。」


「あっ、ちょっ、待って!大丈夫だから入って来ないで!」


「ああ、そうか。」


最初から返事してくれればいいのに。


「あのさぁ、准ちゃん。一つ聞いてもいい?」


「おう、答えられる範疇でならいいぞ。」


それはもう、結婚式で神父が問うてくる誓う云々に答えるが如くね。待てよ、神父云々は、もともと質問が分かってるから今回とはちょっと違うかな。


危うくマイワールドに浸りそうだったので、桜からの次の言葉に耳を傾けることにした。


「着替え一式って、下着もなのかな?」


「え?そりゃもちろん下着もだけど。」


何を言ってるのか。下着がなければ、ノーパンじゃないか。それはそれでいい気もするけど…


「じゃ、じゃあ!私の下着はどうしたの?」


そりゃ、洗濯機にinですけど。何故そんなこと聞く?

不可解である。

と、いう訳なので、意地悪してはぐらかしてみますか。


「桜、質問は一つだけと自分で言っただろ。」


「教えて!後で何でも言う事聞くから!お願い!」


必至さが風呂の方から滲み出ているように感じる。

瘴気とでも言おうか。ちょっと違う気がするけど。


「分かった分かった。意地悪な事言って悪かった。桜の下着は洗濯してるよ。乾燥器がないから、部屋干しになっちゃうけど、明日には乾くよ。多分。」


「洗ったの!?え、ちょ、待ってよ。それじゃあ、今日何穿けば良いの?も、もしかしてノーパンでいろってことなの?さ、ささ誘ってるとか…?そんな、心の準備とか出来てないよぅ。」


「桜ー、俺もう部屋に戻るからなー。」


桜が扉一枚向こう側で何か呟いていたみたいだが、俺には聞き取れなかった。なにしろ、今から宿題をしなくてはいけないからだ。つまるところ、何の教科の宿題があったかを頭の中で考えていた。


















「んー、ここでこの公式使うのか?多分、そうだよな。よし、そうだろ。」


今日出ていた、化学、生物、数学の宿題は残すところ数学だけになっていた。


まだ、高校の序盤。

難しい問題なんてたいして出ない。とはいえ、一応は進学校として通っているために、手間取る問題もちらほらとある。特に、生物の葉緑体内部の図を描けという内容の宿題は、難易度云々というよりセンスの問題になってくる。美術関連が大の苦手な俺にとっては、この宿題はまさに天敵。俺の手に負えるレベルじゃなかった。故に、俺はやるつもりはなかった。もちろん、「宿題忘れましたー。」なんて、レベルの低い言い訳などするはずもなし。どうするかって?そりゃさ、自分でやらないなら、人にやらせるしかないじゃん。


「というわけで、描いて下さい、桜さん。」


「いやです。」


ズバッと断ってきたな。


「というか、私がここにいるっていつ気が付いたの?」


「良い匂いがした。」


「……えっ?」


そんな訳ない。

流石の俺でも風呂上がりとはいえ、扉一枚向こうにいる桜の匂いなんか分かりゃしない。

それに、俺の家のシャンプーやら使ってるだろうから尚更だ。

なんで気付いたかっていうと、普通に床が軋む音がしたからだ。丁度、公式に当てはめてた時くらいに。


「冗談だよ。冗談。それにしても、顔が赤いな?のぼせたんじゃないか?」


ニヤニヤしながら言ってやると、怒ってるのか恥ずかしがってるのか、絶対描いてあげない!なんて言う。

仕方ない。こうなれば、力ずくといこうじゃないか。


「桜、さっきなんでもするって言ってなかったか?」


「そ、それは言ったけど…」


「それじゃ、頼むよ!俺はまだ数学を片付け終わってないんだ。な?この通りだから!」


秘技、寝下座!!


