参、昼休みの惨事
「オイコラ、准一。てめぇどういう了見で大蔵先生にあんな事言ったんだぁ?」
今は、昼休みの時間だ。隆宏は先ほどの大蔵先生の授業内容についていちゃもんをつけるという神をも恐れぬ行為を働くどころかありもしない罪を俺に被せようと躍起になっている最中だ。
「確かに、大蔵先生の授業は聞き難いものではあったけどね?いちゃもんはつけない方がいいよ。」
「お前は人の話をどこまで互換させてんだ。」
「そんなことより、ご飯食べようよ。」
桜さん、事の発端はあなたからなんです。
「あっ、桜。あのさぁ、あんまり授業中とかは見ないでくれないか?」
「えっ?見られたくないってこと?」
「いや、そうゆうわけじゃなくてさ。えーと…そうだ!授業中は授業に集中してほしい。もし、お前が留年でもしたら俺は耐え切れなくなっちまう。だから、授業中は授業に集中してほしい。お前の事を想って言ってる事なんだ。分かってくれるよな?」
ふぅ、早急に考えた口実としてはクオリティー高いと思う。
まぁ、本音でもあるけど。
それで、肝心の桜の反応は…
目が爛々と輝いていた。
それも、恍惚とした感じで。
言うならば、キュンキュン☆
「おい、お前ら何がどうしてそんなことになってんだよ!?」
事情を知らない隆宏が俺に聞いてくる。まぁ、当然の成り行きか。
こういう関係っていうのは、隠すのが定石なのだろうか?
まぁ、こいつ相手に隠し通すことなんて出来ないだろうし、こいつにだけはとりあえず教えておくか。
因みに、桜と相談して言うか言わまいか決めるという手段は俺にはなかった。なぜなら、今の桜に話しかけてもきっと聞こえないだろうから。
「実はな、俺桜と付き合ってるんだ。」
「あー、やっとかよ。」
え?
なに、その反応。
やっと…?
「やっとってどういうことだよ。」
「お前、そりゃないぜ。桜は毎日お前にアプローチしてたじゃねーかよ。」
一通り思え返して見るけど、何かあっただろうか。登校を一緒にするくらいしか思い付かないなぁ…
「はぁ、桜が可哀想だ。ほら、昼休みの時はいつもお前の所に来てただろ。体育の授業の時もべったり。本当一回言ってやろうかと思ったくらいだぜ。」
「た、確かに…」
因みに、体育の授業は男女混合だ。
なんたって、男子が4人しかいないからね。
「んで、今は何の時間だい?」
「えーと、昼休みかな。」
「ほら、桜は何処にいる?」
「すぐそこ。」
「なっ?ったく、お前はどこぞの主人公かよ。」
人聞きの悪い事をいう奴だな。
俺は二次元の奴らほど朴念仁ではないぞ。
「さて、そろそろ飯にするか。」
隆宏はそう言うなり、教室を出て行った。いつもの通り、パンを買いに行ったのだろう。
他の男子2人も引き連れて…
っておい!お前らは弁当持参してんだろ!
隆宏の奴め、この教室に俺を男子一人にさせるつもりだな。
いつもなら、悪い気はしないが今日は別だ。
今日は、別なんだよ…
チラッと、桜を見るとまだマイワールドで羽ばたいているようだ。そろそろ、戻してやらねば。
「おい、桜。そろそろ昼飯食うぞ。」
「え?あっ、うん。」
まだ赤い顔のまま俺の真正面席に陣取る。
おずおずと自分の弁当箱を取り出し、蓋を開ける桜は、動作の一つ一つが固い。
な、なんだかこっちまで意識しちゃうじゃねーか。
こ、こういう時は何か話しかけなければ!
「さ、桜?」
「えと、その、なに?」
うぐぅ…
話しかけても話題がねぇ。なんたる、初歩的なミスなんだろうか。というか、その右見て左見てこっち見て首かしげる仕草可愛い過ぎるッ…!
と、とにかく話題を見つけなければ!
えーと、えーと、なに
か話題はないだろうか。
話題を探すため周りを見渡す。すると、ほとんどの女子がこちらを見ているのに気がついた。嫌な感じどころか嬉しかったりするが、何やら狐につままれたような顔してます。
「な、何かついてるか?」
一応クラスの全員の女子に聞いたつもりだったのだが、誰も答えてくれない。各々、顔を見合わせるだけだ。
だから、一人の女子に聞いてみることにした。
「なぁ、葵。俺たちに何か変なところでもあるのか?」
俺が質問した相手は相沢 葵という名前で、髪型は黒髪のロング。男勝りな一面もたまに見せるが、すごく綺麗。めっちゃ綺麗。というか、凛々しい。そして、こいつはものすごい優等生だ。文武両道才色兼備とはこいつのためにある言葉のようだな。なーんて、お決まりの紹介でオールオッケー。でも、本当にそんな感じ。なんでも出来るっていうイメージがある。まぁ、こんなに女子が集まればこういうやつも一人くらいはいるのかね。
確か、弓道部に入ってるはず。皆気になる偏差値は72。クラスでは一番の数値。
「いや、その、何かあったのだろうかというか、何もなかったのだろうかというか…」
「なんだ、煮え切らないな。」
「そう、だな。単刀直入に言うと、お前ら何かあったのか?」
「へ?」
こっちが聞いてるのに質問で返されてしまった。
「いや、だからだな、遠坂の奴がわざわざここまでお膳立てするほどだから、何かあったのかと思ってな。」
隆宏の野郎ここまで計算に入れての行動だったのか!
いつか、張っ倒す。
「いや、それはだな…」
助けと協力を求めて桜の方を見る..と同時に桜が起立して、ぐっと俺を引っ張り立たせる。
桜の手が俺の手に絡みつき、離さない。
「私達、付き合ってますっ!!!」
繋いでいる手を高々に上げ、そう宣言する桜と、頭の中でまだ理解に至らず不思議な顔をするクラスメイト達。
俺はというと、一瞬驚きつつも、瞬時にもうどうにでもなれと心の底から諦めている顔になっていることだろう。
宣言から10秒後クラスのあちこちからソプラノ程の高さで『「えぇーーーっっ!!!」』という声が響き渡った。
俺の、平凡なスクールLIFEが音を立てて崩れていく。俺はそれをただ呆然と見守るしか出来なかった。
ベタこそ至高。
頭の中で反芻させながら書いてます。