弐、教室への道程
「どうして、こんなことになった…?」
俺の目の前にはベットに寝転び、目をトロンとして頬を紅潮させた桜。
桜の腕が俺の首の後ろに絡みつき、顔が極端に近い。
「お願い、行かないで?」
この子は、酔っているのだろうか?
あぁ、何がどうしてこんなことに。
確か、屋上から教室に戻る途中で桜が足を挫いたからといって、保健室まで肩を貸して上げたんだ。一歩歩くごとに..その、横腹付近に、柔らかい物が当たりまして。多分、スゴイ顔をしていたことでしょうね。まぁ、その、保健室にどうにかついたはいいが、先生がいなかったから、勝手に氷水でも借りようかと思って桜をベットに座らせて取りに行こうとしたんだ。
で、今の状況。
流石に何故桜がこんなにも色っぽいのか分からない。
告白→捻挫→保健室
このルートはいけない。
「ねぇ、もっとこっちに来て…?」
もう、ごめんなさい。
このルート最高です。
だから、もういいですよね?
いいに決まってますよ。
逆にどうして我慢する必要があるのだろうか?
だって、強制的ではなく向こうからですよ?
うん、いいんですよ。
でも、やっぱりあれですよね…
くぅ、神様は俺にどうしろと?
「さっ、桜!ちょい、離れてくれよ」
「え?いやよ。」
近すぎてどんな顔をしているのか見る事は出来ない。
「どうしたんだ?足、痛いんじゃないのか?」
「んもう、ここまでしてあげてるのに准一ときたら…」
えー、なにそれ
俺に襲わせるように仕向けたってことか?
「全く、准一はダメダメなんだから。」
頑張って耐えた俺がバカみたいじゃないか。
「ったく、桜、変なことするなよ…」
「ごめんごめん、それじゃ、これはお詫びっ」
そう言うと同時に自分の口を俺の口にあてがう。
え?
ええ?
えええー!?
「な、な、な、いきなり何すんだよ!!」
「何って、ナニが出来なかったから..ね?」
「ば、ばか言うな!」
「なんで、そんなに動揺してるの?あっ、もしかして初めてだったとか~?まぁ、ないだろうけどね。」
「…なんだよ。」
「え?なんて言ったの?」
「初めてなんだよ!それが!」
「え?う、うそ…」
「そんな嘘なんかつくかよ!これが俺のファーストキスなんだよ!」
あぁ、心のどこかで夢描いていた自分からのロマンティックなファーストキスが音を立てて崩れ落ちていく…
「や、やったぁぁーー!!!」
「へ?」
「私も、私も初めてなの!」
「ま、マジか…」
「本当よ!嬉しい。私、好きな人と初めて同士でキスすることが夢だったの!それに加えて、准一とだよ!」
最後の方は、俺にとって赤面ものな発言だったが、あまりの突然な展開についていけず、茫然としていた。
ボーッとしている小年が一人と狂喜乱舞している少女が一人、保健室のベットの上にいた。
後、俺は桜の足に氷の入った氷嚢を当ててやった。
ある程度、腫れが引いたら教室に戻ることにしよう。
待っている間に考えていたのだが、フレンチキスで騒いでいた俺らが襲う襲われるについて考えるなんて烏滸がましいのかもしれないな。なんて。
*
「肩貸してくれてありがとね。」
保健室から教室まで桜に肩を貸してあげた。
ただ、もう腫れはだいぶ引いているので一人で歩けると思うのだが…
「あぁ、いいよ。気にしなくて。」
「うん、ありがと。ねぇ、これあげるよ。」
一枚の紙切れを渡してきた。
開いて見てみると、メールアドレスが書いてある。
「今日、メールしてね♪」
「あぁ、分かったよ。」
なんとも積極的なことで。