なんて、やれば逆に反感を買うので普通に頭を下げる。


「うぅ~、今回だけだからね!」


オーケーオーケー。

渋々とクッションに座り丸いガラス製の机で作業を始める顔も趣があるよのう。


徐々に遠坂化するのを感じながら、数学の残りに手をつける。










すでに3時をまわっている。そのせいで頭がなかなか回らないのか、いつもより苦戦してる気もする。なんて理由をつけて、もうシャワー浴びに行こうかな。数学は明日の休み時間の内に片付けるとするか。


「桜、俺シャワー浴びてくるから。」


「う、うん。ごゆっくりどうぞ。」


急にオドオドし始める桜を一瞥した後、自室を出る。


暗く、一寸先は闇と物理的に言えるような空間に文明の利器を灯す。

一瞬のうちに、辺りは昼に準ずるような明るさを放つ。

その代償として限りある資源と数えるほどしかないポケットマネーが少しながら削られるのは、意外と痛い支出。

塵も積もれば山となるなんて。


二階にある自室から一階へと歩を進めて、浴室に向かう。廊下に滴っている水滴に注意しながら進む。


先ほど、桜のを持っていくついでに持ってきた自分の下着と寝巻き、バスタオルを確認。特に異常なし。

あったら何を疑えばいいのか分からないけど。



最初にシャワーから出てくるのは、お湯ではなく水だ。

普通、これは温かくなるまで他の場所に向けてやり過ごすべきなのだろうけど、あえて俺は水を受ける。

最初の一瞬はビクッとするけど、体が良い意味で冷えていくようで、くせになる。


ついでに、まだ温まらない内の水を頭から浴びる。

色々と整理される感覚は麻痺していく感覚との誤差なのだろうか。

とりあえず、状況整理するには丁度良くスッキリする。


俺の部屋に、桜がいる。一人で。

落ち着いて考えると、思ったよりもヤバイ状況かもしれない。

何故かって?

そりゃ野暮な質問だ。俺のじゃないけどさ。回ってきたから、手元にあるだけでさ。

ほら、こんな世の中だからそういう系のものは結構貴重だったりする。だから、犯罪スレスレ行為を犯してまで求める奴もいたりする。残念なことに、俺のクラスメートの半分ほどは。とはいえ、二人だけなのだが。その二人はというと、遠坂と成井 翔(なるい しょう)というやつだ。俺ともう一人の男子、柊 智也(ひいらぎ ともや)はその保管役のようなものを担っている。

遠坂の家も翔の家も定期的に家族によるガサ入れがあるらしい。だから、一時的に預かるという訳だ。その謝礼として見ていいよって事なんだが、どうも趣味が偏り過ぎてて、ね。俺のじゃない。提供者二人のだ。

ちなみに、この御時世同性愛というジャンルに対し風当たりが強い。少子化だし、性別偏ってるしで、生産性のないこのジャンルは忌み嫌われてる。ただ、つい最近になって百合の方については寛容的になってきているらしい。遠坂が喜々として説明してきやがった。

周りの学校ほとんどが女子校だから仕方ないのかもしれない。

こう、なんていうか、興奮するよな!なんて、抜かしてた変態もいるけど。


それはさておき、今俺の手元、部屋にある本は、『お兄ちゃん大好き!~優しくしてね~』妹ものだ。

これは、翔が一昨日持ち寄ったもので、昨日ガサ入れがあったらしい。

昨日、というとすでに日にちを跨いでいるので分かりにくいか。

日曜日に俺の家に翔が持ち寄ってきて、月曜日にガサ入れがあった。んで、今日が火曜日。あと5時間も経てば学校にいる。憂鬱。


その妹ものであるが、一応日曜日のうちに目は通しておいた。

何故18歳未満のお前がこれを持っているのだ。とのツッコミを延々限りなくしたいレベル。つーか、表紙にマークついてるだろ。

まぁ、それに気付きながらも最後まで目を通したのは事実ですけど。

とにかく、あれを見られるのは非常にまずい。俺の学校生活に関わる重大事項だ。

ただでさえ、覗き魔とか変なあだ名を一時期つけられたことがあるんだぞ。これ以上株を低下させるわけにはいかない。

とはいえ、これといって策があるわけでもなし。

桜が見つけないこと祈るばかりである。

俺に出来る事といったら、少しでも早くシャワーを終わらせることだろう。


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